シスター神崎との遭遇から数日後。
ゲヘナは相変わらず自由奔放で騒動が絶えない。他の風紀委員会のメンバーと共にゲヘナ自治区を駆け回りながら騒動の鎮圧に勤しむコトリ。
今日も騒がしい一日になりそうだと嘆息しつつも、何処か楽しそうに笑みを浮かべている。
その理由は一目瞭然。ヒノエとの戦闘でボロボロになった制服が修繕されて戻ってきたのだ。新品とは言い難く粗が目立つものの、初めて貰った大事な物だ。それが返ってきた事にコトリは喜んでいた。
制服に袖を通し、鏡に映る自身の姿を見つめる。サイズは成長する事を見越して少し大きめではあるものの、動く分には問題ない。他の風紀委員会のメンバーからも、改めて似合っているとお墨付きを貰った時は、自然と笑みが溢れ、嬉しいという感情が芽生えていた。
コトリは、改めてこの制服が自身の誇りである事を再認識したのであった。
そんなある日の事、ヒナに呼ばれたコトリは執務室の扉の前に立ち、扉をノックする。
「ヒナ委員長。コトリです」
そう言って、中からの返事を待つ。暫くして、部屋からヒナの声が聞こえてきた。
「コトリ、入って」
入室の許可を得たコトリは、ゆっくりと扉を開け中へと入る。部屋の中は書類が山積みになっており、その中心にヒナが座っているのが見えた。多忙を極めているヒナの姿にコトリは苦笑を浮かべながら敬礼を行う。
「ヒナ委員長。失礼します」
「コトリ。来てくれてありがとう。急に呼び出して悪かったわね」
「いえ、大丈夫です。それで、今日はどのようなご用件でしょうか?」
コトリが問いかけると、ヒナは一枚の書類を手渡す。そこには『合宿訓練』と書かれていた。
「合宿……ですか?」
「えぇ、この時期になると風紀委員会の皆が集まって訓練をするの。基本的には泊まり込みだけど、希望者は日帰りも可能よ」
合宿と心の中で呟きながらコトリは資料に目を通す。参加する風紀委員会のメンバーは交代制で参加する事になり、人数調整は都度行われるらしい。その中にはヒナも含まれており、つまりはこの合宿に参加すればヒナの指導を直接受けられるという事でもある。
魅力的な話だ。訓練の内容にヒナと風紀委員会のメンバー全員という項目があり、ヒナ個人対多数という形式の模擬戦闘訓練を行うようだ。
(ヒナ委員長と訓練……えへへ。えへへへへ……)
訓練という名のヒナとの逢瀬。そんな事を想像しただけで、つい頬が緩んでしまう。
「……もしかして、嫌だった?」
ヒナが心配そうに見つめてくる。どうやら妄想に耽って気付かなかったようだ。コトリは慌てて表情を引き締め、首を横に振る。
「いえ、すみません。実は私も参加させて頂ければと思っていたので。楽しみです」
コトリの言葉にヒナはほっとしたように微笑む。彼女からすれば、コトリの気持ちは察していたものの、実際にこうして嬉しそうにしている姿を見ると安心するものがあるのだろう。
「良かった。それで、日程だけど……」
ヒナはスケジュール帳を取り出し、ページを捲る。そこには既に合宿の日程が記載されており、参加者リストにもしっかりと名前が書かれていた。
「ちょうど来週の休みからだから、準備しておくように」
「はい、わかりました」
コトリは返事をしてから一礼し、執務室を後にした。廊下を歩きながらコトリは胸に手を当てる。ドキドキと高鳴る鼓動を感じつつ、期待に胸を膨らませていた。
「わぁ……」
自然と声が漏れてしまう程に高揚している。風紀委員会のメンバーとして活動してはいるものの、コトリはまだゲヘナ学園の生徒ではない。あと少しで入学できるが、正式に生徒となるのはもう少し先の話である。
そんな自分が、ヒナと一緒に合宿訓練に参加できるとは思ってもみなかった。それだけでも舞い上がるというのに、しかも、今回は泊まり込みである。つまり、期間中、ずっとヒナと訓練が出来るという事だ。
(……夢みたいです)
コトリは自分の頬を抓る。痛みを感じる事から夢ではないという事を実感する。そして、嬉しさのあまり踊り出したくなる衝動を抑えつつ、スキップしながら寮へと戻っていった。
「……と、いう事がありました!?」
『おぉ~そっかぁ~』
夜、寮に戻ったコトリは、早速とばかりにレンに電話をかけ、昼間の出来事を話していた。通話口からは相槌を打つ声が聞こえてくる。
「もう、今からでも楽しみで夜も眠れませんよ〜。それにしても、まさかヒナ委員長と一緒に訓練ができるなんて……夢のようです」
『お~う……良かったなぁ……』
コトリのテンションがいつもよりも高く、レンの反応は微妙だった。だが、それも致し方ない事だろう。なにせ、現在の時刻は午後11時過ぎ。就寝していたところを叩き起されたのだ。眠気が強く、頭が働かないのも仕方のない事である。
『なぁ……コトリ……?』
「はい?どうしましたか?」
『あのよぉ……今日はもう寝ないか? 明日も早いだろうし……』
「明日はお休みですよ?」
『……そっかぁ、休みなんだな? じゃあ、私も寝て良いよな?』
「えぇ、レンちゃん。まだお話しましょ?」
『やだ』
「……むぅ」
コトリが頬を膨らませると、電話越しにため息が聞こえてきた。レンは呆れつつも、コトリの我儘に付き合う事にしたようだ。
『あ〜もう、わかったよ。ちょっとだけだからな?』
「はい!ありがとうございます!」
コトリが楽しそうに話す内容を、レンは適当に相槌を打ちながら聞き流していた。普段であれば聞き役に徹するのだが、如何せん眠い。話半分に聞いている内に眠気が再び襲ってくる。
「それでですね……それで……えへへ〜♪」
『あぁ……うん……』
もうすでに意識が朦朧としている中、レンはコトリの話を聞いていた。普段はあまり自分の思っている事を話す事のない彼女が、これだけ饒舌に話している姿を見るのは珍しい。だが、その内容についてはあまり覚えていない。なぜなら、レンの意識は既に限界を迎えていたからである。
「ーー……で……て………」
『zzz……』
こうして、レンは眠気に抗えず、通話を切る事なく眠りにつくのであった。翌朝、目が覚めた時にはコトリからのメッセージが何件も送られてきており、コトリの心情を察したレンは申し訳ない気持ちになりながらも、適当に返信を返すのであった。
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