風紀の狂犬ちゃん   作:モノクロさん

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ヒナとのタイマンは何分耐えられるかが肝なのです

 訓練所に到着したレンは、眼前に広がる光景に言葉を失っていた。

 

 施設の壁や床は破壊されており、あちこちにクレーターが出来ている。

 

 床に倒れ伏す風紀委員会のメンバー達。屍累々といった様子で倒れており、皆が皆、呻き声を上げている。

 

 その光景を前に、一緒に訓練所に来た風紀委員会のメンバー達は『あちゃ〜今日は一段と酷いなぁ』や『またコトリちゃんと派手に暴れたねぇ』などと言い合っている。

 

「……なぁ、これ……何の訓練だぁ?」

 

 レンが恐る恐る風紀委員会のメンバーの一人に問いかけると、彼女達は困った表情をしながら口を開く。

 

「えっと……あ〜……うんとね……」

 

 言い淀みながらも、風紀委員会のメンバー達は事の詳細をレンに説明する。

 

「あ、あのね……これはその……」

 

「……訓練という事で限界までチャレンジ……的な?」

 

「コトリちゃん、前の件を気にしてたっぽいから、折角だから動けなくなるまでやりたいって」

 

「そしたらヒナ委員長も笑顔で了承して」

 

「あんな風に」

 

 彼女達が指差す先には、凛とした佇まいのヒナと対峙するコトリの姿。傷一つないヒナとは対照的にコトリは全身擦り傷だらけの痣だらけだ。それでも、コトリの目は活き活きとしている。その瞳を輝かせながら目の前の強敵に立ち向かわんとする闘志に満ちていた。

 

 床を蹴って肉薄するコトリに対し、ヒナは引き金を引く事なく銃を持ち替えて打撃武器として扱う。

 

 レンの目では捉えきれない高速で振り上げられた一撃はコトリの顎を捉え、仰け反ると同時に腰の付け根から伸びた翼がコトリを拘束。そして引き寄せると同時に回し蹴りでコトリの首を蹴り飛ばした。

 

 何度も床を跳ねながら転がるコトリ。ヒナは追撃の為に銃を構え、引き金を引けば、銃弾の雨がコトリに殺到して行く。

 

 だが、コトリは瞬時に体勢を整えると、その雨の中を駆け抜けながら再びヒナに肉薄しては格闘戦を仕掛けた。その身のこなし方から、彼女がこの訓練所で修羅場を幾度も潜り抜けてきたという事が容易に想像できるだろう。

 

 SGを持ち替えての棒術。元々弾切れを想定して通常の物より頑丈にカスタマイズしていた事もあり、壁にあたれば壁を破壊し、地面に触れれば大地を穿つ。ヒナはコトリの攻撃を避け、時には受け流しながら距離を取りつつ射撃で応戦。しかし、コトリはそれすらも見切りながら接近し攻撃を続ける。

 

 このまま押し切れるか?

 

 そう思ったのも束の間、ヒナの攻撃がコトリに直撃。もろに受けたコトリは大きく後退し、額を切ったようで流れ出した血が顔を伝う。だが、それでも彼女は戦意を失う事なく滴る血をぺろりと舐めーー。

 

「……良いですねぇ」

 

 と、不敵な笑みを浮かべるコトリ。ヒナも戦意を失わないコトリに満更ではない顔をしながらニコリと笑みを浮かべていた。

 

「うん、その調子。今度はもう少し、ギアを上げるから頑張ってね」

 

 そんな二人のやり取りを、レンは呆然とした表情で見ていた。

 

「……なぁ? これ……本当に訓練なのかぁ?」

 

「まぁ、そう思っちゃうよねぇ」

 

「私らからしても、今回の訓練は相当ハードな内容だからね」

 

 レンの疑問にうんうんと頷く風紀委員会のメンバー達。彼女達もヒナの訓練を受けてきた者達であり、その過酷さを知っているからこそ、今の二人の遣り取りは普通に考えればおかしいのだ。

 

「とはいえ、望んだのはコトリちゃんだから」

 

「全力でお願いしますって言われたら、ヒナ委員長も嬉しくて張り切ってるみたいでさ」

 

「まぁ、コトリちゃんが相手だからっていうのもあるんだろうけど」

 

 彼女達はそう言いつつ苦笑し、レンの疑問に答えていく。

 

「ヒナ委員長もね、自分の事を慕ってくれるコトリちゃんが可愛くて仕方がないんだろうね」

 

「だから、コトリちゃんに頼まれたら断れないんだよ。ヒナ委員長は」

 

「でもさ、訓練でここまでやる? って思っちゃうよね。普通の人だったら」

 

「でも、それがコトリちゃんとヒナ委員長だから」

 

「まぁ……ね?」

 

 レンの疑問に答える風紀委員会のメンバー達。彼女達も最初は驚いたものの電話の遣り取りを思い出して納得した。

 

「でも、コトリちゃんって本当に強いよ。ヒナ委員長とここまで打ち合えるのは彼女くらいじゃないかな」

 

「そうそう、私達もそれなりに粘れるけど、あそこまではもたないからね」

 

「流石は狂犬って恐れられてた事はあるねぇ」

 

「……狂犬?」

 

「ん? あ、ごめん。こんな話するつもりはなかったんだけど……」

 

 彼女達は失言したとばかりに頰を搔き、言い辛そうにレンに伝える。

 

「あのね……コトリちゃんってヒナ委員長と関わる前はゲヘナで結構有名で、『狂犬』って呼ばれて恐れられていたんだ」

 

「私達がコトリちゃんと初めて会ったのもヒナ委員長と巡回していた時なんだけど、その時もヒナ委員長を相手に一歩も引かずに……それこそ、動けなくなるまで戦い続けててね」

 

「まぁ、その後色々あって、ヒナ委員長の後ろについて回るようになって、今に至るんだよね」

 

「……そっかぁ」

 

 自分の知らないコトリの話に、レンは興味深げに耳を傾けた。それから暫くの間、レンは彼女達と話しながらコトリの訓練を見学していたのだが、何度目か分からぬぶつかり合いの最中にコトリが力なくパタンと倒れた。

 

「お、限界が来たな」

 

「本当に動けなくなるまでやるとは思わなかったわ……」

 

 コトリの敗北に風紀委員会のメンバー達は感心や呆れやらといった表情を浮かべるなか、コトリの元にヒナが歩み寄る。

 

 目立った外傷なし。服が少し汚れた程度だ。

 

「立てる? コトリ」

 

「あはは……すみません。ちょっと無理そうです」

 

「でしょうね。少し休みなさい。水は?」

 

「あ、欲しいです」

 

「そう……ちょうど、貴女の事を心配して見学に来た子がいるから、その子から貰って来なさい」

 

「見学……まさか、レンちゃんが来てくれたんですか? 嬉しい限りです」

 

 ニヘラッと笑みを浮かべながら立ち上がろうとするも、指一本動かせない。

 

 どうしたものかと苦戦するコトリに、ヒナは提案した。

 

「少し乱暴になるけどそれでもいい?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「わかった。それじゃあ」

 

 と、コトリの首根っこを鷲掴みにしたヒナはレン達の方へと目を向けると。そのままコトリを持ち上げ、投擲するのであった。

 

 眼前に迫るコトリとその行為に驚愕するレン。手前付近で床にダイブし、そのまま何度かバウンドしながら足元で静止したものの、レンは暫くの間、ヒナの事を直視出来なくなるのであった。




感想などいただけると幸いです。

後、私事ではありますが、無事に今年の夏コミに当選する事が出来ました。
去年の既本と新刊を用意する予定ですので、夏コミに参加される際はお越し下さい。詳しくはx(旧Twitter)にてお知らせします。
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