風紀の狂犬ちゃん   作:モノクロさん

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湯煙温泉事件ー前半

 ヒノム火山は地下水に硫黄泉分が含まれており、温泉が作れる事で有名な場所だ。

 風紀委員会が訓練場として使用している施設も、元々は温泉旅館だった場所であり、その地下から湧き出る温泉を利用している。訓練が終わり、文字通りボロボロになった身体を癒すにはもってこいの場所だ。

 

 風紀委員会のメンバーが利用する施設の温泉は階段式で、一番上の層が源泉となっており、そこから下に行くにつれて温度が下がっていき、一番下の層では適温となる。

 

 ゲヘナの生徒は大体一番上の源泉を利用する事が多いのだが、レンは熱いのが苦手なのか、一段一段確認しては降りていき、気が付けば一番下の層で温泉に浸かっていた。

 

「……あ゛ぢぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛」

 

「これでも此処だとぬるい方なんですけどね」

 

 レンのぼやきに反応するコトリ。彼女の言う通り、ゲヘナの生徒なら源泉かその次くらいの層で寛ぐ傾向にある。

 

 コトリもどちらかと言うと源泉に浸かる方が良いのだが、レンが不慣れな事もあり、気持ち程度の温度がある此処を利用する事にしたのだ。

 

「それでもよぉ、熱いもんは熱いんだぜぇ」

 

「レンちゃんが用意してくれたヤカンに入っていた沸騰したお湯よりは、少しぬるいくらいですよ。此処の源泉は」

 

「う゛っ……」

 

 レンは痛い所を突かれたとばかりに押し黙る。コトリがヒナとの訓練中、何度か脳震盪を起こして倒れた時がったのだが、その際、レンは持参していたヤカンの水(中身のお湯が冷めてたので、温め直していた)を、早く目を覚ましてくれという意味も込めてコトリの顔にジャバジャバとかけた事があった。

 

「あ、あれは……そのぉ……」

 

「いえ……良いんです。優しいのはわかりましたから」

 

 赤面して何を言おうかと迷うレンに、コトリがフォローの言葉をかける。

 

「でもよぉ、あの訓練は流石にどうかと思うぜ? ヒナさんのやつ、コトリが動けなくなるまでやるなんてよ」

 

「あれくらいやらないと訓練にならないんですよ。ですが、お陰で大分良い感じに身体が鍛えられた気がします」

 

「そぉなのか?」

 

「はい。なんと言いますか、新しい自分に目覚めそうになったと言いますか、目覚めかけたものが引っ込んではまた戻ってきたといいますか」

 

「お、おう……そうか……」

 

 コトリの抽象的過ぎる言葉に対し、どう反応すれば良いのか分からず困惑するレン。

 

 言いたい事はなんとなく分かる。ヒナとの訓練を見ていたレンの視点では、コトリの神秘らしきモノが出現しかけた瞬間、ヒナの神秘らしきモノにビビって直ぐに引っ込んだ……ように見えた。

 

 あれは、今から暴れまくるぞと意気込んだ瞬間、自分より遥か格上の存在が目の前にいて慌てて逃げ出そうとしたが、首根っこを掴まれて逃げられなかったといった方が良いのだろう。

 

(多分、アレはあれだなぁ、時とか場所が違ったら、手がつけられないヤベェやつだったんだろうな。まぁ、それ以上にヤベェのが目の前にいて、ビビっちまったって感じかぁ?)

 

 レンはコトリがヒナとの訓練で見せた神秘らしきモノの正体を何となく察したものの、それを口にしない方が良いと判断し、口を噤む。

 

「あ〜……でも、アレだな。コトリがヒナさんとあそこまでやり合えるとはなぁ」

 

「意外でしたか?」

 

「そりゃあ、最初はボッコボコにやられてたからビビったけどよぉ、それでも喰らいついてただろ?」

 

「はっはっは。まさかまさかですよ。ヒナ委員長の実力はあんなものではないのですから」

 

「そうなのかぁ?」

 

「えぇ。今の戦い、ヒナ委員長はほんのひと握りの力で加減して私に付き合ってくれていたようですから」

 

(いやいやいや……あれで手加減してたとか……)

 

 コトリの語るヒナの実力に、思わずレンがドン引きしてしまう。コトリの実力はよく知っているが、それ以上のものとなると想像がつかない。

 

「いいですか、レンちゃん」

 

 コトリが自身の隣に座るようポンポンと叩いてくるので、大人しく彼女の隣に腰掛けるレン。すると、コトリがレンの頬を指でぷにっとして口を開く。

 

「ヒナ委員長と本気でやりあったら、暫くは固形物が食べられなくなります。私はヒナ委員長の本気を一度しか見た事ありませんけど、アレは……凄かったです」

 

「お、おう……」

 

 初めての逢瀬という名の蹂躙に対し、頬を『ポッ』と染めるコトリに、レンは何とも言えない複雑な顔をする。

 

 色々と面倒見が良く、気にかけてくれる友人は、色々と面倒臭く、頭のネジが外れた感性を持っているようだ。

 

 そんなこんなで暫く温泉に浸かる事数分。流石にのぼせてきたのか、レンは近くの岩に頭を預けては、ほぅと息を吐いた。

 

「あ゛ぁ……のぼせた……」

 

「もう出ますか? 流石に長湯しすぎたかもしれませんね」

 

「やべぇ……身体中がふにゃふにゃになっちまってやがるぅ……」

 

「……ふふっ。それ、ちょっと面白いですね」

 

 そう言って立ち上がるコトリとレン。身体にタオルを巻き、脱衣所のある上の層まで登ろうとしたその時、上から誰かが降りてきた。

 

 風紀委員会の誰かだろうか?

 

 それにしても、この一番下の層に来るなんて、珍しい事もあるものだ。

 

 そう思いながら、階段の踊り場に視線を向けると、そこにはーー。

 

「はっは。ゲヘナの風紀委員が上でたむろしておると思うたが、やはりお主も此処にいたのじゃな」

 

 ゲヘナにてコトリと対峙する為だけにゲヘナの自治区を襲撃した『絡繰演舞』に所属する種島 ヒノエが、二人の前に現れた。




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