風紀の狂犬ちゃん   作:モノクロさん

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レンはコトリに会いたい

 アビドスでの出来事から数日後、何時ものように風紀委員会の活動に従事していたコトリの携帯に、1件のメッセージが届いた。

 

 相手はレンの姉、ユタカからである。そこそこの付き合いにもなり、こうして個人的に遣り取りをする間柄となった彼女だが、その内容は以下の通りである。

 

『レンがコトリに会いに行くといって家を出たっきり、連絡がつかなくなった』というものだ。

 

 ゲヘナで迷子になっていた所を保護して以降、レンはユタカと共にゲヘナにちょくちょくと顔を出しており、その都度コトリに会いに来ている。

 

 しかし、『一人で』会いに行くという内容から、コトリはまた、レンが迷子になっている可能性を考えた。

 

 レンを見ていて、初見で思った事は、外出に慣れていないという事だ。姉のユタカと外に出る機会はあるのだろうが、それはあくまでも、ユタカ主動の外出であり、その後をついていくだけのレンが、家からゲヘナ学園までの道のりを覚えている可能性が限りなく低い。

 

「あぁ……恐らく迷子になっているかもしれませんね」

 

 そして、ゲヘナでレンのように無害すぎる子供はいいカモとなる。

 

 それこそ、カモがネギを背負うどころか、各種食材を丁寧に下拵えして、鍋に火をかけて中に入って待っている状態だ。

 

「……仕方ないですね」

 

 コトリはそう呟くと、SGを手に立ち上がる。そして、ユタカにレンが迷子になっている可能性がある事を伝えた後、GPSで大まかな位置を特定し、彼女はそこに向かうのであった。

 

 

 

 

 

 GPSを頼りに、目的地に到着したコトリの目に飛び込んできたのは、想像以上に想像通りの光景が広がっていた。

 

「ゔぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?! ね゛ぇ゛ち゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ゴドリ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ごぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ょ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!?!」

 

 不良生徒に囲まれ、泣きべそをかくレンの姿。有り金を全て巻き上げられ、おまけに服以外の小物すらも全て奪い去られている。

 

「ちっ……うっせーなぁ。このガキんちょはよぉ」

 

「金も全然持ってねぇし、売り物になりそうな物すらもってねぇ」

 

「どうするよ? この際、着てる服とかも剥いじまったらどうだ?」

 

「あぁ……その手の趣味の奴等に売りさばくってか? それなら顔写真とかも撮ってってなると、それなりに面倒なんだよなぁ」

 

「ま、売れればそれなりの額にはなるし、必要な労働って事で」

 

 不良生徒達は、そう言いながらレンの囲みを狭める。そして、その内の1人が手を伸ばしかけた瞬間だった。

 

「ちょいと失礼しますよ」

 

 一人の不良生徒の後頭部目掛けて、コトリは銃底を振り下ろした。

 

「がはっ……!!」

 

 突然の出来事に、不良生徒は前のめりになって倒れる。そして、倒れる仲間に気を取られた別の不良生徒も顎を打ち抜かれ昏倒した。

 

「な、なんだぁ!!」

 

 突然の奇襲に不良生徒達は慌てふためく。コトリはそんな彼女達を尻目に引き金を引き、次々と不良生徒達を昏倒させていった。

 

 そして、最後の一人となった所でコトリは立ち止まると、その生徒に向かって銃口を向ける。

 

「ひぃっ!!」

 

 すると、銃を構えられた生徒は悲鳴を上げて腰を抜かした。そんな相手に対してコトリは残弾が残されていない事に気付き、仕方なくSGを持ち替え、何度も銃底で殴り付けて気絶させた。

 

「ふぅ……」

 

 コトリは一息つくと、不良生徒達からレンの所持品を全て回収すると、レンに向き直る。

 

「大丈夫ですか? レンさん」

 

 コトリがそう尋ねると、レンは涙と鼻水、そして涎でぐちゃぐちゃになった顔でコトリに抱き着いた。

 

「う゛ぅ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……ゴドリ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛……」

 

 そう言って泣きじゃくるレン。そんな彼女をコトリは優しく撫でると、彼女を背負ってゲヘナ学園に戻るのであった。

 

 帰路の最中、背中でぐずるレンをあやしながら問い掛ける。

 

「それで、急にどうしたんですか? ゲヘナはレンちゃんみたいな子には危険ですよ」

 

 ユタカからは自分に会いたいからとは聞いていたが、たった一人で此処まで来るという危険を冒してまで来る理由が見当たらない。コトリの問い掛けに、レンはぐずりながらも答えた。

 

「ゔぁぃ……だっでぇ゛……」

 

「だって?」

 

「……ゴドリ゛にあ゛ぃだぐで」

 

「私に? ですが、何時ものようにユタカさんと一緒に来たら会えるではないですか」

 

 コトリがそう尋ねると、レンはコクリと頷いた後、話を続けた。

 

「だげど……ゴドリにあ゛いだぐで、がま゛んできなくて」

 

 レンはそう言うと再び泣き出してしまう。そんなレンに、コトリは優しく語りかけた。

 

「そうですか……そう言ってもらえるのは凄く嬉しいです。ですが、だからといって一人で此処まで来てしまうのは危険ですよ? 今回だって私がたまたま通りかかったから良かったものの……」

 

 敢えてユタカから連絡があった事は伏せ、コトリはそう注意する。すると、レンは小さな声でこう呟いた。

 

「ゴドリ゛のばがぁ……」

 

「え……?」

 

 思わず素っ頓狂な声を上げるコトリ。そんなコトリに対して、レンはもう一度同じ言葉を呟いた。

 

「ゴドリのばがぁ……」

 

 そんな涙ながらに言われてしまうと、流石のコトリも困り果ててしまう。

 

「いや……あの……レンちゃん」

 

 コトリは何とか宥めようとするも、そんな言葉が届く筈もなく、彼女は再び泣きじゃくった。

 

「ゴドリのばがぁ……」

 

 そんな涙ながらに言われてしまうと、流石のコトリも困り果ててしまう。

 

 恐らく、言葉を間違えてしまったかもしれない。年齢的にはまだ幼い。きっと、ただ会いたくて行動したのだろう。そこには特別な意味はなく、唯々会いたいという純粋な気持ちがあったのだろう。

 

 会いたい。誰かにそう言われるのは何処かもどかしく、しかし悪くない。

 

「そうですね……ごめんなさい、レンちゃん」

 

 コトリはそう呟くと、再び背中で泣きじゃくるレンを背負い直して帰路を急ぐのであった。

 

 背中からはレンのすすり泣く声が響いている。服は皺ができるくらいに強く握られており、まるで離したくないと言われているようだった。コトリはそんなレンに何も言う事はなく、ただ黙って歩みを進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 ゲヘナ学園に戻り、ユタカが迎えに来るまでの間。コトリはレンの面倒を見続けた。

 

 特別な事は何もない。ただ、一緒にいてあげただけだ。レンはコトリにべったりとくっつき、離れようとしない。レンと過ごす時間は悪くはなかった。寧ろ心地良い時間だと言えるだろう。

 

 そんな時間が暫く続き、迎えに来たユタカと共にレンはゲヘナ学園を後にする。

 

 去り際までべったりだったレンは、最後に『今度、何処かに遊びに行きたい』と控えめながらも、自分の願いをコトリに告げた。

 

「いいですよ。今度一緒に何処かに行きましょうか」

 

 コトリがそう言うと、レンは嬉しそうに『うんっ!!』と頷いた後、ユタカに連れられて帰って行くのであった。

 

 そんな二人の後ろ姿を見つめながら、コトリは思い出す。

 

『な、なぁ……もし良かったらだけどよ、その……オアシスがあった所、見にいってみねぇか?』

 

 レンの言葉に、コトリは涸れたオアシスへと向かったが、そこには何もなかった。しかし、自分が去った後にオアシスは復活し、それがきっかけでホシノとユメに新たな目標が出来た。

 

 もしかしたら、レンはコトリに何かを伝えたかったのかもしれない。

 

 何かを伝えたくて、しかし、それを上手く伝えられなくて、結果、会いに行こうとして迷子になり、不良生徒に絡まれた。コトリは、レンの行動をそう結論付ける。そして……。

 

―今度、一緒に何処かに遊びに行きましょうか―

 

 そんな約束をしたのだろうと自己完結する。

 

『うんっ!!』

 

 嬉しそうに頷くレン。はたしてレンは、何処に行きたいのだろう?

 

 そんな事を考えながら、コトリは携帯を取り出し、おすすめのスポットを探すのであった。




次回予告
レンと共にトリニティの自治区まで遊びに行ったコトリの前に、トリニティの生徒同士を止めるシスターフッドの姿が……敬虔なる信者たる彼女から放たれた一言は、コトリですらドン引きさせた。

次回、風紀の狂犬ちゃん
『暴力を振るっていいのは犯罪者とゲヘナ生徒だけです』
をお送りします。



感想ありがとうございます。
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