新しい職場と、そして今年の夏コミに向け、大事な作業が始まりましたのでその作業で更新が遅れると思います。もし宜しければ活動報告にて詳細を書いておりますので、見て頂けると幸いです。
―ゲヘナ学園 風紀委員会本部 執務室―
「……そう。あの子とお出かけしてくるのね」
「はい、レンちゃんとはそう約束しましたので」
執務室で書類整理に追われるヒナに、コトリはそう告げる。
迷子になったレンを送り届けた後、コトリはレンとまた会う約束をした。
それから毎日のようにレンから遊びに行きたいという最速の連絡が届くようになり、コトリもそれに根負けして応じる形となったのだ。
決して、その場しのぎで約束をしたわけではない。コトリもレンと一緒に何処かへ行くのは嫌ではなかったし、寧ろ楽しみだった。
とはいえ、レンを連れてとなると場所は限られてくる事もあり、何処へ行こうかとコトリは悩んでいた。
「それで、ヒナ委員長にご相談があるのです」
「なにかしら?」
「レンちゃんと行く場所なんですが……」
と、いくつかピックアップしたスポットをヒナに見せる。
「この中なら、何処が良いと思いますか?」
コトリの問いにヒナは書類を整理しながら答えた。
「そうね……私もあまり詳しくないけれど、要は『彼女がコトリと何処に行きたいか』というのが重要なんじゃないかしら?」
「私と何処に行きたいか……ですか」
「えぇ、少なくとも、彼女はコトリに懐いている。彼女の事だから、きっとコトリと一緒に居るだけで楽しいと思うわ」
「そうですかね?」
ヒナの言葉に、少し照れ臭そうにするコトリ。そんなコトリにヒナは微笑んだ。
「コトリとあの子は相性が良さそうだし、これといった問題もなさそうだから、後はコトリとレンの二人で決めるのが良いと思う。少なくとも、私が決めた場所に行くよりも、貴女が行きたいと思った場所の方が、彼女の納得してくれると思うわ」
「そう……ですね」
ヒナの言葉にコトリは頷く。そして、レンとのお出かけ先を決めるべく、再び携帯を弄り始めるのだった。
そんなやり取りがあった数日後の事。
ヒナに風紀委員会の仕事を休む旨を伝えていたコトリは、レンと共にトリニティの自治区を訪れていた。
理由としては単純に、トリニティの自治区内にて普段は食べる事の出来ないスイーツ関連のイベントを催すというのを聞いたからであり、そのイベントが今日開催するという事もあってコトリは足を運んでいた。
「おぉ……凄ぇ」
レンも初めて訪れたのだろう。目を輝かせて周囲を見渡している。そしてそんなレンに、コトリは優しく語り掛けた。
「レンちゃん、行きたい場所があったら遠慮なく言ってくださいね」
コトリがそう言うと、レンはコクリと頷いて返事をする。そして二人はスイーツ関連のイベントが行われる会場へと向かうのだった。
出店として並ぶスイーツはどれもこれもコンビニで購入する商品とは異なり、美味しそうなものばかり。レンもまた、同じ気持ちなのだろう。瞳を輝かせてスイーツを見ていた。
「レンちゃん、どれが食べたいですか?」
コトリの言葉に、レンは暫く悩んだ後、ある店を指差した。それはアイスクリームを販売しているお店だった。
「分かりました」
コトリはそう言ってレンの手を引いてお店に向かう。年相応の小さな手だ。しっかりと繋いでおかないと、はぐれたら大変だ。
「いらっしゃいませ」
そんな店員の挨拶と共に、甘い香りが漂ってくる。レンは物珍しそうに商品を見渡した後、コトリにこう尋ねた。
「なぁ……コトリは何が食べてぇんだ?」
「そうですね。私はこのイチゴ味のアイスが食べてみたいです」
コトリはそう言うとメニューを指差す。するとレンもそれを覗き込むようにしながら小さく呟いた。
「そっかぁ……じゃ、私はキャラメルのやつ注文すっから、お互いシェアしようぜぇ」
そんなやり取りの後、二人は注文を済ませると商品を受け取る。そして近くのベンチに腰を掛けて、二人でアイスを食べ始めた。
「……うめぇなぁ」
隣で美味しそうにアイスを頬張るレン。時折、自分のアイスをコトリに差し出したり、逆にレンから差し出されたアイスを一口食べたりとしながら二人はスイーツを堪能する。
他にもケーキやワッフル、クレープなど、様々なスイーツが並んでおり、コトリとレンはそれらを食べ歩きつつ楽しんでいた。
そんな時だ。遠くからゲヘナで聞き馴染んだ喧噪が聞こえてくる。
目を凝らして見てみれば、生徒同士で何かを言い争っているようだ。
会話の内容に意識を向ければ、喧嘩の内容も大したことのない些細な遣り取り。
一瞬、風紀委員会として仕事をこなしてきた職柄とも言うべきか、仲裁に入ろうと考えたが、此処はトリニティの自治区であり、ゲヘナの出身であるコトリからすれば、あまり良い顔をされないのは目に見えている。
しかし……とコトリが考えている内にも喧嘩の内容はヒートアップしていく。
そしてついに殴り合いに発展しようとした時、一つの影が二人の間に割って入った。
「これ以上はいけません。このような場で喧嘩など、主は貴女達の行いを見ているのですよ」
そう言って仲裁に入ったのは、トリニティに所属するシスターフッド。見た目からしてそれなりの立場の生徒なのだろうとコトリは推察する。
その推察通り、シスターが仲裁に入った途端、喧嘩をしていた二人がばつの悪そうな顔をして大人しくなった。
「す、すみませんシスター神崎」
「お騒がせしてしまい、申し訳ありません」
神崎と呼ばれた生徒に謝罪する二人。そんな二人に優しく微笑むと、彼女は言った。
「主は常に私達を見ています。その振り上げた拳を納めた貴女達の英断は、主もお喜びになるでしょう」
透き通るような優しい声で、神崎は二人に語りかける。
「そして主はこう言っております。暴力を振るっていいのは、異教徒とゲヘナ学園の生徒だけですと」
「…………………………………………ん?」
何かおかしなことを言ってたような気がする。
暴力を肯定する発言……いや、問題はそこじゃない。神に仕える清廉なシスターが、暴力を振るっていいのは異教徒とゲヘナ生徒だけだなんて、まさかそんな物騒な事を。確かにゲヘナとトリニティは長きにわたって仲が悪い事は既知の事実だが、此処まであからさまな事を言うはずが……。
「……おや、匂いますね。くそったれな下水以下のゲヘナの悪臭がプンプンと」
そんなコトリの思考を遮るように、神崎がそう呟く。そして彼女はコトリとレンに視線を向けると……。
「あぁ、やはりゲヘナの生徒のようですね」
そう言って微笑んだ。その笑顔は一見すると優しそうなものだが、何処か底知れぬ恐怖を感じる。
「全く、神聖なるトリニティに、まさかゲヘナの生徒が紛れ込んでいるなんて」
「え……あの……」
戸惑うコトリに神崎は告げる。
「ですが……えぇ、許しましょう。今は催しの最中。ゲヘナの血で皆の楽しみを無下にする事は出来ません。えぇえぇ、私は許しましょうとも」
そう言って神崎は己の愛用する銃火器である『トンプソン コンテンダー』をコトリに突き付ける。
「ですがこの子は許しません」
「え……?」
コトリがそう呟くのと同時に、神崎は引き金を引いた。
「主の名のもとに地獄に堕ちなさい。エイメン」
シスターとは思えない、そんな暴言を吐きながら。
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