月下に病兎は跳ぶ   作:ジョンドウ

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第2話

私とJJ……ジャックの付き合いは子供の時にまで遡る。

私達は地元が同じで家が隣同士だったんだ。

でも、ただのお隣さんだった。

 

私が彼を意識したのは、JJが彼のお義父さんに怒られて居た時だ。

後で聞いたら、お義父さんのトラクターを勝手にバラしたらしい。

 

『愉快なやつだなぁ』

 

頭にデッカイたんこぶを作りながら怒られているJJを見た時の感想はそんなのだった。

それから何となく気になって交流を始めたんだ。最初は挨拶を交わすだけだったけど、どうにもウマが合ったみたいで次第に仲良くなったんだ。

と言ってもアイツの家に行って一緒に機械いじりをするくらいでだったけどね。

 

『機械は良いぞぉ。エンジンなんて親父と同じくらいうるさいのに何故か愛着が湧く』

 

『あぁ?速いマシンがいい?ならデカイ車にデカイエンジン積もうぜ!馬力は正義だ!』

 

そんな事を言うJJが、油まみれで煤まみれのその顔が、私にはすっごく輝いて見えたんだ。

 

ある日、JJがスクラップヤードからパーツを拾ってバイクを復元した!って喜んで来た。

当時から速さを愛していた私はJJの服を掴んで、連れてけ!連れてけ!ってわがままを言って、2人乗りをさせてもらったっけ。

 

今でも目に浮かぶよ、夜にこっそり家を抜け出してJJとしたツーリングのこと。

 

鼓膜を揺らすエンジン音。

風を切った時の冷たさ。

後ろに流れる夜空の星々。

 

少しの恐怖心から、縋るようにしがみついたJJの、ジャックの大きくて暖かい背中。

 

思えば吊り橋効果ってヤツなのか?

でも、それでも。JJが私の中で今までとは違う何かとして大きくなって行ったのはその時だったよ。

そうさ、私はアイツに惚れてたんだ。

 

……あはは、でも当時の私はその気持ちが分からなかったなぁ。

 

明確に自覚……いや、変化があったのはあの時だったな。

 

私は速さを愛していた。JJの背中にしがみついてのツーリングが何よりも好きだった。

でもまだ私は免許を持ってなくて、だからいつもJJに2人乗りをねだってたんだ。

 

でもJJだっていつも暇な訳じゃない、断られる時もあった。

 

『えぇー!なんでだよ!今日も乗せてくれよ!』

 

『だーかーらー!今日は用事があるってーの!夜には帰ってくるから待っとけ』

 

あの日、JJそんな事を言って家を出て行った。用事は確か……友達と遊ぶとかそんなのだった気がする。

その時の私は、ただ出ていくアイツを見送るしか出来なかった。

 

そんな時だったなぁ。今思えば最悪な、でもあの時は最高のアイデアが浮かんだのは。

 

JJはいつもいつも私を可愛がっていたんだ……今でもそうだけどさ。

でも私はそれが嫌だったんだ、いつもいつも兄貴ヅラされるのがなんと言うか、その……対等に見られてない気がして。

 

だからこう思った。JJのバイクに乗って、友達と遊んでるアイツを迎えに行こうって。

 

アイツの家はもう私の家みたいな物だったから、ガレージの開け方とかバイクのキーが何処にあるのか分かってたんだ。

だから夜になるのを待った私は、ガレージに置いてあったバイクによじ登ってエンジンをかけた。

 

もう鳥肌が立ったね!あぁ、JJはいつもこの景色を見てたのか!こんなにも大きなエンジン音を聞いてたのか!ってさ。

 

それで……まぁ、バカな話だけどね。JJでも運転できるんだから私でもできるって思っちゃったんだ。

 

『確か、ここを動かし……わ!きゃぁ!』

 

だから何も考えずに発進させようとして振り回されて……

工具とかセルモーターとかが置いてある金属ラックに突っ込みそうになって……

 

『シャーリー危ないッ!』

 

ガレージに飛び込んできたJJが私を抱きしめて庇ったんだ。

金属がぶつかり合う音とか、何かが壊れる音とか、とにかく凄い音がしてさ。耳がキーンってなって、舞い上がった埃と鉄粉で視界がぼやけて。

 

『え、あ……』

 

『へっへへ…この、バカヤロウ。早めに帰って来て……良かったぜ』

 

『ご、ごめ……私、こんなつもりじゃ……』

 

アイツが、アイツは私をぎゅって抱きしめて。

アイツの背中に、ドライバーとか、鉄片が刺さって。

血が広がって。

 

私の視界の端に、JJの指が落ちてて。

 

『あ、あぁ……うわぁぁあ!あぁぁぁ!ジャック、ジャックぅ!死んじゃやだぁ!』

 

『へッ、指の1本2本で死にゃしねぇさ。ほら、な?』

 

『ごべ……ごめ、なさい!ごめんなさい、ごめんなさいぃ!』

 

『よしよし……泣くな、謝るな。大丈夫、大丈夫』

 

本当は自分が泣き叫びたかったろうに、涙1つ流さずに私を抱きしめてくれた。

本当に頭が上がらないよ。

 

この1件からバイクにトラウマを覚えたけど、JJが毎日毎日来てくれて、励ましてくれて。

だからこそボンネビル・ソルトフラッツで世界記録を作ったりできたんだ。

 

それからJJが軍隊に入ったって聞いて私も追っかけて……だけどなぁ、ここで1つミスったんだよ。

 

私てっきりJJは空軍にいると思ってたから空軍に入ったんだけど、アイツ陸軍に入隊してたんだよなぁ。

でもまぁ、文通をしたり時々会ってたけど物足りなくて……寂しくて。

何やかんや第363戦闘飛行隊に配属されて色々やらかして、ミーナ中佐に拾われて501に来た時だ。

 

『ふぅ……新しい整備兵の件、どうした物かしら。美緒、何か案は無い?』

 

『うーむ。カールスラントやブリタニアからの増員は?』

 

『望み薄ね……どこもかしこも、整備兵は人手不足だから』

 

坂本少佐とミーナ中佐の話を聞いた私は飛び上がって喜んださ。あぁ!神様ってのは居るんだ!ってな。

 

だから2人に頭を下げてJJを501に呼び寄せたんだ。

 

『ようシャーリー!なぁんだ363を追い出されそうって聞いてたが元気そうじゃねぇか!』

 

『久しぶりJJ、ここはいい所だよ。海は綺麗だし、ご飯は美味しいし。何よりユニットを好きにいじれるんだ!』

 

『うぉぉ!マジかよ!早く整備させてくれ!』

 

『あはははは!変わらないなぁ、じゃあハンガーまで競走だ!』

 

輸送機から降りた彼と一緒にダッシュした時の胸の高鳴り、この時に私はようやく理解したんだ。

私は。シャーロット・E・イェーガーはアイツを、

ジャック・J・ミラーを好きなんだって。

 

だから。

 

私はアイツと離れたく無い。

例え命令違反を犯しても。

 

例え脱走兵になっても。

 

─────────────────────────

 

「ふぅ、これで良しっと」

 

私はJJを気絶させて木箱の中に詰め込んだ。

なんか幸せそうに気を失ってたのが気になるけど、まぁ今は良いや。

そしてその木箱を大事に大事にトラックに詰め込む。

 

「もうすぐだぞぉ、もうすぐで私と2人で暮らせるんだぁ。JJも……ジャックも嬉しいだろ?なぁ」

 

そう言って木箱を撫でる。

 

私とジャックが2人で居ると風紀が乱れるなら2人で抜け出してしまおう、そうすれば何も文句は無いだろう。

大丈夫、無駄に中尉なんて階級があるからお金はたっぷりある。しばらくなら私と2人で暮らしても問題はないレベルにはね。

 

だから後はジャックを乗せたトラックで基地を出て何処かに隠れよう。

リベリオンの南部なんて良いんじゃないか?

 

「南部に住んでさ、2人で暮らそうよ。ま、まぁ?そのうち一緒に暮らす人数も増えるだろうけど……それまでは2人だけで。ふふっ、楽しみだなぁ」

 

運転席に乗り込んでエンジンをかけた。

ふとルームミラーに写った私が視界に入る。

それはとても恍惚としていて。暗く、でも確かに輝いていた。

 

 

トラックに乗って基地のゲートに向かう。門の横には歩哨が立っている。

アイツは確かバルクホルンと仲がいいカールスラント兵士の……そうだ、オットー・ホフマン曹長だ。

 

「そこのトラック、止まれ!……イェーガー中尉でしたか、どちらへ行かれるのですか?」

 

「ちょっとした買い出しさ。別に大した事じゃないから早く通してくれよ」

 

「大小どうあれ、基地の出入りの確認も我々の仕事です」

 

本当に彼はカールスラント人らしく頭が堅い。

 

任務中も微動だにせず、それこそルッキーニが頭によじ登っても姿勢ひとつ崩さずに歩哨をするくらいなんだ。

バルクホルンの奴が懐くのも分かるって分かる。似たもの同士だからね。

 

でもこの手の手合いには効果的な方法があるのを、私は知ってるのさ。

 

「……実はな、真面目な曹長だから話すけど。これは極秘任務なんだ、本国から新型の魔導エンジンが届く。で、私は今から受領に向かうってワケ」

 

「リベリオンから?それもこんな夜中に。そんな話は聞いておりませんが……」

 

「そりゃ下士官と尉官の差だろうなぁ。それにほら、中佐からの命令書もあるし」

 

ルールに厳しいヤツはルールで殴れば無茶が通る。それに階級を加えればおいそれと逆らえない、ジャックの教えてくれた通りだ。

 

私はミーナ中佐のサイン入り命令書を渡した。

これはもちろん偽造品、さっきチャチャッと書いたものだけど結構上手に書けてると思う。

 

これからの生活のためには、この程度の偽装はどうって事は無い。

 

「そんな物があるなら早く出してください、では命令書を拝見します」

 

「ごめんごめん。でもほら、ちゃんとした命令書だろ?」

 

「確かに……お時間を取らせて申し訳ありません、どうぞ行ってください」

 

「サンキュ♪じゃ、バルクホルンによろしくなー」

 

逸る気持ちを表すようにアクセルを踏み込んでトラックを飛ばす。

 

パラダイスはすぐそこだ。

 

どれだけトラックを走らせただろう、もう月は真上をとうに過ぎ、今は深夜。

 

私は木箱を降ろして蓋を引っ剥がす。気分はプレゼントの包装を剥ぐ子供だ。何事にも代え難い、誰も代わりには成れない、私だけのJJ。私だけの男。

 

「うっふふふ♪おーいジャック、いつまで寝てるんだぁ?」

 

「……もう起きてる」

 

「なぁんだ起きてたのか。起こしてあげるってのをやりたかったのに」

 

そう言っておどけてみせる、でもジャックは笑わない。

 

あの目だ。

あの時と同じ、私がジャックから指を奪った時と同じ。

お前は悪くないとでも言いたげな慈しみの目。

 

なんでさ。

 

「なん……そんな目でさ」

 

「オメーなら分かるだろ。シャーリー、いや、シャーロット。俺ァ本気だぜ?」

 

「やだ……止めろよ、やめて!」

 

本気でオメーを愛してるんだ。

 

私の身体がぬくもりに包まれる。温かい心の陰りを吹き飛ばしてくれる力強い光。

 

「シャーリーがどう思ってるのか、俺ァホントは知ってたんだ」

 

「……」

 

「シャーリーが何を思って、何を感じて。その……俺を好きになったのか。自惚れだと思ったケドよ、こうまでされちゃなぁ?」

 

「う、うぅぅ……ごめん、ごめんなさいジャックぅ……」

 

「泣くな、謝るな。大丈夫、大丈夫……はんッ!まるで変わっちゃいねぇな」

 

ジャックの身体にぎゅっと腕を回して泣き縋る。思い出した、美味くいかない時とか怒られた時にはこうして甘えてたっけ。

 

そんな優しいジャックを……

こんな愛してるジャックを……

 

私は……

 

自己嫌悪に堕ちていく私のおでこにジャックのおでこがくっつく。

いつものように……いつもより楽しそうに見えるその笑顔が私を照らしてくれる。

 

「HayHayシャーリー、いいかよーく聞けよ」

 

「グズ……うん……」

 

「オメーは俺が好き。俺もオメーが、シャーリーが好き……だろ?」

 

「うん……そ、そうだね」

 

「ならやることは1つだ!シャーリー!一緒になろうぜ!」

 

……え?

 

「う、嘘だろ?やめろよ……そんな嘘は……私はジャックに酷いことしたんだ。それなのに……」

 

「バカヤロウ!好きな女のバカの一つや二つくらいでちゃーちゃー言うもんかい!それだけ愛してくれてるんだろ?夫として嬉しい限りだぜ!」

 

「でも……」

 

「あーもー!ならこうだ!」

 

視界いっぱいのジャックの顔。

肺いっぱいのジャックの匂い。

口いっぱいのジャックの味。

 

身体が頭が火照って熱い……

 

ビックリして、驚いて、私の腕が別の生き物みたいにジャックに抱きついて離れなくて……

 

……やった。

やったやった。

やったやったやったやったやったやった!

 

幸せで、でも息が続かなくなって苦しくて。でもやっぱり幸せで!

 

「~~ッぷはぁ!はぁ、はぁ……これで、分かったか?シャーリー」

 

もうジャック以外考えられない……

 

好き、大好き。

愛してる……私のダーリン♡

 

「分かったなら俺のプロポーズに答えてく」

 

「ジャックぅあ!」

 

「のわー!」

 

それから私達は……まぁ、愛し合った。

愛し合ったと言うよりは襲った。

逆転されたけどね。

 

一線は越えなかったけど、それも時間の問題さ。

そうして気がつけば朝になってた。

私はダーリンに揺り起こされて身体を洗って服を着直して。

 

「戻らないとな」

 

「どこに?」

 

「501だよ」

 

「でも……」

 

「シャーリー。シャーリーの戦いが終わるまで俺は祖国で待つ。だから……ケガ、するなよ」

 

「うん……帰ろう」

 

あのときに見た朝日は、今まで見た中で1番綺麗で、寂しかったよ。

 

 

 

「……っと、これが私とダーリンの愛の逃避行ってヤツだな!面白かったか?」

 

501の食堂、シャーリーは懐かしい話を聞かせていた。

 

「だ、大胆……ですね!」

 

「あ、あはは……リーネちゃん顔真っ赤だよ」

 

「うぅ~芳佳ちゃんだって~」

 

「そ、そのような事を!なんと破廉恥な!」

 

シャーリーを囲うリーネ、宮藤、ペリーヌは顔を真っ赤にして三者三様の反応を示す。

 

そこでふと宮藤は疑問に思った。

 

「あれ?でもミラーさんって今も整備班長してるよね、リーネちゃん」

 

「うん、でもどうしてもかな?」

 

「あーそれは」

 

「そりゃあ、俺達整備班がストライキしたからさ」

 

「ダーリン♡!」

 

時には明るく、時には明るく話をしていたシャーリーが目の色を変えて飛びつく。

 

「俺が去るって聞いた整備班がヴィルケ隊長は整備班を冷遇しすぎだ!ってな。おおっと、そうだった。シャーリー、ユニットのエンジンをチューンしておいたから」

 

「行こう行こう!ハンガーに行こう!」

 

「俺の嫁さんはなぁんてお転婆なんでしょ」

 

幸せそうに抱き合ってハンガーに向かう2人を、宮藤達は真っ赤になりながら見送った。

 

 




シングルベッドで抱き枕は……狭い。

でも幸せ
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