遊戯王Next   作:湯(遊戯王SS投稿者)

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第93話:目醒める悪夢

デュエリア陣営は、革命組織「ギルド」との同盟を成立させた。目指すは、ネフカ王国を支配する暴君「アスラナク」の打倒。そのために一同が立てた作戦は、王国軍の兵士から鎧を奪い、変装して王宮へ潜入したうえで、アスラナクへ強制オースデュエルを仕掛けるというものだった。

 

だが、王国側も手をこまねいていたわけではない。禁忌を知った少女「トト」と、彼女を連れて逃げた遊次たちを捕らえるため、七使徒の一人「ムウミン」が動き出す。普段は眠たげな態度を崩さない彼女は、ひとたび集中すると驚異的な推理力を発揮し、遊次たちが身を潜めているおおまかな区域を割り出した。

 

一方、遊次はトトから預かった古文書を隠すため、早朝、拠点の外へ単身で出る。古文書は、ネフカ王国の禁忌を解き明かし、悪星神に対抗する手がかりとなり得る重要なもの。王国軍に奪われるわけにはいかなかった。しかし、その行動はムウミンに読まれていた。古文書を隠そうとした遊次の前に、ムウミンが現れる。追い詰められた遊次は、捕縛を逃れるため、彼女へ強制オースデュエルを発動した。

 

遊次が提示した契約は、ムウミン軍を自分の命令に従わせること。もし勝利すれば、王宮潜入に必要な鎧の確保だけでなく、兵士たちを実質的に寝返らせることができ、作戦は一気に前へ進む。

 

対するムウミンが提示した契約は、遊次の身柄の確保。そして、自らの質問に真実を答えさせること。敗北すれば自身が捕らえられるだけでなく、拠点、古文書の所在、王宮潜入作戦の全容までもが、ムウミンの問いによって暴かれてしまう。

 

勝てば革命への突破口となる。

だが負ければ全てが王国側へ渡る。

 

そんな重大な一戦、ムウミンは早々に裏側守備表示のモンスターを並べ、さらにその"夢"を現実へと呼び寄せた。ムウミンが操る「レムスリーパー」は、裏側守備表示で眠るモンスターを起点に、その夢をモンスターとしてEXデッキから具現化する異質なデッキだった。

 

カードの上で眠る「レムスリーパー・ラーバ」の夢として現れたのは、強力な甲虫モンスター「スプレンディッドビートル」。立ちはだかる強大なモンスターを前に、遊次はどう動くのか。

 

 

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【ムウミン】

LP8000 手札:2

 

①レムスリーパー・キャット(裏側) DEF700

②レムスリーパー・ラーバ(裏側) DEF800

③レムスリーパー・スプレンディッドビートル DEF2800

 

伏せカード:1(レムスリーパーの夢遊)

 

 

【遊次】

LP8000 手札:5

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「私はこれでターンエンド。スプレンディッドビートルは、相手がカード効果を発動した時、同じ種類のカードを墓地から除外して、その効果を無効にして破壊できる。この効果は1ターンに3回まで使える」

 

 

■レムスリーパー・スプレンディッドビートル

 融合モンスター

 レベル10/地/幻想魔族/攻撃力2400 守備力2800

 このカードは「レムスリーパー・ラーバ」を対象とした「レムスリーパー」魔法・罠カードの効果でのみ特殊召喚できる。

 このカード名の②の効果は1ターンに1度しか使用できず、③の効果は1ターンに3度まで使用できる。

 ①:「レムスリーパー」魔法・罠カードの効果で特殊召喚したこのカードは相手の効果の対象にならず、相手はこのカードを攻撃対象にできない。

 ②:このカードが特殊召喚した場合に発動できる。

 デッキから「レムスリーパー」罠カード1枚を選び、フィールドにセットする。

 ③:相手がカードの効果を発動した場合、そのカードと同じ種類のカードを自分の墓地から除外して発動できる。

 その効果を無効にして破壊する。

 

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/538h7kt

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「…とんだ化け物じゃねえか。しかも墓地にはご丁寧に全種類のカードがある」

そのあまりの強力な効果に、遊次は顔を引きつらせる。

 

「それに、相手の効果・攻撃の対象にならない。夢には、誰にも触れない」

 

抑揚のない声で淡々と言ってのけるムウミンに、遊次は口角を上げて言葉を返す。

 

「でも魔法カード『レムスリーパーの夢現』の効果で、レムスリーパー・ラーバがリバースするかフィールドから離れたら、スプレンディッドビートルは破壊される。夢は眠りから覚めたら消えるってことだ」

 

遊次の言葉にムウミンは小さく頷き、言葉を返す。

 

「…ざんねん。ずっと、眠っていられたらいいのに」

相変わらず掴みどころのない雰囲気だ。だが遊次は彼女の言葉にどことなく妙な重みを感じた。

 

眼前にそびえる大型モンスターと、その傍らにセットされた罠カード。遊次はフィールドの状況を冷静に見極め、短く息を吐き出した。

 

(あのカブトムシだけで3回の無効。さらに罠カードでもう1体夢モンスターを呼べる。でも『レムスリーパーの夢現』の対象になったラーバは、次のターン終了時にリバースして、その瞬間に夢モンスターも消える。だったら無理に押し通すより、やるべきことがある)

 

さらに遊次はムウミンの墓地に眠るカードに目を通した。その中の1枚の罠カードに着目する。それは自分のターンにフィールドの夢モンスターをEXデッキに戻し、「夢モンスターを特殊召喚する効果を持つカード」を手札に加える墓地効果だ。

 

少し考えを巡らせると、遊次は再び前を向く。そして力強くデッキトップに指を掛けた。

 

「俺のターン、ドロー!

フィールド魔法『妖義賊の秘密回廊』を発動!」

 

 

■妖義賊の秘密回廊

 フィールド魔法

 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:このカードの発動時の処理として、「予告状」魔法カード1枚をデッキから手札に加えることができる。

 ②:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスター、または元々の持ち主が相手となるモンスターを対象とする

 相手フィールドのモンスター効果が発動した場合に発動できる。

 発動した効果を無効にする。

 ③:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスターがリリースされた場合に発動できる。

 自分はデッキから1枚ドローする。

 

 

古い石畳の床が1枚ずつ広がってゆき、フィールド全体に張り巡らされる。壁には重厚な木材が使われている。茶色く染まった柱が霧の中にぼんやりと浮かび、暗い空間の中に優美な雰囲気を感じさせる。

 

「このカードの発動時、デッキから『予告状』魔法カードを手札に加えられる。俺は爆炎の予告状を手札に加えるぜ」

「魔法カード『爆炎の予告状』発動!」

 

■爆炎の予告状

 通常魔法

 ①:このカードは発動後、墓地に送られる。

 このカードの発動から2ターン後の自分メインフェイズに、このカードを墓地から除外できる。

 ②:このカードが墓地から除外された場合に発動できる。

 相手フィールドのカードを全て破壊する。

 

 

しかしフィールドには何も起きず、発動された魔法カードはただ墓地へ送られる。

 

「このカードは文字通り予告状だ。発動した時には何も起きない。でも2ターン後に墓地から除外されて、墓地から除外された時に相手フィールドの全てのカードを破壊できる」

 

ムウミンは小さくあくびをこぼし、ぼんやりとフィールドを見つめていた。まるで緊張感のないその態度を前に、遊次は静かに思考を深めていく。

 

(あの伏せカードも、裏側モンスターの夢を特殊召喚するカード。多分、もう1体のキャットの夢が出てくるはずだ。そいつがどんなモンスターかわかんねえと、こっちもヘタに動けねえ)

 

手札へと落としていた視線を上げ、眼前の盤面を鋭く見据える。

 

(本番は次のターンだ。そのためには準備が要る。でもビートルがいるとその準備すら進まねえ。放置ってわけにはいかねえな)

 

遊次は手札から1枚のカードを取り出し、デュエルディスクに叩きつける。

 

「自分フィールドにモンスターがいない時、コイツは手札から特殊召喚できる。

来い『妖義賊-脱出のシェパード』!」

 

 

■妖義賊-脱出のシェパード

 効果モンスター

 レベル3/地/獣/攻撃力900 守備力1100

 このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、

 ②の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚する。

 ②:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスター1体をリリースし、

 以下の効果から1つを選択して発動できる。

 ●相手の墓地のモンスター2体を選び、自分フィールドに特殊召喚する。

 この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、攻撃力・守備力は0となる。

 ●相手はデッキからモンスター2体を選ぶ。自分は選んだモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、攻撃力・守備力は0となる。

 

 

そのモンスターは、シェパード犬の顔を持ちながら、整った二足歩行の姿勢で立っている。首元にはシルクのスカーフが巻かれ、風になびいて優雅に舞う。カーキ色のジャケットを羽織り、下からは白いシャツの襟が見える。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/mbD8bgW

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「脱出のシェパードの効果発動!自身をリリースして、相手の墓地のモンスター2体を、効果無効・攻守0にして俺のフィールドに特殊召喚できる!」

 

遊次が得意げに視線を送るが、ムウミンは間髪入れずに声を返す。

 

「スプレンディッドビートルの効果発動。墓地のレムスリーパー・フィッシュを除外して、その効果を無効・破壊」

ここで墓地のモンスターを奪われれば、ビートルは効果を無効にできなくなる。ムウミンにとって迎撃は必然の選択だった。

 

スプレンディッドビートルが重厚な鋼鉄の羽を大きく打ち振るう。赤い双眸と額に刻まれた紫のウジャト眼が怪しく瞬いた直後、空気を切り裂いて紫電が走った。軽やかに跳躍したシェパードの体は容赦ない電撃に貫かれ、ぽわんとピンク色の煙を上げてフィールドから消え去った。

 

「けどこの瞬間、フィールド魔法の効果が発動!1ターンに1度、妖義賊がリリースされた時、1枚ドローできる!」

 

「俺は『妖義賊-士君子のブラックバード』を召喚!」

 

■妖義賊-士君子のブラックバード

 効果モンスター

 レベル4/地/鳥獣/攻撃力1500 守備力1400

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。

 そのカードを破壊する。その後、破壊したその魔法・罠カードを自分フィールドにセットする。

 ②:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、

 代わりに墓地の「予告状」カードを除外することができる。

 

 

フィールドに現れたのは、長身の紳士のような立ち姿を持つカラスのモンスター。えんじ色の帯を巻いたシルクハットを被り、金のラインがあしらわれたダークグレーのスーツを隙なく着こなしている。白いシャツには帽子と同色のネクタイが締められ、袖口からは鋭く尖った黒い風切羽が真っ直ぐに伸びる。立派な黒い嘴の奥で、黄金色の瞳が理知的な光を放つ。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/HvbmmGT

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「ブラックバードの効果発動!1ターンに1度、相手の魔法・罠カードを破壊して、それを奪う!対象はその伏せカードだ!」

 

効果の宣言と同時、遊次は相手の出方を伺うようにムウミンへと視線を送る。

 

(この効果をビートルで無効にして破壊しようとしても、ブラックバードは墓地の予告状を除外して破壊を免れる。そうなりゃ『爆炎の予告状』の相手フィールドのカードを全て破壊する効果が発動する。当然、相手はそれも無効にしなきゃならないけど、そこでビートルの3回無効は使い切ることになる…)

 

しかしムウミンはブラックバードの効果に罠カードをチェーンするという選択肢もある。そうなればビートルの効果は温存されるものの、遊次はもう1体の夢モンスターの正体を早々に知ることができる。どちらに転んでも利がある選択を突き付けたのだ。

 

意外にもムウミンは迷うことなく、すぐに決断を下した。

 

「スプレンディッドビートルの効果。墓地のレムスリーパー・モンキーを除外して、その効果を無効・破壊」

 

スプレンディッドビートルの赤い双眸が発光し、紫電が鋭く放たれた。直撃の直前、ブラックバードが両腕を力強く振るう。無数に舞い散った漆黒の羽根が盾となり、迫る稲妻をことごとく弾き返した。

 

「効果は無効になったけど、ブラックバードは墓地の予告状を除外することで妖義賊の破壊を免れる。さらにこの瞬間、除外された爆炎の予告状を発動!相手フィールドを全て破壊する!」

 

ブラックバードの指先に、紅蓮の炎を纏った一枚の予告状が現れる。腕を振り抜いて真っ直ぐに投擲すると、予告状は瞬く間に猛烈な爆炎へと姿を変え、ムウミンのフィールドへと襲い掛かる。

 

「スプレンディッドビートルの効果発動。墓地の魔法カード『レムスリーパーの夢現』を除外して、その効果を無効にする」

 

スプレンディッドビートルの額に刻まれたウジャト眼が怪しい光を放った。フィールドを焼き尽くすかに見えた爆炎は、突如として湧き上がった桃色の煙に包み込まれ、跡形もなく掻き消された。

 

あらゆる効果を無効にされた遊次だが、その口角は上がっていた。

 

「でもこれでビートルの効果は全部使い切ったな」

してやったりと言わんばかりに胸を張る。その勝ち誇った態度に、ムウミンはじとりとした目を向けてぼそりと零した。

 

「せーかく、悪いね」

 

「フッ、誉め言葉として受け取っとくぜ」

遊次は悪びれることなくニヤリと笑う。だがその内側では、相手のプレイングに潜む違和感を冷静に洗い出していた。

 

(アイツは罠をブラックバードにチェーンすることもできた。でも、しなかった。ビートルの無効効果を使い切ってでも、アイツは罠カードを守りたかったんだ。つまりもう1体の夢モンスターは、特殊召喚されるタイミングに意味がある…。無効系ならターンが始まった瞬間に特殊召喚してもいいはず。ってことはもう1体は多分、除去系の効果だ)

 

わずかな手掛かりから、相手の思考の深淵まで辿り着く。結論を導き出すと、遊次は前を見据える。

 

「バトル!『妖義賊-士君子のブラックバード』で、

『レムスリーパー・キャット』を攻撃!」

 

メインフェイズ1での展開を見送り、即座に攻撃へと転じる。その意図はムウミンにとっても明白だった。大元である裏側のキャットを戦闘で破壊してしまえば、そこから現れるはずの夢モンスターも特殊召喚できなくなる。相手の狙いを根元から潰す、最も容赦のない選択だった。

 

「ほんと、せーかく悪いね」

ムウミンはそう言うと、静かにデュエルディスクへ手を伸ばした。

 

「罠カード発動。『レムスリーパーの夢遊』」

 

 

■レムスリーパーの夢遊(ゆめあそび)

 通常罠

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:LPを2000払い、自分フィールドのこのターン「レムスリーパー」魔法・罠カードの効果の対象になっていない、裏側表示の「レムスリーパー」モンスターを対象として発動できる。

 対象のモンスターのカード名が記された「レムスリーパー」融合モンスターをEXデッキから特殊召喚する。

 この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効にならない。

 この効果の対象となった裏側表示モンスターがフィールドを離れた場合、または表側表示になった場合、この効果で特殊召喚したモンスターは破壊される。

 次のターン終了時、このカードの対象になった裏側表示モンスターをリバースする。

 ②:墓地のこのカードを除外し、除外状態の自分の「レムスリーパー」カード1枚を対象として発動できる。

 そのカードを手札に加える。

 

 

「ライフを2000払って、裏側のレムスリーパー1体を対象に、その夢を特殊召喚できる。対象は、レムスリーパー・キャット」

 

ムウミン LP8000→6000

 

ムウミンは、裏側守備表示のまま眠るキャットへと視線を落とした。カードの上で丸くなった小さな猫は、何も知らないように静かな寝息を立てている。その額に浮かぶ三日月の紋章が、淡く、脈打つように光った。

 

ムウミンはそっと言葉を紡ぐ。

 

「深き眠りの中の小さき狩人、その夢は猛き俊足の獣王なり」

 

キャットの体から、桃色の煙が細く立ちのぼった。揺らめく霞は眠る猫の輪郭をなぞるように広がり、やがてその上で大きく渦を巻き始める。煙の内側で、小さな影が身を起こした。低く沈んだ姿勢。しなやかに伸びる背。獲物を見据えるように細められた瞳。

 

だが、その影は一瞬で膨れ上がった。

 

小さな前脚が、太く逞しい獣の腕へと変わる。丸まっていた背は高く持ち上がり、首元から燃え広がるような鬣が吹き上がった。煙の中で、黄金の装甲がひとつ、またひとつと嵌まり込む。肩を覆う飾り金具がきらめき、胸元には黒と金の装飾が王冠のような威を宿す。

 

ズン、と重い足音が響いた。

 

遊次の目の前で、桃色の煙が内側から裂ける。そこから踏み出したのは、赤く荒ぶる鬣をなびかせた獅子の王だった。額には眠りの紋章が輝き、鋭い牙を覗かせた口から、低く震える唸りが漏れる。背に流れる赤い布が尾の動きに合わせて揺れ、四肢を包む黄金の装具が一歩ごとに硬い音を鳴らした。

 

獣王は遊次を見据え、空中に前脚を叩きつける。その瞬間、眠っていたはずの小さな狩人の夢が、フィールドに獰猛な咆哮と共に解き放たれた。

 

「現れよ、レムスリーパー・ノーブルリオン」

 

 

■レムスリーパー・ノーブルリオン

 融合モンスター

 レベル10/地/幻想魔族/攻撃力2900 守備力2500

 このカードは「レムスリーパー・キャット」を対象とした「レムスリーパー」魔法・罠カードの効果でのみ特殊召喚できる。

 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:「レムスリーパー」魔法・罠カードの効果で特殊召喚したこのカードは相手の効果の対象にならず、相手はこのカードを攻撃対象にできない。

 ②:このカードが特殊召喚した場合に発動できる。

 相手フィールドのカードを全て破壊する。

 その後、自分は破壊した枚数だけデッキからドローする。

 ③:このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動できる。

 デッキから「レムスリーパー」モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

煙が晴れると、眠るキャットの頭上に、赤銅色の鬣を逆立てた獅子のモンスターが浮かび上がっていた。

 

橙色の毛並みには濃い縞模様が走り、しなやかに引き締まった巨躯を、黒と黄金の装甲が覆っている。肩には鋭く張り出した金色の鎧が嵌まり、胸部の装甲にはウジャト眼を思わせる紋章が刻まれていた。背から流れる深紅の外套は、空中で重力を忘れたように揺れていた。額には三日月の紋章が輝き、その下で琥珀色の瞳が相手を射抜く。開かれた口には鋭い牙が並び、低い唸りが空気を震わせる。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/ngj3tPr

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空中に浮かぶ獣王は、まだ動いていない。だが、その巨体から放たれる圧だけで、次に来る一撃の重さが肌に伝わってくる。遊次は無意識にデュエルディスクを構え直し、獣王の動きを見逃すまいと視線を鋭くした。

 

「レムスリーパー・ノーブルリオンの効果発動。相手フィールドのカードを全て破壊する」

 

ムウミンの宣言と同時に、ノーブルリオンが大きく咆哮した。びり、と空気が震える。獣王の巨体が空中を蹴って駆け出すと、赤い残像を引いたその動きは一瞬で距離を潰し、遊次が目で追い切るより早く、目前まで迫っていた。

 

振り上げられた爪に、赤い光が宿る。鋭い五本の爪先が空を裂き、振り下ろされる動きに合わせて赤い軌跡を描いた。次の瞬間、爪撃が遊次のフィールドを薙いだ。

 

その奥で、ムウミンは鋭く前を見据えていた。眠たげな気配を纏ったまま、しかしノーブルリオンの一撃の行く先から、視線を逸らさない。

 

爆ぜた赤い衝撃に、遊次は咄嗟に腕を構える。吹き荒れる風圧が髪を煽り、服の裾を乱す。

 

しかし衝撃を浴びた瞬間、遊次の中へ、見知らぬ感覚が流れ込んだ。

目の前が、真っ暗になる。

 

頬の下で布が擦れている。身体は寝台に沈み、重いまぶたの向こうで、天井が光と影に滲んでいる。起き上がろうとする意識だけが空回りし、身体は眠りに引き留められたまま動かない。

 

ダビデとのデュエルで起きた感覚が、遊次の中で蘇る。

 

(また、これだ…!)

 

 

「またねーちゃんが寝てるぞ!」

すぐ近くで、幼い声が跳ねた。

 

強烈な眠気に抗いながら、うっすらと目を開ける。ぼんやりした視界の端に、赤銅色の髪をした男の子が二人いる。顔立ちは霞んでいるが、寝台のそばに並んでいることは分かった。

 

「いっしっし…」

もう一人の声が近づく。小さな手に握られたペンが、ぼやけた視界の中でかすかに揺れていた。

 

「コラ、やめなさい。おねーちゃんはいま精霊さんと深く繋がってるの」

上から降って来た大人の女性の声が、二人の悪戯を止めた。

 

ペンを持った手が止まる。赤銅色の髪をした二人の影が、寝台のそばで揺れている。近い声と霞んだ姿と浅い呼吸が、布の感触と一緒に残った。

 

ダビデの時と同じなら、これはムウミンの記憶だ。この二人の男の子は、弟なのだろう。

 

そこで幼い日の記憶が途切れた。

 

 

次の瞬間、真正面から吹きつけた風圧が、遊次の腕を押し返す。視界が広がると、ブラックバードの黒い翼が、大きく歪んでいた。羽ばたく間もなく赤い閃光が胴体まで走り、漆黒のモンスターは黒い羽根を散らしながら砕け飛ぶ。

 

遊次がその赤い軌跡を追った瞬間、石橋の風が遠のき、また記憶が流れ込んできた。

 

 

薄暗い部屋だった。壁際には、砂色の布を掛けた低い台がある。水を満たした器と乾いた花が、奥に掛けられた女性の肖像へ向けて供えられていた。花は色を失っているのに、器の水だけは澄んでいる。肖像の下には、低い編み椅子が一脚ある。肘掛けには薄い肩掛けが畳まれたまま掛かっていた。座面には、触れれば指の跡が残りそうな砂埃が薄く積もっている。

 

「ねーちゃん、おなかすいた…」

か細い声が、耳元に届く。弟の一人が、横たわるムウミンの肩を揺らしていた。

 

「やめろよ。ねーちゃん、最近あんま寝てないんだから」

もう一人が、肩を揺らす手を止めるように言った。

 

ムウミンは重いまぶたを開ける。眠っていたはずなのに、目の奥の熱も、身体の重さも抜けていない。

 

「ごめんね。お姉ちゃん、役立たずで」

ムウミンは虚ろな目で、ぽつりと落とす。

 

その言葉を聞き、弟の顔が青ざめる。

 

「な…そんなことねーよ!」

 

もう一人は俯いたまま、拳を握っている。

 

「…役立たずは俺らだ。飯も作れなきゃ、金も稼げねえ…」

俯いた弟の拳が、小さく震えた。ムウミンは、何も返せない。肖像へ供えられた乾いた花の影だけが、薄暗い壁に細く落ちていた。

 

薄暗い部屋の記憶が途切れた。

 

視界は再びデュエルフィールドへと戻る。遊次が腕を構えたまま歯を食いしばる中、爪撃はフィールド全体を呑み込む。霧が裂け、石畳を走っていた光が途切れた。奥へ伸びていた抜け道の輪郭が乱れ、柱の影が歪み、重厚な壁も床も、回廊を形作っていた景色ごと爪痕に沿ってほどけていく。

 

 

そして遊次の中へ、また記憶が流れ込んできた。

 

高い壁に囲まれた、広い演武場だった。足元には乾いた砂がある。向かい合うのは黒甲冑の男。短く刈り上げた薄緑色の髪。褐色肌の引き締まった顔。短く整えられた髭。

 

あれは拠点の作業所のボードで見た顔だ。

確か、アザン軍の副指揮官。

 

目の前には、裏側守備表示で眠るレムスリーパー・キャットと、その夢であるノーブルリオンが浮かんでいた。赤い鬣をなびかせた獣王が、演武場の砂を蹴る。黒甲冑の男が身構えるより早く、ノーブルリオンは一直線に距離を詰め、その守りごと爪で叩き伏せた。

 

赤い一撃が、男の身体を貫く。男は膝をつき、悔しさの滲む表情で自分を見上げた。

 

「まさか、我が腹心を破るとは…」

黒い鎧を纏う壮年の男が近づいてきた。作業所のボードに貼られていた七使徒の一人、アザンだ。

 

「このままならば、君が空いた七使徒の座につくことになる。だが…本当に良いのか。きっと、この先は修羅の道だぞ」

 

左腕のデュエルディスクが、重く感じられた。

浮かんだのは、空腹を隠して笑う弟たちだった。

 

「これであたしも、役に立てる」

 

その言葉と共に、記憶は途切れた。

 

 

爪痕にほどけたフィールド魔法の輪郭が、遊次の前で揺れている。最後に赤い光がひときわ強く弾けると、吹き荒れていた衝撃がふっと途切れた。

 

嵐のような一撃が通り過ぎた後、遊次がゆっくりと顔を上げる。回廊が剥がれ落ちた跡には、早朝の冷たい空気が流れる元の石橋の景色が広がるだけで、先ほどまで盤面を固めていたカードは、一枚残らず消し飛ばされている。

 

遊次の視界には、突如として流れ込んで来た記憶の断片が、まだ残っているように感じた。

 

「さらに破壊した枚数だけ、あたしはカードをドローできる」

ムウミンのデッキから2枚のカードが引き抜かれる。

 

起点となる裏側表示のモンスターを守り抜く必要があり、さらに2ターンで自壊を迎えるという制約はある。しかし、その厳しい制約を代償にして顕現する力は、一切の理屈をねじ伏せるほどに強大だった。

 

しかし、それよりも、今は気になることがあった。

 

「お前…弟がいんのか」

 

唐突に投げかけられた問いに、ムウミンの瞼が大きく跳ね上がった。

 

「…なんでそんなこと、知ってるの」

 

絞り出されたその一言は、遊次の脳裏に流れ込んできた光景が紛れもない彼女自身の記憶であると裏付けていた。

 

「ノーブルリオンを通して、お前の記憶とか感情が俺の中に入って来たんだ」

 

頭の奥底には、2人の弟の姿がはっきりと焼き付いている。ほんの一瞬、記憶を共有しただけに過ぎない。それでも、流れ込んできた感情の重みは、まるで自分自身の過去であるかのように確かな手触りを持って残っていた。

 

「お前、過激派って感じじゃないし、アスラナクを信奉してるって感じもねえ。だからなんで七使徒なんかやってんのか、不思議だったんだ」

 

ムウミンは口を硬く閉ざし、探るような視線で遊次を睨みつける。

 

「でもわかったぜ、お前が戦う理由。

なんてことねえ、金のためだ」

 

張り付けたような無表情の下で、ムウミンは密かに驚愕していた。決して他人に覗かれるはずのない己の根源。なぜこの異人がそれを把握しているのか、そしてなぜこの緊迫した盤面でそれを口にしたのか、思考が追いつかない。ただ一つ確かなのは、相手の言葉に虚勢や揺さぶりの色はなく、純粋な事実として放たれているということだけだ。

 

「そう。悪い?」

ムウミンはあくまでも平坦な声で肯定する。その一切の悪びれなさが、遊次の奥底でくすぶっていた火種を燃え上がらせた。

 

「…弟のためだとしても、アスラナクの命令に従って罪もねえ人を処刑して、子供の命まで狙って…他にやり方があんじゃねえのかよ」

 

怒りを滲ませた声が、石橋の上に鋭く響いた。しかしムウミンの表情はピクリとも動かなかった。

 

「だから、ごめんなさいって言ってる」

 

遊次は言葉を飲み込み、拳を握り込んだ。見ず知らずの他人の命を犠牲にしてでも、自分の家族の平穏を守り抜く。その方が"普通"なのだ。これ以上綺麗事を並べ立てても、相手の心を動かすことはできない。

 

遊次は再びフィールドに意識を向け直す。

 

「…バトルフェイズは終わりだ」

遊次は静かに戦いの幕を引く。

 

ここまでは遊次も想定していたことだった。メインフェイズ1の段階で、ムウミンは未知の除去効果を隠し持っていた。その正体を暴き、妨害の弾を撃ち尽くさせるための誘い水として、遊次はあえて攻撃を仕掛けていたのだ。

 

目論見通り、相手の妨害を使い切らせることには成功した。しかしその代償として、このターンで勝負を決めるという選択肢は断たれている。遊次の攻勢を凌いだ時点で、ムウミンの呼び出したモンスターたちはすでに十分な役割を全うした。次なる反撃へ向けた手札も潤沢であり、ターン終了時の制約でスプレンディッドビートルが消滅しようとも、彼女が被る損失は皆無に等しかった。

 

遊次は自身の秘策を信じ、再起へと動く。

 

「俺のフィールドに相手から奪ったカードがない時、『妖義賊-戴火のプロメテ』は手札から特殊召喚できる」

 

 

■妖義賊-戴火のプロメテ

 ペンデュラムモンスター/チューナー

 レベル4/火/炎/攻撃力1000 守備力200 スケール2

 【P効果】

 このカード名の①②のP効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドに「ミスティックラン」モンスターが存在する場合に発動できる。

 このカードを効果を無効化して自分フィールドに特殊召喚する。

 ②:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合に発動できる。

 自分のデッキの上からカードを5枚めくり、

 その中から「ミスティックラン」カード1枚を選んで手札に加える。

 残りのカードは好きな順番でデッキの一番下に戻す。

 【モンスター効果】

 このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、

 ②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在しない場合、

 このカードは手札から特殊召喚できる。

 ②:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスター1体をリリースし、

 相手の除外状態のモンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 ③:このカードがフィールドからEXデッキに表側表示で加わった場合に発動できる。

 このカードをPゾーンに置く。

 

 

姿を現したのは、オレンジ色の炎の姿をしたモンスター。涙滴のように燃え上がる炎そのものが体として実体化している。大きな丸い目を見開き、三日月型に開いた口で無邪気な笑みを浮かべる。炎の下部からは赤茶色の細い腕が左右に伸びており、丸みを帯びた指をいっぱいに広げて宙に浮かぶ。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/sNrvuKI

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「プロメテの効果発動!フィールドの妖義賊をリリースして、除外されてる相手のモンスターを奪える!プロメテ自身をリリースして、除外されてるレムスリーパー・フィッシュを特殊召喚!」

 

フッと火を吹き消すようにプロメテが姿を消す。空いた遊次のフィールドへ現れたのは、小さな魚のモンスターだ。

 

丸みを帯びた体は淡い水色の鱗に覆われ、側面には金色の渦巻き模様が鮮やかに浮かび上がる。尾びれの付け根には三日月の紋章が光を放つ。目の下には水滴を模した模様が並び、ぱっちりと目を開いている。背びれや胸びれは薄紫色から水色へと移り変わる、透き通ったグラデーションを描く。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/werIhuh

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「リリースされたプロメテの効果発動。このカードがフィールドからEXデッキに加わった時、このカードをPゾーンにセットできる」

再び遊次の頭上に火の玉のモンスターが浮かび上がる。

 

「プロメテのP効果発動!相手から奪ったカードが場にある時、デッキの上から5枚めくって、その中から妖義賊カードを1枚、手札に加える」

 

遊次はデッキから5枚をめくり、相手へと提示する。

 

「俺が手札に加えるのは罠カード『妖義賊の影縛り』」

 

そして次に迷いのない手つきで手札から1枚のカードを抜き出し、そのまま表へと返した。

 

「手札の『妖義賊-美巧のアカホシ』の効果!除外されてる予告状をデッキに戻して、手札から特殊召喚できる!爆炎の予告状をデッキに戻して特殊召喚する!」

 

 

■妖義賊-美巧のアカホシ

 ペンデュラムモンスター

 レベル7/風/鳥獣/攻撃力2300 守備力2000 スケール8

 【P効果】

 このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:元々の持ち主が相手となるモンスター1体を対象とし、1~7までの任意のレベルを宣言して発動できる。

 そのモンスターのレベルはターン終了時まで宣言したレベルになる。

【モンスター効果】

 このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分の除外されている「予告状」カードを任意の枚数デッキに戻して発動できる。

 このカードを手札から特殊召喚する。

 この効果で特殊召喚したこのカードは、

 攻撃力がこの効果でデッキに戻した「予告状」カードの枚数×500アップし、

 このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ相手モンスターの効果を受けない。

 ②:自分メインフェイズに発動できる。

 デッキから「ミスティックラン」Pカード1枚を手札に加える。

 自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合、

 この効果で手札に加えるカードは2枚になる。

 ③:このカードがEXデッキに表側で存在し、自分のPゾーンにPカードが存在する場合に発動できる。

 このカードを手札に加える。

 

 

現れたのは、燃えるような赤い羽毛を持つ鳳凰の鳥人のモンスター。深紅の着物を纏い、両の鉤爪で太刀を構える。鋭く逆立つ頭部の羽と黄金色の嘴を備え、鋭い眼光で前を見据える。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Beta2kb

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「この効果で特殊召喚したアカホシは、デッキに戻した予告状の数×500攻撃力が上がって、さらに自分の攻撃力以下の相手モンスターの効果を受けない」

 

妖義賊-美巧のアカホシ ATK2800

 

「アカホシの効果発動!1ターンに1度、デッキから妖義賊Pカードを手札に加える。相手から奪ったカードがある時、その枚数は2枚になる。手札に加えるのは『妖義賊-舞蛇のキク』と『妖義賊-誘惑のカルメン』」

 

「さらに俺は手札から『妖義賊-舞蛇のキク』をPゾーンにセッティング!」

 

■妖義賊-舞蛇のキク

 ペンデュラムモンスター チューナー

 レベル3/水/爬虫類/攻撃力1000 守備力1500 スケール8

 【P効果】

 このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分メインフェイズに発動できる。

 デッキから儀式モンスターまたは儀式魔法カード1枚を手札に加える。

 その後、自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合、自分はデッキから1枚ドローする。

【モンスター効果】

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:P召喚したこのカードが存在する限り、戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは代わりに相手が受ける。

 ②:このカードが相手モンスターとの戦闘で破壊された場合に発動できる。

 その相手モンスターのコントロールを得る。

 

 

遊次の頭上に、白い鱗に覆われた蛇のモンスターが姿を現した。

 

くすんだ赤色の着物を纏い、下半身は太い蛇の胴体としてとぐろを巻く。大きな紫色の瞳を向け、赤い舌を覗かせた口元には愛嬌のある笑みを浮かべている。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/tsPN11Y

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「キクのP効果発動!1ターンに1度、デッキから儀式モンスターか儀式魔法を手札に加えることができる。俺は『妖義賊-ゴエモン』を手札に加えるぜ。さらに相手から奪ったカードが場にある時、もう1枚追加でドローできる!」

 

遊次は引いたカードに視線を送ると、小さく口角を上げる。

 

「魔法カード『妖義賊の施し』発動!相手から奪ったカードを墓地に送って2枚ドローする!」

 

遊次のフィールドにいたレムスリーパー・フィッシュが、細かな光の粒子へと分解されて消え去ると、遊次はデッキから鋭く2枚のカードを引き抜いた。

 

「速攻魔法発動!『妖義賊の早業』!Pゾーンにいる妖義賊を特殊召喚できる!舞蛇のキクを特殊召喚!」

頭上にいる白い蛇のモンスターが、空を切るような滑らかな軌道を描きながら降下し、フィールドへと降り立つ。

 

「速攻魔法『妖義賊の即日決行』発動!フィールドの妖義賊を1体リリースして、デッキから予告状カードを1枚墓地に送る!その後、すぐにそのカードを除外できる!」

 

 

■妖義賊の即日決行

 速攻魔法

 このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:フィールド上の「ミスティックラン」モンスター1体をリリースして発動する。

 デッキから「予告状」魔法カードを1枚墓地に送る。

 その後、そのカードを墓地から除外する。

 この効果の発動後、この効果で除外したカード以外の「予告状」魔法カードの効果は使用できない。

 

 

「キクをリリースして、デッキから儀式の予告状を墓地に送る!さらに除外!」

 

「除外された儀式の予告状の効果発動!俺はフィールドのアカホシをリリースして、儀式召喚を執り行う!」

 

儀式の生け贄としてアカホシの巨体が眩い光となって砕け散ると、光の粒子が薄紅色の桜の花びらへと姿を変える。石橋の上に無数の桜吹雪が舞い散り、ムウミンは頭上から降り注ぐその鮮やかな光景に、ほんのわずかに視線を奪われた。

 

「桜吹雪の舞う中に、現れたるは荒野の義賊!

儀式召喚!来い、俺の相棒!『妖義賊-ゴエモン』!」

 

 

■妖義賊-ゴエモン

 儀式モンスター

 レベル7/地/戦士/攻撃力2500 守備力2000

 「予告状」儀式魔法カードにより降臨。

 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:元々の持ち主が相手となるカードが自分フィールドに存在する限り、

 自分フィールドのモンスターは相手の効果の対象にならない。

 ②:相手の墓地のモンスター、または魔法・罠カード1枚を対象として発動する。

 モンスターカードの場合、そのカードを自分フィールドに特殊召喚し、

 魔法・罠カードの場合、自分フィールドにセットする。

 ③:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターをリリースして儀式召喚された場合、以下の効果を得る。

 元々の持ち主が相手となる自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動する。

 そのモンスターの元々の攻撃力分、自分フィールドの全てのモンスターの攻撃力をアップする。

 

 

桜吹雪と共に現れたのは、大剣を携えた戦士のモンスター。メタリックなボディは鉄の装甲で覆われており、鎧には赤の紋様が描かれている。腰と背に太い注連縄を巻き、大見得を切るように左手を前に突き出すその姿は、まるで鋼鉄の歌舞伎役者だ。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/VBKj9UV

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「ゴエモンの効果発動!1ターンに1度、相手の墓地からカードを奪う!俺が奪うのは、お前の墓地の罠カード『レムスリーパーの夢遊』!」

遊次のフィールドに裏側で罠カードがセットされる。

 

「EXデッキのアカホシの効果発動。Pゾーンにカードが存在する時、このカードをEXデッキの表側から手札に加えることができる。さらにプロメテのもう一つのP効果を発動。自分フィールドに妖義賊がいる時、Pゾーンから効果を無効にして特殊召喚できる」

 

火の玉のモンスターは頭上からゆらりとフィールドに舞い降りる。

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

ターンエンドの宣告と共に、カードの裏面を寝床にしていたラーバがゆっくりと目を覚まし、無防備に小さなあくびをこぼした。

 

「前のターンに発動した『レムスリーパーの夢現』の効果。発動から次のターンの終了時、対象になったレムスリーパー・ラーバはリバースして、夢モンスターはいなくなる」

 

覚醒の時を迎えたことで、魔法カードが定めていた幻の時間が終わりを告げる。上空に浮かんでいたスプレンディッドビートルの巨体から突如としてピンク色の煙が噴き出し、そのまま跡形もなくフィールドから姿を消した。

 

「ラーバがリバースした時、効果発動。デッキからレムスリーパーを墓地に送る。レムスリーパー・モンキーを墓地に送って、その効果を発動。デッキから『レムスリーパーの夢現』を手札に加える」

 

-------------------------------------------------

【ムウミン】

LP6000 手札:5(レムスリーパーの夢現)

 

①レムスリーパー・キャット(裏側) DEF700

②レムスリーパー・ラーバ ATK500

③レムスリーパー・ノーブルリオン ATK2900

 

 

【遊次】

LP8000 手札:3(アカホシ、カルメン)

 

①妖義賊-ゴエモン ATK2500

②妖義賊-戴火のプロメテ DEF200

 

伏せカード:3(レムスリーパーの夢遊)

--------------------------------------------------

 

垣間見えた記憶が、まだ遊次の脳裏に残っていた。寝台のそばにいた二人の男の子。薄暗い部屋で聞こえた、空腹を訴える声。あれだけで、ムウミンの全てが分かったわけではない。

 

それでも、彼女がデュエルで叩き伏せなければならない絶対悪ではないことは分かった。

 

なら、まだぶつかる余地がある。

遊次はムウミンを見据えた。

 

「俺らがなんでこの国に来たか、お前は知ってんのかよ」

 

「うん。この世界は滅ぶ。それを止めるためには、この国の協力が必要。って、シャユトから聞いた」

 

ムウミンは眠たげな目のまま、少しだけ頷いた。その答えに、遊次は眉をしかめた。

 

「なんでそれがわかってて、アスラナクに従うんだよ!」

 

語気を強める遊次に対しても、ムウミンは表情を変えなかった。

 

「だって、ほんとかわかんないし」

 

また、それか。遊次は息を詰める。

 

確かに、すんなり受け入れられる話ではない。何も知らない人間に、すぐ信じろと言う方が無理なのかもしれない。だが、デュエリアは必要最低限の情報をネフカ王国へ連携しているはずだった。それをムウミンが知らないのなら、情報が届いていない。あるいは、届かないように止められている。王宮の上層部が、意図して隠している可能性が高い。

 

だが知らないなら、教えればいい。

遊次は一歩も引かず、言葉を重ねた。

 

「本当だ。嘘でわざわざこんなとこ来るかよ。こうしてる今も、地球に隕石が迫ってんだ。その隕石ってのは、悪星神っていうモンスターなんだよ」

 

その言葉に、ムウミンはぽかんと口を開けてしばらく考え込んだ。これまで静観していた背後の鎧の兵士達も、顔を見合わせる。

 

やがて、ムウミンは淡々と言葉を返す。

 

「…そう。でも、関係ない。

それがほんとか嘘か、あなたを捕まえればわかること」

 

その反応で、遊次にも分かった。真っ向から嘘だと断じているわけではない。数年前、悪星神がモンスターワールドから消えたことは、この国の誰しもが知っているだろう。なら、遊次の話とその事実は、どこかで繋がるはずだった。

 

「もし本当ならどうすんだよ」

遊次は鋭く切り込んだ。しかしムウミンは答えない。

 

「絶対派の中には、神に逆らうぐらいなら死んだ方がマシって奴もいるんだろ。そんな奴がこの国のトップにいたら、世界を救う方法は見つけらんねえんだよ」

 

遊次はさらに言葉を重ねた。しかし、返ってきたのは反論ではなく、あまりにも飾らない一言だった。

 

「なんで?」

 

「え…?」

あまりの純朴すぎる疑問に、遊次の思考が一瞬停止する。

 

「なんで、アスラナク様がトップにいたら、世界を救えないの」

 

「…世界を救うためにはこの国の協力がいる。でも、もしアスラナクが神に逆らわないって考えなら、協力は得られないだろ」

 

遊次は冷静に言葉を返す。だがムウミンはゆっくりと、小さく首を横に振った。

 

「ちがう。なんで、その方法じゃなきゃだめなの」

 

「……え?」

遊次はまたも言葉に詰まった。しかし今度は、彼女の疑問に意表を突かれたからではない。

 

「他の方法がないって、なんで言えるの。

この国に頼るしかないの?ほんとに」

 

「…それは……」

 

そうだ、とは答えられなかった。他の方法はないのか、という質問の答えは「NO」だからだ。

 

「やっぱり、あるんだ」

押し黙る遊次を見透かしたように、ムウミンの眼差しがスッと温度を下げる。

 

「違う…!あるとしても、その方法は…!」

 

必死に言葉を紡ごうとした遊次を遮るように、ムウミンはデュエルディスクへと手を伸ばしていた。その指先はすでにデッキトップに触れている。重たい瞼が下りた特有の表情は崩れないまま、瞳の奥にだけ、刃のような鋭い光が宿っていた。

 

「あたしのターン、ドロー」

ムウミンは構わずカードを引く。遊次も急いで盤面へと意識を戻した。

 

ムウミンの手札は6枚。3度の無効効果を誇るスプレンディッドビートルは消え去った。しかしムウミンは再び夢を顕現させる魔法カードを手札へと引き込んでいる。これから来る猛攻を凌ぐには、遊次の盤面はあまりにも心許なかった。

 

ムウミンはフィールドを見つめ思考を巡らせる。

 

(相手の伏せカードは3枚。1枚はあたしから奪ったものだから、実質2枚。それを止めれば、勝ちは決まる)

 

「レムスリーパー・ラーバの効果発動。1ターンに1度、このカードを裏側守備表示にする」

 

幼虫のモンスターが、短い足を動かしてゆっくりと身を持ち上げた。何もない空中にカードの裏面が浮かび上がると、その上へ静かに這い乗る。ふっくらとした体の節をぎゅっと縮こまらせ、黄金色の硬質な殻を落としてうずくまると、ゆっくりとまぶたを閉じて安らかな寝息を立て始めた。

 

遊次は前のターンで罠カード「妖義賊の影縛り」を手札に加えた。ムウミンから見ても、それがセットされていると推測できる。この罠カードは相手が効果を発動した時、同じ種類のカードを自分フィールドから墓地に送って、その効果を無効にし、奪うことができる。しかしラーバに対して効果を使っても、再び手札からラーバを召喚されれば元の木阿弥。ゆえにこのラーバの効果を無効にしないことまでは想定通りだ。

 

「魔法カード『レムスリーパーの夢現』発動。手札を2枚捨てて、眠っているラーバの夢を呼び起こす」

 

 

■レムスリーパーの夢現(ゆめうつつ)

 通常魔法

 このカード名の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:手札を2枚捨て、自分フィールドのこのターン「レムスリーパー」魔法・罠カードの効果の対象になっていない、裏側表示の「レムスリーパー」モンスターを対象として発動できる。

 対象のモンスターのカード名が記された「レムスリーパー」融合モンスターをEXデッキから特殊召喚する。

 この効果の対象となった裏側表示モンスターがフィールドを離れた場合、または表側表示になった場合、

 この効果で特殊召喚したモンスターは破壊される。

 次のターン終了時、このカードの対象になった裏側表示モンスターをリバースする。

 ②:自分の墓地の「レムスリーパー」融合モンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターをEXデッキに戻し、墓地のこのカードを手札に加える。

 

 

手札から捨てられたのはモンスターと罠カード。このままでは再びスプレンディッドビートルが現れる。遊次がセットされた未知の罠カードを発動するのは今しかないはずだ。しかし、遊次が取ったのは予想外の行動だった。

 

「…そうはいかねえよ」

遊次は真剣な表情で、手札から1枚のカードを表へ向ける。

 

「手札の『妖義賊-悪戯好きのオイレンシュピーゲル』を手札から捨てて、効果発動!相手から奪ったカードが俺の場にある時、自分フィールドの妖義賊と相手フィールドのモンスター1体のコントロールを入れ替える!」

 

 

■妖義賊-悪戯好きのオイレンシュピーゲル

 効果モンスター

 レベル3/風/魔法使い/攻撃力700 守備力1200

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合、このカードを手札から捨て、自分フィールドの「ミスティックラン」モンスター1体と、相手モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスター2体のコントロールを入れ替える。この効果は相手ターンでも発動できる。

 ②:相手モンスターが自分の「ミスティックラン」モンスターまたは元々の持ち主が相手となるモンスターと戦闘を行う攻撃宣言時、墓地のこのカードを除外し、攻撃対象となったモンスター以外の自分フィールドの「ミスティックラン」モンスター1体を対象として発動できる。

 攻撃対象をそのモンスターに移し替えてダメージ計算を行う。

 

 

「…ふーん」

ムウミンは瞬時に遊次の意図を理解し、瞼を下げる。

 

「俺は『妖義賊-戴火のプロメテ』と、お前のフィールドで寝てる『レムスリーパー・ラーバ』を入れ替える!」

 

きらきらとした光を纏い、新たなモンスターがフィールドへ飛び出した。背中に半透明の青い羽を持つ、幼い少年の姿。ゆったりとした黄色のパジャマとナイトキャップを身につけ、あどけない笑みを浮かべている。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/ldmy2aw

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オイレンシュピーゲルはぱたぱたと羽を広げてフィールドの中央でくるりと回転すると、遊ぶようにぱんと両手を打ち合わせた。その音を合図に、プロメテとラーバのコントロールが瞬時に入れ替わる。

 

ただの下級モンスターであるプロメテがフィールドにいたのは、罠カード「妖義賊の影縛り」のコストのためと考えれば自然だった。しかしその固定観念を利用し、遊次は想定の外から一手を打った。

 

しかしムウミンは表情を変えずEXデッキから1枚のカードを選び抜く。

 

「…でも、特殊召喚はできる。

おいで、レムスリーパー・スプレンディッドビートル」

 

ピンク色の煙がラーバの頭上へ膨れ上がり、黒銀の甲殻を備えた巨大な甲虫が再びフィールドへと舞い戻る。しかし3度もの無効効果を持つ圧倒的な存在を前にしても、遊次は焦り一つ見せていない。

 

「夢の主であるラーバは今、俺のフィールドにある。こいつが墓地に行けば、たちまち夢は消えちまう。で、俺のフィールドにはラーバを墓地に送る手段がある。わかるよな?」

 

ムウミンは遊次のフィールドのセットカードに視線を送った。罠カード「妖義賊の影縛り」。ムウミンのモンスター効果に合わせてフィールドのラーバをコストとして墓地に送れば、その瞬間にスプレンディッドビートルはフィールドから消滅する。

 

つまり、スプレンディッドビートルは実質的に機能を停止したということだ。しかしムウミンは表情を崩さず淡々と言葉を返す。

 

「でも、この効果は止められないよね。スプレンディッドビートルの効果発動。特殊召喚した時、デッキからレムスリーパー罠カードを1枚セットする」

 

この効果を止めるには、伏せている『妖義賊の影縛り』を発動するしかない。だが、罠カードをセットするだけの行動に、貴重な妨害を消費するわけにはいかなかった。

 

「デッキから『レムスリーパーの夢遊』をセット」

 

まだお互い決定打を打てず睨み合いが続いている状態だ。ムウミンにはまだ手札が潤沢にあるが、遊次にも2枚の罠カードがある。どちらの一手が勝負を決してもおかしくない状況だ。

 

「あたしは、レムスリーパー・キャットをリバース」

ムウミンが裏側表示のカードを表へ向けると、フィールドで眠っていたキャットがぱちりと目を開いた。小さな口を大きく開けてあくびを一つこぼし、ぎゅっと背伸びをする。

 

「おはよ。キャットが起きたことで、ノーブルリオンは消える」

夢の主が目を覚ましたことで、空中に浮かんでいた赤いたてがみの獅子はピンク色の煙に包まれ、そのまま幻のように消え去った。

 

「キャットがリバースした時の効果発動。デッキから『レムスリーパー・フィッシュ』を手札に加える」

 

交錯する視線。ムウミンの手元が動いたその隙を縫うように、遊次は踏み込んだ。

 

「確かに、アスラナクを倒す以外にも方法はあるかもしれねえ。でもその方法じゃ、みんなの命が犠牲になるんだ!」

 

返答はない。半分閉じたようなムウミンの双眸が、ただ静かに眼前の遊次を捉えている。

 

「でもこの国には、誰も犠牲にしない方法がきっとある!お前、言ってたよな、"ごめんなさい"って!それは、誰かの命を犠牲にするのが心苦しいからじゃねえのか!?」

 

必死に訴えかける遊次の熱を浴び、固く結ばれていたムウミンの唇がかすかに動いた。

 

「…いつも、夢を見るの。お母さんと、お父さんと、弟たちと、笑って、おいしいもの、いっぱい食べる夢」

スッと伏せられた睫毛の奥で、彼女の視線が足元へと落ちる。どこか遠くをなぞるような、消え入りそうな声が続く。

 

「でも、目が覚めたら、お父さんはいなくて、お母さんは写真の中にしかいない。暗い部屋で、痩せた弟が、お腹がすいてるのごまかすために、無理やり寝ようとしてる」

 

遊次の脳裏を、かつて垣間見た薄暗い部屋の光景が通り抜けた。他人の記憶であるはずのそれが、まるで自らの皮膚に刻まれたような重い生々しさをもって胸を圧迫する。

 

「でも、あたしが七使徒になってから、夢で見たよーな、おいしいお肉も、お魚も、いっぱい食べられるようになった。弟たちは、言うの。『もう、食べられない』って」

 

紡がれた言葉とともに、ムウミンの頬がふわりと朱に染まった。いつもの気だるげな無表情はそこにはなく、無邪気なまでの幸福感に顔を綻ばせている。そのあまりにも無垢で満ち足りた笑みを突きつけられ、遊次は言葉を失い、ただ息を呑むことしかできなかった。

 

「アスラナク様が王様じゃなくなったら、あたしも王宮に残れない。そしたら、あたしはまた、寝てるだけの役立たず」

 

先ほどまでの柔らかな熱は急速に失われ、ムウミンの顔はいつもの気だるげな無表情へと戻っていた。底冷えするような昏い眼差しが、真っ直ぐに遊次を捉える。

 

「それに、あたしが力をなくしたら、今まであたしが捕まえてきた人の家族が、復讐に来るかもしれない。そういうこと、あなたは考えたの」

 

静かに突きつけられる言葉に、遊次は口を閉ざした。実際、遊次の頭の中にはそこまでの想定はなかった。それでも、口を閉ざしたのは別の理由からだ。

 

遊次は再び盤面に意識を向ける。スプレンディッドビートルの実質的な無力化と、影縛りという罠カードがあるとはいえ、まだムウミンの手札には4枚のカードがある。召喚権も使っていない。

 

さらに墓地には、最初のターンに墓地に送られていた罠カード『レムスリーパーの夢移り』がある。そのカードはフィールドの夢モンスターをEXデッキに戻すことで、夢モンスターを特殊召喚できる魔法・罠カードを手札に加えるもの。その効果があれば、不要となったビートルをEXデッキに戻し、さらなる夢モンスターの召喚に繋げることができる。

 

だがそれは、前のターンから遊次にも見えていたことだった。

 

「罠カード発動。『妖義賊の見参』」

 

■妖義賊の見参

 通常罠

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分・相手ターンに発動できる。

 デッキから「ミスティックラン」モンスター1体を特殊召喚する。

 その後、自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合、

 デッキから「ミスティックラン」カード1枚を手札に加えることができる。

 ②:墓地のこのカードを除外し、墓地の「ミスティックラン」モンスター1体を対象として発動できる。

 そのカードを手札に加える。

 

 

この効果をスプレンディッドビートルで止めても、影縛りで無効化されるだけだ。ラーバがコストにされれば、夢である自身も破壊されてしまう。ビートルは墓地の罠カードのコストとして利用できる以上、ここでムウミンはビートルを無為に犠牲にする選択はしない。

 

「この効果で、俺はデッキから妖義賊を特殊召喚できる。来い、『妖義賊-秘開のアリババ』!」

 

 

■妖義賊-秘開のアリババ

 効果モンスター/チューナー

 レベル1/地/昆虫/攻撃力700 守備力100

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分・相手ターンに、自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合、以下の効果から1つを選択して発動できる。

 ●このカードを含む自分フィールドのモンスターを素材に「ミスティックラン」SモンスターをS召喚する。

 ●このカードを含む自分フィールドのモンスターを素材に「ミスティックラン」LモンスターをL召喚する。

 ②:相手が墓地のカード効果を発動した場合に発動できる。

 そのカードがモンスターカードの場合、そのカードを自分フィールドに特殊召喚し、魔法・罠カードの場合、自分フィールドにセットする。

 ③:このカードをS・L素材としたモンスターは以下の効果を得る。

 ●1ターンに1度、このカードの効果にチェーンした相手の効果は無効になる。

 

 

フィールドに降り立ったのは、赤褐色の外殻を持つ二足歩行のアリのモンスターだ。頭部からは2本の長い触角が伸び、琥珀色に透き通る大きな複眼と、鋭く発達した大顎を備えている。頭から首元にかけて白い布を深く被り、額には宝石をあしらった金色の装飾が鈍く光る。上半身には金の刺繍が施された青いベストを羽織り、右手には鋭く湾曲した短剣を握り締めている。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/jPdqw6b

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「さらに相手から奪ったカードが俺の場にある時、デッキから妖義賊カードを1枚手札に加えられる。俺は『妖義賊の復活』を手札に加える」

 

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【ムウミン】

LP6000 手札:4(レムスリーパー・フィッシュ)

 

①レムスリーパー・キャット ATK1600

②妖義賊-戴火のプロメテ DEF200

③レムスリーパー・スプレンディッドビートル ATK2400

 

伏せカード:レムスリーパーの夢遊

 

【遊次】

LP8000 手札:3(アカホシ、カルメン、妖義賊の復活)

 

①妖義賊-ゴエモン ATK2500

②レムスリーパー・ラーバ(裏側) DEF800

③妖義賊-秘開のアリババ DEF100

 

伏せカード:2(レムスリーパーの夢遊)

--------------------------------------------------

 

デッキから引き抜いたカードを手札に収め、遊次は真っ直ぐに顔を上げる。相手を見据えるその双眸からは、先ほどまでの躊躇いや迷いが完全に払拭されていた。

 

「お前の言いたいことはよくわかる。アスラナクを倒す以外にも"他の道"があるなら、お前にとっちゃそっちを選んでくれた方がありがたいんだ。世界は救われて、お前も七使徒のまま。弟は幸せな生活を送れる。そう言いてえんだろ。でもな…よーく聞いとけよ」

 

遊次は自らの服の左胸を乱暴に握り込み、その内側から絞り出すようにして言葉をぶつけた。

 

「"他の道"ってのは、俺が知ってる限り2つしかねえ。モンスターがみんな死ぬか、モンスターを世界にブチ撒けるか、だ」

 

その瞬間、半分閉じていたムウミンの瞳がゆっくりと見開かれた。あまりにも常軌を逸したスケールの話だ。だが、遊次の放つ異様なまでの熱量と確信に満ちた声色は、彼女に虚言を疑う余地を与えなかった。ムウミンは静かに視線を足元へと落とす。怯んだ彼女の姿勢を前にしても、遊次は容赦なく現実を突きつけた。

 

「一つ目を選んだら、お前の"おともだち"も死ぬんだ。二つ目を選んだら、制御不能のモンスターが世界中に解き放たれて…お前の弟も死ぬかもしれねえんだよ」

 

重く冷たい静寂が石橋を覆い尽くす。俯いたままのムウミンから、返る言葉はなかった。

 

「今さら引き返す気なんかねえぞ。俺らは誰も犠牲にしないために、前に進み続けてきたんだ」

 

石橋の上に並び立つ、ゴエモン、ラーバ、アリババ。3体のモンスターが落とす大きさの異なる影が、足元の石畳と眼下を流れる水面に揺らいでいる。

 

遊次はデュエルディスクを装着した左腕を天へと力強く突き上げた。

 

「『秘開のアリババ』の効果発動!相手から奪ったカードが俺の場にある時、このカードを素材としてS召喚かL召喚ができる!俺はレベル7のゴエモンに、レベル1のアリババをチューニング!」

 

フィールド上のアリババが緑色に発光し、巨大な光の輪へと姿を変える。その輪を目指し、ゴエモンが力強く地を蹴って跳躍した。空中で光の輪を潜り抜けた瞬間、重厚な戦士の実体は眩い輝きに包まれて消失する。直後、その姿は7つの星へと変わり、緑の輪の中心で真っ直ぐに一列に並んだ。

 

 

「暗雲漂う戦場に、現れたるは天空の義賊!

蒼天の頂へ翔け上がり、絶望を奪い去れ!」

 

口上を唱え終わると、フィールドに眩い光が解き放たれる。

 

「シンクロ召喚!光臨せよ!レベル8!

『妖義賊-虹翼のゴエモン・スカイ』!」

 

 

■妖義賊-虹翼のゴエモン・スカイ

 シンクロモンスター

 レベル8/光/戦士/攻撃力3100 守備力2600

 チューナー+「妖義賊-ゴエモン」

 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:このカードがS召喚した場合に発動できる。相手フィールドの全ての攻撃表示モンスターのコントロールを得て、全ての魔法・罠カードを自分フィールドに置く。

 ②:フィールドの元々の持ち主が相手となるモンスターを任意の数リリースして発動できる。

 このカードはターン終了時まで、攻撃力がリリースしたモンスターの元々の攻撃力の合計分アップし、通常の攻撃に加えて、墓地へ送ったモンスターの数だけ攻撃できる。

 ③:自分・相手ターンに元々の持ち主が相手となる自分フィールドの魔法・罠カード1枚を墓地に送って発動できる。

 このターン、自分モンスターは相手の魔法・罠カードの効果を受けない。

 

 

全身を包むのは、鏡のように研ぎ澄まされた白銀の重装甲。背には幾重にも重なる翼が広げられ、その一枚一枚がプリズムのように虹色の輝きを放っている。本来のゴエモンに刻まれた赤き紋様は蒼色に変わっている。右腕には身の丈を超える巨大な円錐の槍を携えている。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/S3EgA5y

※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

 

虹色の光芒を放ちながら空に浮かぶゴエモン・スカイを、ムウミンは射抜くような鋭い視線で見上げる。そのあまりに神々しい輝きは、彼女の背後に控える兵士たちの目をも完全に釘付けにしていた。

 

「ゴエモン・スカイの効果発動!S召喚に成功した時、相手の全ての攻撃表示モンスターと、魔法・罠カードを奪う!」

 

放たれた強烈な効果を耳にした兵士たちの間には、瞬く間に動揺が広がっていく。

 

「な、なんという力…!」

 

「しかし、スプレンディッドビートルのお力があれば、無効にできるのでは…」

 

「いやしかし、あの異人の口ぶりでは、眠っているラーバを墓地に送りスプレンディッドビートルを破壊する手段があるはず…」

 

「いや待て、そうなればなぜ奴はわざわざあの精霊を呼び出した…」

 

飛び交う推測は次々と矛盾を生み、彼らの思考は完全に迷宮入りしていた。そんな混乱を傍目に、遊次の口元には会心の笑みが浮かんでいた。

 

「『秘開のアリババ』をS素材にしたモンスターが効果を発動した時、それにチェーンした効果は、1ターンに1度、強制的に無効になる。つまり、スプレンディッドビートルの効果をチェーンしても、その効果は無効。だから罠カードでラーバを墓地に送らなくても、何の問題もねえ。むしろ…そのおかげでスプレンディッドビートルがフィールドに残ってくれる」

 

ムウミンは驚愕に小さく口を開ける。彼女は悟った。これは始めから、スプレンディッドビートルを奪い、ムウミンを詰みにかかるための計画だと。

 

遊次は前のターンから、相手ターン中にゴエモン・スカイをS召喚する布石を打っていた。このターン、ラーバを奪い、いつでも墓地へ送れる状態にしたことで、その夢であるスプレンディッドビートルは実質的に機能を封じられる。だからムウミンは、遊次の罠カードとアリババの効果を通さざるを得なかった。

 

さらにムウミンの墓地には、フィールドのレムスリーパー融合モンスターをEXデッキに戻し、次の夢モンスターへ繋げる罠カード「レムスリーパーの夢移り」がある。ビートルがそのコストとして有用である以上、影縛りを踏ませるためだけに使い潰す選択はしない。遊次はそう読んでいた。

 

だからこそ、ビートルはゴエモン・スカイのS召喚時まで残る。アリババを素材にしたことでチェーンによる無効も封じ、遊次は確実にゴエモン・スカイの効果を通す。これにより、3度の無効効果を持つビートルを奪い、さらにはキャットを奪うことでノーブルリオンの再臨も許さない構えとなる。結果として、遊次はスプレンディッドビートルと影縛りによる4つの妨害を構え、ムウミンに対峙できる。

 

ビートルはレムスリーパー魔法・罠カードでしか特殊召喚できない以上、影縛りの効果でビートルを奪うことはできない。遊次がビートルを手に入れるためには、フィールドから奪う必要があった。仮にビートルがフィールドから消えても、アリババ+ゴエモンでカリオストロをS召喚し、相手モンスター効果を書き換えて奪う制圧へ移行できる。これが遊次の秘策だった。

 

再び顔を伏せたムウミンへ、遊次はさらに一歩踏み込むようにして言葉を叩きつけた。

 

「お前と、お前の弟を救うためにも…アスラナクを倒して、犠牲のない未来に進んでいかなきゃなんねえんだ。だから、俺はお前に勝つ」

 

「…そっか」

かすかな呟きが落ちる。ゆっくりと、ムウミンの顔が持ち上がった。

 

だが、正面からその表情を捉えた瞬間、遊次は無意識のうちにびくりと肩を震わせていた。

 

あらわになった彼女の双眸は、光を一切反射しない漆黒の深淵へと変貌していた。怒りでも悲しみでもなく、ただ純粋で底知れぬ絶望と、他者の踏み込む余地を完全に拒絶する凍てついた執念が、その瞳の奥で重い泥のようにわだかまっている。

 

「レムスリーパー・スプレンディッドビートルの効果、発動。墓地のレムスリーパー・ノーブルリオンを除外して、ゴエモン・スカイの効果を無効にする」

 

「なっ…意味ねえよ!アリババをS素材にしたゴエモン・スカイの効果!1ターンに1度、自身にチェーンされた効果を無効にする!」

 

しかしその瞬間、ゆらりとムウミンの手札から、1枚のカードが選び抜かれ、流れるようにデュエルディスクへ装填される。

 

「速攻魔法発動。『レムスリーパーの夢堕ち』。レムスリーパー融合モンスターがいる時、フィールドの全てのモンスターを、裏側守備表示にする」

 

 

■レムスリーパーの夢堕ち

 速攻魔法

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドに「レムスリーパー」融合モンスターが存在する場合に発動できる。

 フィールドの全てのモンスターを裏側守備表示にする。

 ②:自分・相手ターンに墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの「レムスリーパー」融合モンスター1体を対象として発動できる。

 レベル12の「レムスリーパー」融合モンスター1体をEXデッキから特殊召喚する。

 この効果の対象となった裏側表示モンスターがフィールドを離れた場合、または表側表示になった場合、この効果で特殊召喚したモンスターは破壊される。

 次のターン終了時、このカードの対象になった裏側表示モンスターをリバースする。

 

 

「なんだよ、それ…」

想定外の一手に、遊次の表情が焦燥に歪む。フィールドのモンスターが全て裏側守備表示にされれば、相手の攻撃表示モンスターを奪うというゴエモン・スカイの効果が意味を成さなくなる。

 

そして遊次は見逃していなかった。今発動された魔法カードにはもう一つ、致命的な効果が記されていることを。どうするのが正しいかはわからない。しかし裏側守備表示にすること自体が何かのギミックだとしたら。

 

遊次は瞬時に決断を下す。

 

「ゴエモン・スカイの効果発動!相手から奪った罠カード『レムスリーパーの夢遊』を墓地に送ることで、このターン、俺のモンスターは相手の魔法・罠カードの効果を受けない!」

 

ゴエモン・スカイが虹色の翼をはためかせると、光の雨がフィールドに降り注ぐ。

 

対するムウミンのフィールドには、甘く気怠い桃色の霞が立ち昇っていた。レムスリーパー・キャットの足元に裏向きのカードが浮かび上がると、キャットは小さなあくびをこぼし、自らそのカードの上へ跳び乗って丸くなる。さらに、圧倒的な威容を誇っていた黒銀の甲虫でさえ、抗いがたい睡魔に脚の力を奪われていく。空中に現れた裏向きのカードへ吸い込まれるように重厚な甲殻を沈めると、瞬く間に意識を手放した。

 

そして遊次の場からコントロールが移ったプロメテもまた、パチパチと元気よく弾けていた炎を弱々しく萎ませると、ふらふらと裏向きのカードへ身を預け、大きなまぶたを閉じて静かな寝息を立て始めた。

 

「…チェーン2のスプレンディッドビートルは、アリババによって得た効果で無効になる。チェーン1のゴエモン・スカイの効果で奪えるのは…その伏せカードだけだ」

 

遊次のフィールドにはムウミンの場に伏せられていた「レムスリーパーの夢遊」がセットされる。

 

-------------------------------------------------

【ムウミン】

LP6000 手札:3(レムスリーパー・フィッシュ)

 

①レムスリーパー・キャット(裏側) DEF700

②妖義賊-戴火のプロメテ(裏側) DEF200

③レムスリーパー・スプレンディッドビートル(裏側) DEF2800

 

【遊次】

LP8000 手札:3(アカホシ、カルメン、妖義賊の復活)

 

①妖義賊-虹翼のゴエモン・スカイ ATK3100

②レムスリーパー・ラーバ(裏側) DEF800

 

伏せカード:2(レムスリーパーの夢遊)

--------------------------------------------------

 

用意周到に仕掛けた罠が、音を立てて崩れ去った。目論見を砕かれた遊次は、厳しい面持ちで対戦相手を見据える。その視線の先で、ムウミンは光を宿さない虚ろな瞳を向け、ぽつりと言葉をこぼした。

 

「あなたは、わかってない。

命を救うことが、人を救うとは限らない、ってこと」

 

「…どういう、ことだよ」

 

「目が覚めても苦しい現実が待ってるなら…ずっと、眠ってたほうがいい。そのほうが幸せだって、あたしはよーく知ってる」

 

デュエルディスクの墓地から1枚のカードを引き抜くと、ムウミンはそれを表へと向けた。

 

「『レムスリーパーの夢堕ち』を墓地から除外して、効果発動。裏側守備表示のレムスリーパー融合モンスターを対象に、レベル12のレムスリーパー融合モンスターを、EXデッキから特殊召喚する」

 

眠るスプレンディッドビートルの巨体から、濃い紫色の煙が噴き出した。立ち昇る煙は瞬く間に膨張を続け、頭上の青空を禍々しい色で完全に塗り潰していく。

 

空を覆う異様な光景を見上げ、遊次の顔に濃い焦燥が走る。夢として顕現したモンスターが、その深い微睡みの中でさらに別の夢を見る。そんな規格外の連鎖が潜んでいるなど、全くの想定外だった。

 

「抱いた幻想、夢のまた夢。

深き眠りの底より今、悪夢が目を醒ます」

 

ムウミンの口上に応え、上空を覆い尽くしていた紫色の煙に底知れぬ漆黒が混ざり始めた。ドクン、ドクンと、まるで巨大な心臓が脈打つかのように、煙そのものが激しい膨張と収縮を繰り返す。空が生き物のように蠢くその禍々しい異常事態に、見上げる遊次の顔は本能的な嫌悪と焦燥に歪んだ。

 

「現れよ。レムスリーパー・ナイトメアキメラ」

 

鼓動が臨界に達した直後、漆黒の煙が内側から爆散した。

 

煙を切り裂いて姿を現したのは、空中で胡座をかくような姿勢のまま静かに浮遊する一体の異形である。頭部は白い毛に覆われた羊だが、そこからは黄金の装飾が這う、禍々しく捻じ曲がった巨大な黒い双角が天を突くように生え揃う。冷たく光る瞳には一切の感情が見えない。

 

隆起した屈強な肉体は、無数の棘を逆立てた黒鋼の重装甲に覆われている。その分厚い胸板の中央には、黄金で象られた巨大な一つ眼の紋章が怪しく刻み込まれる。四肢は爬虫類を思わせる黒い鱗に包まれ、鋭利な鉤爪が虚空を掴むように垂れる。組まれた足の下からは、鋭い棘を連ねた太い尻尾がうねっている。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/VfNrTRm

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頭上の異形を見据えた遊次の手が、無意識に自らの胸元を強く掴んだ。理屈を超えた本能的な恐怖が全身を縛り付ける感覚は、オスカーと初めて対峙した時と同じものだった。

 

ムウミンは空虚な瞳で彼をじっと捉え、淡々と口を動かす。

 

「他の方法を選んだら、弟たちが死ぬかもしれない。

でも、"かもしれない"、でしょ」

 

耳に届いた声に、遊次は弾かれたようにムウミンを直視した。頬を冷や汗が伝い落ちる。無意識に震え出した拳をもう片方の手で強く押さえ込み、力を振り絞って声を張り上げた。

 

「もし世界にモンスターが溢れたら、隕石が衝突するより前に死んじまうかもしれねえ!俺らはそうじゃない道を求めてこの国に来たんだ!」

 

「…また、"かもしれない"?」

 

首を不自然な角度に曲げ、一切の感情を排した声で問い返すムウミン。その姿を前に、遊次はただギリッと奥歯を噛み締めることしかできなかった。

 

「あなた達がこの国を諦めたら、あたしは七使徒でいられる。弟たちは飢えない。それは、"確実"なことでしょ」

 

ムウミンは両腕を広げた。まるで空から降り注ぐものを受け入れるかのように、頭上に君臨する羊頭の悪魔を真っ直ぐに仰ぎ見る。

 

「アスラナク様が負けて、あの頃に戻るくらいなら…隕石が落ちたほうが、まし」

 

「みんな一緒に、ずーっと、眠ればいい。

そしたらずーっと、たのしい夢の中にいられる」

 

うわ言のように紡がれるその言葉と、悪夢の具現を見上げる彼女の横顔には、世界を滅ぼす災厄への甘美な憧憬すら滲んでいた。

 

遊次は、震えるような畏怖の眼差しで彼女を見つめていた。

 

見誤っていた。彼女は、飢える弟たちを養うために暴君へ付き従うだけの、か弱く哀れな女性などではない。その瞳の底には拭いがたい絶望が横たわり、心の中にある天秤は、ささやかな幸福と世界の破滅という対極の重りでひどく歪みきっている。

 

彼女はモンスターを「お友達」と呼んだ。それは、モンスターを神と崇め立て、力によって人間を屈服させようと目論む絶対派の思想とは明確に一線を画すものだ。

 

しかし、彼女は言う。

今の幸せが崩れるくらいなら、世界ごと滅んでしまった方がいいと。

 

それは、神に逆らうくらいならば死を選ぶという過激な思想と、何が違うというのか。

 

遊次は直感していた。彼女はただ力で叩き伏せるべき敵ではなく、真っ向から心をぶつけ合い、対話すべき相手であると。だが、必死に投げかけた言葉も、周到に張り巡らせた戦術も、彼女の歪んだ覚悟の前にことごとくひしゃげ、無残に砕け散った。

 

遊次はデュエルによって、彼女の心を動かすことができるのか。

そして圧倒的な恐怖を前に、どう戦うのか。

 

 

第93話「目醒める悪夢」 完

 

 

 

 

ナイトメアキメラは、相手のモンスターを全て眠らせる驚異的な効果を持っていた。遊次が呼び出すモンスター達は幾度となく裏返され、悪夢の中へと墜ちてゆく。

 

遊次は声を張り上げ必死に抗うも、圧倒的優位を誇るムウミンはなおも驕ることなく冷静な判断を下す。

 

裏側モンスターで埋め尽くされるフィールド。

絶望の最中、遊次が見せる答えとは。

 

 

「全部、お前が勝手に見てる悪い夢だ。

俺が目ェ覚まさせて…想像もできねえような"現実"、見せてやるよ」

 

次回 第94話「白昼夢」

 

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