遊戯王Next   作:湯(遊戯王SS投稿者)

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第51話:夜明け

遊次と裏カジノの元締め組織「帳」のボス"鷺沼"との決闘も佳境を迎える。

鷺沼は、夜と朝を司るフィールド魔法が交互に出現し、場のフィールド魔法によってモンスターの効果が変わる「巡天」デッキを操る。

遊次は強力な2体の切り札になんとか食らいつくも、鷺沼の猛攻は止まらず、遊次のライフはわずか300となってしまう。

 

鷺沼は夜を司る切り札「巡天の陽帝 フォイボス」を融合召喚し、遊次を完封しようとするが、遊次は何重にも連なる手を講じ、融合召喚を食い止めた。

反撃の機を得た遊次は、強力なモンスターを揃えながら相手のカードを利用し、鷺沼のライフを大きく削った。

 

しかし依然、遊次の圧倒的不利だ。

次は鷺沼のターン。

吹けば消えるようなライフを守り、鷺沼を倒すことはできるのか。

 

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【鷺沼】

LP4300 手札:1

 

フィールド魔法:巡天の帳

永続魔法:巡天の結界式

 

【遊次】

LP300 手札:1

 

①妖義賊-神出鬼没のギルトン ATK4100

②巡天の盟主 ATK4200

③妖義賊-ゴエモン ATK4400

 

フィールド魔法:巡天の暁

永続魔法:妖義賊の連携陣

Pゾーン:妖義賊-誘惑のカルメン、妖義賊-舞蛇のキク

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月と太陽が同時に存在する草原。

その中央で2人のデュエリストが向かい合う。

 

「どいつもこいつも、ただ運がよかっただけのクセに、自分の実力でそこに立ってると勘違いしてやがる。

俺はそういう奴に現実を教えてやってんだよ。テメェの存在は光なんかじゃねえってな」

 

鷺沼は盤面を返されたことで怒りを滲ませながら、不敵な笑みを浮かべる。

 

「さっきから光、光ってよ。んなもん1秒も思ったことねえよ」

遊次は淡々と言葉を返す。

 

「違うな!テメェらは内心で見下してんだ。

ただ"運が悪かった"だけで陰に身を置かなきゃならなくなった奴らでさえもな!」

鷺沼は声を荒げ、遊次に食って掛かる。

 

「運が良かったとか悪かったとか…それもずっと言ってるよな。

何があったか知らねえけど、なんでそんな風に考えちまうんだよ」

 

「何があったか…か。あぁ、あったぜ、明確にな。

…いいぜ、冥土の土産に教えてやる。

俺の、最高に"ツイてねぇ"話をな」

 

鷺沼は自らの背後に浮かぶ白い満月を見上げ、遠い記憶を呼び醒ます。

デュエルでお互いの心をぶつけ合うことこそが大切であると、かつての父の教えを信じる遊次にとって、これは思ってもみない機会だった。

無言のまま鷺沼へ真剣な眼差しを向ける。

 

「今とは違って昔の俺は、クソ真面目な優等生だった。クリクリ坊主に丸眼鏡のな。

親父がちょっとした会社の社長だったもんで、高校生の俺は将来、親父みてぇな経営者になると張り切って、勉強に明け暮れてた」

 

遊次にとっては少し意外だったが、表では経営のコンサルをしていたこともあり合点がいく部分もあった。

 

「その時、俺と一緒に大学を目指してたダチがいた。

…ま、親友ってヤツだったのかもな」

 

"だったのかも"という過去形と推測調に遊次は少し違和感を抱いた。

 

「お互い切磋琢磨してた。その結果、テストじゃ学年のワンツーだ。当然、俺がワンの方だぜ?」

 

鷺沼はわざとらしく冗談めいた口調で遊次の方を振り返るが、特に反応がなかったことから、つまらなそうに口を尖らせ、話に戻った。

俯くその表情は、どこか冷たさをはらんでいた。

 

「大学受験の1週間前…追い込み勉強の気晴らしに、アイツが俺をバーに連れてった。

お互い、受かって当然と本気で思ってたもんで、将来に胸を膨らませて、夢を語り合ってたんだ」

 

「だがその時…電話が鳴った。お袋からだった。なんの気なしに電話に出たら…とんでもねぇ速報が俺の耳に飛び込んできた」

 

「親父が、刺し殺されたってな」

 

「えっ…」

急激な展開に遊次も思わず声を漏らす。

 

「遅くまで会社にいた親父が、会社に忍び込んだ強盗と鉢合わせたらしい。"運悪く"…な」

 

月明かりに照らされた鷺沼の顔は、氷の面のように動きを失い、瞳の奥には一片の熱も宿していなかった。

そこには怒りも悲しみもなく、ただすべてを見下ろすような冷ややかな光だけが残っていた。

 

鷺沼の脳裏に、当時の記憶がフラッシュバックする。

 

カウンターに叩きつけられるグラス。

溢れた酒が琥珀色の筋を描き、床へと落ちていく。

 

冷たい雨の夜道を、濡れた靴が跳ねを上げて駆け抜ける。

息が切れ、視界は滲み、足はもつれながらも前へ。

 

病院の白い蛍光灯。

手術室の前で、ただ呆然と立ち尽くす自分。

 

 

 

「稼ぎ頭の親父が死んで、俺は大学に行けなくなった。ダチはそのまま大学に受かったが…そこから連絡は一度も取らなかった」

 

「2年ぐらいは俺とお袋でなんとか働いて生活してたが…親父がいた頃の裕福な暮らしとは天と地だ。

お袋もその落差にやられて、酒に溺れていった。そのせいで体を壊して入院…余計な出費が増えたってわけだ」

 

不幸な境遇ではあるが、未だ今の鷺沼と通ずる部分は見えない。

 

「ただの高卒の坊主が母親を養えるほど稼げるわけがねぇ。普通の仕事じゃあな。そこからだ、俺が"裏"の仕事に手ェ出したのは」

 

「何度かその仕事をこなす内に、俺の才能に気付いた奴からスカウトを受けた。

スカウトしてきたのは大企業…だったらよかったがな。残念、ただの二流マフィアさ。だが今すぐにでも金が必要な俺はそれを受け入れた」

 

鷺沼の顔が少しだけ険しくなったように見えた。

 

「マフィアに入っても、俺は壊れる前提の駒だった。

敵に突っ込まされては指も歯も折られて、血の味を噛み締めながら逃げ帰れば、そこでも骨が折れるまで殴られた」

 

その痛々しさに遊次は顔をしかめる。

ここまでの鷺沼は、人を食い物にする悪人ではなく、むしろ被害者のようにさえ感じた。

 

「結局、俺はある抗争の途中でマッポに捕まって豚箱行きだ。…おかしいよなぁ。

なにも好き好んで道楽でやってたんじゃねえ、生きるため仕方なくってヤツなのに」

 

「俺は3年間をムショで過ごした。暴力なんか日常茶飯事のゴミみてえな場所だった。

…毎日考えたぜ。"なんで俺がこんな目に"ってな。

実際そうだろ?あの日、親父が殺されてなきゃ、俺が地獄を見ることはなかった」

 

鷺沼の言葉に、遊次は視線をわずかに伏せ、何かを探すように思考の底へ潜る。

眉間にかすかな皺を寄せ、噛み締めた唇がわずかに動く。

 

「…わかるぜ、アンタの言いたいことも。でもよ、全部が全部、運が悪かったせいじゃねえだろ。

"裏"の仕事に手出したのも、マフィアに入ったのもアンタが選んだことだぜ。そうじゃない道だってあったはずだ」

 

遊次は鷺沼の境遇にも理解を示しながら、己の中の正しさをぶつけた。

しかし鷺沼はうっすらと笑みを浮かべ、ゆっくりと横に首を振るだけだった。

 

「俺があのとき真面目に働いたとして、家計は苦しいまま。それに耐えきれずお袋はさらに酒に溺れ…最後はアルコール中毒でお陀仏。こういうルートだってあるんだぜ」

 

「その選択が正しいかどうかは、結果が出て初めて理解るのさ。

それを後から"ああすべきだった"なんて言うのはフェアじゃねえよな?」

 

遊次は言葉を返そうとするが、うまく言い表すことができなかった。

裏の仕事やマフィアに入ったことも、全ては金のためだ。

金の問題が解決すればその先に光があったかもしれない。故に鷺沼はその選択をした。

それが間違いだと言えるのは、すでに結果がわかっているからだ。

鷺沼の言葉にも一理はあった。しかし、遊次は同時に何か引っかかるものを覚えた。

 

「まあしかし、結果的に俺の選択の先にはさらなる絶望があったわけだ。

しょっぴかれてから3年、俺がシャバに出た時には、お袋はもう死んでた。死因は急性アルコール中毒。

おまけに元いたマフィアは俺の存在なんか覚えちゃいねえ。完全に行く当てを失った」

 

遊次の脳裏には、瓦礫だらけの町で、呆然と立ち尽くす自分の姿が思い浮かんだ。

全てを失った鷺沼の無力感は、遊次にも理解できた。

 

「それから何の目的もなくただ茫然と生きてたらよ…テレビでベンチャー企業の若手社長とやらが取り上げられてた。

寝ぼけてるみてぇに毎日を過ごしてた俺に、電撃が走ったぜ。

なんせその社長は…高校時代に俺と切磋琢磨してたあの"ダチ"だったんだからな」

 

 

鷺沼の脳裏に当時の記憶が蘇る。

薄暗いワンルーム。外の街灯は薄汚れたカーテンに遮られ、部屋の輪郭は闇に溶けている。

床には空になった安酒の瓶と、湿気を吸った段ボール箱。

青白いテレビの光だけが、壁の染みと鷺沼の顔を同じ色に染めていた。

 

(僕は特別な才能があったわけじゃない。ただ、人より努力する覚悟があっただけです)

 

画面の中、スーツ姿の"ダチ"がスタジオのライトを浴び、笑顔で成功談を語っている。

 

(いえ、ここが僕の人生の"スタートライン"ですよ。

夢を実現するのは、これからなんですから)

 

パリン!!

 

鷺沼は思わず、床に転がっていた酒瓶を、テレビに投げつけていた。

 

 

 

「アイツ、自分の実力で上がってきたみたいなツラして得意げに語ってやがった。

フッフ…おかしいよなぁ。ただ"運"が良かっただけのくせに」

 

「その時、俺は決めたんだ。運が良かっただけで自分を"光"だと思ってる奴に、現実を教えてやるってな」

 

月夜を背に、鷺沼は語る。

太陽を背にした遊次へ向かって。

 

「俺はマフィア時代のコネと、人よりちょっといい頭を使って、ビジネスを始めた。ご存じの通り裏カジノだ。

何年も試行錯誤して、金持ちだけをターゲットにして金を搾り取るメソッドを編み出した」

 

「積み上げた足場が高ければ高いほど、それが崩れた時、地面に叩きつけられる痛みは増す。

だからこそ、足場を崩さないためなら奴らは何だってやる。そう、金持ちは俺にとっちゃ最高の獲物なんだ」

 

鷺沼は舌を出し、愉悦と嘲笑を滲ませた笑みを浮かべる。

遊次は言葉を挟むことなかった。その視線は自分の足元に向けられている。

そんな遊次の様子など構わず、鷺沼は嬉々として話を続ける。

 

「で、ついにチャンスはやってきた。"ダチ"の近辺に潜り込ませてたスパイから、奴が投資でしくったって話が入ったのさ。

だから俺は"チャンス"を与えてやった。すぐに飛びついてきたぜ」

 

「しかも奴は、賭け金のために億単位の借金をしてきたんだぜ?。ククク…ほんと、バカだよなぁ?

結末はもちろん…バッドエンド。今でも憶えてるぜ、みっともねえアイツの負け顔をな」

 

鷺沼は目を瞑り、当時の記憶を思い出す。

 

 

(あぁあぁあああああ!!!まだだぁああ!!まだ終わってないぃ!!!)

 

その男はカジノテーブルにみっともなくしがみつき、泣き喚いていた。

瞳は灰色に濁り、口はだらりと垂れ下がっている。

綺麗に仕立て上げられたスーツだけが妙に浮き、その惨めさを際立たせる。

 

(イヤだ!!!離せ!!離せぇええ!!)

男は2人の屈強な黒服に取り押さえられ、会場の外に連れ出されそうになっている。

必死に手足をばたつかせて抵抗するも、まるで子供のように運び出されている。

 

その男は黒い目隠しを付けられ、車に押し込められている。

車のドアが閉められる前、鷺沼は男の前に立ち、こう言った。

 

「ここが、お前の人生の"スタートライン"だ。せいぜい楽しめよ」

 

その言葉に、男ははっとして、口をぽかんと開き、呆然としていた。

 

自分のこれからの人生を想像したのか、

はたまた、声の主に気が付いたのか。

 

ドアは閉まり、車はそのまま暗い夜道へと消えていった。

 

 

 

「結局アイツの会社は倒産。噂じゃホームレスになっちまったらしい。それ以外のことは知らねえ。

だが、間違いなくあの時感じた快感こそが、俺の生きる道だと確信した。

それ以来、運がいいだけのクセに光に満ちたツラしてる金持ち共に、現実を教えてやってんのさ。

お前らはいつでも"陰"に落ちるんだってな」

 

これこそが鷺沼の、今へ至る道のりだった。

運悪く父が強盗に刺殺されたことをきっかけに、光の道から転落した。

故に、光の道を歩む者達を「運が良かっただけ」だと憎む。

そしてその憎しみは、彼らを闇へ引きずり込む力となった。

 

暫しの静寂の後、大きく息を吐いた後、遊次が口を開いた。

 

「長々と話してくれたとこ悪ぃけどよ…俺から言えんのは1つだけだ」

 

 

「くだらねえ」

 

遊次はたった一言で、これまでの全てを断ち切った。

鷺沼の顔から薄ら笑いが消える。

 

「…まあ、お前みたいな奴にはわからねえよ。

まだ自分を"光"だと思ってるお前にはな」

 

「だから、その光とか陰とか、そういう分け方がくだらねえって言ってんだ!

誰でも楽しい時は光だし、落ち込んでる時は陰だろ!どっちでもいいんだよ、そんなの!」

 

遊次は鷺沼に右手の人差し指を突き付け、吠える。

 

「確かにアンタは運が悪かったかもしんねえ!でもな、頑張ってる人の足を引っ張っていいことにはなんねえんだよ!」

 

遊次の言葉は、至極真っ当な、真っ直ぐすぎる正論だった。

理不尽な不幸が故の転落、その過去には理解を示すことができた。

それでも遊次は、無邪気なまでの正しさを返した。

そしてそれは、鷺沼の言葉を受け止め、自分の中で何度も咀嚼した上での結論だった。

 

「あぁ、その通り!道徳の授業ならそれが正解だ!

だが、これは俺の生き方の話。誰の同意も求めねえ。

俺は俺自身で陰を選んだ。そう…選んだんだよ」

 

「選んだ?成功してる人が気に食わないから、引きずりおろしたいだけだろ」

 

「うーん、ありていに言えばその通りだな。

でも人が生きる理由なんて、案外そんなもんだろ?」

 

鷺沼は両腕を上げ肩をすくめる。

遊次の言葉などまるで取りぬ足らないものであるかのように嘲笑する。

しかし遊次の眼差しは揺るがない。

 

「日陰だって、悪いモンじゃねえよ。涼しくって、居心地がいいからな。

だけど、光に向かう奴の足を無理やり掴むなら…」

 

「そんな陰は、消さなきゃなんねえ」

遊次がデュエルディスクを構える。

 

「消えるのはお前だぜ、アンラッキーボーイ。

俺に関わったことが、お前の人生最大の不運だ」

 

鷺沼も戦意をむき出しにしてデュエルディスクを構える。

 

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【鷺沼】

LP4300 手札:1

 

フィールド魔法:巡天の帳

永続魔法:巡天の結界式

 

【遊次】

LP300 手札:1

 

①妖義賊-神出鬼没のギルトン ATK4100

②巡天の盟主 ATK4200

③妖義賊-ゴエモン ATK4400

 

フィールド魔法:巡天の暁

永続魔法:妖義賊の連携陣

Pゾーン:妖義賊-誘惑のカルメン、妖義賊-舞蛇のキク

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遊次のフィールドには3体のモンスターが存在する。

しかしライフはわずか300。

 

「俺のターン…ドロー!」

鷺沼がデッキトップからカードを引く。

 

「墓地の『巡天蘇生術』の効果発動!

俺のフィールドにモンスターがいない時、このカードを墓地からセットできる」

 

「そして今セットした『巡天蘇生術』の効果発動!

墓地の巡天モンスターを特殊召喚できる!

現れろ、『巡天の老師』」

 

 

■巡天の老師

 効果モンスター

 レベル6/闇/魔法使い/攻撃力2000 守備力2100

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドにフィールド魔法が存在しない場合、1000LPを払って発動できる。

 デッキから「巡天」フィールド魔法を発動する。

 この効果は相手ターンでも発動できる。

 ②:自分のフィールドゾーンに存在するフィールド魔法カードの種類によって、このカードは以下の効果を得る。

 ●巡天の帳:1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。

 相手フィールドの最も攻撃力の高いモンスターの効果を無効にする。

 ●巡天の暁:1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。

 相手フィールドの最も攻撃力の低いモンスターのコントロールを得る。

 この効果でコントロールを得たモンスターは「巡天」モンスターとしても扱う。

 

 

現れたのは、長い白髪を後ろで束ねた老魔導士だった。

深い藍と朱を組み合わせた長衣には、雲や星の文様が金糸で縫い込まれている。

胸元には大きな数珠が垂れ、腰の飾り帯が衣の裾を引き締めていた。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/G7BVdVu

※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

 

 

「『巡天の老師』の効果発動!

『巡天の帳』が場にある時、相手の最も攻撃力の高いモンスターの効果を無効にする!

『妖義賊-ゴエモン』の効果は無効だ!」

 

老師が杖を一振りすると、星雲のような闇がゴエモンを包み込む。

 

「ゴエモンは相手から奪ったカードが場にある時、味方モンスターを対象に取られなくする効果がある。

だが、それも老師の効果で無効になった。お前を守るものはもう何もねえんだ」

 

鷺沼が勝ち誇った笑みを浮かべる。

しかし遊次は依然、悠然と構えている。

 

「…はぁ。いい加減、強がりはよせ。

前のターンから、このゲームのエンディングは見えてたはずだぜ?」

 

鷺沼は辟易した顔でため息をつく。

鷺沼の中で、すでに勝利のルートは見えている。

そしてそれは遊次も同じはずだ。

 

しかし、遊次は決して屈しない。

鷺沼はその表情を見て明らかな苛立ちを募らせる。

 

「知ってるか?強すぎる光ってのも、人に害なんだぜ。

…そろそろ消えてもらおうか」

 

「フィールド魔法『巡天の帳』の効果発動。

1ターンに1度、手札の巡天モンスターを特殊召喚する。

来い、『巡天の猛虎』」

 

 

■巡天の猛虎

 効果モンスター

 レベル5/光/獣/攻撃力2300 守備力1200

 このカード名の①③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドの「巡天」モンスターが破壊された場合に発動できる。

 このカードを手札から特殊召喚する。

 ②:このカードの攻撃力は自分フィールドの「巡天」モンスターの数×1000アップする。

 ③:自分のフィールドゾーンに存在するフィールド魔法カードの種類によって、このカードは以下の効果を得る。

 ●巡天の帳:1ターンに1度、手札を1枚捨て、

 相手フィールドのモンスター2体を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 ●巡天の暁:1ターンに1度、手札を1枚捨てて発動できる。

 相手の手札をランダムに1枚捨てる。

 

 

フィールドに黄金のたてがみを持ち、黄金と藍色の毛を持つ虎が現れる。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/ixiaj39

※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

 

「『巡天の猛虎』の攻撃力は巡天モンスターの数×1000アップする!」

巡天の猛虎 ATK4300

 

その姿を見た遊次は唾を飲み込んだ。

その緊張が鷺沼にもわかる程に。

 

「『巡天の猛虎』の効果発動!『巡天の帳』が場にある時、手札を1枚捨てて、相手モンスターを2体、破壊できる!

ゴエモンの効果は無効になってるから、もう好き放題対象に取れるってわけだ。

お前の場のゴエモンと、巡天の盟主を破壊!」

 

巡天の猛虎が大きく咆哮すると、その衝撃によって2体のモンスターはあっけなく破壊された。

 

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【鷺沼】

LP4300 手札:0

 

①巡天の老師 ATK2000

②巡天の猛虎 ATK4300

 

フィールド魔法:巡天の帳

永続魔法:巡天の結界式

 

【遊次】

LP300 手札:1

 

①妖義賊-神出鬼没のギルトン ATK4100

 

フィールド魔法:巡天の暁

永続魔法:妖義賊の連携陣

Pゾーン:妖義賊-誘惑のカルメン、妖義賊-舞蛇のキク

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「わかってるよな?巡天の猛虎でギルトンを破壊して

巡天の老師で直接攻撃すれば…お前のライフは0」

 

鷺沼は指で輪を作り、そこに自分の片目を通す。

彼の目には自分の勝利が明らかだった。

遊次の場には伏せカードもなく、抵抗できる要素は存在しない。

 

遊次はまだ前を向いているものの、瞬きが絶えない。

 

「そろそろ実感できたろ、自分の命の終わりを。

最期に言い残すことはあるか?遺言ぐらい許してやる」

 

遊次は少し視線を落とした。

数秒の沈黙の後、ゆっくりと口を開く。

 

「俺の仲間にも、お前と似た境遇の奴がいる。

小さい頃、コラプスっていう、"不運"としか言いようがねえ理不尽に人生をめちゃくちゃにされて、その後、何年も暴力によって支配され続けた奴が」

 

「そりゃ確かに不運だな」

鷺沼は軽い笑みのまま簡単に言葉を返す。

 

「そいつはなんとか自力でその状況から抜け出したけど、行く当てもなくて…盗みでなんとか食い繋いだ。

コラプス以降、町の人達も自分のことで精一杯だ。手を差し伸べる余裕はなかった。

だから、奪われないためには奪うしかないって考えて…チームを組んで町の人から略奪するようになった」

 

「ほぉ、確かに似た境遇かもな。

だが、そんな奴がお前の仲間になるとは思えねえな。

お前みたいな奴、鬱陶しくてしゃあねえだろ」

 

勝利を確信した余裕からか、鷺沼の声はまるで日常会話のように軽薄なトーンだ。

 

「あぁ、最初はめちゃくちゃぶつかり合ったぜ。

それでもアイツは、自分で答えを見つけたんだよ。

今は略奪じゃなくて、ちゃんと働いて、チームの子供達の未来を創ろうとしてる。どんな理不尽な不幸があったって、自分から前を向いて進めるんだよ!」

 

遊次の言葉はまるで子供のように純粋無垢だった。

裏組織の親玉である人物に対して使うには、あまりに場違いな言葉だった。

鷺沼は、まるで壁打ちしているような感覚だろう。

自分がいくら言葉を投げても、向こうが返すのはいつも同じ正の言葉ばかりだ。

土壇場に追い詰められていたとしても、それは変わらなかった。

鷺沼の表情からも笑みが消え、呆れと飽きが滲む。

 

「自分の終わりに言う言葉がそれか?反吐が出るぜ。

まだわからねえか?一時的に"そっち側"に戻れたとしても、1つの不運でいつでも陰に落ちるんだ。

俺みたいに自ら"陰"を選べばいいのにな?」

 

鷺沼がデュエルディスクを構える。

自分の命が懸った戦いの最期でさえも、遊次が言葉を曲げることはなかった。

鷺沼はそれが心底面白くなかった。

彼の言葉は全て上辺だけの綺麗事にしか聞こえなかったからだ。

 

しかし、次の遊次の言葉は、これまでと違い、強く鷺沼の心を叩いた。

 

「陰を"選んだ"?そうは見えねえな。

また光に向かうのが怖ェだけだろ、アンタは」

 

「あァ……?」

鷺沼の瞳孔が大きく開く。

 

「人間、みーーんな、すげえ運が悪ィことぐらい1回や2回あるんだよ!それでも皆なんとか立ち上がって、また"次"に進んでくんだ!

俺はそういう人達をずっと近くで見てきた!だからお前がいくら人を陥れる理由を並べたって、"くだらねえ"っつってんだよ!」

 

遊次の魂からの言葉に、鷺沼もついに冷静さを失い、剥き出しの心をぶつける。

 

「ガキが偉そうに説教垂れてんじゃねえよ!バカ真面目に生きることだけが生きる道ってか?人様の人生をテメェが決めんじゃねえ!」

 

「俺は好きでこの生き方を選んだ!運がいいだけの"光"気取りが、運の悪さで堕ちていくツラが見てぇからだ!

"光"を求めてねえ人間に、光に向かえなんて説いても、的外れなんだよガキが!」

 

言葉を吐き尽くした鷺沼は、荒い呼吸で遊次を睨む。

辺りに静寂が訪れる。

遊次の中の答えは、すでに一本で繋がっている。

動じることなく、静かに言葉を紡ぐ。

 

「光を求めてない?

じゃあなんでお前のデッキには"太陽"があるんだよ」

 

「…は?」

鷺沼には遊次の言葉の意味が理解できなかった。

 

「巡天。夜と朝が交互にやってくるのが、お前のデッキのコンセプトだろ。

カードはデュエリストの心から生まれるんだ。

お前が昔から使うそのデッキは、お前の心の表れだろ」

 

デュエルディスクはデュエリストの心を読み取り、その性質に合った独自のカードを生み出す。

鷺沼の使うカードも、鷺沼の心の表れであることには間違いない。

 

「…ガキの頃に生まれたカードを使ってるからって、それが今の俺の心を表すことにはならねえだろ。バカか?お前」

 

「じゃあ、朝を表す『巡天の暁』も、

その太陽の光の下でしか融合召喚できねえ切り札も、

イヤイヤで、仕方なく使ってたってか?俺にはそうは見えなかったけどな」

 

遊次はニヤリと笑って見せる。

鷺沼は何も答えない。

 

 

(…フ、いかにも自分が光だってツラだな。でもよ、この光景を見てみろ。

俺の背後には輝くお天道様があって、そいつに焼き尽くされる陰がお前なんだ)

 

(フハハハ!見ろ、この圧倒的な輝きを!

『巡天の陽帝 フォイボス』の効果発動。

相手フィールドの裏側カードを全て破壊する!)

 

 

フィールド魔法「巡天の暁」。

そして朝日を司る切り札「巡天の陽帝 フォイボス」。

鷺沼はこれらのカードが放つ太陽の光を、肯定していた。

否定するどころではなく、むしろ自慢げでさえあった。

それは戦いの中で無意識に発せられた言葉なのだろう。

故に、それは鷺沼の心の表れでもあった。

 

 

「…ハッ、うるせえよ。俺を見透かしたつもりか?

デッキに何のカードが入ってるかで、心なんかわかるわけねえだろうが、インチキ野郎」

 

「裏カジノの親玉からインチキ呼ばわりとは、光栄だぜ。

でも、もし俺の言ったことがちょっとでも当てはまるんなら、最後に1つ言っとく」

 

この戦いの終局が間もなくであることを踏まえ、遊次は静かに口を開く。

 

「"不運"があったからこそ、その先でしか出会えねえもんもある。もしその出会いが自分にとって最高に幸せなら…最初の"不運"も、あってよかったって思えるんだ」

 

灯・イーサン・怜央…遊次は仲間達の顔を思い浮かべる。

遊次にとっての最初で最大の不運は、間違いなく"コラプス"だった。

以来、記憶を失い、やがてはそれがきっかけで実の父親も自らの前から突如として消え去った。

しかし、その最悪の不運がなければ、彼らとも出会うことはなかった。

 

「光とか陰とか…どっちかじゃねえんだよ。全部、1つで繋がってんだ。

どうしようもねえぐらい暗い陰に落ちても、その先でしか見れない"光"がある。

だから、頑張るんだ。あの時の不運も、"よかった"と思えるようにな」

 

遊次の言葉は途切れ、辺りに静寂が舞い降りる。

鷺沼は再びゆっくりとデュエルディスクを掲げ、口を開いた。

 

似つかわしくない、満面の笑みで。

 

「ご指導ご鞭撻ありがとよ。

お前ならこれから起きることも"よかった"と思えるだろうぜ。あの世でな」

 

鷺沼がだらりと垂れていた右手を遊次の方へと向ける。

 

「バトル。『巡天の猛虎』で『妖義賊-神出鬼没のギルトン』を攻撃」

 

巡天の猛虎が咆哮し、黄金の牙をむき出しにしてギルトンへ食らいついた。

鋭い閃光のような噛撃が鎧を砕き、ギルトンは一瞬で粉砕される。

 

「…」

遊次 LP300 → 100

 

遊次のフィールドから、モンスターが消えた。

残る巡天の老師のダイレクトアタックを受ければ、遊次は敗北する。

 

「ハッ!あっけねえ幕切れだが、お前にはお似合いだ。

どんなに光であり続けようとしても、その生き様の成れの果てがコレだ」

 

鷺沼は、月と太陽が交差する大地を、勝利に酔う軽やかな足取りで蹴る。

 

「陰の先にも光はある…確かにそうかもな。

でもな…光の先にだって陰はあるんだぜ」

 

鷺沼にとって、それはトドメの台詞。

光であり続ける遊次へ、現実を突き付ける一言…

 

のはずだった。

 

 

「言ったろ。陰の先にしかない光がある。

ここまで追い詰められて初めて、手に入れられる"勝利"もあるんだよ!」

 

遊次は高らかに、手札に残された最後の1枚のカードを掲げた。

 

「手札の『妖義賊-助太刀のサルバトーレ』の効果発動!

俺のモンスターが破壊された時、手札から特殊召喚する!」

 

 

■妖義賊-助太刀のサルバトーレ

 効果モンスター

 レベル4/地/獣/攻撃力1700 守備力1300

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドのモンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。

 このカードを手札から特殊召喚する。

 この方法で特殊召喚した場合、

 相手の墓地のモンスター1体を選び、自分フィールドに特殊召喚できる。

 ②:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合に発動できる。

 デッキから『予告状』魔法カード1枚を手札に加える。

 

現れたのは短刀を携え、胸のあいた毛皮の服を纏った猿のモンスターだ。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/iEwZtaH

※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

 

 

現れたのはレベル4の下級モンスター。

遊次の想定外の行動には焦りを見せたものの、

その姿を目にした鷺沼は、安堵からか、小さく息を吐く。

 

「下級モンスターを盾に延命か」

 

「いや、勝利だ」

遊次が鷺沼の油断を断ち切る。

 

「サルバトーレがこの効果で特殊召喚された時、相手の墓地のモンスターを1体、奪うことができる。

お前の墓地の『巡天の星将』を守備表示で俺のフィールドに特殊召喚する!」

 

 

■巡天の星将

 効果モンスター

 レベル7/光/戦士/攻撃力2400 守備力2200

 このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、

 ②の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドに「巡天」モンスターが2体以上存在する場合、

 このカードは手札から特殊召喚できる。

 ②:手札の「巡天」モンスター1体を捨てて発動できる。

 自分はデッキから2枚ドローする。

 ③:自分のフィールドゾーンに存在するフィールド魔法カードの種類によって、このカードは以下の効果を得る。

 ●巡天の帳:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、

 お互いのプレイヤーは、表側のモンスターが存在しない場合、魔法・罠カードを発動できない。

 ●巡天の暁:このカードの攻撃力・守備力は1500アップし、

 このカードがモンスターゾーンに存在する限り、攻撃可能な相手モンスターはこのカードに攻撃しなければならない。

 

 

現れたのは、金の長髪を輝かせる戦士。

深い蒼を基調とした鎧には精緻な金装飾が施され、胸と腰の星章が鋭く輝く。

右手には黄金の穂槍を握り、肩からは厚手のマントが重たげに垂れている。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/rSwx2GV

※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

 

 

「だから何だぁ!?ただの延命に変わりねえ!」

鷺沼はまだ遊次の戦略の全貌に気がついていないようだ。

 

「気付かなくてもしょうがねえか。自分のカードの効果を、自分が受けることはないんだからな」

 

「…なに?」

 

「『巡天の星将』の効果は、

場に『巡天の暁』がある時、攻守が1500アップする」

 

巡天の星将 DEF3700

 

「さらに永続魔法『妖義賊の連携陣』は、相手から奪ったカードが俺の場にある時、俺のモンスターの守備力が倍になる!」

 

巡天の星将 DEF7400

 

巡天の星将は槍を前面で構え、防御の姿勢を取っている。

遊次の頭上で照り付ける太陽の光に照らされ、その金の髪と蒼き鎧は綺羅びやかに輝いている。

 

「守備力7400!?……はっ!!ま、まさか…」

 

鷺沼は自分と相対する巡天の星将の姿と、その背後に金色に輝く太陽を見て、全てを理解した。

 

「『巡天の星将』の効果。自分の場に『巡天の暁』がある時、相手はこのモンスターに必ず攻撃しなければならない」

 

「つまり…アンタの攻撃力2000の『巡天の老師』で、守備力7400の『巡天の星将』に攻撃しなきゃならねえってことだ!」

 

その差分は5400。

もし老師が星将を攻撃すれば、自分のLPを上回るダメージが鷺沼を襲うこととなる。

 

「がぁああああああああアアアアア!!!!!」

 

敗北を悟った鷺沼は地に膝をつき、叫んだ。

そのまま拳を叩きつけ、もう一度強く吠えた。

 

「勝利は、俺が頂いたぜ」

 

地に伏す鷺沼を見下ろし、遊次は静かに勝利を宣言する。

鷺沼に残されたのは、星将の強制力に従って、自ら敗北へと進んでいくことだけだ。

 

「ふざけんじゃねえ…!なんで俺がこんな野郎に…」

鷺沼は突然逆転した明暗をまだ受け入れられずにいる。

 

「本当ならきっちり罪を償わせたかったけど、それは俺達を頼ってくれた人の望みじゃねえ。

それでももう、お前の組織はもう悪事を働けない。いい機会だろ。それでもまた1から人集めて悪いことすんのか?それとも…」

 

「うるせェ!!誰に説教垂れてんだクソガキ!!」

諭すような遊次の言葉に鷺沼は逆上する。

 

「ちょっとデュエルに勝ったぐれえで調子に乗んじゃねえ!

テメェも…運が良かっただけだろうが!!」

 

鷺沼の言葉は宙を舞い、霧散する。

自分でも無様だっただろう。

それでも、吐き出さずにはいられなかったのだ。

 

「…立てよ悪党。

ここからが、お前のスタートラインだぜ」

 

自分を見下ろして言葉を吐く遊次を、鷺沼は言葉なく睨みつける。

2人の視線はぶつかり続ける。

 

「どんな理由があっても、お前のやってきたことは簡単に許されることじゃない。

でもな…。それでも…」

 

遊次はほんの少しだけ口角を上げる。

 

 

「アンタとのデュエル、楽しかったぜ。

だから、俺とカードで正面からぶつかり合うアンタは、

間違いなく光だった」

 

鷺沼は地に伏したまま遊次を見上げ、口をぽかんと開け、目を丸くしている。

あっけにとられた様子だ。

 

しばらくの沈黙の後、鷺沼はゆっくりと立ち上がり、吐き捨てるように言った。

 

「……ハッ。わけわかんねえこと言ってんじゃねえ。

シラケちまったな。こんな戦い、とっとと終わりにしてやる」

 

鷺沼はだらりと力の抜けた右腕を遊次の方へ向ける。

 

「『巡天の老師』で、お前の『巡天の星将』に攻撃」

 

巡天の老師が雄たけびを上げながら杖を振るい、魔力を打ち込む。

巡天の星将は一歩も退かず、槍を掲げて力を解き放つ。

昇る太陽の光が全てを呑み込み、老師の放った攻撃を一瞬にして焼いた。

その暁光は、奥にいる鷺沼をも飲み込んだ。

 

 

「ぐああああああ!!!!」

鷺沼 LP4300 → 0

 

 

「勝者、神楽遊次。

オースデュエルにより、鷺沼正の統括する組織『帳』に対し、法・倫理・規律に違反する行為の一切を禁じます。

さらに9億サークを神楽遊次へ支払うことを命じます」

 

デュエルディスクの機械音声が、暗いビリヤード店に響く。

鷺沼は埃まみれの床にばたりと倒れ込んだ。

その表情は、呆然としているが、どこか清々しくも見えた。

 

遊次は鷺沼を見下ろして言う。

 

「アンタ、頭いいんだろ。陰から出てきて、太陽の光の下でちゃんと生きることもできる。ちゃんと、自分で罪を償ってな」

 

鷺沼は大きな右手の掌で自分の顔を覆い、肩を震わせる。

 

「クックッ…まさか俺が人生のコンサルをされるとはな。笑いモンだぜ」

 

 

「…余計なお世話だ。

とっとと光の世界に戻れよ、ラッキーボーイ」

 

鷺沼は冷たい声で吐き捨てた。

 

遊次は倒れる鷺沼に視線を送る。

人は簡単には変わらない。

しかし、このデュエルで一つでも彼の心に楔を打ち込めたなら。

 

「…あぁ」

 

遊次は振り向き、扉の方へと歩いてゆく。

店の入口には、少しだけ光が差し込み始めていた。

天は巡り、また朝日が顔を出そうとしている。

 

遊次は扉を開け、店を出た。

 

 

「遅かったな」

 

「怜央…!」

店の入り口では、怜央が壁にもたれかかりながら待っていた。

 

「当然、勝っただろうからゴチャゴチャ話す気はねえ。

それより、急ぐぞ。奴らに気付かれる前にな」

 

怜央は後方の、カジノ会場がある方を親指で示す。

 

 

「鉄城怜央ォォォオオオオオ!!!

どこだァァアアアアア!!!!」

 

おぞましい獣の雄叫びがゴーストタウンに轟く。

言うまでもなくローチの声だ。

怜央からの合図でVIPルームに殴り込んだものの、標的である稲垣はいくら探しても姿がない。

当然、灯達が先に逃がしたため見つかりようがないわけだが、ローチも怜央達が謀ったことに勘付いたようだ。

ローチの怒りの矛先は稲垣から怜央へと変わっている。

 

「灯が車を停めてる。行くぞ」

怜央が素早く夜明け前の街を走る。遊次もその後についてゆく。

 

「鉄城怜央ォォォオオオオ!!ガキィィィィイ!!

逃がさねえぞおおおおお!!!クソ共がァァアアアアア!!!!」

 

後ろから聞こえる咆哮に顔をしかめながら、遊次達は路地の奥へと進んでゆく。

点滅するネオンが光る、寂れた路地裏の一角に、場違いな真っ赤なスポーツカーが停まっている。

遊次達の姿をバックミラー越しに捉えた灯は、すぐに運転席のドアを開けて、2人の方へ駆け寄る。

 

「遊次ぃ!!よかったぁー!!」

幼馴染が危険な戦いに身を投じていることが気が気でなかった灯は、心底安心した表情で、遊次の手を握る。

 

「…おう」

遊次も照れくさそうに返す。

 

「稲垣はどうした?」

 

「車でできるだけ遠くまで連れてって、降ろしたよ。

事務所に匿うわけにもいかないし、どこへでも好きなだけ逃げろ~ってね」

 

怜央の問いに灯が答える。

突然道に放り出された稲垣の血相を変えて逃げる表情を、灯は思い出した。

 

「そっか。さすがにアイツも懲りてるといいけどな」

遊次が希望を口にすると、助手席からイーサンが降りてきた。

 

「お疲れ様、遊次。その様子だと、仕事はうまくいったんだろうな?」

 

「あったりめぇだろ!!落合さん、ザリフォスさん、ミロヴェアンさんが賭けた額9億サーク!

それと、二度と悪事ができないようにもした!これでもう脅迫に怯えることもねえ!」

 

遊次はソリッドヴィジョンの契約書を得意げに突きつける。

 

「…やり遂げたんだね、私たち」

 

かつてないほど大きな試練だった。

灯は達成感に満たされ、頬を染める。

 

「…あぁ。ここまで来れたのも、皆のおかげだ。

ここにいる皆だけじゃなくて…ほんとに、皆の」

 

その言葉にイーサンと灯が頷く。

 

「俺らの取り分は7000万サーク…ま、犬の散歩のお駄賃よりは、ちょっとばかし多いだろうぜ」

 

怜央が遊次の隣で冗談交じりに言う。

しかしその表情からは隠し切れぬ高揚が伝わってきた。

その成功報酬こそが、これまで盗みで生計を立ててきた子供達の、正しい未来に繋がるのだから。

 

「ハハッ、どんだけ欲張りなんだよ、お前。

…お、見ろよ、あれ!」

 

遊次が前方のビルの向こうを指さす。

3人はその方向に同時に視線を移す。

 

「わぁ…!」

灯が思わず恍惚の声を上げる。

 

ビルの谷間、荒れ果てた路地の奥から、柔らかな光が零れ出した。

崩れた壁面の隙間を縫うように、朝日がゆっくりと昇っていく。

 

灰色に沈んでいたゴーストタウンが、黄金の縁取りを纏いはじめる。

その眩さは、幾度も困難に押し潰されかけた彼らの心をも照らした。

 

「…夜明け、だな」

イーサンが呟く。

 

4人はしばらく、言葉もなく朝日を見つめていた。

 

それは、世界を閉ざす夜の終わりを告げるもの。

そして、新たな一日の始まりを告げるもの。

 

 

「忘れてないよな?遊次。本番はこれからだぞ」

イーサンが遊次の肩を叩く。

 

「へへ、あったりめえだろ!今日までずーーっと楽しみにしてきたんだからな!」

 

遊次は、昇る朝日を見つめながら、思いを馳せる。

 

(普通なら諦めちまうような依頼を、俺たちは成し遂げたんだ。皆で、力を合わせて。

やっぱり、俺の進むべき道は間違ってねえ。

"不可能"なんてないんだ)

 

 

(待ってろよ、譲。俺は全力でお前と戦う。

その上で…"誰も"泣かない未来を創ってやる)

 

数時間後に始まる、ヴェルテクス・デュエリア ドミノタウン予選決勝。

遊次はこれまでの戦いで「相手の願いを背負って戦う」という答えを得た。

 

遊次はデュエルで全てをぶつけ、譲との魂の会話を望む。

その果てにどんな未来があるのかは、本気で心をぶつけ合った決闘者にしかわからない。

 

 

第51話「夜明け」 完

 

 

 

ついに幕を開ける、ドミノタウン予選 決勝戦。

譲は先行で安定した展開を見せるが、遊次はある違和感を抱く。

 

怜央との戦いで彼が見せた相手を誘導し罠にかける戦術。

この戦いでも何かを仕掛けてくると、遊次は確信していた。

 

相手の心を深く探り、その奥にあるたった1つの思惑に手を伸ばす。

それはまるで、張り巡らされたレーザーの網を掻い潜るようなものだ。

1つ間違えば自分の死にも直結する。

 

しかし譲に勝つためには、これまでの戦いとは次元の違う"読み"に到達する必要がある。

 

「義賊にも都合ってもんがあんだ。

予告したら実行しなきゃいけないなんて、誰が決めた?」

 

 

次回 第52話「決闘眼(デュエル・インサイト)」

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