遊戯王Next   作:湯(遊戯王SS投稿者)

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第57話:降り掛かる真実

Nextへ来訪した依頼人「シオーネ・マリンスキー」。

彼女は空間に裂け目を入れる装置「パラドックス・ブリッジ」の鍵の在り処を知るためイーサンに接触するも、強制オースデュエルが何故か無効となったことで撤退。

そして灯は、その正体がニーズヘッグ・エンタープライズの七乃瀬美蘭だと見破った。

 

イーサンは隠しきれないと悟り、14年間抱え続けてきた秘密を遊次達に明かした。

遊次達はパラドックス・ブリッジこそが、黄金の鎧のモンスターがドミノタウンを破壊した惨劇「コラプス」の元凶であったことを知る。

そしてパラドックス・ブリッジの建造には、遊次の父「神楽天聖」と、第二の父イーサンが関わっていた。

 

町の人達は、苦しみながらもコラプスを災害として受け入れようとしていた。

しかしそのコラプスが、自分の2人の父によるものだと知り、遊次は言い表せない感情に打ちひしがれ、コラプスによって両親を失った怜央は怒りに苛まれた。

 

しかし2人はわかっていた。

イーサンがこれまでNextとして歩んできた道のりと、彼の思いが嘘ではないことを。

そして今やるべきは、誰かを恨むことではないと。

 

ニーズヘッグの目的は不明だが、パラドックス・ブリッジを解放しようとしているのは確かだ。

Nextは彼らの計画を食い止めるために、ニーズヘッグ本社へ乗り込もうとしていた。

 

 

「そもそも本社に行った後はどうするつもりだ?」

よく考えれば完全にノープランだったことに怜央は気が付いた。

 

「そりゃもちろん、社長に会うんだ!」

 

「でも、今わかってるのは美蘭がパラドックス・ブリッジの鍵を探そうとしてることだけだよね。社長が関わってるかは…」

 

「社長に黙って強制オースデュエルを乱用してるってのは考えづらいだろ。

それにもし知らないってんなら、社員がやべえ事してるって教えてやんなきゃいけない!」

 

遊次の意志は固い。彼の発言も無鉄砲に見えて筋は通っていた。

 

「…まあそうだな。いずれにしても行ってみる価値はあるだろう。

だがもし社長がいなければ水の泡だ。スケジュールが公開されてるかもしれないし、少し調べてみるよ」

 

イーサンは自席に座りPCを操作し始める。

 

「急いでくれよイーサン!俺らもすぐ出られるように準備するぞ!」

 

 

 

 

メインシティの中央に鎮座するニーズヘッグ・エンタープライズ本社、78階社長室。

床は磨き上げられた大理石で、都市の光を映し返し、壁一面のガラス窓からは遥かな景色が広がっていた。

壁際には10メートルを超える黒龍ニーズヘッグの像が立ち、蛇のように長い尾をうねらせ、翼を広げて威容を誇る。

その姿は今にも動き出しそうな迫力で、部屋そのものを支配していた。

 

オスカーは夕日に染まった窓の外を見下ろしていると、社長室の自動扉が音を立てて開く。

そこから拍子抜けするような声がオスカーの耳に届く。

 

「オスカー様ぁ~~!!!」

 

扉から美蘭が一目散に走ってくる。

彼女はすでに変装を解き、メイクを直していつもと変わらぬスタイルに戻っていた。

 

オスカーは少ない動作で振り向く。

美蘭は広い社内をダッシュしてきたのだろう、息を切らせながら言葉を紡ぎ始める。

 

「オスカー様ぁ!イーサン・レイノルズはパラドックス・ブリッジのこと、知ってました!

でもでも、鍵の場所まではわからなくて…あ!でも、わからなかったのはアタシのせいとかじゃなくてぇ…!」

 

「落ち着いて話せ」

要領を得ない報告にオスカーは慣れた様子で淡々と言葉を返す。

 

「えっと…話す時は結論から…。

まず、"デーヴァ"の鍵の在り処はわかりませんでした…。

イーサン・レイノルズがそれを知ってるかもわかりません。

鍵の場所を質問してる途中に、すぐに勘付かれてガジェットを壊されちゃいました」

 

美蘭は気をつけの姿勢で、たどたどしい言葉で話す。

オスカーは言葉を返さず、続く美蘭の報告を待つ。

 

「でも、パラドックス・ブリッジのことを知ってることは生体反応から間違いないです。

それで、続きは強制オースデュエルで聞こうと思ったんですけど、なんでか強制オースデュエルが無効になっちゃって!」

 

オスカーはわずかに眉を顰める。

 

「…そんな事例は聞いたことがないが」

 

「でしょ!?だからアタシもどうしたらいいかわかんなくって!

で、なんかヤバそうだったから帰ってきちゃったんですけど…。

ごめんなさいっ!罰ならいくらでも受けます!」

 

覚悟をしたように思い切り目を瞑る美蘭に、オスカーは変わらぬトーンで言葉を返す。

 

「鍵の在り処を質問した時、どの時点で奴はガジェットを破壊した?」

 

「え、えっと…『デーヴァの鍵の…』ぐらいだったかなぁ」

美蘭は左上を見つめながら必死に記憶を手繰り寄せる。

 

「ならば、奴の答えは"YES"だ。

鍵の在り処を知らぬのなら、それを俺達に伝える方が奴にとって得だろう」

 

オスカーの言葉を聞いた美蘭は、天啓得たりと言わんばかりに口と目を大きく開く。

 

「た、確かに!鍵の場所を知らないのに、わざわざアタシ達に向けて知ってる可能性を残す必要ないもんねっ!

さっすがオスカー様!」

 

美蘭は咲いたような笑顔で掌を合わせ、オスカーに尊敬の眼差しを送る。

 

「でもぉ、強制オースデュエルが使えなかったら、ケッキョク鍵の場所は聞けなくないですかぁ?」

美蘭は唇に人差し指を当てて考える。

 

「強制オースデュエル無効の原因を突き止め、排除するまでだ。

ジェンにその事を伝えろ。調査すべきはニーズヘッグ内部の記録…という事もだ」

 

「ニーズヘッグの記録…?そこにヒントがあるんですか?」

 

オスカーは答えず、ただ一瞬だけ美蘭に視線を送る。

その鋭い眼に美蘭は得も言われぬ畏怖を覚えた。

 

「はっ…はい!なんでもありません!

ジェンちゃんに伝えておきます!」

 

美蘭は一度深く頭を下げた後、駆け足で社長室から出た。

 

 

 

 

「これが…ニーズヘッグ本社…」

 

赤く染まった空の下で異彩を放つ超巨大な黒龍。

遊次は目の前に高く聳えるその超高層ビルを見上げる。

そのあまりの異様さと迫力に遊次は思わず息を呑む。

その後ろには緊張した面持ちの灯と、覚悟を決めた表情のイーサン、怒りの滲んだ目でビルを見る怜央がいる。

イーサンが調べてもオスカーの動向はわからず、4人はニーズヘッグ本社へ向かうしかないと結論づけた。

 

 

「行くぞ」

遊次は凛と前を向き入口へと向かい、3人もそれに続く。

入口では高級そうなスーツを纏った大人が何人も出入りしている。

 

自動ドアを抜けると、磨き上げられた石材の床が広がり、光を反射して静かな輝きを放っていた。

正面には幾列ものセキュリティゲートが並び、社員証をかざさなければ進めない。

通り抜ける人々は慣れた仕草でカードを翳し、短い電子音とともに歩みを続けていく。

遊次達はロビーの脇にある受付カウンターに向かう。

 

「どのような御用でしょうか」

カウンターに座る髪を綺麗に後ろに整えられた女性が、はきはきとした言葉遣いで問いかける。

 

「社長に会いたいんですけど、ここにいますか?」

 

遊次の言葉に、受付の女性は少し困惑した様子を見せる。

 

「…アポイントメントはお取りになられていますでしょうか?」

 

(ここにいるってことだな)

 

瞬時に状況を把握し、イーサンはすかさず言葉を返す。

 

「申し訳ありません、急用だったのでアポは取れていないのですが…イーサン・レイノルズという名前を出せばわかると思います。

『P・B』の件で用があると伝えていただけますか」

 

P・B…パラドックス・ブリッジの略だ。

もしオスカーもこの単語の意味を知っていれば、この来訪を無視するわけにはいかないだろう。

 

「は、はい…。少々お待ち下さい」

受付の女性は少々困惑した様子で電話を取る。

 

「お疲れ様です。今4人の方が受付にお見えになられていて、イーサン・レイノルズ様が『P・B』の件で御用があるとおっしゃっていますが…。

あ、はい!承知しました」

 

受付嬢は静かに受話器を置く。

 

「それでは、社長室に案内いたします」

 

オスカーはこの唐突な来訪者を受け入れた。その意味は4人には明白だった。

社長であるオスカー・ヴラッドウッドも、パラドックス・ブリッジの件に関わっている。

遊次達は目を合わせ、一層の覚悟を決める。

 

 

社員の案内でエレベーターへと通された遊次達は、そのまま78Fまで上る。

エレベーターの扉が開くと、静まり返ったフロアに絨毯が敷かれ、正面には受付カウンターのように秘書席が設けられていた。

社長室の重厚な扉はその奥にあり、来訪者は秘書に名を告げなければ一歩も進めない。

 

感情が読み取れない雰囲気の男性秘書が内線を取り上げると、短いやりとりののち、秘書は遊次達を先導し、社長の指導扉が開く。

その後、秘書は一礼し、部屋を出る。

 

遊次はまず、社長室の広さに驚かされ、つい視線をあちこちに泳がせた。

部屋の隅に聳え立つ黒龍の像に思わず目を奪われるも、全員の視線はすぐに部屋の中央・奥へと吸い寄せられる。

 

「オスカー・ヴラッドウッド…」

 

長机の奥、重厚な革張りの椅子にオスカーは深く腰を下ろしていた。

背後の高窓から差し込む夕日は彼の姿を際立たせるどころか、むしろ影を濃くし、その輪郭を重々しく浮かび上がらせている。

ただ一人の支配者のように、オスカーは微動だにせず、肩肘を肘掛けに置いたまま、鋭い眼光で来訪者達を射抜いた。

 

そして、遊次達の視線はすぐにその隣に立つ人物へと映った。

 

「…まさか副社長までお見えとはな」

 

オスカーの隣には、副社長「ルーカス・ヴラッドウッド」が手を後ろに組み、凛と立っていた。

怜央はこれがただ事ではないことを瞬時に理解し、皮肉交じりに口角を上げた。

 

「"まさか"はこっちのセリフだよ。

こんなところまでバカ正直に乗り込んでくるとはね」

 

目の前にいるのは、世界一の大企業のトップに君臨する者達だ。

しかし遊次は威圧感に屈することなく、溜まっていたものを全て吐き出す。

 

「アンタら、パラドックス・ブリッジってモンを狙ってんだろ!

それを解放したら…またコラプスみたいなことが起きるんだろ!

全部知ってんだよ!何が目的だ!?」

 

オスカーは遊次へと視線を向ける。

遊次は一瞬その威圧感に圧されるも、逸らすことなく押し返そうとする。

 

すると、オスカーは立ち上がり、4人の前に立つ。

 

「いいだろう。貴様らに"真実"を教えてやる」

 

「真実…?」

灯はその言葉に、嫌な予感を覚えた。

 

オスカーは暫しの間を置いた後、ゆっくりと話し始める。

 

「約2年前、正体不明の人物から、俺に1通のメールが届いた。

差出人の正体は不明だが、その"X"からのリーク情報は明らかに政府の超機密情報だった」

 

「そこに記されていたのは、政府が秘密裏に進める計画と…世界滅亡の危機についてだ」

 

オスカーは低いトーンのまま言葉を紡ぎ始める。

しかし淡々と語られるにはあまりにもスルーできない言葉があった。

 

「世界…滅亡?な、何言ってんだ!?」

 

「大人しく聞いとけよ。

お前達に情報を開示するのは、こっちにとってもその方が都合がいいからだ。

目的を知れば、お前達も僕らの計画を容易に否定できないはずだからね」

 

動揺する一同をルーカスが鎮め、続いてオスカーはただ事実を突きつけてゆく。

 

「これが世界滅亡の元凶だ」

 

オスカーが右手を掲げると、空中にソリッドヴィジョンが浮かび上がる。

そこに映し出されたのは、目を疑うような"異形"だった。

 

「なんだ……これ…」

 

遊次は"それ"を目にした途端、背筋が凍った。

 

画面に現れたのは、宇宙空間に浮かぶ、何かの名で呼ぶことさえ拒むような巨塊だった。

その表面は隕石のような岩肌を思わせるが、明らかに隕石とは異なる存在。

禍々しく紫色に光り、2つの黒いX字上の輪が隕石の周囲を取り巻いている。

その全容は見えないが、隕石には顔のように見える凹凸が刻まれている。

 

理解の外側の存在であることだけは理解できた。

 

 

「8ヶ月後…この直径500kmの隕石が、地球に衝突する」

 

遊次達はただ絶句するほかなかった。

脳が拒絶するように、しばらく言葉を吐くことすらできなかった。

ただ1人イーサンだけは、動じることなく映し出された"それ"を見つめていた。

 

「な……何言ってんだよ…アンタ…」

ようやく絞り出したその声は、ひどくか細かった。

 

「恐竜を絶滅に追いやった隕石ですら、遠く及ばない。

もし衝突すれば…即座に地表の生物は死滅する」

 

「隕石?これが…?でも、どう見たって…」

灯は目の前に映し出されたその異形の"顔"から目が離せなかった。

 

あまりに現実感がなかった。

到底信じることなどできなかった。

それを代弁するかのように、イーサンは鼻で笑う。

 

「フッ、突然こんなのを見せられて、"はいそうですか"とはならないだろう。

隕石が衝突して地球が滅ぶ?しかもたった8ヶ月後に?

少し考えればあり得ないとわかる話だ」

 

唯一冷静さを保っていたイーサンは、オスカーに反論の言葉をぶつける。

その姿に、遊次達も少しずつ現実へと引き戻されていった。

 

「まず、直径500kmもの隕石が宇宙を飛んでいたら、どこかの国の衛星がコレを捉えるはずだ。

それなら今頃、世界中は大騒ぎになっているだろう。しかし、現実はそうなっていない。

それが何より、この話がデタラメである根拠だ」

 

しかしルーカスはすぐさま言葉を返す。

 

「はぁ…鬱陶しいな、いちいち。

他国が気付かなかった理由は知らない。衛星情報に工作でもされてたのかもね。

まあ、そんな大規模な工作ができる人間がいるなんて信じられないし…信じたくもないけど」

 

ルーカスは視線を逸らし、眉間に皺を寄せる。

それは即ち、この隕石の隠蔽に明確に人間の手が加わっていることを意味するからだ。

しかし、これはあくまでも推測であり、現時点では他国が巨大隕石の情報を掴めなかった理由は不明のままということだ。

 

「それでも、他にいくらでもこの隕石が本物だという根拠はある。

僕達は1年かけて徹底的に検証してきたんだ。

リーク情報にあった衛星情報と隕石衝突の軌跡や速度…全てこちらで再検証したが、完璧に一致していた。

隕石の軌道上にあるルートを通る宇宙プロジェクトを、政府が中止にしたことも根拠になる」

 

ルーカスは両手を大きく広げると、部屋を埋め尽くすほどのデータがソリッドヴィジョンとして浮かび上がる。

そこには事細かな計算式や政府内部の資料など、数えきれないほどのデータがあった。

ただの作り話のためにここまで精巧なデータを作り上げたとは、到底思えなかった。

 

「それに…僕達が存在すら知らなかったパラドックス・ブリッジは、リークのとおり実在してたよ。

なぁ?イーサン・レイノルズ」

 

その皮肉めいた視線には、自らがパラドックス・ブリッジという機密に関わっておきながら、

リーク情報を疑うイーサンに対して明確な敵意が込められていた。

 

「これらのデータは予備的な裏付けに過ぎない。

俺達がこの異形の隕石の飛来を、真実だと確信した理由は他にある」

 

「この隕石はモンスターワールドから現れた存在だ」

 

「だぁー!次から次へとヤベエ情報ブチこんできやがってー!どういうことだよ!」

 

オスカーの衝撃的な発言に、遊次は頭を両手で思い切り掻きむしる。

しかし、もはや衝撃的事実にも段々と体が慣れつつあった。

 

「モンスターワールドから現れた…?コラプスと同じようにか?」

怜央の問いに、ルーカスはゆっくりと首を横に振る。

 

「へぇ…お前達、そこまで知ってるんだ。でもコラプスとは違う。

パラドックス・ブリッジを使っても、宇宙空間にモンスターを呼び出すなんて不可能だ。

どうやってあの隕石が現れたかは不明だけど、モンスターワールドから現れたことだけは確実だ」

 

「な、なんでそう言えるんですか」

灯は恐る恐る問いかける。

 

「簡単な話だよ。モンスターワールドから、あの隕石のモンスターが消えたからだ」

 

遊次達の頭には、疑問が山ほど浮かんでくるが、まずは手前の話から消化することにした。

 

「なんでお前らにそんなことわかるんだよ」

 

ルーカスはまた面倒くさそうに溜息をつくが、観念したように話し始める。

だが、ルーカスの瞳には今までと違い、僅かな"喜"の感情が宿ったようにも見えた。

 

「ニーズヘッグは創業当時からモンスターワールドを監視し続けてる。

モンスターワールドは、物理学者だったお祖父様…ヘックス・ヴラッドウッドが発見した異世界だ。

当時、ただのカードゲームの1つに過ぎなかったデュエルモンスターズに、お祖父様は異常な愛を持っていてね。

毎日のようにデュエルする中で、モンスターが自分に応えてくれる瞬間があると確信した。

そこでお祖父様は考えた。モンスターは実在すると」

 

ルーカスはどこか自慢げに祖父であり創業者であるヘックスのことを語る。

 

「当時、周囲の愚か者共はその考えを馬鹿にしていたが、お祖父様は決して諦めなかった。

何年も何年も、モンスターが暮らす世界の実在を証明するために、あらゆる手を尽くした。

その結果、自分とモンスターの心がリンクした瞬間、0.1秒にも満たない一瞬ではあるが、異世界の風景を物理学的に観測できた。

お祖父様はデュエルモンスターズのモンスターが実際に暮らす世界の存在を発見したのさ」

 

ヘックス・ヴラッドウッドはニーズヘッグを創業しデュエルディスクを開発した偉人だ。

それによって世界にデュエルが革命的に普及し、オースデュエルというシステムが世界を支配したのも、また彼の功績である。

しかし、ルーカスが口にしたような逸話は聞いたことがなかった。

モンスターワールドの存在自体を、ヘックスが秘匿した故だろう。

 

「デュエルディスクは、お祖父様がモンスターワールドの発展のために作ったものだ。

人の心を読み取り、その人間独自のカードが生まれる…今や世界の常識だろ。

これは、モンスターワールドに新たな命を誕生させるために、お祖父様が考えた仕組みなのさ」

 

「…俺のモンスターも、モンスターワールドに実在してるってのか」

 

怜央は自分のデッキの中の数多のモンスターを思い浮かべる。

 

「モンスターワールドは、人の想像力によって創られた世界だ。

実際、デュエルディスクが生み出したモンスターは、モンスターワールドにも生まれ落ちてる。

これは僕達が観測した事実だ」

 

ルーカスは掌を空中にかざすと、そこにある風景が浮かび上がる。

そこには、現実世界には存在し得ない飛竜や、機械で作られた巨大生物が跋扈していた。

 

「こ…これがモンスターワールド…!?」

 

灯は思わず目を奪われた。

目の前の映像は点滅しており、ところどころにノイズが混じったり、途切れたりしている。

それでも、そこには確かに"命"が存在していた。

作り物ではない実在性がそこにはあった。

 

(…俺がネックレスをなくした時に見る記憶と一緒だ…。

やっぱり、あれがモンスターワールドなのか…)

 

なぜそんな記憶を見ることができるのかは推測することもできなかったが、あれがモンスターワールドであることは確信していた。

 

「3年前、隕石型のモンスターが突如としてモンスターワールドから消えた。

その数ヶ月後、隕石型モンスターが地球に飛来しているというリークを受けた。答えは明白だ」

 

「…消えた?なんでそれが現実に現れるってことになるんだよ?」

 

遊次にはまだ実感がなかった。

筋は通っているように聞こえるが、実感としてイメージできずにいた。

 

「モンスターワールドからモンスターが消え、そのモンスターが現実に現れる…その現象には前例がある」

 

ルーカスは遊次の問いにもすでに答えを持っていた。

 

「お祖父様がモンスターワールドを発見した当時から、ある2体のモンスターが争い合っていた。

この≪隕石型のモンスター≫と…コラプスの時に現れたという≪黄金の鎧のモンスター≫だ」

 

「なっ…!?」

遊次は驚きの声を漏らす。

その理由はいくつもあり、すぐに言語化することはできなかったが、すぐにルーカスは答えを示した。

 

「その黄金の鎧のモンスターは、14年前のコラプスを皮切りに…モンスターワールドから消えた」

 

その理由は明白だった。

パラドックス・ブリッジによって空間に裂け目を入れられ、そのモンスターがこちら側の世界に現れたからだ。

 

「モンスターワールドから消えたモンスターがこちらの世界で観測された。これはお前達も知っている事実だ。

手段は違えど、この隕石型モンスターも同じ。否定はできないはずだよ」

 

どうにか否定する材料を見つけたかった。

それでも、事実を認めるしかなかった。

しかし、遊次の頭の中で一つ引っかかることがあった。

 

「ちょっと待てよ…。黄金の鎧のモンスターは、空中に浮かんで衝撃波を出した後、疲れ果てたみたいに倒れて、いつの間にか消えてたって話だぜ。

モンスターワールドからも消えたってなると…あのモンスターはどこいったんだよ?」

 

遊次は14年前から何度もコラプスに関する住人の証言を聞いていた。

自分自身は記憶喪失によって覚えていないものの、この事が事実だということはドミノタウンの人々が知っていた。

 

「さあね。現実に現れたモンスターがその後どうなるかは…もう一度起こしてみなきゃわからない」

 

ルーカスが狂気的な笑みを浮かべる。

その瞬間、遊次と怜央は怒りを滲ませ、ルーカスを強く睨みつける。

どんな理由があれど、彼らは2度目のコラプスを起こそうとしている者達だ。

遊次達は今まさにそれを再認識した。

 

(隕石が現れた理由も、黄金の鎧のモンスターが消えちまった理由も、ニーズヘッグすらわからねえのか。

なんなんだよ、マジで…)

 

遊次は軽い頭痛をおぼえた。

脳が情報を処理するのに必死だ。

 

「とにかく、他のありとあらゆる情報が隕石の飛来を証明してる以上、他国がこの隕石のことを知らないなんて些細な問題だろ。そんな状況証拠的な反論1つで、これだけの根拠は覆せない」

 

ルーカスは勝ち誇ったように口角を上げる。

イーサンもそれ以上は口をつぐむしかなかった。

 

「…じゃあ本当に、8ヶ月後に世界は滅ぶってのかよ。

そんなもん、どうすりゃいいんだよ…」

 

遊次の脳裏には、ドミノタウンの人々、ヴェルテクス・デュエリアで戦った者達、

Unchained Hound Dogsのメンバー達、アキト、そしてNextの3人の顔が写真のように思い浮かんだ。

そしてその数々の写真は、頭の中で一瞬にして燃えてなくなる。

 

遊次はオスカーとルーカスの話を、現実のものとして受け入れ始めている。

そして、彼をじわじわと絶望が浸食し始めていることに、灯は気が付いた。

 

(遊次はずっとドミノタウンの人達を救うために頑張って来た。

なのに…こんなのって…)

 

「安心しろ。貴様らの絶望は、俺達が取り払う。

俺達の計画は、この隕石を打ち破るためにある」

 

絶望に打ちひしがれる遊次達に、意外にもオスカーが希望の言葉をかける。

遊次は顔を上げ、オスカーを見つめる。

 

「パラドックス・ブリッジを起動すれば、空間に亀裂が生じ、この世界とモンスターワールドが繋がる。

そしてモンスターワールドのエネルギーがこちらの世界へと流れ込む。

そのエネルギーは"モンスターの実体化"を可能とする」

 

「モンスターの、実体化…?」

遊次の疑問に、ルーカスが答える。

 

「お前達も使ってるデュエルディスクは、実際にモンスターワールドからモンスターを"召喚"している。

ただのカードゲームに過ぎなかったデュエルモンスターズを、真にデュエリストとモンスターの"共闘"にしたい…そんなお祖父様の考えから生まれたのが、デュエルディスクだ」

 

「じゃ、じゃあ…いつも私達が召喚してたモンスターは、"本物"のモンスターってこと!?」

 

遊次のようにモンスターを最初から生きているものとして扱うデュエリストも一定数いるが、

大抵のデュエリストはただのソリッドヴィジョンであると考える。

モンスターワールドの存在をニーズヘッグが秘匿している以上、それが当然だ。

これも十分に衝撃的な事実であったが、もはやこのレベルの話にいちいち引っかかっている余裕はなかった。

 

「あぁ。モンスターと人の心がリンクした時、そこに契約のような関係が生まれる。

それを"召喚"と呼んでいるんだ。

デュエルモンスターズは、数千年前の古来から存在していたという説もある。

もしかすれば、モンスターワールドが先に存在していて、そこからモンスターを呼び出すために"デュエルモンスターズ"という、ある種の儀式ができたのかもしれない」

 

人がモンスターを呼び出そうとした時に「心のリンク」と呼ばれる状態が発生し、人はそれを"召喚"と呼ぶ。

ルーカスはそう語っている。

デュエルディスクもその仕組みに則り、実際にモンスターワールドからモンスターを召喚しているという事になる。

 

「しかしデュエルディスクを使っても、モンスターを実体化させる程のエネルギーは生み出せない。

だからソリッドヴィジョンという仮初の体に、モンスターの魂を宿らせる形を取ったんだ。

でもモンスターワールドのエネルギーがあれば、デュエルディスクで召喚したモンスターも完全に実体化される」

 

「14年前、コラプスが発生した時…その周辺地域で、デュエル中にモンスターの攻撃が現実に被害を及ぼしたという報告が相次いだ。

この手の情報も政府によって徹底的に抹消されてるけど、ニーズヘッグ内部のコラプスに関する調査資料を掘り尽くせば、間接的にモンスターが実体化したと認定できる報告が複数見られた。

これは、パラドックス・ブリッジによって空間に裂け目が入っていた数分間だけの話だ」

 

モンスターの実体化という話が、隕石とどう関係するのか。

遊次達はその答えに気付き始めていた。

 

「…もしかして、パラドックス・ブリッジで空間に裂け目を入れた後、流れ込んできたエネルギーでモンスターを実体化させれば…」

 

「隕石型モンスターを打ち破ることができる」

オスカーが解を示す。

 

「全世界の人々が同時にモンスターを召喚して隕石に立ち向かえば…

さすがにこのバケモノも、ひとたまりもないだろ?」

 

ルーカスはソリッドヴィジョンとして映し出された隕石型モンスターを親指で示し、ニヤリと笑う。

 

地球がフラッシュのように光に包まれ、やがては飛竜や鳥獣、飛行可能な機械に乗った人型のモンスター達が、一斉に宇宙へと向かう。そして炎や水、光…あらゆる超火力攻撃が隕石を同時に襲う。

遊次はそんな画をイメージした。

想像に過ぎないが、確かに勝算はあると感じた。

最初に隕石型モンスターを見た時に感じた得体のしれない恐怖と絶望感…それに抗うことができると。

 

「この会社の社員は、この計画のことを知ってるんですか?」

 

灯の問いに、ルーカスが端的に答える。

 

「知ってたら今頃世の中はパニックだろ。

計画を動かしてるのは数人だけだ」

 

ニーズヘッグ・エンタープライズは世界最大の企業だ。

それらの社員全員が、世界に秘匿された秘密を知るはずはない。

 

ニーズヘッグがパラドックス・ブリッジを狙う理由と、その計画の全貌が見えてきた。

しかし、ある1つの疑問をイーサンがぶつける。

 

「わからないな。隕石とやらが仮に本当だとして、

それを打ち破る計画を、わざわざお前達が実行する必要はどこにある?

お前達は政府の情報を、リークによってたまたま知った身だ。

ということは、本来"政府が"その隕石への対抗策を講じるはずだろ」

 

イーサンの問いは的を射ているように思えた。

本来、完全なる部外者だったニーズヘッグが、なぜ世界を救う方法を考えているのか、現状は説明できていない。

 

「"X"が俺に情報をリークした真の目的は…『政府の計画を止めること』だ」

 

「計画?」

 

「他国とは違い、何故かデュエリア政府は、地球に迫る隕石を2年以上前から認知していた。

大統領マキシム・ハイドは隕石への対抗策として、ある計画を企てた。

それが『モンスターワールド侵攻計画』だ」

 

その名前だけで、内容については大方の予想はついた。

 

「計画の内容は、パラドックス・ブリッジを利用し、モンスターワールドを直接攻撃するというものだ。

マキシム・ハイドは我が社の元役員。あの隕石がモンスターワールド由来の存在だと知っていた。

故に奴は、モンスターワールドそのものを破壊すれば、隕石の存在を消滅させられると考えた」

 

「モンスターワールドからエネルギーが供給されることでモンスターは存在を維持できる。世界ごとなくなれば、隕石型モンスターもその存在を保てないからね」

 

ルーカスはオスカーの言葉を補足する。

彼らの言葉には僅かながら怒りが潜んでいる気がした。

 

「でも、モンスターワールドを破壊って、どうやって…?」

灯の疑問に、またもルーカスが露骨に嫌そうな顔で答える。

 

「本当に想像力が低いな。

パラドックス・ブリッジでモンスターワールドに接続すれば、向こうの世界のエネルギーがこちらに流れ込み、モンスターは実体化する。

その状態でデュエリア政府の何万人の兵が一斉にモンスターを召喚して、向こうの世界に総攻撃を仕掛けるつもりだったんだ」

 

「んなの、ヒドすぎんだろ!悪いのはあの隕石だけだ!

普通に暮らしてるモンスター達まで巻き添えにすんのはおかしいだろ!」

 

声を荒げる遊次にルーカスは2度頷く。

ハイドはモンスターワールドの資源を奪うためにパラドックス・ブリッジ建造を計画した。

このような手段に出るのも納得できた。

 

「そうだろ?"X"もそう感じたからこそ、兄さんに情報をリークしたんだ。

兄さんなら、必ずモンスターワールドを守るために動くと踏んだんだろう。

で、今まさにそうなってるってわけだ」

 

「その"X"とやらは何者だ?何故そんな情報を手に入れられる?」

 

「さあ?政府内部の人間か、凄腕のハッカーとか?

でもそんなことを調べてる余裕は僕達にはないし、興味もない。

今更そいつがなんと言おうと、僕達はこの計画を止めるつもりはない」

 

バラバラだったピースは形を成し、少しずつその輪郭が露になってゆく。

 

「でも、もう心配ないよ。

奴らの計画にはパラドックス・ブリッジが必須だ。

しかし鍵はすでに僕達が手に入れてる。最後の1つ以外はね。

鍵が1つでも奪われた時点で、政府の計画は破綻してる」

 

少しの静寂が訪れる。

ニーズヘッグの目的も、ニーズヘッグ・政府の計画も理解した。

ニーズヘッグがパラドックス・ブリッジを奪おうとしているのは、

政府の計画を止め、かつ自分達の考える方法で隕石を打ち砕くためだ。

しかし、遊次達が最も懸念していることは何一つ解決していなかった。

 

「政府の計画を絶対に止めなきゃいけねえってのは同意だぜ。

でもよ…アンタらの計画にも、ドデカい問題があんだろ」

 

ここからが遊次にとっては本題だ。

そして彼の意志を代弁するように、イーサンがその根拠を並べてゆく。

 

「空間の裂け目から現れるのは、人の支配下にない制御不能のモンスターだ。

世界中にモンスターワールドのエネルギーを満たす必要がある以上、巨大な裂け目を長時間空け続けなければならない。その間も、モンスターはこちらの世界に無尽蔵に流れ込んでくる」

 

遊次は拳を強く握り、オスカーに強い眼差しを送る。

 

「わかってんだろうな?

今度は世界中が…≪コラプス≫の被害に遭うんだぞ…!」

 

対するオスカーの瞳にも、決して折れない強い意志が宿っていた。

 

「無論だ。故に、俺達はこの計画をこう呼称する。

≪セカンド・コラプス≫と」

 

その言葉を聞いた瞬間、怜央の中に一気に怒りが湧き上がる。

 

「わざわざそんなふざけた名前つけやがって…ナメてんのか、テメェら!

コラプスの時は1体のモンスターで済んだが、今度は何十、何百のモンスターが現れるかわかんねえんだぞ!」

 

怜央がオスカーに詰め寄ろうとするが、ルーカスが怜央を見下すように立ち塞がる。

 

「わかってるに、決まってるだろ。

そんなに文句があるなら…代案を出してみろよ、素人が」

 

「テメェ…!!」

怜央がルーカスの胸倉を掴む。

2人の視線は至近距離で交わり合うも、どちらも一瞬たりとも逸らすことはなかった。

 

「あとさ、空間の裂け目をただ放置するわけないだろ。

裂け目から現れるモンスターには、こちらもモンスターを召喚して対抗する」

 

「…それだけでモンスターを押さえきれるんですか。

何十・何百のモンスターが押し寄せれば、対抗しきれないはずです」

 

抵抗の言葉を返す灯も、心の中では迷っていた。

実際、彼らの計画以外にこの世界とモンスターワールドの両方を探す手立ては思いつかない。

隕石衝突まで1年もない中で、彼らがこの判断を下すのも理解はできたからだ。

 

「モンスター達の被害に真っ先に遭うのは…ドミノタウンでしょ。そんなの…」

 

しかし、どうしても"感情"がそれを受け入れることができなかった。

 

「当然、周辺地域の者は全員避難させる。

世界の人々を統率し指揮を執るために、政府の協力も得る算段だ。

パラドックス・ブリッジを掌握すれば、政府もこちらの計画に乗らざるを得ないからね」

 

「でも、"町"は滅茶苦茶になるじゃないですか…。

もう復興なんてできないぐらい、壊れてしまうかもしれない」

 

「おいおい、冗談だろ?この期に及んで町に傷すらつけるなってのか?

どれだけ傲慢で、自分達のことしか考えてないんだ?」

 

ルーカスは侮蔑の視線を送る。

灯にも、彼の指摘は真っ当だとわかっていた。

 

(それでも…)

 

コラプスの被害に遭ったドミノタウンの人達をずっと見てきた。

ドミノタウンの人々のために奮闘する遊次を、傍で見てきた。

ここまで14年間、必死で再び立ち上がろうとしてきた。

それなのに、また全て壊れてしまうのか。

残された人々は行き場を失い、居場所を失う。

 

何か、別の方法はないのか。

そう思わずにはいられなかった。

彼らの計画も徹底的に検証を重ねた末の結論なのはわかっている。

それでも。

 

灯は葛藤の末、閉口する。

しかし、今度は怜央が口を開いた。

 

「裂け目から出てくるモンスターに、モンスターを召喚して対抗?

ハッ、笑わせるぜ。机の上でしかモノを考えてねえのが丸わかりだ」

 

「…なんだと?」

 

「テメェらは…本物のモンスターを、その目で見たことがねえだろ。

あの恐怖を、絶望を…知らねえだろ」

 

怜央の言葉はコラプス当事者として、これまでのどの言葉よりも重く、強かった。

 

「散々言ってるだろ、僕達はモンスターワールドを監視してきた。

モンスターなら飽きる程…」

 

「モニター越しに見るのと、目の前に現れるのが違うってことぐらい、ガキでもわかるよな?」

怜央に煽られ、ルーカスの表情に明らかに苛立ちが滲む。

 

「あんな化け物を目の前にして、まともな精神でいられるわけねえ。

対峙した瞬間に"死"を感じる。本能が逃げることしか許さねえんだよ。

何百体のモンスターを迎え撃つなんて、戯言だ」

 

「味わってなきゃ、"解らねえ"んだ」

 

それはかつて、怜央が記憶喪失である遊次に対して言い放った言葉。

ルーカスは初めてすぐに言葉を返すことができなかった。

 

実際、怜央の指摘は正しかっただろう。

どれほどの数のモンスターが出現するかも定かでない中、

初実戦でモンスターを現実に召喚して迎え撃つのは机上の空論だった。

それでも、ニーズヘッグ達は最初から"犠牲"を覚悟してこの計画を実行している。

その信念は変わらなかった。

 

「はぁ…ダダをこねるだけなら赤子でもできるんだよ。

僕達の計画が、モンスターワールドとこの世界の両方を守れるのは事実だ。

"一部"の犠牲を払うだけでね」

 

「……一部…?」

その言葉が、遊次をさらに駆り立てた。

 

「…コラプスで亡くなった人は、379人。

その一人一人に大切な人がいて、今でもずっと苦しんでるんだよ。

この呪いは、一生消えねえんだ。

お前達の計画が始まれば、被害者はコラプスの10倍…いや100倍以上かもしれねえ」

 

「それを"一部"と切り捨てる奴らに…世界が守れるわけねえだろ…!」

 

遊次は確固たる意志を示す。

その信念は瞳に宿っていた。

 

「お前は…何もわかっていないな。本当に……!」

 

ルーカスも怒りを露わにする。

灯は、その裏には並々ならぬ思いがあるように見えた。

彼らにも、彼らの信念があるのかもしれないと。

 

「まだ、8ヶ月あんじゃねえか。なんで諦めちまうんだよ!

なんで誰も犠牲にしない道があると思わねえんだ!」

 

「それが素人だと言ってるんだ!8ヶ月"しか"ないんだよ!

これでもギリギリまで考えた結果の判断だ!」

 

ボルテージを上げるルーカスを、オスカーが左手で静止する。

 

「俺達は全てを明かした。貴様らの結論を聞かせてもらおう」

 

オスカーの言葉はまるで最後の警告だった。

遊次は自問自答する。本当にこれでいいのか。

ルーカスの言う通り、代案は思いつかない。

彼ら以上の答えを出せる確信はどこにもない。

 

それでも、多くの人達が犠牲になる道を、"選ぶ"ことができなかった。

 

灯、怜央、イーサンと視線を交わした後、遊次はオスカーの方へ向き直る。

 

「隕石も、政府の計画も止めなきゃなんねえ。

でも…お前らの計画も止める!」

 

それが今の遊次の答えだった。

 

「私も、もう誰かが苦しむ姿なんて見たくない。

これまで頑張ってきた積み上げてきたものを、壊したくない」

 

灯が想像したのは、崩壊したドミノタウンを見つめる遊次の姿だ。

もしかしたら、もう立ち直れないかもしれない。

そこで心が折れてしまうかもしれない。

今まで歩んできた道を、否定したくない。

 

それが灯の想いだった。

 

「お前らの計画で世界が救われたとしても…見捨てられて、置いて行かれる奴らが出てくる。

お前らが切り捨てる"一部"って奴だ。それは"また"、ドミノタウンだ。

ふざけんじゃねえ。これからなんだよ、俺らが立ち上がるのは…!」

 

怜央はチームの子供達の笑顔を思い出す。

 

裏カジノの依頼が解決したことで、ようやく子供達が良い未来へと歩けるスタートダッシュを切ることができた。

それをここで壊されるわけにはいかなかった。

例えどんな理由や建前があろうとも。

 

「答えは最初から決まっている。

俺は、俺の大切なもののために戦う。ただそれだけだ」

 

イーサンには一切の迷いがなかった。

しかしその言葉の裏には様々な思惑があった。

 

4人の答えは一致した。オスカーは4人の前に立つ。

 

「ならば、ここからは言葉は通用しない」

 

オスカーは黒いコートの下から漆黒のデュエルディスクを取り出した。

 

「兄さんが出るまでもない、僕が…」

 

「いや、俺がやる。…来るがいい、神楽遊次。

ヴェルテクス・デュエリア本戦出場者たる実力、見せてもらおうか」

 

元々はイーサンが発端となった話だが、オスカーは遊次に照準を定めていた。

ヴェルテクス・デュエリア本戦出場者故、その実力もオスカーにまで届いているようだ。

 

(…始まった。また兄さんの悪いクセだ)

 

「はいはい。ここは兄さんに譲るよ」

ルーカスは呆れるように後ろに数歩下がる。

 

遊次もオスカーに呼応するようにデュエルディスクを腕に装着する。

 

「あぁ、やってやる。

俺からの条件は、≪セカンド・コラプス≫計画の中止だ!」

 

「俺からの条件は、貴様らが俺達の計画に関与しないことと、≪セカンド・コラプス≫計画にまつわるあらゆる事実を口外しないことだ」

 

 

「オースデュエルの開始が宣言されました。内容確認中…」

 

プレイヤー1:神楽遊次

条件①:セカンド・コラプス計画の中止

 

 

プレイヤー2:オスカー・ヴラッドウッド

条件①Nextはセカンド・コラプス計画へ関与しないこと

条件②Nextはセカンド・コラプス計画にまつわる事実を口外しないこと

 

詳細な契約内容は、ソリッドヴィジョンの契約書として両者の前に浮かび上がる。

そこには一切の別の解釈の余地がないほどに徹底された文章が記載されており、

承認した時点で、完全なる両者の意図通りの契約にしかならないようになっている。

 

遊次とオスカーは指でソリッドヴィジョンの契約書にサインを行うと、

DDASがオースデュエルの開始を宣言する。

 

「契約内容を承認します。デュエルの敗者は、勝者が提示した契約を履行する事が義務付けられます」

両者は同時にデュエルディスクを構える。

 

 

「何千・何万の命を犠牲にしようとも、この計画を実行する。

"モンスター"と"デュエリスト"を守るために」

 

「俺は諦めねえ。誰も犠牲にしない道があるはずだ。

その道はまだ見えねえけど…お前らを止めなきゃなんねえことだけはわかる!」

 

灯と怜央、そしてイーサンは、遊次の背中を見守ることしかできない。

 

「デュエル!」

 

3人は遊次に全てを託した。大切なものを壊されないために。

敗北すれば、もうニーズヘッグを止めることはできない。

世界の命運を懸けた戦いが、今始まる。

 

 

第57話「降り掛かる真実」 完

 

 

ついに始まる、遊次VSオスカーのデュエル。

遊次は強力な妨害を持った盤石な布陣でオスカーへと挑む。

 

遊次が考えるのは"防衛ライン"の概念。

そして相手の想定を上回ることだ。

 

オスカーはアンデット族と装備魔法が主軸のデッキを操り、遊次へと迫る。

しかし遊次には隠された奥の手があった。

感情を表に出さず、淡々とデュエルを進めるオスカー。

その冷たい目の奥に潜む彼の思惑とは。

 

「相手が投げる餌に食いついてるだけじゃ、思惑通りに動くことになっちまう。

だからこそ≪防衛ライン≫を下げるんだ…!」

 

 

次回 第58話「畏怖を纏う死兵」

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