遊戯王Next   作:湯(遊戯王SS投稿者)

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第59話:世界の敵

セカンド・コラプス計画を目論むニーズヘッグ・エンタープライズCEO「オスカー・ヴラッドウッド」。

そしてその計画を阻止するために戦う覚悟を決めた遊次。

世界の命運はオースデュエルに委ねられた。

 

遊次は先行でいくつもの強力な妨害効果を敷き、さらにオスカーの裏をかくように"防衛ラインを下げる"という戦術を取る。

しかしオスカーは即座にそれに対応し、遊次の想像を上回った。

 

オスカーは、装備カードを装備したアンデットモンスター2体を素材に、融合モンスター「アームドホラー・ディオメデウス」を降臨させる。

このモンスターは装備カードを墓地へ送り、相手モンスターの効果を無効にし、除外する効果を持つ。

そしてこの効果は、装備カードが装備されている限り1ターンに何度でも使用できる強力なものだった。

さらにオスカーは上級のアームドホラーモンスターを2体呼び出し、的確な判断によって遊次に大ダメージを与える。

 

オスカーのデッキの弱点は装備カードにより魔法・罠ゾーンを圧迫することだと考えた遊次だが、

手札から捨てられたモンスターの効果により、オスカーは装備魔法3枚を相手フィールドに送りつけ、魔法・罠ゾーンを空けるという戦略を取った。

これによりPゾーンも塞がれ、遊次はさらに追い詰められることとなる。

 

そしてダメ押しの如く、Pゾーンのプロメテの効果も無効にされてしまった。

遊次は次のターン、正真正銘、たった1枚の手札からこの絶望的な盤面を覆さなければならない。

しかし、遊次は決して諦めていなかった。

 

「やってやるよ。

こんな盤面ぐらいひっくり返せなきゃ、世界なんざ救えるわけねぇ!」

 

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【遊次】

LP2300 手札:0

 

Pゾーン:妖義賊-戴火のプロメテ(無効・対象不可)

装備魔法:ディアボリックキャノン、インファーナルクロー、スティジアンウィング

 

【オスカー】

LP7600 手札:4(バンシーヴェイル、アームドホラー・フュージョン)

 

①アームドホラー・ディオメデウス ATK3600

 装備:ディアボリックキャノン、インファーナルクロー

②アームドホラー・エタナフォラス ATK2200

 装備:スティジアンウィング

③アームドホラー・ケルヴァラク ATK2400

 装備:マレフィックアイ

 

永続魔法:アームドホラー・カースエンブレイス

装備魔法:マレフィックアイ

伏せカード:1

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遊次が思い浮かべるのは、14年前の崩壊したドミノタウン。

 

(ここまで、1歩1歩、みんなで力を合わせて、乗り越えてきたんだ。

なのに、またぶっ壊されてたまるか…!)

 

14年前に元通りどころではない。

パラドックス・ブリッジで大穴が開けば、ドミノタウンだけに留まらず、世界中でモンスターが猛威を振るうこととなるだろう。

 

「いくらこの世界とモンスターワールドを守るって建前があっても…そんな方法だけは"選んじゃいけねえ"。

他の方法を探す以外に、選択肢はねえんだよ」

 

遊次はデッキトップに指をかけ、力を込める。

 

(ここで俺が負けたら、誰がアイツらを止めるんだ)

 

目を瞑り、指先に願いを託す。

 

(応えてくれ、俺のデッキ…!)

 

「俺のターン、ドロー!」

遊次は目を開き、引いたカードを見る。

 

「…まだまだ戦えるみたいだぜ、俺のデッキは」

遊次の表情に、強い闘志が宿った。

 

「ならば見せてみろ。貴様のデュエリストとしての底力を」

オスカーは遊次の闘志に呼応するように、黒いマントを翻し、デュエルディスクを構える。

 

(…相変わらず、どんな相手でも真剣勝負か。あんなヤツ、さっさと倒しちゃえばいいのに)

ルーカスは呆れ半分に兄の背を見つめる。

 

遊次の表情は、まるでいつものように軽やかなものへと変わっている。

 

「魔法&罠ゾーンを空けるために、お前は俺に装備魔法を送りつけたんだろうけど…わかってるよな?

俺に"元々の持ち主が相手となるカード"を送ったらどうなるかってな」

 

手札の1枚のカードを掲げながらオスカーに得意げな笑みを見せる。

 

「魔法カード発動!『妖義賊の施し』!

元々の持ち主が相手となるカードを1枚墓地に送ることで、2枚ドローできる!」

 

■妖義賊の施し

 通常魔法

 このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドの元々の持ち主が相手となるカード1枚を対象として発動できる。

 そのカードを墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

「…引きやがった!"最適解"を!」

怜央は思わず声を上げて歓喜を表す。

 

「俺のPゾーンに置かれた『ホラーアームズ・インファーナルクロー』を墓地に送って、2枚ドローする!」

ディオメテウスに装備されていた巨爪が剥がれ、遊次の手札へと変換される。

 

「…『ホラーアームズ・インファーナルクロー』が墓地へ送られた時、効果発動。このカードを手札に戻す」

 

「ドローできる上にPゾーンも空いて、さらにディオメデウスの妨害効果を1つ潰した。一石三鳥だな」

 

イーサンは未だ冷静さを保ちながらも、その口角は上がっていた。

遊次は常に仲間の思いを背負い、期待に応え続けてきた。

この一手によって、灯や怜央からも不安が少しずつ引いてゆく。

 

オスカーの場のエタナフォラスは魔法効果を1度無効にできるが、「妖義賊の施し」には使用しなかった。

そしてその理由はこの場の誰もが理解していた。

勢いづいた遊次は墓地から1枚のカードをピックアップする。

 

「墓地の『爆炎の予告状』の効果発動!

このカードは前の俺のターンに発動された。つまり2ターン後の今、墓地から除外できる!

このカードが除外された時、効果発動!相手のカードを全て破壊する!」

 

■爆炎の予告状

 通常魔法

 ①:このカードは発動後、墓地に送られる。

 このカードの発動から2ターン後の自分メインフェイズに、このカードを墓地から除外できる。

 ②:このカードが墓地から除外された場合に発動できる。

 相手フィールドのカードを全て破壊する。

 

 

「『アームドホラー・エタナフォラス』の効果発動。

1ターンに1度、相手の魔法効果を無効にする」

 

オスカーがエタナフォラスの効果を『妖義賊の施し』に使わなかったのはこのためだ。

しかしここから先は誰も予想していなかった。

遊次は手札からさらに1枚のカードを掴む。

 

「この瞬間、速攻魔法『妖義賊の予定変更』を発動!

このカードは予告状カードが除外されて効果を発動したチェーン上で発動できる!

除外された予告状の効果を無効にし、デッキから別の予告状を除外して、その効果を適用する!」

 

 

■妖義賊の予定変更

 速攻魔法

 このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

 ①:自分の墓地の「予告状」カードが除外され、効果が発動した同一チェーン上で、その除外状態の「予告状」カードを対象として発動できる。

 その効果を無効にする。その後、そのカードとカード名が異なる「予告状」カード1枚をデッキから除外し、その効果を適用する。

 ②:自分の「ミスティックラン」モンスターが、相手のカードを対象とする効果を発動した同一チェーン上で、フィールドの正しい対象となる別のカード1枚を対象として発動できる。

 その効果の対象を正しい対象となるそのカードに移し替える。

 ③:墓地のこのカードを除外し、自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターが攻撃する場合、ダメージステップの間だけその相手モンスターの効果は無効化される。

 

 

「お前に勝つには、まだまだ仲間が要るんだ!

俺はデッキから『一攫千金の予告状』の効果を適用して、3枚ドローする!」

 

■一攫千金の予告状

 通常魔法

 ①:このカードは発動後、墓地に送られる。

 このカードの発動から2ターン後の自分メインフェイズに、このカードを墓地から除外できる。

 ②:自分の手札が1枚以下で、このカードが墓地から除外された場合に発動できる。

 自分はデッキから3枚ドローする。

 

遊次は素早く3枚のカードをデッキから引く。

遊次の手札はすでに4枚。反撃の準備は十分整った。

 

「…つくづく引きのいい奴だな」

ルーカスは唇に親指を添え、遊次を睨む。

 

「デッキは時に、デュエリストの心に呼応する。

少なくとも、奴がその器だっただけのことだ」

 

オスカーは弟とは違い、チャンスを掴んだ遊次をただ認めた。

そして遊次も、オスカーに対しての印象が少し変わりつつあった。

彼は数千・数万の人々を犠牲にしても、この世界とモンスターワールドの両方を守る冷徹な判断を下した。

しかし、ことデュエルに関しては、冷徹さとは違う何かを持っているような気がした。

 

(オスカーはせっかく魔法&罠ゾーンを空けたのに、手札に効果を受けなくさせる装備魔法『バンシーヴェイル』を残してる。

ディオメデウスに装備させとけば妨害を一つ増やせたのに、アイツはそうしなかった。

もし他のモンスターに俺のカード効果が及んだ時、墓地のアルベレトで手札のバンシーヴェイルを装備させて防ぐためってわけか。

ぬかりない野郎だぜ…)

 

遊次は思考を巡らせる。

オスカーの墓地の「アームドホラー・アルベレト」は、フリーチェーンで除外し、手札の装備魔法をモンスターに装備する効果がある。

効果を受けない効果を付与する「バンシーヴェイル」をフリーチェーンで装備させて自分のモンスターを守るために、

オスカーはあえてこの装備魔法をまだ手札に残しているというわけだ。

 

(ディオメデウスの装備魔法は2枚。

でも永続魔法と墓地のアルベレトの効果で装備魔法を装備させられるから、最大4回俺のモンスター効果を無効にされちまう)

 

(しかもエタナフォラスに装備された『スティジアンウィング』は、俺の攻撃を全部装備モンスターに誘導する効果がある。

しかも戦闘破壊耐性を与えるから、今のままじゃディオメデウスを攻撃で突破できねえ。

さらにアイツの1枚の伏せカード…あれは前のターン手札に加えてた罠『アームドホラー・テネブラスチェーン』のはずだ)

 

遊次は先ほどオスカーが手札に加えていた罠カードを思い浮かべる。

 

■アームドホラー・テネブラスチェーン

 永続罠

 このカード名の①②の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分の「アームドホラー」モンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動できる。

 戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を0にする。

 その自分の「アームドホラー」モンスターが装備カードを装備している場合、

 そのモンスターの攻撃力はダメージステップの間だけ、相手モンスターの元々の攻撃力分アップする。

 ②:自分フィールドのアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。

 墓地のこのカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。

 ③:装備モンスターは以下の効果を発動できる。

 ●相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターの表示形式を変更する。

 この効果は相手ターンでも発動できる。

 

(あの伏せカードをどうにかしねえと、俺はバトルで返り討ちに遭う。

でも永続魔法の効果でアームドホラー魔法・罠は破壊から守られちまう。

永続魔法自体は破壊できるけど、そうなると2回も魔法・罠に対して破壊効果を使わなきゃならない。

今の俺にそんなリソースはねえ。クソッ…超えなきゃならねえ壁が多すぎる…!)

 

遊次がオスカーの盤面を覆すには、ディオメデウスの複数回の妨害を乗り越え、伏せカードまで対応しなければならない。

それだけでなく、装備モンスターに戦闘破壊耐性を付与し、攻撃誘導まで行う装備魔法への対処も必要だ。

 

遊次は自分の手札を見つめる。

脳内に数多のルートが複雑に走る。

そして、ある一つの結論に至った。

 

(…突破口は、ある。でもそのためには、最後の"鍵"を引き当てなきゃならねえ。

それでも…俺はデッキを信じる!)

 

遊次が長き思考の果てに、真っ直ぐと前を見据える。

 

「俺は手札の『妖義賊-誘惑のカルメン』をPスケールにセッティング!」

 

 

■妖義賊-誘惑のカルメン

 ペンデュラムモンスター

 レベル5/闇/魔法使い/攻撃力2000 守備力1900 スケール2

 【P効果】

 このカード名の①②のP効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

 ①:自分フィールドの「ミスティックラン」モンスター1体をリリースして発動できる。

 デッキから「ミスティックラン」モンスター1体を特殊召喚する。

 ②:相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターを自分の手札に加える。

 【モンスター効果】

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分の墓地のモンスター1体と相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

 対象の自分の墓地の「ミスティックラン」モンスターを相手フィールドに特殊召喚し、

 対象の相手フィールドのモンスターのコントロールを得る。

 ②:このカードが「ミスティックラン」モンスターの融合・S・X・L召喚の素材となった場合、

 または「ミスティックラン」モンスターの儀式召喚のリリースとして使用された場合に発動できる。

 EXデッキの表側表示のこのカードを手札に加える。

 

頭上には黒いローブを纏った妖艶な魔女が浮かび上がる。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/dwkEFaw

※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

 

「カルメンのP効果発動!相手の墓地のモンスターを1体、俺の手札に加える。

『アームドホラー・ペルフェゴル』をいただくぜ」

 

「さらに手札の『妖義賊の復活』発動!

元々の持ち主が相手となるカードが俺の場にある時、墓地の妖義賊を復活させる!

対象は『妖義賊-幽玄のカリオストロ』!」

 

もしカリオストロが蘇れば、ディオメデウスの「効果を無効にして除外する」効果を「このモンスターのコントロールを相手に移す」効果に書き換えることができる。

しかし事態はそう簡単には進まない。

 

「『アームドホラー・ケルヴァラク』の効果発動。相手の墓地のカードを除外する。

この効果は装備カードを装備している場合、相手ターンでも発動可能。

『妖義賊-幽玄のカリオストロ』を除外」

 

オスカーは無慈悲に遊次の手を阻む。

しかし遊次はすぐに次の一手を打つ。

 

「速攻魔法『妖義賊の早業』発動!

Pゾーンの妖義賊を特殊召喚できる!カルメンを特殊召喚!」

 

■妖義賊の早業

 速攻魔法

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分のPゾーンの「ミスティックラン」Pカード1枚を対象として発動できる。

 そのカードを特殊召喚する。

 ②:墓地のこのカードを除外して発動できる。

 元々の持ち主が相手となるモンスターを手札から特殊召喚する。

 

ローブを纏った妖艶な魔女がフィールドへと降り立つ。

 

「カルメンの効果発動!

俺の墓地の妖義賊を1体相手フィールドに特殊召喚して、相手モンスターを奪う!

俺の墓地の怪盗ルパンをお前に渡して、ディメデウスを奪わせてもらうぜ!」

 

しかしそんな効果を当然オスカーは通すはずがなかった。

 

「『アームドホラー・ディオメデウス』の効果発動。

『ホラーアームズ・ディアボリックキャノン』を墓地へ送ることで、カルメンの効果を無効にし、除外する」

 

「さらに永続魔法『アームドホラー・カースエンブレイス』の効果発動。

1ターンに1度、デッキから装備魔法をアームドホラーに装備させる。

ディオメデウスに『ホラーアームズ・ネクロメイル』を装備」

 

■ホラーアームズ・ネクロメイル

 装備魔法

 アンデット族モンスターにのみ装備可能。

 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:装備モンスターが墓地へ送られた場合に発動できる。

 そのモンスターを特殊召喚し、このカードを装備する。

 その後、相手の手札をランダムに1枚選んで捨てる。

 ②:このカードを含む自分の墓地の「ホラーアームズ」カード3枚を対象として発動できる。

 そのカードをデッキに戻し、デッキから「フュージョン」魔法カード1枚を手札に加える。

 ③:このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。

 このカードを手札に加える。

 

 

ディオメデウスに白骨を組んだ鎧が装備される。

肋の骨板が左右から噛み合い、背は連なった背骨でしっかり固められる。

胸の細い裂け目から青黒い瘴気が薄く漏れ、内側の淡い紅が呼吸のように脈を打つ。

 

「ネクロメイルが装備されたモンスターが墓地へ送られた場合、そのモンスターを特殊召喚し再びネクロメイルが装備される。

そしてその後、相手の手札をランダムで1枚捨てる」

 

「チェーン1のディオメデウスの効果によりカルメンの効果を無効にし除外する」

 

ディオメデウスは左手を静かに向ける。

カルメンの足元に冷たい霊気が鎖のように立ち上がり、影の鎖が対象を縫い止めた。

鎖はカルメンの身体を貪り、やがてフィールドから除外された。

 

「墓地へ送られたディアボリックキャノンの効果により、このカードを手札に戻す」

 

「だけどディアボリックキャノンの装備が外れたことで、ディオメデウスの攻撃力は元に戻るぜ」

アームドホラー・ディオメデウス ATK2600

 

「この時を待ってたんだ!手札の『妖義賊-美巧のアカホシ』の効果!

除外されてる予告状を好きな枚数デッキに戻すことで、特殊召喚できる!

爆炎の予告状と一攫千金の予告状をデッキに戻して特殊召喚!」

 

 

■妖義賊-美巧のアカホシ

 ペンデュラムモンスター

 レベル7/風/鳥獣/攻撃力2300 守備力2000 スケール8

 【P効果】

 このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:元々の持ち主が相手となるモンスター1体を対象とし、1~7までの任意のレベルを宣言して発動できる。

 そのモンスターのレベルはターン終了時まで宣言したレベルになる。

【モンスター効果】

 このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分の除外されている「予告状」カードを任意の枚数デッキに戻して、このカードは手札から特殊召喚できる。

 この効果で特殊召喚したこのカードは、

 攻撃力がこの効果でデッキに戻した「予告状」カードの枚数×500アップし、

 このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ相手モンスターの効果を受けない。

 ②:自分メインフェイズに発動できる。

 デッキから「ミスティックラン」Pカード1枚を手札に加える。

 自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合、

 この効果で手札に加えるカードは2枚になる。

 ③:このカードがEXデッキに表側で存在し、自分のPゾーンにPカードが存在する場合に発動できる。

 このカードを手札に加える。

 

 

赤い着物を纏い長刀を腰に差した鳳凰の頭を持つモンスターが現れる。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Beta2kb

※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

 

「アカホシの攻撃力はデッキに戻した予告状の枚数×500アップする!」

妖義賊-美巧のアカホシ ATK3300

 

「さらにアカホシは自分の攻撃力以下のモンスターの効果は一切受けない。

もちろん、ディオメデウスの効果もな」

 

アカホシの特殊召喚の後、オスカーは少し考える様子を見せたが、すぐに優先権は遊次に返ってくる。

 

(墓地のアルベレトで手札に戻ったディアボリックキャノンを装備し直せば、

ディオメデウスの攻撃力はまた3600になって、アカホシの効果を無効にできるようになる。でもアイツはそうしなかった。

アルベレトはあくまで、バンシーヴェイルを装備させて効果を受けなくさせるために取っておく…ってことか)

 

オスカーの墓地のアルベレトは、フリーチェーンで手札の装備魔法を装備できる。

アカホシの効果を防ぐためにディアボリックキャノンを装備させた場合、手札のバンシーヴェイルは装備させられない。

そうなれば、遊次が魔法カード等でディオメデウスを奪おうとすれば、オスカーは抵抗できなくなってしまう。

ディオメデウスが無効にできるのはあくまでモンスター効果のみだからだ。

しかしアルベレトを保持しておけば、効果を受けない装備魔法である「バンシーヴェイル」をフリーチェーンで装備させ、防ぐことができる。

故にオスカーはこの選択をしたというのが遊次の考えだ。

 

「アカホシの効果発動!デッキから妖義賊Pモンスターを手札に加える。

元々の持ち主が相手となるカードが俺の場にある場合、手札に加えるカードは2枚になる。

俺はデッキから『妖義賊-舞蛇のキク』と『妖義賊-夜駆けのシチベエ』を手札に加える!」

 

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【遊次】

LP2300 手札:4(アームドホラー・ペルフェゴル、キク、シチベエ)

 

①妖義賊-美巧のアカホシ ATK3300

 

Pゾーン:妖義賊-戴火のプロメテ(無効・対象不可)

装備魔法:スティジアンウィング

 

【オスカー】

LP7600 手札:6(バンシーヴェイル、インファーナルクロー、ディアボリックキャノン、アームドホラー・フュージョン)

 

①アームドホラー・ディオメデウス ATK3600

 装備:ネクロメイル

②アームドホラー・エタナフォラス ATK2200

 装備:スティジアンウィング

③アームドホラー・ケルヴァラク ATK2400

 装備:マレフィックアイ

 

永続魔法:アームドホラー・カースエンブレイス

装備魔法:マレフィックアイ、ネクロメイル

伏せカード:1

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ようやく遊次のフィールドに強力なモンスターを維持することができた。

しかし、依然ディオメデウスは無効+除外効果を1度使え、墓地のアルベレトによって手札の装備魔法を装備させることも可能だ。

また、オスカーの伏せカードとスティジアンウィングによる攻撃誘導もある以上、遊次の前にそり立つ壁はまだまだ高い。

 

「俺は『妖義賊-舞蛇のキク』をPスケールにセッティング!」

 

■妖義賊-舞蛇のキク

 ペンデュラムモンスター チューナー

 レベル3/水/爬虫類/攻撃力1000 守備力1500 スケール8

 【P効果】

 このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分メインフェイズに発動できる。

 デッキから儀式モンスターまたは儀式魔法カード1枚を手札に加える。

 その後、自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合、自分はデッキから1枚ドローする。

【モンスター効果】

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:P召喚したこのカードが存在する限り、戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは代わりに相手が受ける。

 ②:このカードが相手モンスターとの戦闘で破壊された場合に発動できる。

 その相手モンスターのコントロールを得る。

 

遊次の頭上に、桃色の着物を纏った白い蛇のモンスターが現れる。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/tsPN11Y

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「キクのP効果発動!1ターンに1度、儀式モンスターか儀式魔法をデッキから加える。

俺は『儀式の予告状』を手札に加える。

元々の持ち主が相手となるカードが俺の場にある時、さらに1枚ドローできる!」

 

遊次は再び、デッキトップに置いた指に力を込める。

 

(ここでキーカードを引けなきゃ、アイツには勝てねえ…!

必要なのは"特殊召喚時に効果を発動できるモンスター"だ…!)

 

心を研ぎ澄ませる。

指先のただ一点に、"願い"を込める。

そして、滑らかな動きでデッキトップからカードを引く。

それはまるで、明鏡止水の一閃。

 

遊次は引いたカードに視線を送る。

引いたのは『妖義賊-深緑のロビン』。

 

(…来た!)

 

パズルの最後の1ピースが埋まった。

遊次の頭の中はクリアだ。

 

「墓地の『妖義賊の早業』の効果発動。

このカードを除外して、相手から奪った手札のモンスターを特殊召喚できる!

来い『アームドホラー・ペルフェゴル』!」

 

現れたのは、巨大な斧を携えたアンデットの戦士だ。

全身を覆うのは緑青に蝕まれたような古代の甲冑で、そこから骨のような身体が覗いている。

鎧の継ぎ目からは青白い瘴気が漏れ出し、まるで肉体そのものが呪いに浸食されているかのようだ。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/rtDjWFa

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「手札から『儀式の予告状』発動!」

 

■儀式の予告状

 儀式魔法

 「ミスティックラン」儀式モンスターの降臨に必要。

 ①:このカードは発動後、墓地に送られる。

 このカードの発動から2ターン後の自分メインフェイズに、このカードを墓地から除外できる。

 ②:このカードが墓地から除外された場合に発動できる。

 レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベル以上になるように、

 自分の手札・フィールドのモンスターをリリースし、

 手札・デッキから「ミスティックラン」儀式モンスター1体を儀式召喚する。

 

 

発動されたカードはただ墓地に送られる。

 

「さらに墓地の『妖義賊の復活』の効果発動!

このカードを墓地から除外して、墓地の予告状を除外できる!

『儀式の予告状』を除外!」

 

「除外された『儀式の予告状』の効果発動!

手札・フィールドからモンスターをリリースして、デッキから儀式召喚を行う!

レベル8『アームドホラー・ペルフェゴル』をリリースして、儀式召喚を執り行う!」

 

フィールドに1つの灯篭が現れ、ペルフェゴルが光へと消えると、灯篭に炎が灯る。

 

「チェーンして墓地の『アームドホラー・アルベレト』の効果発動。

手札の『アームドホラー・バンシーヴェイル』をディオメデウスに装備する」

 

ディオメデウスの背後に、魔女の形をした黒い霧のヴェールが浮かび上がる。

バンシーヴェイルは相手の効果を受けない効果を与える装備魔法。

これから現れる儀式モンスターに対して万全を尽くすためだろう。

 

 

「桜吹雪の舞う中に、現れたるは荒野の義賊!

儀式召喚!来い、俺の切り札!『妖義賊-ゴエモン』!」

 

 

■妖義賊-ゴエモン

 儀式モンスター

 レベル7/地/戦士/攻撃力2500 守備力2000

 「予告状」儀式魔法カードにより降臨。

 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:元々の持ち主が相手となるカードが自分フィールドに存在する限り、

 自分フィールドのモンスターは相手の効果の対象にならない。

 ②:相手の墓地のモンスター、または魔法・罠カード1枚を対象として発動する。

 モンスターカードの場合、そのカードを自分フィールドに特殊召喚し、

 魔法・罠カードの場合、自分フィールドにセットする。

 ③:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターをリリースして儀式召喚された場合、以下の効果を得る。

 元々の持ち主が相手となる自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動する。

 そのモンスターの元々の攻撃力分、自分フィールドの全てのモンスターの攻撃力をアップする。

 

 

桜吹雪と共に現れたのは、大剣を携えた戦士のモンスター。

メタリックなボディは鉄の装甲で覆われており、鎧には赤の紋様が描かれている。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/VBKj9UV

※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

 

 

ついに姿を現した切り札。

その背に、灯と怜央は希望を見出し、笑みを浮かべる。

 

「それが、貴様の切り札か」

 

ゴエモンの放つ気迫と、遊次からの信頼の眼差し。

オスカーはこのモンスターこそが遊次の相棒であることを見抜いた。

 

「あぁ。ゴエモンはいつも俺のピンチを救ってくれた。

それは、今回もだ」

 

「大見栄切るのはいいけど、ディオメデウスの無効効果がまだ残ってることは当然わかってるんだよね?」

ルーカスはいやらしく水を差す。

 

「あぁ。でも…んなもん、もう関係ねえよ」

遊次の強気な言葉に、ルーカスは眉をひそめる。

 

(遊次には、見えてるっていうの?勝利のルートが…)

 

灯の瞳には、遊次の背中が、強く、たくましく映っていた。

それはいくつもの困難を乗り越えてきたことで、無意識に手に入れた自信と気迫の表れだった。

 

「隕石からこの世界を守るために、政府からモンスターワールドを守るために…お前らは"一部"ってヤツを切り捨てる道を選んだ」

 

「お前らは、その1人ひとりの命と…ちゃんと向き合ったのかよ」

 

遊次はオスカーに面と向かい、自らの意思をぶつける。

それは、遊次がすでにこのデュエルの終局を見据えているからこそだった。

 

オスカーは何も答えない。

ルーカスは腕を組み、俯いている。

その腕は、微かに震えていた。

 

「俺はドミノタウンで、コラプスに苦しむ人達を近くでずっと見てきた。

なんにも悪くねえ人が、急に日常をぶっ壊されて…」

 

「それなのに、自分のことなんて気にしねえで、俺に"腹減ってるだろ"って、コロッケくれたりさ。

誰より苦しいはずのに、笑顔で。

そんな人達を見てたら、簡単に切り捨てるなんてできねえんだよ…!」

 

感情を強く露わにする遊次。

それに対してルーカスは冷めたトーンで言葉を返す。

 

「典型的な素人だな。ミクロとマクロの違いすらわかっていない。

そんな感情論にいちいち縛られてたら、世界を救うための大きな決断はできないんだよ」

 

「…その"決断"が、早すぎるんじゃねえかって言ってんだ」

ルーカスの言葉にも遊次は折れない。

 

「なんで…もっと足掻かねえんだよ。

地べたを這いつくばってでも、ギリギリまで、誰も犠牲にしない道を探せよ。

諦めんのが、早すぎんだよ!」

 

しかしルーカスもさらに強い敵意を向ける。

 

「…お前ごときに僕達の何がわかる。

どんな道を歩んでここまで来たのかも、お前は…!」

 

言葉を荒げるルーカスを、オスカーが片手で制する。

 

「この問答の答えは、デュエルが示す。

神楽遊次、貴様の正しさを証明したければ、俺を倒してみろ」

 

その言葉に、遊次は眼差し一つで返す。

 

遊次は大きく両腕を広げる。

その頭上では、巨大な振り子が揺れている。

 

「俺のPスケールは2~8!よってレベル3~7のモンスターを同時に召喚可能!」

全員の視線が、天に集まる。

 

「天に弧を描く義の心、その輝きより現れ同胞の声に呼応せよ!

ペンデュラム召喚!現れろ、俺のモンスター達!」

 

大きく揺れる振り子の中央から、2つの光がフィールドへ注がれる。

 

「手札より、『妖義賊-深緑のロビン』、『妖義賊-夜駆けのシチベエ』!」

 

遊次のフィールドに、現れたのは緑色の外套を纏い弓を持った若い青年のモンスターと、青いマントを羽織った兎の獣人が降り立つ。

 

ロビン:ttps://imgur.com/a/PHAQB1t

シチベエ:ttps://imgur.com/a/pZDHsmf

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--------------------------------------------------

【遊次】

LP2300 手札:1

 

①妖義賊-美巧のアカホシ ATK3300

②妖義賊-ゴエモン ATK2500

③妖義賊-深緑のロビン ATK1800

④妖義賊-夜駆けのシチベエ ATK2100

 

Pゾーン:妖義賊-舞蛇のキク、妖義賊-戴火のプロメテ(無効・対象不可)

装備魔法:スティジアンウィング

 

【オスカー】

LP7600 手札:6(バンシーヴェイル、インファーナルクロー、ディアボリックキャノン、アームドホラー・フュージョン)

 

①アームドホラー・ディオメデウス ATK3600

 装備:ネクロメイル

②アームドホラー・エタナフォラス ATK2200

 装備:スティジアンウィング

③アームドホラー・ケルヴァラク ATK2400

 装備:マレフィックアイ

 

永続魔法:アームドホラー・カースエンブレイス

装備魔法:マレフィックアイ、ネクロメイル

伏せカード:1

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遊次はオスカーのフィールドにセットされた1枚のカードを指さす。

 

「その伏せカード…『アームドホラー・テネブラスチェーン』だろ。前のターンで手札に加えてた永続罠だ。

そのカードはアームドホラーがバトルする時、1ターンに1度、相手モンスターの攻撃力を0にする効果。

それにアームドホラーが装備カードを装備してれば、相手モンスターの元々の攻撃力が、そのモンスターに上乗せされる。

つまり、俺がお前のモンスターに攻撃した時点で、俺のライフは0になっちまう」

 

その言葉を聞いたオスカーの視線が一瞬だけ、俯くように下に向けられる。

 

「でもその罠カードをどうにかしようにも、

お前の場にはアームドホラー魔法・罠に破壊耐性を与える永続魔法と、無効効果持ちのディオメデウスがある。

でもな…この"一手"で、全部ひっくり返してやる!」

 

(そうか!P召喚されたロビンとシチベエ…この2体はどちらも…!)

遊次の堂々たる宣言に、イーサンはその意図をすぐに理解した。

 

「P召喚されたロビンとシチベエは、2体とも特殊召喚された時に効果を発動する!

同時に発動する効果の発動順は、俺が決められるんだ!そこに"勝機"はある!」

 

「チェーン1でシチベエの効果を、チェーン2でロビンの効果を発動!

チェーン2のロビンは特殊召喚時、墓地の妖義賊を特殊召喚できる。

そしてチェーン1のシチベエが特殊召喚した時…お互いの魔法&罠ゾーンのカードを、全て入れ替える!」

 

■妖義賊-夜駆けのシチベエ

 ペンデュラムモンスター

 レベル5/地/獣/攻撃力2100 守備力1500 スケール8

 【P効果】

 このカード名の①②のP効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドの「ミスティックラン」Pモンスター1体を対象として発動できる。

 そのカードを自分のPゾーンに置く。

 ②:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合に発動できる。

 デッキから「ミスティックラン」カードまたは「予告状」魔法カード1枚を墓地へ送る。

 【モンスター効果】

 このカード名の①②の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できず、③の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分の手札が相手の手札の枚数以上で、このカードが特殊召喚した場合に発動できる。

 自分・相手の手札を全て入れ替える。

 ②:自分・相手の魔法&罠ゾーンにカードが存在し、このカードが特殊召喚した場合に発動できる。

 自分・相手フィールドの魔法&罠ゾーンのカードを全て入れ替える。

 ③:自分メインフェイズに発動できる。このカードを自分のPゾーンに置く。

 

 

「まずはチェーン2のロビンの効果で墓地の妖義賊を復活させる!

対象は『妖義賊-駿足のジロキチ』!」

 

「…ディオメデウスの無効効果は、直接チェーンした効果にしか適用されねえ。

本命のシチベエの効果は、ロビンの効果で隠されて確実に通る…!」

 

怜央は思わぬ遊次の秘策に、口角を上げる。

 

「魔法・罠カードを入れ替えれば、厄介な罠カードがオスカーさんの場から消えて、まともに攻撃できるようになる…!」

灯の表情にも希望が見え始める。

 

(もしこれが逆転の一手なら、遊次の最後の手札は…ゴエモンの効果を確実に通すためのカードのはずだ。

例えば"効果を受けない"効果を付与する…妖義賊の連携陣)

 

シチベエの効果が通るだけでは勝利条件は揃わない。

イーサンは更にその先に思いを馳せる。

 

そして、イーサンの予想は的中していた。

遊次の手札の最後の1枚は『妖義賊の連携陣』。

 

元々の持ち主が相手となるカードを墓地へ送ることで、妖義賊に"効果を受けない"効果を付与する。

それによりゴエモンで相手の墓地のペルフェゴルを奪い、更にリリースしてその攻撃力分全モンスターの攻撃力を上げれば、その総攻撃でオスカーのライフを削り切れる。

スティジアンウィングによる攻撃誘導と戦闘破壊耐性があろうとも。

 

遊次は見つけたのだ。ディオメデウスの妨害を全て潰さずとも、有効打を通す方法を。

そしてそのために、シチベエと同一タイミングで効果を発動するモンスターを引き込む必要があった。

その回答が「深緑のロビン」だ。

 

オスカーが送った装備魔法を墓地へ送り、ドローに変換した。

予告状を書き換え、さらにモンスターを引き込んだ。

カルメン、アカホシ、キク…数々のモンスターがバトンを繋ぎ、最後のピースを引き当てたのだ。

 

これまでも遊次は想像を上回る方法で、どんな困難でも突破してみせた。

そしてそれは、世界の命運を懸けた戦いにおいても変わらなかった。

 

「…ディオメデウスの効果発動。

『ホラーアームズ・バンシーヴェイル』を墓地へ送り、深緑のロビンの効果を無効にし、除外する」

 

オスカーはそうするしかない。これは誰の目にも明らかだった。

しかし遊次の真の狙いであるシチベエには届かない。

 

 

オスカーは、自らの顔を左手で覆った。

その表情は隠され、見えない。

 

「これまで、数え切れぬほどのデュエリストと戦ってきた。

だがその殆どが、期待外れの有象無象に過ぎなかった」

 

オスカーは静かなトーンで語り始める。

オスカーは感情を表に出さない。

しかしその声には、はっきりと悔しさが滲んでいた。

 

「貴様と初めて相まみえた時、他の連中とは違う"何か"を感じた。

デュエルで道を切り拓いてきた猛者だけが持つ気迫…そのようなものを」

 

オスカーが、顔を覆っていた左手を降ろす。

 

その眼は、ひどく冷たかった。

 

「だが…所詮貴様も、想像を超えぬ有象無象に過ぎなかったようだ」

 

遊次達には、言葉の意味が理解できなかった。

辻褄が、合わない。

 

その言葉は、まるで…。

 

 

「リバースカード、オープン。

速攻魔法『アームドホラー・フュージョン』」

 

 

■アームドホラー・フュージョン

 速攻魔法

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:フィールドのモンスターを融合素材とし、「アームドホラー」融合モンスター1体を融合召喚する。

 ②:このカードを墓地から除外し、自分の墓地の「アームドホラー」モンスターを任意の数だけ対象として発動できる。

 それらのモンスターを効果を無効にして特殊召喚する。

 その後、選んだ枚数と同じ数だけ自分の墓地の「ホラーアームズ」装備魔法を選択してこの効果で特殊召喚したモンスターに装備し、

 それらのモンスターを融合素材として、「アームドホラー」融合モンスター1体を融合召喚する。

 この効果で融合召喚したモンスターはこのターン、直接攻撃できない。

 

 

「…………は?」

 

遊次は、絶句した。

状況を何一つ飲み込めなかった。

 

なんで、そのカードがそんなところにある?

罠カードはどこにいった?

なんでそのカードが≪アームドホラー・テネブラスチェーン≫じゃないんだ?

 

 

灯やイーサン、怜央も同様に、信じられない様子で目を見開いていた。

辺りを絶望が支配する。

 

「俺は装備魔法を装備したアンデット族モンスター3体で、融合召喚を行う」

オスカーの場の3体のアンデットが、地面に現れた漆黒の大穴へと飲み込まれてゆく。

 

「亡魂の深淵より出でし魔竜よ、具現した畏怖を纏い万物を喰らい尽くせ」

 

「融合召喚。現れよ、我が魂!

『アームドホラー・ドラゴン』!」

 

 

■アームドホラー・ドラゴン

 融合モンスター

 レベル8/闇/アンデット/攻撃力3500 守備力3300

 装備カードを装備しているアンデット族モンスター3体

 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:このカードが融合召喚した場合に発動できる。

 自分のデッキ・墓地・手札から装備魔法カードを3枚まで選び、このカードに装備する。

 この効果に対して相手は効果を発動できない。

 ②:自分フィールドの装備カードを任意の数墓地に送って発動できる。

 その数だけ相手フィールドのカードを選んで墓地へ送る。

 この効果は相手ターンでも発動できる。

 ③:自分の手札・フィールド・墓地からアンデット族モンスターと装備魔法カードを3枚ずつ除外して発動できる。

 このカードを融合召喚扱いとして墓地から特殊召喚する。

 

 

 

現れたのは、黒い骨が剥き出しとなった悪魔のようなアンデットのドラゴン。

頭部は、巨大な髑髏そのものだ。鋭く逆巻く二対の角が天を睨み、空洞の眼窩には、血の色をした呪いの光が燃え上がっている。

大きく開いた顎からは不揃いで巨大な牙が覗き、冷徹な破壊の意思を宿している。

胸郭の隙間からは命のない空洞が覗き、圧倒的な畏怖と威圧を放つ。

胸部の中心には、赤く禍々しい核が微かに脈動している。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/WbaLIsO

※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

 

 

そのモンスターと対峙した瞬間、感じたのは「死」。

アームドホラー・ドラゴンはまるで奈落からの呼び声のように低い声で咆哮する。

幾重も積み上げてきた軌跡が、たった一瞬で全て壊されたのを感じた。

 

「チェーン2のディオメデウスの効果により、貴様のロビンの効果は無効となり、除外される」

遊次の場のロビンは足元に現れた黒い渦に引き込まれ、フィールドから消えゆく。

 

「…チェーン1のシチベエの効果で、お互いの魔法・罠が入れ替わる」

 

オスカーの永続魔法だけが遊次の場に移動し、遊次の場のPカードがオスカーの頭上へと移る。

しかし、その効果は今やほとんど意味を持たない。

 

「融合召喚によって墓地へ送られた『ホラーアームズ・ネクロメイル』の効果発動。

このカードと装備モンスターがフィールドから墓地へ送られた場合、装備モンスターを復活させ、ネクロメイルを装備する」

 

「さらにアームドホラー・ドラゴンの効果発動。

融合召喚時、デッキ・墓地・手札から装備魔法を3枚まで装備する。

この効果に対して相手は効果を発動できない。

墓地の『スティジアンウィング』と手札の『バンシーヴェイル』を対象とする」

 

2枚までしか装備魔法を選ばなかったのは、遊次の場から移った2枚のPカードが魔法&罠ゾーンを圧迫しているためだ。

チェーン1のネクロメイルと永続魔法を合わせれば、残りのカード枠は2枚しかない。

 

アームドホラー・ドラゴンに黒鉄の翼が装備される。

さらにその背後には、魔女の形をした黒き霧がかかる。

剥き出しの骨の死竜が武具を纏うその異様な姿は、かえって遊次達の恐怖を駆り立てた。

 

「チェーン1の『ホラーアームズ・ネクロメイル』の効果。

このカードを装備していた『アームドホラー・ディオメデウス』を復活させ、このカードを装備する」

 

再び、アンデットの黒き騎士がフィールドに現れ、白骨の鎧を纏う。

遊次を度々苦しめた無限のような無効効果を持つ融合モンスターは、なおも遊次の前に立ち塞がる。

 

さらに、絶望は追い打ちをかける。

フィールドから一度消えたディオメデウスは、再び白骨の鎧を纏って奈落の淵より蘇った。

 

「この効果で特殊召喚された時、相手の手札をランダムに1枚捨てる」

 

遊次の手を、漆黒の闇が這う。

そして、最後の希望が零れ落ちる。

遊次はそれを、ただ見つめることしかできなかった。

 

墓地に送られたのは永続魔法『妖義賊の連携陣』。

それは、遊次達の心から希望をも刈り取った。

 

遊次は一連の処理を、呆然とした眼差しで見つめることしかできなかった。

想像した未来と現実の差に混乱しながら、遊次は喉の奥から漏れ出るような声で、小さく問う。

 

「なんで……なんでお前は、手札に加えた罠カードを伏せなかったんだ…」

 

希望から絶望への急転直下。恐怖が体を蝕んでゆく。

それでも遊次は、ただ知りたかった。

 

オスカーは前のターン、確実に罠カード「アームドホラー・テネブラスチェーン」を手札に加えていた。

装備魔法を遊次の場に送り、オスカーの魔法&罠ゾーンは十分に空いていた。

にも関わらず、オスカーは罠カードをあえて伏せなかった。

 

「貴様の思考を固定するためだ。

この結末は、最初から見えていた」

 

全て、読み通りだというのか。

このシナリオを、最初から描いていたというのか。

何故、そんなことができる?

いくつもの疑問が頭の中を駆け巡る。

 

「伏せられたカードが1枚だけならば、貴様は必ずそれが手札に加えた罠カードであると錯覚する。

その錯覚を利用させてもらった」

 

オスカーは表情を変えず淡々と答えだけを示す。

怜央は、苛立ちを募らせながら、遊次の後ろから言葉を返す。

 

「…んなもん、当たり前だろ。あえて伏せない理由がねえからな。

あの局面で、あれが別のカードなんて疑う奴はいねえ」

 

メインフェイズ2、オスカーは一切の逡巡すらなく、カードを1枚セットした。

ただサーチした罠カードを伏せた。誰もがそう考えるはずだ。

デュエルにおける当然の流れ。誰もそこに一切の疑義を持たない。

故に、オスカーはそれを逆手に取った。

 

「テネブラスチェーンは、攻撃宣言時にしか効果を発揮しない。

裏を返せば≪伏せカードはバトルまでは発動しない≫と、貴様の脳内で処理される。

その固定概念こそが、真のセットカード『アームドホラー・フュージョン』を"守る"ことに繋がる」

 

(遊次はあの罠カードをずっと警戒して、対処法を考えてたはず…。

なのに、それが伏せカードを"守る"?なんで?)

 

灯は必死に思考を巡らせるも、オスカーの言葉の意味を捉えきれずにいた。

しかし遊次は、その意味を瞬時に理解した。

 

「…お前の永続魔法の効果で、アームドホラーと名のつく魔法・罠は破壊できない状態だった。

でも、バトルまでに伏せられた『テネブラスチェーン』を対処しなきゃ俺は勝てない。

だから、破壊せずに伏せカードを突破する方法を考えたんだ」

 

その答えこそがシチベエの魔法・罠カードを入れ替える効果だった。

 

「でも、ディオメデウスは装備魔法がある限り、何回でもモンスター効果を無効にしてくる。

さらに墓地のアルベレトと永続魔法で、装備魔法を追加できる状況だった。

これをくぐってシチベエの効果を通すためには、死ぬほど準備を整えなきゃいけなかった」

 

「俺の頭ン中では、伏せカードはバトルフェイズにしか発動できない罠カードで、それはシチベエで対処するって"決まってた"。

一手も無駄にできねえ状況だったからこそ、"あとはディオメデウスをどうするか"だけに意識が向く。

だから、シチベエが効果を発動するその時まで、伏せカードのことは頭の外に消えてた…」

 

遊次の言葉に、イーサンがはっとする。

 

「…それが伏せカードを"守る"という言葉の意味か。

伏せカードはシチベエで処理すると決まった以上、それより以前に伏せカードに触れる必要はない。

残ったリソースは"ディオメデウスの効果を掻い潜り、シチベエの効果を通す"ためだけに使われる…」

 

つまり、シチベエが効果を発動するその時まで、オスカーが伏せた速攻魔法「アームドホラー・フュージョン」を、遊次が破壊・奪取しようとすることはない。

それこそがオスカーの狙いだったのだ。

 

(でもそれじゃ、俺がシチベエを使うって最初からわかってたとしか思えねえ。なんでだ…?)

 

遊次は逆再生のようにデュエルを遡る。

そして、答えに辿り着いた。

 

「プロメテのP効果…か。

最初のターン、プロメテのP効果で俺はデッキから5枚のカードをめくって、その中から1枚カードを手札に加えた。

その5枚の中に、確かにシチベエがいた。もしかして、あの時から…」

 

「ご名答だ。俺の永続魔法により『アームドホラー』魔法・罠は破壊されない。

その状況下でセットカードに対処するには、破壊を介さず魔法・罠カードを入れ替える『夜駆けのシチベエ』に頼る。そう読んでいた」

 

理屈は通る。

しかし伏せカードをセットするあの一瞬で、そこまで思考の奥にまで潜っていたというのか。

そんなことが、可能なのか。

遊次達は目の前の男が想像よりも遥か高みにいることを、思い知りつつあった。

 

 

「…でも、あえて罠カードを伏せなかった理由は何?

別に罠カードと融合カードを両方伏せていても、あなたに損はないはず…」

灯はおそるおそる言葉を吐きだす。

 

「俺がセットしたカードが1枚であれば、貴様は必ずそれがテネブラスチェーンだと認識する。

それが別のカードだったとしても、その時点でテネブラスチェーンはすでに役割を果たしている。

伏せるまでもなくな」

 

オスカーの言葉の意図を遊次は瞬時に汲み取り、続きを紡ぐ。

 

「…もし俺が伏せカードに対処できなきゃ、どっちみちバトルフェイズには入れない。

攻撃したら負けるってわかってるのに、馬鹿正直に攻撃なんかするわけねえからな。

だからお前は、テネブラスチェーンを伏せなくても、俺からの攻撃を牽制できるってわけだ」

 

「むしろ、テネブラスチェーンを伏せる方が有害だね。

2枚の伏せカードがあれば、お前は必ずもう1枚の未知のカードを警戒して対処法を考える。

そうなれば、シチベエだけで対処できるとは考えない可能性が高いし、アームドホラー・フュージョンが除去される危険性が上がってしまう」

 

ルーカスが得意げに壁にもたれかかりながら話す。

 

「妨害枚数の誤認…それが目的か」

イーサンは呟く。

 

伏せカードがテネブラスチェーンという前提ならば、遊次の目には対処しなければならないカードの数がハッキリ見えていた。

エタナフォラスの魔法無効・ケルヴァラクの墓地除外・ディオメデウスが最初に装備してた2枚の装備カード分の無効効果と、永続魔法・墓地のモンスターで装備カードを追加した分の無効効果。

これを越えることこそが、遊次にとっての勝利条件だった。

 

「実際、もしあの伏せカードが本当にテネブラスチェーンなら、遊次は勝ってた…」

 

灯は"もしも"の世界を想像する。

シチベエで相手のテネブラスチェーンを奪った後、手札の「妖義賊の連携陣」を発動し、相手から奪ったカードを墓地に送ることでゴエモンを"効果を受けない"状態にする。

そしてゴエモンで相手のペルフェゴルを奪い、リリースすることで全てのモンスターの攻撃力を2500アップすれば、

装備魔法「スティジアンウィング」を装備しているエタナフォラスに攻撃は誘導され、更には戦闘破壊耐性を持つものの、それらに構わず、オスカーのライフを削り切ることができていた。

 

しかし、実際は遊次の想定の外側に、オスカーのもう1枚の切り札が隠れていた。

どんなデュエリストも決して捉えることのできない、切り札を。

それこそが「アームドホラー・フュージョン」だった。

 

あの局面で、一切の逡巡もなくテネブラスチェーンを伏せていないなどとは考えない。

ましてや、エンドフェイズでオスカーはケルヴァラクの効果で「アームドホラー・フュージョン」を手札に加えていた。

まさかそのカードがすでに場にセットされているなどとは、夢にも思わない。

 

結果的に、手札の「妖義賊の連携」が墓地へ送られ、遊次のプランは全て崩壊した。

さらにはアームドホラー・ドラゴンという新たな障壁が立ち塞がった。

 

オスカーは最初から、全て見えていた。

あえてサーチした罠カードを伏せないというたった一手によって、遊次のプランを全て覆し、"チェックメイト"したのだ。

 

 

「貴様はまんまと俺の術中にはまり、固定概念の檻に囚われ続けた。

貴様のようなデュエリストに、世界は救えない」

 

オスカーの言葉は、このデュエルにおけるピリオドだった。

 

「『アームドホラー・ドラゴン』の効果発動。

1ターンに1度、自分フィールドの装備カードを任意の枚数墓地に送り、その数だけ相手フィールドのカードを墓地へ送る。

アームドホラー・ドラゴンに装備されている2枚と、ディオメデウスに装備されている1枚を墓地へ送り、貴様のモンスターを3体墓地へ送る」

 

そして遊次の場にはモンスターは3体しか存在しない。

もしこれが決まれば、遊次のフィールドはがら空きだ。

 

「で、でも…!元々の持ち主が相手となるカードがあれば、ゴエモンの効果で遊次の場のモンスターは効果の対象にならない!」

 

灯はアームドホラー・ドラゴンの絶望的な効果に慄きつつも、叫ぶように、縋るように、言葉をぶつける。

しかし、それを知っているはずの遊次は、ただ俯き、拳を握るだけだった。

 

「これは、対象を取る効果ではない」

 

「そんな……」

灯の希望は、たった一言で打ち砕かれた。

 

アームドホラー・ドラゴンの効果は「相手フィールドのカードを"選んで"墓地へ送る」効果だ。

対象を取らない以上、ゴエモンの対象耐性も意味を成さない。

 

アームドホラー・ドラゴンは地響きのような咆哮をあげると、自身とディオメデウスの装備魔法はぱらぱらと砂へと変わり、朽ち果てる。

そして遊次の場のゴエモン、アカホシ、シチベエは足元に黒き渦が広がり、その中から無数の"腕"がモンスター達の足を掴んだ。

モンスター達は必死に呻きをあげながらも、抵抗むなしく、3体のモンスターは奈落へと引きずり込まれた。

 

「墓地へ送られた3枚の装備魔法は共通効果により手札に戻る」

 

遊次の場に、モンスターはいない。

手札も0枚。

 

「終わりだな」

ルーカスの一声が社長室に虚しく響き渡る。

 

 

"一部"を犠牲にして、2つの世界を救おうとするニーズヘッグ。

その"一部"さえも守るために、遊次は戦う事を決意した。

 

しかし、これがその戦いの果てだった。

 

今まで、どんな相手にも立ち向かってきた。

そして、なんとか勝利を勝ち取って来た。

 

しかし、この男『オスカー・ヴラッドウッド』は次元が違った。

 

相手は、あまりにも強大で、自分達と住む世界さえも違う。

ドミノタウンという小さな町で依頼を受けるのとは、訳が違った。

自分がどれほど矮小な存在なのかを、嫌でも自覚させられた。

 

しかしその背後から、怜央が叫んだ。

 

「まだ……まだデュエルは終わりじゃねえだろ、遊次!

諦めんじゃねえぞテメェ!最後の最後まで可能性を探りやがれ!それがテメェのデュエルだろうが!」

 

遊次は3人の方を振り向く。

その瞳には、すでに光が失われていた。

 

遊次は俯いたまま、拳を強く握る。

爪に、血が滲むほどに。

 

そして、一粒の涙が落ちる。

 

「………ごめん」

 

遊次は3人に、弱弱しく絞り出すような声で、そう言った。

光の宿らない眼差しで。

怜央はそんな遊次の表情に、ただ絶句するほかなかった。

 

そして遊次は脱力した体で前を向き、小さな声で呟いた。

 

「…ターンエンド」

 

その言葉は、灯や怜央からも最後の希望を奪った。

イーサンはただ無力感に打ちひしがれ、歯を食いしばる。

 

遊次はこれまで、どんな状況でも諦めなかった。

どんな逆境をも覆して来た。

 

しかしその遊次が今、絶望に呑まれ…"敗北"を認めた。

 

オスカーは少しだけ目を細めながら、見下すように言った。

 

「今の貴様には、俺に立ち向かってきた時の覇気がない。

それは自分の弱さと、愚かさを自覚したからだ」

 

遊次は言葉を返すことができなかった。

 

「貴様は言ったな。"一部を切り捨てるのは簡単だ"と」

 

「違うな。俺はこの世界の、デュエルを心から楽しむ人々を、1人たりとも失いたくない」

 

オスカーは感情を表に出さない。

それでも、この言葉は心の底からの言葉だとわかった。

見誤っていた。この男の全てを。

 

「それでも、俺はこの計画の実行を決断した。

それが、真に世界を守る者としての"覚悟"だ」

 

「覚…悟……」

 

「全てが終わった後…俺はどんな罰をも受けよう。死罪だろうと構わん。

だが必ず俺は《セカンド・コラプス》を成し遂げる」

 

彼はただ、2つの世界を守るという論理だけを突き詰め、冷酷無比に計画に踏み切ったわけではない。

その裏には、幾多の葛藤と覚悟があるのだと、遊次は感じざるを得なかった。

 

 

「一人ひとりの命と向き合ったのか…そう言ったな。ならば問おう」

 

「貴様は…隕石によって死ぬこの世界の一人ひとりの命と、向き合ったのか?」

 

オスカーの言葉は、遊次の心に深く突き刺さった。

それは自分の無力さを痛いほど感じている、今この状況だからこそだ。

 

「貴様は、ただ現実から目を背けているだけだ。

俺達の計画以外に道がないと知りながらも、それを受け入れれば、自分が計画に加担したような気になるからだ」

 

「ち…違う!」

灯は突発的にオスカーの言葉に反抗した。

 

「ならば問おう。貴様らが俺達の計画を止めた果てに、

さらに多くの人々が犠牲になる未来があるかもしれないと、想像したことはあるか」

 

「え……」

 

灯は言葉を返すことができなかった。

彼の言葉は自分達の本質的な間違いを突いていたからだ。

 

オスカーの言葉の続きをルーカスが紡いでゆく。

 

「もっと早く手を打つこともできた。

それでも僕達は、隕石衝突まで残り8ヶ月のこの時まで、あらゆる可能性を検討した。

その結果、セカンド・コラプス以外に道はないと結論を下したんだ」

 

「パラドックス・ブリッジを手に入れても、その後にやらなきゃいけないことが山ほどあるんだよ。

政府の協力、世界各国への要請、現実に現れるモンスターへの対抗策の考案と訓練。

それに、予期せぬ事態に備えてバッファが必要だ。8ヶ月でもギリギリなんだよ」

 

オスカーとルーカスの言葉は、遊次達が心の内に押し留めていた"何か"を、一枚一枚皮を剝ぐように、露呈させていった。

 

(俺は、ドミノタウンがぶっ壊れるのと、なんの罪もねえ人達が大勢死ぬのを、もう見たくなかった。

だから、とにかく止めなきゃいけないって思った。ただ漠然とそれだけを考えて、戦った)

 

遊次はイーサンから真実を聞き、その足で、いつものように無鉄砲にニーズヘッグを止めようとした。

コラプスという悲劇を起こさせたくない。

それは心からの思いだった。

 

(でも、本当は…)

遊次の心の隅っこで、小さな黒い何かがうごめいていた。

 

「それを何の考えもなしに覆したら…気付いた時には、後戻りできなくなるんだ。

それがどれだけ罪深いことか…お前達は考えたことがあるのか…!」

 

ルーカスは正真正銘の"怒り"と"敵意"を向けた。

遊次は、自分の未熟さを、幼さを、思い知った。

 

(俺達はコイツらを…見誤ってたんだ。

ドミノタウンを、世界をめちゃくちゃにする悪者。

どこかでそう"思い込もうと"してた)

 

今は答えを出せなかったとしても、ヴェルテクス・デュエリアでは、ただ突っ走ったその先に答えがあった。

だから今回も、きっと進む先に正しい答えがあるのだと信じた。

 

しかし、"進んだ先に道がない"可能性を、自分達は見て見ぬふりしていた。

彼らは分かれ道で、引き返す選択をしただけだ。

真に、世界を救うために。

 

 

まだ、はっきりと答えは出ない。

本当に自分達が間違っていたのか。

何が間違っていたのか。

何故、自分は負けたのか。

 

ただ、悔しさで目が霞んだ。

遊次は涙の滲んだ目でオスカーを見つめる。

 

 

「貴様に足りないものは3つある。

責任、覚悟、そして…強さだ」

 

オスカーの言葉に、遊次は膝を地につけ、強く拳を床に叩きつけた。

 

「……クソッ…!!」

 

その声には、これまでにはないほどの悔しさが強く浮かんでいた。

しかしその悔しさは、敗北が理由ではない。

自分の"甘さ"からだ。

 

彼は今この瞬間、自分が背負っていた重責に気付いたのだ。

そして自らの敗北をもってしかそれを知ることのできなかった自分が、許せなかった。

灯には、今の遊次がどれほど壊れそうな思いを抱えているか、痛いほどわかった。

灯の目からも涙が溢れる。

 

 

「俺のターン、ドロー」

オスカーは淡々とカードを引く。

 

「手札の『ディアボリックキャノン』『スティジアンウイング』をアームドホラー・ドラゴンに装備する。

さらに『ネクロメイル』をディオメデウスに装備」

 

アームドホラー・ドラゴンは黒鉄の翼と白骨の双砲を纏い、ディオメデウスは白骨の鎧を纏う。

 

アームドホラー・ドラゴン ATK4500

 

それは最後まで全力で戦うという、オスカーのデュエリストとしての礼儀。

遊次にもそれがわかった。

遊次は、ゆっくりと立ち上がる。

 

オスカーが右腕を高らかに掲げる。

その前には攻撃力4500のアームドホラー・ドラゴン。

その絶望感と畏怖の前には、立っているのもやっとだった。

 

数秒後に、このデュエルは決着する。

その結末は誰の目にも明らかだった。

 

イーサンは、立ちはだかる強敵へ最後までその眼差しで抗い続ける。

怜央は怒りに震え、灯はただ遊次を助けたいという思いに心を締め付けられていた。

 

「アームドホラー・ドラゴンで、ダイレクトアタック」

 

アームドホラー・ドラゴンは両肩のキャノンに禍々しく黒いエネルギーを充填する。

 

「この敗北をもって、自覚しろ。

貴様らは…世界の敵だ」

 

オスカーの見下すような冷たい眼差し。

その後ろでルーカスは遊次達に敵意を向けていた。

 

遊次がニーズヘッグの計画を阻止すると決断した時点で

オスカーやルーカスにとって、Nextは二つの世界を守る計画を阻止しようとする『世界の敵』でしかなかったのだ。

 

 

アームドホラー・ドラゴンが咆哮と共に2つのキャノンから黒いエネルギー弾を放つ。

その刹那、遊次の心に黒い感情が渦巻く。

 

 

脳裏に蘇るのは、遊次の敗北を決定づけたセットカード「アームドホラー・フュージョン」。

そして数々のオスカーの言葉。

 

 

俺とアイツとじゃ……"覚悟"が違うッ…!!

 

 

次の瞬間、重力が歪むほどの衝撃が、遊次を襲った。

 

 

遊次 LP2300 → 0

 

 

黒き波動に撃ち抜かれ、遊次の体は宙へ浮く。

まるで時間が止まったようだった。

灯達はその光景を、ただ見ているしかなかった。

 

 

遊次の体が、床へ叩きつけられる。

 

 

「勝者、オスカー・ヴラッドウッド。

Nextは今後、セカンド・コラプス計画への関与と、当計画にまつわる一切の口外を禁じます」

 

乾いた機械音声が、静まった社長室に鳴り響く。

 

 

ルーカスが、倒れる遊次へ近づき、見下ろしながら言う。

 

「よかったな。これでお前達は法的に"何もできない"んだ。

この口実があれば、死にゆく人達に対して罪悪感を感じなくて済むだろ?」

 

「テメェ……!」

 

怜央が拳を強く握りルーカスへ近づこうとするも、すぐにイーサンに静止された。

もう彼らには、正真正銘、干渉できないのだ。

それを破ろうとすればただ法の罰を受けるのみ。

身柄も拘束され、彼らの計画を止めることなどできない。

 

ルーカスはオスカーの机の横にある内線を取り、一言だけ秘書へ命令を下した。

 

「お客様がお帰りだ」

 

 

これは、世界の命運を懸けた戦いだった。

Nextがニーズヘッグの計画を知ったのは偶然に過ぎない。

この戦いに敗北すれば、もう彼らを止めるものは他にいない。

 

遊次達は、ただこの町の破滅と、数千・数万人規模の人々の死の運命を知りながら、

ただ、口を閉ざすことしかできない。

 

 

第59話「世界の敵」 完

 

 

 

オスカーに敗北を喫したNextは契約通り、計画に干渉することはできない。

しかし、忘れることなどできなかった。

遊次は悪夢に苦しみながら、自分の心と深く向き合う。

 

イーサンは再び皆を日常へと戻そうとする。

怜央は、子供達の未来への危惧と、何も言えない悔しさに奥歯を噛み締める。

そして灯は、美蘭との少し苦い過去を回想する。

 

一方、ニーズヘッグのエンジニア『鄭 紫霞(ジェン ズーシャ)』は、イーサンに強制オースデュエルが効かなかった真相を突き止める。

"最後の鍵が見つからず計画は実行されないかもしれない"という遊次達の僅かな希望をへし折るように、

ニーズヘッグはセカンド・コラプスの最後のピースを埋めるために動き始める。

 

何も知らないドミノタウンの人々は、いつもと変わらない。

しかしそんな彼らの姿が、遊次の葛藤に答えをくれた。

 

「一人ひとりの命と向き合わなきゃいけないのは…俺の方だったんだ」

 

 

次回 第60話「変わらないもの」

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