遊戯王Next   作:湯(遊戯王SS投稿者)

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第72話:ノブレス・オブリージュ

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【ルーカス】

LP3900 手札:1

 

①ヘヴンアイズ・エターナルドラゴン ATK5700

 

Pゾーン:▲プロフェット

EXデッキ(表):オファニム、エクスシーア、カントル、アポロジスト×3

 

▲□□□□

□□□□□

 □ ①

□⑦⑧□□

□□□□□

 

【怜央】

LP4000 手札:0

 

⑦スチームアーミー・ブレイブロード・エクスプレス(X素材2) ATK2500

⑧スチームアーミー・エクスプロード(X素材2) ATK2800

 

フィールド魔法:スチームアーミー・デッドゾーン

永続魔法:スチームアーミー・サプリングバトルライン、スチームアーミー・ディメンションタワー

伏せカード:1

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首都メインシティに佇む「デュエリア・シンフォニーホール」。

デュエリア政府、ニーズヘッグ、なんでも屋「Next」が一堂に会し、パラドックス・ブリッジを巡る決戦が行われる。

 

そして幕が開かれた怜央とルーカスの決闘。ルーカスは先行から完全耐性を誇る高打点のエターナルドラゴンを呼び出し、さらには幾つもの耐性と制圧能力をもって、怜央と対峙する。怜央は妨害を乗り越えるも、エターナルドラゴンを倒すには遠く及ばない。しかし、彼には秘策があった。

 

それは永続魔法「スチームアーミー・ディメンションタワー」。スチームアーミーによる破壊を"除外"へと変換するその効果により、破壊されるルーカスのモンスターはEXデッキの表側へ置かれず除外されてしまう。これにより怜央は、EXデッキの表側カードを利用する「ヘヴンアイズ」デッキの弾切れを狙う作戦に出る。

 

ホールの壁際に佇むオスカー、美蘭、ジェンの3人は、ステージ上で繰り広げられる決闘を静かに見守っていた。

ジェンは視線を険しく据え、真剣な面持ちで事実を口にする。

 

「鉄城怜央の発動したフィールド魔法により、副社長はエターナルドラゴンと隣り合うモンスターゾーンにしかモンスターを呼び出せません。エターナルドラゴンのリンク先は斜め下に向いており、エターナルドラゴンと隣接していない。つまり…」

 

「このままじゃ、ルーカスちゃんはP召喚できないね」

ジェンの言葉の先は、美蘭が落ち着いた声色で静かに継いだ。

 

ルーカスの場には完全耐性を持つエターナルドラゴンが残っているものの、状況は怜央の有利に思えた。

ニーズヘッグとは逆に、遊次達は怜央の好発進に希望を抱いていた。

 

デッキトップに指を掛けたルーカスは、正面の怜央を冷徹な眼差しで射抜いた。

その視線の先で、頭の奥底にこびりついている光景が、意識の底から浮き上がってくる。

 

視界を白く染めるほどの豪雨の中、汚れ1つない純白の製菓服を纏った男が立っていた。

その足元には、1人の老人が泥濘に膝をつき、必死に縋り付いている。

老人が身に纏う上質な生地のポロシャツは無残に汚れ、雨水を吸って重く垂れ下がっていた。

 

叩きつける雨音が周囲の声をことごとく奪い去り、老人の必死な訴えもほとんど聞き取ることはできない。

しかし、ただその言葉だけは、雨の壁を突き破ってはっきりと響いた。

 

「大事な孫を喜ばせたいだけなんだ…!頼む…!」

 

 

浮上しかけた過去を強引に記憶の奥底へ押し戻し、ルーカスは冷徹な現実へと意識を切り替えた。

怜央を射抜くその瞳には、一瞬にして昏い殺意が滲み、逃げ場のない闇がとぐろを巻く。

 

「…でしゃばるなよ、ドブネズミが」

吐き捨てるような呟きと共に、デッキトップからカードを1枚引き抜く。

 

「僕のターン、ドロー!

手札からヘヴンアイズ・ドミニオンズをPスケールにセッティング!」

 

 

ルーカスの頭上に、水色に光る瞳を持つ、翼の先端を赤く染めた上級天使が浮かび上がる。

金色の冠と白い仮面、金装飾を施した白い法衣に赤い帯を垂らし、その手には、巨大な紅玉を冠した金色の長杖を携えている。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/O2IHFKC

※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

 

「ドミニオンズのP効果発動。

もう片方のPゾーンにヘヴンアイズが存在する場合、このカードをPゾーンから特殊召喚する」

 

■天界眼の勧告者(ヘヴンアイズ・ドミニオンズ)

 ペンデュラム

 レベル7/光/天使/攻2400 守2700 スケール1

 【P効果】

 このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:もう片方のPゾーンに「ヘヴンアイズ」Pカードが存在する場合に発動できる。

 Pゾーンのこのカードを特殊召喚する。

 【モンスター効果】

 このカード名の①②の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:このカードがEXデッキから特殊召喚された場合に発動できる。

 相手フィールドの全ての表側カードの効果を、ターン終了時まで無効にする。

 ②:相手がモンスター効果を発動した場合、自分のEXデッキ(表側)のPカード1枚をデッキに戻して発動できる。

 その効果を無効にして破壊する。

 

 

エターナルドラゴンの真後ろのモンスターゾーンに、ドミニオンズがルーカスの頭上から降り立つ。

 

「ドミニオンズは相手のモンスター効果を無効にして破壊できる。

これでエクスプロードの破壊効果は意味を成さないな」

 

しかし怜央は迷うことなくデュエルディスクのエクスプロードの下からカードを1枚抜き取る。

 

「関係ねェ。エクスプロードの効果発動!

オーバーレイユニットを1つ使い、ドミニオンズを除外する!」

 

ディメンションタワーによって、エクスプロードの破壊効果は"除外"へと書き換わっている。

 

「…あくまでEXデッキを削りに来るか。ならばドミニオンズの効果発動!

EXデッキのヘヴンアイズ・カントルをデッキに戻し、その効果を無効にして破壊する!」

 

しかしここでチェーンは終わらなかった。

怜央はさらなる一手を重ねる。

 

「墓地の『RUM-リラプス・フォース』の効果発動!

自分の墓地のスチームアーミーを相手モンスターに装備する!

墓地のスチームアーミー・モールス・シグナラーを、ドミニオンズに装備する!」

 

ルーカスは訝しげな視線を送るが、さらに怜央はデュエルディスクにセットされた1枚のカードを表へ向ける。

 

「永続罠発動!『命取りの重鎧』!

このカードが存在する限り、装備カードを装備した相手モンスターは守備表示となり、効果が無効となる!」

 

「何だと…?」

 

■命取りの重鎧

 永続罠

 このカード名の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、

 フィールドの装備カードを装備したモンスターは守備表示になり、

 表示形式を変更できず、効果は無効になる。

 ②:フィールドの装備カードを装備したモンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターの装備カードを全て破壊する。

 その後、そのモンスターは攻撃力が0となり、攻撃表示となる。

 

 

「チェーン3のリラプス・フォースにより、モールス・シグナラーがドミニオンズに装備される」

 

胸元のモニターを無機質に光らせ、錆びついた鉄を纏う通信兵がドミニオンズへと肉薄した。

その背後から腕を回し、羽交い締めにするようにして動きを封じ込める。

 

「これにより、ドミニオンズは守備表示となり、効果は無効となる」

 

背後からの拘束に抗えず、ドミニオンズはその場に膝を突いた。

広げられていた翼は力なく折れるように畳まれ、その全身から精気が失われていった。

 

「これがどういう意味かわかるよな?チェーン1のエクスプロードの効果と、

永続魔法『スチームアーミー・ディメンションタワー』により、ドミニオンズは除外される!」

 

エクスプロードが左腕を突き出すと、内蔵されたバーナーから凄まじい轟音と共に紅蓮の炎が吹き出した。

同時にディメンションタワーの排気口が激しく震え、視界を塗り潰すほどの濃厚な黒煙を吐き出す。

 

炎と煙は互いを侵食するように混ざり合いながら、標的となったドミニオンズを完全に飲み込んでいった。

やがて熱気が引いたフィールドには、ただ静寂だけが広がっていた。

 

「うまい!これでまたルーカスはP召喚できなくなった!」

 

遊次の歓喜の声がホールに響く。

エターナルドラゴンのリンク先は斜め下に向いており、エターナルドラゴンと隣り合わない。

ルーカスの反撃の一手を怜央は着実に潰し、再びフィールド魔法の制約をルーカスに与えたのだ。

 

「さらにブレイブロード・エクスプレスの効果発動!

オーバーレイユニットを2つ使い、デッキからスチームアーミーを2体特殊召喚する!

来い、スチームアーミー・バーン・スナイパー!

スチームアーミー・マヌーヴァー・インファントリー!」

 

ブレイブロード・エクスプレスの車体から凄まじい蒸気が噴き出し、頑強なハッチが開放された。

その奥から、二体の機兵が重々しい駆動音を立てて戦場へと踏み出した。

 

バーン・スナイパーは肩から腕にかけてライフルが取り付けられた銅色の機兵。

マヌーヴァー・インファントリーは中央に単眼のゴーグルが光る、小銃を抱えた機兵だ。

2体のモンスターは守備表示で特殊召喚される。

 

バーン・スナイパー:ttps://imgur.com/a/sp2cODa

マヌーヴァー・インファントリー:ttps://imgur.com/a/Qz9HQWx

※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

 

「特殊召喚されたバーン・スナイパーの効果発動。

コイツが特殊召喚された時、デッキからスチームアーミーを1体手札に加える。

俺はデッキからスチームアーミー・フォノグラフ・ソニックを手札に加えるぜ」

 

スチームアーミーは自分フィールドのスチームアーミーを相手モンスターに装備する共通効果を持つ。

2体のモンスターが新たに現れたことで、2度の装備効果を使用可能。

永続罠「命取りの重鎧」とのコンボにより、怜央はあと2体のモンスターの効果を無効にできることになる。

 

しかしルーカスには依然、動揺の色は見えない。

 

「これで種明かしは終わったな。

哀れな道化師としては、丁度いいショーだったよ」

 

ルーカスはソリッドヴィジョンに浮かび上がるカード情報を見つめた後、再び前を向き、落ち着いた声色で静かに言葉を落とす。その不穏な言葉に怜央は身構える。

 

「魔法カード『ヘヴンアイズ・ヴォケーション』発動。

EXデッキのヘヴンアイズ・エクスシーアをデッキに戻し、デッキからレベル4以下のヘヴンアイズを特殊召喚する」

 

■天界眼の召命(ヘヴンアイズ・ヴォケーション)

 通常魔法

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分のEXデッキ(表側)のPカード1枚をデッキに戻して発動できる。

 デッキからレベル4以下の「ヘヴンアイズ」モンスター1体を特殊召喚する。

 自分フィールドにEXから特殊召喚された「ヘヴンアイズ」モンスターが存在する場合、

 さらにデッキから「ヘヴンアイズ」Pカード1枚を選び、EXデッキの表側に置くか、Pゾーンに置くことができる。

 ②:墓地のこのカードを除外して発動できる。

 ターン終了時まで、自分のEXデッキ(表側)のLモンスターに、そのリンクマーカーの数と同じレベルを与える。

 

「デッキからヘヴンアイズ・カントルを特殊召喚」

 

■天界眼の賛歌師(ヘヴンアイズ・カントル)

 ペンデュラム

 レベル3/光/天使/攻500 守1500 スケール1

 【P効果】

 このカード名の①②のP効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

 ①:自分の「ヘヴンアイズ」モンスターが相手モンスターを戦闘で破壊した場合に発動できる。

 その攻撃モンスターは、もう1度だけ続けてモンスターに攻撃できる。

 ②:自分フィールドの「ヘヴンアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターはこのターン、守備表示モンスターを攻撃した場合、

 その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 【モンスター効果】

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分のEXデッキ(表側)のPカード1枚を対象として発動できる。

 そのカードを自分の手札に加える。

 ②:このカードがフィールドから離れた場合に発動できる。

 デッキから「ヘヴンアイズ」Pモンスター1体をEXデッキに表側で加える。

 

 

頭上に浮かび上がった巨大な石の光輪から、清浄な光が溢れ出す。その輝きの中心から、純白の法衣を纏った女が姿を現した。銀髪を飾る朱の紐と鮮やかな腰帯が白に映え、真っ直ぐに前を見つめる青い瞳が、戦場に凛とした静寂をもたらした。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/9c9FlAm

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「EXデッキから特殊召喚されたヘヴンアイズが場にいる時、さらにデッキからヘヴンアイズを1体、EXデッキかPゾーンに置くことができる。ヘヴンアイズ・オスティアリウスをPゾーンにセットする」

 

重い金髪で片目を隠した少年のモンスター「オスティアリウス」がルーカスの頭上へ浮かび上がる。瞳は白みがかった水色をしており、朱の縁取りを施した白き法衣を纏う。胸元には巨大な青き眼の宝飾があしらわれている。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/5eqpuR7

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「ヘヴンアイズ・プロフェットのP効果発動。フィールドのヘヴンアイズ・カントルをリリースして、カード名が異なる同じレベルのヘヴンアイズ・ヘラルドをデッキから特殊召喚する」

 

■天界眼の代弁者(ヘヴンアイズ・プロフェット)

 ペンデュラム

 レベル3/光/天使/攻1100 守800 スケール1

 【P効果】

 このカード名の①②のP効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドのLモンスター以外の「ヘヴンアイズ」モンスター1体をリリースして発動できる。

 そのカードと同じレベルの、カード名が異なる「ヘヴンアイズ」モンスター1体をデッキから特殊召喚する。

 ②:Pゾーンのこのカードを破壊し、自分のEXデッキ(表側)のPカード1枚を対象として発動できる。

 そのカードを自分のPゾーンに置く。

 この効果は相手ターンでも発動できる。

 【モンスター効果】

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドの「ヘヴンアイズ」Pモンスターまたは「ヘヴンアイズ」Pカードが破壊された場合に発動できる。

 このカードを手札から特殊召喚し、破壊されたカードを自分のPゾーンに置く。

 ②:このカードがEXデッキに表側で加わった場合、

 このカード以外の自分のEXデッキ(表側)のカード1枚を対象として発動できる。

 そのカードを手札に加える。

 

 

眩き光がカントルを呑み込み、その輪郭を淡い輝きへと変えていく。

彼女の姿が光の粒子となって霧散したその場に、代わって白銀の髪を持つ魔道士が舞い降りた。

 

■天界眼の祝告使(ヘヴンアイズ・ヘラルド)

 ペンデュラム

 レベル3/光/天使/攻900 守1300 スケール1

 【P効果】

 このカード名の①②のP効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分の「ヘヴンアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊した場合、もう1度だけ続けてモンスターに攻撃できる。

 ②:EXモンスターゾーンのPモンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターをメインモンスターゾーンに移動する。

 【モンスター効果】

 このカード名の①②の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

 ①:自分のEXデッキ(表側)のPカード1枚をデッキに戻し、

 自分のPゾーンの「ヘヴンアイズ」カード1枚を対象として発動できる。

 そのカードを自分フィールドに特殊召喚する。

 ②:自分のフィールドの「ヘヴンアイズ」カード1枚を対象として発動できる。

 そのカードを破壊し、デッキからレベル5以上の「ヘヴンアイズ」モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

ヘラルドは白の法衣に赤の装飾を纏い、胸元には蒼い石の首飾りを下げている。

その手には、青い光を放つ宝珠を冠した銀の杖を携えている。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/mCnG2uS

※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

 

「リリースされたカントルの効果発動。

フィールドから離れた場合に、デッキからヘヴンアイズを1体、EXデッキに表側で置くことができる。

ヘヴンアイズ・エクスシーアをEXデッキに置く」

 

怜央の視線を受け止めるルーカスの瞳には、揺るぎない意志が深く据えられている。

そこには一切の迷いなど入り込む余地はなく、ただ研ぎ澄まされた決意だけが静かに湛えられていた。

 

「プロフェットのもう1つのP効果発動。

このカードを破壊し、EXデッキのヘヴンアイズをPゾーンへと置く。

ヘヴンアイズ・カントルをPゾーンへ」

 

プロフェットの姿が眩い光の中に融け落ちる。

その残光が一点に収束すると、入れ替わるようにしてカントルが静かにルーカスの頭上に現れた。

 

「プロフェットがEXデッキに表側で加わった時、効果発動。

EXデッキの表側のカード1枚を手札に戻すことができる。

僕はヘヴンアイズ・アポロジストを手札に加える」

 

怜央はルーカスの不敵な構えを注視し、その裏に潜む真意を測るように目を細めた。

 

(自分からエターナルドラゴンの完全耐性を崩しただと?

アポロジストがEXに2枚ありゃ、少なくとも魔法・罠の効果は受けねえ。

罠カードさえ防げりゃいいと踏んだか)

 

モンスター効果を受けない算段だとしても、万が一の危険性を考えれば、エターナルドラゴンの完全耐性を崩すことにはリスクが伴う。

つまり、そのリスクを背負ってでも成し遂げるべき"何か"があるということだ。

 

そしてEXデッキのアポロジストの枚数が減ったことで、エターナルドラゴンの攻撃力が下がる。

ヘヴンアイズ・エターナルドラゴン ATK5000

 

「ヘヴンアイズ・カントルのP効果をエターナルドラゴンを対象に発動。

このターン、エターナルドラゴンがモンスターを破壊した場合、続けて相手モンスターにもう1度攻撃ができる」

 

カントルの唇から、透き通るような歌声が溢れ出した。

戦場を包み込むその調べは、光の波となってエターナルドラゴンへと吸い込まれていく。

聖なる旋律に呼応するように竜の全身が眩い輝きを帯び、その威圧感が一層の深まりを見せた。

 

「あれ!?アポロジストを手札に加えなかったら、エクスプロードとブレイブロードに2回攻撃して、ルーカスちゃんの勝ちだったのに!」

 

美蘭にはルーカスの意図を理解できなかった。

アポロジストを手札に加えなければ、エターナルドラゴンの攻撃力は5700。

攻撃力2600のエクスプロードと攻撃力2500のブレイブロードに攻撃すれば、怜央の4000のライフは0。

しかしエターナルドラゴンの攻撃力が5000に下がった状態では、わずか100、ライフを残してしまう。

 

しかしルーカスはメインフェイズを続行する。

 

「ヘヴンアイズ・ヘラルドの効果発動。Pゾーンのヘヴンアイズを特殊召喚できる。

現れよ、ヘヴンアイズ・オスティアリウス」

 

ヘラルドの招集により、重い金髪で片目を隠した少年のモンスターがフィールドへと降り立つ。

 

ルーカスは冷淡な瞳を据えたまま、静かに左手を掲げた。

それに応じるかのように、頭上の虚空に現れた巨大な振り子が左右に振れ始める。

 

「天上の聖なる魂達よ、揺れ動く源流によりこの現し世に帰還せよ。

ペンデュラム召喚!現れよ、我がモンスター達!」

 

その叫びに呼応し、天を貫いた二条の光がフィールドへと激しく降り注いだ。

 

「EXデッキから、ヘヴンアイズ・プロフェット!

ヘヴンアイズ・オファニム!」

 

光が霧散し、二体のモンスターが姿を現した。

紺青の長髪をなびかせるプロフェットは、白銀の装飾が施された法衣を纏い、斜めに走る紅の帯がその白き姿を鮮烈に際立たせている。

オファニムは幾重にも重なり合う白い翼の塊だ。羽の一枚一枚に埋め込まれた無数の瞳が蠢き、中心に座す巨大な眼球と背後の光輪が、神聖さを越えた根源的な恐怖を突きつけていた。

 

プロフェット:ttps://imgur.com/a/4CwNMmb

オファニム:ttps://imgur.com/a/mta0Uph

※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

 

イーサンは無数の瞳を持つ異形、オファニムに視線を向ける。

それはまさしく、イーサンを敗北へ至らしめた元凶。

 

「ヘヴンアイズ・オファニムの効果発動。

EXデッキから特殊召喚された時、EXデッキのヘヴンアイズ・エクスシーアをデッキへ戻し、相手モンスターを全て手札に戻す!」

 

しかし、これは想定内の一手。

怜央はすかさずデュエルディスクに触れる。

 

「そうはさせねえ!スチームアーミー・バーン・スナイパーの効果発動!

お互いのターンに、自分フィールドのスチームアーミーをフィールドのモンスターに装備できる。

バーン・スナイパー自身をオファニムに装備させる!」

 

怜央が腕を振るうと、バーン・スナイパーがオファニムの懐へと鋭く踏み込んだ。

無骨な四肢が白い翼を力任せに掴み、その背後へと強引に食い込んでいく。

まるで獲物を捕らえるかのようにして、その身をオファニムへと固定した。

 

「『命取りの重鎧』により、オファニムは守備表示となり、その効果は無効となる」

 

オファニムの光が消え、幾重もの翼が力なく閉じられる。

重圧に屈するように、その姿は低く沈み込んだ。

 

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【ルーカス】

LP3900 手札:1(アポロジスト)

 

①ヘヴンアイズ・エターナルドラゴン ATK4400

②ヘヴンアイズ・ヘラルド ATK900

③ヘヴンアイズ・オファニム DEF2400

④ヘヴンアイズ・プロフェット ATK1100

⑤ヘヴンアイズ・オスティアリウス ATK1600

 

Pゾーン:▲カントル

EXデッキ(表):アポロジスト×2

 

▲□□□□

⑤□③②④

 □ ①

□⑦⑧□⑨

□□□□□

 

【怜央】

LP4000 手札:1(フォノグラフ・ソニック)

 

⑦スチームアーミー・ブレイブロード・エクスプレス(X素材0) ATK2500

⑧スチームアーミー・エクスプロード(X素材1) ATK2600

⑨スチームアーミー・マヌーヴァー・インファントリー DEF500

 

フィールド魔法:スチームアーミー・デッドゾーン

永続魔法:スチームアーミー・サプリングバトルライン、スチームアーミー・ディメンションタワー

永続罠:命取りの重鎧

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怜央の不可解なプレイングを前に、美蘭は腑に落ちないといった様子で首を傾げた。

 

「ん…?自分のモンスターを装備カードにできるんなら、エクスプロードかブレイブロードを相手モンスターに装備させたらいいじゃん。そしたらチビ助クンの攻撃表示モンスターが減って、受けるダメージが減るのに…」

 

彼女の隣で、ジェンは微動だにせずその答えを提示する。

 

「そうしなくても攻撃を耐えうる手段が鉄城怜央にはあるのでしょう。

そしてそれは副社長も理解しているはずです」

 

「ほぇー…」

美蘭はどこか気の抜けた声を漏らすと、導かれるように再びフィールドへと視線を走らせた。

そしてオスカーはその隣で、腕を組んだまま壁に寄りかかり、無言でルーカスを見つめていた。

 

「怜央のフィールドのモンスターは3体。

マヌーヴァーは破壊されたらデッキからモンスターを呼べるし、墓地のバリケイド・ビルダーはスチームアーミーを戦闘から守れる。これならこのターン、怜央はライフを守れるはずだ」

 

遊次は、灯とイーサンへ冷静に盤面を読み解いてみせた。

2人も同意するように静かに頷く。

 

「はぁ…」

ルーカスはわざとらしく、深く重いため息を吐き捨てた。

 

「手のかかるドブネズミだな。わかってるのか?

こうしてる間にも、世界は刻一刻と破滅へと向かってるんだ」

 

対する怜央も、その言葉を鋭く突き返す。

 

「そんなに時間が惜しいならサレンダーするんだな。

とっとと俺らが世界を救ってきてやる」

 

「だから、世界を救う方法はもう"ある"んだよ。

どこの馬の骨ともわからないバカ共が駄々をこねてるだけだ」

 

吐き捨てるルーカスの声には、より色濃い殺意が滲んでいた。

 

「世の中の99.9%の人間は、普通に生きて、普通に死んでいく。

世界に何の影響を及ぼさずにな。そういう奴らを"凡人"と呼ぶんだ」

 

ルーカスは突き放すような冷淡さで、静かに言葉を紡ぎ始める。

 

「凡人は、自分の周囲のことだけ考えていれば生きていける。

だけどそんな連中が、何かの歯車が狂って世界に影響を及ぼす力を持ったとしよう。

そんな時、奴らはどうするか?決まっている。"自分達"を第一に考えるんだ」

 

その眼差しは、まっすぐに怜央を捉えていた。

「世界のことなどどうでもいい」「自分が守りたいもののために戦う」と言い切った怜央の言葉こそが、彼が蔑む「凡人」の身勝手そのものであると断じている。

 

「大層なご説教だが…凡人代表から言わせてもらえば、"上"にいる連中も大差ねェだろ。政治家様は、どいつもこいつも金のことしか頭にねえしな」

 

鼻で笑うような怜央の反論を、ルーカスは一瞥もくれずに否定した。

 

「何を勘違いしてる?そいつらも"凡人"なんだよ。金しか頭にない豚共を、僕達と同じ『世界の舵を握る立場』に数えるはずがない」

 

「随分な物言いだな。なら自分はなんの見返りもなく世界のためにご奉仕しますってか?」

 

挑発的な怜央の問いにも、ルーカスの表情が揺らぐことはない。

 

「あぁ。見返りなんていらない。僕は僕の使命を果たすまでだ」

 

その言葉を聞き、怜央はこみ上げる不快さを隠そうともせず、歪んだ笑みを浮かべた。

 

「ハッ!笑わせんじゃねえよ。

金に汚ねェ政治家共もクソだが、口だけ立派な奴はもっと信用できねえ。第一、テメェも腐るほど金はもらってんだろうが。どの口が言ってんだ?」

 

怜央の剥き出しの敵意を前にしても、ルーカスはあくまで冷静に、当然の理屈を並べるように返した。

 

「仕事に相応の対価が発生するのは社会の仕組みとして当然だ。僕がそれを求めないからといって、その仕組みを捻じ曲げるわけにはいかない。

まあ、君みたいな底辺には一生理解できないだろうね」

 

徹底して自分を見下し、社会の歯車として切り捨てるような物言いに、怜央は明らかに怒りを募らせていた。

 

「虫唾が走るぜ。あのロン毛野郎にはまだ、本気でこの世界とモンスターワールドを守りてえっていう熱意があった。だがテメェにはそれがてんで見えねえ。そもそも人をドブネズミ扱いするような奴が、本気で何かを守ろうなんざ思ってるはずもねえしな」

 

叩きつけられた激情を、ルーカスはどこか遠い場所から眺めているかのような無機質な声で受け流した。

 

「言っただろ、これは"使命"だ。

世界を救うという"行為"に感情なんて必要ないんだよ」

 

怜央は人間と会話している感覚を抱くことができなかった。

到底、理解ができなかった。

 

「地位・富・力を持つ者は、人々に貢献する義務を負う。ノブレス・オブリージュってヤツさ。

だが裏を返せば、覚悟と才覚を持つ"選ばれし者"だけが、世界を動かす力を持つべきなんだ」

 

高潔な義務感に裏打ちされた、独善的な選民意識。

それこそがルーカスを突き動かす揺るぎない信念であり、彼を芯から蝕む歪みそのものだった。

 

「今回だって、全てうまくいくはずだったんだ。

なのに…いつもお前達のような凡人が、世界を導く者の足を引っ張るんだ。いつも…いつも…!!」

 

ルーカスの瞳に強い憎しみが宿る。

そしてその脳裏には、再び土砂降りの雨が地面を叩く音が鳴り響いていた。

 

 

 

ルーカス・ヴラッドウッドが8歳の誕生日を迎えた日。

 

その日もルーカスは、いつもと同じように自室の勉強机に向かっていた。

高く取られた天井からはシャンデリアが冷たい光を落とし、壁一面の書架には金箔の褪せた専門書が整然と並んでいる。

巨大企業の次代を担う後継者として用意されたその空間は、私室というよりは、温もりを切り捨てた冷徹な執務室だった。

 

社長である父に顧みられることは稀で、母もまた育児のすべてを使用人たちに委ねるのが常だった。

例年なら形ばかりの祝い事があったが、昨日に会社でトラブルが起きたことによりその対応に追われ、両親の意識から息子の誕生日は完全に消えていた。

ゆえにルーカスにとって最も特別なはずの今日であっても、その冷え切った日常が揺らぐことはなかった。

 

兄のオスカーとも、決して折り合いが良くなかった。少なくとも、当時は。

長男として次代の座を約束された兄を、ルーカスは常に苛烈な対抗心で見据えていた。

その感情はもはや健全な競い合いの域を越え、明確な敵意となって彼を突き動かしていた。

誰に強いられたわけでもなく、ただ兄に勝つために、彼は誕生日であっても自発的に机へと向かっていた。

 

静止していた空気を揺らすように、控えめなノックの音が響いた。

ルーカスは弾かれるように椅子から飛び下りると、迷わず扉を引き開ける。

そこに立っていたのは、白に近い薄紫の髪を長く蓄えた老人だった。

深く刻まれた皺さえも温和な印象を与えるその顔は、現れた少年の姿を認めると、慈愛に満ちた笑みで綻んだ。

 

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「お祖父様!」

彫刻のように冷え切っていたルーカスの表情が、一瞬にして鮮やかな笑顔に塗り替えられる。

 

扉の先に立つ老人は、ヘックス・ヴラッドウッド。

ニーズヘッグ・エンタープライズの創始者。

デュエルディスクとオースデュエルを世界に普及させた偉人であり、モンスターワールドを発見した物理学者だ。

 

当時のルーカスが心から敬うのは、祖父ヘックスだけだった。

ニーズヘッグの次代として、ルーカスは「モンスターワールド」の存在を認知していた。

人の心から生まれる世界。

嘲笑を浴びながらもその夢物語を証明してみせた祖父の軌跡は、少年の心を激しく揺さぶった。

幼くして冷徹な現実にのみ向き合わされてきた彼だからこそ、「夢」を真実へと変えたヘックスの功績の重みを理解できたのだ。

 

しかしヘックスは一線を退いた…否、"退かざるを得なかった。

世界的偉人としての彼の面影は少しやつれた頬の奥に隠され、孫を慈しむ柔和な笑みだけがそこにあった。

 

ヘックスは口元に人差し指を立て、人目を忍ぶように声を潜める。

 

「お誕生日おめでとう、ルーカス。こんな日でも勉強かい?」

 

「はい。でもいいんです。僕がそうしたいだけですから」

 

伏せられた睫毛の陰で、ルーカスは静かに答えた。

その言葉の半分は真実なのだろう。

だがヘックスの瞳には、残りの半分が幼い強がりのように映っていた。

 

「…そうか」

ヘックスは一言だけそう呟くと、切り替えたように声を弾ませた。

 

「パパもママも、今日は忙しいみたいだ。

だから、おじいちゃんがお祝いしてあげよう!」

 

「えっ…!」

ルーカスの顔が晴れやかになる。

 

「そうだな…おじいちゃんがケーキを買ってきてあげよう。とびきり甘いやつだ!」

 

「ほ、本当ですか!で、でも…お祖父様が買いに行かれるんですか…?」

 

喜びの直後、ルーカスの表情が曇った。

昔、テレビ画面越しに見たあの光景。

車を降りた瞬間、無数のフラッシュと怒号の渦に呑み込まれ、今にも押し潰されそうになっていた祖父の姿。

その痛々しい記憶が、ルーカスの脳裏に呼び醒まされてしまった。

 

ルーカスが4歳の頃、その激震は突如として走った。

世間を震撼させたのは、絶頂期にあったニーズヘッグ・エンタープライズの創始者「ヘックス・ヴラッドウッド」がサイバーテロ組織と癒着しているという報道だった。

 

組織のリーダーと同じ席に座り、親しげに微笑むヘックスの写真が紙面を埋め尽くす。

事態が決定的となったのは、政府の機密情報へアクセスしようとしたその男が逮捕された時だった。

追い詰められた男は、自らの活動資金はヘックス・ヴラッドウッドから援助されたものだと供述したのである。

 

ヘックスは男と懇意にしていることは認めたものの、テロ組織のリーダーであることは知らなかったと、断固として否認し続けた。

しかし、世論が彼の言葉を信じることはなかった。

法的に罪を問われるほどの証拠こそ出なかったものの、ヘックスが世界的大企業を後ろ盾にテロを企てていたという疑いは強まり、彼は責任を取る形で辞任を余儀なくされた。

以降、止むことのないフラッシュと侮蔑の眼差しに晒され続け、かつての偉人は世間から逃れるように身を潜める生活へと追い込まれた。

 

後任に就いたのは、実子であるゲイルだった。

元より父と相容れぬ思想を持つ彼は、この事件を好機と言わんばかりに、ヘックスを会社から、そして一族の表舞台から完全に切り離した。

ゲイルの妻や使用人たちまでもがその冷徹な意思に追従し、かつての主を汚れ物のように避けるようになっていった。

 

しかし、ルーカスとオスカーは信じていた。ヘックスは無実であると。

かつて公園で楽しそうにデュエルをする子供たちを眺めながら、ヘックスは傍らにいた幼いオスカーとルーカスに静かに語りかけた。

 

「あの子達がデュエルを楽しむ笑顔をみているだけで、私はこれ以上ないほど幸せだ。

これからも世界中の皆が、カードを、モンスターを愛し、笑顔でいてくれたら…。私が願うのはそれだけだよ」

 

その穏やかな笑顔が、偽りであるはずがない。

それはルーカスにとって、何よりも確かな真実だった。

 

ルーカスには"テロ組織"というものはよくわからなかったが、とにかくその組織のリーダーの男の言葉も、何かの罠に違いない。そう確信していた。

しかしその純粋な想いに爪を立てるように、世間から向けられる冷ややかな眼差しと執拗なマスコミの追及は、日に日にヘックスを蝕んでいった。

 

ルーカスには、それが許せなかった。

彼らは何も知らないのだ。

ヘックスがモンスターワールドという異世界を見出したことも、どれほど心からデュエルを愛し、この世界を慈しんでいるかも。

上辺だけの情報でもてはやしたかと思えば、手のひらを返して石を投げる。

その救いようのない愚かさは、いつしか少年の心に、拭い去れない嫌悪となって澱のように溜まり始めていた。

 

やがてヘックスの笑顔は薄れ、その身は痛々しいほどやつれ、いつしか自ら人を避けて生きるようになっていた。

しかしそんな彼が、目の前で久しぶりに笑顔を見せている。そのことが、ルーカスには心から嬉しかった。

 

だからこそ、彼が独りでケーキを買いに行くという言葉が、喜び以上に重い不安を連れてくる。

あの怒号と罵声が渦巻く外の世界へ、再び祖父を向かわせることへの憂慮が、少年の胸を強く締め付けている。

 

ルーカスが言葉にせずとも、ヘックスには彼が何が言いたいのか理解していた。

 

「大丈夫、ケーキを買いに行くだけさ。なんてことない。

使用人の方の手を煩わせたくないしな」

 

ヘックスは笑みを浮かべたが、その眼差しには拭いきれない寂しさが滲んでいる。

その表情を見上げるルーカスには、子供ながらに感じた。

祖父の優しさを無下にはしたくないと。

 

「…ありがとう、お祖父様。楽しみにしてる!」

 

窓の外には、まだ眩しいほどに明るく晴れた空が広がっていた。

 

 

 

 

静まり返っていた部屋に、唐突な雨音が響き渡った。

ルーカスは視線を窓の外へと向けた。

分厚い雲が瞬く間に空を侵食し、窓の外を鉛色に塗り潰していく。

祖父がケーキを買いに出てから、既に40分ほど経っている。

あの快晴の下で、傘を持って出たとは到底思えない。

胸の奥で、嫌な予感がじわじわと形を成していく。

 

ルーカスはかつて祖父が絶品だと語っていた、近所のケーキ屋のことを思い出す。

その記憶を道標にするように、ルーカスは部屋を飛び出した。

長い階段を駆け下り、玄関で雨靴に履き替え、傘を掴む。

焦燥に突き動かされるまま、彼は激しく地面を叩く雨の中へと身を投じた。

 

 

おぼろげな記憶を頼りに辿り着いたケーキ屋の前で、ルーカスは足を止めた。

数メートル先、雨に霞む視界の中に二人の男が見える。

 

一人は、店の入り口にある雨よけの屋根の下に立つ、真っ白な製菓服を纏った男。

そしてその足元には、激しい土砂降りに打たれずぶ濡れになりながら、必死に男に縋りついている老人がいた。

 

「お祖父様……」

 

その光景を目にした瞬間、ルーカスの手から傘が地面に転げ落ちた。

なぜ、こんなことになっているのか。

理解が追いつかず、到底近寄ることなどできなかった。

ルーカスはただ呆然と立ち尽くしたまま、目の前の光景を見つめることしかできなかった。

 

ヘックスは男に向かって何度も頭を下げ、何かを懸命に訴え続けている。

しかし叩きつける雨音が周囲の声をことごとく奪い去り、その内容はほとんど聞こえない。

 

だが、喉を絞り出すようなその叫びだけは、分厚い雨の壁を突き破ってはっきりと響いた。

 

「大事な孫を喜ばせたいだけなんだ!!頼む…!」

 

その声にはっとして、ルーカスは祖父のもとへ駆け寄ろうと足を踏み出した。

製菓服の男は足元に縋りつくヘックスを、まるで汚物でも払うかのように何度も蹴りつけている。

 

「だから、迷惑なんだよ!アンタと関わったらウチまで悪い噂を立てられるんだ!」

 

怒号が雨音を裂く。

それでもヘックスは必死な形相でしがみつき、男の顔を見上げながら祈るように何度も繰り返した。

 

「頼む…これっきりでいいんだ…!頼む…!」

 

「離せよッ!」

 

男が強く足を蹴り上げると、ヘックスの細い体はあっけなく引き剥がされ、豪雨が叩きつける路地に転がった。

泥水の中にボロ雑巾のように倒れ込む祖父。

ルーカスは、その無残な光景を見開いた瞳に焼き付けていた。

 

ゆっくりと、視線が製菓服の男へと向く。

その瞳には、底知れない憎悪が滲んでいた。

 

どいつもこいつも、馬鹿ばっかりだ。

お祖父様のことも、世界のことも…何も知らないくせに、まるで自分が正しいかのように振舞う。

 

脳裏に、あの忌まわしいフラッシュの嵐と罵声に晒されるヘックスの姿が蘇る。

ルーカスは奥歯が砕けそうなほど強く噛み締めた。

その表情は、おぞましい殺意に染まっていく。

 

お前は、何様のつもりなんだ。

その人が誰だか、わかっているのか。

 

すぐ腐る甘い泥をこねくり回すだけの無能が、

なんで"その人"を貶められるんだ?

 

 

頭の中で憎悪の言葉が渦巻く。

しかし、子供の殺気に気づく様子もなく、男は吐き捨てるように言い放った。

 

「二度とウチには関わらないでくれ!」

激しい音を立てて、店の扉が閉ざされた。

 

 

立ち尽くすルーカスの視線は、焦点もなく虚空を彷徨っていた。

その意識を現実に引き戻したのは、路傍から届くしわがれた声だった。

 

「…恥ずかしいところを見られてしまったね」

 

ルーカスははっとして、声のする方へと弾かれたように駆け寄った。

 

「お祖父様…!」

 

泥にまみれ、雨に打たれながらも、祖父は無理やり口角を上げて笑ってみせていた。

 

「…ごめんね、ルーカス。

私は……孫の誕生日すら、まともに祝ってやれない…!」

 

深く刻まれた皺の間に、じわりと涙が浮かぶ。

その弱々しく惨めな姿が、ルーカスの胸を激しく締め付けた。

 

「違うッ!違うよ!!お祖父様は悪くないっ…!!」

ルーカスは必死に叫んだ。

 

そう、お祖父様は悪くない。

間違っているのは、世界の方だ。

 

この日、少年の心に深く刻み込まれた憎悪が、後のルーカス・ヴラッドウッドという人間を形作る原点となった。

 

 

この3年後、ヘックス・ヴラッドウッドは交通事故に遭い、以後13年間、目を覚ますことはなかった。

事故を起こしたのは、ディオ・ニオシスという酒浸りの若い男だった。

 

またどうでもいい"クズ"が、世界から大切なものを奪った。

ルーカスの内側で、憎悪は静かに、だが確実に膨れ上がっていった。

 

ヘックスが社長の座を追われて以降、ゲイルの代でニーズヘッグは失墜の一途をたどった。

ヘックスが築き上げた理想を捨て、保守的な利益優先主義が蔓延した報いだった。

 

しかし、次にオスカーが社長の座に就き、原点回帰と大改革を断行したことで、ニーズヘッグは再び息を吹き返した。

 

これでいい。これでいいんだ。

こうやって、1つずつ、悪の芽を摘んでいくしかない。

それしか、世界を良くする方法はないんだ。

 

 

「だから…お前のような世界の"癌"は、排除しなきゃならない。

それこそが、選ばれし者の使命なんだ」

 

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【ルーカス】

LP3900 手札:1(アポロジスト)

 

①ヘヴンアイズ・エターナルドラゴン ATK4400

②ヘヴンアイズ・ヘラルド ATK900

③ヘヴンアイズ・オファニム DEF2400

④ヘヴンアイズ・プロフェット ATK1100

⑤ヘヴンアイズ・オスティアリウス ATK1600

 

Pゾーン:▲カントル

EXデッキ(表):アポロジスト×2

 

▲□□□□

⑤□③②④

 □ ①

□⑦⑧□⑨

□□□□□

□□□□□

 

【怜央】

LP4000 手札:1(フォノグラフ・ソニック)

 

⑦スチームアーミー・ブレイブロード・エクスプレス(X素材0) ATK2500

⑧スチームアーミー・エクスプロード(X素材1) ATK2600

⑨スチームアーミー・マヌーヴァー・インファントリー DEF500

 

フィールド魔法:スチームアーミー・デッドゾーン

永続魔法:スチームアーミー・サプリングバトルライン、スチームアーミー・ディメンションタワー

永続罠:命取りの重鎧

--------------------------------------------------

 

ルーカスの対面に並び立つ無機質な機兵の群れと、圧倒的な質量で圧をかける真紅の列車。

ルーカスはふと、熱を帯びた盤面から意識を逸らし、静まり返った客席へと視線を投げた。

 

空虚な観客席の中、ただ一点、不気味な存在感を放つマキシム・ハイド。

その男を射抜くルーカスの眼差しには、隠しきれない敵意が鋭く突き刺さっている。

 

しかし、対峙する怜央の不遜な声が、即座に彼の焦点を戦場へと引き戻した。

 

「排除、か。言っとくが"癌"ってのはしぶといぜ。

やれるもんならやってみろ。もっとも、そんな状態じゃ俺のフィールドをこじ開けることもできねえがな」

 

ルーカスのフィールドで高い攻撃力を持つのはエターナルドラゴンのみだ。

墓地から戦闘破壊耐性を与えるバリケイド・ビルダーもいる以上、このままではブレイブロードとエクスプロードの2体を突破することはできない。

 

怜央の挑発を鼻で笑うように、ルーカスの口元に不敵な笑みが浮かび上がる。

 

「ほら、まただ。何も知らないくせに、全てを知ったような口を利く。凡人はいつまで経っても学ばないな」

 

静かながらも底冷えするようなその言葉に、怜央は身を固めて警戒を強めた。

 

「僕は手札からヘヴンアイズ・アポロジストを特殊召喚。

このモンスターはフィールドにヘヴンアイズがいる時、手札から特殊召喚できる」

 

■天界眼の信仰者(ヘヴンアイズ・アポロジスト)

 ペンデュラム

 レベル2/光/天使/攻0 守0 スケール9

 【P効果】

 このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:Pゾーンのこのカードを破壊して発動できる。

 デッキから「ヘヴンアイズ」Pカード1枚を自分のPゾーンに置く。

 【モンスター効果】

 このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、

 ②の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドに「ヘヴンアイズ」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

 ②:自分フィールドの「ヘヴンアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターは、自分のEXデッキ(表側)の「ヘヴンアイズ・アポロジスト」の数によって以下の効果を得る。

 ●1体以上:このカードの攻撃力は、自分のEXデッキ(表側)の「ヘヴンアイズ・アポロジスト」の数×500アップする。

 ●2体以上:このカードは相手の魔法・罠カードの効果を受けない。

 ●3体:このカードは相手のモンスター効果を受けない。

 

 

現れたモンスターは、深く被ったフードの下、青い単眼を持つ白い仮面を被っている。

赤の縁取りが施された白い法衣を着ており、両手を祈るように固く結んでいる。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/7X4p3WD

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ルーカスは凛とした立ち姿で両手を広げ、澱みない動作で宣告した。

 

「僕はフィールドのヘラルド、プロフェット、オファニムの3体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!召喚条件はEXデッキから特殊召喚されたモンスターを含む、光属性モンスター3体!」

 

「新たなリンクモンスター!?」

客席から、遊次が驚愕に目を見開く。

 

リンクモンスターは、エターナルドラゴンの斜め下のリンク先にしか特殊召喚できない。

そしてリンク先の隣のモンスターゾーンにアポロジストがいることで「既存のモンスターと隣り合うフィールドにしかモンスターを呼べない」という怜央のフィールド魔法の制約を、ルーカスは容易に超えたのだ。

 

3体のモンスターが眩い光の奔流へ姿を変え、展開された回路へと吸い込まれていく。

 

「天に根差すは、根源たる神樹。その枝葉には、崇高なる魂が息吹く」

 

口上を唱えると共に、その収束する光の渦から、全てを圧するような巨大な影が音もなく立ち上がった。

 

「現れよ、リンク3!ヘヴンアイズ・ヴィータ!」

 

 

■天界眼の生命樹(ヘヴンアイズ・ヴィータ)

 リンク

 リンク3/光/植物/攻2100

 【リンクマーカー:左/下/右】

 EXデッキから特殊召喚されたモンスターを含む光属性モンスター3体

 【モンスター効果】

 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:このカードがEXデッキから特殊召喚された場合に発動できる。

 自分はフィールド・墓地・デッキ・除外状態の「ヘヴンアイズ」Pモンスター3体を選び、EXデッキに表側で加える。

 ②:自分・相手ターンに発動できる。自分はP召喚を行う。

 ③:自分メインフェイズに発動できる。

 自分のEXデッキ(表側)のカードの枚数×300、自分はLPを回復する。

 

 

光の残滓が霧散し、対峙する怜央の眼前へとその異形が降り立つ。

白磁の質感を湛えた巨大な神樹。

天を覆う枝には、どす黒い赤葉が不気味なほど繁茂している。

何より異様なのは、幹の各所に埋め込まれた幾つもの巨大な「眼」だ。

青白く発光するその瞳は、神聖な静謐さを保ちながらも、射抜いた者の魂を凍りつかせるような悍ましい威圧感を放っていた。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/X6dIcnR

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【ルーカス】

LP3900 手札:0

 

①ヘヴンアイズ・エターナルドラゴン ATK5000

②ヘヴンアイズ・ヴィータ ATK2100

③ヘヴンアイズ・オスティアリウス ATK1600

④ヘヴンアイズ・アポロジスト DEF0

 

Pゾーン:▲カントル

EXデッキ(表):ヘラルド、プロフェット、オファニム、アポロジスト×2

 

▲□□□□

③④②□□

 □ ①

□⑦⑧□⑨

□□□□□

 

【怜央】

LP4000 手札:1(フォノグラフ・ソニック)

 

⑦スチームアーミー・ブレイブロード・エクスプレス(X素材0) ATK2500

⑧スチームアーミー・エクスプロード(X素材1) ATK2600

⑨スチームアーミー・マヌーヴァー・インファントリー DEF500

 

フィールド魔法:スチームアーミー・デッドゾーン

永続魔法:スチームアーミー・サプリングバトルライン、スチームアーミー・ディメンションタワー

永続罠:命取りの重鎧

--------------------------------------------------

 

天を衝く不気味な巨大樹を仰ぎ、怜央は目を鋭く細めた。

ルーカスは無造作に髪を掻き上げると、淡々と宣告を紡ぐ。

 

「ヘヴンアイズ・ヴィータの効果発動。EXデッキから特殊召喚した時、フィールド・墓地・デッキ…そして除外状態のヘヴンアイズを3体選び、EXデッキに表側で加える」

 

「なんだと…」

怜央の喉から驚愕の呻きが漏れた。

 

「僕は除外されているドミニオンズと、デッキのヴァーチュス、エクスシーアをEXデッキに加える」

 

ヴィータの幹に埋め込まれた無数の瞳が青白く脈動し、その輝きの中から三体の天使が幻影のごとく現れ、光の粒子となって天へと昇り消えていった。

 

「せっかく怜央がEXデッキを削ったのに、これじゃ…」

灯の唇から、やり場のない虚無感が微かな吐息とともに零れ落ちる。

 

「それもそうだけど…多分、もっとやべえことが起きる」

遊次はフィールドへ疑念の視線を突き刺した。

 

「ヘヴンアイズ・アポロジストの効果発動。

フィールドのヘヴンアイズ1体に効果を付与する。対象はヘヴンアイズ・ヴィータ」

 

白磁の巨樹の傍らで、アポロジストが静かに跪き、祈りを捧げる。

天を割り、慈愛を孕んだ純白の光が恩恵として降り注いだ。

 

「さらにヘヴンアイズ・オスティアリウスの効果発動。

フィールドの『ヘヴンアイズ』カードを1枚破壊して、デッキからヘヴンアイズPモンスターを手札に加える。

ヘヴンアイズ・アポロジストを破壊して、ヘヴンアイズ・ゲートキーパーを手札に加える」

 

オスティアリウスが地に手を触れると、アポロジストの周囲を無機質な蒼い光線が幾重にも囲い込み、幾何学的な結界を形成する。

逃れられぬ檻は中心へと無慈悲に収縮してその身体を締め上げ、激しい閃光とともに、アポロジストの姿を光の粒子へと変えた。

 

「これで、EXデッキのアポロジストは3枚…」

蒼月は楽しむように笑みを浮かべ、呟く。

 

「アポロジストに効果が付与されたモンスターは、EXデッキのアポロジストの数×500、攻撃力が上がる。

さらにEXデッキにはアポロジストが3枚存在するため、効果を付与されたエターナルドラゴンとヴィータはモンスター・魔法・罠の効果を受けない!」

 

「完全耐性のモンスターが2体…」

灯には、胸の奥から恐怖が込み上げるのがわかった。

 

「ヘヴンアイズ・ヴィータの効果発動。

自分メインフェイズに、EXデッキの表側カードの数×300、ライフを回復する」

 

ヴィータのたなびく紅い葉がさらさらと音を立て、そこから溢れ出した青白く眩い光がルーカスの全身を包み込んだ。

 

ルーカス LP3900→6600

 

「ライフまで回復されちまうのかよ…」

遊次は拳を強く握り、やり場のない無力感を露わにする。

 

「さらに手札のヘヴンアイズ・ゲートキーパーをPスケールにセッティング!」

 

ルーカスの頭上に現れたのは、白みがかった水色の瞳を持つ、重厚な白銀の甲冑を纏った老騎士。

金の縁取りが施された白い装甲に、鮮烈な赤の外套。

その手には、中心に蒼い光を宿した環状の意匠を持つ、巨大な斧槍が携えられていた。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/b69Nibb

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【ルーカス】

LP6600 手札:0

 

①ヘヴンアイズ・エターナルドラゴン ATK6300

②ヘヴンアイズ・ヴィータ ATK3600

③ヘヴンアイズ・オスティアリウス ATK1600

 

Pゾーン:▲カントル、■ゲートキーパー

EXデッキ(表):ヘラルド、プロフェット、オファニム、ヴァーチュス、ドミニオンズ、エクスシーア、アポロジスト×3

 

▲□□□■

③□②□□

 □ ①

□⑦⑧□⑨

□□□□□

 

【怜央】

LP4000 手札:1(フォノグラフ・ソニック)

 

⑦スチームアーミー・ブレイブロード・エクスプレス(X素材0) ATK2500

⑧スチームアーミー・エクスプロード(X素材1) ATK2600

⑨スチームアーミー・マヌーヴァー・インファントリー DEF500

 

フィールド魔法:スチームアーミー・デッドゾーン

永続魔法:スチームアーミー・サプリングバトルライン、スチームアーミー・ディメンションタワー

永続罠:命取りの重鎧

--------------------------------------------------

 

ルーカスの2体のリンクモンスターの攻撃力は、怜央の2体のXモンスターを優に上回る。

さらにエターナルドラゴンはこのターン2度の攻撃が可能。このままでは、攻撃表示モンスターに攻撃されるだけで、怜央は敗北してしまう。

 

しかし、そもそもエターナルドラゴンが2度攻撃可能になった時点で攻撃していれば、怜央は敗北していた。

にも関わらずルーカスは展開を続け、この盤面を作り上げた。それはつまり、怜央には敗北を防ぐ手段が存在しているということだ。そこに遊次達は一縷の望みを託す。

 

しかし怜央の表情は依然苦しいままだ。

その意味に解を示すように、ルーカスは効果を発動する。

 

「ヘヴンアイズ・ヴィータの効果発動。

このモンスターは、お互いのターンに1度、効果によるP召喚を行うことができる」

 

「2度目のP召喚だと…!」

イーサンは思わず驚愕の声を上げると同時に、ルーカスの頭上の振り子が大きく揺れ始める。

 

「EXデッキより現れよ、我がモンスター達!

ヘヴンアイズ・ヴァーチュス、ドミニオンズ、エクスシーア!」

 

ルーカスの頭上から三つの光が降り注ぎ、フィールドを激しく打った。

白と紅に彩られた巨大な双翼を広げ、鳥人の天使ヴァーチュスが空を薙いだ。

黄金の冠に白い仮面。金装飾を施した純白の法衣を纏い、ドミニオンズが静かに立ち塞がる。

さらに白銀と紅の鎧を纏う、上級天使エクスシーアが剣を構える。

 

-------------------------------------------------

【ルーカス】

LP6600 手札:0

 

①ヘヴンアイズ・エターナルドラゴン ATK5700

②ヘヴンアイズ・ヴィータ ATK3600

③ヘヴンアイズ・オスティアリウス ATK1600

④ヘヴンアイズ・ドミニオンズ ATK2400

⑤ヘヴンアイズ・エクスシーア ATK2500

⑥ヘヴンアイズ・ヴァーチュス ATK2200

 

Pゾーン:▲カントル、■ゲートキーパー

EXデッキ(表):ヘラルド、プロフェット、オファニム、アポロジスト×3

 

▲□□□■

③④②⑥⑤

 □ ①

□⑦⑧□⑨

□□□□□

 

【怜央】

LP4000 手札:1(フォノグラフ・ソニック)

 

⑦スチームアーミー・ブレイブロード・エクスプレス(X素材0) ATK2500

⑧スチームアーミー・エクスプロード(X素材1) ATK2400

⑨スチームアーミー・マヌーヴァー・インファントリー DEF500

 

フィールド魔法:スチームアーミー・デッドゾーン

永続魔法:スチームアーミー・サプリングバトルライン、スチームアーミー・ディメンションタワー

永続罠:命取りの重鎧

--------------------------------------------------

 

ルーカスのフィールドに並び立つ6体のモンスター。

そのどれもが勝敗を決定づけるほどの威圧感を放ち、巨大な壁となって怜央を包囲している。

逃げ場のない力の奔流を前に、怜央は思わず後ずさりする。

 

「素晴らしい!なんと壮大な光景か!まるで神話だ!」

ハイドは歓喜に声を弾ませ、眼前に広がる光景を称えるように力強く拍手した。

 

力の差は歴然だった。

遊次達の心を、凄まじい速度で絶望が蝕んでゆく。

 

1歩、1歩と、誰も犠牲にしない未来が、遠のいてゆく足音が聞こえる。

 

 

第72話「ノブレス・オブリージュ」 完

 

 

 

 

ヘヴンアイズの猛攻に怜央は必死に抗うも、そのライフのほとんどを失う。

怜央は盤面を全て破壊され、ルーカスは一向に力を落とさないどころか、さらに布陣を強化する。

 

遊次達の中に焦燥が募る。しかし怜央は揺るがない。

高い視座から世界を俯瞰するルーカス。

そして怜央の人生を狂わせたコラプス、その元凶であるマキシム・ハイド。

世界の実権を握る彼らを前に、怜央は高らかに宣戦布告する。

 

怜央は1枚のカードを見つめ、不敵な笑みを浮かべる。

それは自らの命にタイムリミットを課すカードだった。

このターンに決着をつけなければ、怜央は敗北する。

 

"選ばれし者"が世界の歯車を動かすか、

それとも、"鼠"がその歯車を狂わせるか。

その答えは、デュエルが指し示す。

 

「全部、ぶっ壊してやるよ。そうすりゃ"神様"の指先で弾かれる奴らの気持ちも、ちったぁわかるだろうぜ」

 

 

次回 第73話「リミット」

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