遊戯王Next   作:湯(遊戯王SS投稿者)

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第86話:希望を貫く凶弾

ネフカ王国の禁忌を知る少女、トト。彼女を守ったことで、遊次たちは王国軍の騎兵による猛追を受けていた。絶体絶命の窮地に駆けつけたのは、アスラナク王の暴政に抗う組織「ギルド」の者たちであった。

 

しかし、圧倒的な数の兵士を完全に振り切ることはできない。そこで遊次たちを乗せた騎馬が囮となって大半の兵士を引きつけ、ヌーラの卓越した騎乗術で残存する兵士の頭上を飛び越える作戦に。そして灯は敵軍の副指揮官「ヘム・セケル」へと肉薄し、強制オースデュエルを仕掛けた。

 

灯の目的は、勝利によってヘムが率いる「ムウミン軍」の機能を停止させること。ヘムよりも上位の指揮官「ムウミン」による契約の書き換えを物理的に阻むため、灯は「到達に2日を要する山頂へ兵士を向かわせる」という条件を提示する。対するヘムの要求は灯の身柄の確保と、あらゆる質問への回答。灯が敗北すれば、彼女自身のみならず、逃走中の遊次やギルドのメンバーたちまで一網打尽にされてしまう。

 

先攻の灯は、除外効果を持つ2体のシンクロモンスターを呼び出し陣形を固める。対する後攻のヘムが操る「ミフナ」デッキは、自らの行動に制約を課すことで強大な力を得る特異な戦術を取る。4つの枷を自身にはめたヘムは、切り札たる儀式モンスター「ミフナ・ジャッバール」を降臨させる。除外されている「ミフナ」の数だけ相手のカードを除外するその絶対的な除去能力により、灯の盤面は瞬く間に更地にされ、痛烈なダイレクトアタックを被ってしまう。

 

返しのターン、灯はジャッバールによる強力な除外効果を受けながらも、1枚のカードからフィールドに展開の芽を残し、切り札であるアールヌーヴォーを呼び出す。その力でジャッバールの効果を無効化して耐性を奪い去り、灯はヘムの切り札を除外してダメージを叩き込んだ。

 

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【灯】

LP3500 手札:2

 

①ペイントメージ・アールヌーヴォー ATK3000

②ペイントメージ・ムンク ATK2400

 

伏せカード:1

 

【ヘム】

LP5000 手札:3

 

伏せカード:1(ミフナ・ウィラーサ)

制約:通常召喚不可、モンスターへ攻撃不可、墓地から特殊召喚不可、サルベージ不可

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しかし、ヘムに動揺はない。落ち着いた声色のまま、背後に控える兵士たちへと静かに言葉を紡ぎ始める。

 

「案ずるな。お前たちは、私の覚悟を知っているであろう」

その言葉に、兵士たちの脳裏にある夜の記憶が蘇る。薄暗い兵舎の中、安らかに眠りこける指揮官ムウミン。その姿から少し離れた場所で、ヘムを中心に静かに輪を作って語り合った光景だった。

 

 

「私たちの使命は、全身全霊でアスラナク様に貢献し、ムウミン指揮官の七使徒の座を守り続けること。それこそが…絶対派の悲願の成就へと繋がるのである」

ヘムの言葉に、背後に控える2人の兵士は真剣な眼差しで同時に深く頷く。

 

「指揮官を…守り続ける?」

灯にはその言葉の真意が全く理解できず、怪訝な表情を浮かべてヘムへと問いかける。ヘムは顔に一層深く皺を刻み、毅然とした声で返す。

 

「言ったであろう。アスラナク様のやり方に思うことがないわけではない、と。だが政治とは時間をかけて変わっていくものである。そして今、ムウミン指揮官の存在によって、王宮は緩やかだが確かに変わりつつあるのだ」

 

謎に包まれた王宮の内部、そしてこの国の現状。それらを少しでも探り出すため、灯はさらに言葉を返す。

 

「…どういうこと?」

 

「ムウミン指揮官はつい最近、七使徒となったばかりである。彼女が王宮に来るまでの七使徒は、互いが互いを牽制し、足を引っ張るような状況が続いていた。それはアスラナク様に対する恐怖ゆえ、成果を上げなければならぬという使命感に駆られたからでもあった。ゆえに己を守るために、利敵行為を働く者も現れた。その者は処刑され、代わりにムウミン指揮官が七使徒の座に就いたのである」

 

「彼女が王宮に来てからは、あれ程いがみ合っていた七使徒たちは棘が抜けたようにまとまり始めた。七使徒らしからぬどこか気の抜けた言葉や表情、そして彼女の纏う独特な空気感。それがムウミン軍から他軍へ、やがては王宮全体に波及していった。彼女1人の存在が、明らかに王宮を変えつつあるのである」

 

ムウミンという人物を灯は知らない。だが、ヘムの語る内容には明らかな矛盾と違和感があった。到底納得などできない。灯は表情を険しくして言い放つ。

 

「王宮が変わった?だったらなんでトトちゃんを狙うんですか?どこが変わったっていうんですか」

 

灯の鋭い追及に対しても、ヘムは顔色一つ変えずに淡々と答える。

 

「言ったであろう、過渡期であると。変わりつつある、それが大切なのである」

背後に控える兵士たちも、ヘムに同調するように迷いのない眼差しで真っ直ぐに前を見据えている。ヘムの言葉が彼ら全員の確固たる総意であることは明白だった。

 

「ムウミン指揮官は、一日のほとんどを睡眠に費やさねばならん特殊な体質である。無論、アスラナク様を前にしてもな。しかしそのような無礼がまかり通っているのは、ひとえに我がムウミン軍が着実に成果を上げているからに他ならぬ」

 

「彼女が七使徒として王宮に残り続けることこそ、この国の良き未来へと繋がる!ゆえに私は、アスラナク様の命令を何としてでも果たす!異国の小娘になど、負けるわけにはいかぬのである!」

 

ヘムの主張に灯が納得したわけではない。だが、その声に宿る覚悟が本物であることだけは確かに伝わってくる。

 

灯は警戒して身構える。ヘムは両腕と両足、そして首に重い枷をつけたまま、前傾姿勢で力強く地を踏みしめ、デッキトップへと指を掛ける。

 

「私のターン…ドロー!墓地の儀式魔法『ミフナ・ヌスク』を除外し、効果発動!デッキからミフナ儀式モンスター1体を手札へと加える。手札に加えるのは『ミフナ・ズールハウル』!」

 

表へ向けられたその青きカードとその威容に、灯は思わず目を見開いた。カードからでも、その圧倒的な力を感じざるを得なかった。

 

「セットしていた儀式魔法『ミフナ・ウィラーサ』を発動!墓地からミフナを除外することで、そのレベル以下の儀式モンスターを、手札より特殊召喚する!」

 

■ミフナ・ウィラーサ

 儀式魔法

 「ミフナ」儀式モンスターの降臨に必要。

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベル以上になるように、自分の墓地の「ミフナ」モンスターを除外し、手札から「ミフナ」儀式モンスター1体を儀式召喚する。

 この効果で儀式召喚されたモンスターはこのターン、相手の効果を受けない。

 ②:墓地のこのカードを除外して、墓地の「ミフナ」モンスター1体を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

 

「私は墓地のミフナ・ルービヤーン、ミフナ・サマク、ミフナ・アフタブールを除外し、儀式召喚を執り行う!!」

 

儀式の代償として新たな制約が科され、ヘムの右足と左足に分厚い岩の枷が3つ、重い音を立てて噛み合わさった。

 

「ミフナ・サマクが除外されている限り、私はデッキからモンスターを特殊召喚できない。さらにミフナ・ルービヤーンが除外されている限り、私は相手のカードにチェーンできない。そしてミフナ・アフタブールが除外されている限り、手札からモンスター効果による特殊召喚を行えない。だが…この枷はもう、私の体だけを縛るものではない」

 

ヘムの口元が吊り上がり、その鋭い眼光が灯を射抜く。突き刺さるような視線から、灯は次に起こる事態を即座に悟る。

 

ヘムの眼前に、硬質な岩で構成された複数が並び立つ。3体の周囲には古代文字の刻まれた青き円陣が浮かび上がり、脈打つように激しい雷光を放ち始めた。

 

「裁きの闘神よ、眼前の傍観者へ冷徹なる岩の掟を与え給え」

 

3体のミフナが眩い閃光に飲み込まれて消滅する。直後、頭上を覆い隠すほどの巨大な影が、灯とヌーラの全身をすっぽりと飲み込んだ。

 

「儀式召喚!降臨せよ!ミフナ・ズールハウル!」

 

 

■ミフナ・ズールハウル

 儀式モンスター

 レベル10/水/岩石/攻撃力4500 守備力4000

 「ミフナ」儀式魔法カードにより降臨。

 このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:このカードが儀式召喚した場合、除外状態の「ミフナ」モンスター2体を対象として発動できる。それらを特殊召喚する。

 ②:除外状態の「ミフナ」モンスターによって自分が受ける効果は、相手も受ける。

 ③:このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が越えた分の数値だけ戦闘ダメージを与える。

 

 

フィールドに現れたのは、岩石とクリスタルが幾重にも重なり合う巨人だ。その体躯はジャッバールをも優に超えている。全身を覆う重厚な装甲には、青く発光する古代文字の紋様が深く刻まれ、頭上には文字が回る巨大な光の環が浮かび、その頂点で三角形の結晶が鋭く輝く。左手には結晶の棘が突き出した巨大な錫杖を構え、装甲の合間から噴き出す激しい青い稲妻が、その圧倒的な威容をより一層際立たせる。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/yMLa2Ze

※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

 

青い雷鳴を轟かせる巨人を、ヌーラは戦慄に満ちた眼差しで見つめていた。刹那、重苦しい衝撃音が連続して響く。灯の両腕、両足、そして首筋。飛来した6つの岩石が、逃げ場を奪うようにその身体を固く縛り上げた。

 

「うっ…!!」

凄まじい質量に押し潰され、灯は苦鳴を漏らして地面に膝を突く。目の前の光景に、ヌーラは立ち尽くしていた。何が起きたのかを理解できぬまま、ただ驚愕に目を見開いていた。

 

「ミフナ・ズールハウルが存在する限り、除外状態のミフナによって私が負っている制約は、相手プレイヤーも負うこととなる」

巨大な影を背負ったヘムの声が、静まり返るフィールドに冷たく響く。

 

「そんなっ!だってアンタの水属性モンスターの効果は、全部無効になるはずじゃ…」

ヌーラは激しい困惑を露わにし、信じがたい光景に視線を彷徨わせる。しかしその狼狽を切り捨てるように、ヘムが淡々と理を説く。

 

「ミフナ・ウィラーサによって儀式召喚されたモンスターは、このターン相手の効果を受けぬ。だが安心するのである。体を少し軽くしてやろう」

重苦しい枷の感触に耐えながら、ヘムの口元に微かな慈悲が浮かぶ。

 

「ミフナ・ズールハウルが儀式召喚した場合、除外状態のミフナを2体、特殊召喚することができる!現れよ、ミフナ・スラフファー!ミフナ・ティンニーン!」

 

フィールドに現れたのは、岩石の体を持つ2体のモンスターだ。1体は、無骨な岩の身体を持つ巨大な亀。甲羅の背には鋭利な青いクリスタルが群生し、正面には青く輝く星の紋章が光る。甲羅の周囲には青いルーン文字の浮かぶ枷が巻き付き、全身から青い稲妻を放つ。もう1体は、蛇のようにとぐろを巻く岩の龍。頭部は鋭い青いクリスタルで形成され、大きく開く口からは青い雷光が溢れ出る。胴体には亀と同じルーン文字の枷が絡みつき、激しい青い稲妻を纏う。

 

スラフファー:ttps://imgur.com/a/FWtYfK2

ティンニーン:ttps://imgur.com/a/TYdO9jX

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「だがアールヌーヴォーの効果で水属性モンスターの効果は無効となる!」

アールヌーヴォーが錫杖を振り上げると、2体のモンスターは色を失う。

 

「除外状態のミフナが2体減ったことで、私はモンスターへの攻撃と、墓地からカードを手札に加えることが可能となる」

 

ヘムの両腕を固定していた岩が、乾いた音を立てて砕け散った。それと呼応し、灯の腕を縛り上げていた枷もまた、激しい火花を散らして地面へ弾け飛ぶ。

 

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【灯】

LP3500 手札:2

 

①ペイントメージ・アールヌーヴォー ATK3000

②ペイントメージ・ムンク ATK2400

 

伏せカード:1

 

【ヘム】

LP5000 手札:4

 

①ミフナ・ズールハウル ATK4500

②ミフナ・スラフファー ATK2000

③ミフナ・ティンニーン ATK2400

 

制約:通常召喚不可、墓地から特殊召喚不可、手札からモンスター効果による特殊召喚不可、デッキからモンスター特殊召喚不可、相手のカードへのチェーン不可

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「まずいよ…!このままじゃやられちゃう!」

ヌーラが悲痛な声を上げる。ヘムのモンスターの一斉攻撃を受ければ、灯のライフは確実に0となってしまう。

 

全身にのしかかる枷の重圧。ヘムは両足を強く踏み込んでその場に耐え、鋭い視線を向ける。

 

「君は知らぬであろう、我ら絶対派の苦しみを。私たちは幼い頃から自らの信条を表に出すことも憚られ、言いたいことも言えず、多数派によって無意識に日陰に追いやられて来た。しかしアスラナク様が王座に就いた今こそ、その鬱屈とした日々から脱却する時なのである!」

 

左手をゆっくりと宙へ掲げ、ヘムは真っ直ぐに前を見据えた。

 

「我らの悲願は、アスラナク様の力がなくては成し得ぬ。そしてムウミン指揮官によって、王宮には良い風が吹き始めている。このまま進めば、いずれは絶対派こそが主流となり、我らも大手を振るって歩くことができるようになるのである。ようやく…ようやく!」

 

確信に満ちた強い響き。対する灯は枷に押さえ込まれて膝をつき、両腕をだらりと垂らしている。だが、その声色には確かな刃が宿っていた。

 

「そのためなら、子供の命も犠牲にするって言うんですか。あなた自身も本当はそんなこと望んでないのに…!」

 

「左様である!信仰によって苦しむ人々を救うためならば、私は悪魔にでもなろう!」

ヘムの口から放たれたのは、決意に満ちた雄叫びだった。

 

「バトル!ミフナ・ズールハウルよ、ペイントメージ・アールヌーヴォーへ攻撃を!」

 

ズールハウルが巨大な岩の錫杖の柄を力強く地面に叩きつける。すると右手に浮かぶルーンリングの中心で青いエネルギー球が明滅し、リングの回転が加速するにつれてその威力を増していく。発生した衝撃波が、容赦なく灯の身体を打ち据える。だがその凄まじい圧力の中、灯は枷の重みに耐えながらデュエルディスクへと指を伸ばした。

 

「罠カード発動…!ペイントメージ・グラデーション!フィールドのペイントメージSモンスター1体をEXデッキに戻して、同じレベルを持つ異なる属性のペイントメージSモンスターを、EXデッキから召喚条件を無視して特殊召喚する!」

 

 

■ペイントメージ・グラデーション

 通常罠

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドの「ペイントメージ」Sモンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターをEXデッキに戻し、同じレベルを持つ異なる属性の「ペイントメージ」Sモンスター1体をEXデッキから召喚条件を無視して特殊召喚する。

 ②:墓地のこのカードを除外し、手札の「ペイントメージ」モンスター1体を捨て、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターの属性は、この効果を発動するために捨てたモンスターと同じ属性になる。

 

 

「俺はムンクを対象にこの効果を発動!さらにチェーンしてペイントメージ・ムンクの効果発動!デッキからペイントメージ・フキサチーフを除外し、アールヌーヴォーを水属性へと変える!」

 

灯が満を持してセットカードを開く。チェーンされたムンクの効果の真意を、ヘムは掴めない。

 

ムンクが天へ向けて銃口を構え、引き金を引く。撃ち出された水色の絵の具が空中で弾け、アールヌーヴォーへと雨のように降り注ぐ。色の飛沫を浴び、アールヌーヴォーの姿が変わっていく。纏うローブは波打つような鮮やかな蒼色へと変わり、背の翼は絶えず形を変える透き通った水流となる。

 

「チェーン1のペイントメージ・グラデーションによってムンクはEXデッキに戻る。そして同じレベルのペイントメージSモンスターを特殊召喚する!」

 

ムンクの全身が、まばゆい七色の光に包み込まれる。そのまま細かな光の粒子となってフィールドから姿を消すと、フィールドに鮮やかな緑色の風が吹き荒れ始めた。

 

「舞い踊る一陣の風が、混沌を平穏に塗り替える。現れよ、ペイントメージ・コンスタブル!」

 

 

■ペイントメージ・コンスタブル

 シンクロモンスター

 レベル6/風/魔法使い/攻撃力2000 守備力2400

 チューナー + チューナー以外の風属性モンスター1体以上

 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:フィールド上のモンスター1体を対象とし、属性を1つ宣言して発動できる。

 デッキから宣言した属性のモンスター1体を除外し、選んだモンスターは宣言した属性になる。

 この効果は相手ターンでも発動できる。

 ②:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの「ペイントメージ」モンスターは同じ属性の相手モンスターとの戦闘で破壊されず、同じ属性の相手モンスターの効果で破壊されない。

 ③:自分フィールドの「ペイントメージ」モンスターが同じ属性の相手モンスターの効果を受けた場合に発動できる。その相手モンスターを破壊する。

 

 

フィールドに現れたのは、金の縁取りが入る緑色の装束を身に纏う、丸眼鏡の弓手だ。背中まで届く緑色の髪を1本の三つ編みに束ね、鋭い視線を前方へ向ける。両手には独特の反りと突起を持つ深い緑色の弓を構え、弦をいっぱいに引き絞る。つがえる矢の先端は絵筆の形をしており、そこから鮮やかな緑色の光を放つ。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/TdhevF9

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勝利を確信していた矢先、突如現れた新たなシンクロモンスターに兵士たちは目を細める。

 

「ペイントメージ・コンスタブルの効果発動!デッキから水属性のペイントメージ・オウトロメールを除外して、コンスタブル自身を水属性に変える!」

 

コンスタブルが天へ向けて弓を構え、矢を放つ。上空で弾けた矢から、水色の絵の具が雨のように降り注ぐ。その飛沫を浴びて、コンスタブルの姿が変化していく。緑色の装束は波打つような鮮やかな青色に染まる。1本に束ねられた三つ編みは透き通った水流となって絶えず揺らめき、手に構える弓もまた、清澄な水を固めたような姿形をしている。

 

「これでコンスタブルと同じ水属性のモンスターは、同じ属性の相手モンスターとの戦闘と効果で破壊されない。よって、ズールハウルの攻撃で俺のモンスターを破壊することはできない」

 

「ほう…なんとか敗北は免れたか。だがズールハウルは守備モンスターを攻撃する時、貫通ダメージを与えることができる。バトルは続行である!ズールハウルよ、ペイントメージ・コンスタブルへ攻撃を!」

 

ズールハウルが、右手に渦巻く青いエネルギーの球体をコンスタブルに向けて解き放つ。コンスタブルは青い穂先の矢をつがえ、迎え撃つように射ち放った。矢の軌跡から波打つ青いベールが展開され、迫り来るエネルギーを受け止める。しかし、ズールハウルの放った力はそれを凌駕した。ベールを突き抜けた強烈な衝撃が、灯の身体を容赦なく襲う。

 

「あああぁっ!!」

灯 LP3500→1400

 

灯は仰け反る体をなんとか引き戻し、眼前の巨人を見つめる。

 

(アールヌーヴォーは守った。あのモンスターがカード効果を受けないのはこのターンだけ。次のターンになれば、アールヌーヴォーの効果で、ズールハウルの効果は無効。枷も外れる)

 

このターンさえ凌げば、ヘムの切り札の脅威は完全に消え去る。高打点モンスターを突破しなければならない課題は残るが、少なくとも凶悪な制約が襲い掛かることはない。

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

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【灯】

LP1400 手札:2

 

①ペイントメージ・アールヌーヴォー(水) ATK3000

②ペイントメージ・コンスタブル(水) DEF2400

 

 

【ヘム】

LP5000 手札:3

 

①ミフナ・ズールハウル ATK4500

②ミフナ・スラフファー ATK2000

③ミフナ・ティンニーン ATK2400

 

伏せカード:1

 

制約:通常召喚不可、墓地から特殊召喚不可、手札からモンスター効果による特殊召喚不可、デッキからモンスター特殊召喚不可、相手のカードへのチェーン不可

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「儀式魔法によって相手の効果を受けなかったズールハウルは、その耐性を失う。よってアールヌーヴォーの効果により、ズールハウルの効果は無効となり、君に制約を与える効果も消える」

 

ヘムが観念したように静かに目を閉じる。それと同時に、灯の身体を戒めていた岩の枷が音を立てて粉々に砕け散った。

 

「やったぁ!」

強張っていたヌーラの表情が、一瞬にして明るく綻ぶ。重圧から解放された灯は、今も兵士たちの追跡から逃れようと走る遊次やトトへと思いを馳せた。そして確かな反撃の意志と共に、デッキトップへと真っ直ぐに指を掛ける。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

灯の反撃が動き出そうとしたその時。広野にヘムの声が轟く。

 

「罠カード『ミフナ・サムト』発動!除外されているミフナの種類だけ相手モンスターを対象とし、そのモンスターの効果は無効となり、攻撃宣言できない!対象はペイントメージ・アールヌーヴォーとペイントメージ・コンスタブル!」

 

■ミフナ・サムト

 通常罠

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:除外状態の自分の「ミフナ」モンスターの種類の数まで相手フィールドのモンスターを対象として発動できる。そのモンスターの効果は無効となり、そのモンスターは攻撃宣言できない。

 ②:自分・相手エンドフェイズに、手札の「ミフナ」カード1枚を墓地へ送って発動できる。このカードを自分フィールドにセットする。この効果でセットしたこのカードはフィールドから離れた場合に除外される。

 

 

「なんだって…!」

複数のモンスターに対して効果と攻撃を封じる並外れた効果。それはプレイヤー自身が数多の制約を負う見返りとしての力に他ならない。

 

このままでは再びアールヌーヴォーの効果は無効化され、ズールハウルが力を取り戻す。そしてヘム負っている数多の制約が灯に襲い掛かることとなる。

 

優先権は灯にある。今の灯が唯一できることと言えば、コンスタブルの効果でフィールドのモンスターの属性を変更することのみだ。罠カードの効果が適用されれば、制約によってほぼまともな展開は不可能となってしまう。灯は手札をじっと見つめ、どうすべきかを必死に思考する。

 

(考えろ。考えろ、考えろ…!)

 

灯の脳内に無数のカードが浮かび上がり、それらが結びついて幾つもの展開回路を形作る。しかし、そこに思考の電流を流すたびに途中でショートを起こし、回路は崩れ落ちてしまう。一から組み直しては、また破綻する。シミュレーションを2度、3度と繰り返すうち、灯の胸中に強い焦りが渦巻いていく。

 

極限状態の頭の中を駆け巡るのはカードだけではない。様々な言葉が次々と蘇る。

 

『信仰によって苦しむ人々を救うためならば、私は悪魔にでもなろう!』

 

ヘムの口から放たれた覚悟と、それを聞いた時に湧き上がった名状しがたい感情。背後から鬼の形相で迫る兵士たちと、泣きそうな瞳でこちらを見つめていたトトの顔。

 

そして——。

 

『頼んだ、灯!絶対に負けんじゃねえぞ!』

 

自分たちの、そして世界の運命を託した遊次の声。

 

その響きが脳髄を揺らした瞬間、頭の中に全く新しい回路が浮かび上がる。青い光がカードとカードを繋ぎ合わせ、これまで破棄してきたルートとは違い、淀みなく次々と先のカードへと結びついていく。

 

SモンスターからSモンスターへ。そして、1枚の罠カードへ。

だがその先で、回路を流れる青い光は行き場を失い、パチパチと火花を立てたまま完全に停止した。

 

確実なルートはそこで途切れている。しかし、灯は鋭い眼差しで真っ直ぐに前を見据え、覚悟を決める。

 

(そこから先は、運命に賭けるしかない。でも賭け事なら…ちょっとだけ自信あるんだから!)

 

灯の脳裏に浮かんだのは、かつて裏カジノ打倒のために戦ったギャンブラー、「雨宿真白」とのデュエルだった。

 

「ペイントメージ・コンスタブルの効果発動!デッキからペイントメージ・プリュームを除外し、自身を風属性に塗り替える!」

コンスタブルが天へ向けて矢を放つ。放たれた矢は旋風となってコンスタブルを包み込み、その装束と髪を元の鮮やかな緑色へと戻していく。

 

「無駄な足掻きである!チェーン1のミフナ・サムトにより、君の2体のモンスター効果は無効となり、私のモンスターの力は復活する!」

アールヌーヴォーとコンスタブルの足元に蒼い魔法陣が展開される。青い稲妻が激しく迸ると同時、2体の身に蒼く発光する輪の枷が嵌め込まれ、その動きを完全に戒める。それに呼応するように、ヘムのフィールドに並ぶ3体のモンスターたちへ本来の色彩が戻っていく。

 

「ミフナ・ズールハウルの効果が戻ったことで、相手は私が負っている全ての制約を背負う!」

 

その瞬間、重い音と共に、灯の両手足と首の計5箇所へ無骨な岩の枷が打ち付けられる。突如としてのしかかった尋常ではない重圧に、灯は苦痛に顔を歪め、そのまま膝をついた。

 

「灯さん…ッ!」

枷に押さえ込まれた痛々しい姿と、再び突きつけられた絶望的な盤面。その光景を前に、ヌーラはただたじろぐことしかできない。

 

同じ数の枷に縛られながらも、ヘムは堂々と立ち、膝をつく灯を見下ろして口を開く。

 

「除外されているミフナは5種類。私と君は5つの制約を負っている。通常召喚の禁止。墓地からの特殊召喚の禁止。手札からのモンスター効果による特殊召喚の禁止。デッキからの特殊召喚の禁止。相手カードへのチェーンの禁止…この5つだ」

 

それはあまりに重く、絶望的な事実だった。これほどの枷を背負った状態で、まともな展開など行えるはずがない。そこに、ヘムは容赦なく更なる事実を突きつける。

 

「そしてミフナ・ティンニーンがフィールドに存在する限り、他のミフナを効果の対象にできない。デュエルはまだ途中だ。しかし、あえて言おう。君の敗北である」

 

岩の枷の重圧に押され、灯は両手を力なく垂れ下げたまま俯いている。その姿を見たヌーラの脳裏に、先へ進んだギルドの仲間たちと、トトの姿がよぎる。どうすることもできない現実に、ヌーラは痛いほど強く奥歯を噛み締めた。

 

だがその視線の先で、灯は力強く地面を踏みしめ、ゆっくりと立ち上がる。顔を上げた彼女の表情を目の当たりにし、ヘムは大きく目を見開いた。その眼差しに宿る光は、到底心を折られた者のものではない。

 

(何者だ、あの娘は…)

一見すればただの少女に過ぎない彼女が、なぜこれほどの強靭な精神を保っていられるのか。これまでにどれほどの困難を乗り越えてきたのか、ヘムには全くはかることができなかった。

 

灯の右手がゆらりと持ち上がり、デュエルディスクのデッキへと添えられる。

 

「除外されたペイントメージ・プリュームの効果発動。除外された時、デュエル中に1度、『ペイントメージ』と名の付くフィールド魔法か速攻魔法を1枚、手札に加える。手札に加えるのはフィールド魔法『ペイントメージ・ワンダーキャンバス』。そのまま俺は今手札に加えたワンダーキャンバスを発動」

 

 

■ペイントメージ・ワンダーキャンバス

 フィールド魔法

 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分フィールドの「ペイントメージ」モンスター1体をリリースし、属性を1つ宣言して発動できる。

 お互いのフィールドのモンスターおよび召喚・特殊召喚されるモンスターは、次の相手ターン終了時まで宣言した属性になる。

 ②:自分の除外状態の「ペイントメージ」カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 ③:自分フィールドの「ペイントメージ」モンスターが戦闘で破壊された場合に発動できる。

 そのモンスターと同じ属性の「ペイントメージ」モンスター1体をデッキから特殊召喚する。

 

 

カードの発動と共に周囲の景色は一変する。そこは、白く研磨された大理石を思わせる巨大な建物が立ち並ぶ空間だった。いくつもの太い円柱が規則正しく並び、優雅なアーチを支えている。まるで雪景色のように全てが純白で、静謐かつ荘厳な空気が場を満たす。

 

岩の重圧に耐え、身体を引きずるようにして立ち上がる灯。その姿を見下ろし、ヘムは口を開く。

 

「無駄である。岩の枷によって縛られた君に、これ以上何ができる」

 

だが灯は微かに口角を上げた。

 

「アンタのデッキは、制約によってちゃんと自分もデメリットを受けるようになってる。だからこそ…アンタに無関係な"場所"は、縛られてないんだよ」

 

不敵なその笑みには、幼い頃から灯にデュエルの戦い方を教え込んできた遊次の面影が重なっていた。

 

「フィールド魔法『ペイントメージ・ワンダーキャンバス』の効果発動。フィールドのペイントメージを1体リリースすることで、次の相手ターン終了時まで、お互いのフィールドのモンスターは宣言した属性になる。コンスタブルをリリースして、お互いのモンスターを闇属性に変更」

 

コンスタブルの姿が闇に溶け込むように消え去ると、ワンダーキャンバスの景色が変貌する。白亜の柱や床は底知れぬ漆黒へと染まり、空間全体を濃密な影が覆う。アーチから降り注ぐ光は絶たれ、足元には淀んだ紫色の靄が漂う。静寂に包まれた空間は、一切の光を呑み込む暗黒の領域となる。

 

「この効果により、お互いのモンスターは闇属性へと変わる」

 

アールヌーヴォーの身体を深淵のような闇のオーラが包み込む。全身の装束は漆黒に染まり、背の翼は絶えず揺らめく影で構成され、紫色の靄を散らす。同時に、ヘムのフィールドの3体のモンスターの姿も変貌する。岩の亀と岩の竜を形作る岩肌は黒曜石のように黒く変色し、その亀裂から禍々しい紫色の光を明滅させる。ズールハウルの全身からも濃い影が立ち上り、周囲の闇と同化するような姿を見せる。

 

 

「手札から魔法カード発動。『ペイントメージ・エクラブシュール』!このカードは墓地から除外したペイントメージの属性の数に応じて効果が変わる。俺は墓地のシアン、フゼイン、カードル、リラ、コンスタブルを除外して効果を使用!」

 

除外対象に選ばれたのは墓地の全てのペイントメージ。これは今の灯に出せる最大出力だ。

 

 

■ペイントメージ・エクラブシュール

 通常魔法

 このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分の墓地の「ペイントメージ」モンスターを2体以上除外し

 (属性1種類につき1枚しか除外できない)、

 除外した属性の種類の数によって以下を適用する。

 ●2種類:デッキから「ペイントメージ」モンスター1体を特殊召喚する。

 ●3種類:相手フィールドのカード1枚を選んで破壊する。

 ●4種類:相手モンスターを全て破壊する。

 ●5種類:EXデッキからレベル6以下の「ペイントメージ」モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。

 ●6種類:相手フィールドのカードを全てデッキに戻す。

 

 

「5種類の属性のモンスターを除外した場合、EXデッキからレベル6以下のペイントメージを1体、召喚条件を無視して特殊召喚できる!」

 

灯が放った言葉の真意はそこにあった。儀式召喚を主軸とするヘムはEXデッキを使用しない。自らにも枷を科す「ミフナ」の性質上、デッキの持ち主自身が使わないEXデッキからの特殊召喚までは縛られていなかったのだ。

 

灯の眼前に、赤、青、緑、黄、紫の5色の光球が出現する。それらは円を描くように集まり、速度を上げて回転していく。やがて光の軌跡が一つに溶け合い、極彩色の柱が立ち上った。眩い光の中、1体の魔法使いのシルエットが浮かび上がる。

 

「闇夜を照らす眩き光が、絶望を希望に塗り替える。

現れよ!『ペイントメージ・モネ』!」

 

 

■ペイントメージ・モネ

 シンクロモンスター

 レベル6/光/魔法使い/攻撃力2000 守備力1900

 チューナー + チューナー以外の光属性モンスター1体以上

 このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:フィールド上のモンスター1体を対象とし、属性を1つ宣言して発動できる。

 デッキから宣言した属性のモンスター1体を除外し、選んだモンスターは宣言した属性になる。

 この効果は相手ターンでも発動できる。

 ②:1ターンに1度、自分がS召喚を行う場合、

 このカードと同じ属性を持つ相手フィールドのモンスターも1体までS素材にできる。

 この効果でS召喚する場合、相手モンスターをチューナーとして扱う事ができる。

 

 

現れたのは、レモン色の縦巻きロールの髪を持つ女性のモンスター。ローブは純白で、裾は足元まで長く、光を反射するかのように淡く輝き、清らかな印象を与える。胸元と袖口には銀色の刺繍が施され、神秘的な雰囲気を醸し出しており、手には杖を模した筆を持っている。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/sCm4G0G

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「フィールド魔法の効果で、モネは闇属性に変わる」

モネの純白のローブはインクを落としたように黒く変色し、身体から薄暗い靄が滲み出る。胸元と袖口の銀色の刺繍は妖しく紫の光を帯び、手にする筆の先から濃い影が立ち上る。

その姿に怪訝な視線を向け、ヘムが口を開く。

 

「美しき精霊だ。しかし、いまさら何ができる?無意味に精霊を現世に呼び出すのは、侮辱行為であるぞ」

 

「無意味なわけねぇだろ!フィールド魔法『ペイントメージ・ワンダーキャンバス』の効果発動。1ターンに1度、除外されているペイントメージカードを1枚手札に戻す。俺はペイントメージ・フキサチーフを手札に加える」

 

そして灯は手札に加えたカードを表へと向ける。

 

「制約によって手札のモンスター効果での特殊召喚はできないが、手札のモンスター効果を使うことはできる。ペイントメージ・フキサチーフの効果発動!フィールドのペイントメージ1体と手札のこのカードでS召喚を行う!」

 

 

■ペイントメージ・フキサチーフ

 効果モンスター/チューナー

 レベル1/水/魔法使い/攻撃力100 守備力800

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分・相手ターンに手札から発動できる。

 このカードを含む自分フィールドのSモンスターを素材に

 「ペイントメージ」SモンスターをS召喚する。

 ②:自分の「ペイントメージ」モンスターの効果の発動を無効にする効果が発動した時、

 墓地のこのカードを除外して発動できる。その効果を無効にする。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/SA3crQW

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「手札からシンクロだと…!」

重い制約を課せられていながら、何度もSモンスターを特殊召喚する灯に、ヘムの背後の兵士は戦慄する。

 

「レベル6『ペイントメージ・モネ』に、レベル1『ペイントメージ・フキサチーフ』をチューニング!」

 

青いスプレー缶に手足のついたモンスターが現れ、眩い光の輪に変わる。モネがその中へと突き進むと、その体は6つの星の光へと変換される。

 

 

「希望へ導く光明が、暗き悲劇を塗り替える。

S召喚!現れよ!ペイントメージ・モネ・カテドラル!」

 

 

■ペイントメージ・モネ・カテドラル

 シンクロモンスター

 レベル7/光/魔法使い/攻撃力2300 守備力2600

 チューナー + 「ペイントメージ・モネ」

 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分・相手ターンに発動できる。

 「ペイントメージ」Sモンスター1体をS召喚する。

 この効果でS召喚を行う場合、このカードと同じ属性の相手モンスターもS素材にできる。

 ②:自分・相手ターンに、フィールドのこのカードと同じ属性を持つモンスター1体を対象とし、1~7までの任意のレベルを宣言して発動できる。

 そのモンスターのレベルはターン終了時まで宣言したレベルになり、このターン、チューナーとしても扱う。

 ③:このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合、

 自分の墓地の「ペイントメージ・モネ」1体を対象として発動できる。

 そのモンスターを特殊召喚する。

 その後、デッキから「ペイントメージ」カード1枚を選び、デッキの一番上に置く。

 

 

眩い光が収束すると、その場に現れたのは、上級の魔法使いへと姿を変えたモネだった。モネと同じ顔立ちと、豊かな金色の巻き髪。彼女は白と金の豪奢なローブを纏い、右手には太陽のように輝く黄金の錫杖を携えている。その姿は、空間に満ちた光を反射して一層煌めき、神々しいまでの威厳を放っていた。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/5WzlwtC

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現れたモネ・カテドラルもまた、フィールド魔法によって、その髪とローブは闇のような黒へと染まる。

 

「モネ・カテドラルの効果発動!お互いのターンに1度、フィールドのこのカードと同じ属性を持つモンスター1体のレベルを変更し、チューナーとしても扱うことができる。俺とアンタのモンスターは全て闇属性。よってミフナ・ティンニーンのレベルを1に変える!」

 

「さらにモネ・カテドラルの効果発動!お互いのターンに1度、ペイントメージモンスターをS召喚できる!この時、モネ・カテドラルと同じ属性の相手モンスターを素材にすることができる!」

 

「相手の精霊でS召喚だと!?」

常軌を逸したその効果に、ヘムは驚愕に目を見開く。

 

「俺はレベル5のミフナ・スラフファーに、レベル1チューナーとなったミフナ・ティンニーンをチューニング!」

 

ティンニーンが巨大な光の輪へと姿を変え、スラフファーの周囲を取り囲むように回転し始める。スラフファーが一度雄叫びを上げると、その体は5つの星へと変換され、フィールドに巨大な光の柱が立ち上がった。

 

「S召喚!再び現れよ、ペイントメージ・ムンク!」

ヘムの眼前にそびえ立つ光の柱の中から、一つの黒い影が素早く飛び上がり、灯のフィールドへと颯爽と降り立つ。

 

 

■ペイントメージ・ムンク

 シンクロモンスター

 レベル6/闇/魔法使い/攻撃力2400 守備力800

 チューナー + チューナー以外の闇属性モンスター1体以上

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:フィールド上のモンスター1体を対象とし、属性を1つ宣言して発動できる。

 デッキから宣言した属性のモンスター1体を除外し、選んだモンスターは宣言した属性になる。

 この効果は相手ターンでも発動できる。

 ②:このカードと同じ属性を持つ相手の墓地のモンスターが効果を発動した場合、

 またはこのカードと同じ属性を持つ相手の墓地のモンスターを対象とする効果が発動した場合に発動できる。

 その効果を無効にし、対象となった相手の墓地のモンスターを除外する。

 

 

その姿は全身黒ずくめの若い男のモンスターだ。ボサボサの黒髪と、隈を強調した鋭い目つきで正面を睨んでいる。ダブルブレストの黒いロングコートを纏い、右手に銃を構える。その銃身の先端には紫色の穂先を持つ大きな筆が付き、側面には色とりどりの丸いボタンが並ぶ。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/hw4EFqv

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「私のフィールドのモンスターでS召喚を行うとは…想像を超越した力である。しかし君のモンスターでは、ズールハウルを倒すことはできぬ。それとも、ここからズールハウルを倒す秘策があるというのかね」

 

ヘムは険しい表情で前を見据えた。対象耐性を与えるティンニーンが消え去り、今のズールハウルは全くの無防備だ。灯の手に除去の一手があれば、ヘムの敗北は免れない。盤面には、灯が手を尽くして呼び出した3体のSモンスターが並び立っている。ここから更なる追撃が来る。誰もがそう予感していた。

 

「…俺は、カードを1枚伏せてターンエンド」

予想を裏切るあまりにもあっけない幕切れ。張り詰めていた兵士たちの顔に安堵が広がる。

 

しかしヌーラの表情にもまた焦りはない。冷静に思考を巡らせながら、戦いの行く末を見据えている。

 

(あのモネ・カテドラルっていう精霊は、お互いのターンにレベル変更と相手の精霊を使ったシンクロができるんだよね。だったらあの副指揮官のデッカいモンスターもS素材にしちゃえばいいだけ…!)

 

このターンはあくまで対象耐性を与えるティンニーンを除去し、次のターンで本命であるズールハウルをS素材とする。それこそが灯の狙いなのだとヌーラは考えていた。しかしすぐにその考えは裏切られることとなる。

 

「エンドフェイズ、墓地の罠カード『ミフナ・サムト』の効果を発動。手札を1枚捨てることで、このカードを墓地よりフィールドにセットすることができる」

 

ヘムは手札の「ミフナ・ティムサーフ」というモンスターを墓地に送ることで、再び罠カードをフィールドにセットする。

 

-------------------------------------------------

【灯】

LP1400 手札:1

 

①ペイントメージ・アールヌーヴォー(闇) ATK3000

 →効果無効、攻撃不可

②ペイントメージ・ムンク ATK2400

③ペイントメージ・モネ・カテドラル(闇) ATK2300

 

伏せカード:1

 

 

【ヘム】

LP5000 手札:2

 

①ミフナ・ズールハウル(闇) ATK4500

 

伏せカード:1

 

制約:通常召喚不可、墓地から特殊召喚不可、手札からモンスター効果による特殊召喚不可、デッキからモンスター特殊召喚不可、相手のカードへのチェーン不可

--------------------------------------------------

 

「うそ…!あれじゃまたモンスター効果が無効化されちゃう…!」

途端にヌーラの表情に焦りが浮かぶ。再セットされた罠カードは、除外されたミフナの種類だけ相手モンスターの効果を無効化するものだ。

 

「その通りである。モネ・カテドラルによってズールハウルのレベルを変えS素材とする算段は、この罠カードによって崩れ去る。次のターン、優先権は私にあり、先に罠カードを発動可能。そして君は相手のカードにチェーンできない制約を負っている以上、この罠カードを止めることはできないのである」

 

ズールハウルの効果が課す制約によって、灯にはこの罠カードに対抗する手段が残されていない。フィールドに伏せられた1枚のセットカードだけが唯一の希望として残されていたが、ヘムの眼差しはすでにそれすらも見透かしていた。

 

(たとえあの伏せカードがズールハウルを倒すものであったとしても、墓地のティムサーフは自分フィールドにモンスターが存在しない場合、除外状態のミフナを1枚手札に加える効果を持つ。それにより通常召喚不可の枷を外せば、再び展開が可能。あの娘に勝ち目はないのである)

 

幾重にも張り巡らされた逃げ場のない罠。何重にも張り巡らされたその盤石な戦略こそが、王国軍の副指揮官たる所以だった。

 

灯は岩の重さに全身をきしませ、荒い息を吐きながらも前を見据えている。そんな満身創痍の相手を前にしても、ヘムは一切の油断を見せない。確実なるトドメを刺すべく、静かにデッキトップへ指を掛けた。

 

「私のターン、ドロー!罠カード『ミフナ・サムト』発動!除外されているミフナの種類まで、相手モンスターの効果を無効化する!ムンクとモネ・カテドラルの効果を奪う!ズールハウルの課す制約により、チェーンは不可能!」

 

古代文字が刻み込まれた岩のリングが宙に出現する。それらは真っ直ぐにムンクとモネ・カテドラルへと向かい、強固な枷となって装着された。

 

「効果でセットされたミフナ・サムトはフィールドから離れた場合に除外される」

 

岩の重圧によって身動きを封じられ、灯の2体のモンスター効果は完全に失われる。

 

「このまま攻撃を受けたら…」

悔しさに顔を歪め、ヌーラは強く瞼を閉じる。両手足と首を岩の枷に拘束された灯が、背を向けたまま静かに口を開いた。

 

「まだ、終わりじゃない」

その声に、ヌーラは弾かれたように顔を上げる。

 

「ここまでは、全部視えてたことだよ。ここからが…正真正銘の賭けだ」

灯の脳裏には、今この瞬間も逃げ続けている遊次やトトの姿が焼き付いていた。鋭い眼光で真っ直ぐに前を見据え、重い枷の嵌められた腕を力強く突き出す。

 

「そろそろ、止まってもらわなきゃ。皆もきっと疲れてるから」

灯はデュエルディスクへとゆっくり指を伸ばす。

 

「罠カード発動!『白光の導き』!自分フィールドのSモンスター1体をリリースして、そのモンスターを素材として指定するSモンスターを、召喚条件を無視して特殊召喚できる!」

 

「なんだと…!」

 

■白光の導き

 通常罠

 ①:自分フィールドのSモンスター1体をリリースして発動できる。

 そのモンスターをS素材として指定するSモンスターを、召喚条件を無視してEXデッキから特殊召喚する。

 この効果で特殊召喚したモンスターは、次のターン終了時まで相手の効果を受けない。

 

 

「俺はペイントメージ・ムンクをリリースして、ムンクを素材とするSモンスターを特殊召喚する!」

ムンクの足元から、突如として激しい闇のオーラが噴出する。荒れ狂う漆黒の奔流はムンクの姿を完全に呑み込み、周囲の空間を震わせながら、巨大な力の渦へと膨れ上がっていく。

 

「憂鬱に染まりし凶弾が、まやかしの希望を塗り替える」

 

「現れよ!ペイントメージ・ムンク・ルクリ!」

 

 

■ペイントメージ・ムンク・ルクリ

 シンクロモンスター

 レベル7/闇/魔法使い/攻撃力2700 守備力2000

 チューナー + 「ペイントメージ・ムンク」

 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:このカードが特殊召喚した場合に発動できる。相手の墓地のカードを全て除外する。

 このカードの攻撃力は、この効果で除外されたこのカードと同じ属性のモンスターの数×300アップする。

 ②:相手の墓地の、このカードと同じ属性のモンスター効果は全て無効となり、

 相手の墓地のこのカードと同じ属性のモンスターを対象とする効果は全て無効となる。

 ③:このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合、自分の墓地の「ペイントメージ・ムンク」1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 その後、自分の墓地の「ペイントメージ」魔法・罠カード1枚を選び、自分フィールドにセットすることができる。

 

 

渦巻く闇が散ると、新たな姿となったムンクが現れる。黒の前髪で片目を隠すその端正な顔立ちには、目の下へ複雑で禍々しい闇のペイントが新たに刻まれている。身に纏うのは、金色の装飾や無数のチェーンが鈍い光を放つ重厚なゴシックロングコート。右手に握る筆型の銃も、鋭い棘と幾重にも重なる黒鋼の装甲を備えた銃器へと変貌している。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/JbbUaUF

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ムンク・ルクリは、銃口を真っ直ぐに手前へと向けている。ただ静かに佇むその姿から、ヘムは思わず首筋を触れられるような、本能的な恐ろしさを抱いた。

 

「ムンク・ルクリの効果発動!特殊召喚した時、相手の墓地のカードを全て除外する!」

 

「……なっ…!!」

ヘムは大きく目を見開き、明らかな焦りの色を顔に浮かべる。しかし、彼がそこまで取り乱す理由が何なのか、兵士やヌーラには全く理解できていなかった。

 

ムンク・ルクリが引き金を引き、真っ直ぐに弾丸を放つ。撃ち出された一撃は、ヘムのデュエルディスクを的確に撃ち抜いた。その瞬間、デュエルディスクから黒い顔のような影が浮かび上がり、辺りにおぞましい叫び声を響かせる。不気味なその声にヘムが思わず肩を震わせると、墓地にある全てのカードが影と共にゆっくりと天へ昇り、虚空へと消え去っていった。

 

けたたましい激音と共に、ヘムと灯の手足へ、同時に三つの岩の枷が打ち付けられる。唐突にのしかかった重みに耐えきれず、二人は揃ってその場に膝をついた。

 

「なっ!?」

目前で起きた不可解な事態に、ヌーラは驚愕の声を上げる。身を拘束されたヘムは険しい表情で真っ直ぐに灯を睨みつけるが、対する灯の口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。

 

「ミフナは除外状態の時、プレイヤーに制約を与える。ムンク・ルクリによってアンタの墓地から3体のミフナが除外されたことで、アンタは3つの制約を背負うことになった。ミフナ・ティンニーンによって、墓地のカードを手札に加えることができず、ミフナ・ティムサーフによってデッキからカードを手札に加えることができない。そして…ミフナ・スラフファーによって、モンスターへの攻撃ができなくなる」

 

背後に控えていた兵士たちの顔色が一変した。彼女がここまで手数をかけて引き起こした事象、その真意をようやく悟ったのだ。

 

「モンスターへの攻撃ができない…!?それでは、このターンにあの女を仕留めきれない…!」

 

-------------------------------------------------

【灯】

LP1400 手札:1

 

①ペイントメージ・アールヌーヴォー(闇) ATK3000

 →効果無効、攻撃不可

②ペイントメージ・ムンク・ルクリ ATK2700

③ペイントメージ・モネ・カテドラル(闇) ATK2300

 →効果無効、攻撃不可

 

 

【ヘム】

LP5000 手札:3

 

①ミフナ・ズールハウル(闇) ATK4500

 

制約:通常召喚不可、墓地から特殊召喚不可、手札からモンスター効果による特殊召喚不可、デッキからモンスター特殊召喚不可、相手のカードへのチェーン不可、モンスターへ攻撃不可、サルベージ不可、サーチ不可

--------------------------------------------------

 

手中に収めたはずの勝利が突如として霧散し、ヘムの顔に濃い怒りが滲む。ヌーラは揺れる瞳で真っ直ぐに灯の背中を見つめていた。

 

(前のターンでミフナをS素材としてフィールドから墓地に送たのは、次のターンで一気に除外して制約を与えるため!凄い、ここまで考えてたなんて…!)

 

前のターンの始まり。罠カードによって動きを封じられようとしたあの瞬間から、灯の眼にはすでにこの逆転の光景が映っていたのだ。

 

(この人、なんでこんなに強いの?他の異人さん達も同じぐらい強いの?もしかしたら、この人達なら…)

ヌーラの胸の奥で、トクトクと鼓動が早まっていく。それは言葉には言い表せない、未知なる高揚感だった。

 

「『白光の導き』で特殊召喚されたムンク・ルクリは、次のターン終了時まで相手の効果を受けない。さらに墓地とデッキからカードを手札に加えられない制約も加わった以上、もうアンタはまともに動けない」

 

戦闘による破壊も、カード効果による除去も届かない。そうなれば、このターンでの決着はほとんど不可能に等しかった。だが、重くのしかかる岩の枷に低い呻き声を漏らしながらも、ヘムはゆっくりと両足で立ち上がる。そして、灯へ向けて言葉を投げ返した。

 

「攻撃を封じることでこのターンを凌いだのは褒めてやろう。しかし君はただ、延命したに過ぎないのである」

 

「私にはめられた枷は、同じく君にものしかかっている。次のターン、君は私のモンスターを攻撃できず、まともな展開も不可能。結局は、この状況を覆すカードを引いた方が勝つ…という話に変わっただけである。君に天秤が傾いたわけではない」

 

ヘムの冷徹な指摘に、ヌーラは息を呑む。先ほど灯が口にした『ここからが正真正銘の賭け』という言葉。それはまさにヘムが語った通り、互いに身動きが取れない盤面を自力でこじ開けなければ勝利はないという事実を示していた。逆にヘムが先に膠着を破るカードを引き当てた瞬間、この均衡は呆気なく崩壊し、敗北が決定づけられるのだ。

 

「私はこれにてターンエンド」

ターン終了と共に、フィールド魔法によって闇属性に変わっていたモンスターの姿は、元の色へと戻ってゆく。

 

「果たして、君はそこから逆転の手など引けるのかね」

ヘムの言葉に対し、灯は即座に言葉を返した。

 

「悪いけど、逆転の手なら、もうすでにあるんだよ」

 

「なに…?」

 

「俺のターン、ドロー!フィールド魔法『ペイントメージ・ワンダーキャンバス』の効果発動!1ターンに1度、除外状態のペイントメージカードを1枚手札に戻す。対象は『ペイントメージ・プリューム』」

 

前のターン、コンスタブルの効果によってデッキから除外されていた風属性チューナーを手札へと回収する。

 

「さらに墓地の罠カード『ペイントメージ・グラデーション』を除外し、手札からペイントメージを1体捨てて効果発動!フィールドのモンスター1体の属性を、捨てたモンスターと同じ属性に変える!」

 

灯は回収したばかりのプリュームを、そのまま墓地へと送る。

 

「この効果により、ペイントメージ・ムンク・ルクリを風属性に変更!」

ムンク・ルクリの黒髪と重厚なコートが、鮮烈な緑色へと染め上げられる。

 

「墓地のペイントメージ・プリュームの効果発動!墓地のこのカードを除外することで、フィールドの風属性モンスター1体を、このターン、ダイレクトアタック可能とする!」

 

 

■ペイントメージ・プリューム

 効果モンスター/チューナー

 レベル1/風/魔法使い/攻撃力300 守備力400

 このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できず、

 ②の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

 ①:墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの風属性モンスター1体を対象として発動できる。

 このターン、そのモンスターは直接攻撃できる。

 この効果を使用するターン、自分はそのモンスターでしか攻撃できない。

 ②:このカードが除外された場合に発動できる。

 デッキから「ペイントメージ」速攻魔法カードまたは「ペイントメージ」フィールド魔法カード1枚を手札に加える。

 

フィールドへ、鮮やかな緑色の大きな羽根に顔と手足を備えたモンスターが浮かび上がる。その下部は金色のペン先となっており、周囲には文字が刻まれた帯が舞っている。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/R96YdPl

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プリュームは空中に浮かび、そのペン先で何度も線を描く。描かれた軌跡は一陣の風へと姿を変え、風属性となったムンク・ルクリを包み込んで新たな力を与えた。

 

「モンスターに攻撃できないなら、プレイヤーに攻撃すりゃいいだけだ」

 

「くっ…!」

ヘムの表情が目に見えて曇っていく。この一撃で直ちに決着がつくわけではない。それでも、ヘムの胸中には抑えきれない焦燥感が渦巻いていた。

 

(あの娘のフィールド魔法は、除外されているペイントメージカードを1枚手札に戻すことができる。つまり墓地効果により手札からモンスターを捨てる『ペイントメージ・グラデーション』と、墓地から除外して直接攻撃を付与する『ペイントメージ・プリューム』の2枚が再び手札に加えられれば、次の直接攻撃で私は敗北する…!)

 

互いに身動きが取れない膠着状態。どちらが先に打開策を引き当てるかという勝負だとヘムは思い込んでいた。しかし灯は、すでにその回答を手にしていたのだ。

 

ムンク・ルクリによって枷を増やし攻撃を封じる。自分は2枚のカードのコンボによって直接攻撃を可能とし、その制約を潜り抜ける。そしてそのコンボパーツはターンを重ねることで再利用が可能。これこそが、灯の見出した唯一の勝ち筋であった。

 

(こんなところで負ければ、これまで積み上げてきたムウミン軍の実績も泡と消える…!それでは、指揮官の首までも…!)

 

絶対派思想を主流とし、二度と日陰に追いやられることのない世界。それがヘムの抱く理想だった。アスラナクの王権下で、ムウミンという存在が王宮の空気を変え、内側から健全化していく。その道筋を守るためには、軍として実績を上げ、彼女を七使徒の座に留め続けなければならない。

 

ここで敗北すれば、ムウミン軍は間違いなくアスラナクの怒りを買う。追い詰められたヘムは、凄絶な苛立ちを叩きつけるように声を荒げた。

 

「ムウミン指揮官こそ、王宮の、否…この国の希望である!敗北は許されぬッ!」

 

熱を帯びたヘムの言葉に対し、灯は静かに、しかし確かな怒りをはらんだ言葉を返す。

 

「自分の信じるものを押し殺して、言いたいことも言えなかった…そんな世の中を変えたいんですよね。でも、今のやり方で何が変わるんですか」

 

「ふざけるなッ!!異国の小娘ごときに何がわかる!?」

 

「だって、あなたは自分の王様にも、言いたいことを言えてないじゃないですか」

 

「…なんだと…ッ!」

灯の貫くような言葉に、ヘムは押し黙る。

 

「本当は子供の命を狙うなんてしたくないんでしょう。なのにアスラナクには黙って従ってる。その先にあるものが、本当にあなたの理想なんですか」

 

「…っ、黙れッ!この国を変えられるのはアスラナク様しかいないのである!背いて何になる!?それで私たちの願いが果たせるのか!?」

 

鬼気迫るヘムの叫びに、背後に立つ兵士たちも灯を睨みつける。誰しもが好んで民を手にかけているわけではない。己の信仰を貫くため、苦汁を噛み殺しているのだろう。

 

「…願い?笑わせないで」

だが灯は少しも怯むことなく、彼らを真っ直ぐに射抜くような眼差しで言い放つ。

 

 

「子供の命を奪わなきゃ叶えられないようなものを…願いなんて呼ばせない!」

 

重い岩の枷が幾つも打ち付けられた腕を、灯は力いっぱい振り抜いて宣言する。

 

「バトル!ペイントメージ・ムンク・ルクリでダイレクトアタック!」

 

ムンク・ルクリが銃を真っ直ぐに構える。その銃口へ、鮮やかな緑色の風が急激に凝縮されていく。

 

バァン、と鋭い銃声が響き渡った。放たれた風の弾丸が直撃し、次の瞬間には、ヘムの身体が後方へと激しく吹き飛ばされていた。

 

「がはぁっ…!!」

ヘム LP5000→2300

 

その弾丸は、まるでヘムの信じるまやかしの希望を撃ち抜かんとする、灯の意志そのものだった。

 

ヘムはそのまま地面へと倒れ込みそうになるが、背後に控えていた二人の兵士が咄嗟に駆け寄り、両脇からその身体を力強く受け止めた。兵士たちが必死に踏ん張ることで、副指揮官の身はかろうじて地面に伏すことを免れる。

 

「俺はこれでターンエンドだ。罠カード『白光の導き』の効果は切れ、ムンク・ルクリは相手の効果を受けるようになる」

 

-------------------------------------------------

【灯】

LP1400 手札:2

 

①ペイントメージ・アールヌーヴォー ATK3000

 →効果無効、攻撃不可

②ペイントメージ・ムンク・ルクリ(風) ATK2700

③ペイントメージ・モネ・カテドラル ATK2300

 →効果無効、攻撃不可

 

 

【ヘム】

LP2300 手札:3

 

①ミフナ・ズールハウル ATK4500

 

制約:通常召喚不可、墓地から特殊召喚不可、手札からモンスター効果による特殊召喚不可、デッキからモンスター特殊召喚不可、相手のカードへのチェーン不可、モンスターへ攻撃不可、サルベージ不可、サーチ不可

--------------------------------------------------

 

ヘムは再び自らの足で立ち上がる。その険しい眼差しと、彼を見据える灯の視線が真っ向から交差する。

 

勝負の行方は、ヘムの次のデッキトップに委ねられていた。この膠着状態を覆すカードを引き当てることができれば、ヘムが勝利を掴む。

 

逆転の方法は無数にある。フィールド魔法を破壊してしまえば、灯は除外されているコンボパーツを手札に加えることはできない。モンスターを効果で除去しダイレクトアタックする手や、モンスターへの攻撃を封じるミフナを除外状態から戻すことで、その制約を解除する方法もある。

 

しかしそれができなければ、灯が次のターンで確実にコンボパーツを手札へと戻し、また一歩勝利へと近づくことになる。

 

灯が描いていた回路は、ムンク・ルクリの召喚までだ。

そこから先は彼女の言葉通り、運命に賭けるしかない。

 

ヘムはデッキトップへと指を掛け、力を込めて引き抜いた。

 

「私のターン、ドロー!!」

 

必死の形相で、引いたばかりのカードへ目を落とす。灯も険しい表情のまま、その一枚へ視線を送っていた。

 

数秒の重い沈黙が流れる。

やがて、ヘムは低く沈んだ声で宣言した。

 

「…私はこのままターンエンドだ」

彼の手の中にあったのは、一枚のモンスターカード。通常召喚も手札からの特殊召喚も封じられている今の状況下では、盤面を覆す力を持たないただの紙切れだった。

 

灯は前を見据えたまま、大きく息を吐き出す。ヌーラも胸を撫で下ろし、こわばっていた表情をやわらげた。対するヘムの顔つきはさらに険しさを増している。だが、そこに諦めの色は微塵も浮かんでいない。

 

(まだだ…。あの娘がコンボパーツを揃えるには残り2ターン必要。つまり次の私のターンに逆転の手を引けば問題はないのである…!)

 

灯は落ち着いた手つきでデッキトップに指を触れる。ヘムが必死の形相でそれを見つめる中、灯は軽やかにカードを引き抜いた。

 

「俺のターン、ドロー。フィールド魔法『ペイントメージ・ワンダーキャンバス』の効果発動。除外されている罠カード『ペイントメージ・グラデーション』を手札に戻す」

 

ヘムの想定通りの動きだ。そしてこのターンは直接攻撃のためのコンボパーツは揃っておらず、制約によってモンスターへの攻撃もできない。ただターンを終えるしかないはずだ。

 

「フィールド魔法『ペイントメージ・ワンダーキャンバス』の効果発動。フィールドのペイントメージ1体をリリースして、相手ターン終了時まで、フィールドのモンスターは宣言した属性となる。俺はペイントメージ・アールヌーヴォーをリリースして、フィールドのモンスターを水属性に変える」

 

アールヌーヴォーが蒼い飛沫となって弾け、純白の大理石が並ぶ空間を濡らしていく。足元の床面は滑らかな波紋を広げ、底まで透き通る巨大な水鏡へと変貌を遂げる。

 

静謐な水底の中心。ムンク・ルクリの漆黒のコートと巨大なゴシック銃を、溢れ出した水の魔力が鮮やかに浸食する。モネ・カテドラルの豪奢な金の縦巻きロールも、雫を纏いながら透明感のある蒼へと塗り替えられ、空間すべてが冷涼な潤いを湛える。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

-------------------------------------------------

【灯】

LP1400 手札:3

 

①ペイントメージ・ムンク・ルクリ(水) ATK2700

②ペイントメージ・モネ・カテドラル(水) ATK2300

 →効果無効、攻撃不可

 

伏せカード:1

 

 

【ヘム】

LP2300 手札:4

 

①ミフナ・ズールハウル ATK4500

 

制約:通常召喚不可、墓地から特殊召喚不可、手札からモンスター効果による特殊召喚不可、デッキからモンスター特殊召喚不可、相手のカードへのチェーン不可、モンスターへ攻撃不可、サルベージ不可、サーチ不可

--------------------------------------------------

 

属性を変更した灯の狙いは見えない。だが、このターンを動けぬ事実に変わりはなかった。勝敗を分かつのは、次の一枚。局面を覆すカードを引けるか、それだけがすべてだ。

 

ヘムの手が、静かにデッキトップを捉える。背後に控える兵士たちが固唾を飲み、灯の力強い視線がその指先を貫く。運命が収束する一瞬、フィールドに緊張が充満した。

 

(頼む、我がデッキよ!私に力を貸し給え…!)

ヘムはカッと目を見開き、全身の力を込めてカードを引き抜いた。

 

引いたカードを凝視した瞬間、ヘムの口から激しい高笑いが響き渡った。

 

「フハハハハッ!運命は私に味方した!」

ヘムは引いたばかりのカードを力強く表へと向ける。それは1枚の通常魔法カードだった。

 

「このカードは除外状態のミフナの種類まで、相手フィールドのカードを手札へと戻す魔法カード!これで君のフィールドを蹂躙し、直接攻撃によってこの決闘に幕を下ろすのみである!」

 

「うそ…」

ヌーラが、その場に膝をつく。その魔法が通れば、灯のフィールドから全てのモンスターが消え去る。モンスターへの攻撃を封じていた制約など、対象を失えばもう意味をなさない。無防備な灯へ直接攻撃を叩き込み、灯は敗北する。

 

膝をついたヌーラが、灯の背中を仰ぎ見る。両腕を地面へと引きずる重い枷をものともせず、灯はゆっくりと拳を持ち上げ、静かに告げた。

 

「賭けに勝ったのは、俺だ」

 

「…なに?負け惜しみであるか!残念ながら君にターンは回ってこない!終わりである!」

 

ヘムは一切の動揺を見せず、勝利の確信を込めて宣告する。灯はその瞳を真っ直ぐに見据え、突き放すように言葉を返した。

 

「あぁ、俺にターンは回ってこない。このターンで勝つからな」

 

「…なんだと…?!」

 

「罠カード発動!『ペイントメージ・グラデーション』!」

それは前のターンに除外状態から回収した罠カードだ。それが伏せられていることはこの場の誰もがわかっていた。

 

「俺はムンク・ルクリをEXデッキに戻し、同じレベルで属性が異なるペイントメージSモンスターを特殊召喚する!」

ムンク・ルクリがまばゆい七色の光に包み込まれる。そのまま細かな光の粒子となってフィールドから姿を消すと、フィールドに燃え盛る炎が巻き起こる。

 

 

「勇気携えし烈火の剣が、破滅の未来を塗り替える。

現れよ!『ペイントメージ・ゴッホ・ソレイユ』!」

 

 

■ペイントメージ・ゴッホ・ソレイユ

 シンクロモンスター

 レベル7/炎/魔法使い/攻撃力2500 守備力2000

 チューナー + 「ペイントメージ・ゴッホ」

 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分・相手ターンに発動できる。

 相手フィールドのこのカードと同じ属性を持つモンスター全てを破壊し、

 破壊したモンスターの中で元々の攻撃力が最も高いモンスターの元々の攻撃力分、

 相手にダメージを与える。

 ②:このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合、

 自分の墓地の「ペイントメージ・ゴッホ」1体を対象として発動できる。

 そのモンスターを特殊召喚する。

 この効果で特殊召喚したモンスターは、相手ターンでも効果を発動できる。

 

 

叫びと共に、フィールドの中央から爆発的な炎が噴き上がった。その烈火の渦の中から、一体の騎士が姿を現す。炎を思わせる鮮やかな赤髪と瞳、そしてダークグレーの重厚なアーマーに刻まれた赤い渦巻きの紋様。右手に握られた赤とゴールドの剣の刀身は、まるで炎そのものが形を成したかのようだ。左手に掲げた赤い盾には、燃えるような金色の向日葵の紋章が刻まれている。

 

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/aekOx30

※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

 

 

「フィールド魔法の効果により、ゴッホ・ソレイユは水属性へと変わる」

 

水鏡と化した足元から、清涼な水の奔流が噴き出し、騎士の全身を包み込む。燃えるようだった赤髪は雫を纏う蒼へと染まり、瞳もまた澄んだ水色に変わる。アーマーを走る赤い紋様は静かに揺らめく水流の装飾へと転じ、手に握られた剣は炎の熱を失い、透き通る水の刀身へと変貌を遂げる。

 

突如として姿を現した水の騎士へ、その場にいる全員の視線が釘付けになる。

 

「ゴッホ・ソレイユはお互いのターンに1度、このカードと同じ属性の相手モンスターを全て破壊し、最も攻撃力が高いモンスターの元々の攻撃力分、相手にダメージを与えることができる!」

 

「なっ……!」

ヘムはただ、戦慄するしかなかった。こんなモンスターが潜んでいたなど、彼の思考には微塵も存在しなかった。

 

かつて一度、ヘムは罠カード『ペイントメージ・グラデーション』の発動を目にしている。しかしその時は、儀式魔法によって効果を受けないズールハウルに対し、戦闘破壊耐性を与えるコンスタブルを呼び出して急場を凌ぐだけの、防衛のためのカードでしかなかった。

 

墓地で発動する属性変更の効果も、ペイントメージ・プリュームとのコンボによって制約を無視し、直接攻撃を仕掛けるためのコンボパーツに過ぎなかった。その限定的な認識が、未知のSモンスターという可能性をヘムの頭の中から完全に消し去っていた。

 

ヘムが想定していた敗北条件は、灯が直接攻撃を仕掛けるためのコンボパーツを揃えきることだった。

だが、それは大きな誤算だった。

 

灯にとっての勝利は、この"ドローフェイズに"ヘムが盤面を覆せなかった、その瞬間に確定していたのだ。

 

敗北の確信が、ヘムの心から全ての気力を奪い去る。重く圧し掛かる岩の枷は、抗う力を失った身体を一際深く砂地へと沈め、容赦なくその自由を奪っていく。

 

「終わるというのか、私の願いが…こんなところで…!」

枷の重みによって両手は砂の大地へと縫い留められ、ヘムは無様に膝を折って嘆いた。その痛々しい姿を前に、控える兵士たちもただ唇を噛み締め、沈黙を守ることしかできない。

 

「終わりませんよ」

頭上から響く真っ直ぐな声に、ヘムは弾かれたように顔を上げた。

 

「あなたが望んでるのは、自分が信じるものを、胸を張って、堂々と口にできる世界でしょ。そんなの、アスラナクなんていなくても、子供の命を奪わなくても…あなたが頑張って、叶えればいいじゃないですか…!」

 

あまりにも無垢なその言葉と、心からそれを伝えようとする灯の表情。

ヘムはただ、呆然とその顔を見つめ返す。

 

なぜ彼女は、敵であるはずの自分に、これほどまでに純粋な言葉を投げかけられるのか。

 

「何かを犠牲にしないと、何かを成し遂げられない…そんな現実に抗い続ける人を、私は知ってます。私はその人を信じて、その人を支えるために…戦う決意をしたんです」

 

敗北の瀬戸際、自らの心に手を添えるような灯の言葉に、ヘムの心は激しく揺れ動いた。しかし、その慈悲に身を委ねることはできなかった。

 

「…王国軍に敗北など許されぬ。負けた私はただ罰せられるのみだ。もう…未来など、ないのである…!」

 

絞り出した無念と共に、ヘムは砂の大地に腕をつき、震える拳を握りしめる。背後に控える兵士たちの顔も、敗北の先に待ち受ける運命への恐怖に歪んでいた。

 

そんな彼らの絶望を正面から受け止め、灯は口を固く結び、確かな決意を告げる。

 

「私たちが、アスラナクを倒します。トトちゃんを守るためには、世界を救うためには…多分、それしかないから」

 

「だから…全てが終わった後に、また始めればいいんです。それまではどうか…生きてください」

 

ヘムは目を見開き、灯を仰ぎ見た。背後から差し込む強烈な陽光が彼女を縁取り、その姿は、荒廃した世界に舞い降りた女神のように映った。

 

灯は歯を食いしばり、身体に食い込む重い枷を力ずくで持ち上げ、最後の一撃を宣言した。

 

「ペイントメージ・ゴッホ・ソレイユの効果発動!ミフナ・ズールハウルを破壊し、その元々の攻撃力分、相手にダメージを与える!」

 

ソレイユが下段に水の剣を構える。透き通る刀身には、激しい波動となって水の力が漲っていく。雄叫びと共にその剣が振るわれると、荒れ狂う津波のごとき大水流が、眼前の岩の巨躯へと襲い掛かる。巨大な波はズールハウルを一瞬で飲み込み、その重厚な体を木の葉のように軽々と持ち上げる。

 

ヘムの眼前で、制御を失い倒れかかるズールハウルと、すべてを押し流す大津波が迫る。

 

「ぐ…ぐぅおおおおおおお!!!」

 

それは目前の恐怖へ抗う叫びであり、絶望の先にある生へと向けた、魂の雄叫びだった。

 

 

ヘム LP2300→0

 

 

 

「勝者、花咲灯。契約に基づき、ムウミン軍兵士に対し、デュエリアからの使節およびその帯同者を追うことを禁じ、外部と連絡を取らずデシェルト山の頂上を目指すよう命じます。移動方法は馬に限り、適度な休憩を取ることを必須とします。なお、これらの契約はムウミン軍指揮官『ムウミン・カウル』の指揮権の下位に属し、その命令を制限する効力は有しないものとします」

 

 

項垂れるヘムと兵士たちの眼前に、ソリッドヴィジョンの契約書が淡い光を放ちながら浮かび上がる。オースデュエルによる誓約が果たされた以上、彼らが灯やヌーラに危害を加えることは許されず、遊次たちを乗せて拠点へ向かうギルドの面々を追撃することも、もはや叶わなかった。

 

灯の四肢を拘束していた岩の枷が崩れ去り、その身体はふっと自由を取り戻す。だが、極限まで張り詰めていた糸が切れたように、灯はその場に崩れ落ち、砂地に膝をついた。駆け寄ったヌーラが目にしたのは、先ほどまでの力強い覇気とは裏腹に、深く息を吐きながら、巨大な重圧から解き放たれた安堵に身を委ねる一人の女性の姿だった。

 

ヌーラは、そんな灯の横顔をじっと見つめた。突如として異国から現れたデュエリストたちは何故か、自分たちとは無関係なはずのトトを命懸けで守り抜き、王国軍の副指揮官という生粋の実力者を、その卓越した思考とタクティクスで圧倒してみせたのだ。

 

彼女たちは一体、何者なのか。その底知れぬ存在への疑問と共に、ヌーラは胸の奥から湧き上がる高揚を抑えられずにいた。

 

「拠点まで走るよ。ムウミン軍は王宮から離れるし私達の居場所がバレることはないと思うけど…何があるかわからないし、急がなきゃ。乗って!」

 

ヌーラは傍らで待機していた馬の腹をとんとんと叩き、流れるような動作でその背に跨がる。灯は震える腕に力を込めてなんとか立ち上がると、差し出されたヌーラの掌を力強く掴み、その背へと身体を引き上げた。

 

「ねえ、灯さん。あなた、なんであんなに強いの?あとなんか途中、すっごい男みたいな喋り方してたけど…あれは何?」

 

興味津々といった様子のヌーラの問いを受け、灯はふっと口元を緩める。その瞳に悪戯っぽい光を宿すと、静かな笑い声を漏らした。

 

「ふふ、秘密」

 

 

第86話「希望を貫く凶弾」 完

 

 

 

 

灯の勝利によって追っ手を逃れた遊次たちは、港町ペルメリトの地下、広大な水路に築かれたギルドの拠点へ辿り着く。

 

だが、ギルドのメンバーたちは外国人である遊次たちへ剥き出しの警戒心を向け、決して信用しようとはしない。

そんな一行の前に現れる、ギルドのリーダー「ダビデ」。

その姿と言動は、遊次たちの思い描くリーダー像とは、およそかけ離れたものであった。

 

真の目的を吐かせるべく、ダビデは遊次にオースデュエルを仕掛ける。

対する遊次が、ダビデに提示するものとは。

 

 

「勇ましき魂、気高き刃金、熱情を込める匠。

三位揃いて悪しき世を断つ刃とならん!」

 

次回 第87話「革命組織"ギルド"」

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