世界を救うためにネフカ王国へ足を踏み入れた遊次たちは、王国の禁忌を知る少女トトを救い出したことで、王国軍に追われる身となっていた。モンスターを上位の存在として崇める絶対派のアスラナクにとって、地球に迫る隕石はモンスターワールドの神そのものである。それを打ち破ろうとする遊次たちに協力する可能性は低い。トトと世界を救うためにはアスラナクを打倒するしかないと遊次たちは決意する。
王国軍の追手から一行を救ったのは、アスラナクの暴政に反旗を翻す革命組織「ギルド」だった。彼らに導かれ、遊次たちはギルドの拠点へと足を踏み入れる。そこは港町ペルメリトの地下に広がる、今は使われていない広大な水路だった。
アスラナク打倒という共通の目的を持つ彼らと協力するため、遊次たちは自らの真意を打ち明ける。だが、異国との交流をほとんど持たないネフカの民は、異邦人である遊次たちを信用しようとはしなかった。とりわけその不信感を強く露わにするのが、ギルドのリーダーであるダビデ・サーディクだ。まだ10代ほどの若者である彼は、「異人を信用するな」という両親の教えを絶対とし、遊次たちを激しく拒絶する。
ギルドの面々は、遊次たちが拠点の場所を探りに来たアスラナクのスパイではないかと疑う。ダビデは真の目的を吐かせるため、遊次に対してオースデュエルを仕掛けると、言葉での説得は不可能だと悟った遊次もその勝負を受けて立つ。しかし遊次はダビデに契約を提示せず、ただデュエルを通してのみ、彼らの心を開いてみせると誓う。
先攻の遊次は安定した展開を見せる。しかしダビデの「メタリカ」デッキはそれを上回る圧倒的な突破力を発揮し、一切の妨害を受けることなく切り札のSモンスターを呼び出した。破壊したモンスターの攻撃力分だけ相手にダメージを与え、さらにその数値を自身の攻撃力に上乗せする効果。その上で2回の連続攻撃を可能とする猛攻を前に、このままでは遊次のライフは一気に0となってしまう。
果たして遊次はこの窮地を凌ぎ、彼らの心を動かすことができるのか。
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【遊次】
LP8000 手札:2
①妖義賊-怪盗ルパン ATK2100
伏せカード:1(メタリカ・ゲッシュ)
Pゾーン:妖義賊-戴火のプロメテ
【ダビデ】
LP8000 手札:4
①メタリカパラディン シグルフリード ATK4100
(破壊耐性・対象耐性・2回攻撃可)
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「バトル!『メタリカパラディン シグルフリード』で、怪盗ルパンを攻撃っ!」
シグルフリードが宝石の煌めきを放つ大剣を両手で構え、攻撃の態勢に入る。その挙動を冷静に見据え、遊次が動いた。
「怪盗ルパンの効果発動!相手から奪ったモンスターを素材としている時、墓地の予告状を除外できる!」
「シグルフリードは効果で破壊されねえ!爆炎の予告状を除外しても意味ねーぞ!」
言い張るダビデに対し、遊次は突き立てた人差し指を横へ二度振る。
「もう1枚あんだろ、予告状は。俺は墓地から儀式の予告状を除外!」
ルパンの指先に予告状が現れる。それは魔法陣が描かれ、蝋で固く封をされた便箋であった。
「儀式の予告状が墓地から除外された時、効果発動!デッキから儀式召喚を行う!」
「なにっ!」
「俺は手札のレベル7『妖義賊-山嵐のユライ』をリリースして、儀式召喚を執り行う!」
驚くダビデをよそに、ルパンは持っていた予告状を上へと投げると、地下水路に桜吹雪が舞い始める。
「桜吹雪の舞う中に、現れたるは荒野の義賊!
儀式召喚!来い、俺の切り札!『妖義賊-ゴエモン』!」
■妖義賊-ゴエモン
儀式モンスター
レベル7/地/戦士/攻撃力2500 守備力2000
「予告状」儀式魔法カードにより降臨。
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:元々の持ち主が相手となるカードが自分フィールドに存在する限り、
自分フィールドのモンスターは相手の効果の対象にならない。
②:相手の墓地のモンスター、または魔法・罠カード1枚を対象として発動する。
モンスターカードの場合、そのカードを自分フィールドに特殊召喚し、
魔法・罠カードの場合、自分フィールドにセットする。
③:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターをリリースして儀式召喚された場合、以下の効果を得る。
元々の持ち主が相手となる自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動する。
そのモンスターの元々の攻撃力分、自分フィールドの全てのモンスターの攻撃力をアップする。
桜吹雪と共に現れたのは、大剣を携えた戦士のモンスター。メタリックなボディは鉄の装甲で覆われており、鎧には赤の紋様が描かれている。腰と背に太い注連縄を巻き、大見得を切るように左手を前に突き出すその姿は、まるで鋼鉄の歌舞伎役者だ。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/VBKj9UV
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「俺のフィールドのモンスターは2体。これでお前のモンスターが2回攻撃してきても、俺は負けねえ」
口角を上げて笑みを見せる遊次に対し、ダビデは真っ向から敵意をぶつけてくる。
「なんだよっ!やられることには変わんねーだろ!ただお前を守るために出てきて、可哀想な精霊だぜっ!シグルフリードで、ゴエモンに攻撃!」
命じられたシグルフリードは標的をゴエモンに定め、赤い宝石の剣を高く振りかざす。迎え撃つゴエモンも桜の花びらを纏う太刀を振り上げ、2体のモンスターは真正面から激突する。
その瞬間、遊次は目を見開いた。
頭の中に、突如として何かが流れ込んできたからだ。
石造りの建物の中。
目の前には、2人の男女。
これは…おそらく父と、母だ。そう直感した。
そして開け放たれた扉の向こう側には、鎧で武装した兵士らしき男たちが数人、立ち塞がっていた。
(なんだ、これ…?!)
脈絡もなく流れ込んだ見知らぬ景色に、遊次はただ困惑する。
現実のフィールドでは、シグルフリードの大剣が次第にゴエモンを押し返し始めていた。そして赤い光の尾を引く斬撃が、そのままゴエモンの体を切り裂く。
シグルフリードの向こう側。
ダビデの瞳には、強い憎悪の感情が激しく渦巻いている。その眼差しを見た直後、遊次の脳裏にさらなる記憶が流れ込む。
("鍵"はどこだ)
扉の前に立つ兵士の一人が、低くくぐもった声で問い詰める。
(鍵…?なんのことですか!?)
"父"が戸惑いながら聞き返した瞬間、兵士は何も言わずに腕を振るい、その硬い拳が容赦なく顔面へと叩き込まれる。
(父ちゃんっ…!!)
倒れ込む父へと駆け寄るように、見えている視点が急激に前へと動く。
遊次は確信した。
これは、ダビデの記憶だ。
「シグルフリードの効果発動!1ターンに1度、相手モンスターを破壊した時、その元々の攻撃力分、相手にダメージを与えて、その数値分シグルフリードの攻撃力をアップするっ!」
呆然と立ち尽くす遊次の前で、シグルフリードは両手で握った大剣を頭上高く振りかぶる。剣身の赤い宝石が強烈な光を放ち、迷いなく振り下ろされた。弾かれたように我に返り、遊次が顔を上げる。視界を埋め尽くしたのは、すでに目前へと迫る巨大な赤い斬撃だった。
「ぐああぁああっ!」
遊次 LP8000→5500
赤い斬撃を浴びた遊次の脳内に、再び記憶の続きが流れ込む。
(やめろっ!父ちゃんと母ちゃんを離せっ!!)
目の前では、兵士たちが両親を連れ去ろうとしている。床を蹴って力一杯飛びかかるが、兵士は軽く腕を振るい、その体を容易く弾き飛ばす。
叩きつけられた衝撃と痛みが、遊次にも直接伝わってくる。扉の向こうでは、母がダビデの名を叫び、必死に抵抗する姿がうっすらと見える。
重く顔を上げた先で、両親の姿がどんどんと遠ざかっていく。
(父ちゃんっ!母ちゃああんッ!!)
喉が擦り切れるほどの声を上げ、這いずりながら扉の方へと近づく。だが、兵士たちは両親を連れたまま背を向ける。
(待て…っ!待ちやがれえええっ!!)
ダビデは力の限り起き上がり、扉の先へと全力で駆け出す。その声に、集団の先頭に立つ男が振り向く。
他の兵士とは明らかに格の違う、蒼い結晶の棘が生えた重厚な黒い鎧を纏う男だ。鮮烈な水色のメッシュが走る濃紺の前髪で右目を隠し、その隙間から青く鋭い眼を覗かせている。
その顔を見た瞬間、ダビデは思わず足を止める。
(なんで……なんで、お前が…っ!!)
激しく困惑するダビデに対し、男は何も言葉を発しない。ただ冷徹な眼差しを向け続け、そのまま背を向けて歩き始める。
(なんでだよ……!ナイールッ…!!)
唐突に訪れた絶望を前に、ダビデは糸が切れたようにその場へ膝をつく。胸の内で渦巻く恐怖と戸惑いをすべてぶつけるかのように、何度も何度も拳で床を叩きつけた。
激しく感情を乱す彼の脳裏に、ふと幼き日の記憶が蘇る。
水しぶきを上げ、勢いよく川へと飛び込むダビデ。水面から顔を出して頭上の崖を見上げると、そこには紺色の髪で片目を隠した少年が、ひどく怯えた表情でこちらを見つめていた。
そこで記憶の奔流が途切れ、遊次は現実に引き戻される。視界が晴れた目前には、赤く煌めく剣を携えた騎士が立っている。
(シグルフリードを通して、ダビデの記憶が見えた。でも、なんで急に…?今までそんなことなかったのに…)
突然の出来事に困惑する遊次。そんなことなど意に介さず、ダビデは真っ直ぐに声を張り上げる。
「ゴエモンを破壊したシグルフリードの攻撃力は、倒したモンスターの攻撃力分アップする!」
メタリカパラディン シグルフリード ATK6600
「攻撃力6600の、破壊・対象耐性持ちか…」
強大な力を得たシグルフリードを見上げ、遊次の背後でイーサンが鋭い視線を送る。だが、遊次の意識は先ほど垣間見た記憶へと向いたままだ。
「なーにボーっとしてんだ!もしかして俺の強さにビビっちまったか?」
無言で立ち尽くす遊次の姿に、ダビデは微かな違和感を覚えながらも言葉を投げる。
「でも手加減はしねえぜっ!シグルフリードは2回攻撃できる!怪盗ルパンに攻撃っ!」
号令と共に、シグルフリードが地を蹴る。先ほどとは比べ物にならない莫大な力が、空気を震わせながら振り上げられた大剣へと収束していく。赤い宝石から溢れ出した光が巨大な刃となって真上から叩きつけられ、ルパンの身体を一瞬にして跡形もなく粉砕した。
しかし斬撃は止まらない。赤い光刃はなおも勢いを失わず、遊次へと襲い掛かる。
「ぐああぁああっ!」
遊次 LP5500→1000
叩きつけられた衝撃に、遊次は歯を食いしばりながら大きく後ずさる。
「見たかっ!これが俺達の力だ!カードを1枚伏せてターンエンド!」
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【遊次】
LP1000 手札:1
伏せカード:1(メタリカ・ゲッシュ)
Pゾーン:妖義賊-戴火のプロメテ
【ダビデ】
LP8000 手札:3
①メタリカパラディン シグルフリード ATK6600
(破壊耐性・対象耐性・2回攻撃可)
伏せカード:1
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遊次のフィールドからモンスターが消え去った。だが、遊次は言葉を発することなく、真っ直ぐにダビデを見据え続けている。バトルフェイズから続くその沈黙に、痺れを切らしたダビデが口を開く。
「おいっ!お前のターンだぞ!早くドロー…」
その言葉を最後まで言い切るより前に、遊次が問いを投げた。
「なあ…お前の父さんと母さん…もしかして、捕まっちまったのか?」
あまりにも確信めいたその響きに、ダビデとギルドのメンバーは一斉に目を見開く。
「な、なんでそんなことお前に教えなきゃなんねーんだっ!」
動揺を隠すように反発するダビデへ、遊次は構わず言葉を続ける。
「シグルフリードとゴエモンが戦った時…なんか、頭に流れ込んできたんだよ。"鍵"がなんとかとか言って、男の人と女の人が、兵士に連れ去られて…。必死に追いかけるんだけど、殴り飛ばされて…。多分、お前の記憶だと思う」
「なっ…なんでそのこと、お前が知ってんだ…っ!」
「俺にもわかんねえ。でも俺、たまにモンスターの声が聞こえんだよ。多分それと同じで、一瞬お前の記憶が見えたんだと思う」
ダビデは口を半開きにしたまま、呆然と遊次を見つめ続ける。数秒の空白の後、弾けたように周囲のギルドの面々が笑い声を上げた。
「はっ、何言ってんだ!俺らでも声なんて聞いたことねーのに、異人のお前に聞こえるわけねーだろっ!しかも記憶が見えたぁ?ありえねえっての!」
「ほ、ほんとだって!俺がなんでそんなウソつくんだよ!」
周囲が喧噪に包まれる中。遊次の背後でオスカーが静かに腕を組み、傍らのイーサンへと問いかける。
「神楽遊次は何を言っている」
不意の問いに、イーサンははっとして声の方を向く。彼は遊次と戦ったことはあれど、モンスターの声を聞く性質までは知らなかったのだ。同じ疑問を抱いていたアリシアもまた、視線をイーサンへと向けていた。
「アイツにはモンスターの声が聞こえるんだ、昔から。それがなんでかは…俺もわからない。ネフカ王国の人たちも、ソリッドヴィジョンのモンスターと心を通わせて共に暮らしているし、今となってはそこまで不思議ではないがな」
イーサンの言葉に、オスカーとアリシアは無言のまま、同時に遊次の背中へと視線を向ける。対するダビデの背後では、黒いライダースーツにサングラス姿の女、シャムサが険しい表情で遊次を睨みつけていた。
「コイツ、やっぱりスパイだよ、ダビデ。アンタの家族のことも、王宮と繋がりがあれば知っててもおかしくない。っていうか、それしか知る方法なんてないよ」
「た、確かに!……いや、でも…」
シャムサの主張に同調しかけたダビデだが、直後に頭をよぎった違和感にハッとする。
(でもアイツ、さっきまで俺の親に会わせろって言ってたよな…?)
もし遊次が王宮と通じているスパイであり、家族の身に起きたことをすでに知っているのだとすれば、あのような要求を口にするはずがない。
だからといってモンスターを通じて記憶を見たという素っ頓狂な話を信じろというのも無理がある話だ。ダビデが戸惑う中、遊次は冷静に言葉を継ぐ。
「だから嘘じゃねーっての。お前の両親を連れ去った兵士、なんかゴッツい鎧纏ったロン毛の奴だったけど…お前の幼馴染なんだろ?お前が川に飛び込んで、そいつが崖の上からお前を見てて…そういう記憶が見えたんだ」
ダビデの身体が、微かに震えた。
なぜ、この男がそんなことを知っているのか。
幼少の頃の記憶。
それも、ダビデ本人の視点でしか見えないはずの光景だ。
「お前、ホントに俺の記憶を見たってのか!?なんでそんなことできんだよっ!!」
声を荒げるダビデに対し、遊次はあくまで冷静に言葉を返す。
「だから、わかんねえって。そんなことより、お前の父さんと母さん…その…大丈夫なのかよ」
遊次のその神妙な表情に、ダビデは思わずたじろいだ。そして、わずかに間を置いた後、口を開く。
「…今も捕まってる。処刑はされてねえ…と思う。もし処刑されたら、王宮から知らせが届くはずだからな」
低く重苦しいダビデの言葉を聞き、遊次は一つ息を吐き出す。
「そっか。じゃあ、まだ助けられるんだな」
遊次の言葉に、ダビデの瞳が大きく揺れる。そこへ、背後から鼻ピアスの巨漢、ザファールが割って入った。
「オイ、油断すんじゃねえぞダビデ。そうやって俺らに付け入る算段かもしれねェからな」
だが、ザファールの忠告はダビデの耳には入っていなかった。瞳を揺らしたまま、ただ真っ直ぐに遊次を見据えている。
遊次はダビデを真っ直ぐに見据え、落ち着いた声で語りかける。
「お前が戦う理由は、両親を取り返すためなんだろ。だったらよ、俺らも協力させてくれ。力を合わせた方がいいんだ、絶対に」
向けられた真っ直ぐな言葉に、ダビデは声を張り上げる。
「なんなんだよっ!なんでお前が、赤の他人の俺の親を助けようとするんだ!関係ねーだろっ!」
遊次の真意が読めない。無条件で信用するための根拠がない。だが今のダビデは、確実に遊次の声に耳を傾け、対話の姿勢を見せている。
遊次は少しだけ俯き、胸の前で拳を握り込んだ。
「俺には…両親がいない。死んだんだ」
「えっ……」
思いがけない告白に、ダビデは目を丸くする。遊次の背後では、イーサンが黙って俯き、きつく口を結んでいた。
「家族って、誰よりも自分のこと、わかってくれる人だろ。それが急にいなくなっちまうってさ…キツいよな」
ダビデは無意識のうちに、両手の拳をきつく握り込む。傍らにいるトトも、抱えた古文書を胸に押し当てるようにして肩を震わせていた。
「他人とか関係ねーよ。俺は誰にも、泣いてほしくない。
だからこの国に来たんだ。世界を救うために」
遊次は凛とした顔つきで言い切る。
もう、野次が飛ぶことはなかった。
静まり返った空間で、全員の視線が彼へと向けられている。遊次はさらに言葉を続けた。
「今は詳しく言えねえけど、世界には今、とんでもねえ危機が迫ってる。世界を救うためには、この国のすんげえモンスターワールドの知識が必要なんだよ。でもアスラナクってのは、モンスターに失礼なことするぐらいなら、死んだほうがマシなんだってな。そのせいで、俺らは今困ってんだ」
「アスラナクが玉座にいる限り、世界は救えない。トトも太陽の下を歩けないし、ダビデの親も捕まったまんまだ。他の皆にも…戦う理由があるんだろ」
ザファールやシャムサ、モナたちの表情が強張る。それぞれが抱える戦いの理由を思いだし、その顔が険しく引き締まった。
「それに…ムルシドさんは自分の家族まで犠牲にして、アスラナクを倒す道を選んだんだ。他にやり方があったんじゃねえかって俺は思っちまうけど…あの人は俺なんかよりももっと悩んで、苦しんで、その選択を"しちまった"んだ」
モナは思わず目を見開く。部外者であるはずの遊次が、そこまでの事情を知っているとは思っていなかった。
ダビデの目つきがさらに鋭さを増した。震えるほどの怒りを押し殺し、低く這うような声で呟く。
「…あぁ、そうだ。ムルシドさんが家族を犠牲にしなきゃなんなかったのも、アスラナクが人の命をなんとも思ってねえ、最悪の王様だからだっ!あんな奴が王になんなきゃ、みんな、幸せなままだったんだよっ!!」
怒りに満ちた雄叫びが、静まり返った地下水路に幾重にも反響する。遊次は、ダビデの真っ直ぐな怒りの籠った瞳から目を逸らさず、言葉を返す。
「でもよ、話は簡単だ。アスラナクを倒せばいい。そうすりゃ全部、丸く収まる。でも失敗したら…全部、終わるんだよ」
遊次が一歩前へと踏み出し、自身の胸を強く掴む。
「だから、俺達が力を合わせなきゃいけねえんだ。
皆の幸せを、取り戻すために」
周囲を取り囲むギルドの面々の顔には、熱い闘志が浮かび上がっている。異人である遊次たちを拒絶する空気は、完全に消え去っていた。
だが、ダビデとのデュエルはまだ終わっていない。ダビデは遊次を見据えたまま言葉を紡ぐ。
「アスラナクを倒すなんて簡単なことじゃねえ。俺がどんだけ強くても…。だから今もこうやって地下で、どうにか革命を起こせねえかって、ずっと準備してるんだ」
悔しげに顔を歪ませたダビデは、勢いよく遊次へと指を突き付けた。
「だからっ!お前が俺に負けるような奴なら、ハッキリ言ってアテになんねーんだよっ!今んとこ、よわっちいぞお前っ!」
遊次の口角が上がる。闘志を燃やす挑戦的な笑みを浮かべ、はっきりと答えた。
「勝てば、文句ねえんだな?」
遊次はデッキトップに指をかける。ダビデもまた、自信に満ちた表情で真っ向から答えた。
「できるもんならやってみろっ!シグルフリードは破壊もされなきゃ対象にも取られねえ!おまけに1ターンに1回相手カードを破壊できるっ!伏せカードもあるし、こっから勝つなんて無茶な話だぜっ!」
「無茶じゃねえよ。俺には"超絶最強の切り札"がいるからな!」
遊次が力強く言い切ったその言葉に、ダビデは警戒を強めてフィールドを見つめる。
(超絶最強の切り札…?まだそんなの隠し持ってんのか…?)
「俺のターン、ドロー!」
遊次は鋭くカードを引き抜き、視線を落とす。
(アイツの伏せカードは、さっき手札に加えてた罠カードのはずだ。EXデッキからモンスターが特殊召喚された時、そのモンスターの効果を無効にして墓地へ送る効果。でもEXデッキを使わなきゃ、ある程度は好きにできるってことだ)
「墓地の罠カード『妖義賊の下準備』を除外して効果発動。墓地の妖義賊を3体デッキに戻して、1枚ドローする。俺はキッド、シェパード、ルパンをデッキに戻して1枚ドロー!」
「プロメテのP効果発動!相手から奪ったカードが俺のフィールドにある時、デッキから5枚をめくって、その中から妖義賊カードを1枚手札に加える」
遊次のフィールドには、前のターンにダビデから奪った速攻魔法がセットされている。遊次はデッキトップから5枚のカードをめくる。その中から1枚のモンスターカードを選び出し、手札へと加えた。
「魔法カード『妖義賊の復活』を手札に加えて、残りをデッキの一番下に戻す。俺は手札から『妖義賊-悪戯好きのオイレンシュピーゲル』を召喚!」
フィールドに、あどけない少年の姿をした妖精がふわりと舞い降りる。黄色のドット柄があしらわれたパジャマとナイトキャップを身に包み、背中の透き通った水色の羽を羽ばたかせて宙に浮かび上がる。大きな青い瞳を輝かせて無邪気な笑みを浮かべ、左手には光る金の星を高く掲げる。広げた右手の指先からは、青い光の粒子が絶え間なく零れ落ちていく。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/ldmy2aw
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
召喚されたのは、フィールドでは何の効果も持たない下級モンスターだ。しかし遊次はわざわざそのモンスターを通常召喚した。
ダビデは不可解そうに眉をひそめるが、対する遊次の口元には、確かな策略を予感させる不敵な笑みが刻まれている。
「自分フィールドに妖義賊がいる時、Pゾーンのプロメテは効果を無効にして特殊召喚できる」
遊次の頭上から、燃え盛る火の玉の姿をしたモンスターがフィールドへと舞い降りる。
フィールドには効果を持たないオイレンシュピーゲルと、チューナーであるプロメテ。ダビデの鋭い視線はフィールドへと注がれる。
(なんでわざわざあのモンスターを召喚した?アイツの狙いはなんだ?)
その思考の最中、先ほどの遊次の不遜な言葉が脳裏をよぎった。
(無茶じゃねえよ。俺には"超絶最強の切り札"がいるからな!)
ダビデははっと目を見開いた。フィールドにはチューナーと非チューナー。わざわざ効果のないモンスターを召喚したこと。そして「超絶最強の切り札」という言葉。導かれる答えは一つだった。その瞬間、ダビデは反射的に腕を振り、声を上げる。
「シグルフリードの効果発動!1ターンに1度、相手のカードを破壊できる!そのチューナーモンスターを破壊だっ!」
効果が宣言された瞬間、遊次の背後でオスカーは目を瞑り、静かに呟く。
「終わりだな」
その遊次の敗北を認めたかのような言葉に、背後からモナが口を挟む。
「仲間が負けるってのに、えらい落ち着いてるね」
しかしイーサンと怜央は何も言わず、肩の力を抜いてフィールドを見つめている。これから起こる結末を確信しているかのように、じっとフィールドを注視していた。
シグルフリードが煌めく大剣を振るう。放たれた斬撃が火の玉のモンスターを捉え、一瞬にして粉砕した。
その瞬間、遊次は不敵な笑みを浮かべ、手札から1枚のカードを表へ向ける。
「俺のモンスターが破壊された時、手札の『妖義賊-助太刀のサルバトーレ』の効果発動。このカードを手札から特殊召喚して、相手の墓地のモンスターを1体奪うことができる!」
「何ィっ!?」
■妖義賊-助太刀のサルバトーレ
効果モンスター
レベル4/地/獣/攻撃力1700 守備力1300
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドのモンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
この方法で特殊召喚した場合、
相手の墓地のモンスター1体を選び、自分フィールドに特殊召喚できる。
②:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合に発動できる。
デッキから『予告状』魔法カード1枚を手札に加える。
フィールドに、逆立つ赤茶色の毛並みを剥き出しにしたモンスターが現れる。筋骨逞しい上半身に黄土色の毛皮のベストを羽織り、腰には深い紺色の帯が力強く結ばれている。右手に反りのある鋭いナイフを握り締め、左手を低く構えたその姿からは、獲物を逃さぬという凶暴な野性が放たれている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/iEwZtaH
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
「サルバトーレの効果で、俺はお前の墓地から『メタリカスミス ヴェルンド』を特殊召喚する!」
■メタリカスミス ヴェルンド
効果モンスター
レベル3/地/戦士/攻撃力1600 守備力900
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドの「メタリカメタル」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターは以下の効果を得る。
●このカードをS素材としたSモンスターのS召喚時または効果発動時、相手はカードの効果を発動できない。
②:自分フィールドに「メタリカメタル」モンスターが存在する場合に発動できる。
このカードを墓地から特殊召喚する。
現れたのは、豊かな褐色の髭を蓄え、太く逞しい腕を備える鍛冶師のモンスター。金の星型の意匠を持つ重厚な黒鉄の鎧と、銀色の葉が連なるような肩甲を纏い、片手には巨大な四角い鉄槌を握っている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/K17wR5v
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
ダビデはその瞬間悟った。これこそが遊次の作戦であると。
「お前ぇっ!超絶最強の切り札とか言って、俺を警戒させてモンスターを破壊させるのが目的だったんだなっ!騙しやがってこのヤローっ!」
わざわざ使える効果のないオイレンシュピーゲルを召喚したのも、「S素材にするために召喚した」以外に目的がないように見せるためだったのだ。もし他に発動できる効果があるモンスターならば、「超絶最強の切り札を呼び出す」以外の可能性が出てきてしまい、ダビデがモンスターを破壊する可能性が下がる。そのためだけに遊次は、あえて使える効果のないモンスターを召喚したのだ。
怒りを露わにするダビデを、遊次はどこか満足げな笑みで見つめ返す。
「"騙された"ってことは、俺の言葉を信じてくれたってことだよな?」
「そ、それは…」
ダビデの思考が、その一言に射抜かれて止まった。この戦いは、遊次の発言など欠片も信用できないという拒絶から始まったはずだ。だが自分は、今まさに彼の言葉を真実として受け止め、その果てに欺かれたのだ。
「それに…"超絶最強の切り札"ってのは、嘘じゃねえよ」
遊次は手札から1枚のカードをデュエルディスクに装填する。
「魔法カード『妖義賊の復活』発動!相手から奪ったカードがフィールドにある時、墓地の妖義賊を特殊召喚できる!」
■妖義賊の復活
通常魔法
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:元々の持ち主が相手となるカードが自分フィールドに存在する場合、
墓地の「ミスティックラン」モンスター1体を対象として発動する。
そのモンスターを特殊召喚する。
②:このカードが墓地に存在する場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。
自分の墓地の「予告状」カード1枚を除外する。
「復活させるのは、もちろん『妖義賊-ゴエモン』!」
大剣を携えたメタリックな戦士が守備表示で再びフィールドに現れる。
「超絶最強の切り札ってのは、そいつのことじゃねえだろうな?そいつはさっきシグルフリードが倒したぜ!そもそも、守備表示じゃ攻撃もできねーだろっ!」
ダビデの言葉に、遊次はゆっくりと首を振る。
「コイツも最強の相棒だけど、もっとスゲーのがいんだよ。サルバトーレの効果発動。相手から奪ったカードがフィールドにある時、デッキから予告状カードを1枚手札に加える。俺は『一攫千金の予告状』を手札に加えるぜ」
「ゴエモンの効果発動!1ターンに1度、相手の墓地のカードを奪うことができる!俺はお前の墓地から『メタリカメタル オリハルコン』を特殊召喚するぜ!」
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【遊次】
LP1000 手札:2(一攫千金の予告状)
①妖義賊-悪戯好きのオイレンシュピーゲル ATK700
②妖義賊-助太刀のサルバトーレ DEF1300
③妖義賊-ゴエモン DEF2000
④メタリカスミス ヴェルンド DEF900
⑤メタリカメタル オリハルコン DEF500
伏せカード:1(メタリカ・ゲッシュ)
【ダビデ】
LP8000 手札:3
①メタリカパラディン シグルフリード ATK6600
(破壊耐性・対象耐性・2回攻撃可)
伏せカード:1
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遊次のフィールドには5体のモンスター。その内2体はダビデから奪った鍛冶師と鉱石の姿がある。ダビデは鋭い表情で思考を巡らせた。
(俺にはまだ罠カードがあんだ。この罠にはチェーンもできないし、おまけに墓地から除外してメタリカSモンスターへの攻撃も止められる。耐性持ってて攻撃力6600のシグルフリードを倒せるわけねえ…!)
だが、次に遊次が取った行動はダビデの予想を真っ向から裏切る。
「お前から奪った『メタリカスミス ヴェルンド』の効果発動!自分フィールドの『メタリカメタル』に効果を与えることができる!」
「はぁ!?」
ダビデの目前で、巨体の鍛冶師が大きな鉄槌を掲げた。隣に立つオリハルコンを力強く打ち据え、激しく火花を散らして鍛え始める。槌が振り下ろされるたびに、打たれた鉱石の体は一層の輝きを増していった。
「ヴェルンドがオリハルコンに与えたのは、『このカードをS素材にしたモンスターのS召喚時または効果発動時、相手はカードの効果を発動できない』って効果だ」
ダビデは息を呑んだ。奪ったカードを瞬時に自らの血肉へと変え、本来の持ち主すら想定していなかった新たな道筋をこじ開けてゆく。目の前の男が見せつける常軌を逸した領域を前に、ダビデの両目はフィールドに釘付けになる。
遊次は左手を掲げ、高らかに宣言した。
「俺はレベル7『妖義賊-ゴエモン』に、効果を与えた『メタリカメタル オリハルコン』をチューニング!」
オリハルコンが緑色の光の輪へと姿を変え、ゴエモンはその中へと飛び上がってゆく。ゴエモンは実体を失って7つの眩い光の星となり、輪の中で一直線に並ぶ。
「暗雲漂う戦場に、現れたるは天空の義賊!
蒼天の頂へ翔け上がり、絶望を奪い去れ!」
口上を唱え終わると、地下水路に眩い光が解き放たれる。
「シンクロ召喚!光臨せよ!レベル8!
『妖義賊-虹翼のゴエモン・スカイ』!」
■妖義賊-虹翼のゴエモン・スカイ
シンクロモンスター
レベル8/光/戦士/攻撃力3100 守備力2600
チューナー+「妖義賊-ゴエモン」
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがS召喚した場合に発動できる。相手フィールドの全ての攻撃表示モンスターのコントロールを得て、全ての魔法・罠カードを自分フィールドに置く。
②:フィールドの元々の持ち主が相手となるモンスターを任意の数リリースして発動できる。
このカードはターン終了時まで、攻撃力がリリースしたモンスターの元々の攻撃力の合計分アップし、通常の攻撃に加えて、墓地へ送ったモンスターの数だけ攻撃できる。
③:自分・相手ターンに元々の持ち主が相手となる自分フィールドの魔法・罠カード1枚を墓地に送って発動できる。
このターン、自分モンスターは相手の魔法・罠カードの効果を受けない。
全身を包むのは、鏡のように研ぎ澄まされた白銀の重装甲。背には幾重にも重なる翼が広げられ、その一枚一枚がプリズムのように虹色の輝きを放っている。本来のゴエモンに刻まれた赤き紋様は蒼色に変わっている。右腕には身の丈を超える巨大な円錐の槍を携えている。
モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/S3EgA5y
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
ゴエモン・スカイは虹色の翼をはためかせ、遊次の頭上で静止した。その神々しい姿に、ダビデたちギルドの面々も目を奪われた。
「こじ開けてやるよ。フィールドも、お前らの心もな」
「ゴエモン・スカイの効果発動!S召喚に成功した時、相手の全ての攻撃表示モンスターと、魔法・罠カードを奪う!」
「な…なんじゃそりゃっ!!!」
常識を超えたその効果に、ダビデは度肝を抜かす。
「効果を与えられたオリハルコンを素材にしたことで、ゴエモンの効果発動時、お前はカード効果を発動できない!これで罠カードも使えねえぜ」
ダビデの場にセットされている罠カードは、EXデッキからモンスターが特殊召喚された時、そのモンスターの効果を無効にして墓地へ送る効果。ゴエモン・スカイは相手から奪った魔法・罠カードを墓地に送ることで、魔法・罠カードの効果を受けなくなるという効果を持つが、罠カードがチェーン不可である以上、ただゴエモン・スカイを呼び出すだけでは、罠カードの餌食となっていた。
しかし遊次は、ダビデの鍛冶師モンスターと鉱石モンスターを奪い、「S素材としたモンスターの効果発動時のチェーン不可」をオリハルコンに与え、ゴエモン・スカイを呼び出した。それによって強力な罠カードを封じ、ゴエモン・スカイの効果を通すことができたのだ。
これは、サルバトーレによって相手モンスターを墓地から奪うことではじめて成立するルート。そして遊次はそれを「超絶最強の切り札」という言葉一つでダビデを誘導し、力技で成し得たのだ。
ゴエモン・スカイが白銀の槍を高く掲げると、虹色の波動が爆発的に広がった。強烈な輝きがフィールドを包み込む。
やがて光が霧散し、ダビデはゆっくりと目を開く。ゴエモン・スカイの隣にはシグルフリードが立ち、主であるダビデと対峙していた。
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【遊次】
LP1000 手札:2(一攫千金の予告状)
①妖義賊-悪戯好きのオイレンシュピーゲル ATK700
②妖義賊-助太刀のサルバトーレ DEF1300
③妖義賊-虹翼のゴエモン・スカイ ATK3100
④メタリカスミス ヴェルンド DEF900
⑤メタリカパラディン シグルフリード ATK6600
(破壊耐性・対象耐性・2回攻撃可)
伏せカード:2(メタリカ・ゲッシュ、メタリカ・パラディウム)
【ダビデ】
LP8000 手札:3
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眼前に広がる光景は、もはや勝敗の行方を残酷なまでに決定づけていた。静まり返ったフィールドを、ギルドの面々はただ息を呑んで注視している。
ふとモナの脳裏には、シグルフリードによってモンスターが破壊される時にオスカーが漏らした「終わりだな」という呟きが蘇った。あの言葉は、劣勢に立たされた遊次の敗北を確信したものではない。この圧倒的な光景を、男はあの時点ですでに予見していたのだ。
「なんで、わかったんだい。ダビデが負けるって」
モナが問いを投げると、オスカーは腕を組んだまま静かに言葉を返した。
「神楽遊次はモンスターを召喚する前、プロメテのP効果により『妖義賊の復活』を手札に加えていた。もし奴がオイレンシュピーゲルとプロメテで"超絶最強の切り札"とやらを呼び出す算段ならば、まず『妖義賊の復活』でゴエモンを特殊召喚するはずだ。ゴエモンは相手から奪ったカードが場にある時、自身のモンスターに対象耐性を与えるからな」
「あ、あぁ…そうなるのかねぇ」
モナは呆然と口を開けたまま返事をする。その困惑を埋めるように、イーサンが柔らかな声で言葉を継いだ。
「遊次は、対象耐性を与えるゴエモンをあえて"呼ばなかった"。それはモンスターを破壊してもらいたかったからです。でもダビデの読みはそこに届かなかった」
「うーん…。でもモンスターを破壊されたら手札から別のモンスターを特殊召喚できるなんて、ダビデは知らないしなぁ…。ましてや、それがあんなヤバいSモンスターに繋がるなんて読めるわけない」
眉をひそめて首を捻るギルドメンバーの横で、モナは静かに視線を向けた。泰然と構えるオスカーとイーサン、そしてその視線の先に立つ遊次。常軌を逸した読み合いの中に身を置く彼らの背中を見つめ、確信を込めて呟く。
「それが読めちまうのさ。この人達には」
「だぁーーーっ!!ここまでやられちまったら、何も言うことねえよっ!クソっ!」
ダビデは自らの鎧を拳で叩き、声を荒らげた。快活な振る舞いとは裏腹に、その表情には拭いきれない悔しさが色濃く滲んでいる。
「まさか、ここまでとはね…」
呆然と呟くシャムサに対し、アリシアが誇らしげな笑みを浮かべる。
「当然だ。彼はデュエリアでも指折りのデュエリスト。ここで負けるような軟弱者ならば、端から使節になど選ばん」
トトは揺れる瞳で、遊次を見つめる。
(彼らがいれば、本当に、この国を…)
「さあ、バトルだ!『メタリカパラディン シグルフリード』で、ダビデにダイレクトアタック!」
シグルフリードは、そのまま微動だにせず立ち尽くした。剣先を向けた相手は、かつての主。その一撃を放つことに、逡巡しているかのようだった。
「遠慮すんなシグルフリードっ!思いっきり来い!」
ダビデの叫びが、静止したフィールドの空気を切り裂く。覚悟を宿したその声に、シグルフリードは力強く頷いた。雄々しい咆哮と共に白銀の剣が振り下ろされ、鋭い紅蓮の斬撃が一直線にダビデへと肉薄する。
「ずあああああっ!!!」
ダビデ LP8000→1400
遊次はダビデへと真っ直ぐ指を突き付け、高らかに宣言した。
「勝利は、俺がいただいた!」
「ゴエモン・スカイで、ダビデにダイレクトアタック!」
ゴエモン・スカイが虹色の翼を大きく羽ばたかせ、槍を構えてダビデへと迫る。飛翔の勢いと共に、槍の穂先が鋭いプリズムの光を纏った。
真っ直ぐに向けられた遊次の瞳。それを見つめ返すダビデの内に、一つの確信が静かに根を下ろす。目の前の男は悪人ではない。ましてや、王宮の回し者などでもない。
(いいかダビデ。異人だけは…絶対に信用するな!何があってもだ…!)
脳裏に蘇る、父の声。幼い頃から守り続けてきた両親の教えは、ダビデにとって絶対だった。決して強制されたわけではない。ただ二人の言葉には、強い意志に裏打ちされた抗いがたい説得力があったのだ。そして事実、これまで教えが間違っていたことなど一度もなかった。
だが、しかし。
(そっか。じゃあ、まだ助けられるんだな)
赤の他人である自分の両親が生きていると知り、心の底から安堵してみせた遊次の顔が重なる。
ダビデの中で、もう答えは出ていた。
あとはこれまでの自分の生き方と、心の中で折り合いをつけるだけだった。
ダビデはゆっくりと顔を上げた。視線の先、遊次の頭上ではゴエモン・スカイが虹色の翼を広げ、自分へと迫っている。ダビデはその輝きを、凛とした眼差しで真っ直ぐに見据えた。
(ごめん、母ちゃん、父ちゃん。俺は…俺が信じたいものを、信じることにするよ)
閃光の尾を引いてすれ違う刹那、研ぎ澄まされた一突きがダビデの体を貫いた。
ダビデ LP1400→0
「勝者、神楽遊次。ダビデ・サーディクが提示した契約は不成立となります」
デュエルディスクから発せられた乾いた機械音声が、地下水路に響く。
それと同時に、鼻ピアスをした巨漢のザファールが、物凄い勢いで遊次へと迫った。その圧力に遊次はびくりと肩を震わせるが、ザファールは勢いそのままに遊次の肩を抱き、大きな声を上げる。
「お前!とんでもなく強ェじゃねえか!ダビデに勝っちまうなんてよぉ!」
デュエルが始まる前まで、彼は遊次たちに対して露骨な不信感をあらわにしていた。あまりに掌を返したような態度に呆れつつも、遊次は決して悪い気はしていなかった。
「アンタ、完全にその異人を信用したの?」
ライダースーツの女"シャムサ"が問うと、ザファールは勢いよく振り向き、食い気味に言葉を返す。
「何言ってんだ!見ただろコイツの強さ!他の異人共も、副指揮官を倒してるってんだぜ!そいつらが全員、俺らの味方になるんだぞ!!」
ザファールの熱を帯びた叫びに、ギルドの面々の視線が遊次に並び立つ4人へと一斉に向けられる。その瞳から、よそ者を弾く警戒の色はすでに消え去っていた。常人離れした強さを持つ決闘者たちが、自分たちと共にアスラナクを討とうとしている。その確かな事実が、張り詰めていた場に熱を波及させてゆく。
「調子のいい野郎だぜ」
怜央は頭を掻き、呆れたように言葉を吐き捨てる。だが、その口角は自然と吊り上がっていた。
「まあ、これでひとまずは安全だな」
イーサンも深く息を吐き出し、強張っていた肩の力を抜いた。
ダビデはゆっくりと体を起こし、遊次たちを見つめた。
決して異人を信じるなという、かつて両親から深く刻み込まれた戒め。だが今、ダビデの頭からその教訓は消え去っていた。あるのは、血が激しく滾り、鼓動が大きく打ち鳴る感覚。
「…今しかねえのかもな。革命のチャンスは」
ダビデは力強く立ち上がり、真っ直ぐに前を見据える。覚悟の決まったその横顔と声は、周囲のギルドの面々の顔つきを、次々と闘志に満ちた戦士のものへと変えていった。
「やっほーー!帰ったよーー!」
唐突に背後から響いた甲高い声。遊次たちが振り返ると、そこには十代ほどの褐色肌の少女が立っていた。そしてその後ろから、灯が姿を見せる。
「ヌーラっ!」
「灯!」
ダビデと遊次は、弾かれたように同時に駆け寄る。
「よかった!無事だったか、灯!」
「うん。遊次達も無事に拠点に辿り着けてよかった」
歩み寄った二人の視線が交差する。短い言葉の中に、互いの無事を確かめ合えた深い安堵が静かに満ちていた。
灯の視線が、イーサンたちの待つ拠点へと向く。それに合わせるように、遊次がギルドの面々へ声を張り上げた。
「最後の仲間が到着したぜ!副指揮官を倒した、"花咲灯"様だ!」
大仰な囃し立て方に、灯はどう反応していいか分からず、苦笑いを浮かべてたじろぐ。
「おう、灯か!俺がギルドのリーダー、ダビデだ!よろしくなっ!」
ダビデが灯へ歩み寄り、真っ直ぐに手を差し出す。革命組織を束ねるリーダーは、どう見ても年下の少年だ。灯は一瞬だけ目を丸くして戸惑うが、すぐにその手を取って握手に応じた。
「ギルドの人達と、もう打ち解けたんだ?よかった」
「…ま、色々あったけどな」
安堵の笑みを向ける灯。その隣で、遊次はダビデと少し気まずそうに顔を見合わせ、笑いあった。
「一応確認だが、我々は拠点に居させてもらってもよいのか?」
アリシアの問いに、ダビデは迷わず頷く。
「あぁ、もちろんだ!遊次は信用できる!ってことは、遊次が信頼してるその仲間も、信頼できるってことだからな!」
「ここにいないメンバーが反対した場合はどうする」
オスカーの短い問い。ダビデは間髪を容れずに言い切る。
「俺と、ここにいる奴らが証人になる!心配すんなっ!」
真っ直ぐに前を見据える顔つきには、確固たるリーダーの風格が備わっていた。オスカーは腕を組み、静かに目を閉じる。それ以上の追及はなかった。
ダビデが背を向け、歩みを進める。数歩先で立ち止まって振り返り、遊次たちへ声をかけた。
「改めて、俺らの仲間を紹介するぜ。アンタらのことも、色々話してくれよ。なんでこの国に来たのかとか、詳しく聞いてねーしさ」
「そうだ、メシにしようぜメシ!トトも無事に帰ってきたことだし、デュエリアとの"同盟"を記念して、パーっとやろうぜぇ!」
ザファールが両手でトトを抱き上げ、自身の肩に乗せて声を張り上げる。兵士に追われ続けていた緊張が解け、トトの顔に心からの笑みがこぼれた。
大人びた口調の裏に隠れていた、年相応の無邪気な笑顔。それを初めて目にした遊次の口元も、自然と綻んでいた。
早くも宴の熱気を帯び始めたギルドの面々。その只中で、アリシアは困惑の表情を浮かべる。
「同盟というのは言いすぎだろう…。それに、遊びに来たのではない。まだ課題は山積みなのだ…」
呟くアリシアの横から、灯がひょこっと顔を覗かせた。
「いいじゃないですか。私達も長旅で疲れてるし、ここは英気を養うってことで。これからどうすべきかは、また話し合いましょう」
「灯の言う通りだぜ。アスラナクぶっ倒すには、ギルドの力が絶対に必要なんだ。仲良くなっとかねーと!」
遊次も無邪気な笑みを向ける。
「…そうだな」
アリシアは小さく息を吐き、静かに肩の力を抜く。王国兵に追われる身となった今、すんなりと謁見の場が設けられるはずもない。外敵を払い、道を切り開く策を練る時間は確かに必要だった。
異国から現れた遊次たちへ向けられていた、ギルドの鋭い敵意。その分厚い心の壁を瓦解させたのは、遊次の心からの言葉と、カードという刃を交えて得た信頼だった。そして革命を成し得るだけの力を証明し、彼らは今、確かな戦力としてギルドの輪の中にいる。
しかし、地球に迫る悪星神を打ち破る方法を探すという本来の目的は、未だ目に見えぬほど彼方にある。それを掴むためには、迫る王国兵を倒し、前に進み続けなければならない。
本当の戦いは、これからだ。
第88話「超絶最強の切り札」 完
悪星神を討ち、世界を救う方法は未だ見えない。暗闇を手探りする現状を打破する可能性を持つのは、トトの知るネフカ王国の「禁忌」だ。だが、万が一トトが捕まり古文書が奪われれば、その手がかりさえ失われてしまう。
トトから禁忌を聞き出すべきだと考えるアリシア。一人の命と世界の命運を天秤にかける冷徹な選択に、遊次は強く反発する。
他人を巻き込むまいとするトトの固い意志。
そこに風穴を開けるのは。
巨大な絶望に抗うための、一筋の光明。
ネフカ王国が秘匿し続ける、その真実とは。
「約1000年前、まだ武器があった時代…隣国がネフカ王国へ数万という兵を送り、侵略を企てました。しかしその兵士達は、たった一夜にして全滅したそうです」
次回 第89話「ネフカ王国の禁忌」