スキル『ゴッドハンド』の転生拷問官。気がつけば、捕虜でハーレムを作っていた。   作:沙悟寺 綾太郎

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第十五話  魔法使いと快楽の坩堝

 

「あんた、敵ってことでいいのよね?」

 

 魔法使いは言って、杖を構えた。

 その先端には赤い光が収束し始め、煉瓦造りの建物の隙間、路地裏の闇を切り裂くように蓄積されていく。

 

(なぜ? あたしが勇者の仲間だと知って、腕試しのつもり? なんにしても、舐められたものだわ)

 

「アドバイスをやるよ。ここでは撃たない方がいい。街中での魔法の行使は、この国では重罪だ」

 

「誰だか知らないけど、ご親切にどうも。でも、それは知ってるわ。けれど、確か続きにはこう書いてある。自衛のため又は他衛のためなら別、でしょ?」

 

 確かに、少女の言う通りだ。ご丁寧に、この国の法律書にはそう書いてある。

 しかし。

 

「ま、分かってないなら、撃ったらいいんじゃないか。だが、その瞬間。お前の負けだ」

 

「はあ? 冗談はやめなよ。あたしを誰だと思ってんの? あたしは……」

 

 少女が不満そうに口を開いた瞬間だった。

 

「──王国の生まれにして、七年前の選抜試練を生き残った少女。22才にして、この世界において、最強の魔法使い。名は、シズク」

 

 スーツの男は、肩の細かに述べる。まるで、何も知らぬことなぞないとでも言いたげに。

 

「……あんたはあたしのストーカーなわけ?」

 

「ストーカーではないが、ある意味……そう、熱心なファンってところだ。転生者のお前なら言葉の意味はわかるだろ?」

 

「ふっ。ファン、ね。久々に聞いた。なるほど、あんたも召喚者か、転生者ってわけね」

 

 シズクは胸中、警戒のレベルを引き上げた。

 

「そう言うことだ。あ、この格好は個人的に気に入ってるってだけだ。深い意味はないぞ?」

 

「そんなこと、──聞いてないわよっ!!」

 

 言葉と同時、シズクの杖先から撃ち出されたのは、烈火の球体。

 

 七年前とは、比べ物にならない速度、威力。

 すぐに、男は理解した。

 しかし、避ける素振りは見せない。

 

「はっ、そうでなくっちゃな」

 

 男はただ、手を飛翔する業火の球体へと差し向ける。それだけだった。

 

「──《ゴッドハンド》」

 

 赤の光を正面から受け止めたのは、金色の光を放つ片腕。

 

「っ! その力はっ!」

 

 少女は驚愕に瞼を大きく開く。

 

「やっと、思い出してくれたか。嬉しいよ」

 

 男は受け止めた火球を握り潰し、幾つもの火花を散らしながらほくそ笑んだ。

 

「──改めまして、俺は相良甚八。七年前の借り。今日返させてもらうぜ」

 

「っ! もう……勝ったつもりかしら? 馬鹿ねっ!」

 

「ふっ。この状況を理解出来ず、相手の能力も知らないお前に、俺は倒せねぇよ」

 

 男はストレージへと腕を突っ込むと、小さな包みを取り出す。

 

「予言する。俺がこれを取り出した時点で、お前の勝機は、完全に無くなった」

 

「はぁ?」

 

 シズクは小包を凝視し、数度の瞬きを繰り返し、逡巡した。

 

(ブラフ。確実にそう。大きさからして、その中のアイテムは、おそらく魔法を跳ね返す魔石。それなら、あたしの出力で押し切れる)

 

「どうした? 降参か? あ、大魔法を行使するための溜めが欲しいのか? 待ってやらんこともないぞ?」

 

「くっ、いい気になりやがって」

 

 シズクは再び、杖先を向ける。

 

「そんなに死にたきゃ、殺してあげるわっ!」

 

「ああ。殺してみろよ」

 

「ええ分かった。喰らいなさいっ! 《ブリザード・イグニッション》っ!!」

 

 それは、この世界において、最上位とされる魔法の一つ。氷属性と炎属性を一縷の淀みすらなく、融合させて撃ち出す。究極の技。

 

 だが。

 

「──っ!?」

 

 異変が起こったのは、シズクの体の奥だった。

 

「っっっ!! 何っ!? この……んっ!」

 

 それはまるで、全身の肌に強力な媚薬を浴びせられたような強烈な快感。

 

「……何を、したの」

 

 見る見るうちに、抜けていく足の力に抵抗するように、シズクは杖を地面に押し当てて辛うじて、立ち続ける。

 

 しかし、その間も絶え間ない快感の奔流が体を掻き回す。いつしか、その肌は汗ばみ、頬は上気。下腹部が痛いほどに疼く。

 

「お前達、魔法使いってのはこの世界に散漫と流れる魔力を吸い上げて、魔法を行使する。それは、いくら優秀な奴であろうと、例外はない」

 

「んっっ!! ……それに、なんの関係が……」

 

 シズクは薄弱とし始めた意識をどうにか手放さぬように堪えながら、男を睨む。

 

「勘の鈍い奴だな。これをお前は魔法を反射する魔石かなんかだと思ったんだろ?」

 

 シズクはこくりと頷かざるを得なかった。

 

「残念。これは、媚薬だ。それもただの媚薬じゃない。特別製」

 

 男は空になった包みを捨てる。すたすたと平然とシズクへと近づき……。

 

「──この媚薬は、俺の《ゴッドハンド》の能力によって、空気中へと気化するのさ。そういう風に、作ってもらった」

 

「そ、そんなのはあり得ないっ! だって、それならば、あんただって無事では済まないでしょっ!? 人は無意識下で魔力を吸い上げて生きてるんだものっ!」

 

「ああ。そう。だから量を調整した。俺程度一般人が吸い上げれるのは大した量じゃないからな。だが、お前は生まれ持った才能によって、俺とは比べ物にならないほど、吸い上げるだろ?」

 

 はっとシズクはその言葉の真意を知るなり、肝が凍りつくような感覚を受けた。

 

「ここまで言えば、分かるだろ? だから言ったんだ。俺があの小包を取り出した時点で勝負は決したと」

 

 完全なる敗北。七年にも及ぶ冒険によって、積み上げられた自信とプライドは音を立てて崩れ去り、シズクの足はついに立つことすらも諦めた。

 

「さあ、閉幕だ。安心しろ、お前を殺すつもりはない」

 

「な、何を……するつもり?」

 

 問いながらも、その火照る体は理解していた。しかし、男の言葉をシズクは待った。

 

「──死ぬほど気持ちのいい拷問だよ。良かったな、お前は明日には俺の奴隷になってるだろうさ」

 

「い、いや……」

 

 シズクは後ろへと逃げるべく、動かぬ足の代わりに腕を使い、地面を這う。

 

「逃げ切れない。分かってるんだろ? 《ゴッドハンド》発動」

 

 その手に触れられれば、どうなってしまうのか。シズクには見当もつかない。

 

(……ごめん、あたし汚されちゃうみたい)

 

 そう、心の中で勇者へと呟くなり、シズクは意識を失った。

 

 

 





────

あとがき

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