スキル『ゴッドハンド』の転生拷問官。気がつけば、捕虜でハーレムを作っていた。   作:沙悟寺 綾太郎

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第十九話  優しい手の拷問官

 

「何者かは知らないですが、そこ、どいてもらえます?」

 

「貴様こそ、もういいだろう? いかに自衛のためだったとしても、既にやり過ぎだ」

 

 貧民街の中心で、女騎士は言った。その背後には、巨大な裂傷を受け、意識を失った少女が横たわっていた。

 息は浅い、すぐに手当をしなければという焦りが女騎士の肌をじりじりと焼いていた。

 

「自衛? はは、関係ないでしょう?」

 

「何が、関係ないのだ」

 

「僕に挑んだ時点で、その少女は自分の体も心も賭けたわけだ。つまり、その後どうなろうが、自業自得。そうは思いませんか?」

 

「……貴様、それでも勇者か?」

 

 女騎士は背後を一瞥する。

 かろうじて、少女は息をしている。しかし、その裂傷はあまりにも深く、流れ続ける血は地面に赤く水溜まりを作り始めている。

 

「ふっ、勘違いしないでください? その子を殺したい訳ではない。寧ろ、逆。僕はね、その子を飼って(・・・)あげようと思ってるんですよ?」

 

「はあ?」

 

「その少女には、大好きな人というのがいるらしくてですね」

 

 女騎士の頭の中には、一人の男が思い浮かんだ。スーツを着た男だった。

 

「なら、ね? 欲しくなったんですよ。その、人を好きだと言う心を、尊厳を、ぐちゃぐちゃにして、惨めな奴隷に変えてしまいたくなった」

 

「っ!」

 

 こいつは、化け物だ。女騎士はようやく、察した。

 いくら勇者と言われようとも、その行動の動機は常人とはかけ離れている。

 

「ああ、楽しみだ。誰かを大好きだと言ったその口で、奉仕させたのならば、この世の天にも昇る心地でしょう」

 

 イカれている。これが、自分の仕える国の英雄なのかと怒りが込み上げてくるほどに。

 

「貴方は? どうします? 僕に挑みますか? ……うむ。いい体をしていますし、随分と楽しめそうだ」

 

 勇者は剣を振り、血を払うと、下卑た視線を女騎士の全身に這わせた。

 

「……貴様は、下衆以下の男だ」

 

 しかして、女騎士は怯むことなく、寧ろ気高い目を持って、その腰の剣を抜いた。

 

「王国が断じぬと言うのならば、私が代わりに断じよう。貴様は──悪だ」

 

 いかに勇者といえど、その言葉には、何の義も、誇りも感じ得ぬ。

 

「へぇ。なるほどね。貴方は王国の騎士ですか。ならば、少しは楽しめそうですね。そこの、女という点以外、何の取り柄もない暗殺者さんよりかは、ね?」

 

「私の友を侮辱する行為は、断じて許さん──宝剣技抜刀。目覚めろ、《クラウソラス》」

 

「宝剣技。中々の使い手のようですね。ふむ、ならば……スキル《聖剣開花》」

 

 勇者の聖剣が輝き始める。鞘は霧散し、剥き出しとなった剣身は、虹色の光を帯びる。

 

「さあ、楽しませてくださ……っ!?」

 

 構えを取った勇者の視界の上部。

 そこに、それは映った。

 

「──もう、何も。お前には奪わせねぇよ」

 

 上空はるか高くから、緩やかな下降を見せるその白いワイシャツは、月光を弾き、その拳は金色の光を帯びていた。

 

「ルークっ!」

 

「アテナっ! お前は、ミリーダの出血を抑えろっ! こいつは、俺がやるっ!」

 

「貴方は……っ!」

 

 勇者は言葉を途中で打ち切り、聖剣を握り直す。

 

「ははっ! 面白いっ! 実に愉快な人だ!」

 

「黙ってろ、クソ野郎。お前は──俺が殺す」

 

 ルークは急降下の最中、硬く握った拳で溜めを作る。

 

「──《落日》っ!!」

 

 放たれたその一撃。それは黄金の光によって形成された隕石にも等しい拳。

 

「面白いっ! 実に良いっ!! ──《イージス・パージ》っ!!」

 

 虹色の輝きは回転を繰り返しながら、空高くルークの元へと昇竜の如く向かう。

 

 二つの力は、真っ向からぶつかり、周囲に多大なる暴風を撒き散らした。

 

「くっ! ルークっ!!」

 

 アテナは服の切れ端をミリーダの傷口へと押し当てながら、叫ぶ。

 

 そして、拮抗し続けた力の結末が眼前へと映る。

 

「……はあ、はあ。なるほど、はい。分が悪いようだ」

 

 その剣は中腹から両断され、左腕はもはや使い物にならないほど、傷ついていた。

 

「はっ。生きてるとはな。全く、自信無くすわ、ほんと」

 

 ルークは地面へと着地した。アテナと勇者の動線の間。まるで、二人を庇うように。

 

「はあ、これではどちらが勇者かわからない。ったく、王国にも戻れないですね、これでは」

 

「てめぇが行くのは地獄だ。それ以外に必要ない」

 

「おお、怖い怖い。……流石に分が悪い。今日は貴方に勝ちを譲りましょうか」

 

 勇者はふっと笑ってから右腕を天へと伸ばす。

 

「──《テレポーテーション》」

 

 呟くや否や、その姿は足元に浮かんだ魔法陣に吸い込まれるようにして、消えた。

 

 ルークはその姿が見えなくなり、数秒が経つまで、周囲の警戒を続けた。

 何処かへ転移した。そう確信した途端、ルークはミリーダを抱くアテナへと駆け寄る。

 

「ミリーダっ! 死ぬなっ!」

 

「ルーク、どうする? この傷はもはや……」

 

 致命傷。わざわざ言わなくとも、ルークも理解してるはず。だが。

 

「死なれちゃ、困るんだよ。お前が死ねば、誰が俺の本当の名を呼んでくれるんだ」

 

「……ルーク」

 

「アテナ。お前はこのまま、ミリーダの体を抱えていてくれ」

 

 やることは、するべきことは既に分かっていた。

 ミリーダは、必ず助ける。

 

「何をするつもりだ?」

 

「決まってるだろ。傷の縫合と内臓の出血を止める」

 

 ルークの両手がまたも金色の光を帯び始めた。

 

「俺の手は、優しいんだって。言ってくれたんだ。誰かを助けるためにあるって、言ってくれたんだよ」

 

 その指先は、ミリーダの傷口へと触れる。

 途端に、その金色の光は伝播し、ミリーダの全身を包み込む。

 

 元来、ルークのスキル《ゴッドハンド》は、人を傷つけるための力ではない。

 

 その力の本質は、無尽蔵の魔力を生み出し、全ての不可能を覆す。

 

 それこそが、

 

「──《ゴッドハンド》。力を、貸してくれ」

 

 ルークの……否、相良甚八という人間の本質なのだった。

 

 




────

あとがき

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