スキル『ゴッドハンド』の転生拷問官。気がつけば、捕虜でハーレムを作っていた。 作:沙悟寺 綾太郎
「ただいま」
少女の治療を終えて、ルーク達が屋敷に戻った頃にはすでに日を跨ぎ、街が眠った後だった。
「おかえり」
「ひょ!?」
玄関のドアを開いたはずが、何故だか真横から声が聞こえた。
「み、ミリーダ。脅かすなよ」
真横……というか、ほぼ斜め後ろに立っていたミリーダに言った。
「あばばばばば……」
アテナは余程、驚いたようで遠い何処かを見て、泡を吹いていた。どうやら幽霊とでも勘違いしたらしい。今度、ドッキリしてやろう。
「体は? 大丈夫か?」
「もう平気。それより……」
ミリーダはわざわざ、ルークの正面に戻ってきて、上目遣いに見上げてきた。
「おかえり、貴方。お風呂にする? ご飯にする? それとも、わ・た・し?」
「あー、全部外で済ましてきたよ」
「……だから、女の子を背負ってるの? しかも、エルフの」
その目はまるで、絶対零度。エーリカが起きていたら、震え上がっていただろう。何せ、ルークも恐怖を感じたから。
「あら、おかえりなさい。帰ってきたのね」
階段から降りてきたのは、バスローブを纏ったレイズ。湯に濡れたその髪は、なんとも艶かしく、石鹸の香りを放っていた。
「ああ、今戻った。それより……」
「ええ。分かった。そのままこっちに連れてきて貰えるかしら」
言葉などなくとも、レイズはルークの背負う少女を一眼見て事態を察したようだった。
「おい、アテナ。いつまで泡吹いてんだ。お前は蟹か?」
「あばばば……はっ! 私としたことが」
そのまま、レイズにも案内されたのは、二階奥の部屋。来客用の寝室だ。
「よっと」
ルークはすぐさまベッドにエーリカを下ろすと、肩を何度か回す。ここ最近でゴッドハンドを酷使しているからか、妙に凝る。
「傷は……貴方が治したの?」
「ああ。傷跡、打撲痕、火傷の痕、足の腱、欠けた耳。合わせて、三時間と少々掛かったがな」
「ふ、それで三時間は凄腕よ。拷問官なんてやめて、医者になれば?」
「ならねぇよ。お前を、この国のトップに据えるまではな」
そう言う契約だ。
「……ん、まさか」
アテナは何かに勘づいたようだった。
「ルーク、先ほど貴様が言っていた。奴隷制度を嫌う聡明な人物というのは……」
「ん、ああ。それなら……」
「ええ。私よ」
答えようとしたルークを遮り、レイズが答えた。
「本当か? 貴女が幾ら姫様と友好な関係を築いているとはいえ、まだ私は貴方を信じられてはいない」
「へぇ。なら、どうすれば信じてくれるのかしら?」
「まず、何故貴方は奴隷制度を嫌っているのか、答えてもらおう。そして、貴方の目的はなんなのか、それも聞きたい」
確かに。ルークも気になった。
レイズとは七年弱の付き合いだが、レイズ自身の話は聞いたことがない。
「──雌豚」
ミリーダが声を上げた。しかも。
「なんだ? ミリーダ?」
「それ以上レイズを追求するのは、私が許さない」
怒っていたのだ。マイペースで、感情が見えにくい少女が、激しく燃えるような怒りの目をしていた。
「ミリー、ダ?」
「ジンパチもこれ以上はやめて」
ミリーダとレイズは、十年以上の付き合いだとは昔、聞いた。
現に今、二人の間にはルークでさえも踏み込めない何かがあった。
「ミリー。いいのよ。隠していても、いつか話すのだから、早いか遅いの違いしかない」
「レイズ……でも」
不安そうな顔をするミリーダの頭を撫でてから、レイズはバスローブの紐を解いた。
「なっ、急に何を……っ!?」
もはや芸術のようなレイズの肢体は、光の下に曝け出され、そして。
「ここよ、左の腰。これが何かは、分かるわね?」
左のくびれに、それはあった。
「奴隷、印……」
「そう。私は、幼い頃──奴隷だったのよ」
その一言に、その場の誰もが言葉を持ち合わせなかった。
***
「それで、なんであたしも巻き込まれてんの?」
一夜が明けた早朝。
エルフの森へと向かうこととなったルークは、少女エーリカの護衛として、アテナともう一人に頼んでいた。
それこそが。
「あたし、あんたらの仲間になった覚えはないんだけど」
「ま、そう言うなよ。俺たちの仲だろ? ──シズク」
元勇者御一行に数えられ、魔王を倒したパーティの一人に数えられる女。
大魔法使い シズクだった。
「あんたと深い仲になった記憶はないんだけど?」
「またまたぁ。あの夜は、随分と積極的だったが?」
「っ! やめなさいよっ!」
シズクも思い出したのか、顔を赤く染めて、睨んでくる。
「真面目な話。協力してくれるなら、お前にもメリットはあるぞ?」
「へー」
興味なさそうなシズク。というより、なんだか呆れたような表情だ。
「──エルフの魔法は、お前も興味があるだろ?」
魔法とは、才能と知識の塊のようなものだ。幾ら強大な魔法使いとはいえ、その存在を知らないのならば、行使のしようがない。
「……あんたに付いていけば、それを知れるってわけ?」
「ああ。そうさ。つまりは、
先日の件で、シズクの性格をルークは理解していた。
メリットがあり、その理由があるなら、シズクはこちら側に引き込める。
「ふーん。悪くはない。でも、まだ足りないわね」
「なら、その体をまた満足させてやる。この二日は、自分じゃイけなかったんじゃないか?」
「は、はぁ!? あんた、なんで知って……」
シズクは焦ったような顔をした。ぎゅっと杖を握り込み、弱々しい雰囲気。
「──俺は、ゴッドハンド。だからな」
そうして、交渉は終わり、旅は始まるのだった。