学マスの初星学園って実際、どんなとこなんだろうと妄想した結果生まれた転生者オリ主もの   作:ファムファタール

1 / 4
三人のアイドルたち

 初星学園。

 1990年に設立された歴史は浅いが、母体になっているのは芸能プロダクションによって莫大な資本を使って作られた学園。

 2010年頃には高等部アイドル科が設立され、学業と同時にトップアイドルを目指すためのレッスンも行えるということで注目を高め、今日ではアイドル育成校としての名声を欲しいままにしている。

 

 

 ……如何にもアイドル至上主義のこの世界らしい学園である。

 

 吾輩は転生者である。名は東雲イツキ。性別は男。今の年齢は18。前世トータルだと40ちょっとぐらい。

 これからの所属は初星学園大学芸術学部映像学科で、今はその入学式。

 

 学園の入学式は高等部と合同で行われるらしく、今は高等部の首席代表挨拶の時間。

 

 スマホの向こうの世界で見たことのある顔が、代表挨拶をかましている瞬間である。

 

 ほへぇ〜と壇上を見上げながら、考えたのはどうして俺がここにいるのか、ということだ。

 いや、理由は明白なんだ。分かっている。

 

 前世で得た知識を使って、一人で映像制作をやっていたのが幼馴染経由で親にバレたからだ。

 某府大学の映像学科でハブられたが故に一人虚しく覚えた数々の無駄な技術。本当は小説家志望だったのに「小説書くのにそれを専門的に学んでも視野狭くなるだけじゃね」とか賢しぶって入った結果得たのがそれだ。

 苦しかった。話は合わんし、そもそも映像撮るのには脚本がいるのに、文章読めねえアホがいたり、監督の演出が脚本から乖離し過ぎているのが気に障ったりして人を嫌ううちに嫌われて、いつの間にか課題をこなす為だけに、孤独に映画を撮っていた学生時代。どこにも引っかからない就職。

 そのまま卒業して、仕方ないからフリーターをやりつつ、健康を犠牲にして二年間で作り上げた集大成を世にお披露目することが出来なかったという後悔があった。まあ未練だな。

 

 学んだこと、磨いたこと、それらを一つにして作り上げようとした作品だった。

 

 死んじまったものは仕方がないが、次の生があった以上はそれを形にしなくてはならんと生き急いだ。

 

 そうして高校時代。作品を一つ完成させて、中学の同級生やら高校のクラスメイトを集めて鑑賞会をして、勧められるがままに自主配給に踏み切り、そこそこの儲けを得た。

 ちなみにこの時点で扶養からは外れていたので、そのうちバレるのは確定していたため、一概に幼馴染のせいだけとは言えない。

 一年早かったというだけの話だ。

 とにかくにも、そうしてやることはやって、さてこれからは普通に生きていきましょうと思った途端にこれである。

 

 やけに知った曲を聴くことが多いなとは思っていたけれど、まさかアイマスの世界に自分が転生したなどとは考えてもいなかったさ。

 

 しかも、俺が死ぬ直前にリリースされた学園アイドルマスターの世代とか。

 

 映画の件があって、全額給付の奨学金と学費の減免があるからどうだと親に勧められ、金があるのに前世の苦学生時代を思い出し、思わず飛び付いた俺も俺だが、なんてことだよ。

 

 原作知らねーよ。

 だって出てすぐ死んでるもん俺。PVとメインシナリオ一話ぶんしかキャラも話も知らねえし、ほとんど記憶の彼方だよ。むしろその程度の情報を首席挨拶程度で咄嗟に思い出したことを褒めて欲しい。

 

 初星学園についてだって、ふんわり聞き覚えがあると思いつつも、なんか芸能とかクリエイティブ系が強い学校なんだなーぐらいにしか思っていなかった。

 

 PVだけで名前まで覚えるほどコアなファンでもなかったからな。

 あの頃、ゲームやる余裕なかったし、メインシナリオをパラ読みだった。

 

 まあ別に、そこまではいいのだ。

 何せ俺は映像科。アイドル科とは関係こそするものの、密接に繋がる必要は必ずしもない。むしろ舞台演出科や演劇科、同じ科の人間との繋がりの方が大事だからな。

 不用意な接触は致し方ないとして、変にアイドルたちと関わって嫌われて、学園生活が不自由になるなんてことはないだろう。

 何故嫌われること前提なのかって? 人生で嫌われなかった試しが少ねえからだよ。稀有なんだ、俺のこと好いてくれるやつ。

 

 しかし、だ。

 俺は今一つの不安を抱えている。

 

 それは先ほどから一緒に学園まで来たはずの幼馴染さんの姿が見えないことである。

 

 入学式の喧騒の中。震える指先で、それでも俺は答えを得るべく幼馴染へと連絡をした。

 

『お前、どこ?』

『おっと、言ってませんでしたか? 私はプロデューサー科の方ですよ』

 

 言われて顔を上げれば、能面の様な無表情でこちらを見てピースをしている黒髪眼鏡の女子生徒が視界に映った。

 

 いや、聞いてねーし、そっちかよお前。

 

 ……そっちなんだ、お前。

 

▶︎

 

 入学してから一月が経った。

 その間、特別な出来事もなく、言ってしまえば前世とそう変わらない学生生活を俺は送っている。

 

 学園のアイドルと知り合う? ないない。だってキャンパス違うんだもん。高等部のある学舎に行ったのなんて、入学式の一回きりだわ。

 

 将来的に関わることになるかもしれないから、とかいうふんわりした理由で入学式だけ一緒にやるとか頭おかしーんじゃねーの。そういう学校側の変に雑なところまで前世と一緒にしてくれとは思ってないっつの。

 

 などと前世と同じ部分を挙げ連ねてはみたが、もちろん前世とは違う部分もこの学園には存在する。

 それは学生のレベルが異様に高いことだ。

 前世の経験と知識という転生アドバンテージを持ってしてもようやく同じ水準に立てるぐらい。

 一つ一つが専門分野じゃないとはいえ、こちとらプロの現場で仕事をしたことだってあるんだぞ。どうなってんだ。

 

 もしも神様がいるのなら、やり直しを要求したい。もうちょっとイキれる環境に転生し直す方向でどうですか? ダメ? あ、そう。

 

 じゃあ、ハイスペ共に囲まれた器用貧乏の凡人はどうすりゃいいんですか?

 

 答:大人しく過ごせ

 

 そんな訳なので、当たり前のように出される学生には難易度高めの課題をこなしつつ、周囲とのコミュニケーションもそこそこにして、前世と変わらず一人細々と作業を続けていたわけなのだが……

 

「ぜぇ……はぁ……ん、ぐ、やっと、見つけました……」

 

 息を切らせた様子の幼馴染が今、俺の目の前にいた。

 彼女はまだ春先だというのに、ワイシャツが肌に張り付くほど汗だくで、その様子からよっぽどこのキャンパスの中を歩き回る……ないしは、走り回って来たことがわかる。

 手を膝について前傾姿勢になっていることも手伝って、妙に扇状的な絵面だ。

 そんな様子に俺はため息を吐いて、声をかける。

 

「何しに来たんだ?」

「貴方に、協力を頼みに……」

「それなら断ったはずだが」

 

 ユニットメンバーそれぞれのMVを撮って欲しいみたいな話を数日前にされたことを思い出す。

 予算は十分ある。というか、幾らかは学園側に申請すれば負担してくれるし、依頼料も出るから手伝って欲しいという内容のメッセージに「面倒だからパス」と返事をしたはずだ。

 

「そういうのは本職に頼めって言ったろ」

 

 彼女から依頼料として提示された金額は専門の人間を雇えるほどの額だった。もちろん、まるまるそれが俺の懐に入るかって言うとそうではないが、それにしたって一度の依頼でこんな不良学生に払うには過ぎた金額。

 

 この学部の学生には実力があって、実績を積みたい奴らが五万といる。

 

 入学したてで手隙の一年に目を向けるのは流石だが、あれだけの額を引っ張り出せるというのなら自分たちの制作で忙しい先輩の方々に声をかけても迷いなく頷いてくれるはずだ。

 

 俺だって頷きたかった。この幼馴染からの依頼でなければ。

 

 無論、優秀な彼女はそんなことぐらい理解しているはずだ。

 

 だというのに一年の、それも勝手知ったるこの俺にわざわざ依頼して来たということは、である。

 

 面倒ごとの気配がする。

 

 受けてはダメだと、なんならこの場から逃走しろと、会話を続けてはいけないと本能が警鐘を鳴らす。

 

「悪いがこれから講義あんだよ、だから……」

 

 今日のところは帰ってくれないか、そう俺が言いかけた時だった。

 

「プロデューサー!」

 

 良く響く威勢の良い聞き覚えがある声。具体的にはアイドルかの主席っぽい声と三つの足音を聞いて、俺は天を仰いだ。

 神は、死んだ。

 

「もう、急に走り出すから驚いちゃいましたよぉ〜」

 

 先程、彼女に呼びかけたのとは違う高い声。

 印象としてはそう、あざとい系の声だ。だがいやらしさといったものは感じない不思議な声である。俺は天を仰いでいるからよく見えないが、きっとそう間違いなく美少女だ。俺にはわかる。

 チラリと横目で、声の方を見ると思った通り三人の人影。

 そのうちの一人と目があって、睨まれた。何故だ。

 

「すいません、探し人を見つけたものですからつい……」

「別にいいですけどぉ。探し人って、そこのえっと……変……男の人ですか?」

 

 今変な人って言いかけたな。

 でも良くぞ我慢してくれた。危うく死ぬところだった。

 

「そうです。そこの変な人を探していました」

 

 こっちは変って言い切りやがった!

 誰のせいでこうなってると思っていやがる!

 

 いや、普通は天を仰ぐって言っても仰いだりしないか。しないな。

 問題あるのは俺の方でした。てへぺろ。

 

 しかしいくら俺が変だとはいえ、このまま変人の謗りを受け続けるわけにもいかないので、姿勢を戻して四人に向かい合うと、一人は怪訝そうな視線を、もう一人は品定めする様な視線を、そして最後の一人はやはり俺を睨んでいた。

 濡羽色の黒髪を肩まで伸ばした顔もスタイルもその辺じゃお目にかかれないような美少女。その彼女が徐に口を開く。

 

「MVを撮ってくれる人って話でしたけど、本当にその人なんですか? 見るからにダメそうですけど」

 

 さっきの今では言い返しようもないのだが、初対面の人にダメそうってこの子すごいな。礼儀とか知らんのかしらん?

 舐められるのは別に嫌いじゃないからいいけれども。その方が評価上げやすいし、見返した時の達成感気持ちええから。

 あと煽るのも好き。何も言い返せず惨めに唸ってる相手の滑稽な姿とか大好きな人間なのだ。

 

「大丈夫です。ダメそうですし、実際ダメ人間ではありますが、彼には実績も実力もあります」

 

 確かに実績はあるが、別に実力じゃねーよ。あとダメでもない。

 あの作品のことを言っているんだろうが、10年以上かけて世に出した作品が良い物じゃなかったら死ぬっつの。創作者として。

 まああれ実際に撮ったのは、高校時代の数ヶ月だけなんだけども。

 準備に時間をかけてるのは良くても、ちゃんと作る時には時間をかけ過ぎたらダメなんだよな。作り終えるまでに燃え尽きるから。

 

「ふーん? プロデューサーがそこまで言うなんて珍しいじゃない」

「ええ、実際私は彼のファンですから。皆さんも『雨間市家』という名前に聞き覚えはあるのでは?」

「それって、高校生で映画の賞を取った人の名前、でしたっけ?」

「その通りです、藤田さん」

「じゃあ、もしかして……」

 

 黒髪の子がこちらに視線をやった途端、他二人の視線が俺に集合する。

 金髪の子以外の二人の目が怖い。

 完全に獲物を見つけた獣の顔だ。

 その様子を見て幼馴染殿は満足そうに頷いていた。

 

「ふふ、雨馬市家、ね。確かに私たちの門出に相応しい相手じゃないっ」

「名の売れてる映像作家だか何だか知りませんけど、足引っ張っられたくないです」

「ちょちょ、二人とも何言っちゃってんのっ!? 相手乗り気じゃないんだから、強気に行ったら印象悪いでしょーが!」

 

 なんだこいつら、コント集団か?

 

「……創、お前もしかしてこれが目的か?」

「ええ……もっとも、これはプランBですが。貴方が頷いてくれないのであれば、頷かせればいい。とはいえ……」

 

 そこまで言った彼女のメガネがキラリと光る。

 

「これで頷いてくれるとは思っていませんが」

「「ぷ、プロデューサーっ!?」」

「お前らはなんで驚いてんのっ!?」

 

 なにこの三人、おもろ……じゃねえ、全く、幼馴染、創ハジメには参ったものである。

 

「当たり前だろうが。この俺が面がいいだけの女の圧でなびくと思うなよ」

「ふふ、そう言うと思っていました。あと、彼女たちは顔だけではないです」

「どうでもいいね。俺に撮らせたいなら、顔じゃダメだ。性格でもな。わかってんだ、俺があの映画でどうしてあの女優を起用したか」

「ええ、貴方にとって一番大事なこと、それは……」

 

 そこまで言って、彼女は獰猛に笑う。

 それは自信に満ちたイイ表情だった。

 もうこうなったら、面倒事とか言ってられない。

 

『面白いか、どうか』

 

 同時に口を開く。

 俺たちの間の共通事項。それを口にするということは、その条件が満たせると彼女は言いたいのだ。

 きょとんとしている三人を置いて、俺たちは会話を続ける。

 

「わかってんなら話は以上だ。俺がそいつらを『面白い』と思えるまで待つか、あるいは……」

「彼女たちが貴方と関わることで、自らを魅せなければならない。そういうことでしょう?」

「撮りたいと思わせてくれりゃ良い。俺は俺の撮りたいものしか撮らないし、作りたい物しか作らない」

「向いててもやりたくないことはやらないもでしょう?」

「そうだ」

 

 別に映像だって、職業にする気ねえし。

 俺にとっては、夢の中継点でしかない。

 思ったよりも長い勉強になっちまったけどな。

 

「それなら、貴方は絶対に言うでしょう。三人を撮ってやってもいい、と。彼女たちにはそれぞれ、貴方が撮っても良いと思える“面白さ”がある」

 

 彼女が自信満々に言ったところで、ストップがかかる。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「藤田さん、どうかしましたか?」

「どうもこうもありませんよ! 面白さって、私たちアイドルなんですけど!?」

「ことねの言う通りよ。私たちはお笑い芸人じゃないわ」

「ええ、そうですね」

「そうですね、って……」

 

 何やら勘違いして騒いでいるアイドルたちに、プロデューサーは「ふむ」とだけ言ってこちらに視線を向けてくる。

 言ってもいいか、ということらしい。

 それに好きにしろ、とだけ目で答えると彼女は三人に向き直る。

 

「彼の言う面白さとはそういうユーモアの話だけではありません。人間としての魅力、自己矛盾を抱えながらも進む人間の意思や誰にも負けない唯一無二のアイデンティティ、そして心。その輝きを面白さ、と彼は表現しているだけです」

「なんか魔王みたいなこと言ってませんか、それ」

「言い得て妙ですね。そうです、藤田さん。彼は貴女たちがよりアイドルとして輝くために倒すべき魔王。そう理解してください」

「や、魔王じゃないから四天王最弱だからね俺」

 

 同じ学科の奴らの能力の高さには震えるばかりだし。

 なんなのアイツら、人が前世合わせて二十年以上かけて積み上げた知識と技術を簡単なことかのように扱いやがって。

 総合力で勝ててるからまだ良いが、在学期間中にそれも抜かれる気しかしない。

 実際、もう俺じゃ歯が立たない相手もいるし。

 

「と、彼は言っていますが過ぎた謙遜なので無視してください」

 

 謙遜じゃねえんだけど、と俺が思っていると金髪の藤田さんとやらがしれっとした顔で、

 

「映画の興行収入ってどれぐらいだったんですか?」

 

 などと聞いてきた。

 

「3億ぐらいじゃねえかな」

 

 特に答えられない話でもないので、さらりと答える。

 自主制作としては成功も良いところだ。

 自主配給でここまでやったんだから褒めてほしいね。

 

「儲けはどれぐらいなんです?」

「1億8千万ぐらいと言いたいところだが、実際は8千万行かないぐらいだな。制作費が1億ぐらいだったから」

 

 まあ、実際には1000万ぐらい予算を余計に使ってるので、もうちょい儲けあったはずなんだけども。

 

「8、8せんまん……」

「藤田、だったか? 言っておくが映画を撮るなら端金だぞ」

 

 にっこり笑って言ってやると、彼女はひぇッと声を上げた。

 

「億単位が軽く吹き飛ぶのが映像の世界だ」

「ひぇぇッ!?」 ぷ、プロデューサー! こ、こう言ってますけど、MVなんて本当に撮れるんですかぁッ!?」

「くふふ、どうだろうなァ?」

 

 ゴクリ、三人が生唾を飲み込む音が聞こえた時、俺は頭を引っ叩かれた。無論、幼馴染によってである。

 

「あまりウチのアイドルを脅さないでもらえますか?」

「悪い悪い。ま、MVやらPVは、50万ぐらいから作れるよ」

「な、なんだぁ……や、十分大金なんですけどぉ……」

 

 ホッとした様子の藤田さんは、そのままちょっと俺を睨んだ。

 可愛い。

 他の二人は圧がすごい。

 

「それに、もし俺を作る気にさせたならその時は金はいらねえよ」

「……どういうつもりかしら?」

 

 そう疑問を口にしたのは、赤茶髪の女の子だ。

 初めから思っていたが、なんとも意志が強そうな瞳をしているが……

 ふむ……

 

「よく聞いてくれた、赤ちゃんフェイス」

「赤ちゃ……ちょっと、プロデューサー。蹴ってもいいかしら、この人」

「花海さん、後にしてください」

 

 ふむ、はなみ、というのか。

 漢字ではどう書くんだろう。

 

「この歳になるまでにゲームと映画……映像でやりたかったこと、俺に出来ることはやりきったからな。映像で金を取る気はもうねえんだよ」

「それが、金銭を要求しない理由?」

「そうだ。なんなら、大学に居る間は課題製作以外に映像に関わろうとすら考えてなかった」

「……映像を作ることは、あなたの夢じゃないの?」

「ある意味ではこれも夢とも言えるが……これまでの俺にとって、これは通過点であって夢そのものではないから、そうだな。これは夢じゃない。だから、プライドに関係ない仕事で金を貰う気もない」

「なるほどね……プロデューサーったら、すごく面倒臭い相手を紹介してくれたじゃない」

「お前は失礼だな、ベビーフェイスはなみ」

「繋げないでくれるかしら!」

 

 ふむ、反応は良いな。

 人とのコミュニケーションに難はあるが、会話自体は楽しめるタイプと見た。

 

「咲季さん、朗報です。割と気に入られましたよ」

「ぷ、プロデューサー!? 何を見てそう言ってるんですか!?」

「目を見ればわかります。幼馴染なので」

 

 気持ち悪いからやめてくんね?

 

「ふふ、見る目あるじゃないの」

「撮ってやりたいってほどじゃねえけどな」

「ええ、いいわ。今はそれでも」

 

 ジッと彼女が上目遣いにこちらを見上げる。

 勝気な表情に、挑むような瞳に、心が震えるのを感じた。

 

「でも、この先ぜぇったい! 花海さん、どうかあなたを撮らせてください! って、あなたに言わせてあげるんだから!」

「やれるもんならやってみやがれ、未完少女」

 

 ジッと睨み合っていると、横から声が聞こえてくる。

 

「あのぉ〜、プロデューサーあの人、私たち完全放置なんですけど……帰ってもいいですか?」

「藤田さんもう少し待ってください。彼は気の強い女性が好きですから、この展開は想定内です」

「えっ、そういう感じなんですか? じゃ、じゃあもしかして私も……」

「月村さん、その心配はありません」

「ぷ、プロデューサーッ!? どういう意味ッ!!」

 

 騒がしいな。

 

「おい、創。そこのチワワも見ていいか」

「月村さんですか……もちろんいいですが、藤田さんは?」

「可愛い方に関しては“だいたい”わかった。根っこは良いが、もう一押し欲しい。散財を覚えさせろ」

「なるほど……」

 

 納得したのを見届けて、俺は月村と呼ばれた黒髪の少女の方を見ることにした。

 ……ふむ、怯えられているな。やはりチワワか。

 

「何がなるほどなんですか!? 散財なんてしませんからねッ!?」

「金持ちになるなら金の“有効な”使い方を覚えろ、とそう言われているんですよ。藤田さん」

「……なるほど? ってちょぉっと待ってくださいプロデューサー! 話したんですか!?」

「いいえ、彼は予測で喋っているだけです」

「予測ッ!?」

「ええ、こと人に対する観察能力で、彼を上回る人材はプロデューサー科にもいないでしょう」

「えぇ……それって人間なんですか?」

「へぇ、すごいのね。見透かされているような気はしていたけれど、そこまでとは思わなかったわ」

 

 とても持ち上げてくれるが、こんなものは人を見続けて歳食えば誰でも身につく能力だ。大した物じゃない。たぶん、数年もしないうちに創には抜かされるだろう。

 そう口にしたくなるが、別のことに興味が向いているので、ギャンギャン騒がしい三人を無視して、孤立したチワワに声をかける。

 

「……泣き顔とか似合いそうな面してんな」

「ひっ!? プロデューサーっ! 助けてっ!」

「月村さん、冗談ですよ」

「笑えませんよっ!」

 

 やかましいな。元気が良いのは良いことだ。

 

「……立ち方を見るに、食える方、と言うよりも食うのが好きで体重が増えやすい。割と欲求に正直なタイプで、成長期にそれが食欲に向いているのは良いことだが、立ち姿から見て取れる程度には体重増加に慣れている。それなら立ち方と歩き方を改善して太り難い体作りをすればいい。バレエとか社交ダンスやってるやつが周りにいたら教えてもらえ。アイドルの立ち方よりもキツイはずだが、力にはなる。日常に少しでも高負荷の運動を取り込め。んで、声の通りは中々。発声には自信があるな?」

「ひっ!?」

「メンタルはクソ雑魚だな……ただ悪いこと指摘されれば悪いと思えるが、人格や個性に対しての中傷は相手の言葉を自分なりに変換して、プラスに捉えられる都合の良い脳みそをしてそうだ。いいね。エンタメ向きだ」

「ぷ、プロ……」

「そして、意思薄弱。だが、それを支えてくれる周りの存在という得難いものを持っているし……悪くないな。もういいぞ」

「ぷ、プロデューサーっ!」

 

 解放した瞬間に、創の方へ逃げて行く姿にほっこりする。

 お宅のワンチャン可愛いね。

 

「月村さん、褒められてます」

「いや、褒められてるって言うかダメなとこ列挙してただけみたいな感じでしたケド……」

「他人に頼れるのも支えたくなるのも立派な才能だ。大切にしろ」

「私はそこまで他力本願じゃありませんっ!」

 

 創の背中越しにこちらを威嚇してきているが、微笑ましい光景でしかない。

 予想では初対面には格好つけて来るタイプだと思っていたのだが、本能だろうか? 慣れない人種に対しては恐怖を感じるらしい。観察されたことはなかったかい?

 俺がニコニコしていると、創がこちらをジッと見つめてくる。

 え、何? 俺なんかやらかした?

 などと思っていると、今度は自分の担当たち一人一人を見て、口を開く。

 

「というわけで皆さん一週間以内に、彼を認めさせてください」

「難題過ぎるっ!!」

「次のライブまでに時間がありませんから」

「無理ですって! そもそも、あたしなんて何も言われてないんですけどっ!? ただお金関係のアドバイス貰っただけじゃんっ!」

「大丈夫です。興味ない相手にはアドバイスをしないどころか、話しかけられるまで存在すら感知しませんから」

「どういう人間性なのよ……」

 

 声かけられたら話をするだけいいだろ。

 それに流石に仕事相手に対しては興味のあるなしとか関係なく、普通に接するしそうしていたんだけど。

 俺、人とコミュニケーション取ること自体は好きだし。

 

「まあ、あんまり難しく考えんなよ。おもろければいいだけだって、お前らが」

「それが難しいって言ってるんですけどっ!?」

「明確なゴールラインが見えないから、流石のわたしもことねと同じ意見よ」

「私は単純に嫌いです!」

 

 酷い言われようである。

 

「つっても、面白さの定義なんて十人十色だし一言でこうだっ!って言えるもんじゃねえんだよ。別に笑わせろってんじゃねえんだから、さっき創も言ってたろ、個性みたいなもんだって。それでも、上手く飲み込めないってなら、そうだな……」

 

 少し考えて、それから三人それぞれを見る。

 

「例えば、藤田。お前は可愛い」

「へあっ!? ぷ、プロデューサーっ! この人急になんか言い出したんですけどっ!」

「すぐに大人に助けを求めるな。ちょっとは俺と会話しようとしろ」

「うぐっ……」

 

 まあ、女の創がプロデューサーやってんなら、今は身近なところに俺と同じぐらいの年の異性がいないのだろうし、無茶を言っている自覚はある。

 にしても、率直な褒め言葉がかなりちゃんと刺さるタイプらしい。褒めて伸びるタイプだな。

 

「お前のその可愛らしさは武器だが、それ以外は武器足りえないとお前は思うか?」

「えっと、どういうことですか……?」

「内に秘めた腹黒さ、銭ゲバ的な側面、どう考えてもコミュ力の足りてない他のメンバーと比べて、圧倒的に他者との関係構築に慣れているところ。そこに至るまでに経験してきたであろう人生の全て、今のお前を形作った過程その全てが、お前自身の魅力だ。そして、それは表面的に見ただけではわからないお前の深い根っこの部分に繋がる。前にあげた三つとも違うお前という人間のそういった表面を支える『本当のお前』を俺は知りたい」

 

 そして、こう思う。

 その『本当』を出せる人間が、面白くないはずがないのだ、と。

 ま、つまるところ人間みんな面白さって素養は持ってるはずなんだ。

 問題は誰しもがどこかで、その面白さを隠してしまうことなんだが……

 なんて、一人でうんうん頷いていると、顔を真っ赤にした藤田が訝し気な目でこちらを見ている。

 

「……ひょっとして、口説いてます?」

「待て、なんでそうなる?」

「今のでなんでそうならないと思ったのかしら。プロデューサー、わかる?」

「元よりそういう人間です。誰に対しても同じ状況なら同じことを言いますよ」

「女の敵……プロデューサー、私やっぱりこの人嫌いです」

 

 おかしいだろそれは。

 

「いや、別に変な意味じゃねえよ。つーか、口説かれてえなら十八になってアイドル辞めてこい」

「その辺の感性は常識的なのね」

「やかましいぞ、ベビーフェイス」

「そのベビーフェイスっていうのやめてくれるかしらっ!?」

 

 別に悪口じゃねえんだけど。いいだろ童顔。

 可愛いし。それに……

 

「お前はその顔で、その強気で図々しいところがギャップあっていいよな」

「そ、そう? えへへぇ~」

 

 ちょろ。

 そんな風に脱線し続ける主題に、痺れを切らしたように幼馴染殿がため息を吐いて注目を集め、口を開く。

 

「……ともかく、そういうわけなのでしばらくの間、彼と関わることになります。ついては、より交流しやすくなるように、イツキくん」

「え、何?」

 

 なんだか嫌な予感がして、呼ばれた名前に反応すると彼女は能面のようなその顔をにっこりとゆがめて言った。

 

「貴方には、しばらく私たちの過ごすキャンパスに常駐してもらいます。もちろん、学園長からは許可を貰っているので」

「貰っているので、じゃねえんだけどっ!?」

 

 何当然の顔で、とんでもない面倒事を口にしてるんですかねっ!!

 

「どういうつもりなんだ、あの人ッ!!」

「さあ、それはわかりません。能力のあるものを遊ばせておく余裕はないとか、元々東雲イツキはアイドル科専属のクリエイターとして雇うつもりだったとかで、単位の心配はしないでいいそうですよ。もちろん、引き受けてくれるならの場合ですが」

 

 それと、と彼女は笑みをさらに深めて、口を開いた。

 

「もしも、一年以内に映像で成果を出せなければ貴方はプロデューサー科に強制転科だそうなので、どうにせよ、それまでにお目当てを見つけて撮影をするか、大人しくプロデューサー科に転科するか、そうでなければ退学するか……どれかを選ぶことになりますね」

「……はァッ!?」

 

 初耳なんだがッ!?

 

「なんだそれ、そんなことが許されていいはずが……」

「……イツキくん、入学前に十王学園長とは直接会っていますよね?」

「あるが、それがなんか関係あんのかよ」

「その時、貴方は一つの書類にサインしたはずです」

「……したな。つっても、ありゃ奨学金受け取るために必要なもので」

「……それだけのために、わざわざ? わかっているはずです。問題のない実績があり、活躍も目覚ましく、特筆すべきような問題行動もない貴方に学園長自らがわざわざ面談をする必要などどこにもない」

 

 いや、まあそりゃ俺も思ってたけど……

 

「イツキくんがよく確認もせずサインをした書類には貴方が学園に籍を置いている限り甘受できるありとあらゆる恩恵の他に、こうも書かれていました」

 

――在学一年目に一定の成果をあげられない場合、学園長の名の元にもっとも相応しき学科へと転科することが出来る、と。

 

「……なんだそれ」

「えっとぉ、自分でサインしたんですよね?」

「あー、まあ、そうだな」

「この感じ、自分が何を許されてるのかも理解していなさそうだけど……」

 

 ベビーフェイスはなみの言う通りである。

 学園生活や奨学金に関わる書類だからと言われて、よく見もせずサインをしたんだが……

 そうか、恩恵なんてあったのか。

 

「馬鹿なんですか」

 

 チワワが厳しい。

 

「え、プロデューサーとか絶対に嫌だが。他人の人生に責任持ちたくねえし」

「言っていることがクズのそれね」

 

 うっせ。

 いいだろ、別に。

 

「つまり、プロデューサーになりたくない、しかし大学も辞めたくはない。ですよね?」

「まだ学び足りないことがあるからな」

「では、撮りたい、作りたいと思うものを探すしかないでしょう。ドラマ、映画、あるいはアニメでも構わないし、ゲームだっていい。そして、もちろんMVだって選択肢の一つです。なればこそ、貴方は原石の宝庫である初星学園高等部の学舎で輝く原石たちに関わっていくべきだ、そうは思いませんか?」

 

 言わんとしてることはわかるが……

 

「なあ、それって結局のところ、そういうことだよな?」

「そういうことです」

 

 そっかぁ……

 

「クソがッ!! 結局、労働じゃねえかッ! 俺は勉学と自己研鑽という名のモラトリアム過ごしに大学来てんだよッ!!」

 

 前世はバイトとバイトとバイトプラス緊急事態宣言で、勉強と課題制作と自主制作以外は学生らしいことなんも出来なかったんだぞッ! 知見を広げるための種々細々をまた捨てろってのか!! ざっけんな!

 

「ひっ、急におっきな声出したっ!」

「えぇ……あの、プロデューサー、この人ってひょっとしてなんですけど……」

「ことね、わかりきったことを聞くのはどうかと思うわ」

 

 うるせえうるせえっ!

 

「俺は表現がやりたいんであって、仕事がしてえわけじゃねえんだよっ!!」

 

 呆れる三人の目と、いつも通りの俺に安堵したような創の視線。

 そんな二種の感情を一心に浴びながら、俺は叫んだ。

 

「がっっでむ!!!」

 

 どうにもならない現実に、吠える。

 そんなことをしても意味がないことはわかっていた。

 つまるところ、大人しく創の提案を受け入れるしか、俺に残された道はなかったのである……

 

 




続いたらRe:IRIS中心にヒロ・シノサワと一番星、プロデューサー辺りと絡む予定。
続くかは知らないっす。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。