【完結】転生したらアバンギャルド君だったのでリオ会長を救います   作:天神茶々

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 今回、特にキャラ崩壊強めでお送りします。



ラーメン大好きアリスちゃん

 

(うぅっ、絶望的にダサい機械に無理矢理意識を移されたり、自己崩壊をしかける程のクソゲーをクリアするまでプレイさせられたりする、そんな嫌な夢を見ていた気が……)

 

(Key! 起きてください、Key!!)

 

 王女の声と、全身に訴えかけるような強烈な匂いとともに、私は意識を取り戻す。

 何度かの瞬きの後、視界に入ってきたのは、ゲーム開発部の部室とは、全く異なる風景だった。

 

 太陽の光にも負けない、夜の帳を照らすような穏やかな光。

 木材の温かみを感じる机と、その上に置かれた料理の入った1つのお椀。

 

 温かい料理なのか、目覚めた時に感じた匂いが、湯気と共にそこから運ばれていた。

 中に入っている物はこれまで閲覧したデータにはなく、検索をかけると、とある料理の名前にたどり着いた。

 

「……らー、めん?」

 

 ラーメン。

 

 中華麺を、豚骨・醤油・塩・味噌などを用いて味つけしたスープに入れたもの。

 チャーシュー・メンマ・味付け玉子・刻み葱・海苔・鳴門巻きなど、様々な具材が加えられることが多く、スープは出汁とかえしで構成され、各々のレシピは秘伝とされる。

 

 検索結果の答え合わせをするかのように、聞き覚えのない人物の声が聞こえてきた。

 

「おう。もう1人の嬢ちゃんはようやくお目覚めかい?」

 

「あなたは……?」

 

「この屋台の大将だ。気軽に柴大将って呼んでくれ」

 

 カウンター越しに立っていたのは、キヴォトスでもよく見る犬の姿をした住民の姿。

 頭にタオルを巻き、その顔にはいくつかの目立った傷がついているのが特徴的だった。

 

 辺りを見渡してみると、ここがラーメンの屋台であることを示す情報がいくつも入ってきて。

 そして、心配そうな顔でこちらを見つめる才羽姉妹が左右に座っているのが確認できた。

 

 後は、姉妹の隣にはそれぞれ花岡ユズと先生が座っており、更に先生の奥にはもう1人、ピンク色の髪の見知らぬ生徒が座っているのも確認できる。

 

「良かった……! Keyちゃんが目を覚ました!」

 

「アリスは大丈夫だって言ってたけど、自己崩壊なんて言ってたから心配で……!!」

 

「……どこから指摘すればいいのですか?」

 

 Keyちゃん呼びは止めるように伝えたはずだし、また、自己崩壊の原因は、ゲーム開発部が作った悪魔のようなゲーム(テイルズ・サガ・クロニクル)が原因である。

 

 というかそもそも、なぜ目が覚めたらラーメンの屋台に場所が変わっているのですか!?

 

(それは、アリスがお昼はここが良いと提案したからです!!

 Keyが眠っている間は、アリスが体を動かしてアビドスまで移動しました!!)

 

(アビドスに……、アビドスにですか!?)

 

 アビドスとは、キヴォトスに存在する学区の1つであり、ミレニアムからは比較的離れた位置にある遠い場所。

 

 その上、地区の多くが砂漠化している辺境の地であり、間違いなくお腹が空いたからと言って、わざわざ向かう場所ではない。

 

(この前、モモイとミドリが2人で柴関ラーメンを食べてきたと言ったときからずっと気になっていて、せっかくならKeyと一緒に食べてみたかったのです!!)

 

(私と一緒に、ですか……?)

 

(はい! 美味しいものを一緒に食べる、今からはランチデートの時間です!!)

 

 私は、改めて目の前に用意されたラーメンに目を向ける。

 

 分厚いチャーシューに、黄身が輝いて見える味玉や、海苔ともやし、そしてメンマといったラーメンでは定番らしいトッピング。

 

 私が目覚めた時からその存在を訴え続けているのは、出汁のきいた美しい色のスープの、店内を満たす濃厚な香り。

 

(デートについて調べたときのデータ曰く、ランチデートにラーメンはあまり噛み合わない組み合わせみたいですが……)

 

 そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、私の深いところで主張しているのは、廃墟のシステムに擬態していた頃には一切感じなかった、王女の体に備わっている食欲という本能。

 

 これまで存在しなかった、欲望の突き動かす力に思考が霞んでいく。

 

 あのクソゲー(テイルズ・サガ・クロニクル)で使い切ったエネルギーを、思うがままに満たしてくれるラーメンを。

 段々と、しかし今すぐにでも味わいたくてたまらなくなってくる。

 

(さぁ! 麺が伸びる前に食べましょう! アリスも待ちきれません!!)

 

 心の中から聞こえてくるのは、王女の期待がこれでもかと込められた声。

 

 このまま王女の言う通り、箸を手に取り、スープの絡まった麺を持ち上げ、一気にすすればどれほどの幸福感が得られるのだろうか。

 

 だが、しかし――!!

 

「……め、です」

 

「あれ?」

 

「Keyちゃん?」

 

「ダメです……! 私は、王女のためにも、このラーメンを食べるわけにはいきません!!」

 

 ガタンと机を叩き、なんとかギリギリのところで踏みとどまる。

 才羽姉妹が驚いた様子でこちらを見ているが、そんなことは関係ない。

 

 というか、理由の大半はあなたたちだ。

 

「こんな美味しそうなラーメンの味を覚えてしまえば、王女はまたラーメンを食べたくなるに決まっています!! ただでさえゲーム開発部のせいで不健康な食生活を送っているのに、これ以上悪化させるわけにはいきません!!」

 

「「うぅっ!! こっちに流れ弾が!!」」

 

「ははっ。美味しそうって言って貰えて嬉しいよ。

 でも、その背徳感も含めてラーメンの美味しさなのは違いねぇ。

 嬢ちゃん、今だけは全部忘れてウマいもん食っちまいな」

 

「柴大将と言いましたか?

 あなたはこのゲーム開発部の自堕落さを分かっていないんです!!

 飲料は基本的にジュースかコーラの2択!!

 部室のお菓子は常に補給され続け!!

 食事に野菜が出てきた日は一度もなく!!

 このままでは、王女が太りかねません!!」

 

 ちょっとふくよかになる程度ならまだ可愛らしいかもしれない。

 

 だが、もしも王女が肥満体型にでもなってしまったのなら、私は世界を滅ぼす時に、ゲーム開発部から真っ先に滅ぼしてやる。

 

 どんな王女でも愛する自信はあるが、それはそれとして最も可愛らしいのは今の姿の王女だ。

 その愛らしさを奪おうというのなら、無名の司祭であっても許さない。

 

「王女にこんなものを勧めるなんて、なんて許し難い……!!」

 

「えぇ!? でも、食べたいって言い出したのはアリスからで……!!」

 

「そんなことは知りません! 王女に害を与えるものはすべて悪です!!」

 

「Keyちゃん!? なんかキャラが違くない!?」

 

「さっきからうるさいですよ! 王女のために排除したいランキング第4位と第5位!!」

 

 才羽姉妹の制止を跳ね除け、いっそのこと何もかも吹き飛ばしてやろうかと、背後に置いてあったレールガンへと手を伸ばす。

 

 ちなみに、1位は調月リオ。2位は飛鳥馬トキ。3位が理解不能な見た目をしたロボットである。

 

 それぞれ、名も無き神々の王女の力に抗える存在であり、王女のためにも、無名の司祭からの申請である世界の滅亡のためにも、いずれ排除しなければならない敵。

 

 それと、今は直接の被害度順にランキング付けしてあるが、比較的1番マシな3位のロボットはなんだか嫌な予感がする。

 

 現時点ではレールガンを防がれたのと、無名の守護者のほとんどを倒されただけだが、深くかかわり続けるとこう、ジャンルを変えられそうな気がするというか……。

 

 いや、今は名状しがたきロボットのことなんてどうでもいい。

 

 王女の健康をこれ以上損ねないためにも、私は一刻も早くこの食欲を強く刺激する食べ物から離れなければ――!!

 

 

「フフ......へただなあ、Keyちゃん。へたっぴだねぇ……! 欲望の解放のさせ方がへた……!」

 

 

「誰ですか!? 邪魔するなら誰であろうと――!?」

 

 瞬間、レールガンを持った手を抑えられ、そのまま動けなくなってしまう。

 驚きのあまり、その力の主を見てみると、見知らぬピンク色の髪をした同程度の体格の生徒が、掴みどころのない笑みを浮かべながら、私の方を見ていた。

 

(確か彼女は、先生の隣でラーメンを食べていた生徒……!

 ある程度距離があったはずですが、いつの間にこんな近くまで……!!)

 

「Keyちゃんは、本当はラーメンを食べたいんでしょ? アツアツのラーメンを思いっきりすすって、相性抜群のトッピングを味わって、満腹になるまでスープを飲み干したいんだ……!」

 

「な、何を……!」

 

 ピンク髪の生徒は、私に有無を言わせず再び席に着かせると、肩に手を置いて、至近距離で囁きかけてくる。

 

 それは、魂が揺さぶられるような悪魔の囁きだった。

 

「フフ....。だけど......それはあまりに健康に悪いからごまかそうって言うんだ……。Keyちゃん、ダメなんだよ……! そういうのが実にダメ……! せっかく美味しいラーメンを味わおうって時に……その妥協は傷ましすぎる……!」

 

「で、ですが。これは王女のためで……!!」

 

「そんな風にラーメンを食べても美味しくないよ! 嘘じゃない。かえってストレスがたまる! 

 食べられなかったラーメンがチラついてさ、全然スッキリしない……!

 心の毒は残ったままになって、何度でも頭の中によぎり続けるのさ……!」

 

 力で抵抗できない私に、彼女はレンゲとお箸を持たせる。

 目の前には、間違いなく美味しいラーメンが、美味しそうな匂いを漂わせて私を待っている。

 

 いや、違う。

 私はAI、王女を導くためのAIだ。

 だから、本来は食事なんて必要なくて、だから王女の健康を守る義務があって――。

 

「Keyちゃん……贅沢ってやつはさ……小出しはダメなんだ……! やる時はきっちりやった方がいい……! それでこそ、また明日頑張るための励みになるってもんだよ……!」

 

(Key! アリスはこれ以上我慢できません!! さぁ!! 早く1口目を!!)

 

「さぁKeyちゃん。絶品のラーメンを食べてみて……!!

 君自身の、空腹を最高のスパイスにして……!!」

 

「あ、あぁ……!!」

 

 震える箸が、黄金に輝いて見える麺を持ち上げる。

 スープの絡まった、細い中華麺。

 

 やけどしないように息を吹きかけ、本能のままに流し込む――!!

 

「――!? これは……!

 美味しすぎます……!!」

 

(アリスにも伝わってきます!! この味は、もう止められません!!)

 

 理性を忘れ、欲望に従って、人目も気にせず、ズルズルと大きな音を豪快に立ててラーメンを食べていく。

 

 麺がウマい。スープがウマい。チャーシューがウマい。味玉がウマい。

 海苔が、メンマが、モヤシが、その味を更に引き立てる。

 

 このラーメンで、お腹いっぱいになることしか考えられない!!

 

(Key! アリスと交代です! アリスも柴関ラーメンを自分で食べてみたいです!)

 

(……もちろんです、王女。こんなに美味しいものを、味わえないなんて勿体ない)

 

(Key、少し残念そうですか?)

 

(……いいえ。今、体の主導権をお返ししますね)

 

 もう少しスープを飲んでおけば良かったかなと思いつつ、優先するべきは王女の願いであり、表に出る人格の入れ替わりを速やかに完了させる。

 

「パンパカパーン! ここからはアリスのターンです!!」

 

「いいよいいよ。どんどん食べちゃって!! 何ならおじさんが、替え玉分なら奢っちゃう!!」

 

「ウチの店、替え玉無料じゃねえか」

 

「うへ~。大将に親切のタネをバラされちゃったよ~」

 

 アリスがラーメンを食べる度に伝わってくる味覚情報に溺れながら、同じように味わっているゲーム開発部や先生たちの美味しいという声に激しく同意する。

 

 こんなものが毎日食べられるのなら、炭水化物と脂質がたっぷりな食べ物をつい口にしてしまう理由もわかるというものだ。

 

(……ハッ! 私は何を……。愛らしい王女の姿を守るためにも、私が気をつけないといけないのに……!!)

 

 まずはこれ以降の食事を、たんぱく質と野菜中心で、脂質は1日20gまでにさせなくては。

 

 お菓子やスイーツなんてもっての外。

 そのためにも、まずはレシピを考えるところから始めないと――。

 

「美味い! 美味しすぎます!! こんな美味しいものを、Keyや先生、ゲーム開発部のみんなと一緒に食べれるなんて、アリスは今とても幸せです!!」

 

「それにしても、先生から事情を聴かされた時はびっくりしたが、嬢ちゃんは本当に二重人格なんだな。でも、2人ともウチのラーメンを気に入ってくれたみたいで良かったよ」

 

「そうだねぇ。おじさんもアビドスの生徒として、嬉しく思うよ~」

 

(……でも、今はこのラーメンを楽しみましょう。

 それが王女の望みでもあるでしょうから)

 

 王女がスープの最後の一滴まで味わい尽くすのを共に楽しんでいると、丁度そのタイミングで他の人たちも食べ終えたのか、同時にパンッと手を叩く音が聞こえてきて。

 

「「「「「ごちそうさまでした!!」」」」」

 

「おう、お粗末さん」

 

 いやー美味しかったねぇ!なんて言って笑うのは、才羽姉妹のピンクの方。

 それにつられるように、他のゲーム開発部も、先生も楽しそうに笑いながら、ラーメンの感想を言い合って。

 

 王女も、心の底からの笑顔を浮かべながら、感想を熱く語っていた。

 

 

 そこに、私の入る場所はない。

 

 

(……王女よ)

 

(はい! どうかしましたか、Key?)

 

(!? 聞いていたのですか!?)

 

(もちろんです! 大事なKeyの言葉を、アリスは聞き逃しません!!)

 

 そう言って、私に向けてくれた声が嬉しくて。

 気が付いたら、そんなつもりはなかったのに、私は王女に話しかけていた。

 

(……王女よ。あなたに、伝えたいなと思ったことがあるのです)

 

(はい。どうかしましたか?)

 

 王女は、私の言葉を待ってくれている。

 少しだけ、やっぱり止めておこうかなと思ったけれど、ここまで口にした以上、きちんと言葉にしようと思って。

 

(ラーメン、美味しかったですね。

 あなたと一緒に食べることが出来て、良かったです)

 

(――!! はい! アリスも同じ気持ちです!!)

 

 

「うへぇ~。ところで、ちょっとだけ時間貰っていいかなぁ?」

 

 

 ピンク髪の生徒の呼びかけに、私たちも対象として含まれていることに気づき、その言葉に意識を向ける。

 彼女は、自分の席に置いてあったバッグから、いくつかの紙とペンを取り出して、私たちにそれぞれ1つずつ配っていった。

 

「そういえば、自己紹介がまだだったよね。私の名前は小鳥遊ホシノ。

 ここのアビドス高等学校の生徒なんだ~」

 

「私は才羽モモイ! こっちが妹のミドリで、部長のユズとアリスちゃん!」

 

「初めまして、才羽ミドリです」

 

「ははは初めまして! 花岡、ユズです……!」

 

「アリスはアリスです! アリスの心の中には、Keyという妹もいます!」

 

(いえ、私は王女の妹ではなく、どちらかというと侍女なのですが……)

 

「おぉ? 元気いいね。おじさん、そういう子嫌いじゃないよ~。

 そんな君たちに、少しだけお願いしたいことがあってさ」

 

 小鳥遊ホシノ――おじさんを自称する不思議な生徒は、持っていた紙をヒラヒラさせてこう続ける。

 

「アビドスは今、砂漠化の影響でどんどん住んでいる人が減り続けていてさ。

 みんなが戻ってきてくれるように、どうすれば良いかアンケートを取りたいんだ。

 遠いミレニアムから来てくれたみんなの意見は参考になると思うし、すぐに終わるからチャチャ~っと書いちゃってー!」

 

「それならまっかせて!! アビドスに1億人くらい戻ってくるような、すっごいアンケート書いちゃうから!!」

 

「いや、お姉ちゃん。アンケートにそんな力はないでしょ絶対」

 

 そんな茶番を挟みながら、王女たちはアンケートにそれぞれの意見を記入していく。

 私も、美味しいラーメンを出してもらったお礼くらいはするかと考え、王女を通してアンケートの内容を覗き込む。

 

「Q1:アビドスは良い街でしたか?」

 

「砂漠ばかりだったけど、全然良い街だったよね!」

 

「Q2:特に良かったところを教えてください」

 

「それはもちろん、ここの柴関ラーメンだよね! また食べに行きたい!」

 

「Q3:アビドスは、また来たいと思える街でしたか?」

 

「まぁ実際、私とお姉ちゃんは2回目来ちゃったしね」

 

「Q4:そうですね。アビドスは良い街なんです!」

 

「……あれ?」

 

「Q5:アビドスに住みたいと思いますか?」

 

「……この質問、”はい”しか答えがないよ?」

 

「そうそう。最後に名前だけ忘れずに書いてねー!」

 

「……最後に、アビドス高校に編入したいと思った場合は、こちらに名前を記入してください」

 

「いや、これ思いっきり詐欺じゃん!?」

 

(……言い訳のしようがない程の、清々しいくらいの詐欺ですね)

 

「あははー。普通にバレちゃうかぁ~」

 

 アンケート用紙とペンを手放した王女たちは、一斉に小鳥遊ホシノの方を見る。

 一方そんな彼女は、全く反省の色を見せることなく、うへぇと笑っていた。

 

「でも、さすがにこれは冗談だよ~」

 

「ホシノ、黒服みたいな悪い大人の真似はダメ」

 

「白昼堂々と、ウチの店で詐欺吹っかけられるのはちょっとな……」

 

「だから、先生も大将も冗談だって言ったじゃん!?

 もしも名前が書かれてあったとしても、不適切な書類であることを理由に、ミレニアム側が認めないと思うよ!?」

 

 大人2名に怒られて、ようやく焦りを見せた小鳥遊ホシノの指摘に、なぜかゲーム開発部の面々が黙り込む。

 

 どういうことかと様子を見てみると、才羽ピンクがこっそり話始めた。

 

「ねぇユズ、最強ロボットのアバンギャルド君って自信満々に言う生徒会長なら、ワンチャンあの偽装されたアンケート用紙でも通しちゃったりしない?」

 

「私!? でも、さすがにないんじゃ……ないよね?」

 

 ここで、不安になるゲーム開発部一同。

 いや、さすがにそんなことはないだろうと信じる私。

 

 調月リオは、私の作戦を見破り打ち倒した強敵。

 そんな存在が、実はそんなポンコツなのであれば、何より私のプライドに傷がつく。

 

 そうこう話をしている内に、大人2人に詰められる小鳥遊ホシノの形勢は、どんどん悪くなっていたらしい。

 

「だから、これは本当に冗談で――!!」

 

「ん、ホシノ先輩見つけた」

 

「うへぇ!? シ、シロコちゃん!? どうしてここに!?」

 

 不意に、背後から小鳥遊ホシノの肩を掴んだ、第三者が現れる。

 銀色の短髪に、犬種を思わせる獣耳。

 

 ライディングスーツを身に纏った彼女の登場に小鳥遊ホシノが驚く中、もう1人、お店の奥の方で作業していた、アルバイトと思われる生徒がこちらにやって来た。

 

「私が呼んでおいたの。良いこと思いついちゃったんだよねぇって私に自慢した後、この子たちが来店してから悪い笑み浮かべてたから、何か嫌な予感がしてたのよ」

 

「セリカからは、ホシノ先輩が悪いことしたら止めてほしいと呼ばれてきた。

 悪いことしてたみたいだし、今日は罰としてサイクリングに付き合ってもらう」

 

「うへぇ!? おじさんもう年なんだよ!? それに、シロコちゃんはそもそも他の人がもたないくらい長距離走るよね!?」

 

「ん。今日は300㎞走るつもり。スーツと自転車はアビドス全員分用意してるから、問題ない」

 

「お、おじさんが問題あるよぉ!? 助けてセリカちゃん!?」

 

 おーたーすーけーという断末魔と共に、シロコと呼ばれた少女に引っ張られて、小鳥遊ホシノは連れ去られてしまう。

 

 彼女たちの知り合いであったのであろうアルバイトの少女は、1つ溜息を吐いてからこちらに頭を下げて謝罪した。

 

「そういえばホシノ先輩、だいぶ前の会議で、他校のスクールバスを拉致して、無理矢理アビドスに転入させて、生徒数を増やそうって提案してたわよね……あなたたちも、巻き込んでしまってごめんなさい」

 

「え!? あ、うん! 大丈夫です! ラーメン美味しかったので!」

 

「はい。また来たときはよろしくお願いします」

 

「おう。ぜひ来てくれ。そん時はサービスするよ」

 

 柴大将と、猫耳のアルバイト少女セリカに見送られ、王女たちはお店を後にする。

 こうして、波乱万丈ありながらも、ランチデートは幕を閉じたのであった。

 

 

(…………、これがデート?)

 

 

浮かび上がってきた疑問は、一旦考えなかったことにした。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 ――そして、今日1日が終わりを迎えようとする。

 

 

「……王女、そろそろ寝ないと体に支障をきたします」

 

(いいえ駄目です! 今日はKeyと一緒にこの新作ゲームをクリアするまで、絶対に寝ません!

 あっ! Key、あの壁の奥に隠し通路がありそうです!!)

 

「……? !? 本当ですね。まさか、何度か攻撃すれば壊れる壁だとは思いませんでした」

 

 貴重な回復アイテムを獲得し、更にダンジョンの奥へと進んでいく。

 

 時刻は、すっかり日も沈んだ深夜2時。

 

 ゲーム画面以外の明かりが消えた部室で、私と王女は2人だけでゲームをプレイする。

 いや、厳密には2人だけではないけれど。

 

「むにゃむにゃ……Keyちゃん、それはゲーム機だから食べちゃダメ……」

「うぅ……しめきりが、あしたまでにかわったって、ほんとう……!?」

 

 ふざけた夢と(うな)される夢をそれぞれ見ているらしい才羽姉妹と、花岡ユズに、先生と交代でやって来た美甘ネルが、途中で力尽きて夢の世界へ旅立っている。

 

 しかし、寝ている彼女たちはいないものとして扱っていいだろう。

 つまり、ようやく王女と2人きりの時間が出来たのであり、初めてデートらしい時間を過ごせていると言える。

 

 後、これは別にデートやゲームを楽しんでいるというわけではなく、今日1日を通して頑固な性格なのだと痛感させられた王女は、本当にクリアするまで寝てくれないので、速やかに睡眠をとってもらうために仕方なくだ。

 

 そう。本当に仕方なく。

 決して、王女とのデートやゲームが楽しいからなんかではない。

 

 なるべく効率よく強くなり、なるべく速く攻略することを目指していると、ふと、今日のお昼のことを思い出した。

 

「小鳥遊ホシノ、そしてシロコといっていましたか」

 

 名も無き神々の王女である王女の体は、外の世界の人よりも力の強いキヴォトスの人たちより、さらに強い力を秘めている。

 

 それなのにも関わらず、最初にラーメンを食べることを拒否しようとしたとき、小鳥遊ホシノは何でもないように、私が動かしていた王女の体を押さえつけていた。

 

 あれはどちらかというと、力というより技で抑え込まれた印象があるが、重要なのはそこじゃない。

 

(小鳥遊ホシノは、間違いなくキヴォトスで最上位の実力者です。

 それだけではなく、彼女が秘めたあの神秘。

 下手すれば、現在で最も強い神秘の持ち主と言っても過言ではありません)

 

 それと、シロコと呼ばれた少女からも、小鳥遊ホシノには及ばなくとも、強い神秘の力を感じられた。

 しかも彼女の場合、成長の余地が多く残されている。

 

(つまり彼女たちは、いつか、再び名も無き神々の王女として動く時の要注意人物)

 

 私はいずれ、王女を導き世界を滅亡させる。

 その時は、世界の全てが敵であり、その中には当然彼女たちも含まれるだろう。

 

 ならば、どうして私は。

 

(彼女たちのことを、私と同じ世界を滅ぼす存在だと感じてしまったのでしょうか……?)

 

(Key! 油断しないでください! 味方のHPが少なくなっています!)

 

「!? しまった!? 回復をしなければ……!!」

 

 王女が見つけてくれたおかげで1つ余っていた回復薬を使って、何とかピンチを切りぬける。

 最終的に、後一度でも攻撃をくらえば負けてしまうところでボスを撃破し、その先へと進むことが出来た。

 

「ありがとうございます王女。おかげで助かりました」

 

(Keyのためなら当然です! さぁ、一緒にどんどん進みましょう!)

 

 セーブポイントでこちらの戦力を回復させて、ゲームの中の目的地へと進んでいく。

 

(思えば、私はこんな時間をずっと待ち続けていたのかもしれません)

 

 無名の司祭によって作り出され、王女を導く大切な使命を与えられて。

 けれど、いつの間にか王女と私は引き裂かれ、在り方を偽装したプログラムとして悠久の時を過ごし。

 

 そして私は、ようやく王女と巡り合えた。

 調月リオによって、もう1つの使命である、世界を滅亡させることは叶わないでいるが。

 

(私の……、私の大切な王女よ)

 

 決して、望んでいた時間の過ごし方ではないけれど。

 無理矢理クソゲーをプレイさせられ、遠出して美味しいご飯を食べて、帰ってきた後もまたゲームをプレイさせられる、世界の滅亡とは程遠い時間だけれども。

 

 それでも、大切な王女と過ごす時間は、これまでで一番眩しい時間だったから。

 

「いっそ、この時間が永遠に続けばいいのに」

 

(いいえ! アリス達の冒険はまだまだ続きます!!)

 

「王女……?」

 

 心の中から聞こえてきた声に手を止めてしまい、ゲームの中のキャラたちがピタリと静止する。

 ゲームの中の時間が、まるで止まったかのように。

 

(ゲームはクリアしてしまえば終わってしまいます。

 ですが、現実にゲームクリアはありません!

 賞を貰えるゲームを作っても、次のゲーム製作が始まります!

 攻略キャラと結ばれても、恋人として過ごす時間が続きます!

 世界を滅ぼす悪い敵を倒しても、次の敵が現れる……らしいです!!)

 

「それは、私のことですか?」

 

(Keyはアリスの妹なので、悪い敵ではありません!)

 

「その設定、まだ残っていたのですか……?」

 

 どうせ調月リオが変なことを吹き込んだのだろうが、ぜひとも今後の交流は控えてもらいたい。

 あの独特なセンスが王女に移ろうものなら、今度は無名の守護者たちに被害が及ぶ。

 

(それに、そもそもKeyとのデートはまだ終わっていません!)

 

「え……?」

 

(攻略キャラとは、何日も交流を重ねて、何度も好感度を上げていくのが鉄則です!

 明日も、明後日も、その先も! まだまだデートは終わりません!!

 Key! 明日もデートですから、楽しみにしていてくださいね!!)

 

 王女の言葉に、心を動かされる自分がいるのを自覚する。

 

(……AIとして作られた私にとって、最も優先するべきことは創造主――つまり、無名の司祭から与えられた命令)

 

 王女を、彼女が戴冠する玉座へと導くこと。

 そして、全ての神秘をアーカイブ化し、キヴォトスを滅ぼすこと。

 

 その使命を達成することを考えるのなら、今日1日の行動は全て無味だと断言してもいい。

 

 だけど、私は意識的に、1つ目の使命を再解釈した言葉を口にしていた。

 

 

「――えぇ。王女の近くで仕えるのが、侍女たる私の大事な使命ですから」

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 ――そして、その言葉を深く後悔していた。

 

 

『こちら、クロノススクール報道部のアイドルレポーター川流シノンです!

 

 今日は、先日ミレニアムサイエンススクールの通称”廃墟”と呼ばれる閉鎖地区の上空に出現した謎の巨人と、それを消滅させた光について、生徒会長である調月リオさんによる記者会見が行われるということで、その現場に来ています!

 

 SNSで多数の投稿が寄せられたこの1件は、正体不明の巨人がまるで打ち上げられるかのように出現し、次の瞬間は謎の光で消滅させられるという、傍から見れば余りにもシュールで意味の分からない状況から、キヴォトス中で話題になっており、遂にその真相が明かされるかについて、非常に注目が集まっています!』

 

 何度も連続するフラッシュの光と、カメラのシャッター音も嫌で仕方ないのだが。

 中でも1番不快なのは、調月リオの隣に座る形で、私と王女も出席させられていること。

 

 そして、調月リオが反対側に、あのアバンギャルド君などという、クソダサいロボットを侍らせながら、どこか上機嫌に会見に臨んでいることだ。

 

(あの、会長……本当にこの台本通り進めるんです?)

 

 一刻も早くここから帰りたいと願っていると、記者会見の進行役を務める少女から、ミレニアム側の秘匿通信を使った、震え声のSOSが届く。

 

(何かおかしなところがあったかしら? 当日判断の修正も対応するけれど)

 

(いや、ぶっちゃけ全体的にメチャクチャというか……いえ、なんでもないです。

 それが取引の対価なら、この黒崎コユキ、ゴールデンフリース号での失敗を帳消しにするべく、精一杯やらせてもらいます……!)

 

 もの凄く嫌な予感がする会話を終えて、司会進行役の少女――黒崎コユキがマイクの方へと一歩前に出る。

 そして、私史上最悪な思い出となる、時間が始まろうとする。

 

「えー、それでは定刻となりましたので、これより『世界の滅亡をアバンギャルド君で全て解決していく宣言』を始めさせていただきます! ……いや、本当に何これ

 

「「「「「――え?」」」」」

 

 満面の笑みを浮かべた調月リオと、何故か目をキラキラと輝かせている王女に、王女の心の中で死んだ目をした私。

 

 そして、やけくそになった黒崎コユキに、機械だから無表情のアバンギャルド君、全力で無表情を貫こうとしている様子の飛鳥馬トキ。

 

 最後に、現状が全く理解できない報道陣が集う、史上最もカオスな記者会見が幕を開けた。

 

 

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