【完結】転生したらアバンギャルド君だったのでリオ会長を救います   作:天神茶々

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 コメディ要素が不足しているなと感じたので。
 一旦、休憩がてらの断章です。
 今回は、先生視点でお送りします。
 


断章:ビッグシスター

 

「お待ちしておりました先生。奥の部屋で、リオ様がお待ちです」

 

 スカートの端を摘み、優雅にお辞儀をするのは、とあるメイド姿の少女。

 

 C&Cの5人目のメンバーにして、ミレニアムのトップである調月リオの護衛を務める彼女の名前は、飛鳥馬トキ。

 

 無名の守護者討伐戦では、パワードスーツを装着し、見事な大立ち回りを見せてくれたのが印象に残っている。

 後、あのスーツがめっちゃカッコよかったから、いつかじっくり見せて欲しい。

 

 パワードスーツは、ロマンなんだよ!!

 

 ……と、おふざけはここまでにして。

 

「こちらこそ、迎えに来てくれてありがとう」

 

「いいえ。本来はお願いする立場である私たちが、先生の元を訪ねるべきなのですが……」

 

「ミレニアムには、みんなの様子を見に来ることが多いから、こっちの方が都合がよくてね。

 だから、全然気にする必要はないよ」

 

「お気遣い感謝します」

 

 実際、ゲーム開発部の皆から遊びに誘われたり、特異現象捜査部――現勇者部の調査に同行したり、その他、生徒の個人的な呼び出しがあったり。

 

 普段は他の学校も満遍なく訪れることが多いが、最近は特にミレニアムに足を運ぶ機会が増えていた。

 おそらく、アリスとKeyの問題が片付くまで、この状況は続くだろう。

 

(2人の関係が、上手くいくと良いんだけど……)

 

 今思えば、まさかゲーム開発部の廃部を防ぐため、ゲームを作るノウハウが詰まったデータG.BiBleを探すところから始まった騒動は。

 

 廃墟の奥で眠る1人の少女――後に天童アリスと名付けられる少女との出会いが、まさか世界の滅亡を引き起こすかもしれない問題にまで発展するなんて、夢にも思わなかった。

 

 しかし、あの無名の守護者による巨人の姿を見せられれば、しかもそれが、敵の末端でしかないと言われてしまえば、世界の滅亡も信じざるを得ない。

 

 そして、そんな超巨大規模の敵の存在を事前に察知し、乗り越えようと戦う彼女たちに私は、今まで出会ってきた生徒たちとは違う種類の、尊敬に近い感情を抱いていた。

 

「わざわざ足を運んでもらったお礼になるかは分かりませんが。

 本日は完璧で究極なメイドとして、最高のエスコートをさせていただきます。ブイ」

 

「……えっと、誰もが目を奪われるくらい似合ってるよ?」

 

「良いですね。素直に褒めてくれる人には、トキちゃんポイントを差し上げます」

 

「貯まると、何かあるの?」

 

「いいえ、特には」

 

「特には」

 

「はい。特には」

 

 クールな無表情でピースサインを作るトキと、特に中身のない会話を行った後、彼女の案内に従って、ミレニアムの校舎を進んでいく。

 

 校舎棟の階段を使って2階に上がり、そこからエレベーターを使って4階に移動。

 しかし、4階では下りずに扉を一度開閉させた後、ボタンを押して3階に移動。

 そして、同じ様に開閉後に1階へ移動して同じことを繰り返すと、今度はボタンを押していないにも拘わらず、エレベーターがひとりでに動き出した。

 

「トキ、これは一体……?」

 

「今からご案内するのは、リオ様がミレニアムに秘密裏で用意した隠れ家の1つとなります。

 リオ様は用心深い方ですので、そもそもこの場所を知る方さえごく僅かです」

 

 やがてエレベーターが止まり、階数を表示するモニターにB5という文字が浮かび上がる。

 

 それは、エレベーター内のボタンになかった階数。

 恐らく、さっきの順番でエレベーターを移動させると、秘匿されたB5階へと移動する仕組みなのだろう。

 

 開かれた扉の先には、ミレニアムの校舎とは一風変わって、一面真っ白な通路だけが広がっていた。

 

「この地下通路も、万が一侵入者が現れたときのために、非常に複雑な迷路となっております。

 一度迷ってしまえば、誰かからの救援がない限り脱出は不可能ですので、決して私から離れないようにしてください」

 

「凄いセキュリティ意識の高さだね……」

 

「はい。定期的にリオ様本人からSOSが届くので、安全性に関してはばっちりです」

 

「なるほど……いや、ちょっと待って?」

 

 今、とてもおかしな状況について触れられていなかったか。

 

 そう思ってトキの顔を見てみると、それが何かと言いたげな表情で見つめ返される。

 

「この地下通路は、関係者に渡された専用の地図アプリでのみ、ルートが記載されています。

 そして、リオ様は地図を読むのが苦手です。これで分かりましたか?」

 

「分かったけど分からない! どうして利用する本人が迷っちゃう仕組みを作っちゃったの!?」

 

 確かに、侵入者が来てしまった時には有効かもしれないが、それで利用者が迷ってしまえば本末転倒ではないか。

 

 そう指摘すると、トキは私の目を真っすぐ見つめ返しながら、ある1つの問いを投げかけた。

 

「先生、正直に答えてください。

 あなたは今、リオ様がどういった人物であるというイメージを抱いていますか?」

 

「リオに対しての、イメージ……?」

 

 トキの質問に、リオと出会ってからこれまでに関わってきた時のことを思い出す。

 

 ゲーム開発部とヴェリタスが発見した機械を見に行って、Keyが目覚めた時のこと。

 廃墟に出現した、無名の守護者の巨人を共に倒した時のこと。

 それ以外にも、アリス達の様子を見に来た時に、たまたま出くわして言葉を交わした時のこと。

 

「そうだね……ミレニアムの生徒会長というだけあって、リーダーシップを強く感じるかな。

 指揮官として、世界を守るために最前先に立っているイメージかもしれない。

 たまに、頭脳明晰なのに天然なところが目立つけれどね」

 

「残念ながらその逆です。リオ様は、たまたま頭脳明晰なだけのポンコツ幼女です」

 

「えぇ……」

 

 というか、幼女とは一体……?

 

 果たして、本当にトキはリオの護衛なのか。

 到底、彼女の安全を守る立場とは思えない発言に、私は困惑を隠しきれなかった。

 

「ところで先生。リオ様が、ミレニアム生から何と呼ばれているか知っていますか?」

 

 下水道を流れる水、浄化槽に浮かぶ腐った水……。

 

 いや、これはヒマリが過去にリオについての文句を口にしていた時に出てきた言葉だ。

 

「確か、ビッグシスターだっけ」

 

「その通りです。

 そしてその意味は、世話のかかる大きな妹(ビッグシスター)です」

 

「……トキさん?」

 

 さらなる追撃に、私の脳が緊急停止。

 しかし、トキの不満の爆発はここで終わらなかった。

 

「リオ様はとても頭脳明晰な方ではあるのですが、同時にかなり天然な方でもあります。

 特に、ありとあらゆるセンスというものが他人と非常にズレています」

 

「いや、まぁ……そう思うことは何回かあったけれど……」

 

「それに、リオ様は頭脳労働以外のことが基本出来ません。

 食事、洗濯、掃除など、ありとあらゆる家事は私とアバン様の仕事です」

 

 おそらく、私たちがいなくなれば相当生活に苦労することになりますとはトキの談。

 

 食事はスーパーやコンビニで売られているお弁当。

 

 しかも、夜間の割引価格で、好物の揚げ物ばかり食べて、ゴミ出しをサボり続けた果てに、見るに堪えない汚部屋を生み出すでしょうという、やけに具体的なイメージが彼女から語られる。

 

 私から見た、これまでの彼女の様子からは想像できなかったけれども。

 なぜか、トキの予想図がどうしてもその通りになるとしか思えなかった。

 

「リオ様に仕える時の心構えは、ずばり子守りです。

 17歳児を相手していると思って接するのがコツになります」

 

「……本当に、トキはリオのボディーガードなの?」

 

「はい。ボディーガード兼、パーフェクトメイドです」

 

 そう言って、トキは地下通路の奥へと進んでいく。

 私も、置いて行かれて迷わないように、その後ろに着いていった。

 

 無言の時間が続いたが、しばらく経ってからトキが再び口を開いて。

 

「先程は、リオ様を酷評させていただきましたが。

 私はむしろ、それがリオ様の魅力だと思っています」

 

「いや、散々なこき下ろし具合だったけどね!?」

 

「愛ゆえの言葉です。ピースピース」

 

 愛は、何を発言しても許される免罪符ではない。

 

 そのことを教えようかと真剣に考えていると、トキはその心の内をそっと打ち明けてくれた。

 

「たとえ不相応だと分かっていても、それでも世界を守るために頑張る姿に惹かれて、私とアバン様は、リオ様と共に歩むことを決めたのですから」

 

「……そっか。本当にリオのことが好きなんだね」

 

「はい。世界で一番リオ様を愛しているのが、私とアバン様ですので」

 

 その後、トキの惚気話を聞きながら、地下通路を歩くこと約10分。

 

 通路と壁以外に何もなかった白い空間に、1つの扉が現れる。

 トキがパスワードを打ち込むと、自動で扉が開かれた。

 

「失礼します、リオ様。先生をお連れしました」

 

「ありがとうトキ。そして、先生もここまで足を運んでもらって感謝するわ。

 2人とも、そちらの椅子に座ってちょうだい」

 

 部屋の中にいたリオに促されて、私とトキはちょうど空いてあった椅子にそれぞれ座る。

 これまでの道から、てっきり部屋も白を基調にしたシンプルなものを想像していたが、決してそんなことはなく。

 

 黒を基調とした暗めの部屋に、ロボットを作るための設備や道具の揃えられた、SF映画で見るような秘密基地風の部屋に仕上がっていて。

 

 そして、先程までリオが作業していたであろう場所には、幾つものモニターと、その上に表示されていた、アバンギャルド君らしき機体の設計図が書き込まれていた。

 

「リオ、あれは――?」

 

「それに目を付けるとはさすがはシャーレの先生ね。

 一目見て、この設計図がアバンギャルド君の新たな姿だと気付くなんて」

 

「え……? いや、うん」

 

 ただ気になったから聞いただけなのに、なぜか、もの凄く拡大解釈されたことに困惑する私。

 

 しかし、リオの目がもの凄くキラキラしていて、今にも話したくて仕方がないという表情をしていたので、深くはツッコミを入れないことにした。

 

「元々、水面下で構想を練ってはいたのだけれど、おそらく必要になると思ったから、遂にアバンギャルド君の更なる強化機体を完成させることにしたの」

 

「今でも、キヴォトスで屈指の強さだと思うけれど……」

 

「いいえ、先生。まだアバンギャルド君には、足りていない機能があるの。

 だからこそ、私はこの機体を完成させなければならない」

 

 果たして、何がリオをそこまで駆り立てるのか。

 

 返ってきたのは、もしもこの場にエンジニア部がいたら、強く握手を交わしていたであろう、ロマンに溢れた答えだった。

 

 

「次のアバンギャルド君は――空を飛ぶわ

 

「――飛ぶの?」

 

「えぇ、飛ぶわ。前衛的(アバンギャルド)でしょう?」

 

 

 その時のリオの表情は、かつて無名の守護者と戦う前に、あの作戦名を口にしたときと同じものだった。

 絶対的な自信を持った、一片の曇りもない眩い表情。

 

 ふと気になってトキの様子を伺ってみると、17歳児でしょと言わんばかりの表情をしていた。

 

 

 ――私は、何も見なかったことにした。

 

 

「さて、そろそろ本題に入りましょうか」

 

 どこか浮かれた様子から、一度咳払いを挟んで、真剣な表情に戻ったリオが、真面目な雰囲気でこれからの話を進めていく。

 

 しかし、私はさっきの浮かれリオの印象がどうしても拭えず、半分困惑の気持ちを抱えたまま、彼女との会話に臨んでいた。

 

「実は、Keyが目覚めたあの日よりもずっと前に、先生のことは調べていたの。

 アビドス自治区の、カイザーによる陰謀の告発。

 エデン条約の、アリウスによるテロの鎮圧。

 そして、アリウス生徒会長――ベアトリーチェによる儀式の阻止。

 生徒では太刀打ちできない幾つもの危機を、あなたは何度も救ってきた」

 

「……ベアトリーチェのことは、公表してなかったはずだけど」

 

「科学技術最先端を誇る、ミレニアムのトップを舐めないでちょうだい。

 とはいっても、これに関しては()から教えてもらったことなのだけれど」

 

 彼――リオがよく一緒にいるアバンギャルド君のことだろうか。

 それにしては、リオの表情が少し不機嫌に見えるような気もするが。

 

「それ以外にも、山海経や百鬼夜行、レッドウィンターといった多くの学園のトラブルに介入し、その全てを解決していって――生徒からは、あなたを絶賛する声が相次いでいるわ」

 

「そんな凄いことはしていないよ。ただ、困っている生徒たちに少し手を貸しただけだから」

 

「その美徳も、あなたが生徒たちから好かれる理由なのでしょうね」

 

 リオからの賛辞に少し照れくささを感じながら言葉の続きを待っていると、彼女が私に告げたのは、少々予想外の言葉だった。

 

「そんなあなたを見込んで、どうしてもお願いしたいことがあるの。

 どうしても話をしたいと思っている、とある生徒を先生経由で紹介して欲しい。

 私から直接連絡してしまえば、警戒心の強い彼女との話し合いは、間違いなく失敗すると思うから」

 

「別に構わないけれど……それって誰のことなの?」

 

 リオがわざわざ、私を通さないといけない生徒。

 

 これまで関わってきた生徒たちの中で、そんな気難しい子なんていただろうかと思い返していたその時だった。

 

 

「その生徒の名前は■■■■■■」

 

 

「――彼女にかい?」

 

「えぇ。つまり、彼女が所属する■■■■■■■■と話をしたいのだけれど……どちらにせよ、彼女を説得できないと、どこかで捻じれて歪んだ終着点へとたどり着いてしまうでしょうから」

 

 リオの口から発せられたのは、とある意外な生徒の名前。

 彼女が、その生徒と接触を図ることは、何も問題はないと思う。

 

 しかし、リオが発した、捻じれて歪んだ終着点という言葉。

 その言葉に私は、どこか不吉な予感を拭うことが出来ないでいた。

 




 次回、再び勇者部のお話に戻ります。
 リオが誰と話をしたがっていたのかは、もう少し後のお話で。
 
 時系列的には、
 勇者部設立
 ↓
 アバンギャルド君とウタハの邂逅
 ↓
 断章(今回の話)
 ↓
 迷子の捜索願い

 といった感じです、
 
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