【完結】転生したらアバンギャルド君だったのでリオ会長を救います 作:天神茶々
――以下、捜索の依頼主であるロボ職員さんとのやり取りである。
『マモリちゃんはね、私たちの施設でも特に可愛らしい子でね。
お姫様みたいに可愛いから施設の人気者で、この写真とかほら見て!
フリルの可愛らしいお洋服が売ってあるのをたまたま見つけたから、つい買っちゃって!
マモリちゃんに着てもらったのだけれど、これがもう本当に似合ってて!!
まるで本物のお姫様でしょう? 白馬の王子様が迎えに来るレベルよ!』
『……まるで、アバンギャルド君が絡んだ時のリオみたいですね』
『? 私はこんな感じじゃないけれど……?』
『いえ、リオ様は大体こんな感じですよ』
『トキ!?』
そんな一幕を挟みながら、職員さんへの事情聴取が行われていく。
ちなみに、見せてもらったマモリちゃんの写真は、職員さんが自慢するだけあってかなり可愛いものだった。
というか、キヴォトスに住んでる生徒たちは、みんな美人ばっかりだ。
そんなキヴォトスの中でも、琴ノ葉マモリの容姿は、トップクラスに突出しているように思われた。
さて、そんな琴ノ葉マモリちゃんだが、どうやら何かトラブルがあったようで。
『けれど最近、どうやら反抗期に入っちゃったみたいで……』
『反抗期ですか?』
『えぇ。私たちが用意した服を着るのが嫌だと言い出したり、他の子に問い詰めた話だと、消灯時間を過ぎても起きて、こっそり抜け出す準備をしていたらしくて……』
『今日、勇者部の皆さんのところを訪ねたのも、反抗期に入ってからマモリちゃんが熱中していたのが、勇者部の皆さんの活動が収められた映像を見ることだったので……。
もしかしたら皆さんのところに行ったのではと思ってきたのですが、予想は外れてしまったみたいです』
『どうか、勇者部の皆さまにお願いです。私たちの可愛いマモリちゃんを、見つけてはいただけないでしょうか――?』
そして、突如降って湧いてきた依頼を、勇者部が断る理由もなく。
我々勇者部は、監視カメラやドローンのデータを追うデータ班と、ミレニアム自治区内を実際に歩いて目で確かめながら捜索する実働班に役割を分担。
データ班は、リオとヒマリが。
実働班はアリスのヘルプを聞きつけたゲーム開発部の皆と、彼女たちの保護者的な感じで同行している俺に、それぞれ単独行動のトキとエイミが。
かくして、勇者部&ゲーム開発部の総力を尽くして始まった緊急クエスト、琴ノ葉マモリの捜索開始から、間もなく6時間が経過しようとしていて――。
「どうして……、何も見つからないの……」
「もう疲れちゃって、全然動けなくてェ……」
「もう、無理……!!」
「アリスも、もう限界です……。Key、後はお願いします……」
「!? 待ってください、王女――!?」
以上、ゲーム開発部たちの最後の言葉でした。
アリスと入れ替わる形で表に出たKeyを除き、体力を使い果たしたゲーム開発部の皆が公園のベンチにダウンする。
まぁ、6時間も休憩なしでミレニアムの各地を歩き回り、聞き込みなども行っていたりしたので、当然のことではあるように思えるが。
差し入れに何か飲み物でも買いに行こうかと考えていると、データ班の2人から通信が入ってきた。
『アバンギャルド君、そっちの成果はどう?』
「何もなし。疲労困憊のゲーム開発部と休憩中。そっちは?」
『養護施設を中心に、映像を順番に確認していたのだけれど、琴ノ葉マモリの姿が映ったデータは
『徐々に範囲を拡大していき、
告げられたのは、まさかのリオとヒマリの2人がかりでも成果なしという、異常な報告。
あの天才2人を以てして、何も成果を得られないとは一体どういうことなのか。
そして、何の成果も得られなかったのは、俺やリオたちだけではないらしい。
『いっそ、何者かによる計画的な誘拐を疑った方がいいかもね』
『――エイミ!? あなたも、同じ結論に至りましたか……』
『こちら、飛鳥馬トキです。アビ・エシュフからも、彼女の直近の移動記録が、不自然に削除されていると解析結果が出ました』
単独行動中のエイミとトキからも報告が上がり、これはいよいよ大事になって来たなと心の中で呟く。
ちなみに、この通信は同じ勇者部であるアリスの体を使っているKeyにも聞こえている。
『それにしても、リオはともかく、この超天才清楚系病弱美少女ハッカーたる私の目を掻い潜り、一切の痕跡を掴ませないような人物がいるとは……!』
『……? 私で無理なら、あなたでも無理だと思うのだけれど』
『……売られた喧嘩は買いますよ、リオ!!』
指令室が一触即発の雰囲気へと変化する様子を見て、隣で通信を聞いていたKeyが、いつもこんな感じなのですかと言いたげな顔でこちらを見つめている。
残念ながら、リオとヒマリはいつもこんな感じです。
とはいえ、Keyの視線がさすがに痛すぎたので、通信に割り込んで仲裁役を買って出ることにした。
「あー、ヒマリ? 今のは自分と同じくらいヒマリは凄いって思っているって意味で、決して下に見てるって意味じゃないんだが……」
『私はそう言ったわよ?』
『どちらにせよ、私の方がリオより上です!!』
残念! 仲裁は失敗してしまった!
通信越しでのやり取りは上手くいかず、Keyからは更に冷たい眼差しを向けられる。
ヒマリは更に反論を捲し立て始め、もはや状況は混沌の一言に尽きる状態だった。
そんな中、不意に、リオのつぶやきが聞こえてくる。
『……一切、痕跡を掴ませない』
「ん? どうかしたのか、リオ?」
『いえ。このやり口に、どこか見覚えがある気がして……』
『それも、私の方が先に犯人に気づいたという自慢ですか!?
いいでしょう! そのくらいのハンデがあって対等というものです!
どちらが先にマモリちゃんを見つけられるか、勝負としましょうか!』
『ごめんね、ヒマリおばあちゃんが変なこと言い出して……』
『いえ、こちらこそ、リオ様のコミュニケーションに難があって申し訳ありません』
データ班2人は勝手に競争を始め、そんな2人の言動を、何故か部下である2人が通信越しに謝罪しあう。
一方、Keyが俺に向ける視線は、もはや絶対零度の領域へと達していた。
「……これが、自称対厄災治安組織の姿ですか?」
「Keyちゃん、痛いとこ突かないで」
「あなたまでKeyちゃん呼びですか!?」
Keyによるツッコミは華麗にスルー。
またの名を、聞こえなかったフリと言う。
「ほら、そうツンツンしてないで。せっかくなら一緒に飲み物買いに行こーぜ。
今なら、何でも好きなの買ってあげるから」
「別に、欲しいものなんてありませんが」
「なら、アリスの飲み物でも選んでやりな。きっと喜ぶぞ」
「……分かりました。仕方なくですが同行しましょう」
交渉が成立し、Keyは俺の隣を歩いていく。
最寄りの自販機に着くや否や、彼女は開口一番、購入する商品を指定した。
「ゲーム開発部への購入品は、水以外あり得ません。
普段ジュースばかり飲んでいるのですから、こんな時くらい健康に気を遣うべきです」
「えぇ……なら、せめてスポーツドリンクとかにしない?」
「それらにも甘味料は含まれています。なので却下です」
厳しいなと思いつつも、Keyはそれ以外の選択肢を認める様子がなかったので、そのままペットポトルの水を4本購入する。
自販機のボタンを押す音と、電子マネーの決済音がだけが流れること4度。
無言で水を購入する時間を、不意にKeyが、その沈黙を破る。
「あなたたちは、私をどうしたいのですか?」
Keyの思いがけない言葉に、俺は目をぱちくりとさせた。
いや、アバンギャルド君の表情は固定なので、そんな気持ちになったというニュアンスでしかないが。
「……アリスから聞いていないのか?」
「王女は記憶の一部を――特に、
「つまり、トキに不意打ちで気絶させられてから、アリスにデートに誘われるまでのことは知らないってことか?」
「……言い方に悪意を感じますが、その通りです」
確かに、リオと俺がアリスに、名も無き神々の王女という秘密を伝えたのは、そのタイミングだった。
そして、アリスがKeyとデートをすると決めたのも、そのタイミング。
ゆえにKeyは、俺たちが彼女を味方に引き入れようとした方法を。
更には、アリスがKeyをデートと称して何度も外に連れ出した理由も知らないらしい。
そのことについて、答えを与えられなかったKeyは、自分の回答を導けずに、ずっと考え続けていたみたいだった。
「ですが、閲覧できる範囲で何度も、王女の記憶を見返しました。
テイルズ・サガ・クロニクルは、何度見てもクソゲーでした」
おっと、唐突にディスられるテイルズ・サガ・クロニクルさん。
「ですが、王女はあのゲームに心を動かされ、勇者を目指すようになりました。
私たちは、世界を滅ぼす兵器であるというのに」
Keyは、飲料水を抱えた俺をまっすぐ見つめ、きっと彼女にとって、これ以上なく大切な問いを投げかけた。
「被造物は、創造主の願いを叶える。それが当然の在り方でしょう?
同じロボットである貴方なら、調月リオの命令に従う、あなたなら分かるはずです」
「…………」
「さぁ答えてください。あなたが調月リオの命令に従って世界を守るように。
私たちも、世界を滅ぼすのが本来の正しい在り方なのだと」
それは、ノベルゲームで例えるなら、ルート分岐を決めかねない、非常に重要な質問だったに違いない。
Keyがこのまま、世界を滅亡させるか、それともアリスと世界を救う道を選んでくれるのか。
しかし、そんな大事な場面で俺が思ってしまったのは、非常に率直な、それでいて返答としては一番駄目な部類の感想だった。
(……ホンマごめん、俺ロボットちゃうねん)
そう。俺はロボットに転生しただけの人間であり、いきなりロボットとしての心構えを問われても、まともな返答が出来るはずもなく。
ゆえに、馬鹿正直な回答の代わりに俺が取った行動は、全力で話題を別のことにズラす選択肢だった。
「Key。ついさっき、アリスが勇者を目指す理由が分からないって言ったよな?」
「えぇ。それがどうかしましたか?」
「俺はわかるぜ、その理由。
Keyに理屈込みで納得させる説明だって、出来る自信がある」
ほとんどハッタリだった発言だが、余程Keyの興味を引き付けたのか、目に見えてKeyの目の色が変わる。
なお、この場合、アリスの空色の瞳に変わったわけではなく、この話に食いついてくれたという意味である。
「なら、私を納得させてみてください。
なぜ、王女は世界を滅ぼす兵器としてではなく、世界を救う勇者であろうとするのかを」
「それは、自分で考えなきゃダメだろ」
「――――は?」
うわぁ……Keyが、養豚場のブタ以下の何かを見る目でこちらを睨みつけてくる。
しかし、その視線に負けるわけにはいかない。
なぜなら、俺はKeyに伝えられる答えを持っていないからだ――!!
「こういう問題は、自分で答えにたどり着くことに意味がある。
他人から与えられた答えに、価値なんてないのさ……フッ」
「他人から与えられた命令を忠実にこなすのが、
「あぁでも、なるべく早く答えは出してくれよ。
具体的には、次の厄災がキヴォトスを襲う前に」
「私の! 話を! 聞きなさい!」
都合の悪い話は全て聞かなかったふりをして、いい加減購入した飲料水がぬるくならない内に、ゲーム開発部の皆の元へと届けに行く。
強引に話をうやむやにしようとする俺の後ろを、Keyが歩いているのをアバンギャルド君のセンサーが感知する。
「私には分かりません。本当に、どうして王女が勇者に憧れるのかを。
だからこそ、あなたのふざけた言動だとしても、聞く価値があると判断したというのに……」
おっと、どえらい酷評だな。
当然の結果と言われればそうかもしれないが、それでも傷つくものは傷つくものである。
ひっそりと心の涙を流していると、不意に、今度はKeyが立ち止まったという情報をセンサーが伝えてくれた。
「どうして……、『どうして』??」
果たして、何か突然天啓でも降ってきたのか。
立ち止まったKeyはそのまま、背中越しに俺へと呼びかけた。
「――待ってください、奇怪なロボット」
「……え? もしかして俺、名前覚えられてない?」
「そのセンスのない名前を呼びたくないだけです。
ですので、あなたの個人名を忘れたわけではありません……決して」
思わず振り返ってみると、今度はKeyの方から視線を逸らされてしまう。
今明かされる衝撃の真実に、再び心の涙を流していると、Keyは俺にある提案を持ち掛けた。
「私からの提案です。取引をしましょう。
もしもあなたが、王女が勇者を目指す理由を教えてくれるのなら。
私は、琴ノ葉マモリの居場所を突き止める用意があります」