【完結】転生したらアバンギャルド君だったのでリオ会長を救います   作:天神茶々

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 Key視点でお送りします。
 


踊らない大捜査線・解決編(解決するとは言っていない)

 

「まず初めに、私はこれが第三者による誘拐事件だとは考えていません」

 

「ほう、それはどうしてなんだ?」

 

 ゲーム開発部に加え、例のロボットと共に私はとある場所を目指していた。

 琴ノ葉マモリが居る、とある場所へと。

 

「もしこの一件が誘拐事件である場合、監視カメラなどの痕跡が徹底的に消されている以上、これは間違いなく計画的犯行です。

 それが、たまたま琴ノ葉マモリが施設を1人で抜け出したタイミングで行われた。こんな偶然があるのかと私は疑問視しました」

 

「いやいや、犯人が琴ノ葉マモリが抜け出したのを知って、その機会を利用したって可能性はあるだろ?」

 

「もちろんその可能性もあると思いますが、総合的に見て確率は低いと私は判断しました。

 つまりこの一連の騒動は、琴ノ葉マモリによる単なる家出でしかなかった」

 

「もちろん、彼女の痕跡が徹底的に消されていることへの疑問は残ります。

 だれが、何のために、琴ノ葉マモリの足跡を隠し、彼女の逃走に力を貸したのか。

 ですが、それは一旦無視することにします」

 

「いやいや、どう考えても重要な手がかりじゃ……」

 

 例のロボットはそう発言するが、全くもってそんなことはない。

 

 今回達成すべきミッションは、琴ノ葉マモリの居場所を突き止めること。

 事件の真相を解き明かす必要がないのなら、足跡を残した人物のことは無視したって構わない。

 

「勇者部の方々は、どのような経路を使い、琴ノ葉マモリがどこへ向かったかを考えていました。

 しかし、謎の人物の介入によりそのアプローチによる捜索では、手がかりを何も得られない」 

 

「ですが、この事件が琴ノ葉マモリの家出騒動でしかなかった場合。

 琴ノ葉マモリがどうして施設から抜け出したのか。

 そして、琴ノ葉マモリが現在潜伏している場所を、彼女自身が選んだ理由。

 つまり、ハウダニット(どのように)ではなく、ホワイダニット(どうして)で考えたのです」

 

Why done it(ホワイダニット)……?」

 

 そう。勇者部が琴ノ葉マモリを見つけられなかったのは、How done it(どのように)の部分しか考えていなかったからだ。

 

 この思考自体は、高度に科学技術が発達したミレニアムだからこそ、特に強く固定観念に縛られていたのだろう。

 

 実際、何者かの介入がなければ、琴ノ葉マモリの居場所など、まず間違いなく30分もあれば特定できたはずだ。

 

「養護施設の職員の証言を覚えていますか?

 『消灯時間を過ぎても起きて、こっそり抜け出す準備をしていた』

 それが正しいのなら、彼女は事前にどこへ逃げるかについて考える時間があったはずです。

 衝動的に施設を抜け、行く当てもなくどこかを彷徨っているという線はないでしょう」

 

「だったら、マモリちゃんはどこに……」

 

「その前に、そもそもどうして彼女が施設を抜け出したか分かりますか?

 そうですね、そこでポカンと口を開けている才羽姉に答えてもらいましょう」

 

「え!? 私!?」

 

 様子を見る限り、完全に油断しきっている状態だったので、これは普段の仕返しだ。

 あたふたする様子に、普段の仕返しが出来た気がして、少しスッキリした気分になる。

 

「えっと確か、アリスちゃん達から聞いた話によると、マモリちゃんが反抗期だって言ってたから、それが理由かな……?」

 

「回答としては10点です。満点解答はこうなります」

 

「まず前提として、琴ノ葉マモリは施設の職員たちや子供たちから、お姫様みたいと可愛がられ、溺愛されていました。

 これについては、そこのロボットが絡んだ時の調月リオと、同様の状態になっていた職員のことを思えば一目瞭然でしょう」

 

 

『マモリちゃんはね、私たちの施設でも特に可愛らしい子でね。

 お姫様みたいに可愛いから施設の人気者で、この写真とかほら見て!

 フリルの可愛らしいお洋服が売ってあるのをたまたま見つけたから、つい買っちゃって!

 マモリちゃんに着てもらったのだけれど、これがもう本当に似合ってて!!

 まるで本物のお姫様でしょう? 白馬の王子様が迎えに来るレベルよ!』

 

 

 これも職員の発言の極一部に過ぎず、ノーカット版の発言は、これの何十倍の長さだったと言えば伝わるだろうか。

 

 ともかく、琴ノ葉マモリがお姫様として可愛がられていたという事実が重要なのだ。

 

「しかし、琴ノ葉マモリはこの扱いがどうしても嫌だった。

 反抗期に入ってから、勇者部の活動記録をよく見るようにようになったのは、その反動なのでしょう」

 

『今日、勇者部の皆さんのところを訪ねたのも、反抗期に入ってからマモリちゃんが熱中していたのが、勇者部の皆さんの活動が収められた映像を見ることだったので……』

 

 私の推理を肯定するように、ゲーム開発部一同が、確かに勇者と言えば、囚われたお姫様を救い出す、まさに逆の立場だもんねと発言する。

 

 それは、心の中で休憩中の王女も、同じ意見なようだった。

 

「しかし、それでも他の人たちは、彼女をお姫様として扱おうとする。

 だから彼女は、施設から抜け出す決意をした……これが模範解答です」

 

「いや、模範解答長くない!?」

 

「高校の国語の問題なら、この程度の記述問題なんていくらでもあるでしょう。

 普段からきちんと勉強しないからです」

 

(アリスも難しいと思います……!)

 

「王女も、ちゃんと勉強してください……」

 

 どうか、出来ないや分からないを理由に、即座に諦めてしまうのは止めていただきたい。

 そして、すぐにゲームに熱中するのも止めて欲しい。

 

「とにかく、話を戻しますが、お姫様扱いが理由で、琴ノ葉マモリは施設を抜け出すことを決めました。

 だとすれば、彼女が向かう場所は、お姫様である自分から最も遠い場所。

 つまり、彼女が繰り返し見続けた、勇者部に縁のある場所です」

 

「え? いや、そんなことある?

 それに、勇者部の部室にも来なかったし……」

 

「勇者部の部室に行ったって、十中八九養護施設に連絡されて、元居た場所に戻されるのがオチでしょう。

 ですから、向かった先は人のいない場所へと更に絞られます。

 そういえば、普段は誰も入ることのない、勇者部が最初の活躍を世間に知らしめた場所がありましたね……?」

 

 

「――さあ、ここまで言えば、もう答えは分かるでしょう」

 

 

 それに、他の人たちには明かしていなかったが、間もなく私たちは目的地へと到達する。

 ゲーム開発部や例のロボットも、一時期何度も足を運んだ場所へと。

 

 だからこそ、全員がその場所への心当たりがあるようだった。

 

(Key、本当にあの場所にマモリちゃんがいるのですが……?)

 

「Keyちゃんの言いたい場所は分かったけど、それにしても、推理にまだ全然穴があるような気もするし……」

 

「それは当然でしょう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「「――――え?」」」」

 

 そう。実はこの推理、適当に述べただけの全くもって参考にならないものである。

 

 なら、今まで長々話してきたものは何なんだと言いたくなる事実を、最後に暴露した時の皆の顔は非常に小気味よいものだった。

 

 願わくば、あのロボットの間抜けズラも見てやりたがったが、表情が動くタイプのロボットではなかったので、それは残念に思う。

 

「ですが、もしかするとこの場所ではないかと思い至ったのは本当です。

 なので、エリア内全てのリソースを総動員して探してみれば、まさかの大当たり。

 ほとんど使い物にならないとはいえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 同じミレニアム自治区内とは思えない程、荒れ果てたその場所から、私は待機させてあった()()()()()()()()()()()()()()

 

 同時に、勇者部への通信を繋げながら。

 

『――この通信は、アリス?』

 

「いいえ、私です。そして、琴ノ葉マモリなら見つかりましたよ」

 

『――!? Key、それは本当!? 琴ノ葉マモリはどこにいたの!?』

 

 そして、この区画の奥から聞こえてきたのは、聞きなれない1人の少女の声。

 

「うわぁ!? 何すんだ!! 止めろ!! 離せ!!」

 

「安心してください。別にあなたを傷つけたりしませんよ、琴ノ葉マモリ」

 

「!? どうして私の名前を――って、勇者部のお姉ちゃん……!?

 でも、目の色が違うような……?」

 

 その観察眼か、あるいは勇者部への熱量に少し驚かされながら。

 

 ずっと出し抜かれるだけだった調月リオに、ゲーム開発部たちにもそうしたように、意趣返しも兼ねた、この事件の正解を突きつけた。

 

「琴ノ葉マモリの潜伏場所。それは、ミレニアムの閉鎖地区――廃墟です」

 

『分かったわ。今迎えに行くから、待っていてちょうだい!!』

 

「……少しは悔しがって欲しかったのですが、まぁいいでしょう」

 

 通信が切れたのを確認してから、私は琴ノ葉マモリという人物を観察する。

 

 見せられた写真とは異なる、顔を隠すためのパーカーと地味なズボンでの立ち姿。

 装飾品は一切ないというのに、それでも一目見て美少女だと納得させる容姿は、さすがあの職員が溺愛するだけあるというべきか。

 

 こちらに敵意を向ける姿さえ、可愛らしいと思わせるのは、もはやある一種の才能のように思えた。

 

「……多分、施設の人にお願いされて私を追ってきたんだろうけど、私は帰らないからな」

 

「ほう。それはどうしてですか?」

 

「マモリちゃん、施設の人も心配してたよ?」

 

「ほら、私たちと一緒に帰ろう?」

 

「嫌だってつってんだろ!」

 

「うわぁ!? お姫様っぽいって聞いてたのに、実際はネル先輩みたいなキャラだった!?」

 

 ゲーム開発部たちが差し出した手を、しかし、琴ノ葉マモリは取ろうとしなかった。

 

 それもまた当然か。

 ここで素直に帰るような人なのなら、そもそも施設から抜け出そうという発想に至らないだろう。

 

「あたしは絶対帰らない! 施設の人たちは、私を蝶よ花よと愛でるだけ愛でて、私にお姫様役を押し付ける……。

 いや違うか。あいつらは、お姫様としての私の見た目にしか興味がないんだ!!

 私を客寄せパンダにすれば、里親希望の大人がたくさんやってくるんだから!!」

 

「……あれ? もしかして、Keyちゃんの推理ってかなりニアピン?」

 

「どうやらそうみたいだな……実際は、もっと複雑みたいだが」

 

 怒りが爆発した琴ノ葉マモリに、ゲーム開発部や例のロボットの声は届かない。

 彼女の心の闇をそのまま刃にした攻撃的な言葉は、無差別に放たれる。

 

 

 ――それが、Keyの心を突き刺す言葉だとは、想像できないままに。

 

 

「それに、施設の人たちはいつもいつも! マモリって名前は、亡くなった親が言いつけをちゃんと守る良い子に育つように付けたんだからね。なんてふざけたこと言って!!

 そうやって名前で人を縛り付けて、ただ大人の命令に従わせただけの子供が、本当に良い子なのかよ! そんなわけないだろ!!」

 

 

「――え?」

 

 

 名前、命令、従わせる、そんなわけない。

 Key、無名の司祭、使命、変わってしまった王女。

 

 そんな言葉が、私の思考をリソースを奪って、頭が真っ白になる。

 

(……Key?)

 

 王女の言葉も、頭を通りすぎるだけで、何も反応できなくて。

 

(……Key、少し体を借りますね)

 

「マモリちゃん。少しだけ、アリスの話を聞いてはくれませんか?」

 

「――あれ? 瞳の色が戻った?」

 

 抵抗することも出来ず、体の制御権が王女の元へと移動する。

 

 視界の中に、琴ノ葉マモリの顔が大きく映る。

 少ししゃがんで、彼女と視線の高さを合わせた王女は、優しく諭すように語りかけた。

 

「実は、アリスは世界を滅ぼす魔王として作られたロボットなんです」

 

「……え? 勇者のお姉ちゃんが……?」

 

「はい。そのせいで大切な仲間を……モモイを傷つけかけたこともありました」

 

「アリスちゃん……」

 

 一度、王女は後ろを振り向いて、ゲーム開発部の皆の方を見た。

 心配そうな表情で、王女を見守る彼女たち。

 

 そして、再び琴ノ葉マモリへと向き合う。

 

「ですが、それでもモモイたちは、アリスに勇者になってもいいんだと言ってくれました。

 魔王だって、勇者になれると言ってくれたんです」

 

(…………)

 

 王女は今、琴ノ葉マモリに向かって話している。

 

 なのに、その言葉だけはどうしても、王女から私に向けられた言葉に思えて仕方なかった。

 

「名前に縛られる必要はありません。

 マモリちゃんは、マモリちゃんのなりたい自分になっていいんです。

 誰かに最初から決められたジョブに、縛られる必要はないんです」

 

 

「――そして、それはKeyも同じです」

 

 

「……おう、じょ?」

 

「いいえ、アリスの名前は王女じゃありません。

 どうか、アリスの事はアリスと呼んでください」

 

 いつの間にか視界が切り替わり、王女が眠っていた場所を模した心象世界の中で、私の前に王女が立っている。

 今はどうしても見たくなかった彼女の姿に、私は目を逸らしてしまう。

 

 その先で、私は有り得ない景色を見た。

 

 

『――これが、あなたに隠された秘密なの』

 

『悪いな、俺たちの都合に巻き込んじまって』

 

「――これ、は?」

 

 再び視界が切り替わり、私は柔らかいベッドの上に座っていた。

 部屋の様子を見る限り、ミレニアムの保健室のようにも思える。

 

「これは、アリスがKeyに隠していた記憶です」

 

「私が、無名の守護者を操って、調月リオたちに負ける間の、王女の記憶というわけですか……?

 ですが、なぜ今になってそれを……?」

 

「今こそ、Keyと真正面からぶつかるべきだと思いました。

 だから、Keyに知って欲しいのです。アリスの気持ちを」

 

 私に拒否権はなく、心象世界で王女が経験したその時のことが再現されていく。

 

 王女による上映会が、静かに始まろうとしていた。

 

 

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