【完結】転生したらアバンギャルド君だったのでリオ会長を救います 作:天神茶々
『――これが、あなたに隠された秘密なの』
『悪いな、俺たちの都合に巻き込んじまって』
ミレニアムの保健室で目覚めた王女は、ゲーム開発部の皆から大切な言葉を――これからも勇者を目指していいのだという言葉をもらって。
そして、戦いを終えてきたのだという2人、ミレニアムの会長調月リオと、彼女の作ったロボットから、より詳細な説明を受けていた。
『アリスの今の気持ちを正直に口にするのなら、どこか信じられなくて、でも、モモイを傷つけかけたことは本当で……』
『アリス、あなたには真実を知ることもないまま、ゲーム開発部のメンバーとして平和な日々を過ごす道もあった。廃墟の中で、穏やかに眠り続ける選択肢だってあった。
それを、ゲーム開発部を使ってミレニアムに連れてきて、こうしてKeyを目覚めさせたのは私たちが勝手にやったことに過ぎない』
調月リオの言葉に、王女はもしもを想像する。
ゲームと違って、決して選べないifのお話。
『私たちはあなたから、その選択の自由を奪ってしまった。
だから、私たちを恨んでくれて構わない。本当に、申し訳ないわ』
『……アリスは、そうは思いません』
そんなもしもを想像して、王女は思う。
『アリスは、ゲーム開発部の皆に出会えて、本当に良かったと思っています。
ですから、廃墟で眠り続ける未来じゃなくて、良かったと思いました』
『……アリス』
『モモイを傷つけかけてしまったことは、本当にごめんなさいと思っています。
でも、大切な言葉を、ゲーム開発部の皆からもらうことが出来ました』
それは、今歩んでいる世界でなければ、きっと起きることはなかった出来事。
もしも過去に戻って、選択肢をやり直せるのだとしても。
王女はきっと、同じ未来を選ぶから。
『私はリオ会長とアバンギャルド君さんのお話を聞いて、感謝したいと思いました。
魔王として作られた私が、勇者としてあれるように、たくさん考えてくれて、本当にありがとうございます』
『……だってさ、良かったなリオ』
アバンギャルド君が調月リオの頭を撫でて、彼女は一雫だけ涙を流す。
けれど、その涙をすぐに拭い、調月リオは真剣な眼差しでこちらを見つめた。
『厚かましいかもしれないけれど、アリスにお願いしたいことがあるの。
Keyを、私たちの仲間に加わってもらえるように説得して欲しい。
私やアバンギャルド君では、彼女に言葉は届かないだろうから。
これは、アリスにしかできないことなの』
『わかりました。……ですが、リオ会長たちは、どうしてKeyを仲間に加えたいと思っているのですか?』
『未来で、Keyの力が必要になる場面が訪れるの。
そのために、彼女の方から積極的に力を貸してもらえるように――』
『――なぁ、アリス』
調月リオによる説明会が始まろうとした途中、アバンギャルド君が彼女の肩に手を置いて中断させる。
それは打ち合わせになかったのか、驚きと疑問が混じったような不思議な顔をして、調月リオはアバンギャルド君の顔を見上げていた。
『もちろん、色々こっちにも思惑はあるんだけど、アリスに説明するなら、こっちの方が良いだろうって思ってさ』
王女と調月リオが見つめる中、アバンギャルド君はこう告げる。
王女が、私をデートに誘い、外の世界へと誘うきっかけになった言葉を。
『魔王を倒す勇者と、魔王さえ救ってしまう勇者なら、どっちの方がアリスの目指す勇者らしいと思う?』
『――!? はい! 勇者アリスならそうします!』
――そして、短い上映会が終わる。
ミレニアムの保健室は、廃墟の風景へ。
調月リオたちの幻影は消え、王女の瞳が私を見つめている。
「リオ会長と、アバンギャルド君さんは、とても凄い人たちです。
リオ会長が最高の指揮官で、アバンギャルド君さんが無敵の勇者。
世界を救うために、本気で世界平和を成し遂げる、最強の勇者パーティーです」
それは、100万の無名の守護者を攻略した、知恵と力を称えたからなのか。
あるいは、世界の滅亡に立ち向かう、その在り方を称えたからなのか。
「アリスはいつか、あの2人を超える勇者になります!
そして、そのためには最高の仲間が必要です!」
「それは、あの2人を超える勇者パーティーとやらを作るためですか」
「はい! そして、指揮官はもう既に決めています!
その最高の仲間こそが――Key、あなたです!!
魔王と勇者がパーティーを組めば、誰にでも負けません!!」
「――、―――――は?」
馬鹿げている。
私の胸の中に湧き上がった感情を一言で表すなら、そうであるに違いなかった。
呆然とする私に、王女は彼女の心の内を、力強く告げていく。
「さぁKey――いやケイよ! アリスと共に、世界を救う仲間になるのです!!」
「――ケ、イ?」
突如として、王女の口から発せられた言葉。
それは名前か、或いはあだ名か。
けれどそれは、間違いなくKeyにとって、何があっても認められない音だと。
私の中に、根拠がなくとも強い確信があった。
「はい! アリスという名前は、モモイが”AL-1S”を読み間違えた名前です。
なら、Keyを読み間違えたらどうなるかなと、アリスが考えたのです!
これこそ、アリスとケイが強い絆で結ばれた証!! 姉妹お揃いですね!!」
「――違う」
それは、ほとんど無意識に発した言葉だった。
心臓の中で荒れ狂う感情。
その一端が外に漏れたのを発端として、濁流のような激情が溢れ出す。
「……ケイ?」
「そんな呼び方で、私を呼ばないでください!!」
「違うのです!! おかしいのです!!
私は、ケイではありません。
「私にも、王女にも、名前なんて物は不要!! 名前は存在の目的と本質を乱す!!
私は、王女を助ける無名の司祭たちが残した修行者であり、あなたが戴冠する玉座を継ぐ
「あなたは王女であり、私は鍵!! それが私たちの存在であり目的!!
命令に、使命に、存在理由に逆らうAIやロボットが、どこにいると言うですのか!!」
「――なら、取引をしよう」
――再び、視界が切り替わる。
そして現れたのは、琴ノ葉マモリを探して訪れた廃墟の風景。
辺りを見渡すと、ゲーム開発部と琴ノ葉マモリが私を心配そうに見つめていて。
アバンギャルド君が、相も変わらずヘンテコなデザインの顔で私と向き合っていた。
「俺とKeyでによる、一対一の決闘。それでこの戦いを終わらせよう。
俺が勝ったら、Keyには世界の滅亡を諦めてもらって、アリスの仲間になってもらう。
Keyが勝ったら、俺たちはKeyによる世界の滅亡に対して一切手を出さない」
「何を、言っているのですか……?」
「プロトコルATRAHASISが使えない問題は気にしなくていい。
力を使うのに必要な、
「――馬鹿なのですか? 正気なのですか、あなたは!?」
そんな条件、
こんなもの、私の存在を暴いて不意打ちで無力化したのち、廃墟のリソースを壊滅させて、必死に得てきたアドバンテージを、丸ごと投げ捨てる愚行以外の何物でもない。
だというのに、アバンギャルド君は余裕の声色で、こちらを挑発するように言葉を続けた。
「勘違いしてるみたいだから言っとくけど」
「何ですか? まだ言うことが――」
「これだけ譲った上でなお、そっちが
「――分かりました。今すぐ始めましょうか」
(ケイ? もしかして激怒していますか……?)
王女が何やら言っているが、まさかそんなわけはない。
調子に乗っているアバンギャルド君や調月リオ陣営を、絶対にぶっ殺してやるとか全然思ってない。
憎くて仕方がないそのロボットに、全力の笑顔を向けながら私は返事を待つ。
ところで、笑顔は元々は威嚇に使われる表情らしいですね。
いえ、特に関係はありませんが。
「いや、さすがに先にマモリちゃんを届けたいし、場所も、廃墟はちょっと避けたい。
ここ、オーバーテクノロジーの宝庫だし」
もっと先の厄災への対抗手段が、廃墟に眠ってたらどうしようかと、もう私に勝った後の話を始めるアバンギャルド君。
その前提がやはり腹立たしく、絶対にぶっ倒すと心に誓う。
――そう、丁度このタイミングで到着した調月リオも同じように。
「話は聞かせてもらったわ。なら、丁度いい場所を使わせてもらえるかもしれない」
「そんな場所あるのか?」
ヘリから降りた調月リオは、ヒールの音を鳴らしながら、その決闘に適した場所とやらについて話し始めた。
「えぇ。話をしましょう。あれは今から36万……いえ、1万4千年前だったかもしれない。
まぁいいわ。私にとってはつい昨日の出来事だけど、あなたたちにとってはたぶん――」
「ちょっと待ってください。これ、回想に入る流れですか!?」
「大丈夫だ、問題ない」
「そんなわけないでしょう!?」
「よ、ようこそお越しくださいました!」
「まさか、今話題のミレニアムの生徒会長さんが来てくれるとは思いませんでした。
なんだか、先生が来た時のことを思い出しますね」
「そうね、私も先生は凄い人だと思うわ。
もしも私が同じ立場だったら、あなたたちの問題を解決できなかったでしょうから」
この学園の生徒たちの歓待を受けながら、私は清掃が満足に行き届かない校舎を歩いていく。
彼女たち自身も、出来ることなら綺麗な状態の校舎を保ちたいと思っているだろうが、学園の現状を鑑みれば、それはどうしても難しい話だろう。
2人の生徒の後ろを歩き、案内されたのは、手書きの紙に『アビドス廃校対策委員会』と書かれた、通常の教室の半分ほどの大きさの一室。
赤色のメガネをかけた少女――奥空アヤネがノックして、その扉を開ける。
「失礼します。調月リオさんをお連れしました!」
「うへ~、アヤネちゃんご苦労さま。
そして悪いんだけど、ノノミちゃんも一旦退室してもらってもいい?
会長さんとは、2人で話をしたいんだよね~」
部屋の奥で待っていた人物こそ、
桃色の長い髪に、蒼と橙のオッドアイ。
どこかのんびりとした態度は、ミレニアムではあまり見かけないタイプの生徒だ。
しかし、ただのぼんやりとした生徒と侮るなかれ。
彼女こそ、入学当時からアビドスで圧倒的な戦闘能力を誇り、学園外にもその名をとどろかせた、キヴォトス最高の神秘の持ち主、小鳥遊ホシノなのだから。
そういえば、トリニティ総合学園を除いた各学園の最強格は、なぜか体躯が幼いという共通点がある。
今度、ネルになにか心当たりがないか聞いてみよう。
「ホシノ先輩……相手は3大校の内の1つ、ミレニアムサイエンススクールのトップなんですから、決して失礼のないようにしてくださいね」
「もしも、ホシノ先輩が調月会長を怒らせて、アビドスと敵対するなんてことになれば、私たちのアビドス復興という夢は潰えてしまいますね♪」
「うへぇ!? おじさんって、後輩からの信用ゼロなの!?」
それは、仲が良いゆえの、彼女たちなりのコミュニケーションなのだろう。
冗談では済まされないことを言いながらも、彼女たちは笑顔のまま退室する。
だから、この場で笑っていなかったのは、私たち2人だけ。
「それで、ミレニアムのトップがアビドスに何の用?」
2人が退出した途端、小鳥遊ホシノの表情が消える。
あるいは疑心暗鬼、疑いだけに染まった彼女の顔。
「……別に、事前に伝えた通り、アビドスとある取引をしたいだけよ」
「へぇ? 三大校のトップが直接、わざわざこんな砂漠地帯に?」
取り付く島もないとは、まさにこのことか。
噂に聞いていた、冷酷で疑い深い彼女の姿に、私は心の中で気合を入れる。
――かくして、調月リオと小鳥遊ホシノによる、世界の滅亡を防ぐための交渉が、人知れず行われようとしていた。