【完結】転生したらアバンギャルド君だったのでリオ会長を救います   作:天神茶々

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大人になれない子供たちの戦い

 

 

「なるほどね。話は大体わかったよ」

 

 シャーレの先生から、私と話をしたい生徒がいると聞いて、どういうことかと事情を聴いてみれば、何やら奇妙なことになったものだ。

 

「…………」

 

 私の正面の席に座るのは、キヴォトスで最も有名な学校の1つ、ミレニアムサイエンススクールで生徒会長を務める人物。

 

 そして、彼女が最近立ち上げた勇者部という組織の活動で、今最も話題になっている生徒。

 

 そんな彼女、調月リオがアビドスのトップである私と、話をしたいなんて聞いたときには、驚きで空いた口が塞がらなかった。

 

 まぁ、私がアビドスのトップかと言われると、ちょっと違和感があるけれど。

 

 日常的にサボり癖のある私がトップなんて務めてたら、それこそ本当にアビドスが廃校になってしまうかもだ。

 

 早く、後輩に席を譲って、お昼寝を満喫する日々を送りたいものだ。

 

「少し、意外だったわ」

 

「……? 何が?」

 

神名十文字(デカグラマトン)と、その預言者であるビナーのこと。

 この話、あなたに信じてもらえないかもしれないと思っていたから」

 

「あぁ、そのこと?」

 

 神様の存在を証明し、そして自らの力で神様をつくるために活動するAIの存在。

 そして、そのAIが生み出した、強大な力を持った10体の機械怪獣。

 その内の一体であるビナーが、アビドス砂漠を根城にしていること。

 

 調月リオは、私がこれらの事を、単なる妄想話と一笑に付すと懸念してたらしい。

 

「まぁ、話を聞いただけじゃ信じられないって思ったかもね。

 でも、私は一度、別の場所でその名前を聞いたことがあるんだ」

 

 思い出すのは、かつて先生とアビドスの借金の謎について追っていた時の出来事。

 

 カイザーの資金の流れがおかしいことに気づき、アビドスに在中するカイザーPMCの基地に潜入した時に、カイザー理事は口にしていた。

 

「あの時は、私たちを嵌めるための戦力だと思ってたけど、そういうことだったんだね。

 カイザーがアビドス砂漠で活動する際、どうしても敵対せざるを得ないビナーに対抗するための兵隊が、あの基地に集められていたってわけだ」

 

 そして、カイザー理事はその戦力の名前を、対デカグラマトン大隊と呼んでいた。

 

 ただの偶然という可能性も考えたが、かつてのアビドス生徒会の資料をひっくり返せば、ビナーという存在との戦闘記録がいくつも出る始末。

 

 最後に先生の証言もあったのだから、ここまで来れば、信じないわけにはいかなかった。

 

「アビドスの借金を返済すれば、後は復興させるだけだって思ってたのに、まさかとんでもない怪獣が眠っているとは思ってもみなかったよ」

 

「心配は要らないわ。私は、この問題を解決するためにアビドスへ来たのだから。

 アビドスに眠る脅威、神名十文字(デカグラマトン)第3の預言者ビナーを討伐するために」

 

 前提条件の確認を終えて、私たちの戦いがここから始まる。

 

 いつもの見回りのような、武力でガラの悪い連中を制圧するような戦いではなく。

 互いの頭脳と言葉で、利益や成果を奪い合う、”大人”の戦いが。

 

神名十文字(デカグラマトン)は、いずれキヴォトスを滅ぼす厄災へと成り果てる。

 そうなる前に、私たち勇者部は少しでも戦力を削っておきたい」

 

「アビドスからしても、復興の妨げになるビナーは絶対に倒しておきたい」

 

「そのために私は、アビドスとミレニアムの()()()()を結びたい。

 名前はそうね……ウコン条約なんてどうかしら」

 

「……え、なんて?」

 

 今一瞬、本当に友好条約を結びに来たのかと、疑いたくなるような名前が聞こえた気がする。

 

 一方調月リオは、何かおかしいところがあったかしらと言いたげな目でこちらを見つめていた。

 

「友好……ゆうこう……ウコン」

 

「いや、そうはならないでしょ」

 

「なってるじゃない」

 

 どうしよう、おじさん1人じゃツッコミが手に負えないや。

 やっぱり、ノノミちゃんやアヤネちゃんも、同席してもらった方が良かったかもしれない。

 

「とにかく、名前は後にしよっか……それで、友好条約の内容の話だけど」

 

「えぇ。両校が協力して、ビナー討伐にあたることを約束する。

 ミレニアム側からは、人的援助として勇者部を。

 それ以外にも、戦闘用の機械等を大量に導入する用意があるわ」

 

 なるほど、もしもミレニアムの援助を受けれるなら、アビドスだけで戦うよりも、より安全に、より確実にビナーを倒すことができるだろう。

 

 それだけでも、かつてたくさんの人が集まったアビドスの姿を取り戻し、復興を目指す私たちにとって、魅力的な提案に思えてくる。

 

 しかし、この条約はそれだけでは終わらなかった。

 

「もちろん、私もこれだけじゃダメだと理解しているわ。

 もし仮にビナーが倒されたとしても、今度は目の上のたんこぶが無くなったカイザーが、怒涛の勢いでアビドス全域を支配下に置こうとするのは一目瞭然だもの」

 

「へぇ? でも、それはミレニアムには関係ないんじゃないの?」

 

「大アリよ。だって、カイザーがアビドスを支配してしまったら。

 なんやかんやあって、ミレニアムを含めたキヴォトス全てがカイザーに支配されてしまうもの」

 

「なんやかんやって、説明がざっくりしすぎじゃない……?」

 

 その割には、起こる現象がカイザーによる支配という、全くもってシャレにならない話なのが、一連の流れのギャップが大きくする。

 

 説明不足だったわねと、調月リオは足りない部分の補足をしてくれた。

 

「簡単に言うと、アビドスに眠る超兵器――ウトナピシュティムの本船を手にしたカイザーが、その圧倒的武力でキヴォトスを支配するわ。

 後、これは確証がないのだけれど、アビドスに眠る超兵器は、他にもある可能性が高い」

 

「うへぇ……どうして私たち(アビドス)より、ミレニアムのトップの方が、アビドスの闇深事情に詳しいのさ……」

 

「私たちは、本気で世界の滅亡を防ぐために調査を進めてきたからよ」

 

 じゃっじゃじゃーん、今明かされる衝撃の真実。

 

 ビナーだけでもお腹いっぱいなのに、ウトナピシュティムの本船という謎の超兵器まで登場する始末。

 

 しかも、他にも同等の超兵器が眠っている可能性なんて、正直聞きたくなかったという気持ちの方が強い。

 

 しかし、私と調月リオによるこの戦いの場では、そうも言ってられる余裕もなかった。

 

「とにかく、私たちからしても、カイザーがアビドスを支配するのは見過ごせない案件なの。

 だから、アビドス高等学校の復興支援に、全力で協力させてもらうつもりよ」

 

「それが、ミレニアムとアビドスの友好条約の内容?」

 

「えぇ。他に、何か追加したい内容があれば、遠慮なく言ってちょうだい」

 

 とりあえず、条約を結ぶ場合、その名前の決定権はアビドスに一任するというのは確定として。

 

 ここまでが、話を持ち掛けてきた調月リオの番。

 そして、ここからが話を持ち掛けられた側である、私の番だ。

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……? 一体何を言って」

 

「ビナー退治への助力とアビドスへの復興支援だっけ?

 こんなことやったところで、ミレニアムに何のメリットがあるのかって聞いてるの」

 

 ……私がアビドスに入学してからこれまで、似たようなことを言ってアビドスに近づいてきた人たちが、ゼロというわけではなかった。

 

 何十年にも及ぶ砂嵐の被害により、人口減少と衰退を余儀なくされたアビドス自治区。

 

 多くの人に見捨てられたこの場所に、力を貸そうという人たちの甘い言葉が、まさに砂漠の中で見つけたオアシスのように見えた時期だってある。

 

 けれどその全てが、悪い大人がアビドスを利用するための策略だった。

 

 もう、雀の涙ほどの力しか残っていないアビドス自治区を。

 それでも、私たちの大切な故郷であるこの場所を、最後の最後まで絞り尽くすための嘘だった。

 

 そんな中で、本当の意味でアビドスを助けてくれた先生には、感謝してもしきれない。

 

 だから、この奇跡を台無しになんかしない。

 

 相手は同じ生徒(子ども)とはいえ、ミレニアムという巨大な学園を背負う人間だ。

 限りなく大人に近い彼女に、私は何があろうと騙されたりはしない。

 

 先生や、大切な後輩たちが守ってくれたこの場所を。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私が、絶対に守ってみせる。

 

「ビナーがいくらアビドスで暴れたからといって、ミレニアムに何の被害があるの?

 カイザーがアビドスを支配したところで、ミレニアムに何の影響がある?」

 

「さっきも言ったけど、そうしなければ世界が滅亡するわ」

 

「それで? 世界滅亡を防ぐために動く必要があるのは分かったけど。

 ミレニアム側に、何か積極的に動いて得られるメリットがあるの?」

 

 反撃の一撃を加えていく私の言葉に、調月リオの表情が変わる様子はない。

 冷静に、淡々と、私の反論に対する回答が返ってくるだけだった。

 

「例えばそうね、アビドスが復興してくれれば、それはミレニアムにとって発明品の販売先が増えることになる。

 そうすれば、ミレニアムの利益拡大に大きく繋がってくるでしょう?」

 

「…………」

 

 確かに、調月リオの言葉は、その通りのように思えなくもない。

 少なくとも、他の欲望丸出しの大人よりはましな回答だったけれど。

 

「あぁごめんね。もっと分かりやすく言おうか?

 いくらなんでも、費用対効果が悪過ぎるでしょ」

 

 そもそもの話、ミレニアムは1つの学園として、研究機関としての側面が強い。

 

 研究には莫大な資源が必要であり、それでも研究が進められるのは、その研究によって投資分以上の利益が見込めるからだ。

 

 1億円の利益が見込める研究に、毎回2億も費用をかけてしまえば、研究するたびに1億円を失い続ける羽目になる。

 そうやってお金を捨て続けた先に待っているのは、ミレニアムの破綻だけ。

 

 だからこそ、ミレニアムには限られた資金で利益を出していくことが常に求められる。

 

「アビドスの借金を返済するだけでも9億。

 そこからビナーを討伐して、カイザーから土地を買い戻して、復興事業までやるとしてさ。

 成し遂げるのに、どれだけの資源と労力が必要になると思う?」

 

「その概算は、事前にこちらの方で済ませてあるわ」

 

「へえ? それで、利益が出せるって判断したんだ。そんな訳ないでしょ」

 

 援助が少なければ、当然、今のアビドスの状態から良くなることはなく。

 かといって援助の量を増やせば、支援分を取り返すために必要なハードルは極端に高くなる。

 

 そもそも、1つの学園の支援だけで、アビドスが良い方向へ変わっていくかも疑問だ。

 

 それだけ、アビドスが積み重ねてきた負債は大きいというのに。

 

「これを理解してもなお、アビドスの力になりたいって言うのなら。

 それは、何も利益計算のできないおバカさんの妄言だよね」

 

 そして、調月リオはそんな人物ではない。

 

 キヴォトスで最も賢い人たちが集う、ミレニアムサイエンススクール。

 そのトップを任せられた人物が、何億何兆もの資金を、他学区のために使ってくれる聖人君主?

 

 ふざけるな、馬鹿は休み休みに言え。

 

「だから、何かあるんでしょ?

 私の気づいていない、何かしらのメリットが」

 

「…………」

 

 ついには、反論もしなくなった彼女に王手をかける。

 

 これまで、何度も騙されてきた大人の戦いを。

 今度こそ、私の勝ちで終わらせるために。

 

「調月リオ、君はアビドスから何を奪っていく気なのさ」

 

「私が、アビドスに手を貸す理由が知りたいのね?」

 

 あぁ、ようやく認めてくれたのか。

 

 また騙されなかったことに安堵しながら、私はその時を待った。

 優しいフリをした、調月リオの化けの皮が剥がれる、その瞬間を。

 

 そして、待ち受けていたのは、私が予想だにしていなかった展開だった。

 

「さっき、あなたが言ったじゃない。

 私が、利益計算のできないよっぽどのおバカさんだからに決まっているでしょ」

 

「――、――は?」

 

 確かに、化けの皮は剥がされた。

 

 けれど、その中にあったものは悪意ではなく。

 とんでもなく素っ頓狂な、あまりにもふざけにふざけた実像で。

 

「よく、アバンギャルド君やトキに――私の大切な人たちから言われるわ。

 私は、たまたま賢いだけの手のかかる17歳児だって」

 

「えぇ……それ、自慢げに言うこと?」

 

「正直恥ずかしいわ……でも、残念ながら事実なのでしょうね」

 

 心なしか、頬を少し赤く染めながら、調月リオはこう続ける。

 

「世界を救うのは、とてつもなく大変なことなの。

 敵はとんでもなく強いし、考えないといけないことが本当にたくさん」

 

 過去を懐かしみ、あの頃は大変だったと振り返る彼女の表情は、発言内容に反して、どこか幸せそうで。

 

「おまけに私は、最初は1人でも世界を救えると勘違いするようなおバカさん。

 そんなおバカさんに、手を差し伸べてくれたのが、さっきの2人だったの」

 

 その2人とはきっと、調月リオが口にしていた人物だろう。

 私は、その名前と姿を知っている。

 

 調月リオと一緒に、勇者部として活動する姿を、私はニュースを通じて見たことがあったから。

 

「世界を救う夢物語を、本気で成し遂げようって言ってくれる大切な仲間。

 そんな2人に報いることのできる、そんな私でいたい。

 たとえ、それがどんな夢物語だとしても。

 決して、ミレニアムの利益に繋がらないとしても」

 

 その声に、決して迷いはなかった。

 そして、こちらを騙すための悪意も、感じることが出来なかった。

 

「私は、これからキヴォトスに訪れる全ての厄災を乗り越える。

 その先で、誰も悲しまない、誰も傷つくことのないハッピーエンドを掴んでみせる」

 

 調月リオは立ち上がると、私の隣まで歩いてくる。

 そして、その手を私の前に差し出した。

 

「だから、あなたの力を貸してちょうだい。

 おバカさんな私1人だと、何にも救えはしないから」

 

「――、あ……」

 

 刹那、脳裏に大切なあの人のことがよみがえる。

 

 一匹狼だった私に、声をかけてくれた大切な人。

 どれだけ人に騙されても、優しさを忘れなかった大切な人。

 いつか、もう一度アビドスに人が戻ってくると、希望を抱き続けた人。

 

 私の光だった、大切な人。

 

「――()()()()

 

 あぁ、これはダメだ。

 私の、完全敗北だ。

 

 ユメ先輩が教えてくれた優しさを、私は否定できない。

 あなたが最期まで抱き続けた夢物語を、私は否定できない。

 

 どうしようもなくおバカさんなお人よしのことを、私は否定できない。

 

(あぁ。もしも先輩のことすら、計算に入れていたのならどうしようもないな……)

 

 そんなことを考えつつ、私は席から立ち上がり、彼女が差し出してくれていた手を取った。

 

「小鳥遊ホシノ……?」

 

「ホシノでいいよ、リオちゃん。

 それと、まずは一度だけから」

 

 大切な後輩たちのためにも、まだ完全に信じるわけにはいかないけれど。

 少しずつなら、信用していってもいいと思えたから。

 

「確かに、勇者部の設立発表みたいに、あんな凄いデザインのロボット連れて来るなんて、よっぽどのおバカさんじゃないとやらないもんね。

 いいよ。おバカさんの言葉を、私っていうおバカさんも、1回だけなら信じてあげる」

 

 それで、もしも問題が起きなければ。

 

 もしかしたら本当に、この友好条約から、かつてのアビドスを取り戻す一歩を踏み出すことが出来るのかもしれない――。

 

「はぁ……あなたアバンギャルド君のことを何も知らないのね……」

 

「……あれ?」

 

 私は、この場の空気が、何か変わってはいけない方向に変わったのを直感的に感じる。

 

 こう、これまでの流れを全て台無しにするような。

 例えるなら、アンウェルカムなスクール的な音楽が流れてきそうというか。

 

「アバンギャルド君のデザインについて、勇者部で資料を公開した時も、多くの批判的な意見がSNSを通じて挙げられていたけれど、決してそんなことはないわ。あれは私が1から100まで、細かい部分まで合理的なデザインを追求して辿り着いた、非常に合理的なデザインなの。神は細部に宿るとも言うわね。この前作ったKeyのための機体の試作機もかなり効率が良かったけれど、あのアバンギャルド君の機体はそれを圧倒的に上回るわ。聞いて驚きなさい。その最大効率はなんと――」

 

「リオちゃん? もしもーし、リオちゃーん?

 駄目だ。全然聞こえてない……一旦、外で待ってもらっているアヤネちゃんたちを迎えに……って、手を掴む力がめちゃくちゃ強くて離れられないんだけど!?」

 




 
 次回、KeyVSアバンギャルド君!(inアビドス砂漠) ファイッ!!
 
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