【完結】転生したらアバンギャルド君だったのでリオ会長を救います   作:天神茶々

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デュエル開始の宣言をしろ、調月ィ!!

 

 

 砂が風に運ばれていく、キヴォトス屈指の砂漠地帯であるアビドス砂漠。

 

 常に人のいないこの場所に、今日は3人――いや、4人の人影があった。

 

「これから、Keyとアバンギャルド君さんの決闘が始まるのですね!

 Keyはアリスの勇者パーティーなので、そう簡単にやられはしません!」

 

『王女よ、あなたはこの決闘の内容を理解しているのですか……?』

 

「アバンギャルド君、本当にアリスをここに連れてきて良かったの……?」

 

「……まぁ、本人たっての希望だしな」

 

 俺とリオ、そしてKeyと体を共有しているアリスの4人は、ここまで乗ってきたトラックを降りて、アビドス砂漠の砂の大地を踏みしめる。

 

 そして俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、辺りの砂漠を見渡した。

 

 改めて見ると、本当に何もない場所だ。

 生命の気配はなく、空虚な風景だけが続く砂の世界。

 

 それでも、この場所に輝きを取り戻したいと奮闘するアビドス廃校対策委員会の皆を、心から尊敬せずにはいられなかった。

 

 初めて見る砂漠の風景に、興奮を抑えられない様子のアリスを見守っていると、隣にいたリオがこちらに話しかけてくる。

 

「Keyには、私の作った機体に入ってもらえば、アリスは安全な場所から戦いを見守ることが出来ると思うのだけれど……」

 

「あー、ほら。それだとKeyが全力を出せないだろ? 互いに不完全燃焼のまま色彩に立ち向かったら、勝てるもんも勝てなくなるって」

 

 どちらかというと、あのクソださボディにKeyを入れさせるのは可哀想という、義務感のようなものが理由なのだが。

 

 さすがに、正直にリオに言うわけにはいかなかったので、適当な理由で誤魔化しておく。

 

 そして、しばらくして満足したのか、少し遠くの方の景色まで見に行っていたアリスが、満面の笑みを浮かべて帰ってきた。

 

「お待たせしました! 今からKeyに変わります!」

 

「……今、変わりました。それでは始めましょうか」

 

 アリスの目の色が変わり、怪しく光る紫の瞳がこちらを見つめる。

 俺たちは、その瞳に込められた意思に、真正面から向き合った。

 

「これから、アバンギャルド君とKeyによる決闘を執り行うわ。

 勝利条件は、相手を戦闘不能状態にさせること。

 互いに第三者からの協力はなし。

 もちろん、私はアバンギャルド君に指揮を行うことはないし――」

 

『はい! アリスも観戦に徹します!』

 

「そして、アバンギャルド君が勝利すれば、Keyはアリスと共に世界を救う仲間となる」

 

「私が勝利すれば、勇者部は名も無き神々の王女による滅亡を傍観する。

 この言葉に、二言はありませんね?」

 

「えぇ。私の考えうる全ての大切なものに誓うわ」

 

 決闘のルールの確認を終えて、Keyの視線は、移動に使ったトラックの荷台へと移る。

 

 なぜならそこには、決闘を始めるうえで欠かせない、大事なものが載せられているからだ。

 

「それと、私が名も無き神々の王女としての力を使うために必要な、1万エグサバイト分のデータを渡してくれるとのことでしたが……?」

 

「えぇ。このトラックに積んできてあるわ。

 今取り出すから、少し待っていてちょうだい」

 

 そう言って、リオは手元の端末を操作する。

 すると、トラックの荷台が自動的に開き、その中から、(くだん)の1万エグサバイト相当の代物が姿を現した。

 

「……え? いや、調月リオ。あなたまさか」

 

 それは、もはや見覚えしかない戦闘用ロボット。

 

 キャタピラになった脚部に、360度自在に回転する4本の腕。

 そして、誰が考えたのだとツッコミたくなるクソださデザインの頭部とくれば、その正体は語るまでもないだろう。

 

「これこそが1万エグサバイトのデータを内包した――アバンギャルド君の予備機よ」

 

「……他に、何もなかったんですか?」

 

「……? これ以上に良いものがあるの?」

 

 リオ、ごめん。

 俺、ここだけはKeyの味方でありたい。

 

「本当に昔のことなのだけれど、2機目のアバンギャルド君を作ろうと試したことがあるの。

 けれど、どうしても動く気配がなくて……、ずっと放置していたのだけれど、ついに日の目を浴びる時が来たわ」

 

 そう言って、先程のアリスに負けない程の、満面の笑みを浮かべるリオ。

 

 Keyが、正気を疑うかのような目でリオを見た後、その視線をこちらに向けてきたが、意図的に無視することにした。

 

「もしかして、本当に1万エグサバイト分あるか疑問に感じているのかしら?

 だったら、いくらでも確かめてみてもらって構わないわ」

 

「いえ、別に今更疑っているわけではないのですが。

 うわ、こんな見た目してる癖に、本当に1万エグサバイト分ある……」

 

 砂漠に置かれたアバンギャルド君の機体に触れながら、その中身を確かめたKeyは、ドン引きしながらも1万エグサバイトの情報量に、偽りなしと判断したようだった。

 

 ちなみに1万エグサバイトとは、あの要塞都市エリドゥと同等の情報量である。

 

 1体のロボットが、あの規模の都市と同レベルの情報量を持っているのには、一応ちゃんと理由があって。

 

 大体は、アバンギャルド君を高性能な戦闘マシンにするために利用している名も無き神の技術が原因。

 

 そして、完全には分析しきれない、ブラックボックスの状態のまま運用するためのシステムも、同じく膨大な量の情報で構成されているため、このようなデータ量となっている。

 

「これなら、全力を出すことは出来るかしら?」

 

「……………………まあ、可能、ではあります」

 

 廃墟の生産システムから、モモイのゲーム機に自身のデータを移した時と、同じくらい不服そうな反応をKeyは示す。

 

 いや、むしろ今回の方が、露骨に感情が態度に出ていた気がする。

 

「それなら、本当に決闘を始めましょうか。

 プロトコルATRAHASISでデータを変換するのには時間がかかるでしょうし、まずはそこからね」

 

「あぁ。俺は問題ないぞ」

 

「……随分と余裕ですね。その表情、この決闘後にはどうなっているのか、今から楽しみにしておきます」

 

 俺たちはKeyから距離を取り、彼女の準備が終わるのを待つ。

 

 そして、Keyは渋々といった様子で、アバンギャルド君の予備機に触れた。

 

「……AL-1Sに接続されたリソースを確認。リソース名「アバンギャルド君」の全体リソース――1万エグサバイトのデータの変換を申請、受諾」

 

 刹那、アバンギャルド君の機体が淡く光り、その周囲を白い電流のようなものが走る。

 

「現時刻をもって、プロトコルATRAHASIS稼働。

 コード名「アトラ・ハシースの箱舟」起動プロセスを開始します」

 

 Keyが触れていた部分を中心に、その機体は面影を残すことなく、無数のパーツに分解され、爆発的に体積を増加させていく。

 

 そして、いかなる原理か、Keyはゆっくりと宙へ浮かび上がった。

 かつてアバンギャルド君の機体だったものを、世界を滅ぼす兵器へと作り替えながら。

 

『王女は鍵を手に取ることをせず、されど箱舟は用意された。

 ならば、この決戦を以て、王女の戴冠の儀としましょう』

 

 上空に現れたその威容な姿は、俺が前世で何度も見た光景だった。

 

 4thPVや、ゲーム内のスチルで描かれた、アリスが名も無き神々の王女になるifの世界。

 名も無き神々の王女の後ろで、圧倒的な存在感を放っていた、空に浮かぶ巨大な要塞都市。

 

 その名を、アトラ・ハシースの箱舟。

 

 周囲のデータを収集して分解、再構築し、任意の物体を作り出す、物質変換機構プロトコルATRAHASISによって生み出された終末装置。

 

 キヴォトス中の神秘をアーカイブ化し、全てをゼロに戻す虚無の災厄。

 

 名も無き神々の王女の終焉が、今、俺たちの前にその姿を現していた。

 

『さぁ、準備は整いましたよ。

 ここまで待たせてしまったお礼です。先手はそちらに譲ります』

 

「はっ。結局そっちも随分と余裕かましてるじゃねえか」

 

「アバンギャルド君、油断大敵よ」

 

「さすがに分かってる。この勝負、一切油断は出来ないことくらい」

 

 過去に、デカグラマトンの預言者と死闘を繰り広げたことはあるが、厄災本体と言うべきか、その大元と戦うのはこれが初めてだ。

 

 原作で、名も無き神々の王女は、顕現させた時点で負けという描かれ方がされていた。

 

 Keyがエリドゥを乗っ取ったときも、どうにかしてプロトコルATRAHASISを起動させる前に対処するという手段で、何とか乗り越えたのが実態だ。

 

 今から俺は、実力が未知数な、世界そのものを滅ぼすことのできる存在と戦うことになる。

 

 負けない自信はあるが、正直な話、この戦いがどんな結末を迎えるのかはまだわからない。

 

「……思えば、遠いところまで来てしまったわね」

 

「お? いきなりどうしたんだ?」

 

 改めて目の当たりにした、アトラ・ハシースの箱舟の全容に圧倒されていると、隣で同じように見上げていたリオが、ふとそんなことを呟いた。

 

「最初は、ただの理論上の存在でしかなかった終末が、今、目の前にあるの。

 この話をしたとき、先輩方は誰一人として信じてくれなかった。

 一緒に見つけたヒマリやチヒロだって、実在について半信半疑だった」

 

 それは、俺がこの世界でアバンギャルド君として目覚める前の物語。

 

 そして、調月リオの始まりの物語。

 彼女が、孤独で茨な道を進むと決めた、そのきっかけとなったお話。

 

「それが、こうして本当の事になったのが、まだ少し現実味がなくて。

 しかも、相手は世界を滅ぼす力を持っているのに、私たちはなぜか、馬鹿正直に真正面から乗り越えようとしているの」

 

「そう言われると、俺たちが考えなしの馬鹿に思えてくるな。

 ミレニアムは頭が悪い。本当の事だからだってところか?」

 

 そう口に出してみると、なぜか心当たりが多い気がするが、それはご愛嬌ということで。

 

 だって、青春に馬鹿らしさは必要不可欠じゃないか。

 

 クソゲーを楽しんだり、部活の下半期の予算7割をつぎ込んでロマン武器を作ったり、依頼の度に爆破の被害でとんでもない賠償金を請求されたり。

 

「でも、それで良いんだと思う」

 

 そんな下らない思い出を、いつか大人になって何度も振り返って。

 お酒を片手に、あの頃は良かったなと笑い飛ばす時間こそ。

 

「そんな青春の思い出を、ブルーアーカイブって言うんだよ。きっと」

 

「何よそれ。よく分からないし、非合理的だわ」

 

「ごめん。さすがに発言した俺本人もよく分かってない」

 

『……あの、決闘前にいちゃつくの止めてもらえませんか?』

 

 多分、最終決戦直前だということで、テンションがおかしくなっていたのだろう。

 

 いつまで経っても攻撃を始める気配のない俺に、堪忍袋の緒が切れたのか、Keyから通信越しに割と真面目なトーンの注意勧告を受けてしまう。

 

「悪かったってKey……改めて、決闘を始めよう」

 

 気合を入れなおし、この戦いのためにリオが用意してくれた強化パーツを起動させる。

 

 それは、背中とキャタピラ部分に取り付けられたブースター。

 割と巨体で、想像よりも遥かに重量のあるこの機体に、まさかの空中飛行を実現させた脅威のシステム。

 

 そして、この機体自体も空気抵抗などを考えて、大掛かりではないのだが、本体のデザインにもある程度の調整が施されている。

 

 なお、あくまで修正ではなく調整なので、あのクソださデザインはそのままである。

 

「えぇ。これこそがアバンギャルド君の新たな姿。

 ファイヤーズ・オブ・アバンギャルド君。コード621よ」

 

 しかし、身体は闘争を求めてる……。

 

「ちなみに、なんで621なの?」

 

「私が開発した621番目の強化パーツだからよ。

 別に、この前ゲーム開発部の皆と遊んだ時のゲームに、影響されたりはしていないわ」

 

「そっか。仲がよさそうで何よりだ」

 

 ちなみに、しばらくしてから俺は、リオがそのゲームの中でも、カスタマイズしてアバンギャルド君風の機体を作っていたことを知ることになる。

 

 なお、そっちのアバンギャルド君も、やっぱりクソださデザインだった。

 

「ねぇ、アバンギャルド君」

 

「何だ、リオ?」

 

「名も無き神々の王女から始まった物語も、いよいよ最後を迎えようとしている。

 ここまで関わってきた人間として、最後に、この決闘を始める宣言をさせてもらえないかしら」

 

「……? まぁ、それくらい良いんじゃないか?」

 

 この決闘における禁止行為は、第三者による協力。

 もちろん、戦術などの助言はアウトだが、開始の合図くらいは大丈夫だろう。

 

『言った側からいちゃついてるじゃないですか……。

 まあ、こちらは構いませんよ。先手を譲ると言ったのは私自身ですので』

 

「だってさ。俺はいつでも行けるから、リオの好きなタイミングで始めてくれ」

 

 モニターに表示された、ブースターの数値に問題がないことを確認し、上空に浮かぶアトラ・ハシースの箱舟をただ見つめる。

 

 その圧倒的な威容。

 

 ケセドを倒して自信を持てるようになってから、長らく忘れていた緊張感が、胸の中に湧き上がってくる。

 

「でも、もう何も怖くない」

 

 リオが、トキが、大切な皆がいるのだから。

 

 世界を滅ぼす厄災なんて簡単に倒してしまって、ハッピーエンドを掴んでみせる。

 

 彼女たちが、いつか世界を守る任務から降りて、青春の物語を歩めるように。

 

 俺は静かに、リオによる決闘開始の合図を待った。

 

 

 

「作戦名:オール・ユー・ニード・イズ・アバンギャルド君。

 第3シーケンスを開始するわ。仕事の時間よ、アバンギャルド君!!」

 

「まだ残ってたのかよその作戦名!! 全然締まんねぇな!!」

 

 

 

 というか、絶対最後のセリフ言いたかっただけじゃないか。

 

 でも、そういうところが嫌いになれないんだよななんて、我ながら面倒くさい感情を抱きながら、俺はKeyの待つアトラ・ハシースの箱舟へと向かう。

 

 ブースターによって指数関数的に加速されたこの機体は、一直線にアトラ・ハシースの箱舟を目指して。

 

 第3シーケンス――つまり、Keyとの直接対決が今、幕を開ける。

 

 

「――英雄武装。定義宣言」

 

 

 無名の守護者との戦い以来となった、アバンギャルド君の機体に込められた力を発動させる。

 神代の英雄たちの神秘が込められた、無色の力の集合体。

 

 しかし、この戦いで使うのは、以前の神弓オライオンではなく。

 

「宣言名:神剣ダモクレス!」

 

 アバンギャルド君の4本の腕の1つで手にしていた片手剣に、その神秘の力を籠める。

 

 片手剣といっても、アバンギャルド君基準の片手剣なので、普通の両手剣を優に超えるサイズである。

 

 まさに、それは剣というにはあまりにも大きく、分厚く、重く、そして大雑把な鉄塊。

 

 龍なら容易く殺してしまいそうな、とはいえ特別な力がある訳でもない巨大な剣に、アバンギャルド君の神秘を纏わせて。

 

 ついに、目の前にまで迫ったアトラ・ハシースの箱舟に、俺は重たい斬撃を叩きつけた。

 

 

「――セリャァッッ!!」

 

 

 アトラ・ハシースの箱舟の防御力と、神剣ダモクレスの破壊力。

 その力比べに勝利したのは、神剣ダモクレスの方だった。

 

 壁を壊されたアトラ・ハシースの箱舟の、内部へと繋がる通路があらわになる。

 

「ここまで巨大な物を攻略するなら、内部からシステムをぶっ壊すのが1番早い!!」

 

 破壊した場所から、内部へと侵入するや否や、今度は通路の四方八方に変化が訪れる。

 

 至る所の壁や床が、まるで溶けるように変化して。

 そこから、無限に等しい数の、無名の守護者が姿を現した。

 

「――これって現在進行形で、データの再構築が行われてるのかよ」

 

『その通りです、アバンギャルド君』

 

「Key!? いや、まぁ当然見ているよな」

 

 艦内の放送システムから聞こえてきたのは、Keyの淡々とした冷酷な声。

 

 そうやって話している間も、次々と無名の守護者が生み出される光景に固唾を呑みながら、俺はKeyの宣戦布告を待っていた。

 

『砂漠地帯では周囲からデータを収集し、追加のリソースを補充することが出来ない。

 だからこそ、1万エグサバイトという破格の条件を提示したのでしょう』

 

 無名の守護者は増殖を続け、いよいよアバンギャルド君の測定器が、天文学的な数字を表示し始める。

 

 まだ襲ってくる様子がないのは、これだけの戦力があるのだぞと見せつけて、こちらの戦意を奪おうという狙いか。

 

『ですが、名も無き神々の王女の力を舐めないでください。

 いくらあなたとはいえ、この数を相手に勝てると思っていたのですか?』

 

 通路を埋め尽くすのは、文字通りの無限の軍隊。

 

 恐らく奥に控えているであろう敵や、これから生み出される分も含めれば、どれほどの数になるのだろうか。

 

「……正直、驚いたよ」

 

『なんです? 言い訳ですか?』

 

「……違うさ、Key」

 

 これは確かに、世界を滅ぼす厄災だ。

 

 データが収集され続ける限り、無限に力を蓄え、世界を滅ぼす力へと変換する脅威。

 

 こんなものを世界に解き放ってしまえば、超高度な情報社会と化した現代では特に、誰も止められない災いになるに決まっている。

 

 というか、ピンポイントでぶっ刺さる名も無き神々の王女を、ミレニアム付近に眠らせていた無名の司祭の策略が、酷く恐ろしく感じてきた。

 

 ――だが、しかし。

 

「俺は、この程度で勝てると思ってる、Keyの頭脳に驚いたって言ってんだよ」

 

『――そうですか。なら、速やかに死んでください』

 

 直後、周囲を取り囲んでいた無名の守護者たちが、一斉に襲い掛かる。

 

 俺の挑発を皮切りに、世界の命運をかけた決闘の、第1ラウンドのゴングが鳴らされた。

 

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