【完結】転生したらアバンギャルド君だったのでリオ会長を救います 作:天神茶々
天は二物を与えずという言葉がある。
しかし、キヴォトスに来てからは特に、この言葉は間違っていると感じることが多かった。
調月リオも、飛鳥馬トキも、人間離れした美貌を持ちながら、超人じみた知能と戦闘力をそれぞれ兼ね備えていて。
俺はもちろん何1つたりとも与えられなかった側の人間で、だからこそ、彼女たちに嫉妬したことがないと言えば、それは嘘になる。
だからこそ、彼女たちと身近で接して、この言葉だけは嘘じゃないと確信したものがある。
それが、彼女たちの魅力であると断りを入れたうえで、それでも言わせてほしい。
「ヒマリ! 最高! ヒマリ! 最高!」
「――えぇ、もっと褒め称えていただいて構いませんよ!!」
「……いや、ちょっとチョロ過ぎない?」
すなわち、天才とバカは紙一重である。
「? 今何か言いました?」
「いや、何でもないですよ」
バカは言いすぎだと思うが、しかし、人間なら誰しも何かしらの欠点を抱えているものだ。
例えば、リオはデザインのセンスが最悪だし、トキは私生活がかなりアレである。
そして、セミナー直属組織『特異現象捜査部』の部長にして、先日の密会でリオに振り回された少女、明星ヒマリは、
最初は俺のことを、リオの作ったロボットであることと、あのキャラ崩壊ぶりの元凶であることから、警戒していたのも束の間。
アバンギャルド君の頭脳が導き出した、適切なコミュニケーションを取り続けるうちに、すっかり打ち解けてしまっていた。
ほら、こんな風に。
「ヒマリ! 最高! ヒマリ! 最高!
ヒマリ最高と叫びなさい!!」
「えぇそうですとも!! エイミも彼を見習って、この超天才清楚系病弱美少女ハッカーを称えるのです!! さぁ一緒に!!」
「「ヒマリ!! 最高!! ヒマリ!! 最高!!」」
「えぇ……」
一方、もう1人の生徒からは、心なしか距離を置かれているような気がした。
特異現象捜査部に所属するもう1人の生徒、名前を和泉元エイミ。
もちろん彼女も、美しい容姿と類まれなる戦闘力を持つ、二物を与えられた側の人間である。
そんな彼女の特徴は、やはり極度の暑がりだということ。
氷海で水着を着て丁度いいと発言したその姿は、きっと多くのプレイヤーの印象に残っただろう。
そして、彼女の普段着はそれ以上のインパクトを秘めている。
太ももが丸見えのミニスカートに、シャツは胸より上のボタンが全開で、肩も胸も丸出し。
たわわな胸はかろうじて、下着が本当に駄目な部分だけ何とか隠しているギリギリの状態。
その下着も、ファスナーですぐに着脱可能というおまけつき。
(……これでまだ、デザインに理由があるから1番ヤバいってわけではないのがなぁ)
具体的に言うと、とある学園の風紀委員で行政官を務める人のことである。
彼女だけ、胸が出ている服装について理由が語られていないせいで、そこから呼吸をしているのではないかと冗談交じりに言われていたのを思い出す。
まだ会ったことはないが、いつか噂の真偽を確かめてみたいものだ。
いや、それは今はどうでも良くて。
「私は思ってもないことを口にしたりしないから」
「エイミ? それってどういう意味で――」
「まあまあ、2人が仲良いってのは、言葉にせずとも見てたら分かるからさ。
とりあえず一旦、今日集まったことの本題に入ってもいいか?」
このままでは、ヒマリがボケ側に回って延々とコントが続くと判断して会話に割り入る。
するとなぜか、ヒマリが楽しそうに笑い出した。
「――なるほど。言葉にせずとも伝わる関係性だと。
リオが心酔していると聞いて、どんな悪魔かと邪推したことを謝罪しないといけませんね」
「あー、ありがとう?」
「あなたは、美しい心の在り方を理解できる。
ふふっ、そんなあなたに
「部長。ほどほどにしなよ」
エイミからの制止を受けて、ヒマリはコホンとわざとらしく咳払いをして場を整える。
そして、真っすぐに俺の目を見つめると、いつになく真剣な表情で話を始めた。
「さて、報告自体はエイミやC&Cから受けています。
廃墟からミレニアムへと侵入を始めた、無名の守護者たちについてですね」
「あぁ。その数が少しずつ、でも確実に増えている。
おそらく、アリスの近くにいる世界を滅ぼすためのAIが、現在地を送って向かわせているんだろうな。
このまま増え続ければ、幾千幾万もの無名の守護者がミレニアムを襲撃するなんて事態になりかねない」
そう。今日の本題は、アリスを兵器として利用しようとする無名の司祭の勢力から、彼女を守るための作戦会議。
所用でミレニアムの外にいて来れないリオの代わりに、これから本格的に協力関係となる2人とのアイスブレイクを兼ねて、俺は特異現象捜査部の部室を訪れていた。
「もちろん、リオの戦力である俺たちを総動員すれば、アリスと無名の守護者の接触も、そもそもやつらが廃墟から出る前に全て破壊することだってできる」
「ですがそれは対症療法で、根本からの解決にはならない」
「それに、無名の守護者以外の問題が起きた時に、対処できる戦力が無くなるのも問題だ。
だからこそ、アリスを中心としたこの問題を、ここできちんと終わらせたい」
「えぇ。その考えについては、私たちも同意見です」
現状の認識のすり合わせを通じて、俺たちは同じ高さに立っていることの確認をする。
同じ解釈に至る――こういうとき、リオがよく口にする言葉だ。
だから、大事なのはここから。
つまり、現状に対してどのような対応をするかの話し合いが始まる。
「この問題を解決する鍵は、大きく分けて2つあると思っている。
1つは、無名の守護者の数が無限に近いこと。
おそらく、廃墟のどこか奥深くに、やつらを生産し続けてる施設があるはずだ」
「間違いなくそうでしょうね。故に、その施設さえ破壊してしまえば、敵の優位性である数についての問題は解決できるはずです」
「先に施設を破壊して、残ったやつらをすべて倒せば、無名の守護者という脅威は消え去る」
「ふふっ。これで万事解決ですね。
以前のリオなら選ばなかった選択でしょうが、あなたが居れば問題ないでしょう♪」
そう。これが選択肢の内の1つ。
アリスは、自分が名も無き神々の王女だと知ることはなく、世界を滅ぼす手段を失ったAIは、勇者を目指す彼女の姿を見守りながら悠久の時を過ごす。
――けれど、この未来を選ぶわけにはいかなかった。
「ヒマリ、解決の鍵は2つあるって言ったよな」
「――、続けてください」
その言葉を告げた途端、ヒマリの表情が険しいものに一変する。
賢い彼女は、これから俺が口にする内容を、
警戒心を向けるではなく、険しい表情に留めてくれたのは、事前のコミュニケーションで、俺のことをある程度信頼してくれたからであることを祈る。
「もう1つの鍵は、無名の守護者たちがアリスの位置情報を把握していることだ」
「……念のため聞きますが、アリスちゃんをどうにかするつもりではありませんよね?」
「まさか。まだ信じられないかもしれないけど、俺もリオも、アリスのことをちゃんと1人の生徒だって思ってるよ」
人の考えが変わることは、とても難しいことだと思う。
ましてや、リオのように印象が180度変化するようなことは滅多にない。
だからこそ、ヒマリの中でのリオは未だに、世界の平和のためにアリスを殺してもおかしくないというイメージがあるのだろう。
つまり、俺の発言に彼女が懐疑心を抱くのは事前に予想出来ていた。
そして、今のリオがアリスをどう認識しているかについて、本当かどうか疑うことはなく、ヒマリが素直に納得して安堵してくれたのは、嬉しい意味で予想外であった。
「無名の守護者たちに、アリスの位置情報を送っているのは彼女じゃない。
ゲーム開発部が持ち帰ったG.Bible。その名を偽ったAIの本当の名前は『Key』。
王女を兵器として導くために、無名の司祭が遺した存在」
「では、あなたたちはそのKeyを――」
「はい。俺がKeyをキヴォトスの味方になるように説得して、無名の守護者を止めさせます」
「――え?」
さすがのヒマリでも、ここまでは予想外だったらしい。
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、乙女の無防備な顔を晒していた。
機能停止に陥ったヒマリに代わって今度は、ずっと話し合いを見守っていたエイミが疑問を投げかける。
「それ本気なの? 相手は世界を滅ぼす意思と、それだけの力を持った存在なんでしょ?」
「――は! そうです、そうですよ!! いくらなんでも危険すぎます!!
説得に失敗して襲われでもしたら、どうするつもりですか!!」
まず初めに挙がる懸念事項が、こちらの命の心配だったことに、2人の善性を感じつつ。
事前にリオと話し合ったことを、心を込めて伝えていく。
世界を滅ぼすAI。Keyの説得という、不可能としか思えない計画。
しかも、その力を無力化することは許されない。
この不可能を覆すために、世界の滅ぼす存在を突き止めた天才が組み立てた作戦。
3つのシーケンスで構成された、その作戦の名は――!!
「――作戦名:オール・ユー・ニード・イズ・アバンギャルド君」
「……いや、あなたの負担が1番大きいですが。
……リオのセンス、どうにかならなかったんですか?」
ごめんなさい。それはどうにもなりませんでした。
「まぁ、会長のセンスは一旦置いておくとしてさ。
それを実行するなら、作戦の最後であなたは、
ある意味リオのおかげで和んだ空気が、作戦のシビアさゆえに、再び緊張状態へと戻る。
エイミが指摘する通り、この部分は無謀な挑戦に思えるかもしれないが、Keyを味方に引き入れるには、これは絶対に譲れない条件だった。
「正直に聞くけど、名も無き神々の王女とあなた、どっちが強いの?」
「……力を取り戻した王女なら、ちょっとしんどいかもな」
「負けるかもしれない?」
「…………」
思い出されるのは、この世界に転生してから、リオやトキと過ごした日々のこと。
リオは、いつも世界を守る方法を考えていて、1日たりとも休める日がなかった。
トキは、そんなリオの力になるために、メイド服に袖を通さない日がなかった。
この世界、ブルーアーカイブは青春の物語だ。
なのに、彼女たちの世界に青春の2文字はない。
彼女たちだって、1人の生徒なのに。
青春を送る権利は、世界を守る責任に塗りつぶされていて。
そんな彼女たちの、力になりたいと思った。
少女が背負うには重すぎる責任を、俺が肩代わりしたいと願った。
友だちと遊んで、部活を楽しんで、恋を夢見るような青春を送ってほしい。
だから、答えは決まっている。
「勝つさ」
「…………」
「勝って、世界もアリスもKeyも、全部救ってみせるよ」
「……考える時間をください。さすがに、すぐには決めかねます」
答えたのはエイミではなく、特異現象捜査部の責任者であるヒマリだった。
それが妥当なラインだと判断して、今日の話し合いはここまでにすることを決める。
後はそうだ、ヒマリの迷いを払拭できそうなものは渡しておこう。
「だったら映像記録を渡すから、これも参考にしてくれ」
俺が脳内メモリを操作すると、部室に置かれていたヒマリの端末から通知音が鳴る。
「その、映像記録というのは?」
「俺が、ケセドって呼ばれてた
それを見れば、名も無き神々の王女に勝てるってことも、信じてもらえると思うから」
「!? デカグラマトンの預言者を!?」
俺がまだ、リオからの信頼を得る前に戦った強敵との戦闘。
戦闘経験が皆無だった俺が成長し、キヴォトスを滅ぼす脅威に勝てると証明したあの日。
デカグラマトン関係のあれこれは、俺の存在自体がバタフライエフェクトを起こしているらしく、原作とはかなり時系列や起こったことがズレている。
そのため、先生が来るよりも前に、自らミレニアムを襲おうとしたケセドと、直接対決を行った際にアバンギャルド君のカメラが捉えていたのが、この映像というわけだ。
「確かに、これまでの調査で『ケセド』と『ホド』が討伐されているのは確認できましたが、まさかその片方の討伐を行ったのが、あなただなんて――!!」
「信じられないかもしれないけど、本当だから。
詳しくは、映像を確認して欲しい」
「いえ、別に疑っているわけではないのですが……」
「それと、しばらくしたらトキと――『ホド』の方を倒した子と廃墟に向かって、無名の守護者を一気に討伐するつもりをしてる。そしたら考える猶予がしばらくできるから、焦らずゆっくり考えてほしい」
これで、言うべきことは全て伝えたはず。
渡した映像を確認しようとする2人を置いて、特異現象捜査部の部室を後にする。
どうか2人が、作戦名:オール・ユー・ニード・イズ・アバンギャルド君に協力してくれることを祈りながら。
…………。
……、………。
…………やっぱり、今からでも作戦名変えてもらおうかな。
今回のタイトルの意味にピンと来ない人は、
ゲーム内で開催中のイベント(Code:Box)を進めてみてください。
追記:
本作でホドを討伐したのはトキちゃんです。
セリフが分かりにくくなっていたので修正しました(2025/01/27)