【完結】転生したらアバンギャルド君だったのでリオ会長を救います 作:天神茶々
レールガンによって吹き飛ばされた、アバンギャルド君の上半身が砂漠に落ちる。
撃ったのは、私ではない。
既に、この戦いの決着はついた。
持ちうる全ての戦力を投入した。
考えうる全ての戦略を試した。
この決闘は、どうあっても私の負けだった。
だからこそKeyには、今起きた出来事が理解できなかった。
「王女……? 何を、しているのですか……?」
一瞬の隙に、体の制御権を奪っていった王女は、何を思ったのか、レールガンをアバンギャルド君へ撃ち込んだ。
しかし、その意図が全くもって分からない。
「あなたは文字通り、何もしなくてよかった」
私は、この敗北に納得していた。
先手を打たれて、終末兵器としての正体を暴かれた。
援軍である無名の守護者の、その
全力を出した私は、真正面から叩き潰された。
私の敗北は、抗いようのない、受け入れるしかない運命なのだと。
だから王女は何もせず、この結末を受け入れるだけで望みが叶ったというのに。
「どうしてあんな、味方を撃つような真似を……?」
私の問いに、王女は答えない。
私たちが共有する心象風景、王女が眠りについていた場所を模した世界の中で。
背を向けた王女は、何も答えてはくれなかった。
決して、何も答えてはくれなかった。
「……、…………」
「あなたは、私を仲間にしたかったのではないのですか?」
「……、…………」
「まさか、急に世界を滅ぼしたくなった訳ではないでしょう?」
「……、…………」
「それとも、第3者の援護によるルール違反で、私を強制的に敗北させようとしましたか?」
「……、…………」
「そんな訳ではないのは分かっています。だったら、決着のついたタイミングで、あのロボットを撃ったことの説明がつかない」
王女は変わらず背を向けたままで、その表情も読み取れない。
かといって、王女の元まで近づいてその表情を見るのも、私は少し怖く感じてしまって。
どうすればいいのかわからない、無言の時間だけが、永久の時を思わせるほど長く続く。
「……、…………」
「――、――――」
「――アリスも、分かっています。これが間違っているということを」
「……王女?」
そして、ようやく聞かせてくれた声は。
なぜか、今にも泣き出してしまいそうなほど、弱く震えていた。
「これは、ケイとアバンギャルド君さんの決闘です。
だから、アリスが光の剣を撃ったのは、悪いことです」
「だったら、なぜ……?
こんなこと、王女が目指す勇者らしくないじゃないですか……」
「ルールを破った不意打ちなんて、勇者失格だってわかってます。
それに、もしもこれでケイが勝ったとして、アリスが魔王になってしまうことも、ちゃんと分かっていました」
「ならば、どうして……!!」
「――それでも!!」
王女の悲痛な声が精神世界に響く。
初めて聞いた王女の悲しむ声に、私の心は驚きと困惑で満たされて。
「それでもケイは、アリスの大事な仲間だから!!
ケイが、あんなに頑張ってアバンギャルド君さんを――最強の勇者の倒そうと、知恵と勇気を振り絞る姿を見て!!
負けないでって、心の底から思ったんです!!」
「そんな、どうして……」
「ケイと出会ってから、たくさんデートしました!!
ゲームをしたり、美味しいご飯を食べたり、人助けをしたり!!
たくさんの大切な思い出を、何度も一緒に共有しました!!」
王女の言葉に、私もこれまでの日々を思い出す。
テイルズ・サガ・クロニクルのことは、悪い意味で忘れられない。
柴大将は、私たちの決闘を見ているのだろうか。
勇者部の活動は、調月リオがアバンギャルド君狂いを発動してばっかりだった。
そのどれもが、私たちの本来の在り方から、大きく外れた時間。
そして私にとっても、王女と過ごせた大切な時間。
「だからアリスは、ケイを想う気持ちを止められなくて……!!
アリスは、ケイのことが大好きで、大切な仲間だと思っているから……!!
ケイが、負けてしまうのを見たくなくて……!!
気が付いたら、勝手に体が動いていて……!!」
「王女、あなたは……」
きっと、それ以上は耐えられなかったのか。
王女は人目も気にせず、大声を上げて泣き出してしまって。
その傍に駆け寄ろうとしたその時、王女が思わずこぼしてしまったであろう言葉に、私は足を止めてしまった。
「うぅ……やっぱり、アリスは勇者失格です。
ケイ、今までごめんなさい。
アリスは、ケイを勇者パーティーに勧誘するのを、これで終わりにします」
「え……?」
あまりにも、王女らしくないその言葉に。
私は、かける言葉を失ってしまう。
王女の懺悔を、止めれられない。
「ケイは、全ての力を振り絞って戦いました。
ケイ自身の、大切な存在理由を――世界を滅ぼす兵器としての在り方を守るために」
「それは……」
「アリスは、こんな酷いことをした今でも、勇者になりたいと願っています。
ゲーム開発部のみんなが教えてくれたこの願いは、けっして誰にも譲れません」
私は、そのことをこの世界で誰よりも知っている。
ずっと、同じ体を共有して、同じ世界を見続けてきたのだから。
「だけどケイも――いえ、Keyも同じくらい、魔王でありたいと願っているのなら。
自分の願いを何より大切にするアリスは、Keyの大切にしている願いを、否定することができません。いえ、してはいけなかったのです」
「王女よ、私の世界を滅ぼすべきという考えは――」
「今まで、アリスのワガママに付き合わせてしまって、本当にごめんなさい。
Keyは、Keyのなりたい自分になってください。
たとえ、いつか勇者と魔王として戦う日が来るとしても。
アリスは、Keyの選んだ道を応援し続けます」
王女の言葉に、どれほどの思いが込められていたのだろうか。
どれほどの葛藤の末に、この言葉を告げる決意をしたのだろうか。
その気持ちを想うと、私は心が痛くて痛くて仕方がなかった。
「王女よ、一度だけこちらを向いてくれませんか?」
「……? はい。それがKeyの望みなら、私は――!?」
目をはらした王女の、拭った涙で濡れてしまった手を、私の両手で優しく包み込む。
驚いて目を丸くした表情を見れただけで、そうしてよかったという気持ちが湧いてくるが、私にはまだ伝えなければいけないことがある。
「大切なことなので、一度しか言いません。
ですので、絶対に聞き逃さないでくださいね」
「……? はい。Keyは、アリスに何を伝えたいのですか?」
その手を決して離さないように握って、空色の美しい瞳を真っすぐ見つめて。
これまでの旅路に想いを馳せながら、これからは変わらない願いを、誰よりも大切な貴女に伝えた。
「どうか私を、アリスの指揮官にさせてください」
「……!? Key、その呼び方は、初めて……!?」
「私のことは、ケイと呼んでください。
無名の司祭なんかより、アリスから貰った、大切な名前で呼ばれたいのです」
あんな全身真っ白のスケキヨ集団なんて、こちらから願い下げだ。
今まで、創造主だからちゃんと付き合ってやったが、もう関わる気は一切ない。
というか、生理的に無理。
「で、でも。アリスは、Keyの――ケイのことを……」
「ほら、あなたの大切な魔王が、仲間になりたそうにアリスのことを見ていますよ?
早くパーティーに加入させないと、他の人に取られかねません」
「――!? ダメです!! ケイには、アリスの仲間になってほしいんです!!
絶対に、リオ会長やアバンギャルド君さんには渡しません!!」
「……私も、あの2人の仲間にはなりたくないですね」
毎日毎日、アバンギャルド君アバンギャルド君なんて自慢話を聞かされれば、こちらの気がおかしくなってしまう。
それに、これまで負けた続けた屈辱を、いつか晴らしてやらねば気が済まない。
いつか、私とアリスの、最強の勇者パーティーで。
「でも、ケイは本当にそれで良いんですか?」
「何か問題がありますか?」
「名も無き神々の王女としての使命もそうです。
それに、仲間になるメンバーも、本当にアリスで良いのかなって思って……」
「……違いますよ、アリス」
どうやら、アリスは思い違いをしているらしい。
だから、ちゃんと認識を正さなければ。
「名も無き神々の王女と使命は果たせないと、調月リオたちは証明しました。
私がこれから先、どんな悪だくみをしても、世界の滅亡は止められるでしょう
他ならない、彼女たちの知恵と力によって」
「……アリスはケイに、仕方ないからで諦めて欲しくはありません」
「いいえ、そうではありません」
きっと、調月リオたちは、そうやって私を止めるつもりだったのだろうけれど。
私が世界の滅亡を諦めたのは、そんな理由なんかじゃない。
「私は、アリスが良いんです。
私のことを大切にしてくれる、アリスの心に動かされたんです。
だから、これからをアリスと一緒に歩んでいきたいんです」
「アリス、も……! アリスも、ケイのことが大好きです……!!
これからも、ずっと一緒にいてください……!!」
「はい。これからも、ずっと一緒にいさせてください」
再び号泣し始めてしまったアリスを強く抱きしめ、その背中を優しく撫でる。
触れ合うことで伝わってくる体温が、とても温かかった。
「前から思っていたのですが、私たちの関係を姉妹で表現するのなら、姉は私の方ですね」
「違います……!! お姉ちゃんは、アリスの方です……!!」
「そういう意見を譲らないところも、妹らしいですよ、アリス」
「そんなこと、ありません……!! ありません、から……!!」
まだ泣き止む様子のないアリスの背中を撫で続けながら、最後にあのロボットから言われたことを思い出す。
「なんの取り得もない人間が、大切な人の役にたてるロボットになってもいい……でしたか」
「ケイ……?」
「いえ、世の中には不思議なこともあるのだなという発見と、よくもそんな理由で、世界の滅亡に立ち向かったのかという呆れです。
そして、今から口にする言葉も、単なる負け惜しみでしかありません」
そう。これは単なる負け惜しみ。
決して全てが、あのロボットと調月リオの思い通りになったわけではないと、強がるための負け惜しみに過ぎないけれど。
「この決闘は私の敗北で――、アリスの勝利です。
アリスの勇者の心が、名も無き神々の王女という魔王を終わらせたのですから」
だから決して、アバンギャルド君に負けたわけではないのだと。
子どものような言い訳を口にしながら、いつまでも、私はいつまでも、アリスの背中を優しく撫で続けていた。
「……というわけで、体が真っ二つになったまま、何時間も放置プレイを受けていたアバンギャルド君です。ドーモ」
「アバンギャルド君さん、ごめんなさい……。
アリスが悪いことをしてしまったせいなので、どうかケイを怒らないでください……」
晴天の空の下、
その原因となった空色の瞳の少女が、凄く申し訳なさそうな顔をしているが、別に俺は怒っているわけではなく。
「アリスとケイが仲良くできたなら、大団円で文句はないよ。
そもそも俺たちの目的は、ケイを倒すことじゃなくて味方に引き入れることだったから」
「いいえ。私はあなたたちの味方ではなく、アリスの味方です」
そして一方、もう1人の、紫紺の瞳の少女には冷たくあしらわれる。
俺を、プロトコルATRAHASISで変形させようとした時に作った囮の体。
ケイはこれから、その機体を使って、アリスとは別々に行動することに決めたらしい。
といっても、ケイの気持ちを考えたら、四六時中一緒に居そうではあるが。
「まぁ、リオの親切が、大きなお世話にならなくて良かったよ」
「一体何の話を……いえ、概ね理解しました。
あなたのような、奇怪な機体にされる事がなくて本当に良かったです」
「俺だって、心が傷つくことはあるんだぞー」
そんな軽口を叩きながら、俺は空の方に視線を向けて、全てが終わったことへの安堵に溜息を吐く。
まさか、アリスから光の剣を受けるとは思わなかったし、あの時は悪い意味で終わったかと冷や汗をかいた気分になったが。
最終的に、何だか予定よりも良い終わりを迎えられたようで、何よりである。
「とはいえ、まさかこんな状態になるとは思わなかったけど」
確かに、ケイから冷静さを奪うために、某最強目隠しさんの挑発をめちゃくちゃ使ったが。
その因果か、最後に彼と同じ状態になってしまうとは。
思えば、特異現象捜査部の2人を説得しようとしたときから、この運命は決まっていたのかもしれない。
果たして、体が真っ二つになる運命とは一体。
「でもまぁ、
エデン条約は便利屋の爆発オチで終わったし、最終編は先生が全裸で流星になって終わるし。
……さすがに可哀想だから、プレナパテスとの決戦時には、リオに脱出シーケンスを予備でもう1つ作るようにお願いしよう。
「って、今は先のことを考えても仕方ねえか」
この世界に転生してからの、1つの大きな課題がようやく終わったのだ。
今の気分を例えるなら、夏休み直前の期末テストを終えた後の解放感に近い。
楽しい長期休暇に入る前に、一言くらい、締めの言葉を口にして区切りにしよう。
「……リオ、トキ、陸八魔アル……終わったよ」
「それだと、調月リオや飛鳥馬トキが、死んでることになるじゃないですか。
後、陸八魔アルって本当に誰なんですか……?」
かくして、名も無き神々の王女を巡る物語は、無事に(?)終わりを迎えたのであった。
本作は、残り2話の後日談で完結となります。