【完結】転生したらアバンギャルド君だったのでリオ会長を救います   作:天神茶々

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強さの基準を上げておきました、ピースピース

 

 ――ミレニアム郊外、廃墟区画深部。

 

 

「――――!!」

「――――!!」

「――――!!」

 

「「「――――――!!」」」

 

 

 まるで夏場の蚊のように、何度潰しても新しい敵が現れるのに飽き飽きしながら、最近の日課になりつつある敵の排除をこなしていく。

 球体状の頭部と、そこから伸びる触手のように細長い脚部。

 すなわち、名もなき神々に従う、無名の守護者の軍勢こそ、俺ともう1人の少女の討伐対象だった。

 

「――776。これで罰ゲームはアバン様で確定ですね」

「――いや、今倒したのでこっちも776。まだまだ分からないぞ」

 

 戦場を、2本のレーザー砲が焼き尽くしていく。

 1つは、少女の武装であるアビ・エシュフに備え付けられた主砲。

 もう1つは、俺がリオに頼んで用意してもらった、アバンギャルド君専用の広範囲殲滅用レーザー砲。

 

 無駄に数だけはある無名の守護者が、人々の活動する区域にまで侵入するのを防ぐために殲滅するのが、俺たち2人に与えられた使命。

 だが、調月リオの秘蔵戦力である、俺ことアバンギャルド君と飛鳥馬トキにとって、無名の守護者なぞ何の脅威にもならない。

 

 なぜならば、自分たちは世界の滅亡に抗うために戦う存在。

 そんな俺たちを、無名の守護者のような雑兵で止められるはずもなく。

 

「――主砲、フルチャージ」

「――主砲、フルチャージ」

 

「「――ファイア」」

 

 1体ずつでは、どう抗っても勝てないと悟ったのか、塊となって津波のように一斉に襲い掛かってきた無名の守護者たちに、俺たちの放った一撃が放たれる。

 廃墟の壁を壊し、床をえぐり、圧倒的な火力で無名の守護者を跡形もなく消し飛ばす。

 

「これで互いに倒した敵の数の合計は、トキが962体で俺963体。つまり勝負は」

 

「――はい、私の勝ちです」

 

 俺たちの背後を狙っていた個体が奇襲をする直前。

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 その時間、僅かゼロコンマ3秒。

 原作とは比べ物にならない、驚異的なスピードで3体の敵を倒したトキが、こちらにダブルピースを向けてきた。

 

「これでアバン様が963体、私が965体で私の勝ちです。

 罰ゲームはアバン様に行っていただきます」

 

「マジか……。いくら退屈だったとしても、強くなったトキ相手に、勝負とか賭けとかなんて言い出すんじゃなかったな」

 

 さて、一体何をしてもらいましょうかと悪い笑顔を浮かべているトキを眺めながら、彼女と何度も何度も模擬戦闘を行ったあの日々を思い出す。

 初めの方こそ、圧倒的に戦闘経験の多いトキにボコボコにされる日が続いたが、いつの間にかそれも逆転。

 具体的に言うと、ケセドとの戦いを乗り越えた辺りには、俺の勝つ割合が増えてきて。

 

 それに不満に感じたトキは、成長した俺に対抗すべく猛特訓を重ね、ついにアビ・エシュフなしで未来予測が出来るようになったのだ。

 その結果、「アビ・エシュフは重いです」と言って装備をパージし始め、アバンギャルド君のスペックですら理解のできない速度で戦い出したのが、先程の武装解除モードだったりする。

 

「……よく考えなくても、エリドゥの資源全部使ってなんとか実現させてた未来予測を、何の補助もなく実現させてるって凄すぎでは?」

 

「いえ、別に周囲の状況を全て把握しているわけではなく、”アビ・エシュフが提示するであろう未来予測”を、経験則で予想しているだけですので」

 

「……心の中まで読めるの?」

 

「これは、アバン様が分かりやすいだけですね」

 

 アバンギャルド君に表情を変える機能は搭載されていないので、分かりやすいかどうかについては議論の余地があると思う。

 それはそれとして、たとえトキの説明通りだとしても、やってることが常識外なのは変わりがないのでは?

 

「つまり私が最強であり、アバン様が罰ゲームを受けるのも当然だということです。ブイ」

 

「怖いから心を読まないで欲しい……。

 まぁ、罰ゲームは仕方がないとして、俺は何をすればいいんだ?」

 

「それは今考えますので、少しお待ちください」

 

「なら、ミレニアムに戻りながらにしよう」

 

 そうですねと頷くと、トキは再びアビ・エシュフに搭乗して隣を歩き始める。

 アバンギャルド君のキャタピラ音と、アビ・エシュフの駆動音が、廃墟の中で響いては消えていった。

 

「それにしても、本当に敵の数は無尽蔵ですね」

 

「これまで俺たちが壊した分に、エイミや他のC&Cの人たちが壊してくれた分を含めれば、一体どれだけの数になることやら」

 

「はい。だからこそ、生産区域を特定して破壊できれば良かったのですが」

 

 そう。可能であれば、それが一番だった。

 

 しかし、どれだけ探索しても該当する場所が見つからない。

 廃墟の深くに潜れば潜るほど、比例して敵の数は増えていったから、必ず近づいて行っているはずではある。

 

 最有力候補であった、無名の守護者たちを統括するそれらと、同じ名を持つ「ディビジョン」と呼ばれたシステムが変質した神名十文字(デカグラマトン)の預言者、ケセドは過去に俺たちで討伐済み。

 結果分かったことは、名も無き神々の勢力とデカグラマトンの勢力は、まったくの無関係という事実だけ。

 

 結局、出来ることはいつも通り、出てきたやつを壊して止めることしかないらしい。

 こと隠ぺいに関しては、無名の司祭たちが一枚上手だったというわけだ。

 

「ここまで派手にやったんだ。相手もしばらくはアリス探しに割く余裕なんてないはず」

 

「はい。ですが、次に相手が仕掛けてくるときはきっと……」

 

「まぁ、それを含めてリオの作戦だ」

 

「それは結局、いつものように、アバン様でごり押ししているだけでは?」

 

 トキ、それは言っちゃいけないお約束だぞ。

 

 リオが立てた作戦の第2シーケンスのことを思い出していると、いつの間にか地上に戻るためのエレベーターのところまで戻って来たらしい。

 

 廃墟を根城にしている機械たちが大型兵器を移動させるためなのか、アバンギャルド君やアビ・エシュフでも入れるほどの大きさのエレベーターがあるのはありがたい。

 

 エレベーターに乗り込み、表示された数字が段々と0に近づくのをぼんやりと眺めていると、ふと、トントンと肩をつつかれた。

 

「トキ、どうしたんだ?」

 

「さっきの罰ゲームの話なのですが、内容を決めました」

 

「おう。何にするんだ?」

 

 隣を見れば、頬を少しだけ赤らめ、ゴーグルを外して上目遣いでこちらを見るトキの姿が。

 やっぱりトキって美少女だよなと思っていると、僅かの間、目線を彷徨わせた彼女は、どこか意を決したように罰ゲームの内容を告げた。

 

「……私を、ドキドキさせてみてください」

 

「……ごめん、聞き間違え」

 

「私をドキドキさせてみてください」

 

「……わーお。結構食い気味に返された」

 

 ドキドキ……ドキドキ?

 

「今度、遊園地に行ってお化け屋敷にでも行く?」

 

「デートでしたらぜひ。ですが、恐怖心による動悸の話ではありません。

 その……男女同士のやり取り的な感じで、ドキドキとさせていただければと」

 

 思わず、視線を現在の階数が表示されているモニターへと向けてしまう。

 オレンジ色の光で示された値は-33。

 

 地上に到達するまでの間、俺に逃げ場はない。

 隣をちらりと覗き見れば、どこか期待するような目でトキがこちらを見ている。

 

(いや、これどうする!? 俺、そういった経験なんて全くないんだぞ!?)

 

 転生する前は、魔法使いや賢者まっしぐらだった人生。

 転生後は、そもそも普段から関わる人がリオとトキの2人しかいない状態。

 

 いや、ロボットに転生した以上、今の恋愛対象って人間でいいのだろうか?(混乱中)

 

 というより、キヴォトスって恋愛事情どうなってるの?

 女の子同士が普通? ロボ市民や犬市民が生徒と付き合ってたり?

 

「アバン様」

 

「は、はい!!」

 

「その、もし思いつかなかったら、壁ドンとかアゴクイなどはいかがでしょうか?」

 

(え!? ここで具体的な注文くるの!?)

 

 しかし、恋愛知識ゼロの俺が、他にどうすればよいのか、たとえアバンギャルド君のスペックをフル活用したとしても導けるはずもなく。

 そして、賭けをしてしまった以上、負けた方が罰ゲームという約束を破るわけにはいかない

 

 意を決して、トキの目を真っすぐと見つめ、俺はエレベーターの壁に右手を押し付けた。

 ドンッと強い音と衝撃が、2人だけの密室を揺らす。

 

「あ……」

 

(その、あ……って声何!? じゃなくて、やっぱり顔綺麗だな……じゃなくてさ!?)

 

 頭の中は大混乱。

 思えば、アバンギャルド君の頭脳で処理しきれなかった状況なんて、今が初めてかもしれない。

 

「すみません。本当にしていただけるとは、思ってなかったので。

 その、良ければぜひ、続きをお願いします」

 

(だから続きって何!? ……ええい、ままよ!!)

 

 右手はそのまま、トキの潤んだ瞳を見つめながら、残った左手をそっと頬の輪郭に添える。

 

 それはまるで、恋人同士がキスをする直前の様で。

 

(え? 本当にどうするの? 女の子に何を言えばドキドキさせられるかなんて分からない。

 ましてや、このままキスをするわけにもいかないし……)

 

 まさに、絶体絶命。

 自分から持ち掛けた賭けが、どうしてこうも婉曲な方法で、自分の首を絞めているのか。

 

 もう助かる方法はどこにもない。

 

 そう結論付ける直前、アバンギャルド君のシステムが、1本の蜘蛛の糸を差し伸べてくれた。

 

「トキ、目をつむって欲しい」

 

「え……?」

 

「お願い。目を閉じて」

 

 一瞬だけ驚いた顔をしてから、トキはゆっくりと目を閉じた。

 

(これ、完全に”待つ”時の顔じゃ――)

 

 浮かび上がってきた邪な気持ちを振り払って、俺はその時を待つ。

 

 アバンギャルド君が持つ、4本の腕の1つを無音で回転させて、狙うのは自らの横方向。

 数秒後、ピンポーンという音と共にエレベーターの扉が開く。

 

 そして、直後に放たれたレーザー砲は、エレベーターの乗り場の前で待ち伏せしていた、無名の守護者150体の活動を速やかに停止させた。

 

「よし! これで1113体!! 勝負は俺の逆転勝利だな!!」

 

「――え? え??」

 

 困惑するトキから可及的速やかに距離を取り、この危機的状況を脱したことに、心の中で全力のガッツポーズをする。

 地上に到着する直前、システムが待ち伏せした敵に気づいてくれて本当に良かった。

 

 若干の屁理屈っぽさは否めないが、これで罰ゲームを行う理由は無くなったはず!!

 本当に、心の底から安堵しながら、俺はトキに明るく声を掛けた。

 

「ほとんどズルだから、トキに罰ゲームをしろとは言わないけど、あんまり人を揶揄うなよ。

 ただでさえトキは美人なんだから、勘違いする人が出てきても――」

 

「……ヒロイン武装、定義宣言」

 

「――え?」

 

 声につられて振り返ると、いつの間にか接近していたトキによって、アビ・エシュフの主砲を目の前に向けられる。

 普段から無表情なことが多く、感情を読み取れないことが多い彼女だが、今だけはその気持ちが読み取れたような気がして。

 

「あの……もしかして、怒ってる……?」

 

「宣言名:私のドキドキを返せ砲。フルファイア――!!」

 

「あ――」

 

 視界が真っ白に包まれたのと同時に、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

□□□□ v(ᓀ‸ᓂ)vピースピース □□□□

 

 

 

 

 

「それで、これはどういう状況なの……?」

 

「乙女心の分からない、朴念仁ロボットのことなんて知りません」

 

「(発声機能ごと吹き飛ばされたので話せないアバンギャルド君)」

 

「……後で、記録映像を確認させてもらうことにするわ」

 

「それはダメです。いくらリオ様でも許しません」

 

「……トキ? どうかしたの?」

 

 その後、トキに守られながらエリドゥにまでは送ってもらえた俺は、プイっとそっぽを向く彼女のそばで、リオの修理を受けていた。

 

 きっと、決して口を開いてくれないトキと、物理的に口を開けない俺の両方から事情を聞けないリオは、この現状が理解できずに混乱していることだろう。

 

 そのことに、少しばかりの申し訳なさを感じていると、損傷規模の確認が一通り済んだろうか。

 伝えておくべきことがあるのと、リオは話を切り出した。

 

「ヒマリから、例の方針について返事が来たわ」

 

「――!!」

 

 まさかの言葉に顔を上げようとして、制御システムも壊されたため、全く動けないことを思い出す。

 そのままの姿勢で聞くことしかできない俺に、リオは優しく声を掛けてくれた。

 

「私たちの方針に賛同するって。

 明日のお昼にはアリスと無名の守護者を接触させて、Keyを目覚めさせるわ」

 

「……いよいよなんですね」

 

 明日、太陽が真上に昇る頃。

 遂に、長い時間をかけて計画した、世界を救うための作戦が始まる。

 

 アリスを守り、Keyを味方につけて、全員がハッピーエンドを迎えるための大勝負。

 

(いよいよか。この日のために戦闘スキルも、神様から与えられた力も鍛えてきたんだよな)

 

 いつか、世界を救ったリオたちが、安心して青春の物語を送れる日のために。

 決意を胸に、俺は改めて気合を入れなおす。

 

 そして、ピーと小さな機械音が鳴って、この場にいる全員の視線がそちらに向けられた。

 

「――あ」

 

 リオのあっけない声がして、謎の沈黙が流れる。

 

 果たして何があったのかと思っていると、リオが気まずそうにこちらを向いて、遠慮がちに尋ねてきた。

 

「……その、思ったよりも内部の損傷が激しかったみたいなの。

 ……作戦の決行は、やっぱり修理が終わってからにするわ」

 

「……締まりませんね」

 

 機体を全力で吹き飛ばしたトキのせいだろとツッコミを入れるのは、損傷のため叶わなかった。

 

 

 

 

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