【完結】転生したらアバンギャルド君だったのでリオ会長を救います   作:天神茶々

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 原作開始!!
 モモイ視点でお送りします。

 後、アバンギャルド君要素少なめです。
 


時計じかけの花のパヴァーヌ編
盛大に、何も恋が始まらない


 

「アリス、恋愛ゲームをつくってみたいです!!」

 

「「恋愛ゲーム?」」

 

 バタンと扉が勢いよく開かれる音がするやいなや、アリスの元気な声が聞こえてくる。

 

 先に部室に着いて暇を持て余し、既に10戦ほど格闘ゲームで遊んでいた私たちは、一体何事かと互いに顔を見合わせ首をかしげていた。

 

 ちなみに、ゲームは2勝8敗で妹のミドリが勝ち越している。

 理解できぬ。

 

「アリスちゃん、急に恋愛ゲームだなんてどうしたの?」

 

「はい! まずはこれを見てください!!」

 

 そういってアリスが取り出したのは、とある1冊のマンガだった。

 いかにも少女漫画チックな表紙に書かれたタイトル名は「カグラ様は告らせたい」。

 

「これ、最近有名な恋愛マンガだ!! 私も読んだよ!! めっちゃ賢い2人が、どうやって相手から告白させるか恋愛頭脳戦を繰り広げるってやつ!!」

 

「あーこの作品かぁ。恋愛頭脳戦って銘打ってるけど、割とポンコツ感が強くなってくる……」

 

「でも、そこも含めて面白いじゃん!!」

 

「うん。まぁ、私も別に嫌いなわけじゃないけど……」

 

 あれ? ミドリが何かしおらしい?

 

 少し違和感を覚えたものの、それが大きくなるよりも前に、アリスの大きな声が私の思考を中断させた。

 

「この作品がアリスに教えてくれました!! 学生生活に恋愛は必要不可欠!!」

 

「そ、それはどうだろう? 必要不可欠、ってわけではないと思うけど……」

 

「ですが、アリスに恋心はよくわかりません……。

 そう思っていた時、ゲームにも恋愛を疑似的に体験できるものがあると聞きました!!」

 

「それで、最初の話に繋がるってこと?」

 

 そう。元々この話は、アリスが恋愛ゲームを作りたいと言い出したことから始まった。

 最初はどうしてかと思ったけれど、今なら分かる。

 

「つまり、アリスちゃんは恋愛ゲームを通じて、恋が何か知りたいんだ」

 

「はい! 恋愛ゲームを作ることが出来れば、それは恋心を理解したと言えるはずです!

 モモイ! ミドリ! ぜひアリスに協力してください!!」

 

 確かに、私やミドリやユズのプレイするゲームに、恋愛ゲームはほとんど含まれない。

 

 RPGになら、主人公とヒロインの恋愛要素がないわけではないが、それも恋愛ゲームと比べれば、ごく僅かな描写しかない。

 

 だからこそ、出会った頃のアリスがゲームで知識を蓄えた際に、恋愛方面の内容はあまり含まれなかったのかもしれない。

 

 それが、恋愛マンガとの出会いによって、アリスの知的好奇心が一気に膨らんだのだろう。

 うん。アリスらしくて、なんだか微笑ましい。

 

「でも、そういえばアリスちゃんは、どこでそのマンガを知ったの?」

 

「はい! この漫画はチビメイド様が貸してくれました!!」

 

「え、ネル先輩が!?」

 

 ミレニアムのエージェントとして活躍する部活、Cleaning&Clearing――通称C&C。

 そのC&Cで最強と名高く、キヴォトスの中でもトップクラスだと評される人物。

 

 美甘ネル先輩は、ミレニアムの生徒なら誰もが知っている超有名人。

 彼女のコールサイン00は、約束された勝利の証とさえ呼ばれていて。

 

 ちょうどこの前、訳あってC&Cと2回ほど敵対する機会があったが、その時に間近で見た彼女の性格は、非常に好戦的で男勝り。

 

 ましてや、恋愛マンガのような乙女的な趣味とは、全く無縁そうな印象だったというのに。

 

「ネル先輩、恋愛マンガ好きなんだ……」

 

「いえ、チビメイド様によると、最近C&Cに入った後輩からオススメされて、とりあえず読んでみただけとのことです!!」

 

「だよねぇー! さすがに、ネル先輩が好きで恋愛マンガなんて読むわけ」

 

「でも、それはそれとして、チビメイド様も気に入ってるみたいでした!!

 特に、家の事情で1人だけ花火を見に行けないヒロインを、強引に連れ出してくれるシーンが好きみたいです!!」

 

「「…………」」

 

 知らないところで秘密をバラされたネル先輩に、心の中で黙祷を送る。

 そして、怒られたくもないので、この秘密は聞かなかったことにすると同時に決めた。

 

 こらミドリ、だから意外とリードされるのが好きなんだとかボソッと言わないの。

 正直、同じこと思ったけどさぁ!!

 

「そ、そういえばさ! ネル先輩にそのマンガを勧めた人って、C&Cに新しく入った人なんだよね! 私てっきり、C&Cはあの4人で変わらないのかなって思ってた!!」

 

「お姉ちゃん、話の変え方下手過ぎない……?」

 

 許せミドリ、これしか思いつかなかった。

 

 というより、ここまでして強引に変えなければ、私だって気になるあまり、ネル先輩のあれこれを、根掘り葉掘り聞きたくなってしまうに決まってる。

 

「それでアリス、C&Cの新人さんってどんな人か聞いたりしなかった!?」

 

「チビメイド様の話によると、『自分に喧嘩売ってくる生意気な後輩』とのことです!」

 

「さすがC&C……あのネル先輩に喧嘩なんてふっかけられるんだ」

 

 私たちのような一般生徒なら、喧嘩を売るどころか話しかけることすらかなり怖いというのに。

 わざわざC&Cに入る辺り、自分の戦闘力に自信のある、意欲の高い人といったところか。

 

「だけど、いきなりネル先輩に挑むのはちょっと無謀すぎるような……」

 

「それが、入部テストも兼ねて戦った結果、決着がつかず引き分けに終わったみたいです!!

 飛鳥馬トキ先輩……これは、レベルカンスト勢の登場の予感がします!!」

 

「嘘!? ネル先輩と互角!?」

 

 訂正。どうやら、超期待の新人らしい。

 ネル先輩と互角だなんて、そんなの当然、キヴォトスの中でも上から数えた方が早いだろう。

 

 噂に聞く、ゲヘナの風紀委員長やトリニティの正義実現委員会のトップ。

 もしかすると、彼女たちと同格、もしくはそれ以上の実力者かもしれない。

 

「突如現れた謎の新人。これまで知られていなかった実力者でありながら、実は恋愛ものが好き……これ、新作に使えるかも……!?」

 

「お姉ちゃん。さすがにリアルの人を参考にするのはちょっと……」

 

「でもでも!! ぶっちゃけ私たちだって、恋愛は分かんないじゃん!!

 恋愛ゲーム作るってことは、攻略キャラを何人も考えなきゃいけないでしょ!?

 それをほら、性別だけ男の人に変えれば、ミステリアスキャラが出来そうじゃん!!」

 

 そう。ミレニアムは女子高――というより、キヴォトスの生徒に男性はいない。

 そんな恋愛相手がいない状態で、アリスの言う恋愛のある学生生活なんて送れるはずもなく。

 

 恋愛を楽しむなら、創作で楽しむか、それか『大人』と付き合うかぐらいの選択肢しかない。

 

(いや、中には「女の子は女の子同士で恋愛するべき」って言う過激派もいるみたいだけど、それは一旦無視するとして)

 

 そして残念ながら、モモイの中の男性像は、1人の例外を除いて創作物の中にしかなかった。

 

「じゃあ、どんなキャラなら納得するのさ!!

 身長が低くて、甘やかしたくなる可愛い系!?

 こう……メガネとかかけてそうな知的キャラ!?」

 

「お姉ちゃん。ナマモノが駄目って言いたいだけで、別にキャラ設定に文句があるわけじゃ」

 

「ピンチに駆けつけてくれる白馬の王子様とか!?」

 

「…………」

 

 途端、急に黙り込むミドリ。

 

「……?」

 

 急な様子の変化に戸惑っていると、ミドリはかなり遠慮がちに、そして小さめな声で口にした。

 

「その……『先生』とか、どう?」

 

「ミ、ミドリ……?」

 

 さっきから散々、リアルの人を参考にするのは良くないって言ってたじゃん。

 口にしかけたツッコミは、ミドリが見せた表情の衝撃によって消し飛ばされた。

 

 若干頬を赤らめ、少しうつむきながら、明らかに私たちから目を逸らしていて。

 

「……、…………」

 

 多分、ミドリが口にした先生とは、別に職業:教師の人を攻略キャラにしようという提案ではないと思う。

 

 きっと、皆から『先生』と呼ばれて慕われている、シャーレの先生のことを言っていて、いて、いて……、いて……。

 

 駄目だ。妹の初めて見せる姿に、頭の中の情報が完結しない。

 

「ほら。この前ゲーム開発部が、廃部になりかけた時も力になってくれてさ。

 戦闘の指揮も上手くて、G.BibleをC&Cから手に入れる時も手伝ってくれて。

 ミレニアムプライスで受賞したときも、一緒に祝ってくれて……」

 

「…………」

 

 空いた口が塞がらないとは、このことを言うのか。

 点と点が線でつながったような、そんな感覚を覚えて。

 

「……ミドリ、1つ聞きたいんだけどさ」

 

「何? お姉ちゃん?」

 

「私、ミドリの部屋から勝手に『カグラ様』借りて読んだんだよね。

 どうして、あのマンガを買ってたの……?」

 

 きっと、この言葉がトドメだった。

 

 一気に頬を赤く染めて、目を大きく見開き、全てを察したミドリは声にならない悲鳴を上げて。

 

「もしかしてミドリ、先生のことす」

 

「ねぇユズ!! ロッカーの中にいるよね!?

 い、一緒に恋バナしよ!! きっと私たち気が合うはず……!!」

 

 勢いよく立ち上がり、この場から緊急離脱したミドリは、慌てて部室の奥にあるロッカーへと向かう。

 

 部活の最後のメンバーであり、部長を務める花岡ユズは、人前に出ることが苦手で、普段は狭いロッカーの中に籠って作業をしていることが多い。

 

 そんな彼女が、最後の助け舟だと言わんばかりに、ミドリはどうにかして扉を開けて、ユズをこの場に引きずり出そうとする。

 

 混沌と化した現状に、何を言えば良いのかわからなくなった私は、最後に1つだけ呟いた。

 

「……ミドリも、話の変え方下手じゃん」

 

「あ!? ちょ!? かたっ!?

 ユズ!? どうして徹底抗戦を……!?」

 

「……? モモイ、どうしてミドリは慌てているのですか?」

 

 そうだね、アリスはまだ恋のこと分かんないもんね。

 

 この場で唯一の癒しとなってしまったアリスの頭を撫でながら、首をかしげる彼女と共に、ガタガタと激しく揺れるロッカーでの攻防を、私は静かに見守っていた。

 

 

 

 

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 私は、才羽モモイは、ごく普通の女の子だ。

 

 キヴォトスで頭脳明晰な生徒が集まる、ミレニアムサイエンススクールに通っているけど、別に成績が凄く良いとかそういうわけではなくて。

 

 大好きなゲームを部活動として出来る、ゲーム開発部に所属する、ごく普通の女の子。

 

 部長のユズと、妹のミドリと、なんやかんやあって部員になったアリスちゃんの4人で、毎日楽しく過ごしてる。

 

 私の過ごす日常は、絵に描いたような普通の生活。

 

 朝起きて学校に通って、授業を受けて、放課後は友だちと遊んだり、ゲーム開発部のみんなとゲームを作ったりする毎日。

 

 強いて挙げるなら、アリスちゃんが部員になるまでの騒動は非日常だったかも。

 

 それと、皆で獲れたミレニアムプライス!!

 私たち4人の頑張りが認められた気がして、すっごく嬉しかった!!

 

 周りの人たちからもすっごく褒められて、今でも思い出すたびに笑顔になっちゃう。

 

 でも、それはあくまで一時的なもの。

 また賞を取るなんてことでもなければ、気が付いたらいつもの日常に戻っているだろう。

 

 いや、もしかしたらもう、既に元の日常に戻っているのかも。

 

 だから、思いもしなかったのだ。

 

『全く動く気配のない変な機械を見つけたから、今度ゲーム開発部の皆で見に来ない?』

 

 ヴェリタスのハレ先輩からのメールが、私たちを再び非日常へと誘うきっかけだったなんて。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「ま、待って……アリスちゃんの様子が……おかしい」

 

「アリス……?」

 

 異変に気付いたユズの声に、皆が一斉にアリスの方へと目を向ける。

 一方、注目の的となったアリスは、目を閉じたまま動くことも、発言をすることもない。

 

 ある日突然、恋愛ゲームを作ろうと元気よく言い出すようなアリスがだ。

 凍ってしまうような沈黙が、強烈な嫌な予感が、ヴェリタスの部室を支配する。

 

「……起動開始」

 

 沈黙を破ったのは、アリスの方だった。

 

 同時に、まるでアリスの呼びかけに応じるように。

 これまで起動することのなかった機械に、妖しい紫色の光が灯る。

 

「わわっ! なんで急に動くの!? コタマ先輩、何かした!?」

 

「マキ、違います。私は何も……」

 

「……気を付けて! 何か様子がおかしい!」

 

「一体、これは……」

 

 ゲーム開発部のみんなも、ヴェリタスのみんなも、この場に居合わせた先生も。

 明確な異常事態が起きた事だけは察していて、けれど、それが何を意味するかまでは理解できなくて。

 

 ――故に、私たちは既に手遅れだったのだ。

 

「……コードネーム『AL-1S』起動完了」

 

 再び開かれたアリスの目は、動き出した機械たちと同じ紫色の光を宿していて。

 ガチャリと音がして、アリスの所有する銃――光の剣:スーパーノヴァの銃口が、私に向けられる。

 

「……え?」

 

「プロトコルATRAHASISを実行します」

 

 アリスの銃は、エンジニア部というミレニアムでも特に優れた技術者たちが、そのありとあらゆる叡智を詰め込んだ、いわゆるレールガンと言われる武器だ。

 

 アリスが光の剣をもらった時の、エンジニア部の具体的な説明は忘れてしまったけれども。

 記憶が間違いなければ、あのレールガンは宇宙戦艦に搭載する想定で作られていたはず。

 

 つまり、ミレニアムの巨大な設備でも破壊できるスペックを持ち、多少頑丈なキヴォトス人であっても、問答無用で消し炭に出来る。

 

 そんなレールガンの銃口が、今、モモイの目の前に向けられていた。

 

(え、嘘……。アリスちゃん、どうして……?)

 

 いや、心のどこかでは、気づいていた。

 

 今目の前にいる彼女は、アリスではない。

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 その何かに、モモイを相手に手加減する理由はない。

 

 そして無慈悲にも、アリスのフリをする誰かによって、レールガンはその力を開放させられた。

 

(え、やだ。死にたくない……!! 死にたくないよ……!!)

 

 直後、視界が真っ白になって、衝撃が全身を激しく揺らす。

 走馬灯のように、これまでの日々のことが駆け巡る。

 

 家族と、ミドリと成長していった日々。

 ミレニアムに入学したときのこと。

 ユズの作ったゲームに感激を受けて、ゲーム開発部に直接乗り込んだこと。

 廃部になりかけて、すっごく大変だった時のこと。

 廃墟に侵入して、C&Cを敵に回して、めちゃくちゃ危険だった時のこと。

 いくつもの困難を乗り越えて、ミレニアムプライズで受賞した時のこと。

 

 作りかけの、恋愛ゲームのこと。

 

(これからも、みんなとゲームを作っていけるって思ってたのに……)

 

 後は、最後の攻略キャラのパートだけだったのだ。

 

 敵に追い詰められた主人公を、颯爽と助けてくれるラストシーン。

 それさえ終われば、ゲームは完成するはずだった。

 

 ゲームを完成させたら、またみんなで新しいゲームを作って。

 そんな楽しい日常を、これからも過ごせるはずだったのに。

 

(そういえば最後の攻略対象は、ミドリの案を採用した白馬の王子様キャラだったけ)

 

 ふと、私にも王子様が現れればいいのにと思う。

 ちょうど今起きたピンチを、颯爽と救ってくれる王子様。

 

 例えば、これから作る予定だったゲームのように。

 

「悪いなモモイ。怖い目に遭わせちまった」

 

 名前を呼んでくれて、カッコイイ背中を見せてくれるような、そんな王子様が――。

 

「――え?」

 

 幻聴かと、思った。

 

 でも、私に向かってレールガンが放たれたはずなのに、それでも生きている。

 意識も体も、何もかもが無事のまま、私は生きている。

 

 いつの間にか閉じていた瞼を、ゆっくりと開く。

 

 私は無事だったけれど、周囲の物はレールガンに巻き込まれたのか、砂ぼこりが激しくて何も見えない。

 

「ミドリ!? ユズ!? アリス!? みんなは!?」

 

「あぁ。それなら大丈夫だ。なぜなら――」

 

「――コールサイン03、ゲーム開発部の2人の無事を確認です♪」

 

「――コールサイン02、ヴェリタスの無事を確認」

 

「――コールサイン01、ご主人様……じゃなかった!! 先生は無事だよー!!」

 

「C&C!?」

 

 ミレニアムの最高戦力、C&Cのメンバーがこの場に集結していることへの驚きが、まず初めに私の心を支配する。

 

 次に抱いたのは、皆が無事だという事実への安堵。

 そして、最後の感情こそが。

 

「あなたは、誰……?」

 

 先生とは違う、かっこいい男の人の声。

 どんな手段かは分からないけれど、この人が私をレールガンから守ってくれたのは間違いない。

 

 白馬の王子様のように、私を救ってくれた誰かのことを、どうしても知りたかった。

 そしてゆっくりと、砂ぼこりが晴れていき、彼の姿が見えていく――。

 

 ――その直前だった。

 

「……こうするしかない。そう事前に想定していたとはいえ、実際の被害を目の当たりにすれば、心の底から罪悪感が湧き上がってくるわね」

 

 聞こえてきたのは聞き覚えのある、けれど僅か数回しか聞いたことがない女性の声。

 

 初めは入学式のあいさつで、それと、ミレニアムの式典関係などで何度か。

 

 つまり、公的な場でしか聞けない雲の上の人物の声が、僅か数メートルしか離れていない場所から聞こえてくる。

 

「ヴェリタス、ゲーム開発部、そして先生。

 記録的な出会いがこうなってしまったことは、後で正式に謝らせてちょうだい」

 

 コツコツと、ヒールで歩く硬い音がする。

 長く美しい黒髪と、同じ女性として羨ましくなるほどスタイルのいい立ち姿。

 ミレニアムを統べるビッグシスターの異名を持つ、彼女の名前は。

 

「私の名は調月リオ。このミレニアムで生徒会長を務める者。

 そして彼女――今、アリスの体を乗っ取っているKeyに、『宣告』をする者でもある」

 

「Key……?」

 

 どうやら、それが何者かの名前らしい。

 ということはつまり、会長はアリスが乗っ取られることを事前に想定して――?

 

「Key。あなたは目覚めたばかりで、何も知らないでしょうから教えてあげるわ。

 ”名も無き神々の王女”は、世界を滅ぼせない。

 あなたがどんな計画を企てようとも、彼らが全て止めてみせる」

 

 リオ会長の声と共に、やがて、砂ぼこりが完全に消え去る。

 

「今、あなたを取り囲む彼女たちがそう。ミレニアムの誇るエージェントC&C。

 そして、正面に立つ彼こそが、私の切り札にして最高のパートナー」

 

 ヴェリタスの部室だった場所の奥では、C&Cの3人が皆を守る様に立っていて。

 私を庇うように、1体の大きなロボットがそびえ立っている。

 

 キャタピラとなっている脚部、なぜか4本接続された腕、背後から見ても、明らかにおかしな形をした頭部。

 

 よく見れば、右手に構えていた盾の形もおかしい。

 これまで様々な盾をゲームで見てきたが、あんなにヘンテコなデザインは見たことがない。

 

 もう、何が何だか分からないことだらけだけど、1つだけ確かなことがあるとすれば。

 

「彼の名前は、最強ロボットのアバンギャルド君よ。覚えておきなさい」

 

「うわぁ!? ダサ……」

 

 こんなクソださデザインのロボットを、まさか白馬の王子様かもしれないと思った事実を、一刻も早くこの世界から消し去りたかった。

 

「「「「…………」」」」

 

 あまりにもふざけた外見、あまりにもふざけた名前。

 それらを最強ロボットだと、自信たっぷりに言い張るリオ会長。

 

 私は守られる形だったから、その背中しか見えないが、もしかすると正面からの景色は更に酷かったのかもしれない。

 

 その証拠に、ヴェリタスの皆も、先生も、ミドリもユズも、さらにはC&Cの3人も「マジかこの人」みたいな顔をしている。

 

「……?? ???????」

 

 あーえっと、Key……だったっけ? 彼女(?)も完全に呆然としてる。

 まるで、テイルズ・サガ・クロニクルを初めてプレイした時のアリスみたい。

 

「――はい、隙ありです」

 

「???? ――え?」

 

 私たち全員が呆然と立ち尽くしていると、さらに追加で、聞き覚えのない声とともに、何者かが乱入する。

 

 そして、何か軽い音がした後、Keyはその場で倒れて動かなくなってしまった。

 

「ふざけた名前を告げることで、相手の思考を止める作戦。上手く決まりましたね。

 ちなみに、手刀で意識を失わせただけなので、アリス様の体に怪我は有りません。ご安心を」

 

「ありがとうトキ。それと、ふざけた名前ではないわ」

 

「…………イエス、マム」

 

「トキ? 今の間は何……?」

 

 トキと呼ばれたメイド服の少女はリオ会長から目を逸らし、助けを求めるように私たちを見る。

 しかし、私を含め、誰も助け船を出すことはなかった。

 

 何とも言い難い空気になる中、リオ会長がわざとらしく咳払いをして、この場を仕切りなおす。

 

「とりあえずみんな。ここから移動しましょう。

 巻き込んでしまった以上、私には説明責任がある」

 

「リオ、だっけ? それは私にも?」

 

「えぇ。むしろ先生は、絶対に関わってほしくて巻き込んだと言っても過言ではないもの」

 

「そっか。分かった、案内して欲しい」

 

「えぇ。じゃあ着いてきてちょうだい」

 

「「「…………」」」

 

 それぞれみんな、思うところがあっただろう。

 僅か数分前まで、私たちは日常生活の中に生きていた。

 

 それが今、アリスは何者かに乗っ取られ、C&Cやリオ会長が直接出てくるような何かに、巻き込まれるようとしている。

 

「お姉ちゃん!! 無事だった!?」

 

「!? ミドリ!! うん、私は大丈夫だけど……」

 

 いつの間にか駆け寄ってくれたミドリと、その後ろで着いてきてくれたユズが、心配そうにこちらを見つめている。

 

 それはきっと、私の安否と、これからへの不安がまぜこぜになっていて。

 

「……きっと大丈夫だよ。ほら! 今回も先生だっているんだし!!」

 

「……確かに。うん、そうかもね」

 

「アリスちゃんのことは心配だけど、C&Cの人もリオ会長もいるんだから、大丈夫だよね?」

 

 全員、あえて彼のことには触れず、互いに互いを励まし合って、先に向かっていたヴェリタスの皆の後ろに着いていく。

 

 その直前、おそらく最後尾から皆を守る役割を任されていた(くだん)の彼が、小さく呟いたのを、私は見逃さなかった。

 

「……この騒動が終わったら、エンジニア部に頼んででも見た目を改良してもらおう」

 

 ……思わずダサいと言ったのはごめんなさい。

 ……でも、正直その方が絶対に良いと思う。

 

 ……もしかしたら、Bluetooth(余計な機能)とか付けられるかもだけど。

 

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