【完結】転生したらアバンギャルド君だったのでリオ会長を救います 作:天神茶々
「名も無き神々の王女、それにKeyか……」
「先生。信じられないかもしれないけれど、これは事実なの」
ミレニアム、セミナー専用会議室。
ゲーム開発部とヴェリタスのメンバーに見つめられながら、リオはこれまでの経緯と、巻き込んでしまったことへの謝罪を行っていた。
両隣に、トキと俺を控えさせて。
もう一度、繰り返そう。
両隣にトキと俺――即ち、アバンギャルド君を控えさせた状態である。
(……さっきから、みんなチラチラとこっちに視線を向けてきてるんだよなぁ)
アバンギャルド君の機体は、会議室の天井スレスレまでの高さがあり、謎に威圧感がある。
その威圧感の正体が、満場一致でクソださいと評されるロボットなのだから、みんな気になって話に集中できてない様子だった。
まあ、気持ちはとても分かる。
俺だって、空崎ヒナが話している隣で、天雨アコが横乳晒してたら気になって話に集中できないだろうし。
「失踪した連邦生徒会長が、アリスを廃墟の奥に隠していたのも、恐らくは無名の司祭やKeyから守るのが目的。彼らがアリスを手に入れて、世界の滅亡が始まるのを防ぐために」
「にわかには信じがたい……。でも、リオが示した証拠は、どれも君の説明に説得力を持たせるものばかりだ……」
逆に、最初からずっと真剣に話し続けている2人は何なのだろうか?
リオは本人のセンスだからと説明できるが、先生は集められたメンバーの中でただ1人、一度もアバンギャルド君を見ることなく、常にシリアスな感じでリオと質疑応答を続けている。
「分かった。私はリオの話を信じるよ。
そして、それが生徒の安全を脅かす事件に繋がるのなら、解決のために手伝わせてほしい」
「その返事を聞きたかったわ。他の人たちからは何も質問などはない?」
「どうしようお姉ちゃん。あのロボットが気になりすぎて、何も話を聞いてなかった……!」
「ごめん、私も……」
「グラフィティの参考に……いや、参考に出来るとこなさそうだなぁ……」
「あのロボットに盗聴器を仕掛ければ、会長の弱点を握れるかも……?」
さすがアバンギャルド君。相変わらずの酷評だ。
この機体の性能なら、どんなに小声で話されても近くであれば聞こえるのだが、やはり予想通りと言うべきか、会議の邪魔になっていたらしい。
これは、笑ってはいけないキヴォトス24時の出演オファー待ったなし。
うん。かなり不名誉である。
後、コタマの
「質問、いいかな?」
「えぇ、好きなだけ聞いてちょうだい。ハレ」
「どうして、私たちを危険にさらす必要があったの?
特に、モモイちゃんはそのKeyってAIに殺されかけたんだよ?」
「私も……同じことを、聞きたいです……」
一方、ギリギリ集中力の方が勝っていたのか、リオを問い詰めたのは、ヴェリタスの3人の中で一番しっかりしているハレと、いざというときに度胸を見せることの多いユズの2人。
鋭い視線を向ける2人に、リオは丁寧に説明を返す。
「理由は2つ。まず1つ目は、Keyを油断させる必要があったから」
「油断?」
「えぇ。KeyがG.Bibleと偽って、モモイのゲーム機の中に潜伏していたことは話したわね?
でも、その状態のKeyは、せいぜい位置情報を送り続けるぐらいしか出来なかった。
無名の守護者と接触して、ある程度力を取り戻せたんでしょうけど、おそらく完全とは言い切れないはず」
Key――いや、名も無き神々の王女のスペックを最大限引き出すためには、事前に準備をして、大量のリソースを確保することが重要になってくる。
だからこそ、何もできないG.Bible状態から解放された直後では、本来よりもかなり弱体化させらていたはずだ。
「だからこそ、アリスが無名の守護者と接触した時に、C&Cやアバンギャルド君が居合わせていれば、KeyはG.Bibleのフリを続ける可能性があった。
目覚めた直後に倒されてしまえば、世界を滅ぼす計画が終わってしまう可能性があったから。
でも逆に、G.Bibleのままで居られると私たちが行動を起こせなくなる。Keyにはどうしても、その正体を自分から明かしてもらう必要があった」
「……私たちは囮だったってわけ?」
俺にはわかるぞ。
ハレが間をあけたのは、囮扱いされたことへの怒りが理由――というわけではない。
C&Cはともかく、アバンギャルド君は違うのでは?って疑問に思ったのが大きいのだろう。
だって、見た目は完全にイロモノ枠で、Keyが警戒するような強者には見えないから。
誰だってそう思う。俺だってそう思う。
「それで、2つ目は?」
「アリスが、世界を滅ぼすために設計された兵器だと実感してほしかったから」
ガタン!と大きな音が会議室に響き渡る。
その方向を見ると、モモイが凄い形相でこちらの方を向いていた。
「そんな言い方はないじゃん! アリスは私たちゲーム開発部の仲間で勇者なんだから!! それをまるで、アリスが世界の敵みたいな言い方するなんて……!!」
「……ヒマリにも、同じ様なことを言われたわね」
「え? ヒマリ部長も、この件に関わってるの?」
「えぇ。ゲーム開発部以外の、名も無き神々の王女の脅威を知る証人かつ第三者。
その役割にヴェリタスを選んだのは、ヒマリという協力者がいたから。
もちろん、ハレたちを巻き込むと伝えた時には猛反対をくらったけれどね」
その交渉には、俺だけでなくトキも一緒に立ち会わせたのだが、それはもうヒマリの怒り具合が尋常ではなかった。
特異現象捜査部と、
泥水、下水道、浄化槽に浮かぶ腐った水。
彼女の豊富な語彙力をフル動員されて、ありとあらゆる罵倒で責め続けられたのを覚えている。
それでも最後には、ヒマリが折れて、ヴェリタスを巻き込む許可をもらえたのは。
『もしもKeyが誰かの命を奪った場合は、調月リオ及び、アバンギャルド君と飛鳥馬トキがその命を以て償います』
「――――え?」
「ヒマリとチヒロに交わした約定よ。きっとすぐに2人と話す機会があると思うから、その時にこの話が本当かどうか確かめてもらっても構わない」
ゲーム開発部、ヴェリタス、先生。
この場にいた全員が、俺たち3人に信じられないものを見る目を向けていた。
ちなみにチヒロとは、今日この場に来られなかったヴェリタスの副部長のことである。
「どうして、そこまで……」
「言ったでしょ? アリスが、世界を滅ぼすために設計された兵器だと実感してほしかったから。
それを知った上で、
疑念、怒り、不信感、非難。
それぞれの感情を向けていた皆の表情から、それらはすっかり消えていて。
「物事の綺麗な側面ばかりを見て、真実から目を逸らすのは非合理的と言わざるを得ないわ。
アリスは、世界を滅ぼすために作られた、名も無き神々の王女。
目を逸らし続けても、その事実はいつか現実に追いついて牙を向けてくる」
「…………」
「だから大事なのは、それでもアリスが大切な友だちだと言ってあげること。
真実を知った上で、苦しみを共有して、隣で支えてあげること。
もしも、いつかの未来でアリスが王女として世界を滅ぼすことがあったとしても。
それは間違ってると、頬を叩いてでも止めてみせると断言してあげること」
「……そっか。だからリオは命を懸けてでも」
「先生。それは少し違うの。
私は、アバンギャルド君とC&Cなら、必ず皆を守ってくれると確信していた。
だからヒマリとの約束も、別に死ぬかもしれないなんて全く感じてなかったわ」
思い出すのは、同じ理由を告げてヒマリを説得した日のこと。
きっと、かつてのリオを知っている者なら、こんな言葉が彼女の口から出たことに、驚きを隠せなくなるだろう。
目も口も大きく開けて感情を露わにしていたヒマリの姿と、その後、優しい目をしながら「変わったのですね、本当に」と呟いていた姿は、とても印象深かった。
「私はこのことを、大切な人から教えてもらったの。
だから、言葉だけとはいえ、命を懸けてでもこうするべきだと思った」
「リオ会長……」
「けれど、これはただの私のエゴ。
そのエゴにつき合わせるために、皆を危険な目に遭わせたのもまた事実。
先生、モモイ、ミドリ、ユズ、コタマ、ハレ、マキ。
この場を借りて、正式に謝罪させてもらうわ。
本当に、申し訳ございませんでした」
リオが頭を下げるのと同時に、隣にいた俺とトキも一緒に、深く頭を下げる。
いつまでも。本当にいつまでも。
きっと、それがリオの気持ちだろうから。
大切な主人のために頭を下げ続けることなんて、支える者として当然のことだった。
「…………」
謝罪を受けた皆も、果たしてどう受け止めればいいの分からないのだろう。
互いに互いの顔を見つめて、目配せしながらそれぞれの気持ちを確かめ合っている様子を、アバンギャルド君のセンサーが捉えていた。
そして、外から近づいて来る、新たな来訪者の存在も。
「よっ! 邪魔するぜー! ……って、何だこの雰囲気!?」
ガンッ!!と、扉が開く音にしては非常に乱暴な音がして、その来訪者が入室する。
小柄な体躯、メイド服にスカジャンの組み合わせ、見るからに好戦的なオーラ。
C&C最後のメンバーにして、最強のコールサイン
美甘ネルは会議室に入るやいなや、その表情に困惑の色を浮かべながら、盛大に重い沈黙をぶち破る。
そして周りを一瞥すると、何となく事情を察したのか、どこか気まずそうに首の裏を掻きながら、ここに来た理由を話し出した。
「あー、なんだ。ついさっき、意識を失ってたアリスが目を覚ました」
「アリスが!? ねぇ!? アリスは無事なの!?」
「おう、無事だ無事。それと、リオの予想通り、目を覚ましたときにはアリスの方に戻っていて、Keyってやつの気配は一切ない。
保健室に残りのC&C全員置いてきたから、心の中に潜伏しているKeyが、隙を突いて体の主導権を奪ってアリスを連れ去ることもないはずだ」
「良かった……! アリスが無事で……!」
ネルの報告のおかげで、皆の顔に笑顔が戻る。
一方、そんな彼女たちの様子を見守っていたネルは、大きく溜息を吐いた後、今度はリオ個人に向けて言葉を投げかけた。
「後、いいかげん顔上げろ。別のやつに頭を下げてる最中のお前に報告をしなくちゃいけない、あたしの気持ちも考えてくれ」
「……そう。みんな、悪いけど頭を上げさせてもらうわね」
「あ、はい。むしろ私たちからもお願いします……」
リオと一緒に俺とトキも頭を上げ、元の状態に戻ったところで、ネルは中断していた報告を再開する。
「続けるぞ。エイミから、廃墟で不審な動き有りって報告が来てる。
多分、第2シーケンスはすぐ準備に取り掛かった方が良い」
「分かったわ。でもその前に、やらなきゃいけないことがあるはずよ」
「チッ……おい、そこのチビども」
「……? あ、
ちなみに、身長が低いのはネルも同じでは?と言ってはいけない。
「身長が低いのは、ネル先輩も同じでは?」
「……トキ、お前後で覚えてろよ」
言わなければ、喧嘩にならなかったのに……。
「問題ありません。喧嘩になったとしても、勝つのは最強メイドであるこの私ですから」
「……上等だ。この前は引き分けで終わっちまったからな。
今度こそ決着をつけようじゃねえか」
「えっと、そのぉ……それで、私たちがどうかしたのかお伺いしても……?」
一触即発。今すぐに銃撃戦が始まってもおかしくない雰囲気の中。
恐る恐る声を掛けたのは、なけなしの勇気を振り絞った才羽モモイ。
トキに向けていた顔そのままで振り向いたネルの表情を見て、モモイはひいぃ!と思わず叫ぶ。
その反応を見て冷静さを取り戻したのか、少し申し訳なさそうな様子で。
「……リオが、あんたらにどんな説明をしたのかは事前に聞いてる。
……だから、これはマッチポンプだ。全部終わった後で、改めてリオに感謝するとか絶対しなくていいからな」
「……? どういう意味で」
「Keyがレールガンをぶっ放したとき、表に出てなかっただけで、アリスの意識はあったらしい。
自分が大切な友だちに銃を向けたんだって、かなり落ち込んでたぞ」
刹那、椅子から立ち上がる音が3つ同時に重なる。
それだけで、彼女たちはリオが言っていたことの意味と、自分たちがするべきことを理解したのだろう。
失礼しますとだけ告げて、ゲーム開発部の3人は会議室を後にした。
「ありがとう、ネル」
「何度も途中で依頼を蹴ってやろうかと思ったよ。今回だけだからな」
じゃあ、あたしもチビどもの様子を見て来るよと言って、彼女も会議室を後にする。
口には出さなかったけれど、ネルもゲーム開発部のみんなのことが心配なのだろう。
いつの間にか、友達になっているくらいなのだから。
「さて、どうやらあまり時間が残ってないみたい。
先生とヴェリタスにも計画を手伝ってほしいの。
世界を救い、アリスを救うための作戦を」
「……まぁ、アリスのためって言われたら」
「うんうん! 仕方ないね!」
「はい。私たちヴェリタスも協力します」
「私の返事は変わらないよ、リオ」
「そう……。本当にありがとう」
決意を胸に秘めたような、先生とヴェリタスたちの表情を見て、リオは改めて感謝を告げる。
――さぁ、ここからはリオたちのステージだ。
「この作戦の段階は、大きく分けて3つ。
第1シーケンスの目的は、Keyに自らの正体を明かしてもらうこと。
これで、G.Bibleとして潜伏して機会を待つことが不可能になり、Keyとして私たちと戦わざるを得ない状況を作ることができた」
パチンと指を鳴らすと、机に設置されていた立体映像を投影するための装置が起動して、説明のための資料が映し出される。
G.Bibleと表示されたゲーム機の形が崩れ、浮かび上がるのは目つきが鋭いアリスの姿。
しかし、映像の彼女が瞬きをすると、いつものアリスに戻ってしまう。
「今のKeyは、データをモモイのゲーム機から、アリスの中に移して潜伏している状態よ。
でも、世界を滅亡させるためには、ずっと動かないわけにはいかない。
けれど、アリスは私たちに守られているから簡単に動けない。
だから、Keyはまず最初に、外部へと助力を求めるはずよ」
「外部からの、助力?」
「ミレニアムの廃墟と呼ばれる場所には、世界の滅亡に助力するための戦力が眠っているわ。
アリスの中に隠れた状態でも、Keyはそれらに干渉して呼び寄せることが出来る。
自分をそいつらに攫ってもらって、私たちの手から逃れようとするはずよ」
そうすれば、Keyは誰にも邪魔されることなく、世界の滅亡を始めることが出来る。
アリスは名も無き神々の王女となり、キヴォトスは滅ぼされるだろう。
立体映像の中でプランを成功させたKeyによって、次々と破壊活動が行われていった。
「第2シーケンスの目的は、この外部からの干渉を止めること。
本当は、事前にKeyの戦力を用意する設備を破壊できればよかったのだけれど、どうしてもその場所を見つけることが出来なかった。
だから少し変更して、Keyに外部に助けを求める行為が、無意味であると認識させるのを目的とするわ」
「会長、それはどういう……」
「えぇ。この作戦の最終的な目標は、Keyを世界を滅ぼす力を持ったまま無力化させること。
そのためには、Keyから私たちと戦う意思を失わせる必要がある。
この第2シーケンスによって、誰かの助けを待つという選択肢を除外させるわ」
「え? Keyを壊すとかじゃないの?」
原作を知る俺からすれば、Keyも大事な生徒の1人であり、破壊するなんてもっての外なのだが、事情を知らないマキたちはそう考えるのが普通だろう。
だが、それをしてはいけない理由がある。
Keyも生徒であるというのも1つだが、この場ではそれ以上に大事な意味を持つ理由が。
「名も無き神々の王女を止めるだけならば、それで良いのかもしれない。
だけどKeyを殺せば、次に訪れる滅亡――色彩の脅威を止められなくなる」
「――色彩、だって?」
信じられないものを見る目をしていたのは、シャーレの先生。
そう。今の先生はエデン条約の騒動を解決し、ベアトリーチェと戦った後。
つまり、先生は色彩の存在を知っている。
色彩が、世界を滅ぼし得る存在であることを知っているのだ。
「だから、この作戦が必要なの。
Keyも色彩も、無名の司祭がキヴォトスを滅ぼすために用意した手段。
この2つが手を組む前に、Keyを表舞台に立たせ、世界の滅亡を諦めさせ、世界を守るための味方へと引き込んで、ハッピーエンドを手繰り寄せるための唯一の作戦」
部屋いっぱいの緊張感に、ヴェリタスの皆と先生が息を吞む。
立体映像によって映し出されたのは、2人のアリスが空に浮かぶ”何か”に立ち向かう映像。
ここに、調月リオが宣言する。
世界を救うための戦い。その作戦の名は――!!
「作戦名:オール・ユー・ニード・イズ・アバンギャルド君。
第2シーケンスを開始するわ!!」
「「「「「……え、今なんて?」」」」」
あーもう!! 今までの流れ、その全部が台無しだよ!!