【完結】転生したらアバンギャルド君だったのでリオ会長を救います 作:天神茶々
追記:第1話にて、主人公の転生事情に関する記述などについて、いくつか加筆修正を行いました(2025/01/27)
「うっわ。凄いことになってんな……」
遠くから連続して聞こえてくる爆発音に戦々恐々としながら、俺は”その時”をひたすら待ち続けていた。
手元には、リオがアバンギャルド君専用に調整してくれた、名も無き神々の王女や
思い出すのは、1度目の生を終えた直後のこと。
今ではすっかり忘れてしまった、人としての形を保っていた最後の記憶。
『改めて謝罪を。神々の都合で貴方を死後の安らぎから遠ざけてしまうことを、心からお詫びさせてください』
『いえいえ、謝らないでください女神様!! 悪いのは、誰かを転生させるように仕事を押し付けた、悪ノリの激しい他の神様たちじゃないですか!!
それに、こういう異世界転生っての憧れてたので、俺的に問題なしってやつです!!』
『……あなたは優しいのですね』
でも、その女神様が選んだ転生先、アバンギャルド君だぞって言ったら、当時の俺はどんな反応をするのだろうか?
転生先を変えてもらう様に懇願する? 転生自体を取りやめにしてもらう?
……やっぱり、伝えるのはナシにしよう。
2人との出会いを、世界を守るための戦いを、なかったことにはしたくないから。
『神々の意向のため、貴方が転生する世界は非常に残酷な世界となっています。
前世のように安心できる生活を送れるかは、貴方の努力次第です』
そうだね。転生して早々、100回
『ですが、ただ転生させるだけでは厳しすぎることは神々も理解しています。
ですので、貴方の言葉を借りるなら、転生特典を贈らせていただきます』
『おぉ!! 転生特典来たぁぁぁぁ!!』
『まず1つ目は私の――女神アテナの持つアイギスの盾の力。
盾に権能を込めれば、真なるアイギスに迫る守護の力となるでしょう』
俺がモモイをレールガンから守ることが出来たのは、このアイギスの力のおかげである。
それ以外にも、これまで何度も命を救ってくれた頼れる力だ。
『そしてもう1つが、神々のバカ騒ぎを知って力を貸してくれた『神代の英雄たち』の力です。
この力を込めた武器や攻撃には、転生先の世界風に表現すると『英雄タイプ』が付与されて、通常よりも威力が遥かに強力になり、同時にある特性が付与されます』
『ある特性って、何ですか……?』
『それは、貴方自身が力を使う中で理解を深めていってください。
これは、他の神々とは関係のない、私自身の願いです』
気にはなったものの、ここでその内容を伝えないことで、貴方に致命的な損害が発生することはないはずだと念押しされたため、渋々了承。
どちらかと言うと、転生特典が気になりすぎて、転生先についてまで頭が回らなかったことの方が、致命的だったと気付くまで残り後十数秒。
『では、貴方の2度目の生が希望にあふれていることを、心から願っています。
どうか、デメテルやヘスティア辺りの、良き神々のご加護があらんことを。
間違っても、ゼウスとかポセイドンとかに祈らないでくださいね』
そして、俺はブルアカの世界に転生した。
調月リオが持つロボット、アバンギャルド君として。
出会いと拒絶、共闘と対立、討伐と相互理解。
――様々な出来事をリオやトキたちと一緒に乗り越えて、俺は今この場に立っている。
『――アバン様、今です!!』
「――我が魂を見守りし、女神アテナに請い願う」
今も他の神様に仕事を押し付けられているであろう、真面目系残念美少女な女神様の姿を思い浮かべながら、彼女から与えられた力を開放する。
彼女と、この力を生み出すために協力してくれた、英雄たちの力が込められた力。
それが、キヴォトスという世界に合わせて在り方を変えた、アバンギャルド君の持つ神秘。
固定砲台に力が宿るのを感じながら、俺は高らかに宣言する。
「――英雄武装。定義宣言」
砲台の中で、込められた神秘の力が膨れ上がっていく。
人にも、機械にも身に余る神々の力。
それを制御する方法は、指向性を与えてやること。
すなわち、力の在り方を示すのにふさわしい名前を与えること。
果たしてこの力は、生命を奪う業火であるべきか、神々をも殺す雷鳴であるべきなのか、あるいは地上を洗い流す津波であるべきなのか。
自らの機体や武装を大幅に強化することが出来るこの神秘であれば、例えばレールガンが直撃しても傷1つ付かないほどの防御を求めるのか、或いは敵を殲滅するための火力を求めるのか。
力を貸してくれた英雄たちは、炎や雷を出すといった神々の権能を持っていないため、残念ながら俺に災いを引き起こすなんてことは出来ないが、正直それは必要ないだろう。
なぜなら俺は、世界を守ろうとするリオの味方であり、共に救わんとする仲間なのだから。
世界を滅ぼす力なんて、この後味方に加わる予定のKeyにでも任せておけばいい。
故に、俺はその名前を宣言する。
これまで、いくつもの災いを退けてきた必殺の一撃の名を。
「宣言名:神弓オライオン!! 我らの道に塞がる敵を、どうか討ち滅ぼし給え――!!」
刹那、固定砲台に重なるように、1張りの美しい弓の幻影が姿を現す。
神弓オライオン。
オリオンの名で知られる英雄から名付けた、あのケセドをも討ち取った一撃。
弓の名手にあやかっただけで、別にオリオンの超人的な神業を再現できるようになるとか、獣を狩るときに無敵になるとか、そんな力はないけれど。
オリオンを含めた数多の英雄が少しずつ力を貸してくれて、1つの大きな力へと昇華されたこの神秘は、100万の無名の守護者を貫く必殺の一撃となる。
固定砲台から放たれたのは、銃口の何十倍の太さを誇る光の一撃。
数多の怪物を討ち取った英雄たちの力そのものが具現化したそれは、まず無名の守護者たちの脚部を呑み込んで。
そして、落下してきた胴体や腕部、最後に頭部を焼き尽くされた無名の守護者100万体は、その反応を完全に消失させた。
「――ミッション、コンプリートだ」
『えぇ、お疲れ様。今から迎えに行くから、その場で待機していてちょうだい』
達成感と共に独り言を呟いたところに、作戦を終えたリオからの通信が入る。
俺からも、お疲れさまと労いの言葉をかけてから、思ったことをそのまま口に出した。
「別にいいよ。体力はまだまだ全然あるし、俺は1人でミレニアムに戻るから、トキの方を回収してやってくれ」
『トキにはもう少しだけやってほしいことがあるから、あなたの後に迎えに行くつもりよ。それに、その……』
「どうした? 何か問題でもあるのか?」
特に最近は、物怖じせずに色んな事をちゃんと伝えてくれる彼女にしては珍しく、何か言い淀んでいる様子のリオ。
その理由が分からず不思議に思っていると、遠慮がちな声が通信越しに聞こえてきた。
『……私が、あなたを迎えに行きたいの。ダメ、だったかしら?』
「……、…………」
『アバンギャルド君?』
「……あぁ、いや悪い。何でもないよ……うん、何でも」
――いや、可愛いか??
不意打ちで見せられた、リオの可愛い一面にやられてしまったなんて言えるはずもなく。
とりあえず何とか誤魔化した俺は、彼女への返事を口にした。
「――リオ、ここで待ってる」
『――!! えぇ。すぐ行くわ』
その後、直ぐにヘリを飛ばす準備を始めたリオから、俺のいる場所に着くまで通信を繋げたままでもいいかと問われ、再び撃沈したことをここに追記しておく。
だって、最近のリオは「アバンギャルド君は全てを解決してくれるわ」やら、「オール・ユー・ニード・イズ・アバンギャルド君」やら、はっちゃけてることが多かったのに、不意打ちは卑怯じゃん……。
気を抜いたら好きになってしまいそうになるから、本当に止めて欲しいと心の中で強く願った。
「――無名の守護者が倒されましたか」
名も無き神々の王女の、心の奥深くに身を隠していたKeyは独り言つ。
先程まで、100万近く感知できていたはずの信号は、わずか数秒の間に
「調月リオ……あのように豪語するだけの戦力は、ちゃんと用意していたみたいですね」
正直なところ、無名の守護者たちを倒されたことによる損失は非常に大きい。
廃墟に蓄えてあったリソースの、ほぼ全てを使い切って用意した戦力が今回の数であり、もう一度同じ量を用意するのには、何年かかるか分からない。
「それだけの時間を相手に与えてしまえば、何をされてもおかしくはない。
私を再び王女から切り離すことも、私自身を消去することさえ可能でしょう」
だから、初めから選ぶべき選択肢は、戦力の全投入による短期決戦のみだった。
100万もあれば、今のキヴォトスに住まう人々では太刀打ちできまいと考えていたが、その予想を見事に裏切られる。
これで、Keyの敗北は確定した――。
「――ですが、万が一失敗した時の策も用意しています」
消失した反応は99.998%――つまり、0.002%は残っている。
否、あえて残しておいたのだ。
「調月リオ。あなたは今、勝利の美酒に酔いしれているのでしょうか?
なら、そのまま酔いつぶれてしまえばいい。そして、目を覚ました時に気づくのです。
守り切ったはずのお宝だけが、忽然と失われたことに」
無名の守護者が空へと打ち上げられる直前、間一髪でフリーズ状態から復帰した無名の守護者10体を、巨人の集合体から切り離しておいた。
「彼らは今、勝利したと勘違いした貴方たちの油断をついて、徹底した隠密行動を行っています。
ところで、王女のメモリから閲覧したデータによると、何か大きな出来事を成し遂げた際には、お祝いの席を設けるそうですね?」
”ミレニアムプライズ受賞記念!!”と書かれた横断幕を部屋に飾って、お菓子という豪勢な食事とジュースという美味しい飲み物を用意し、楽しそうに過ごしていた映像記録。
調月リオが、同じような祝いの席を設けるその日に、私の目的は達成される。
「貴方たちが、この勝利の時間と同じだけ油断するタイミング。
今は謎に肌を露出している敵の監視の目がありますが、そのときには必ず、王女が1人になる瞬間が訪れるでしょう。
その時に再び体の制御権を奪い、潜伏させた無名の守護者たちと合流して、王女を本来あるべき玉座へと導くのです」
無名の守護者たちを壊された都合上、どうしてもリソース集めからやり直さなければならないが課題だが、ずっと調月リオがいる場所にいるよりも遥かにマシだ。
この一件で、調月リオの脅威度は深く理解できた。
事前に名も無き神々の王女の存在を突き止め、明らかに詰みの状況を用意してから事に当たる知性。
無名の守護者たちを討伐した何者か、レールガンの一撃を受け止めた理解不能な見た目のロボット、目にも止まらぬ速さで私の意識を刈り取ったメイドなどの協力者。
調月リオは、無策のまま対峙するには危険すぎる。
箱舟を完成させ、万全の準備を終えた上でないと倒せない相手。
「ですので、その時まで一時の別れです。
どうか、仮初で束の間の平和をお楽しみください」
さて、どこで合流するかだけ決めましょうかと呟いて、無名の守護者との秘匿通信を開始する。
潜伏場所はミレニアムサイエンススクールの近くが好ましいが、余りに近すぎると、合流の日時までに見つかってしまう可能性がある。
どこか都合のいい場所はないかと思案して、Keyは
「――――は?」
想定外の事態に、残された無名の守護者に向けて、状況説明を求める信号を送る。
返ってきたのは、無名の守護者たちからのSOSと映像データ。
「映像データ? 座標や画像ではなく……?」
データをダウンロードして、恐る恐る映像を確認する。
その中に入っていたものは――。
『ウェーイw Keyちゃん見てるー?
Keyちゃんの無名の守護者は、今私の隣で寝てまーすw
……これで間違っていないでしょうか?』
「――――は?」
その声には、聞き覚えがあった。
王女の体を奪った直後、私の意識を奪ったメイドの声。
今は何らかの武装に身を包む彼女は、映像の中でピースサインを決めながら、こちらに話しかけるように言葉を発していた。
『どういうことかと思っているかもしれませんが、私の装備アビ・エシュフには、周囲の情報を集めて未来予測をするという機能があります。
ですので、私が無名の守護者を打ち上げた時に、本体から分離した個体が僅かに存在していたことも確認していました』
――つまり、裏を掻いて切り離したと思っていた無名の守護者の存在は、最初から筒抜けであり、私の次善の策は彼女によって潰されたということで。
リカバリー用のプランをあっさりと潰されたことに、私はようやく初めて、怒りのような感情を覚えていた。
「やはり、調月リオは危険――!! 王女のためにも、私は――!!」
『あとそれと、そもそも最初から巨人と別に行動させていた無名の守護者計10体は、皆様が巨人と交戦を始める前に私が全て倒しておきました。
隠密行動専用タイプの無名の守護者を最後まで隠していたのは見事ですが、移動する際の僅かな音や、風の流れまでは誤魔化せませんでしたね』
「――、――――理解、不能」
つまり――、何を意味する??
移動の時に生じる僅かな音や風の流れ??
まさかお前は、そんな極めて僅かな情報を観測できるとでも??
『ここまで話しておいて今更ですが、もしもKeyが私の話しているところを観測していなければ、ただ意味のない独り言を、届かない伝言のために言わされた可哀想な人に……。
えぇ。これはアバン様に慰めてもらわなければなりませんね』
自慢気に勝利の美酒に酔いしれようとするメイドと、用意していた最後の策を、いとも容易く打ち砕かれて呆然とする私。
比較的すぐに集められるリソースで、何体かの隠密行動タイプをこちらに送り込めるかもしれないが、それすら感知されるというのなら、もう――。
『それでは、また近い内にお会いましょう。ブイ』
Keyはその場で倒れてしまいそうになったのを必死に堪えながら、王女の心象風景の中にあった台座まで歩みより、自身の体を預ける。
心の底からあふれ出る絶望に体を震わせながら、Keyは静かに涙を流し続けていた。
……。
……。
…………。
…………。
…………。
…………。
………………。
………………。
……………………。
……………………。
………………………、……。
………………………、………………………。
………………………………………………………………………………………………………………。
……、…………。
「――Key?」
聞こえるはずのない、声がした。
「Key? もしかして、眠っているのでしょうか?
だとしたら、また出直さなければいけません……。
6時間ほど時間を空ければ、クエスト開始のマークは出ているでしょうか……?」
「――おう、じょ?」
あれから、どれほどの時間が経っただろうか。
数時間だけかもしれないし、数日は過ぎていたのかもしれない。
枯れぬ涙を流し続けていた私の耳に、大切な王女の声が聞こえてくる。
瞼を開けば、視界の全てを大切な王女の顔が埋め尽くす。
悲哀の涙は、再会を喜ぶ歓喜の涙へと意味を変えて。
心配そうにこちらを覗き込む王女に、私は我慢が出来なくなって、その体を強く抱きしめた。
「Key――!?」
「良かった――!! 本当に良かった――!!
もう二度と、あなたに会えないのかと思いました!!
どんな奇跡であっても構いません。もう一度あなたに会えたのなら!!」
「……そっか。Keyはずっと1人で寂しかったんですね」
抱きしめ返してくれた王女が、私の頭を優しく撫でる。
その温かさが心地よくて、普段の自分であればこんなことは思わないと理性が強く訴えるけれど、それすら今はどうでも良くて。
私は、王女の温かさにしばらくこの身を委ねていた。
「…………Key、落ち着きましたか?」
「…………はい、ありがとうございます。王女よ」
名残惜しいなと思いながら、その温かさから手を放す。
台座から降りて、王女と向き合う様に立ち上がる。
「それで、どうして王女はここに? ……実は、これも調月リオの指示なのでしょうか」
少し落ち着いて冷静になれば、今の状況がKeyにとっての奇跡ではないことに思い至る。
王女の人格を守るプロテクトが完成したか、Keyを消去する方法が確立できたか。
或いは、その両方が完了したから、こうして王女に私を迎えに来させたのか。
「いいえ、これはアリス自身の意思です!
アリスは、アリス自身の意思で、Keyを迎えに来たのです!」
「王女の、意思で――?」
予想外の展開に、私の心の中で困惑が生じる。
そして王女が続けた言葉は、私の理解の範疇を大きく超えたものだった。
「なぜなら、アリスはKeyのお姉ちゃんですから!!」
「――は? お姉ちゃん??」
ピタリと、オアシスの水のように湧き上がっていた喜びの感情が止まるのを感じた。
お姉ちゃん、血縁関係にある人間を表す言葉の内、自身よりも先に生まれた女性を指す言葉。
いや、お姉ちゃんとは??????
「Key! アリスと外の世界でデートをしましょう!! お互いが仲良くなるためには、デートをするのが1番だと、アリスの大好きなゲームが教えてくれました!!」
自信満々に理解不能な言動を繰り返す王女の姿すら、もはや調月リオの奇策にしか思えなくなって。
理解不能な見た目と名前を持ったロボットがいたことを思い出しながら、Keyは限界を迎えつつある思考回路を必死に回して。
そして、与えられた情報を理解しようと思っても理解できなかったので。
――そのうち、Keyは考えるのをやめた。