D.N.E.   作:Minus-4

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 最初だけは二話分投稿します。
 それから、金曜日までの五日間は毎日投稿します。

 それ以降は投稿できる時に投稿する形にするので、気長によろしくね。






第0章:序幕あるいはイントロダクション
【オープニング・アクト】


 

 

 

 生きている以上はね、やはり求められたいものさ。それがどういう形式であったとしても、だ。そういう風に私たちは形作られている。

 

 こんな簡単なこと、わざわざ私が聞くまでもなく、君ならば知っているのだろう?

 

 

 ──先生。独立連邦捜査部、S.C.H.A.L.E(シャーレ)の先生。

 

 

 知らないとは言わせないよ。だってそれは誰であろうと──善人だろうと悪人だろうと、老人だろうと若人(わこうど)だろうと、聖人だろうと凡人だろうと持っている正常な感情なのだから。

 

 正常な感情というよりは、正当な()()だろうか。

 

 私たちはそれを、ほとんどの場合承認欲求と呼ぶ。何、別に承認欲求を持つことそれ自体は、取り立てて不当というわけでも、はたまた不穏当というわけでもない。普遍的で、不変なだけだ。

 

 ただ、そこにあるだけだ。生まれながらにして有しているだけなのさ。

 

 もちろん今回先生に聞いてみたいと考えているのは、当然のことながらこんなに簡単なことではない。解が一つしかない問に対する答え合わせのためだけに君を呼ぶだなんて、そんな贅沢な真似はしないさ。

 

 たまには贅沢をしたくなる時もあるがね。私はこれで中々遠慮をしない(たち)だから、いざ贅沢をするとなれば、それはもう贅沢三昧だとも。

 

 

 先生。シャーレの先生。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

           

 贅沢三昧だなんて、百合園(ゆりぞの)・・・・()()()()()()()()と、そう思うかい。

 

 ──ああいや、これは極端で意地悪な質問だったかな。今までに見せていない新たな一面を見せておきながら『私らしいだろうか』と聞くのは、問いかけとしては不適切もいいところだ。悪問というやつか……いや、今はそれについて気にしなくていいね。

 

 さて、先生。本当のところを言ってしまえば、私はこの問いかけに対して君がどのような回答をするのか、ほとんど直感している。

 

 君が言おうとしていることを、私は既に知っている──ということを、君は知らず知らずのうちに知っているのだろうね。であれば、わざわざ答えを聞くまでもない。

 

 百聞は一見に如かずという言葉があるけれど、一見せずとも他人の考えていることとは、あれで案外察するに容易いところがあるからね。だから本当に、念のため聞いてみただけなんだ。

 

 君は他の何者でもない『百合園セイア』だよ──君ならそう言う。そうだろう、先生?

 

 

 そうだろうとも。それが()()()()なのだからね。

 

 

 生きていようがそうでなかろうが……この事実が捻じ曲がって断絶するようなことは、断じてない。畢竟(ひっきょう)それは『()()()()()()()()()()()()()()()ということも意味する。

 

 押し付ける者がいて、押し付けられる者がいる。風評というものは兎にも角にも着いて回るものなのだ──だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の間に認識の齟齬が生じていることなんて、最早誰もが知るところだろう。

 

 自分に誇りを持てるのなら、あるいは高潔だと信じられるのならば、これはさしたる問題ではない。揺らがない自信は、即ち揺らがない自身である。

 

 しかし、しかしだ。自分に自信が持てないのなら──あるいは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のなら──ここでいう『認識の齟齬』は、ある意味では()()()だ。

 

 

 ()()()と言い換えてもいいかもしれないね。

 

 

 理由はなんにせよ自信が持てていない者……精神が疲弊している者に、この風評というやつは()()()()。心に染み込み、その身を蝕み、仮初の自信に満ち溢れ、そして『自分自身』を喪失する。

 

 虚飾。つまるところ、虚しく飾り立てているだけなのさ。外面(がいめん)ばかり取り繕っても内面(ないめん)が不完全なようでは、実を伴っているとは言えないね。

 

 例え話で実例を示そうか。ほんの少し、極端な例にはなるけれど。

 

 極端に振り切った例え話をするというのは私の好みとは少々かけ離れてしまうのだが、しかし、そうだな。それが君に一番分かりやすく伝わる形だというのであれば、そうするのも(やぶさ)かではない。

 

 あまり思い出したくもないことだが……しかし語らないわけにもいくまい。良くも悪くも──比重は『悪く』に偏ってはいるが──トリニティの歴史を動かした女のことだからね。私はただ粛々と、私情を挟まず、事実のみを述べる。

 

 例え話だ。

 

 覚えているね、楽園(エデン)へと火種を持ち込んだ結果、一部から魔女と呼ばれることになった彼女のことを。

 

 楽園(エデン)となるはずだった地を火と灰に染め上げ、その虚しさをもって実を成そうとした彼女のことを。

 

 聖園(みその)ミカ錠前(じょうまえ)サオリのことを。

 

 一度は憎しみによって自らを歪めた二人だ。罰を求めた魔女と、救いを求めた猟犬とも形容できる。過程は違えど、環境は違えど……二人が()()()()()()()にさしたる違いというものは、皆無に等しい。

 

 

 二人とも、()()()()()()()()()()()に従った。

 

 

 トリニティ内で出回った『風評』によって。アリウスで敷かれた『教育』によって。二人の歩む道は、一度(ひとたび)とはいえ確かに()()()()()()のさ。

 

 私がつい先刻語った『押し付ける者』と『押し付けられる者』の関係性というのが、まさにこれだ。押し付けて、背負わせて、そして最後には……。

 

 他者が定義した自分に殉じた先の終着点。君のような大人であれば、『()()()()()()()()()()()()()()()()()』ということは想像するに容易いだろう?

 

 

 なにせ、終着点なのだからね。

 

 ()()()()なのだからね。

 

 

 ──例え話はこれで終わりさ。ここから先……つまり私が今しがた語った例の続きがどうなったかは、先生。君が最もよく知るところだろう。

 

 ふむ、その表情を見るに、しっかりと覚えているらしい。まあ先生が生徒のことを忘れているなどあり得ないから、そんなことは疑うべくもなかったのだけれど。

 

 彼女たちの人生は──青春は、今なお続いている。

 

 本来ならば断絶するはずだった青い春が、奇跡的に紡がれ続けている。

 

 シャーレの先生。君の尊い力添えのおかげでね。

 

 ──さて。『他人の定義した自分』に従ってしまい、自壊寸前だった二人についての語らいはこれくらいにしておくとしよう。

 

 

 ここからは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のお話をすることにしようか。

 

 

 同じように聞こえるかもしれないが、しかしその実態は()()()()()と断言してしまってもいいかもしれないね。それ程までの本質の違いを有しているというわけさ。

 

 だって、そうだろう。他人から押し付けられた風評だったりというのは、遅きにしろ早きにしろ風に乗せられ消え去るものだからね。ほら、人の噂も七十五日とはよく言ったものだろう。

 

 分かるかい。()()()()()()んだよ、『他人に定義された自分』には。どこかで必ず、嫌でも止まる時が来る──ところが『自分で定義した自分』には、()()()()()

 

 終わりがないというのは、存外に苦しいものだよ。その辺りは先生もよく知るところだとは思う。ほら、それこそシャーレとしての業務なんか、終わりが見えることの方が珍しいのではないかな。

 

 ……ああ、えっと……嫌なことを思い出させてしまったみたいだね。すまない、謝罪しよう。

 

 ええと、話を戻してもいいかな?

 

 ありがとう。感謝する。

 

 要約するに、だ。『自分で定義した自分』には終わりがない。終わりがないからこそ、いつまででも努力し続けられる──続けられてしまう。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 努力という行為の原動力は『未来への憧憬』だ。そして同時に『まだ見ぬ後悔への忌避感』でもある。

 

 が、しかしだ。これだけならばまだ、()()ではあっても()()には程遠いんだよ。

 

 この場合の『最悪』というのはだね、先生。つまりはその『最低』に気付いた上で進み続けることだ。

 

 合法的な拷問と呼んでも差し支えあるまい。失敗して後悔して、二度と同じ失態を晒さぬために──二度目を恐れるあまりに、寧ろ四六時中その失敗をせぬようにと気を張っていなければならないのだから。

 

 

 そんなこと、できるはずがないというのに。

 

 生きている以上は、いずれ限界が来るというのに。

 

 張り詰め続けた糸は、千切れてしまうのだから。

 

 必ず、途切れてしまうのだから。

 

 

 本末転倒というやつだよ、本当に。構造としてあまりに瓦解している。相談の一つくらい寄越してくれればよかったものを──おっと、何でもない。気にせずともいいよ。

 

 さて、先生。生徒のことを忘れているはずがない先生。私がたった今口に出して語った彼女のことを、当然君は覚えているのだろうね?

 

 ──ふふっ……いや失敬。先生でもそういう顔をするのだなと思ってね。そんな顔をせずとも、君が間違えたわけではないから肩の力を抜いて安心してくれたまえ。

 

 まさか私がこんなくだらない罠を張るだなんて思っていなかった、と。そういう表情だね、先生。だけど、これも私だ。『()()()()()()()()()なのさ。これでまた一つ、私について物知りになってしまったかな、先生。

 

 このように、他者から見た自分像というのは、思っているよりも簡単に変えることが出来る。そしてこれは、逆もまた(しか)り──と、そう言えるのならば、幾分か楽だったとは思うのだけれどね。

 

 生憎なことに、自分から見た自分像の方は、そう易々と変えられるほど生優しい代物でもないんだ。こればかりは、どうしてもね……。

 

 そろそろ落ち着いた頃合いかな。

 

 よろしい。

 

 少し話を戻そうか──まあ端的に言ってしまうとね。先生が彼女のことを覚えていないのは()()()()()()()()ことが関係している。ほら、私の夢は()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 

 だから、彼女のことを()()()()が知っているはずが、覚えているはずがないんだ。

 

 

 芥川(あくたがわ)タバネという名の、少女のことをね。

 

 

 うん? 何、予知夢は失ったはずだろう、って? ああ、それについては既に知っているのか……なんとも難解なものだね、今ここにいる私たちの()り方はというものは。

 

 それで、ええと、私の夢についてだったかな。それについては──正直なところ、私にも理由は分かっていないのだよ。

 

 ……そんな顔をしないでおくれよ。私だってこの説明には無茶があると思っているとも。論理性の欠片もない。事象としてはあまりに欠落している要素が多すぎる。

 

 ただまあ、そうだな。これについてはありふれた()()の一つだとでも思っておけばいいさ。大丈夫、実害なんかも無いようだし、心配には及ばないとも。

 

 つまりは、そうだな。これは所謂()()()(たぐい)とは全くの別物と捉えてもいい。

 

 君からすれば私は未来の話をしているように感じられるかもしれないが、しかし私の認識としては、これから語ろうとすることは()()()()()()なんだよ。

 

 過去の夢を見ることを、まさか予知夢と呼ぶはずもないだろう? そういうことさ。

 

 そんなことより、だ。先生、君が彼女のことを覚えていないというのなら。やはり私としてはね、彼女の歩んだ足跡(そくせき)を、語っておかねばなるまいと、そう思っているんだ。

 

 自分らしさという鳥籠(とりかご)に囚われた彼女のことを──トリニティの〈(ふくろう)と呼ばれた彼女のことを。

 

 

 今はもう──何者でもない彼女のことを。

 

 

 あの子のことを何としても、いや(なに)(なん)でも知っていて欲しいんだ。是が非でも、と言ってもいいかもしれない。

 

 だから、もし君がそうしたいと思うのならば、是非とも私の話を聞いて欲しいのだよ。こんな私のことを、君は我儘(わがまま)だと思うかな。

 

 ──……ほう。私の話ならばいくらでも、か──ああ、君ならきっと、そう言ってくれると信じていたとも。いや何、誤魔化しや方便などではないさ。本心からそう思っていた。

 

 ほら。だって君は、元々そういうところがある大人だからね。無策で君との対話に臨むほど、私は(ほだ)されてはいないよ……なんて。

 

 冗談だよ、冗談だとも。私はね、先生。君という存在に対してかなり好意的だよ。そして、こんな冗談を言う私も──

 

 そう、『百合園セイア』なのだ。私の語ったことはしっかりと伝わってくれたようで何より。私らしさについてまた一つ詳しくなってしまったね、先生。

 

 ああ、そうだ。今の今まで忘れていたのだけれど、タバネについて語るに際して、一つだけ忠告しておかねばならないことがあるんだ。何、人の足跡(そくせき)を辿る時にはままあることだよ。

 

 

 単純なことさ。(ただ)、苦難が降り掛かる。ともすれば、人を一人、壊しかねない苦難が。

 

 だが安心してくれ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ただ、安寧に辿り着くまでの道は辛く苦しいが……茨の道と呼ぶのがお似合いな程だが、それでも?

 

 

 ──それでも、か。

 

 ならば、よろしい。先も述べた通り、私は(ただ)粛々と語ろう、正義実現委員会で正義に殉じようとした、芥川タバネという生徒のことを。

 

 ああ、当然物語の核心に迫るようなネタバレなんかはなしだ。人一人の人生を語るにあたって、結末から先に話してしまうことのなんと退屈なことか。

 

 分かってくれるね?

 

 よろしい。

 

 となると、そうだな……ただ語るだけというのも味気のないことだし、いっそのこと劇的な演出でもして、物語に華を添えてみようか。言うまでもないことだとは思うのだけれど、話を盛るという意味ではないよ。

 

 

 人生とは──青春とは往々にして劇的なものだ。

 

 華やかな物語の方が、きっと心惹かれるだろう?

 

 

 さて。それでは、始めようか。崩壊した楽園(エデン)の、そのずっと先まで続く劇的な夢物語を。

 

 ……タイトル? ああ、そうか──喜劇にしろ悲劇にしろ、この手の物語にはタイトルが付きものだったね。

 

 それならば、ふむ、そうだな──よし、これだ、これがいい。

 

 さて、先生。

 それでは、ご覧あれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今はもう、何者でもない鳥の子が。

 誰かへ贈る、花束の名だ。

 

 何、夜は長い。この夢が醒めるまで、是非ともゆっくりして行くといいさ。

 

 

 

 







 二話目も投稿してあります。

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