【Tips!!】
芥川タバネは以前に戦術面で一度大きな失敗をして以降、今まで同等の失敗をしたことがない。
──
甘い。見積もりが甘かった。甘っちょろかった。
青い。心構えが青かった。青臭い青二才だった。
荒い。戦略が荒かった。荒っぽく荒削りだった。
「どうしてあんなタイミングで戦力の投入なんかしたんだ!? お前はどんなつもりでこんな方法を取った!?」
「……申し訳の一つもございません。あれは、私の失策でした。いかなる処分も受け入れる所存でございます」
「失策だと? 処分だと? それがどうした、だからどうした!? あの子はお前の失敗が原因でひどく傷付いたんだぞ!?」
「存じ上げております。私が愚昧ゆえに取り返しのつかないことをしてしまいました。ですから、私に可能な限りの贖罪を──」
「『可能な限り』で何になる! 私の親友から正義実現の機会を奪っておきながら、あの子の心を無視しておきながら、お前は……!!」
忘れもしない、1年生の冬だった。
暴動の鎮圧。それが作戦の目的で、立案者は当時の私。正実の作戦指揮官として頭角を表し始めたばかりの、まだ〈梟〉ではなかった私。
その作戦で功を急ぎ、無理な力押しに出た私は、一人の怪我人を出した。3年生の先輩だった。
先輩の親友である別の先輩に顔を殴られた。当然だ、私はそれだけのミスをした。私よりも上背があった先輩の拳は、小柄な私にとってはかなりの痛手だった。
──けれど、そんなことはもはやどうでも良かった。私にとって一番
もっとも、この先輩は別にこれ以降私に対して怒ってくることはなかった。それどころか、怒りに任せて手を出してしまったことを謝罪すらしていただいた。
違う、先輩が謝ることなど一つもないのだ。誤ったのは私だったのだから。もっとなじってくれればよかったのに。
無茶な作戦のせいで怪我をさせてしまった先輩も、復帰後に私を許してくれた。だけど私は、その先輩が銃を持つ時、必ず長い深呼吸をするようになったのを知っていた。
深く、深く。
浅い呼吸を、ゆっくりと、深くへ。
そんな姿を私は毎日のように目にしていた。
私のせいで、彼女の心は傷付いた。
私のせいで、彼女の
私のミスだった。
私が『最悪』を想定しなかったから。
先輩二人を、傷付けることになった。
私は悟った。
私が失敗するたびに、誰かが傷付くのだ、と。
そんな簡単なことを、私はようやく自覚した。
……だから、二度と失敗しない。二度と失敗するわけにはいかない。
これ以上、正実のみんなにあんな思いをさせるわけにはいかない。トリニティの皆を失望させるわけにはいかない。
常に最悪を想定しろ。
そして
最善の正義を為せ。
さもなければ、
補習授業部の朝は早い。とは言っても、普段正実として活動している時に比べれば、その起床時間は随分と遅くに感じられた。
いやあしかしそれにしても、朝の支度は中々大変だったぞ。朝っぱらからシャワーにぶち込まれた挙句、裸の付き合いをする羽目になったし。水着とは訳が違うな。
……寝ぼけていた隙にぶち込まれたもんだから、正直なところ記憶が曖昧なんだよなあ。もしかしたら私の身体も見られたりしてるのかもしれんが、まあいないだろ、そんなことするやつ。
「そう思うよな、コハル?」
「えっ!? ああ、まあ、はい、そう、なん、じゃ、ない、です、かね……?」
ほらな。コハルもこう言っていることだし、私の裸は誰にも見られてないはずだ。羽もやたらとでかいし、私の小柄な身体くらいなら覆えるし。
そういえば、ヒフミが朝弱いのは意外だったな。いやまあ、昨日の夜はヒフミと私、そして先生の三人で色々と作戦を練っていたのだから、シンプルに夜更かしがキツかったのかもしれんが。
というわけで、そんな風に様々な朝の支度を済ませたところで。我々は現在合宿所の教室に集まり、補習授業の開始を待っているのであった。
「……えっと、タバネさん?」
「む、どうしたハナコ。そんな『もしかして昨日はよく眠れなかったのですか?』とでも言いたげな顔をして」
「ええ、はい、ちょうどそう言おうと思っていたところです。タバネさん、昨夜はあまり眠れなかったのですか? 表情がお疲れのようですが……?」
流石に鋭いな。かなり正確に
まあもっとも読まれたところで、私は
……無駄な心配をさせるのもあれだし、ここは一つ誤魔化すとしよう。
私のトラウマ如きで気を揉ませる訳にもいくまい。
「うーん、まあちょっとな、
「あら、それは災難でしたね。しかしそれにしても、タバネさんでも失敗するなんてことあるんですね、意外です」
「そりゃあ私だって失敗くらいするさ。しかしまあ、二年前の大失敗は思い出すだけでもぞっとするぞ」
「……えっと、ちなみになんですが、どんなミスをしたんですか?」
「紅茶とコーヒーを間違えてお出しした。そしたら非難轟々だ、正実やめようかと思ったぞ、マジで」
「トリニティで紅茶とコーヒーを間違えて出したんですか!? 正気ですか!!??」
そこまで言わなくてもいいだろ……と思わなくもなかったが、こんなことティーパーティー相手にやったら「こいつ人間か!?」みたいな顔されるだろうしな。
かの《古書館の魔術師》殿ならむしろコーヒーの方が喜ばれるのだろうが。しかしまあ、彼女は彼女で
ん? なぜこんなことを知っているのかって?
そりゃあ私は〈梟〉だからな。
「というか私の大失敗はどうだっていいんだよ。そんなことよりも、私たちにはやらなければならないことがあるからな──そうだろう、ヒフミ?」
「……はい。今日は補習授業部の合宿、その大事な初日です! まあ実際には二日目なのですが──この状況で私たちがやるべきこと、みなさん分かりますか?」
話をさっさと切り上げ、ヒフミに意識を向けさせる。私はあくまでも運営補佐だから、こういう主だったところは部長にお任せしなければな。
「ずばり、一週間後の
「そうだね」
「はい、そうですね」
「そりゃそうだけど……」
「そこで! 先生とタバネさんの力をお借りして──こんなものをご用意してみました!」
胸を張りながらそう言ったヒフミは、とり太郎の形をしたリュックからとり太郎のクリアファイルを取り出し、その中からとり太郎のクリップで留められたプリントの束を取り出した。
取り出されたプリントの正体は──
「じゃじゃん! いわゆる模擬試験というやつをご用意してみました!」
「模擬試験……って、いきなり!?」
「おうともコハル、つまりは抜き打ちテストというやつだな。これがなかなかいいもんなんだよ、学習の定着度を確認するには最適なんだ」
「なるほど、確かに理には適ってる。つまりは戦闘訓練と同じ。どれだけ突発的な状況であったとしても、即座に対応することができる柔軟性と日頃の訓練の成果を同時に試すことができるってことだよね?」
「まあ、アズサちゃんの言うことももっともなのでしょうけれど、しかし模擬試験の
そう。まさしくハナコの言う通りである。いやまあ、だからといってアズサの言ったことが全くの的外れであるというわけではない。
模擬試験というのは、読んで字の如くあくまで模擬の試験であり、本番ではない。だから不合格でも構わないのだ。
不合格でも構わない、というか。
むしろ
つまりつまればつまるところ、私たち補習授業部運営組の目論見というのは、この模擬試験で不合格になってもらうことにある。
それは何故か?
答えはこれ以上ないほどに単純だ。
「"みんなには、一度現状を把握してもらいたいんだよ。今の自分たちが
「現状を……」
「把握?」
「はい、先生の言う通りです。先生は『どれだけやれるのか』という風に言い換えてくださいましたが、実際にはこの模擬試験で、私を含めたみなさんが──どれだけやれないのかを確かめたいんです」
おっと、ぶっちゃけたなヒフミも。
まあこの程度のことでみんなが怒るとも思わんがな。補習授業部が置かれている現状から脱したいのは、みんな同じことだと思うし。
もし言い淀むようなら私が代わってやってもよかったんだが、やはりナギサから一目置かれているだけあって、ここぞの胆力は凄まじいな。
──うん、私も負けていられない。後輩であるヒフミが頑張っているのだ、私が足を引っ張るような真似をしないようにしなきゃな。
「何ができて何ができないのか。どこまでやれてどこからができないのか。それが分からなければ、ただ闇雲に勉強をしたって無意味です」
「なるほど、それでこの試験問題なのですね……あら?」
納得の姿勢を見せたハナコはヒフミから模擬試験のプリントを貰うなり、一瞬だけ目を見開いて、それから平静を装った。
そりゃあそうだろうよ、お前ならそうなるだろうよ。だってお前なら、そのプリントには
「……模擬試験には、昨年トリニティで行われた試験問題をそのまま流用します。タバネさんがほとんど保管してくださっていたので、学習進度ごとに合わせた試験が可能になっています」
「念のため取っておいてよかったよ。本当ならば正実の後輩やらの自主学習に使わせてあげようと思ってたんだが──」
ま、お前たちもトリニティのかわいい後輩だからな。
私はそう言って、補習授業部のみんなに不敵な笑みを見せつけてやった。どう思われたかは分からんが、まあ悪いようには思われていないだろう。
「とは言っても、半分はヒフミが持ってきたものだがな。私はあくまで2年生用の試験問題しか持ってきていない。ほら、もしかしたら私が1年生の時とは大幅に変わっているかもしれないからな」
「……ん? タバネとヒフミが試験問題を持ってきてくれたのだとしたら、先生はその間に何をしてたの?」
「"正直なところね、私はあんまり何もしてないんだよね。二人が頑張ってる間に、私は模範解答を作ってたよ"」
「あはは……謙遜していますけど、先生は凄かったんですよ! 私とタバネさんが試験問題を持ってくるなり、とてつもない速度で問題を解き始めて、新規の問題作成まで──」
ヒフミがややテンション高めにそう言うと、先生は照れくさそうにしながら「まあ先生だからね」と返した。
謙遜を一度に抑えているあたり、それなりに自信があるらしいと伺える。本当にしっかりした大人だな、この人は。
「"そういうわけで、二人の助けもあったおかげでなんとか特別学力試験に近い形の問題を用意できたよ。ありがとうね!"」
「なに、気にするな。私は運営補佐だし、ヒフミは部長だ。補習授業部のためなら全力を尽くすさ」
「はい、部長として当然のことですから」
自信満々にそう語るヒフミ。表情にも柔らかな笑みが浮かべられている。
私の「補習授業部に裏切り者はいない」という発言が効いたのかどうかは分からないが、元気を取り戻してくれて良かった。
人間、追い詰められると普段の調子などまるで出ないからな。私の仕事はつまり、こういう風に円滑な補習授業の実施の手助けなのだろうよ。
「それじゃあ説明に入っちゃいますね。模擬試験の制限時間は60分、100点満点中の60点で合格。つまり本番と一緒です」
「……これって、もう今すぐに解くの? 朝イチでまだ頭も回り切ってないこの時間に?」
「はい、コハルちゃんの言った通り今すぐ解きます。本番でも朝一番に開始なのは同様ですし、今のうちから慣らしておくに越したことはありませんから」
「確かに、その方が合理的ですね。総合的な実力も測れそうですし──うん、それじゃあ早速始めちゃいます?」
「私も賛成。こういうことは、やるなら早いに越したことはない」
「……みんながそう言うなら、私もそれに賛成」
「ふむ、それでは満場一致だな。全員席につけ、隣接している席同士には座るなよ。カンニングとかしたら普通に怒るからな」
全員の賛同も得られたのでやや冗談めかしてそう言うと、みんなはそそくさと席につき、筆記用具を取り出し始めた。
……さて。ここで問題となるのは
もしあの子が退学の件を知っているのであれば、なりふり構わず高得点を取ろうとするはずだが、しかし前回の試験の点数を見るに、ハナコはまだ退学の一件については把握していないように思える。
ここでもまた、ふざけた点数を取るつもりなら、補習授業部が置かれている状況について開示するのも手の一つではある。
ただそうなると、ハナコはふざけた点数を取っていたことを後悔して、また自分を責めてしまいそうだが──その辺りは、私だけではどうにもできない。
だから、できるだけ無傷で終わらせてやりたいのだが……これがなかなか、どうにもなあ。
考えなければ。
常に『最悪』を想定しなければ。
「"じゃあ──試験、開始!"」
先生の合図が教室に響き渡ると同時に。
私は、思考の海へと沈んだ。
ハナコ──4点(不合格)
アズサ──33点(不合格)
コハル──42点(不合格)
ヒフミ───68点(合格)
「……なるほどなあ。さて、補習授業部諸君。現状ははっきり言って悲惨と形容するほかないぞ?」
先生による採点も終わり、模試の結果が発表された。結果としては、まあ……ぶっちゃけちゃうと酷いもんだな、うん。
ここで甘くしてもみんなの為にはならないと考えたため、あえて厳しい言葉を投げかけてみたものの──アズサとコハルは、私が言うまでもなく、ことの重大さを認識したらしい。
「……このままだと、私たち補習授業部に明るい未来はありません」
「うん……思った以上に事態は深刻。まさか、
「タ、タバネ先輩……私、あんなに勉強したのに、また、こんな点数を……」
……コハルが落ち込んでしまっているのだが、しかし私からは慰めの言葉をかけることはできない。
だって、今のコハルとアズサにこの問題が解けるわけないんだから。
この模擬試験は、言うまでもなく
全て同じことだ、例えばスポーツでもな。程よく緊張していなければ意味がない。
……そして、こんな私たち三人の目論見など、ハナコには全てお見通しな訳で。
だからハナコは答案の返却が終わるなり、私に近付いてきて耳打ちをした。
「これ、黙っておいた方がいいやつですよね?」
「よく分かっているじゃないか──助かるよ、ありがとう。その調子で点数も取ってくれると助かるのだがな」
「うふふ、私にはそんなことできませんよ♡ 2年生になってからの勉強は本当に難しくて難しくて……」
──やはり、
それならば、私が取るべき手段は一つだけだ。
「……ハナコ。明日の夜あたり、ちょっと二人で話せないか?」
「……お説教ですか? そうですよね、こんな点数を取り続ける問題児は、一度叱っておかないと──」
「ああいや、別に説教しようってわけじゃない。お前は
それだけは、そんなことだけは絶対にしない。
今のハナコが幸せならば、私は何があってもそれを咎めるような真似はしない。自由を奪うような真似も、また同様に。
お前が
そういうのは、全部私がやるからさ。
「ただちょっと……補習授業部が作られた理由について、一応は2年生であるお前にも共有しておきたいと思っただけなんだ。言い方が紛らわしくてすまないな」
「……ふうん? なるほど、そういうことでしたか。しかし何故明日なんですか? そういうことなら、別に今夜でも構いませんけど」
「いやなに、私も少し話すことをまとめる時間が欲しいのだ。正直に言うと、これで私も混乱している──というのもな、少々
端的にそう伝えれば、恐らくハナコは私の言わんとしていることに気付くはずである。そういった信頼のもとに、私はあえて要所要所の説明を省いたわけだが。
果たしてハナコは私の予想通り、大方のことには勘付いてくれたようである。
そしてハナコはそれを声に出さず、私だけに分かるように、
(まさかこの部活、何か政治的な意図が絡んでます?)
「……さあ、どうだろうな? 今の私は正実の〈梟〉ではないから詳しいところまでは分からない。なんとも言えないなあ──」
(……なるほど。わざわざ『正実』という単語を出したということは──)
ハナコはそこで、一度顎に手を当てて何かを考え込む。その時間、およそ0.5秒。
短時間(どころかほとんど一瞬)で思考に一旦の蹴りをつけたらしいハナコは、そのまま私の耳に口を近づけて来た。
さて、これで私の話が伝わっているかどうかがはっきりする──ぅあっ!?
「……おや、どうしましたか、タバネさん? 私はただ、耳に息を吹きかけただけなのに♡」
「おまっ、お前なあ!! はあ……もういい、戻れ──続きはまた今度だ……」
「あら、続きをご所望ですか? それならばそうですね、今度は息だけでなく、直接耳を──」
「やめろ! どんなことをしでかすつもりか知らないが、そんなことをしたら私はお前の前でみっともない表情を晒すことになるんだからな、気まずくなるのはお前の方なんだからな!」
私が小さな声でそう叫ぶと、ハナコは口元を手で隠して、やや肩を震わせながら元の席に戻って行った。
はあ、こいつは本当に──この悪戯っぽいところだけは勘弁して欲しい。話すたびに仕掛けられたらこっちの心身が持たないぞ。
……わざと茶化したんだろうな、ハナコのことだから。
「ここからあと一週間、みんなで60点を超えるためには、残りの時間を効率的に使っていかなければならないのです! お分かりですか?」
「う、うん……でも、とは言ったって──」
「ええ、言いたいことは分かります。コハルちゃんはとっても頑張って勉強していましたから──それなら! 勉強の仕方を変えてみましょう」
ヒフミはそう言って、コハルの答案にとり太郎のペンで何かを書き込み始める。どうやら間違えてしまったところをピックアップしているらしい。
これもまた、私たちが考えた作戦である。現在学習できている部分を伸ばすのではなく、
「コハルちゃんとアズサちゃんは1年生用の試験ですから、私とハナコちゃん、そしてタバネさんがお二人の勉強をお手伝いします!」
「なるほど。お互いの弱点──弱いところを把握して、そこを教えあうことによって一緒に凄いことになっちゃいましょうってことですね?」
「……表現の仕方には遺憾の意を唱えたいところですが、まあ、そういうことです!」
「ヒフミ、そういうことでいいのか?」
「そういうことでいいんです!」
「ちょっと! エッチなのは駄目なんだからね!? 弱いところ、教えあう、凄いこと──!!」
「そういうことではないです!!」
ヒフミの顔が真っ赤になってしまった。相変わらずハナコは楽しそうだが。
一応は成人男性であるところの先生がさっきからずっと気まずそうなんだよ。可哀想だから本当にそろそろやめてやってくれ。
「ところでヒフミちゃん、どうして私まで教える側になっているのですか? 私は見ての通り、4点の女ですよ?」
「……それは、えっと──」
「んあ、そこは私から説明しよう。昨日試験問題を集めている時にな、偶然ハナコが1年生だった時の答案を見つけてしまってな。その時の点数は100点とかも連発していたもんだから、1年生の範囲であれば教えられるんじゃないかと、そう思ったんだよ」
ヒフミが言いづらそうにしていたので、私はハナコに目配せしながら
当然ながらハナコは私の考えていることなど容易に読み取れるので、しばらく考え込んだ後に「ええ、まあ、そうですね?」と返事を寄越した。
「2年生からは専門的な知識を必要とする教科も増えるからな、私としては、お前の成績が落ち込んでしまったのも、その辺りが関連しているのではないかと考えているわけだ」
「なのでハナコちゃんには、アズサちゃんとコハルちゃんに1年生科目のお勉強を手伝ってもらった後、今の状態になってしまった原因をしっかりと分析して、私と先生、そしてタバネさんと一緒に解決法を探しましょう!」
「……そういうことなら、ぜひそのご提案に乗らせていただきましょうか? 私、勉強の仕方なんてすっかり忘れてしまったので──」
曖昧に笑いながらそう答えるハナコ。
その
ま、こればっかりは自分で答えを出してもらうほかあるまい。部外者が簡単に首を突っ込んでいいものでもないしな。
「……これが恐らくは、今できるベストの選択です。みんなで頑張れば、きっとどうにか合格できるはず──!」
ヒフミはまるで自分に言い聞かせるように、そんなことを口にする。両手はぎゅっと固く握り込まれているし、誰がどう見たって、ヒフミが不安に囚われていることは一目瞭然だった。
そりゃあそうだ、今は補習授業部の部長に据えられているとはいえ、これまでは普通に普通な普通の一般生徒だったんだから。
その両肩にのしかかった責任の重さたるや、私などでは想像するのも烏滸がましいくらいだろう。
だからまあ、そんな姿を見せられて。
黙っていられる奴なんて、この場には一人もいなかった。
「……了解した、指示に従おう。ヒフミとタバネ、先生が考えた作戦なら、安心してこの身を預けられる」
「わっ、私も! 私だって精一杯頑張るから! せめて、みんなの足を引っ張らないくらいまでにはなりたいし……!」
「アズサちゃん、コハルちゃん……!」
仲良きことは美しき哉、なんて言葉があるが──こうして実際目にしてみると、そんなシンプルな言葉に一定の説得力を感じてしまうのだから驚きだ。
なに、別にポエミーなことを言おうってわけじゃない。ただ、善良な関係性というものを見ていると目の保養になるし、羽が休まる思いだし、心が洗われるなあと、そう思っただけのこと。
──だなんて、そんなことを考えていた折。
ヒフミはどうやら感激してしまったらしく、目頭に光るものを携えながらとり太郎のリュックから大量のとり太郎グッズを取り出し始め、それらを机に陳列し始めた。
「私は本当に嬉しいです、皆さんに協力してもらえるか、本当に心配で心配で……! 頑張ってご褒美も沢山用意していたので、本当に良かったです!!」
「……えっと? ヒフミちゃん、これは──」
「皆さんご存知でしょうが念のため説明しておきましょうか。こちらは絶賛大躍進中でその名を世界中に轟かせている、私が愛してやまない大人気キャラクターブランドであるところの『モモフレンズ』、その中から選りすぐりの実用性にあふれた文房具や愛嬌たっぷりのぬいぐるみ等マスコットチャーム、そしてなんとマニア涎ものの超貴重限定品まで、私がこの足でキヴォトス中を回って集めた古今東西四方八方一切合切完全網羅のモモフレグッズを、模擬試験並びに特別学力試験合格のご褒美として持って来ました!」
圧が強えよ。
圧っていうか重圧すら感じるぞ。
ヒフミ、ヒフミ。できれば早く気付け。先生以外誰も『モモフレンズ』をそもそも知らないみたいだ……!
「……あれ? も、もしかして、皆さん『モモフレ』をご存知ない感じですか……?」
「えっと、名前だけは聞いたことがありますけど……」
「……私は知らない。何これ、豚? それともカバ……?」
「────!!」
「あれ、あれ……? えっと、最近は結構流行ってるみたいなんですけど……」
ヒフミがおろおろと狼狽え始めてしまった。絶対に喜んでもらえるという自信があったのだろうが……なんということだろうか。
なんという悪夢だ、なんという絶望だ。
私で例えるなら、これは私の夢であるエデン条約が失敗するようなものだろう──いやもしかしたらそこまでじゃないかもしれないけど、しかしそれにしたって大ダメージであることには変わりない。
これで私が「いや、私もそこまで知っているわけではないんだよ」とか言おうものなら、本当に再起不能になってしまいかねない。
……しょうがない。
これだけは使いたくなかったが。
「あー、ヒフミ? 私はその『モモフレンズ』とやらについて詳しく知らんのだがな」
「……タバネさん? ちょっと、それは──」
「しかし私はお前がそこまで愛してやまない『モモフレ』に興味が湧いてきたぞ」
「──ッ! タバネさん、ストップです、それ以上
「だから、まあ、そうだな。浅学なこの私に──」
「タバネさん……!!」
私はハナコの静止を一切気にも留めず、未だショックを受けている様子のヒフミに向かって、はっきりとそう口にした。
ハナコの方を向いて、ゆっくりと頷く。大丈夫、分かってる、分かっているから。
ジャンル如何に関わらず、何らかの熱狂的なマニアに「どこが好きなのか教えて?」と言うことは、いわゆる
それは何故か? それは語りが止まらないからだ。
なにがなんでも同好の士を増やそうとするからだ。
絶対沼に引き摺り込んでやるぞと意気込むからだ。
溢れ出る熱狂をその身に留められなくなるからだ。
自分と同レベルに語り合える仲間を欲するからだ。
同じ高さの視座で世界観を共有したくなるからだ。
途切れることのない会話を楽しみたくなるからだ。
蓄えた知識を全て放出したくなってしまうからだ。
日がな一日好きなことを友と語り合いたいからだ。
愛を語り話し喋り駄弁り宣い告げ示したいからだ。
「──モモフレの、魅力、ですか……?」
「うむ。ヒフミがそこまで好きだと言うのだから、きっとそれなりに理由があるのだろう。せっかく用意してくれたご褒美だし、どんな魅力があるのか気になってな」
だからもういっそのこと。
「……なるほど! ここで私が上手くプレゼンすることができれば、皆さんにもモモフレの良さに気付いてもらえると、つまりはそういうことですね、タバネさん?」
「うん、まあ概ね大体そんな感じだな」
それを爆発させちまえば。
「そうですか、そういうことならお任せください! それじゃあまずは、何から話しましょうか──よしっ、兎にも角にもモモフレの
私は、そう考えた。
…………………………………………………………?
「ああ、うんっ、そうだな!」
「ですよねっ!!」
──はっ!? しまった、私は今なんて言った? 意識が完全に飛んでいたぞ……。
というかそんなことより──いや「そんなことより」という表現は流石に酷すぎるかもしれないが、ともかくそんなことより。
私は間違えていた。これ以上ないほどの大間違いを犯してしまっていた。その衝撃たるや、ハナコが耳に息を吹きかけてきた時の比ではない。
私はゆっくりと立ち上がり、教室の前の方、つまりはモモフレンズグッズが並べられている机の前へと移動した。
「……タバネさん? どうしたんですか、突然ペロロ様のぬいぐるみを持ち上げて──」
「……だったのか」
「──? えっと、すみません、よく聞こえな」
「とり太郎、お前……本当の名前はペロロ様だったのか!」
「何ですか誰ですかとり太郎って!? ペロロ様はペロロ様ですよ!?」
いや本当に知らなかったんだって。あの抱き枕のキャラの名前。勝手にとり太郎と名付けちゃあいたが──しかし本当の名前はペロロ様だったのか。
しかし見れば見るほど変な顔をしているなこいつ。人をおちょくってるみたいな表情をしていやがる。
「この表情はあれか、つまり相手を怖がらせたりするのが目的だったりするのか?」
「えっ、いや、絶対に違うと思います……」
違うらしい。こんなに不安を煽られる顔だというのに。
私だけじゃなくて多分みんなそうだぞ。ハナコとコハルは怪訝な顔つきをしているし、アズサだってきっとそうだ──と、私はそこで振り返り、アズサの
するとそこには、ぷるぷると震えているアズサの姿があった。
「──か」
「……か?」
「かわいいっ!! テストに合格すればこれがもらえるのか、こんなにかわいいものがもらえてしまうのか!?」
「んなっ!?」
「……っ! アズサちゃん──
マジで?
アズサ、お前もそっち側なのか?
というかヒフミの食いつきが凄いぞ。水を得た魚どころの騒ぎではない……ほら、即座にとんでもない勢いの握手をしかけにかかったぞ。
アズサは腕を振られすぎて頭ががっくんがっくんと前後してしまっている。そのうち首とか痛めるぞ。
くそっ、すっかり二人だけの世界に入り込んでしまった。ああなってしまってはしばらく戻ってこないだろう。それならば先にこちらは勉強を始めてしまおう──そう考えて振り返った。
「つまりここは、この公式を使えばいいわけですから、この部分も含めて考えると──」
「あっ、この前習ったやつが応用できる! それじゃあこっちもおんなじようにやれば──」
そりゃあそうだよな。ヒフミは十五分くらい話し続けていたのだから、お前たちは先に勉強を始めているよな。
えっ、それじゃああれか。
私はただヒフミを暴走させただけってことか?
……うん。つまりはあれだな。
また失敗した!
ヒフミの長文は4,000文字くらいです。大変でした。
実はこの小説、#2時点で既にプロットが粉々に粉砕されていたので、組み直していたら投稿にめっちゃ時間がかかっちゃいました。すいません。
それから評価を入れてくださった方を紹介します。
(敬称略)
皮裂きジャック mimsa 猫雛 地木陰 チョッキー テラスダコ
上記の方々にはこの場をお借りしてお礼を申し上げます。ありがとうございました。
あと総合評価が1,000ptを越えました。感謝してもしきれません。重ねてにはなりますが、本当にありがとうございます。
評価がもらえるとモチベーションに繋がるってことがこの前ようやく分かったので、もしよければ評価やら感想やら投げてもらえると嬉しいです。普段はあんまりこういうお願いしないんですが、9とか10とか、よろしければなにとぞ。
お気に入り登録や感想・評価等もよろしくね。
投稿時間はいつがいい?
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昼ごろ(12時くらい)
-
夜ごろ(18〜21時くらい)