【Tips!!】
芥川タバネは何らかの事象に違和感を覚えた際、いついかなる時でも解決へ向けて動き出す。
久方ぶりの再会だった正実の面々と別れを告げた後、先生と私、そしてハスミさんと話していたコハルの三人は、合宿所へと帰還していた。
ちなみにハスミさんとは顔を合わせなかった。公私ははっきりと分けるタイプなのだよ、私は。
……寂しくないからな。本当だぞ。
どうせエデン条約後は暇になるだろうしな。
てな感じで今日やるべきことは一通り終わったので、私たちは寝室に集まっていた。いやはや激動の一日だったな。
「ふう──なんとか今日も乗り切ったな! みんな、お疲れ様だぞ」
「うん、お疲れ様……って、あれ? ヒフミ、もうお風呂に入ったの?」
「ええ、お先に失礼しました。ほら、今日の朝寝坊したせいで、シャワーにも入れず終いだったので……」
「ああ、そういえばそうでしたね。となればヒフミちゃん、今日は一日中
「ちょっとハナコ! 何でそう毎回毎回いかがわしい言い方を──」
「えっ嘘、本当ですか!? 私、匂ってたんですか!?」
「ヒフミも反応しないで! どうせ冗談だから、ハナコの言い方の問題だから!」
……なんかこう、一騒ぎ起こさないと気が済まないのか?
まったくもう、お陰で退屈はしないが同時に体力も持たないぞ。いや本当、楽しいには楽しいんだけどな。
「反応しないでって言われても死活問題なんですよ!? だってそんな、もし本当だったら、先生だっていたのに──!」
「大丈夫大丈夫大丈夫だってば! だから掴まないで揺らさないで顔近づけないで! ハナコがわざといかがわしい言い方をしただけ──」
「
「
ヒフミ、珍しくテンパってるなあ。いやまあ、確かに不安になる気持ちも分からなくはないけれどもさ。
……少し考えてみようか。
訓練終わりとかにシャワーを浴びるため移動するだろ? 私は激しい運動をした後なので、当然のことながら汗まみれなわけだ。
そこに偶然、内職終わりの後輩ちゃん──ここでは仮にイチカとしておこう。イチカもシャワーを浴びにいくところでばったり出会したとして。
汗まみれの私に近づいてきたところで、ぴくっと何かに反応したかのように足を止める。
どうしたのだろうと私が考えていると、イチカは苦笑気味に笑い、人差し指で気まずそうに頬を掻きながら、視線を逸らして、遠慮がちにこう言ってくるのだ。
「……タバネ先輩、その──あはは、あれっすね。かなり
…………うん。
まあ、あれだな。
死ぬよね、普通に。
私はその日から引き篭もるだろうよ。
いやまあ、イチカはこんなこと言わないだろうし、私だってそんなこと誰にも言わせないために努力はしている。
当然そんなことはヒフミだって同じことだろう。彼女は少々とり太郎──じゃない、ペロロ様にお熱なところがあるものの、それ以外は至って平凡な女子高生である。
まあ、耐えられるはずがないよな。
「匂ってたんですか、匂ってないんですか! それが問題です、それだけが問題なんです! どうなんですか、コハルちゃん!!」
「だから匂ってないって言ってんでしょうが! 紅茶みたいな香りしかしてなかったって、これ本当だから! ねえ肩掴んで頭揺らすのやめて!!」
「本当ですか、本当は気を遣ってそう言ってるだけなんじゃないですか! 内心では『これじゃあ補習授業部じゃなくて補臭授業部ね』とか思ってたんじゃないですか!?」
「だああぁぁぁ!! ハナコあんたこれどうにかしなさいって本当に! 首っ、首折れるから、このままだと首折れるから!!」
「……えっと、何か、まさかこんなことになるとは……すいませんね」
ハナコはそう言うと、コハルからヒフミを引き剥がしにかかる。がしかし、思いの外ヒフミの力が強かったからか、なかなか引き剥がせずにいるらしい。
その間、コハルの首はがっくんがっくんと前に後ろに大暴れしている有様である。目を回してしまっているらしく、いよいよ彼女の三半規管も終わりに近付いている。
「……しょうがない、手伝ってやるか──アズサ、お前も手伝ってくれるな?」
「うん。大変そうだし、これも暴れる人を制圧する訓練になるかも」
「うふふ……まあそうだな、これも訓練の一環か──」
その後、ヒフミをコハルから引き剥がし。
そしてそれから、変な匂いなどしていなかったし、むしろいい匂いだったのだということを説明して、納得してもらった。
説得した方法は、ここでは伏せさせていただく。
ただまあ、そうだな。
私から言えることは、たった一つだけだ。
先生。利用してごめん。
さて、それから話は変わって、現在は合宿所のお風呂事情について語り合っているところである。
何を隠そうこの合宿所、色々な部屋が存在する割には大浴場が存在しない。何ともまあ、トリニティにしてはお粗末な設備なのだ。
だからまあ、一種の合宿の楽しみ方であるとも言える、『みんなでお風呂で流しっこ!』みたいなことはできないのだ。
「ああ、残念でなりません……合宿の醍醐味といえば、脱衣所で『あれっ? ◯◯ちゃんってば思ってたよりも胸大きくないですか……?』をやることだというのに」
「……ハナコ。言っとくけどそれ、あんたの一人勝ちでしかないからね?」
「そんな、練習もしてきたんですよ? こうやって、胸を大きく見せる練習を──」
「やめろやめろやんなくていいから実践は求めてないから! ほらタバネ先輩の目付きが凄いことになってるから!」
「あら……本当ですね、やめておきましょうか」
……む、マジか。別にそういうつもりはなかったんだが、無意識的に攻撃的な目付きになってしまっていたか。
いや別に? この時代に巨やら貧やらで言い争うつもりはないとも、うん。人体の一部位に対する個人差にどうこう言うとかナンセンスにも程があるものな。
大丈夫大丈夫、気にしてないから。ほらあれだ、私のこれはステータスみたいなもんさ。だからお前も気にするな。
「──はあ……虚しいよな……」
「虚しい……………………うん、そうだね」
「おっと、まさかアズサも
どうやらアズサは私と同族の気があるらしい。いやあ何だよお前そういう
と、そういう
流石にさ。
今の反応は
するとアズサは「……やめて、見ないで、恥ずかしいから」と言いながら、どこからか取り出したガスマスクを着用してしまった。
なるほど、なるほど。
「……ふーん。そんなに恥ずかしがることもないと思うんだが──まあいい。これ以上はセクハラになりかねないものな」
この両耳で心音を聞いてもいいし、この両手で筋肉の動きを確認してもいい──が、しかしアズサに害意がないことなどとうに分かっていることだし。
だからまあ、らしくもなく
待つのは得意だ、慣れているしな。
しかしそれでも、限度というものがある。
私も人の子だ。できるだけ早目に頼むぞ。
「いやしかしハナコ、本当にどうやったら
「タバネさんの場合は羽に栄養が全部流れ込んでいそうですが──ただ、そうですね。小さい頃に過度なトレーニングをしていると、軟骨に負荷がかかって背が伸びづらくなるという、そんなジンクスもありますよね」
「えっ、あれってジンクスだったの? それなら私もまだチャンスがあるかも……」
「コハルの身長がこれ以上伸びると、いよいよ私の先輩としての威厳もなくなってしまうな。ただでさえ舐められがちだし、水着似合わないし」
だから水着が似合いまくりなハナコには憧れる──と、他意もなくそう漏らしたわけだけれど。
しかし私の放った言葉は、何故かハナコの何らかのスイッチを入れてしまったようだった。
「……タバネさん。私が昨日着ていたあれ、
「は?」
「いやだから、私が昨日着ていたあれが、本当に水着に見えていたのかと、そう聞いているんですよ」
「はあ? いや、何言ってんだ。あれはどう見たって水着──」
「実はあれが下着だったと言ったらどうしますか? それかもしくは、そう見えるだけの
「……えっ、お前まさか、マジで言ってんのか──!?」
「マジです、大マジに大真面目です。私が真面目じゃなかったことなんて、今までに一度でもありましたか?」
それは幾度となくあっただろ。
いや違う、こんなことをツッコんでいる場合ではない! 仮にだ、もし仮にハナコの言っていることが本当だったとするのなら!
こいつは
くそっ、流石はトリニティのごく一部の狭い界隈において密かに《
……なんつってな。
ヒフミやコハルなんかは顔を紅くして慌てたりなんかしちゃってるが、私を騙すなぞ百億年早い。
「甘いなハナコ。昨日お前が着ていたのは学校指定のスクール水着で間違いない」
「あら、どうしてそう断言できるのですか、タバネさん?」
「簡単なことだ、私は
「ええ、そうですね。タバネさんなら昨日の私が着用していた衣服が学校指定のスクール水着であること、
……む? 何だその、含みのある言い方は。
まるで私が、
ハナコは一体、どのようにして私をからかい倒そうとしているのだろうか。
うふふ、どんなトンデモ発言が飛び出すのか、楽しみでならないぞ。
「つまりですね、タバネさん。もし仮に私が着用していたスクール水着が、私の下着として普段使いされていた場合、昨日の私は
「お前それ、自分で言ってて恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしいですけど、それが何か?」
「恥ずかしいと思ってるんだったらほんの少しでもいいから恥じらうそぶりを見せろよ」
思ったよりイカれた発言が飛んできたもんだから、私もちょっとキツいこと言っちゃった。
いやでも、これ私は悪くないだろ。
「ですから、昨日のスクール水着が果たしてスクール水着であったのか、はたまたスクール下着であったのかということは、当事者である私を置いて他に知る由もないことなんです」
「そりゃまあそうだろうけどさ……ハナコがスク水を水着として使っていようが下着として使っていようが、製造された時点でスク水はスク水なわけだから、使い方如何によらず、水着は水着だと思うぞ」
「あくまで
「理屈の上ではそりゃあそうだろうよ。しかしだなハナコ、スク水があくまで水着として製造されている以上、その
「なるほど、一理ありますね──ですがそれと同時に疑問も浮かびます。タバネさんは『水着の価値は水着として運用されるからこそ存在し得る』というように受け取れる発言をしていましたけれど、それではその水着の価値とやらは
「む、むむむ……いやしかしだな、私はそれでも
「別に本来の用途から外れていようがいまいが、物事の捉え方──使い方なんて
──そう言って曖昧に微笑むハナコ。
いや、そんな顔したって騙されないからな? 私には全部
お前が実際には「まあ昨日のあれは下着じゃなくて水着なんですけどね」と考えていることもお見通しだからな、分かってんのか。
「ともかく! 結局のところ私が何を言いたかったのかというと──あの場あの時において信じられていた『浦和ハナコが着用していたのはスク水だった』という真実が
「……えっと、いえ……ごめんなさい、あんまり?」
「つ、つまり? 結局何が言いたいの? 昨日のあれは水着なの、それとも下着?」
「あの水着可愛かったですよね、というお話です♡」
「──はあっ!? 何それ、今の全部冗談!? 信じらんない!!」
揶揄えば揶揄うほどいいリアクションを返すコハル。そんなんだと一生ハナコに弄ばれ続けてしまうぞ。
もっとも、コハルも別に嫌がっているといった雰囲気ではないから、私が一々口を挟むようなことでもない。仲良きことは美しき
……ううむ、しかしあれだな。
今のハナコの話は、例の古則に通ずる所があったな。
ほら、あれだよあれ、セイア様が言っていたやつ。
確か、そう、
……
白洲アズサ。
ごめん。
内心でタバネが謝罪を述べている最中。
当のアズサはといえば、たった今口にしたばかりの
「ただの聞いた話だけど……キヴォトスに昔から伝わる七つの古則。確か、その五つ目だったはず」
「…………」
「『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか』……そんな感じだった気がする。残りは知らないけれど──つまり、
念押しのため、ここでもう一度明記しておくことにするのだが──アズサは決して成績優秀な生徒というわけではない。これは謂れのない悪評などではなく、
ゲヘナならばともかく、ここはトリニティ。アズサ本人の意識がどのようなものであったとしても、いわゆる不良に片足を突っ込みかけているのもまた事実。
しかしアズサは、たった今確かに
だから、この場合問題なのは。
果たしてその知識を、
タバネはどうにも、その部分だけは見逃せなかったらしい。これもまた、理由は簡単なことなのだが。
それを知っているということはつまり、
できてしまう。
タバネの表情は、
「どこで、って──ほら、あそこだ。古書館の本」
「……そうか。それならまあ、別に構わないんだが──何せ私はな、とあるお方からその言葉をよく聞いていたから、それで過剰反応してしまったのだ」
ガスマスク越しにタバネと視線がかち合うアズサ。視界が遮られているとはいえ、タバネは何というか
しかし、そうだな。とあるお方とは、もしかして──
「百合園セイア様。現在病気療養中のあの方はな、しょっちゅう私を呼びつけては、色々と
……やはり、そうか。アズサは内心でほぞを噛んだ。
ここで
「セイア? それって、ティーパーティーの偉い人だったような……」
「はい、確かサンクトゥス分派の生徒会長の方です。ナギサ様の口からも、度々名前を聞いたことがあります」
「──……そう、なんだ。へえ、知らなかった。私はその人と、会ったことがないから──」
そこまで言って、アズサはタバネがこちらを向いていないことに気づく。視線はハナコに向けられていた。
セイアに関する話をしながらも、手が忙しなく動いている──恐らくは
一瞬だけ、タバネが視線をアズサに向ける。それから数秒経って、一度自分の羽に視線を落とし、それからまたハナコの方を向き直した。
(……
タバネは意識しなければ気付かないほど小さく、とても小さく羽を動かし始めた。おそらくそれに気付いているのは、アズサとハナコだけだろう。
タバネが
その場にいる二人の意識をある程度操作するなど、造作でもないことなのだ。
(左右左右右、左左、右右左、右右左左、左左右左右、右左右左右、右左左、右左右左右左、左左右右、右右左左右、右左左右左、左右左左右、左右左右、左左左左、右左──
「──とまあ、仲良くさせていただいている。だからアズサとセイア様も知り合いだったのなら、私とハナコを含めて四人でお茶会でもできたのかもしれないな」
「えっ? あ、ああ……うん、そうだね」
いつの間にか話は終了していたらしく、タバネはそこですっくと立ち上がると「さて、それでは私は先生と明日の予定確認でもしてくるかな──」と言って、女子の寝室から退室していった。
残された四人(言わずもがなヒフミ・コハル・ハナコ・アズサの四人である)は、明日も早いのだしということで、いそいそと寝る支度を始める。
しかし、その中でもアズサとハナコだけは、形として寝る支度をしているだけで、眠るつもりなんてものは更々なかった。
それもそのはず。タバネが行なっていた手話と、それからモールス信号は、実のところどちらも
ハナコには手話で。アズサにはモールス信号で。
(『今日の深夜、プールに来い』……)
補習授業部の合宿、二日目。
最初に事態が大きく動いたのは、間違いなくこの日だった。
──もっとも、そんなことを調べることは現実的に考えて、当事者らには知る由もないことである。
つまりは、アポステリオリ。
何もかもは浮動し、今はまだ未確定である。
その始まりも、彼女らの行く末も。
ゼミ合宿とかで忙しくて遅れました。
次回以降はもう少し早くしてーな。
頑張るので9とか10とか貰えると嬉しいです。
それから評価を入れてくださった方を紹介します。
(敬称略)
深夜テンションの鮎 ケーキリゾット メイプルアルパカ 御稲荷 西壁の歪み 神威の皇帝 fn 喫茶 ばったさん コントラバス 提灯にゃんこう 普通の一般人 最弱のデブ神 カズマ 青い蝉
上記の方々にはこの場をお借りしてお礼を申し上げます。ありがとうございました。
あと多分評価入れ直しとかで二回目のお礼を貰ってる人もいると思うんですけど、調べるのが大変なのでいちいち修正とかはしません。入れ直してくれてありがとう。
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