【Tips!!】
芥川タバネは、基本的に頼まれると断ることができない。
あの後──つまりは、ナギサから補習授業部のメンバーを記した書類をもらった後。
ティーパーティーのあり方についての話──本来はホストであったはずのサンクトゥス分派の
理由としては、補習授業部のメンバー四人を集めて話を聞かなければならないというのもあったし。
そのメンバーのうち一人が倉庫で籠城しているとの連絡が入ったから、この私が直々に、正義実現委員会の〈梟〉として、制圧しにいかなければならないというのもあった。
「──ということなんだが、何か申し開きはあるか? なあ、《氷の魔女》さん」
「…………」
「ま、ないだろうよ。私も別に、返答を期待して問いかけてるわけじゃない。どうせ見れば分かるし、聴けば知れる。ガスマスクで
「…………」
「いやあしかし、ド派手にやってくれたもんじゃあないか。催涙弾を根こそぎぶっ飛ばしたのにも驚いたが、まさかハスミさんとマシロという正実二大狙撃手を相手にしておいて、一時間も持ち堪えるとは。感心したぞ」
「…………」
「ただまあ、私とは相性が悪かったな。ほら、私は目も耳も鼻もいいから、ブービートラップとか
「…………」
「……はあ。いやなに、お前が籠城するに至った理由の方はな、これでも理解はしているんだよ。お前はお前なりに、お前の思う
「…………」
「しかし、しかしだ。それで学校の備品を破壊したり、周囲に迷惑をかけたりするな。多少はしょうがないところもあるだろうが、しかしそれにしたってやりすぎだ。教室一つと倉庫一つが吹き飛んでるのは、流石にやりすぎだぞ」
「…………」
「もっと上手く立ち回れ。今回は補習授業部の一件があるので投獄はしないが、次また同じようなことをやったら正実の牢屋行きだからな? 分かってくれたか?」
「…………」
「……って、こんなこと聞いても、今のお前に答えられるわけないか──」
だって、そもそも。
ていうかまあ、ぶっちゃけて言っちゃえば私が気絶させたんだが。首に回し蹴りをぶち込んだ。大丈夫、キヴォトスじゃ擦り傷みたいなもんだから。
本当はもう少し手心を加えたかったんだが、いかんせん〈梟〉として呼ばれちゃったからな、相手が誰であれ、全身全霊で正義を実現しなきゃいけない。
それが私の──〈梟〉の
だから、呼ばれたからには私の責任を果たすほかないのだ。いつも通りに、愛銃のNot think & Nothingと自慢の足蹴りで、正義を為さなければならない。
それこそハスミさんとマシロなんか、私が現着した時点で既に銃を納めていた。二人の行動は、私がこれまでに
ここまで来るのには、そりゃあいくつもの困難があった。一つでもボタンを掛け違えていたのならば、私は今頃ここまで信頼されてもいないし、ここまで強くもなれていないはずだ。
でも、私は私の正義を実現するために、ここまで信頼されなければいけなかったし、ここまで強くならなければならなかった。
そうでもしなけりゃ。
そこまでやらなきゃ。
……警戒しすぎかもしれないが、しかし警戒なんてするに越したことはないのだ。
向こうさん──
外交役として私が出向こうとすると、絶対に向こうさんは拒否してくるし。それって最早『やましいことがありますよ』と言っているようなもんなんだが……。
「……とりあえず今は、この子を先生との集合場所に連れて行かなきゃな」
そんなことを呟いてから、眼下の少女を肩に担ぎ。
ほとんど廃墟と化してしまった、倉庫を後にした。
さて。そんなこんなでなんやかんやありつつも、無事に補習授業部のメンバーは召集し終わった。
先生の方はどうやらイチカと行動を共にしていたようで、首尾よく三人のメンバーと顔合わせを済ませたらしい。この辺りは流石と言わざるを得ないな。
ちなみに現在。我々補習授業部の面々は、丁度自己紹介を開始したところである。
「"──というわけで、私が補習授業部の顧問になりました、シャーレの先生です。よろしくね!"」
「よろしくお願いします、先生」
「よ、よろしくお願いします……!」
「うん、よろしく、先生」
「ふふ、よろしくお願いしますね?」
「……よろしく、お願いします……」
私の挨拶に続く形で、四名の生徒もそれぞれ挨拶を返す。こういうところを見るあたり悪い奴はいなさそうだな、よかったよかった。
さて。私と先生は教卓側、つまりは黒板側に立っていて、ほか四名の生徒たちは(あくまでもトリニティにおいては)オーソドックスな学習机の椅子に座っている。
だからまあ──別にこの立ち位置でなくとも私には全て見えるのだけど──四名の服装までもが、私と先生にははっきりと見てとることができた。
一人目。全身を
二人目。《氷の魔女》。まさかまさかの、最高に無骨でイカしたガスマスク。
三人目。私はこいつと何度も顔を合わせているから、その服装について、いちいち説明なんてしてやらない。でもスク水って、お前。目の前にいる先生は男性なんだぞ。
四人目。最高に可愛い。桃色の髪に小ぶりな漆黒の羽と黒色の制服が似合いすぎている。なるほどこれならハスミさんが推すのも分かるな。今すぐ撫で回したい。絶対にかわいい反応をしてくれるはずだ。好き。
いやしかし、随分とまあ個性的なメンバーが集まったな……それを言ったら私だって個性的だとは思うが、流石に霞むぞ、この中だと。
と、そんなところが正直な思いである。確かに人間はそれぞれ個性があって、多種多様、十人十色、千差万別ではあるのだけど。
それにしたって、個性的がすぎやしないか?
トリニティ全体から──
と、そんなことを一人で考えていたところで。先生は教卓の前から移動して、私にその位置を譲るかのようなジェスチャーを送ってきた。
なるほど、私の自己紹介の番だな。任せておけ。そんな心意気を胸に、私は教卓の前に姿勢を正して佇んだ。
「──さて。まあ何となく想像がついているとは思うのだが、しかしここで今一度。私の立ち位置というものを明瞭にしておこうと思う」
そう言ってから一礼。
以前先生に見せたような動作で。
以前よりも洗練された動作で、挨拶を。
「この度ホストである桐藤ナギサ様から、補習授業部運営補佐の
そんな感じで、礼法に
が、しかし。それと同時に、水着の痴女以外は僅かながら
そして、それこそが。
この補習授業部にて私が最初に行う、
「やめだやめだこんな堅苦しい雰囲気は!」
「……ぅえっ!?」
突如として静けさをぶち破った私に驚いたのか、とり太郎グッズに身を包んだ子が素っ頓狂な声を上げる。
他の三名も(何なら先生も)少なからず驚いているようで、視線がこちらに集中しているのが分かる。
私のことを知ってもらう絶好の
「この先やっていけるかこんな空気感で! そりゃまあ補習授業部なんだ、真面目になる時だって必要だろうがな、自己紹介の時からガチガチになってどうする!」
「タ、タバネさん……?」
「おっと、『タバネさん』だなんて他人行儀な呼び方じゃなくてもいいんだぞ、キャラクターグッズの子。もっと気軽にタバネちゃん先輩と呼ぶがいい」
「ええっ!? タバっ……無理ですそんな、先輩をそんな呼び方にするわけには……!」
「あれってタバネ先輩公認の呼び方だったんだ……」
最強にかわいい桃髪ちゃんがこっそりと呟いていたが、私の耳はサラサラも聞き逃さなかった。
違うからな。なんか勝手に呼ばれてたけど、禁止するほどのことでもないから放置してるだけだ。
あと普通に、呼び名一つで後輩ちゃんたちにとって親近感が増すのであれば、当然ながら受け入れるとも。
「趣味は……映画鑑賞と、あと読書だ。基本的にどんな映画でも観るし、どんな本でも読む。ジャンル問わずの雑食だから、ある程度は話せるつもりでいるぞ」
「ジャンル問わず、ですか? それは例えば──」
「残念ながら、お前が思っているようなジャンルのものは観ないし読まないよ」
「──あら、何を想像したのかは分かりませんが……私はただ、
「……それなら最初からそう言え。紛らわしい」
水着の痴女はどうやら私を揶揄うのが好きなようで、普段からこのようにして絡んできては、えげつないこと(明け透けに言うのならば下ネタ)を言い、私の反応を見て楽しんでいる。
まあここ最近──つまりは連邦生徒会長が失踪してからシャーレに先生が着任するまでの間、私たちが文字通りに死ぬほど忙しかった時期は、流石に控えてくれていたようだが。
少なくとも、悪い奴ではない。
情操教育には間違いなく最悪だが。
「恋愛小説か、そうだな……今年読んだ中だと『宇宙の中心で、愛を語る』とか良かったぞ。話題になっただけはある」
「へえ、そうなんですね。私は最近あれを読みましたよ、『デカメロン』」
「あれを恋愛小説として読んでるのは世界広しといえどもお前だけだよ」
「でも恋愛小説といえば外せないのは、やっぱり『カーマ・スートラ』ですよね。あと『素女経』と『匂える園』も捨てがたいです」
「お前まさか世界三大性典を恋愛小説感覚で読んでるのか!?」
こいつ、なんて奴だ。確かに以前出会った時は、ベンチに座って平気な顔をしながら官能小説を嗜んでいたが、まさか性典までもが愛読書とは。
くそっ、流石にトリニティ内のごく一部で密かに《
……いや、冷静に考えれば侮るとかそういう次元の話じゃないな、これ。
「まあともかくそういうわけで、私が芥川タバネだ。普段は正義実現委員会で活動してて、内外から〈梟〉って呼ばれたりしてるが……ここにいる間はあくまでも、ただの芥川タバネだからな」
立場とか気にせず、気楽に話しかけてくれ。そういう意図を込めた私の言葉は、果たして正しく伝わったらしい。
本当に堅苦しいのは好きじゃないんだ。ただでさえ役の皮を被っているのに、その上から更にもう一枚の
少しくらい、肩の力を抜いてもいいだろう。
「私の役割は
笑顔を浮かべながらそんな感じのことを口にして、私は教卓の前からのいた。
ラフな自己紹介ができる空気感は、まあ作れたと言っても差し支えないだろう。
これから苦楽を共にする──苦は出来れば避けたいが──仲なのだから、ピリピリしている必要性もあるまい。
それに、ほら。
特別学力試験って、マジで簡単だから。
その後の自己紹介はといえば、極めて順調で和やかだったと形容するのが適切だろう。
私の手柄かな、とも思ったが──しかしこのメンバーならば私がいなくとも、遅かれ早かれ和やかな空気感になっていたであろうことは想像に難くない。
「えっと、それじゃあ次は私ですね。2年生、
「一応ですが、名簿の上では部長ということになっています。力不足なのは承知の上ですが、精一杯頑張りますので、よろしくお願いしますね!」
全身のほとんどをとり太郎のグッズで覆った少女──阿慈谷ヒフミ。
少し
補習授業部送りにされた原因は──とり太郎のゲリラライブに参加するためテストをすっぽかしたから。
……随分と熱狂的というか、狂気的というか。テストをすっぽかすと最悪留年もあり得るというのに、それでも一つのライブを優先するとは。一途だな。
あとはもう一つ、ヒフミに関して気になる情報が入ってきているのだが、こちらは流石に眉唾物として切り捨てた。
ヒフミの正体は、ブラックマーケットを拠点にする謎の超凶悪犯罪組織である
いやあ、ないない。
気になったので本気で調べようとしたけど、万が一ブラックマーケットの情報を仕入れていることが万魔殿あたりにバレると、向こうの議長さんあたりに
火のないところに煙は立たぬと言うが、それは裏を返せば、火を用意さえしてしまえば──つまりは
ま、とにかく今は補習に集中してもらわなきゃな。
全部終わった後とかに、直接聞いてみるとしよう。
もし本当だったら……ま、正義を実現すればいい。
「次は私か。
「ところで、補習授業部は戦闘訓練は行わないの? 〈梟〉に──タバネに室内戦闘でリベンジしたかったのに」
何やら物騒なことを言っている《氷の魔女》こと白洲アズサ。流石に自己紹介をするにあたって、ガスマスクは無理矢理取り上げた。すばしっこく逃げ回られたが、室内で私に勝てると思うなよ。
……それが良くなかったのかもな。アズサは顔を
どうしてこの子はこうも好戦的なのかねえ。身のこなしもかなり素早くて洗練されているし、少なくとも、正実の1年生ちゃんたちよりは動けている。
補習授業部送りにされた原因は、トリニティの授業進度について来れていないこと。転校してきたばかりらしいからな、しょうがない。
──ただ。
正実の1年生ちゃんよりも(下手したら2・3年よりも)動ける? 転校してきたばかりとはいえ、1年生相当の科目すらも全くの未履修? 転校早々から数々の問題を起こし正実にマークされていた?
おまけに以前通っていた学校は『機密事項』ときた。しかもこれは、
私は〈梟〉で、トリニティ内に対してはある程度の特別捜査権が認められているから、いわゆる自浄作用を働かせることができるのだが……しかし相手が茶会のお偉方となると、少々厄介だ。
心音でも
表情でも
しかし、
ここでもまた名前が出てくるのがエデン条約。ただでさえごたついているというのに、このタイミングで内輪揉めを起こすわけにもいかないのだ、〈梟〉は。
本当に息苦しい立場だよ、まったく。
アズサに関してもヒフミと同様、全てが終わってから問いただすことになりそうだ。
頼むから正義を実現させないでくれよ。
「それじゃあ、次は私がいきましょうか。
「色々とよろしくお願いしますね。それはもう『色々』と……何から何まで、ナニからナニまで。ふふっ」
ようやくまともな(まともか?)衣服を身につけた、元水着の痴女──浦和ハナコ。私はこいつのことをよ〰〰く知っている。
補習授業部送りにされた原因は単純、
以下、一例。
裸。
露出。
欠席魔。
校則違反。
不審な言動。
猥褻物等陳列。
学校施設に侵入。
放送禁止用語連発。
平然とセクハラ行為。
コンプライアンス違反。
授業中にも関わらず退室。
卑猥な服装で学校中に出没。
テストで一桁点数は当たり前。
公然で猥褻な書物を読みふける。
学校指定のスク水で廊下等を徘徊。
学校指定以外のスク水で教室を巡回。
十八禁の様々な図書物を敷地内に配置。
正義実現委員会を性技実現委員会と書く。
水浸しになって透けた下着を見せびらかす。
明らかに手を抜いているだろう提出物の数々。
図書館における一部図書物等を事実上の私物化。
保険体育の授業にほぼ裸で参加することを目論む。
エトセトラ、エトセトラ。
枚挙に
……私は、ああいうセクシーなのは苦手なんだ。勘弁してほしいところ──なんだけどなあ。
しかし
いつか、この子の心が。
安らぐ日は来るのだろうか。
「……
「あんたたちとよろしくするつもりはないから──あっ、でもタバネ先輩はよろしくお願いします!」
……桃髪のめっちゃかわいい子は下江コハル。正実における私の後輩だ。そして、
補習授業部送りにされた原因は、飛び級するために二年生の範囲のテストを複数回に渡って受験し、その全てで惨敗したから。背伸びしたかったんだろうな、何もかもがかわいいぞ。
腰と頭から生えている小さな二対四翼をぱたぱたと動かしながら、私に頭を下げている姿もまた、可愛らしい──が。
うん。流石にこれは口出そうか。
「……コハル」
「はっ、はい! 何ですか、タバネ先輩!」
「
瞬間、コハルの身体が強張った。瞳の動きや呼吸の変化、筋肉の緊張具合から
悪いが、下江コハル。
私はハスミさんや他のみんなほど、優しくないぞ。
「えっ……でも、私はこんなところはすぐに抜けて」
「それは不可能だ。いいかコハル、補習授業部が解散となる条件は二つある。一つは三回行われる特別学力試験のうちどれか一つでもいいから
「……はい」
「そして二つ目は
「…………」
しかし流石にこのままだと、コハルがみんなに嫌われてしまう。最悪……私は嫌われてもいいから、この子に態度を改めてもらわなければ。
そう思いながら私はコハルの手を握り、彼女の目をまっすぐ見た。
「コハル、分かるか? どういったのっぴきならない理由があったにせよ、ここに来た以上は試験に合格しなければならない」
「……はい、分かります」
「それに──お前が留年することになっちゃったりなんかしたら、ハスミさんも悲しむぞ。当然私も悲しいし、お前だってそれは嫌だろう?」
「ハスミ先輩が……それは、嫌です……!」
「だったら、どうすればいいか……分かるな?」
「はいっ!!」
先ほどとは全く違い、いっそ気持ちのいい返事。やはり緊張しているのか肩に力が入っていたが、コハルは元気すぎるくらいで丁度いい。
ハスミさんの大切な後輩だ。そうでなくとも私の大事な後輩だ。私が責任を持って、絶対に道を間違えないようにしてやる。
「さっ、さっきは、その……後輩なのに生意気言ってごめんなさい! よ! よろしく……おねがい……します……」
尻すぼみにはなってしまったものの、コハルはしっかりと他三人にも挨拶をした。さて、受け入れてもらえるだろうか?
それから私は、みんなの反応を見ようとして──しかし私の心配が挟まるような
何故ならば。
直後にヒフミ・アズサ・ハナコの三名から
そして、それから。
「というかコハルちゃん、先ほどまでツンケンしていたじゃないですか。まさか今更口調を敬語になんてしないですよね?」
「えっ、えっ?」
「いいよ別に、敬語なんて気にしないで。私だって転校してきたばかりで1年生みたいなものなんだし」
「いや、でも、私以外みんな先輩なんじゃ……」
「あはは……せっかくこれから一緒にお勉強する仲になったんですし、私も気にしませんよ、コハルちゃん!」
と、そんな感じの言い争いを30分ほど続けた末に。
ようやくコハルの方が折れて、補習授業部でのスタンダードな言葉遣いはタメ口ということになった。
私に話しかける時だけは敬語のままだったけど。
まあ一応正実の先輩だしな、私だけは。
……寂しくなんかないからな。
本当に。気にしてないから。
マジで。
大学の課題やら何やらで押しつぶされています。助けてください。
それから評価を入れてくださった方を紹介します。
(敬称略)
陵戸 紫苑 ユキ_daruma りんこすねーく
上記の方々にはこの場をお借りしてお礼を申し上げます。ありがとうございました。
お気に入り登録や感想・評価等もよろしくね。
投稿時間はいつがいい?
-
昼ごろ(12時くらい)
-
夜ごろ(18〜21時くらい)