INFINITY   作:烊々

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『ネプギア』

 

 大量の機械パーツを買い込み、教会にある自分のラボに引きこもっていたネプギアが、休憩しようと部屋の外のリビングスペースに出ると、出しっぱなしのゲーム機とコントローラー、散乱する食べ終えたスナック菓子の袋、脱ぎ捨てられた部屋着やスリッパなど、酷い有様だった。

 そして荒らしたであろう本人、姉のネプテューヌは片付けることなく、外に遊びに行ったのだろう。

 

「お姉ちゃんったら散らかしたのに片付けないで遊びに行っちゃうんだから……」

 

 大好きな姉の後始末をすることに不満はないが、この惨状をイストワールに見つかれば確実に説教が飛ぶ。

 つまりは、自分が即座に片付けをすることで全てが丸く収まると、ネプギア散らかった部屋を片付け始めた。

 加えて、今回散らかした姉は一人ではなく二人。別の次元の大きい方のネプテューヌも、女神の方のネプテューヌと遊び呆け、同じように散らかした部屋を片付けることもせず、二人で外に遊びに行ったのだ。

 

「あれ……?」

 

 姉が荒らした部屋を片付けることには慣れているネプギアが、テキパキとした動きで片付けを進めていると、ふと、見慣れぬ物が目に入った。

 

「これ、お姉ちゃんの……?」

 

 そのノートの名は『ねぷのーと』。次元の旅人ネプテューヌの持ち物で、対象を本のページに吸収し閉じ込めることができ、また、吸収した者の能力を使用できるという能力を持つ便利な代物。これに封印したクロワールの力によりネプテューヌは次元渡航を可能にしており、ネプテューヌの旅の根幹をなす重要なアイテムである。

 そんな重要なアイテムをこうして置きっぱなしにされている本人の迂闊さはさておき、ネプギアはどうしてもねぷのーとが気になっていた。

 テクノロジーに興味があるネプギアにとって、ねぷのーとの構造は大変気を惹かれるものであるからだ。

 

「ごくり……」

 

 手帳というものは個人のセンシティブな部分にあたるものであり、勝手に手に取り中を見るのは真面目なネプギアには抵抗があった。

 しかし、ネプギアの中にはもう一つの思いが芽生えていた、今この場には誰もいない、少しぐらい中を見てもいいだろう、と。

 

「少しぐらい見ても……バレないよね?」

 

 結局、ネプギアは好奇心に負け、ねぷのーとを手に取り、開いて中を眺めだした。

 

「お姉ちゃんはこうやってノートに閉じ込めてたっけ? それぇ〜! なんてね」

 

 ネプギアがねぷのーとを開いて天に掲げると、ねぷのーとが光りだした。

 

「え……?」

 

 そして、ネプギアを吸い込み始める。

 

「わ、わああ〜! ちょっと待って〜! 閉じ込めるのは私じゃないよ〜!」

 

 抵抗もやむなく、ネプギアはねぷのーとのページに吸い込まれていく。

 

「あ〜れ〜!」

 

 そして、ネプギアの身体が完全に吸い込まれると、ねぷのーとはパタンと閉じ、地面に転がるのであった。

 

 

 *

 

 

 目を覚ましたネプギアは、奇妙なダンジョンの中にいた。

 

「ここは……?」

 

 そのダンジョンは、まるで宇宙空間のような景色が広がっており、パネルのような足場が点々と配置され、それを少しずつ登っていくことで上を目指すような構造をしていた。

 

「これって……」

 

 ネプギアはその光景に見覚えがあった。それはかつて、猛争事変によりゲイムギョウ界が改変された際に出現した建物『黄金の頂』の内部であり、ネプギアの記憶の中のそれと完全に一致していた。

 

「とりあえず、登ればいいのかな?」

 

 猛争事変当時と同様に、ネプギアはパネルからパネルへ飛び移りながら、上を目指していく。

 しばらく登っていると、ネプギアは他のものよりもだいぶ大きめなパネルに飛び移る。すると、前面に人影が見えた。

 

「あれは……お姉ちゃん……?」

 

 その人影の正体は、ねぷのーとの持ち主であるネプテューヌだった。

 

「それは、わたしが秘密結社アフィ魔Xの一員で、ネプギアたちの迎撃を頼まれたからだよ!」

「え?」

 

 脈絡のない話をいきなり始めたネプテューヌに対し、ネプギアは困惑が口から漏れる。

 

「えっと、その、勝手にねぷのーといじっちゃってごめんなさい! とりあえず外に出たいんだけど……」

「んー……まぁ、いろいろ経緯があってね……」

「経緯? どういうこと?」

「けどまぁ、そういうわけだから、一勝負、させてもらうよ!」

 

 ネプテューヌはネプギアの話を聞くことなく、双剣を手に取り、ネプギアに襲いかかる。

 

「お姉ちゃん! やめて!」

 

 ネプギアの声は、ネプテューヌには届いていない。

 

「私はお姉ちゃんと戦う気なんて……!」

 

 そして、大振りの一撃がネプギアを掠め、その衝撃でネプギアは吹き飛ばされてしまう。

 

「きゃあっ!」

 

 自分の言葉は聞き入れてもらえず、戦いの手を止めてはくれない。

 このままネプテューヌと戦わなければならないのか、とネプギアは葛藤していた。

 

「お姉ちゃん……私は……」

「何してんだオマエ?」

 

 すると、急に後ろから声をかけられた。

 

「あなたは……クロワールさん……?」

 

 振り返った先にいた者は、『クロワール』。かつてゲイムギョウ界に危機を齎した様々なトラブルの黒幕であり、その危険性からネプテューヌによってねぷのーとに封印されている人物。

 今は自分も彼女と同様に封印されている身だからこうしてねぷのーとの中で会話できるのか、とネプギアは理解した。

 

「記録の再現にしては明らかに挙動がおかしい奴がいるからと様子を見にきたら、まさか本人が迷い込んでるとはな」

「えっと、それは……どういうことですか?」

「このノートには二つの機能があってな。今の俺やお前がされてるような『封印する機能』と、アイツの旅の記憶をつけることで、こうやって後から具体的に『再現できる機能』の二つ。ま、後者は俺が付けたんだが」

 

 クロワールは性格や嗜好が違えど、イストワールの別次元同一体であり、本人同様何かと物事を記録する習性がある。ネプテューヌの旅の記録を付けることは、本に閉じ込められたクロワールの暇潰しのようなものなのだ。

 

「お前は今、アイツの記憶を辿ってるようなもんだ。この記録に紛れ込んだお前が、この記録の中のお前と同一化してるって感じでな」

 

 また、当時はネプギアの隣にベールが戦っていた筈だが、ねぷのーとの再現機能が『ソロ攻略』モードになっているため、戦闘はネプギアのみで行うようになっているのだ。

 

「なるほど……」

「基本はアイツが自分の旅の記録から一度戦った強敵に再度挑むって感じで使うんだけどよ、他の奴が迷い込むとこういう感じになるんだな。俺も知らなかったぜ」

「じゃあ、あのお姉ちゃんとは戦っても……」

 

 なんとなく理屈を理解したネプギアは、剣を握り直す。戦意を察したクロワールは、ニヤリと笑って再度ネプギアに語りかける。

 

「良いんだぜ。ここではどれだけダメージを負っても影響はないから、力試しができるってわけだ。良い機会だ、この際アイツのことボコボコにしちまえよ」

「そ、そこまでは……」

「ほら、来るぞ」

 

 クロワールが一時停止から再び記録を再生すると、空中で止まっていたネプテューヌの双剣が再びネプギアに迫る。

 

「わわっ!」

 

 ネプギアは女神化し、ネプテューヌの双剣をM.P.B.Lで受け止める。

 

「あの! クロワールさん!」

「なんだ?」

「これって、お姉ちゃんを倒したら記録が変わっちゃうんじゃないですか?」

 

 当時ネプテューヌとの戦いは決着が付くことなく終わった。しかし、パープルシスターがここでネプテューヌを倒してしまっては、記録との食い違いが起こり、ねぷのーとの不具合の元になってしまうのではないか、というのがネプギアの心配であった。

 

「心配要らねーよ。ここでお前が勝とうが負けようが、この中では記録の通りに物事が進むだけだ。RPGとかの負けイベントで勝っても負けたものとして進むみたいな感じでな」

「そうなんですね、じゃあ大丈夫かな」

「なんだよ、アイツに勝てるってのか?」

「はい、勝ちます」

 

 パープルシスターは、言い切った。ネプテューヌを人間だからと侮っているわけではない。そして、ネプテューヌに必ず勝てると驕っているわけでもない。

 ならばその真意は、いつまでも『女神候補生』という立場に甘んじているわけにはいかない、という決意の表明。

 

「行くよ、お姉ちゃん」

 

 パープルシスターはM.P.B.Lをネプテューヌに向ける。

 

「狙い撃ちます!」

 

 そして、銃口からビーム弾を撃ち出す。威力に優れた照射ビームではなく、弾速に優れた単発のビーム弾。

 しかし、いくら弾速に優れているとはいえ、直撃するほどネプテューヌは鈍くはない。初発は避けられ、追撃の数発は斬り消される。

 

「はぁぁっ!」

 

 だが、パープルシスターにとってそれは想定内。既にネプテューヌが避けた方向に回り込み、技の構えをしていた。

 

「『パンツァーブレイド』ッ!」

 

 力強い連撃が、ネプテューヌに炸裂する。

 

「これで……っ!」

 

 最後の一閃を繰り出そうと、ネプギアがM.P.B.Lを振りおろしたその時、斬られながらも体勢を立て直したネプテューヌの双剣が、M.P.B.Lを受け止める。

「く……!」

 

 武器同士の押し合い。一本でも相当の重さを持つ剣を二本も同時に持てるネプテューヌに軍配が上がりそうな展開だが。

 

「は……あああぁぁぁっ!」

 

 パープルシスターがネプテューヌを押し返していた。

 

「アイツ……」

 

 その様子を遠巻きに眺めていたクロワールが、興味深そうに声を漏らす。

 

「この記録ではネプテューヌがそんなに本気じゃねえってこともあるが、ネプギアの奴、猛争事変の頃より格段に強くなってやがるな。成長性の高い候補生だからか……アイツ自身の資質か」

 

 善性の女神には基本興味を示さない筈のクロワールが、珍しくパープルシスターに関心を向けていた。

 

「たぁっ!」

 

 パープルシスターが、ネプテューヌの双剣を弾き、押し切る。

 剣の振り合いは不利と見たネプテューヌが太腿のホルスターからハンドガンを取り出し、銃弾を放つ。

 しかし、パープルシスターは弾丸を手で受け止め、握りつぶして勢いを殺し、地面に捨てる。

 

「これぐらい見切れなきゃ、ユニちゃんには勝てないからね」

 

 小銃では有効打にならないことを理解したネプテューヌは、再び接近し、双剣を振るう。先程の力強い斬撃ではなく、双剣の手数を活かした連撃。

 対してパープルシスターは、ビットを携えて迎え撃つ。これにより武器の数は三対ニ、手数でも上回る。

 

「決めるよ」

 

 ビットで時間を稼ぎ、M.P.B.Lにエネルギーを込める。

 

「『スラッシュウェーブ……」

 

 そして、エネルギーを込めた斬撃で地面を斬り裂く。

 

「『リバルサー』!」

 

 そして、地面から発生した衝撃波が巨大な斬撃となり、ネプテューヌに炸裂した。

 ネプテューヌは力尽き倒れ、勝敗がつくと、視界がぼやける。

 

「ん……?」

 

 そして、視界が戻ると、何事もなかったかのようにネプテューヌが立っていた。

 

「わたしの仕事って、ネプギアたちの足止めだから、別に倒さなくてもいいんだよね」

「え……? あぁ、この話はあの時と同じ……」

「それに、足止めしなきゃいけない時間とは言われてないんだ。だから、わたし的にはもうお仕事完了って感じかな。それじゃ、またね!」

 

 と言いながら、ネプテューヌは去っていった。それは、当時と全く同じ流れであった。

 

 

「なるほど……こういうことなんだ」

 これがクロワールの言っていた、勝っても負けても記録の通りに進んでいく、ということなのだろうとパープルシスターは納得し、一息ついて変身を解いた。

 

「やるじゃねえの」

「ありがとうございましたクロワールさん。それにしても……どうして私には色々教えてくれたんですか?」

「あ?」

「なんというか……お姉ちゃんに対してはここまで素直に色々教える印象がないって言いますか……あ、いえ、悪口を言ってるんじゃないんですよ!」

「あー……」

 

 確かに、クロワールはネプギアに対し、嘘偽りも無ければ嫌味一つ無い丁寧な解説をしていた。

 その理由の一つに、ネプギアは会話の中に無駄な茶々を入れず、また理解力が高く余計な説明が必要ないため会話にストレスが無いということもある。

 

「俺は……お前のことをそれなりに評価してるんだぜ。神次元の時や猛争事変の最初の方は眼中にもなかったがな」

「え……?」

「だが、お前の成長速度には驚かされたこともあった。お前はほぼ完成された姉やアイツと違い、可能性に満ちている。だからまぁ、精々精進することだな」

 

 クロワールは珍しく他人を褒め、激励の言葉まで送った。

 

「はい!」

 

 そして、ネプギアはその激励に、とびきりの笑顔と元気な返事で返した。

 

「お……?」

 

 すると、クロワールはねぷのーとの中の空を見上げ、何かを察する。

 

「どうやら、お前がここにいることがわかったネプテューヌが、お前を出してやるようだぜ。俺は多分閉じ込められたままだがな」

「えっと……」

「余計な気を使うんじゃねーよ。出られるならさっさと出ちまえこんなとこ」

 

 ネプギアを気負わせないためにあえて突き放したような態度を取るクロワール。

 

「クロワールさん、色々ありがとうございました」

「あぁ、じゃあな」

 

 それを察したネプギアは、それ以上何も言うことなくねぷのーとから出て行った。

 再び自分だけになったねぷのーと中で、クロワールは小さく笑う。

 

「可能性に満ちた女神候補生ネプギア……その可能性の中には、俺が望むものを見せてくれる場合だってあるわけだ……」

 

 クロワールが、ネプギアの可能性に期待しているのは嘘偽りの無い本心であった。

 

「お前は姉のネプテューヌを超えるゲイムギョウ界守護の切り札となり得る『希望』でありながら、ゲイムギョウ界に『絶望』を齎すある物事とも因果で繋がっている。それをこの次元のお前に知る由はないがな」

 

 しかし、可能性の全てがネプギアにとって、また世界にとっても、良いものであるとは限らない。

 だからこそ、クロワールはネプギアの可能性に期待し、笑うのだった。

 

 

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