INFINITY   作:烊々

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Chronicle Rapture 後日談
非日常な日常


 

 

「クロちゃん、おはよ」

 

 クロワールが目を覚ますと、ネプテューヌが自分の顔を覗き込んでいた。

 

「あ……? 寝てたのか俺?」

「うん、寝てたよ。それはもうぐっすりと」

「そうか……」

 

 不防備に眠りこけたのはいつぶりだろうか、とクロワールはふと考えた。

 ねぷのーとに閉じ込められている間退屈で寝ることはあった。有り余る力を行使した代償で意識を失うこともあった。しかし、それらは行動が大幅に制限されていたことや、体力の大幅な低下など、自分の意思じゃどうにもならないシチュエーションだった。

 しかし、そんな理由もなくただ睡眠を取ったことは、クロワールにとって記憶から思い出すのに時間がかかるほど昔ぶりであった。そもそもクロワールは、守護女神とはまた違った系統の超越者であり、他の生命体ほど睡眠を必要とせず、余程のことがなければ眠らずに行動し続けられる。

 そうなると、睡眠という行動不能は外敵に狙われるリスクでしかない。クロワールは次元を渡ることができる程のワープ能力をはじめとした様々な力を持っており、その力を利用とする者がいてもおかしくはない。また、一部のモンスターもクロワールの異様な力に惹かれ、それを得ようと襲い来ることもある。それ以前に、クロワールのこれまでの所業から考えると、彼女に恨みを持つ者がそこら中の次元にいてもおかしくはない。つまり、クロワールは敵だらけで、敵から身を守るためには睡眠というリスクを負わないに越したことはないのだ。

 

「あ、寝癖」

「あん?」

「髪といてあげる」

「ん」

 

 そんなクロワールだが、昨晩はネプテューヌの隣でぐっすりと睡眠を取った。それは、クロワールにとってネプテューヌの側が心安らぐ場所になっていることを意味するが、口に出すと面倒そうなので黙っておくことにした。

 

「朝ごはん食べる?」

「お前のセンスねえ料理じゃないなら」

「近くにパン屋があるからそこで何か買おうよ」

「なら食べる」

 

 お互い、今日はオフにすると決めていた。ネプテューヌは自称昆虫ハンターとしての活動は行わず、クロワールも世界滅亡を記録するための企みはしない。辿り着いたこの次元でのんびりと過ごす、そんな日にしよう、とお互い決めたのだ。

 

「もきゅ……もきゅっ」

 

(パン食べてる時の効果音可愛いな……)

 

 小さい口にパンを頬張るクロワールを横目で見ながら、サンドイッチとコーヒーを両手に街を歩くネプテューヌ。

 

「俺のサイズだと普通のパンでも多いな……」

「小さいやつにすればよかったのに」

「良い匂いして腹が減ったから食べ切れると思ったんだよ。ほら」

「ん……あむっ」

 

 クロワールが食べきれなかったパンを、ネプテューヌ の口元に持っていき、食べさせた。

 

「ふふっ」

「なんだよ?」

「なんか嬉しいな、って。クロちゃんとこうして何気ない日常を過ごすのがさ」

「何もしてねえのに嬉しいも嬉しくないもないだろ」

「それがいいんじゃん。こうやってクロちゃんと一緒に歩くの、もうできないかもしれないって思ってたからさ」

 

 ネプテューヌは、先日クロワールが上位存在への叛逆のために自分を置き去りにした件を言う。クロワールに殺されそうになったが、それ以上に置いて行かれたことの方を根に持っていた。

 

「俺はそれでもよかったんだけどな」

 

 この手でお前を殺すよりは、という続きの言葉をクロワールは口にしなかった。

 クロワールが引き起こした世界の災厄にネプテューヌが巻き込まれて死ぬのは構わないが、自分の手で直接ネプテューヌを殺すのはできるだけしたくないのだ。ただのエゴでしかないが、クロワールという存在が自分勝手じゃなかったことなどない。

 

「置いてかれるぐらいなら殺された方がまだマシだけどね」

「本気で言ってんのかよ?」

「だって殺されそうになっても耐えて殺されないでいれば一緒にいれるじゃん」

「お前が生きてんの女神の方のネプテューヌのおかげだけどな」

「それも含めて……小さいわたし風に言うならわたしの主人公力ってヤツ?」

「へっ、そうかよ」

 

 のどかな街並みを歩く二人だが、その表情は次第に退屈を含み始める。

 

「う〜ん……」

「どうしたよ? そんなつまんなそうな顔して」

「やっぱりやめない?」

「何を?」

「分かってるくせに」

 

 ネプテューヌは笑う。

 

「やっぱり、わたしたちにはこういうの似合わないよ」

 

 その笑顔には、どこか自嘲のようなものが含まれていた。

 

「わたしは……心が躍るような冒険がしたい。この次元はきっと、平和でのどかな良いところなんだよ思う。でも……」

「俺たちはイかれてんだよ。普通の人間にとっての平穏ってのは俺たちにとって退屈でしかねえ。俺はそもそも世界の危機や滅亡を記録したい奴だし、お前だって危ねえ世界でヒリついた冒険がしてえだろ? そんなイかれた俺たちは、こんな平和な次元で生きていけねーんだ」

 

 クロワールは歯に衣着せぬ物言いで自分とネプテューヌの感じた退屈の理由を語った。

 

「イかれてるって言い方は引っかかるけど、まぁそういうことだよね」

「そういうこった」

「じゃあ、出発しちゃおっか」

「そうだな」

 

 ネプテューヌとクロワールは、その平和でのどかな次元を惜しむことなく、再び次元渡航の旅に出た。結局、二人の『何もしない日』は、その日の正午まですら保たなかった。

 

「さて、次は珍しいムシのいる次元に行きたいね」

「滅亡の危機に瀕している面白え次元に行きてえな」

 

 クロワールにとってネプテューヌは邪魔者である。以前よりかなり心を許すようになった今でもそれは変わらない。けれど、終わらない次元の旅にて、自分の隣に立つ者が、誰でもないこのネプテューヌしかいないだろうとも思っていた。

 ネプテューヌにとって、クロワールは親友である。クロワールの悪事を見過ごすことはできないし、そのせいで何度も命の危機に瀕したこともある。けれど、飽きることのない刺激に溢れた日々をもたらしてくれるクロワールは、ネプテューヌにとってなくてはならない存在だと思っている。

 そんな彼女たちの旅は、これからもずっと続いていく。

 

 

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