御坂美琴はいつものようにとある少年のお見舞いに向かうが、そこで知り合いの少女に出会って……。
「あらぁ」
どうしていつも変なタイミングでコイツは現れるのだ。
超能力者の第三位、御坂美琴はもう何回目かと呆れを通り越して諦めレベルである不幸少年のお見舞いのため、目的の病室に向かっていたのだが……。
そこで、入口近くのエントランスのベンチ辺りに知り合いを見付けた。
同じ常盤台中学に通う、同じ超能力者の一人。
蜂蜜色の長髪に煌めく瞳という少女マンガ的な特徴を持つ、食蜂操祈だった。
「あらあらあらあらあらぁ☆」
彼女はベンチから立ち上がると、近くまで来てこちらの顔を覗き込んでくる。しかも粘つくようにニタニタとした笑顔で。
ウゼぇ!!!! と心底思いながら頬をヒクヒクと痙攣させて、美琴はゆっくりと口を開いた。
「……随分ご機嫌ねアンタ。何か良い事でもあったのかしら?」
「まぁねぇ、ちょっと私の現状力を『再確認』しちゃっただけだゾ☆」
「あっそ、じゃーね」
意味不明だし面倒臭いのはさっさと放っておいてずらかろう、と美琴のスルースキルが炸裂する。某ルームメイトから受けるセクハラもスルーを極めれば次第に興味が薄れ、拗ねて停滞気味になる事がわかっている美琴にとって敵はいないのだ!!(しかし某ルームメイトには一種のプレイだと思われていたりする)
食蜂に背中を向けて病室に足を動かす美琴だが、そこで食蜂の声が不意に届く。
急な話題だった。
「ねぇ御坂さぁん。ファイブオーバーの出所って知ってるかしらぁ?」
ピタリ、と足を止める。
仕方なくといった調子でゆっくりと首を動かすと、美琴は目を薄めて短く言う。
「何の話よ」
「一応あなたの影響力もあるはずだゾ。ファイブオーバーモデルケースレールガン。超能力者の能力を再現する軍事技術は、誰から手引きされてると思う?」
「知らないわよ。この科学一辺倒の学園都市じゃ、その手の軍用兵器を作れそうな企業は両手じゃ数えられないくらいあるし」
「ついこの前、私に対するファイブオーバーを含んだ『攻撃』が来た。っていう事は、あなたへの対策も既にされているかもしれないわよぉ?」
「……だから? アンタもわかってると思うけど、超能力者にもなれば怨み妬みなんて日常的にそこら辺から沸き出てくるもんじゃない」
「だからあっても不自然じゃない。……でも、何かを失ってからじゃ遅いのも、御坂さんならわかってるはずだゾ」
「……、」
美琴の表情に曇りが現れる。言われればそれまでだった。
『実験』に気づかず一万人以上の妹達が殺され続けていた中でのうのうと暮らしていた自分。
第三次世界大戦で最後にあの少年を目の前で救えなかった自分。
結果的に最良のものを得られなかった自分を悔やみ、一番に嫌っているのは自分自身だ。もしもあの時一つ何かを間違い、最悪の事態になっていたら……そう思うだけで身体の震えが止まらない程に、美琴は理解しているつもりである。
彼女の言葉をゆっくり飲み込み、しかし少し驚いたように眉をひそめて口を開く。
「……珍しいわね。アンタが私の事心配してくれるなんて」
「ま、御坂さんに貸しを作っておくのも悪くないって思ってねぇ☆ ……それにぃ、ここだけの話だゾ」
「?」
急に声のトーンが下がったので一瞬ファイブオーバー関連の怪しい話かと思い、耳元を近づける美琴だったが実際は違った。
食蜂は甘ったるい低めの声で、口元を隠しながらこう言った。
「私ぃ、御坂さんの恋、結構応援してるんだゾ☆」
「ぶッ!!??」
「これから『あの人』のお見舞いなんでしょお? どこの馬の骨ともしれない敵さんに邪魔されないように頑張ってねぇー」
「て、敵ってどういう意味の敵よ!? ていうかアンタだって前にも私の邪魔してたでしょーがぁ!!」
病院ではお静かにねぇー、とかぬかしながら優雅に去っていく彼女を尻目に、周囲の視線に耐えられなくなった美琴は顔を赤くしてさっさと病室に向かう。
(何なのよもーっ!! 相っ変わらず私をナメくさってくれるわねアイツ!! 大体、何で食蜂にそんな事言われなきゃ……)
そこで、美琴はふと疑問に思う所を頭に浮かべる。
そういえば、食蜂はあの少年と一体どんな関係なのだ?
「……まさか元カノとかじゃないでしょうね……?」
信じたくない疑念を新たに生み出し、美琴はモヤモヤする気持ちを抑えながら、足取りを重くして少年の元へと進む。
「女王」
「ええ、当然わかってるわよぉ」
派閥に所属する縦ロールの女の子は口を開くと、食蜂は言葉を被せるように放った。
やるべき事は蜜蟻愛愉がしてきたものの後始末。『心理掌握』の能力を持つ食蜂派閥の女王としては少々不本意である事だが、とある少女の人生に影響を及ぼしたもう一人の少女としては放っておく訳にはいかない。
それに、これはあの人と交わした約束でもある。
食蜂操祈は動き出す。
不意に先程のやり取りを思い出しながら、静かに微笑を浮かべた。
(確かに、私らしくないかもねぇ。けど仕方ないじゃない。今のあの人の隣には、あなたが居るもの)
御坂美琴とあの人の二人が並ぶ姿を見る度に重なる、『幸せな時代』の自分。
失ってしまった少女と。
まだ失っていない少女。
どちらがあの人に近いのかなど、明白だ。
だからこそ、今度こそ、蜜蟻愛愉とは違う『もう一人の自分』を応援したくなった。
食蜂は御坂美琴を知っている。その人柄も、人望も、経歴も。あの人にどれだけ助けられ、あの人をどれだけ助けてきたのかも。
もう自分より親交は深いのだろう。例え精神系最強の能力を使わずとも見てわかるぐらいには、彼女の心意は読み取れた。
実際、不安はない。
あの人の周りには、あれだけの幸せな世界が広がってるのだから。
きっとこれから色んな事があって、辛い事や悲しい事もある。
だから、食蜂操祈(わたし)は御坂美琴(わたし)の背中を押す。
だから、あの人のために祈る。
だから。
だから。
「……だから、頑張んなさいよぉ」
小さく、そう呟いた。
食蜂操祈はヒーローじゃない。
下着を覗かれてパニックになるし、運動音痴だし、水中が苦手だし、色々とドジな所もある、ただの中学生の少女だ。
でもやれる事はある。
誰かを救う事ぐらい、誰でもできる。
ヒーローじゃなくても、ヒーローに助けられたヒロインでも、だ。
「さぁて、可愛い可愛い蟻の女の子を助けるためにレッツ・ゴーだゾ☆」
蜂蜜色の長い髪を揺らして、少女はとある少年のように右手を強く握った。
その掌の中に、銀色の防災ホイッスルを握り締めながら。