ガンダムビルドダイバーズ オルタナティブガールズ 作:GQuuuuuuXに脳を焼かれたマン
眩しいものを追いかけていた。
戦場の宇宙に閃くスラスターの噴射光を追いかけて、追いかけられてを繰り返す戦い。
そこに私は、キラキラを見た。
刹那の中にしか見ることのできない輝き。
荒らげた息遣いと殺意の中で瞬いているそれを追いかけて、この手で掴むために、私は操縦桿を握り締める。
加速する機体が敵機を捉える。それなりに速い相手だったけど、追いつけないわけじゃない。
『な、なんなんだよお前は! クソッ、速すぎる!』
「──私は」
私は、何者だろうか?
何者かになろうとしていたことは覚えている。
がむしゃらに追いかけていた夢があったことを、その中で探し求めていたものがあったことを、今だって忘れることはできない。
昔は当たり前だったこと。
今では失ってしまったこと。
もしも、あの夏に少しでも立ち止まっていれば、私は今も幸せに暮らしていただろうか?
機体──私のガンプラが手にしたヒートアックスが、相対したガンプラの、Ζガンダムの首を刎ね飛ばす。
バチバチと音を立てて引きちぎられるケーブルが、乱雑に刃を立てられて抉り取られる敵機の頭部が、私に勝利をもたらしたことを告げる。
頭部を失ったZガンダムを見下ろすように、私のガンダムは──上半身がノーマル、下半身がアルティメスウェアで構成されるガンダムAGE-2ハーフアルティメスが、雄叫びに代えてツインアイを明滅させた。
そして、私は告げる。
「──ラス。私は、ラス。八咫烏の、ラス」
それが、このGBNという世界における私にとっての全てだった。
◇
自由になりたかった。
引きずるように歩いている右膝から下の金属部分──義足で歩く度に、私ことヤタガ・キョウカはそんなことを考えてしまう。
女子サッカーでブイブイ言わせていたのも今は昔、一年前に負った片足切断という大怪我のせいで選手生命を絶たれてから、私の世界は、途端に窮屈になった。
アシンメトリーにカットしたショートヘアの右側、伸びている方を弄びながら溜息をつく。
こんなんだから、中三に上がってからは友達らしい友達もいない。
友達は、多分義足になった私へ気を遣うことに疲れたのだろう。
歩くペースを合わせなきゃいけなかったり、私でも行けるような場所で遊ばなきゃいけなかったり。
そんな些細なことで、って思うかもしれないけど、些細なことだからこそ、積み重なるととんでもなく疲れちゃうんだよね。
わかるよ、だから皆は悪くない。悪いのは、事故に遭った運の悪い私だけ。
「不自由だなぁ……」
グラウンドで朝練をしているサッカー部を一瞥して、溜息をつく。
昔は「スタジアムの八咫烏」なんて呼ばれてたっけなぁ。
それが今は、何者でもない傷病人。一生サッカーやって、サッカーで食べていくんだって信じて疑ってなかったから、これからどうやって生きていけばいいのかさえわからない。
神様だか女神様だか知らないけど、運命を司っている上位存在は残酷だなぁ。
ぼっちの私を顧みることなく、生徒たちは他愛もない言葉を交わしながら、すれ違い、追い越していく。
いつかの私も「そっち側」だったのにな。あれ、目頭が熱くなってきた。
「嘆いたってぼっちはぼっちなんだけどね……っと」
本気で泣きたくなってきたのを誤魔化すように呟いて、私は全盛期の何分の一かもわからないぐらいノロノロとした動きで教室の扉をくぐる。
すると、既にそこには人集りができていた。
クラスの真ん中辺りの席を占拠して、がやがやと雑談に興じている男子が一人と女子が一人。
男子の方はミカミ・リクくんだっけ。なんか一時期すごいことして有名人になったらしい。
女子の方はハセガワ・アズミ。誰にでも分け隔てなく優しいギャルという、オタクが頭の中で描いた妄想が受肉したような存在だ。
それでいて背も高くて脚も長ければ、胸もデカいときたもんだ。
……ちんちくりんな私は、ハセガワさんを見る度に少しだけ悲しい気持ちになってくる。
一応揉めるくらいはあるはずなんだけどなー。
でもどこで差がついたのかなー。なに食ったらあんなにデカくなるんだろう、乳って。
ジトっとした目でそんな失礼なことを考えながらクラスの真ん中で談笑していたハセガワさんを睨め付けていた、その時だった。
「あっ! おはよぉ、ヤタガさん」
甘ったるい、生クリームで作ったような声で呼びかけられる。
多分、ハセガワさんからすればなんとなく以外の動機がない挨拶だ。
でも、私にそういう気さくな感情が、互いに気を遣わなくてもいいような言葉が向けられたのっていつ以来だっけ。やっぱり悲しくなってくる。
「えっと……おはようございます?」
「そんなに畏まらなくていいよぉ、あっ、ヤタガさんって呼び方もなんか堅いねぇ。じゃあキョーカちゃん! キョーカちゃん、改めておはよっ!」
天使のような笑顔を浮かべて、ハセガワさんは無邪気にそう言った。
うおお、コミュ力、コミュ力お化けすぎる。
というか、距離感の詰め方がエグい。ギャルか、ギャルだからなのか。
「え、えっと……ハセガワさん、そんな私に気を遣わなくても……」
「アズミぃ」
「えっ?」
「アズミ、って呼んでぇ? アズミばっかり名前で呼んでたらなんか変じゃん?」
それは、そうかもしれないけど。
いつになく私に向けられる視線が痛い。
注目を浴びるのなんて珍しくもなんともないはずなのに、この一年で私は随分萎縮してしまったようだ。
「え……その、アズミさん」
「アズミぃ」
「……アズミ」
「わはぁ〜、これでキョーカともお友達だねぇ」
これからよろしくぅ、と甘ったるさ二百パーセントな声音でそう言って、ハセガワさん……じゃなくて、アズミさん……もとい、アズミは、何事もなかったかのように喧騒の中へと帰っていく。
なんだったんだろうなあ。
嬉しいといえば嬉しいけど、なんかこそばゆいというかなんというか。
あれだろうか。
乳をガン見してたからだろうか。
だとしたら少しだけ申し訳ない気分になる。
何者にもなれずじまいの私だったけど、一応はアズミの友達──の、一部というか端っこに引っかかってくれたんだろうか。
春が来たというには少しだけ遅いかもしれない四月の末、蕾が少しだけ綻んだような気分で、私はいつも通りに一人で授業に臨む。
気遣いとかお世話とか同情とか、そういうものとアズミの言葉が切り離されていたことに、心から感謝しながら。
オタクに優しいギャルは……存在する!