ガンダムビルドダイバーズ オルタナティブガールズ 作:GQuuuuuuXに脳を焼かれたマン
「ぐすっ……ゼハートぉ……こんなの悲しすぎるよぉ……」
ハーフアルティメスを作り終えてから三日ほど、私は「見ておくといいかもねぇ〜」の一言でアズミから手渡されたガンダムAGEのOVA、「MEMORY OF EDEN」のことで頭がいっぱいになっていた。
ガンダムなんていっぱいあることしか知らなかったけど、いっぱいある中にそれぞれの個性があって輝いてるんだなあと納得する。
ガノタが夢中になるわけだ。
特に私が泣けたポイントは、ゼハートの本音がこぼれ落ちる最期のシーンだった。
全てを犠牲にしてでも前に進むしかなくなってしまった、あまりにも重たい荷物を背負わされてしまったゼハートが、本当は素朴な夢を持っていたところ。
夢なんて、叶わないから夢なんだと人はいう。でも、それだとあまりにも悲しすぎて。
「うわぁぁぁぁん、ゼハートぉ……」
「大分重症なハマり方してるねぇ〜あはぁ♡」
いつもの階段下にやってきたアズミが、満足げに笑いながら隣に腰掛けてくる。
だって、しょうがないじゃん。
あんなの見せられたら脳が焼けるって。
本当は家庭を持つことができたアセムにすら戦ってほしくなかったなんてくらいに大きな優しさと、火星に取り残された人々の恨みつらみを背負う器としての冷徹さの間で板挟みになるゼハートがひたすらお労しい。
「ぐすっ……アズミたちはこんな面白い話を自分たちだけで独り占めしてたんだ」
「それは違うよぉ? ガンダムってほら、布教しにくいからねぇ……ガノタのイメージだってあんまりよくないしぃ」
「うぐっ」
確かに私も、GBNを始める前にアズミからメモリーオブエデンを借りて見ていたら全く違う感想を抱いていたかもしれない。
最初は、原作だとガンダムAGE-2ってどんな風に動いてるんだろうとか参考にしようだとか思ってたけど、今ではすっかり虜になっている。
やっぱりアセムとゼハートの間に成立してしまった奇妙な友情とでも呼ぶべき運命は、ガンダムの呪いとでも呼ぶべき宿命は、何度見たって悲しすぎるから。
「でもぉ、ハーフアルティメスのマニューバとか戦い方の基準にはなったんじゃない?」
「えっ、アセムを基準に戦えってそれは無茶だよアズミ……」
正真正銘のスーパーパイロットとして距離を問わないけど、特に接近戦でのあの立ち回りを半端に再現しようとしたら火傷することは確定だろう。
ただ、AGE-2は意外と接近戦に強く出られるガンダムだということがわかったのは、アズミの言う通り収穫なのかもしれない。
私は今まで前線に突っ込むだけの戦い方しかしてこなかったけど、突っ込み方にもバリエーションがある、というのもか。
「あはぁ〜、流石にそれは無茶だけどぉ、キョーカなら得られるものはあったでしょぉ?」
「あった……でも失ったゼハートが大きすぎる……うぅ、オタクが言う『推しが死ぬ』ってこういうことだったんだ……」
私はアニメとかをそこまで見ない生き物だったからなんとなくしか知らなかったその概念を、いきなり全身で浴びる羽目になるとは思っていなかった。
なんでだよぅ、なんでだよぅ、ゼハート。
死ぬしかなかったのはわかるけど、どうしてゼハートが死ななきゃならなかったんだよぅ、と、私の情緒は完全にメモリーオブエデンに破壊され切っていた。
「キョーカはアセムが推しになると思ってたけどぉ、ゼハートなんだねぇ」
「ガンダムはAGE-2が一番好きだけど、一番好きなキャラは? って聞かれるとそうなるかなぁ」
アセムも嫌いじゃないしむしろ大好きなんだけど、私の情緒と脳を破壊するほどのインパクトを引っ提げて、閃光のような生き様を貫いたゼハートにはちょっと及ばないというか。
「うぅ……とてもじゃないけど戦えないよ……ゼハートが死んだのつらすぎるよ、アズミ……」
「あはぁ〜♡ アズミはキョーカがガンダムにハマってくれて嬉しいなぁ♡ それにぃ」
「それに?」
「GBNの楽しみはぁ、バトルすることだけじゃない、よぉ?」
小首を斜めに傾げながら、アズミは蠱惑的な声音で私の耳元にそう囁いた。
◇
「あはぁ〜、やっぱいると思ったぁ」
「いきなりなんですか、人をいつもこんなところにいる暇人扱いして」
セントラル・ロビーの階段を登った先にある吹き抜けに佇んでいたリラちゃんを見つけるなり、アズミはけらけらと笑いながら呼びかける。
確かにいつもリラちゃんはロビーにいるけど、初手で暇人と決めてかかるのはいくらなんでも失礼じゃなかろうか。
そこは私も、リラちゃんに同意するところだった。
「アズミ、流石に失礼だって」
「それもそっかぁ、ごめんねぇ」
「……まあ、別にいいです。わたしは大人なので許してあげましょう、大人なので」
小柄な私よりもちっちゃい背丈で薄い胸を張りながら、リラちゃんが答える。
大人?
もしかして趣味でこういうダイバールックにしてるだけで、中の人は本当に大人だったりするんだろうか。
「中の人なんていないよぉ」
「うわあ、びっくりした! 人の心読むのやめよう!?」
「冗談冗談〜、あはぁ〜♡」
私はアズミからからかい甲斐のある相手と看做されたのだろうか。
おちょくってきたアズミは、現に恍惚とした笑みを浮かべている。
なんか、距離が近くなったはなったけど複雑な感じだ。私は別にそんな面白い女じゃないのに。
「で、なんですか。ラスたちはわたしの前で漫才をしにきたんですか」
「それもいいけどぉ、今日はちょっと違うんだよねぇ」
「ふむ?」
「簡単に言うとぉ、リラちゃんのお手伝い〜」
「手伝い、ですか?」
アズミの言葉に、リラちゃんは目を丸くする。
「えっと……リラちゃん、場所を探してるんでしょ? だったら今日はちょっと私が戦えそうにないから、探索して過ごそうかなって」
「急に、どういう風の吹き回しですか」
リラちゃんは私に疑いの目を向けてくる。
どうもこうもゼハートの死を引きずっているから戦えません、なんて言うのは恥ずかしいし、なによりリラちゃんを戦いに巻き込んでばっかりで、場所探しを手伝えてない、という気持ちがあるのも嘘じゃない。
なら、善は急げだ。
「……えっと、リラちゃんを戦いに巻き込んでばかりだったから」
「なんとなく胡散臭いですね……まあいいですけど。わたしは探してる場所が見つかればいいので、よろしくお願いします」
ぺこり、と腰を折ってリラちゃんは頭を下げる。
私とアズミは顔を見合わせて、頷く。
今日の私たちは、さながらGBN探検隊といったところだった。
オタクの推しはすぐに死ぬ