ガンダムビルドダイバーズ オルタナティブガールズ   作:GQuuuuuuXに脳を焼かれたマン

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Ep.12 足跡を辿って

「そういえばさ」

 

 リラちゃんの撫で肩を叩きながら、私は問いかける。

 探索モードでエリアを飛び回っているうち、どうしても気になり出したことがあった。

 だから、真剣な目で景色を眺めているリラちゃんを、若干申し訳ないと思いつつも呼び止めたのだ。

 

「なんですか、ラス。人が真剣に場所を探しているのに」

「いや、リラちゃんの探してる『場所』ってどの辺なのかなって」

 

 具体的な情報がなくても、大体どんな感じだとかこんな感じだとか、そういうのがわかるだけでも、広大なGBNを闇雲に飛び回らなくて済むんだけど。

 

「場所は場所です」

「じゃあ、どんな感じなの?」

「……どんな感じ、ですか。ふむ」

 

 問い返した私の言葉に、リラちゃんは少し俯いて考え込む仕草を見せる。

 せめて森が近くにあるだとか、都市の中だとか、アバウトでもいいからそういう情報があればいいんだけど。

 三時間ぐらいぶっ続けでフライトしていた疲れからくる溜息を噛み殺しながら、リラちゃんの答えを待つ。

 

「……強いていうなら、『懐かしい』ですね」

「懐かしい?」

「はい。わたしはその場所を確実に知っているはずなので、懐かしい感覚を辿っていけば正解に辿り着けるはずなんです」

 

 なんというか、凄まじい希望的観測だ。

 主観情報以外が見事に欠落している記憶を元にこの同接二千万人を誇るオンラインゲームの特定地点を探り当てろ、なんて言われたら、警察も名探偵も匙を投げることだろう。

 というか、この答え方だとそもそもリラちゃんは探している「場所」を知らない可能性もある。

 

 でも、知ってなきゃ「懐かしい」なんて言葉は出てこないし。

 よくわからない子だ。

 そんなことをぼんやりと頭の片隅に浮かべながら、私とアズミはリラちゃんの「懐かしさ」だけを羅針盤に、当てもなくGBNを彷徨い続けていた。

 

「ラス、こっちから懐かしい感じがします」

「えっと……この空域を右に曲がればいいんだよね?」

「はい、とても懐かしいので、もしかしたらここがわたしの探している場所かもしれません!」

 

 リラちゃんは、キラキラと目を輝かせながら迫ってくる。

 もし本当に探している場所が見つかったのなら、私はものすごい偶然を引き当てたことになるのかもしれない。

 宝くじで一等とはいわなくても、三等ぐらいは当たったような確率じゃないだろうか。そう考えると他のことに使いたかった気もするけど、リラちゃんの探し物が見つかったんだからそれでよしとしよう。

 

「あはぁ〜、一応索敵してみたけどぉ、特に熱源反応とかは今のところないよぉ」

「ありがと、アズミ。それじゃ降下するね、リラちゃん。どっかに掴まってて」

「はい!」

 

 私はリラちゃんが言うところの「懐かしい」場所へとハーフアルティメスを降下させ、着陸脚を展開した状態で着地した。

 そして、コックピットを降りて見えてきた景色は、なんというか……ただ平凡な平原にしか見えないものだった。

 月明かりが青い花の群生地を照らしているのは少し神秘的で綺麗だと思ってたけど、こんななんの変哲もない場所が、リラちゃんの探してる場所だったんだろうか?

 

「ねえ、リラちゃん」

「ぁ……」

 

 ぽろり、と大きな緑色の瞳から涙をこぼして、リラちゃんは月に手を伸ばす。

 まるでなにかを悼むように、そうでなければ祈るように、あるいは。

 ──羨む、ように。

 

「あはぁ〜、リラちゃん、探し物は見つかったぁ?」

「ちょっと、アズミ……!」

「でもぉ、聞かないとわかんないよ?」

「それはそうだけど……」

 

 なにやら退っ引きならない事情を感じさせるリラちゃんへと強引に話しかけられるそのコミュ力にギャルのエナジーを感じながら、私は二人の間でただ板挟みになることしかできなかった。

 

「……いえ、見つかってません」

「えっ?」

「ここはとっても懐かしいので、もしかしたらと思ったんですが……わたしの探してる『場所』とは違うみたいです」

 

 少しだけ残念そうに、そして悲しげにリラちゃんは微笑んだ。

 懐かしいけど、探している場所じゃない。

 そのよくわからない答えに私とアズミは顔を突き合わせて首を傾げることしかできなかったけど、本人が違うと言っているんなら、きっとそうなんだろう。

 

「じゃあ、探索再開だね」

「……いいんですか?」

「だって、今日はリラちゃんに付き合うって決めたのは私たちだし」

 

 なにも、今日一日だけで見つけろと言われているわけじゃないし、地道に探していけばいつかは見つかるかもしれない。

 私たちは刑事さんでも名探偵でもないけど、根気だけでなんとかするだけの「時間」は持っているから。

 少しだけ気恥ずかしいのか、頬を赤く染めたリラちゃんをハーフアルティメスのコックピットに乗せようとした、そのときだった。

 

「そこに隠れてるみたいだけどぉ、そろそろ出てきたらぁ?」

「……ッ」

 

 アズミが、すっ、と目を細くしながら、なにもないと思っていた木陰に呼びかける。

 もしかして、待ち伏せされてたんだろうか。

 リラちゃんを早めにハーフアルティメスの中に収容して、私は機体を立ち上がらせる。

 

「あはぁ〜、そう構えなくていいよぉ、ラスぅ。相手も戦うつもりはなさそうだしぃ」

 

 機体の眼下に見えるアズミが手を振りながら、そう呼びかけてくる。

 それを聞いた私はドッズアックスライフルを手斧モードで赤熱化させていたのを解除して、小さく溜息をついた。

 なんだ、初心者狩りとかじゃなかったんだ。

 

 そして、再びリラちゃんを連れて、アルティメスから平原の地面へと降り立つ。

 

「……イヴ?」

 

 着古した感じのサンドカラーが特徴的なポンチョに身を包んだ、私たちと同年代ぐらいに見える男の子が、リラちゃんの顔を見るなり目を丸くしてそう呟く。

 

「誰ですかそれは。わたしはリラ。リラです。間違わないでください」

「……いや、ごめん」

 

 そんなはずはないとわかっていたのに、とでも言いたそうなひどく苦々しい表情で、男の子がリラちゃんに頭を下げる。

 あれは、喪失だ。

 片脚を失ったときの私と、あの男の子は同じ目をしているから、すぐにわかった。

 

 だから、私はすぐに頭を下げ返していた。

 

「ごめんなさいうちのリラちゃんが生意気で……それに、謝るのは私たちの方です。ここ……大事な場所だったんですよね?」

「……どうして」

「……なんとなくです、私たちが気安く踏み入っていいような場所じゃないって、そういう顔してましたから」

 

 険しい表情の男の子は、私の言葉を聞くと、少しだけ困ったような顔をして、明後日の方向を向く。

 

「……そういうつもりじゃなかったんだけど、もしかしたらって思ったから」

 

 だから、俺もごめん。

 男の子は再び頭を下げる。

 主語が抜けていてなにがなんだかよくわからなかったけど、どうやら雰囲気から察するに人違いだとか勘違いの類らしい。

 

「えっと……」

「……ヒロト」

「ヒロトくん、でいいかな。私はラス。好きに呼んで」

「……わかった。それじゃ」

 

 男の子改め、ヒロトくんは踵を返して木陰に再び歩き去っていく。

 なんだか不思議な人だ。

 そして、ひどく悲しげな人だ。

 

 どれぐらい大きな悲しみを抱えていたらあんな顔ができるんだろう。

 私が右足を失ったときも、あんな、この世の全てを諦めてしまったような顔をしていたんだろうか。

 ──きっと、その通りなのだけれど。

 

 私と同じ悲しみを持っている人が、私以外にもいるという事実に、ひどく胸が痛んだ。

 

「……ここは、思い出の場所だったんですね」

 

 リラちゃんが月を見上げながら微笑んで呟いたその言葉が、ただ一つの慰めとして、私には聞こえていた。




彷徨のヒロト、郷愁のラス
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