ガンダムビルドダイバーズ オルタナティブガールズ 作:GQuuuuuuXに脳を焼かれたマン
ぼっちは便所で飯を食うというけれど、実際はそんなことなんかないのは知っての通りだろう。
大体、休み時間の女子トイレというのはカースト上位の女の子たちの社交場みたいなものなのだ。
そんなところで、お弁当なんか安心して食べられない。私のように人生から弾かれてドロップアウトした人間には、もっと相応しい場所というものがある。
「で、それがいつもの階段下ー……」
誰かへ説明するように私はそう呟いて、ぺたんとリノリウムの床に座り込む。
階段を上り下りするのは義足の身だと色々大変だけど、教室でいたたまれない空気を吸いながらお弁当を食べるよりは百倍マシだ。
なんなら私がいるだけで教室が辛気臭くなるのが嫌で、変に同情されるのも気を遣われるのも嫌で、こんな薄暗くてじめじめした場所に逃げ込んでいるわけで。
「ねえ、聞いたー?」
「聞いた聞いたー、来年のアプデでめっちゃ変わるってね!」
「噂だと例の神ゲーシステム流用するんじゃないかって言われてるっぽいねー」
通りかかった女子たちは、階段の隙間で一人虚しくお弁当を食べている私を一顧だにせず、会話に興じながら通り過ぎていく。
なんのアプデなのかはわからないけど、楽しみがあるのはいいことだと思う。
多分ゲームの話なんだろうか。サッカー、それ一筋で生きてきたから、そういう話はまるでわからない。
「私もなんかゲームするべきなのかなあ」
ぽつりと、誰に向けるでもなく呟いた。
VRゲームの発展が著しい昨今、お医者さんも、VR空間なら障害を負う前と変わらない体験ができるからとかで勧めてきたけど、断った記憶がある。
仕方ない。ゴーグル被って寝転んで、実質夢の中でサッカーしたって、私の足がなくなった事実はなにも変わらないんだから。
もしくは、それ以上に自由になれるんだろうか。VRゲームとやらは。
私が抱えている鬱屈と不自由を吹き飛ばしてくれるなにかが、あのゴーグルの中にはあるんだろうか。
──まさか、あるはずがない。
一瞬浮かんできた都合のいい考えを、一笑に付して私はお弁当の残りを無心でかき込む。
なにも考えたくなかった。
都合のいい救いなんてこの世にはない。笑ってないと悲しくなるから、笑ってないといけない。
そうしないと、私は私の右足が、その膝から下がもうないという事実に耐えられないから。
自由になりたい。
また、グラウンドを駆け抜ける風のように走り回って、ボールを追いかけて、ゴールネットを揺らす渾身のシュートを叩き込みたい。
この足は、不自由すぎる。
階段を上り下りするだけでも大変で、ただ歩くだけでも今までの倍以上の時間がかかって。
「……ふ、く……っ……」
涙が込み上げてくる。
本当の私はこんなじゃないはずなのに、と、未だに傷を負ったことを認められない私が心の奥で騒ぎ立てている。
助けてほしかった。
誰でもいい、なんでもいい。
この不自由から、私を引っ張りあげてほしかった。
かつん、と小さな音が聞こえたのは、そう思いながらさめざめと泣いていたときのことだ。
「それでねぇ──」
アズミと取り巻きたちが何事かを喋りながら歩いていく傍らで、多分アズミの腰に着けられているポーチかなにかから落ちたのであろう「それ」が、廊下を滑って私の元に辿り着く。
「……なにこれ。ガンダム?」
手に取ってみたそれは、多分ガンダムというやつだった。
種類が多すぎたりオタクがめんどくさいことしか知らないそれが、なんでアズミのポーチに入っていたのかはわからない。
ただ、ガンダムのガの字もわからない私でも、今拾ったガンダムには目を惹かれる要素があった。
「足が、ない」
正確には脚部をなんかよくわからないけど、ロケットかなんかの噴射ユニット? みたいなのに置き換えてるのかもしれない。
ただ、一般的にイメージする「ロボットの足」とはかけ離れていることは確かだった。
……って、なんでガン見してるんだろう。
アズミが落としたものなんだから、届けなきゃ。
お弁当箱をバンダナで包んで、私はゆっくりと立ち上がる。
右手にガンダムを握り締めて、リノリウムの床を踏み締めて、そして。
「……っ、はぁ……っ! 不自由……ッ!」
未だに重心を義足に預けるときは緊張する。
神経が繋がっていないんだから当然だ。
信じられないぐらいゆっくりと立ち上がって、アズミの後を追いかけようと一歩踏み出した、刹那。
「わぁ、落としたと思ってたらキョーカが拾ってくれてたんだぁ」
「アズミ……?」
「気に入ったぁ? それ……ガンダムAGE-2アルティメスっていうんだけどぉ」
「ガンダム……? エイジ……?」
地球が狙われてるとかそういう?
いつのまにか目の前に立っていたアズミの口から聞き慣れない言葉が出てきたことに私は目を白黒させる他になかった。
もしかして、アズミは。
「えへ、バレちゃったぁ。そうなんだよねぇ、アズミね、ガノタなの」
天使のような笑顔でこの世の終わりみたいなことを言うアズミに、私は返す言葉が見つからなかった。
ガノタってあの厄介でめんどくさいことで有名なアレ?
ザクとガンダムの違いを答えられなかったら吊るして火にかけられるとかいう噂のアレ?
「なんかすっごい誤解されてるぅ……あっ、そうだぁ」
「えっと……アズミ?」
「キョーカぁ、GBNに興味ない?」
なんだそれ。
聞いたことがあるようなないようなアルファベットの羅列に、私は首を傾げる。
GBNとやらがなんなのかは残念なことにわからない。でも、どういうわけかこの目は涙を滲ませて、縋るようにアズミへと問いかけていた。
「それって、自由?」
もしもそのGBNとやらが、私の鬱屈と抱えた不自由を吹っ飛ばせるのなら。
例えそれが悪魔との契約であったとしても、私は迷うことなく血判を押したことだろう。
縋るような目で問いかけた言葉に、包み込むような柔らかい声が答えを返す。
「うん。とぉーっても……自由、だよぉ?」
いたずらっぽく笑ったアズミの言葉に根拠の類は全くない。
それでも私は、どういうわけか信じていた。
足のないガンダムを握り締めながら、涙をこぼして。
「だから今日の放課後、空けといてねぇ」
「ぐすっ……え、えっと! このガンダムは!?」
「アルティメスはキョーカにあげるぅ……これって結構、運命かもしれないよぉ? あはっ」
どっちみち、GBNにはガンプラが必要だからねぇ、と言い残して、アズミは走り去っていく。
ガンダム。ガンプラ。GBN。
見たことも聞いたこともない世界に誘う鍵を手に入れたかのように、私はしばらく呆然と、足のないガンダムを見つめていた。
足がないようだが