ガンダムビルドダイバーズ オルタナティブガールズ 作:GQuuuuuuXに脳を焼かれたマン
『チッ! このヒートセラミック弾をかわすなんて、運のいいやつだぜ』
通信ウィンドウに割り込んできた、いかにもって感じでガラが悪い男は、忌々しげにそう吐き捨てる。
ヒートセラミック弾とやらがなんなのかはわからないけど、アズミのGサイフォスの右半身を破壊した攻撃に違いない。
私たちの感知できる範囲の外から撃ってきた辺り、多分。
「初心者狩り、だねぇ」
「やっぱり?」
『物分かりがいい女は嫌いじゃあないぜ、わかったらとっととこのオレの……「無敵軍曹」ことキンググレイ様のダイバーポイントに還元されなぁ!』
ヒートセラミック弾がまた飛んでくるかと思ったけど、弾を撃ち尽くしたのかネタが割れたことで回避を警戒しているのか、初心者狩りの赤いガンプラは、オレンジ色の粒子を撒き散らしながら接近してくる。
「太陽炉持ちかぁ……見た感じぃ、アンカーと00系列のミキシングってとこ?」
『ハッハー、そいつはご名答だ! 冥土の土産にとっておきなァ!』
あのアンカーとかいうらしい赤いガンプラは、手負いのアズミを狙って、手にしている斧と銃が一体化したような武器から弾をばら撒いている。
アズミもそう簡単にはやられるものかとばかりに弾を回避しているけど、右半身をほとんど失った、バランスの悪い状態でどこまで持ち堪えられるかはわからない。
そして私を放置しているのは、完全に舐めてるからだろう。
まずは手負いかつ手練れのアズミを倒してから、初心者の私を余ったリソースで倒す……っていうのが、あいつの思い描いているシナリオなのだろう。
……ムカつく。
人のことを舐め腐ってるのもだけど、卑怯なことをやって平然としてるのがなによりムカつく。
ネトゲなんだから多少のラフプレーぐらいあって当然だといわれればそうなのかもしれない。
サッカーやってたときだって、わざと痛がってファールをもぎ取ろうとするやつもいた。
だけど、私は。
「そういうのが、一番許せないッ!!!!」
『へっ、釣られて出てきた初心者がこのGNアンカーに勝てるものかよ!』
ビームサーベルを引き抜いて、私はGNアンカーというらしい初心者狩りの機体に斬りかかる。
ただ、正面からのチャンバラは相手も望むところだったのか、手斧と銃が一体化した武器の刃の部分でビームサーベルが受け止められる。
ズルくない? 銃撃も近接戦もできるとか、ああいう武器がこっちにもあれば。
「でも、ないものは……ないッ!」
『その通りだよ! テメェに勝ち目なんてねえんだ! トランザム!』
トランザム、という言葉を初心者狩りが唱えた瞬間、GNアンカーの全身が赤熱化したように赤く染まっていく。
トランザムとやらがなんなのかはわからないけど、雰囲気的にヤバげなことだけは理解できた。
このままじゃマズい。だけど、私に打てる手は。
『オラァ!』
「ぐ……っ……!?」
雑に振り抜かれた手斧が、ロングレンジキャノンの片方をいとも容易く両断する。
やっぱり、パワーアップ系のなにかだったんだ。
アルティメスが出せる最大火力は片方が封じられて、敵は懐の中。絶対絶命もいいところだ。
あいつが言った通りに諦めた方が多分早い。
所詮は運が悪かっただけ、私が片足を失くしたのと同じで、運命の女神様がイタズラをしただけ。
だから、どうしようもない──
「本当にですか?」
「リラちゃん……?」
「諦めたくない、諦めない、ってガンプラが言ってます。ラスは、諦めるんですか」
リラちゃんが投げかけてきた問いが、冷え切った心の炉に火を灯す。
ガンプラがそんなことを言ってるかどうかはともかくとして、私は。
やっと辿り着いた自由なこの世界でも、惨めったらしく諦めて、下を向いて過ごしたくはない!
「っ、ああああああッ!!!!」
『威勢だけじゃなァ! ビームサーベルをくらいやがれ!』
恐れを誤魔化すように、腹の底から叫ぶ。
あの手斧ライフル、ビームサーベルとしての機能もあるのか。
ただ、今はそんなことはどうでもいい。私はただ一点を、GNアンカーが無防備に晒している胴体の中心だけを見据えてビームサーベルを構えて、全力でスラスターを噴射する。
「肉を斬らせてぇッ!」
『こ、こいつ!? 撃墜が怖くねえのか!?』
「怖くない……あんたなんか、怖いもんか!」
コックピット寸前までGNアンカーのビームサーベルは深々と突き刺さり、私が構えていたビームサーベルは右腕ごと斬り飛ばされたけど。
左手で、食い込んだ手斧ライフルを強引に引き抜いて、私はそのまま、動揺を見せたGNアンカーの脳天へとアックス部分を振り下ろす。
渾身の力を込めて、全力で。
『ば、バカな……オレのダイバーポイントがぁ!』
「ざまぁみろ……!」
アルティメスはボロボロで、コックピットの中には赤いランプと警告メッセージが絶え間なく明滅していたけど。
「私は、勝った!」
奪い取った手斧ライフルを掲げて、私は勝利の雄叫びを上げた。
◇
「そんなことがあったのねぇ……リクくんのときといい、初心者の子にまた嫌な思いをさせてしまったわね」
ロビーに戻ると、私たちを待っていてくれたマギーさんが、そう言って頭を下げる。
「初心者狩りなんてよくあることだしぃ、頭下げてもらうほどのことじゃないですよぉ」
「アズミちゃんはそうかもしれないけど、ラスちゃんは初めてのGBNでしょう? GBNのこと、嫌いになっちゃった?」
顔を覗き込みながら尋ねてくるマギーさんに返す言葉は、最初から決まっていた。
「……しい」
「えっ?」
「すっごく! 楽しいです!」
初心者狩りを仕留めたときに見えた景色は、無理やり相手のディフェンスを抜けてゴールを奪ったときとよく似ていて。
とっても、キラキラしていた。
とっても、自由だった。
不自由な私がまたこんな気持ちになれるのかって、こんなことがあっていいのかってぐらいに、嬉しくて。
「あらぁ……なんだか修羅の血が目覚めちゃったみたいね」
「あはぁ〜、それはそれで面白いからぁ、アズミはぜーんぜんオッケーだよぉ」
「わたしは探してる場所が見つかればそれでいいです」
三者三様の反応もどこか遠くに聞こえるぐらい、心臓の鼓動がうるさくて。
今も次のミッションを受けたいと、次の戦いをやってみたいと、心が騒ぎ立てている。
そっか。こんなに。
こんなに、世界って自由だったんだ。
電子の海の隅っこで、私は二度目の産声を上げるように、涙をこぼした。
だけどそれは悔しさや諦めからくるものじゃない。
満面に笑顔を浮かべて流す、格別な涙だった。
狂犬ラスちゃん