追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結) 作:Leona
その日、キヴォトスは荒廃した。いや、それまでの戦いで多くの仲間が一人、また一人と凶弾に倒れていった。そして、それは俺の大事な人にも───
「ごめんね、ユキト君。おじさん、ここまで、みたい」
「ホシノ先輩!そんな、今からでも手当てをすれば!」
キヴォトスでも指折りの実力者で、俺に多くの事を教えてくれた女性、小鳥遊ホシノ。倒れたその体を抱き上げるが、既に熱が失われつつあるのが分かってしまった。
「いいんだ、自分の体のことは自分がよく知っているから。だから、後のことは頼んだよ。千神ユキト!君は!私の!私が信じた人だから、いけっっっ!」
「あっ......!ああああ!」
立ち上がり、走ったその先には全ての元凶がいた。周囲には無人の機械兵士が整列している。その奥にいる白髪の少女───白狼シロコ、その平行同位体であるらしい彼女によって日常は絶望に変わってしまったのだ。
「まだ、生きていたんだねユキト」
「シロコ……お前は!お前って奴は!」
本来の、俺のよく知る砂狼シロコよりも成長したような容姿の彼女は、異質で圧倒的な力で全てをねじ伏せてきた。
「無駄だよ、今のユキトじゃ私には勝てない。向こうでも、そうだった」
「(向こう……?)いいや、シロコ!お前は絶対に止める!今日!ここで!」
【ホッパー!】
【スチーム!】
俺の答えるように、オレンジ色のバッタと蒸気機関車のような絵柄が描かれたカードが背後に浮かび、手元に収まった。
『ガッチャードライバー!』
『ガッチャーイグナイター!ターボオン!』
『HOPPER1!イグナイト!』
『STEAMLINER!イグナイト!』
「……変身!」
左手を上に掲げ人差し指、小指を立てて中指と薬指をたたみ、手の甲を表に向け一度前に持ってきて右手と一緒に後ろに下げ眼前で三角を作るように重ね、ドライバーを起動させる。燃えるようなオレンジを主体とした鎧と赤い炎の装飾、やはり炎を模したような造形のマントを背中で揺らし仮面ライダーファイヤーガッチャードデイブレイクは完成する。
「無駄、全機……撃て」
無数に並んだ無人の機械兵士達が一斉に身構えるのを呼び出した剣と弓が一体化した武器と銃を構え突撃する。例え、勝てないとしても、ここで一矢報いねば───
※※※
「───君!ユキト君!起きてください!もう朝ですよ!」
「う……あ……?早瀬?」
目覚めると、そこは見慣れた連邦捜査部S.C.H.A.L.E(以下シャーレと呼称)の事務室だった。ビルの内部は崩壊しておらず、かつての俺が生徒の一人として、数少ない男手として有難がられていた実務室がそこにはあった。そして、俺を起こしてくれた早瀬ユウカ、かなりの時間顔を合わせていた相手の一人だ。そもそもが、記憶を失ってこのキヴォトスで目覚め保護してくれたのはミレニアムの娘達だ。まぁ、この時点ではそれほどの縁はなく、先生に続き世話を焼かねばならない人がまた増えた、ぐらいの認識をされていただろうが。
「もう、貴方までここで眠りこけていたんですか?しっかりしてください」
「いや、ははは……ごめん」
このやり取りも遠い昔のように感じる、先生を助ける為に散っていった、あの死に顔からは程遠い可愛らしくさと勝ち気さを備えた瞳。何もかもが懐かしくて思わず泣きそうになった。
「ど、どうしたんですかユキト君!?そ、そんなにキツい言い方だったかしら……」
「ああ、いやどうも悪夢を見ていたみたいでさ。早瀬の顔を見たら安心して気が緩んだら涙がね」
突然涙を流した俺を見てあたふたとしているユウカを手で制止し立ち上がった。現状を確認せねばならない。
「なら、いいですけど。先生を手伝ってくれるのは助かります、ですが、ユキト君も生徒であることには変わりないんですから、学業も怠らないで下さいね?」
「わかってる、早瀬も程々にな」
先生はここにいないようだから、と探しに出ていったユウカを見送った俺はまずはカレンダーを確認した。間違いない、先生が赴任して来ていろんなことが動き出した日付だ。連邦生徒会会長が行方知れずになって混乱していたのを先生というイレギュラーが介入することで落ち着き始めていた頃、俺もどうしてかはわからないが持っていたこの力でアリウススクワッドやミカやカイザー等と戦うようになった、始まりの時間。
「タイムロードの力?いやそれにしては体に違和感がない。……ケミーカードは、色が変わったままだ。やはり、俺は逆行してきたとでも?」
ガッチャードが橙色に染まったのは、色々おかしくなってからだ。ベアトリーチェの手によってアリウススクワッドの皆が次々と斃れていき、俺もまたドライバーを破壊されるという窮地に陥った。ベルトを錬成し再構築に成功したものの、払った犠牲は大きかった。ベアトリーチェの撃退こそ出来たが、その後の戦いで先生を中心に手を取り合うことが出来たのは奇跡と言っていいほどだ。だが、その後は悪い方法に物事が進んでいって、そして……
「ええい、くそ。やっぱり訳がわからん!わからんが今は」
外に出て、腕についているケミーライザーにゴルドダッシュのカードを装填し召喚すると飛び乗りアビドス高等学校のある地域へ走った。街並みは当然ながら、あの頃の平和なままだ。そしておそらく、皆もいるだろう。
「お〜?ユキト君じゃん、先生の手伝い終わったの?大変だったねえ」
「ホシノ……先輩……!」
「ちょ、ちょっとユキト君!?」
敷地内に入ると、丁度小鳥遊ホシノがそこにいた。どうやら部室に戻るところだったようだ。無事である事が嬉しくてつい、思い切り抱きしめてしまっていた。
「そんなに強く抱きしめられたら苦しいよ、それにこんな貧相なおじさん抱きしめても嬉しくないでしょ?」
小柄なホシノ先輩はそれほど体格がいいわけではない俺の腕にも収まってしまう、こんななりでキヴォトスで指折りの強さを持って皆の盾となり矛となり誰よりも前に出ていただなんて……
「すみ、ません……」
「おーよしよし、とりあえずさ、皆見てるから離れよっか?」
背中を撫でられ見上げるとやはりそこにも見慣れた廃校対策委員会の面々がいた。それぞれ何やら凄いものをみた顔をしている、それならまだいいほうで、セリカは今にも爆発しそうになっているのがわかり、慌てて離れた。
そして、何事もなかったかを装ってみせる。
「今戻った、遅くなってわるかったよ」
「バカーーー!!!」
爆発したセリカを宥めるのはそれはもう大変だった、ノノミなどは面白そうにしているだけで仲裁してくれるでもなくニコニコしていたし、アヤネとホシノ先輩が間に入りそして先生が戻ってきたことで事なきを得た。
「さて、先生と千神先輩も戻ってきたことですし、借金返済の為に今日もお仕事の時間です」
「カタカタヘルメット団がまた暴れているそうだね?」
部室の椅子に皆が座ると、正面にいるアヤネとそれに先生が反応する。思えば先生は本当に謎が多い。わかっているのは俺とは違いはっきりとキヴォトスの外から来たことがわかっている”大人”の女性あり、俺と同じヘイローを持たぬ人間であることぐらいだ。
類まれなる指揮能力と人を惹きつける魅力をもって多くの生徒達を救ってきた。思えば、この人を亡くしてからだろうか、何もかもがうまくいかなくなり瓦解して破滅したのは。
「はい、アビドス地区で活動が活発になっているようです」
「何それ、別のスポンサーでもついたってこと?」
アヤネの言葉にセリカが反応する。ヘルメット団のうちこのアビドス地区を根城にしている連中は、何かと理由をつけては暴れ回り結果として戦う羽目になっている。当初こそ手を焼いていたが、俺や先生が来てからは返り討ちにしているし、彼女達そのものが致命的な脅威になっていない。ただ、不良に毛の生えた程度の集団にしては異様な程豊富な戦力をもっているし、面倒なことには変わりない。
「そこまでは、ただこれに対処するにあたって報奨金が出るという話を貰いまして」
「それはいいじゃないですか。セリカちゃんは、何か懸念することが?」
「最近はうまくいってるけど借金返済に繋がっているかと言われると微妙なところかな、と」
オペレーターでもあるアヤネにとっては不安なのかもしれない。セリカが誘拐されるという事件もあったし警戒するべきだろう。
「本当は私の権限でどうにかしてあげられればいいんだけど……」
皆の話し合いを見守っていた先生が口を開く。アビドスの廃校対策委員会は不安定、というか立場がとてもふわふわとしていて組織の一つとしては認められていない。これに関しては、学校として生徒の数があまりに少なく体を成していないところが大きい。仮にシャーレの権限で借金をどうにかしたとしても、あくまで先延ばしにしかならずまた同じことが起きないとはいえない。
「先生はよくやってくれてます、後はもう一つ俺の方でちらりと気になる事が」
「千神先輩、どうかしましたか?」
不思議そうにこちらを見るアヤネ。まぁ俺はそこまで会議で積極的に発言するタイプではない、意見された時に答えることはあっても自発的にというはレアだろう。短い付き合いとはいえ急に積極的な仕草を見れば多少は驚くかもしれないが、まぁ問題ない範囲であろうと思う。
「ああ。アヤネも言っていた通り、どうにもただのチンピラが持つには装備が豪勢すぎやしないかと思ってね。ちょっと調べてたんだがこの戦車、かなり改修が施されてるようなんだ」
「つまり、非合法に持ち込まれたものだと?」
「……別に、その程度ならどこでもやっていること。ユキトが言いたいのは何?」
肯定するアヤネの言葉にシロコが口を挟む。そう、確かにそんな事は日常茶飯事だ。程度の差はあれど、どの勢力でもやっている、それだけならばいいのだが。
「俺達だけで手に負えないかもしれません、場合によっては連邦生徒会なりに頭を下げてでも……」
「それは、ダメだよ」
「ホシノ先輩?」
「これは、私達でやらなきゃいけないことなの、いい?」
ふにゃりとしていたホシノ先輩が急に顔を強張らせて否定したのをみて、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。過去に何があったのかまでは詳しく聞けなかったが、この人が被っている仮面の下では涙を流していたことだけは知っている。
「まあまあ、今焦っても何か変わるわけでもないですし外でご飯を食べてリフレッシュしませんか☆」
重苦しくなった空気を打ち消すように手を叩き努めて明るい声を出したのはノノミだった。こういう事を普通に出来るのは彼女の女性的な魅力が成せる技ではないかと思う。
「よし、いつものラーメン屋に行くとしようか」
先生の一言でようやくその場は纏まり、柴関ラーメンへと場所を移すこととなった