追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結) 作:Leona
「お前は!お前お前お前!!!」
「せえぇいっ……!」
【ケミースラッシュ!】
怨念の籠もったアサルトライフルから放たれる銃撃をガッチャートルネードで薙ぎ払う。
「くっ……しまっ!?」
不意にバックステップで後ろに下がりゴリアテを盾にするようにしたかと思えば、コロコロと手榴弾が投げ込まれ、何をこの程度、と文字通り一蹴しようとしたがサオリという唯一の味方が射程から離れたことで一斉に俺に攻撃が向けられた。それにより怯んだ瞬間爆発し、床に転がった。
「あ……が……」
消耗した今の状態ではガッチャードの力といえども集中砲火を浴びればタダではすまない。いや纏った鎧は無事でも、中身の俺の方が先に持たないだろう。
「終わり、だな」
「……サオリ」
震える手で起き上がろうとするが動かない、眼前にアサルトライフルの銃口が突きつけられた。今度こそここまでか、そう思った瞬間。
「何!?」
極太いビームのような銃撃が頭上を通過し、サオリを吹き飛ばした。そのまま銃撃は周囲の複製やゴリアテに向けられ次々と破壊していった。
「空崎委員長……それに先生も?」
「ユキト、大丈夫!?」
先生に支えられ起きると、周囲にはさらに便利屋68のメンバーが勢揃いしていた。ゲヘナに籍を置いていたとはいえ、こうした行事に顔を出すことはないと思っていたが。先生が依頼したのだろうか?
「うちの社員見習いを傷つけるとはいい度胸してるじゃない」
「社長、あれはどうもそういう冗談が通じる相手じゃなさそうだよ」
いつものようにキメようとするアルを諌めるカヨコ。詮無い言葉に心が傷つくが、状況的にも相手的にもそう言えなくもないのが辛い。
「どけ!お前達に用はない!」
「サオリ、落ち着いて。どうして、そこまで?」
俺以外には手を出すつもりはないのか、先程まで握りっぱなし撃ちっぱなしだったアサルトライフルの銃口を向けるだけだ。それどころか一歩前に出て先生が語りかけると、一歩下がり体を小さく震わせている。
「駄目だ、先生。どいてくれ、貴女を殺すつもりはない」
「君が苦しんでいるなら、一緒に解決したいんだ」
先生の動きに複製が反応するが、怯まず一歩また一歩と近づいていきサオリが後ずさりするという状態だった。
「あ、う……あ……!」
「サオリ!?」
突然苦しみだし、足元が覚束ないような様子でふらつきだす。これは、ミカの時と同じような異質さを感じる。このままではまずい。そう思ったが向こうからも増援───残りのスクワッドの二人が銃火器をぶっ放しながら現れ、サオリを庇うようにして身構える。
これは、拙いかもしれない。他の二人がサオリ程異質な力をもっていなかったとしても、ここからの再戦は状況を悪化させるだけだろうと。
「リーダー、戻ろう。作戦は、失敗だ」
「どこに戻ると言うんだ、どこに?!この、有り様で……!」
「……先生、皆。少し、サオリと二人きりで話をさせてもってもいいかな」
逃げる三段をつけようといざとなれば真っ先にサオリを逃がすつもりだったが、投げやりな絶望しきったような反応に戸惑うミサキとヒヨリ。戦場で、作戦中にこうした顔を見たことがなかったからだ。”Vanitas Vanitatum, et omnia Vanitas”全ては虚しい、全て無意味と呟き続けている。これをここで仮に返しても、ろくなことにならないと判断し、賭けにでることにした。当然、これにはここにいるどの生徒も戸惑いか反対か、いずれにせよいい反応を見せなかった。しかし、先生だけは違った。
「ユキト、サオリの事をお願い。今は混乱しているようだから、寄り添ってあげて?連絡をくれれば迎えるくるよ」
「ありがとうございます、先生」
「……リーダーに変なことしないでよ?」
「な、何かあれば即撃ちますから!」
アリウスの二人も俺達の会話を見ながらコソコソと話し合っていたようだが、どうやら提案を受け入れてくれるらしい。複製達に指示を出すと離れて姿を消した。
それを確認した先生たちも帰りかけて、カヨコが足を止めてこちらに近づいてきた。
「ユキト、あんた無茶しすぎ。命を大事にしなよ?」
頭を撫で頬に手を当てじっと見つめた後少し優しげな笑顔を浮かべると皆のところに去っていった。その足音と気配が消えると、俺も変身を解いた。
「生身では何もできないだろうに、どうして」
「顔を突き合わせて話したほうがいい。銃口突きつけあって話し合うなんて、アホらしいだろう?」
座れそうなスペースを見つけると軽くホコリなどを払い、そこにサオリを手招きして向かい合わせの形で腰を降ろした。
「お前どういう、つもりだ」
「俺を殺すことで解決に繋がるって与太話を、誰に吹き込まれたのかと思って、さ」
毒気が抜かれた様子だが警戒は崩さず、こちらを睨みつけてくるサオリ。だが、先程までのような狂気は随分の消えているようだ、これならあるいは。
「……私は、私では姫を救えないんだ」
「秤アツコさん、だったか。けど、先生が話せばわかる人なのはわかってるだろ」
「そういう問題ではない!」
ダンッッッ!と近くにあった瓦礫がサオリの振り下ろされた手で粉々に砕けた。
「あ、いや……すまない」
「いい、こっちも不遠慮だったよ。何か、あるんだな?」
激昂したがすぐに冷静さを取り戻したサオリの謝罪に首を横に振りながら考える。ベアトリーチェの撃退と、秤アツコの救出。前回はこれを同時にやろうとして結果的に失敗した。失敗したのは、戦力不足というよりはこちらが纏まりきれていなかったところもある。
もしも、早い段階でベアトリーチェ撃退という目標で固まっていたなら、他のゲマトリアの介入で仮にベアトリーチェを逃がす羽目になったとしても。だがベアトリーチェとは直接対峙したのは一度だけ。
ゆえに情報がないに等しいし、まだ見ぬ隠し球がないとは言えない。
「ああ。妙な話だが、姫の力を利用した儀式の他に何かを感じる。記憶を取り戻してからもマダムにはどうしても刃向かえなかった」
「何かの契約か……?」
キヴォトスにおいて約束というのは大きな意味を持つ、それは絶対だ。命令は出来ないが誓約なら。もしもそのような何かが刷り込まれているとすれば……。
「恐らくは。今は普通に話せているが、マダムの影響下にある時は駄目なのだろう」
「それなら他のスクワッドの二人は、どうなんだ?」
「私の見る限りそういう気配はない、記憶を引き継いでいる様子も無さそうだ」
彼女にだけ?スクワッド単位での方が都合が良さそうだが、サオリ一人でなければならない何かがあるのか。
「……今は、一度戻ったほうがいいな。とりあえず、先生にはそれとなく事情を話すし、可能ならスクワッドの皆で攻め込む援護をしてもらうよう頼んでみるから」
「すまん、千神ユキト。恩に着る」
サオリが立ち上がり、合図をするとミサキとヒヨリが出てきて、こちらを最後まで警戒しながら去っていった。
☆☆☆
「にわかには信じがたい内容ね、同情を買う為の出任せかしら」
「私は、サオリを信じたい」
他人には聞かせにくい内容だと言う事でヒナが用意したミニバンに、ヒナと便利屋の皆と共に乗り、微妙にボカしたがともかくサオリもまたミカと似たケースなのではないかと説明した。そしてその反応はといえば、ヒナは否定寄り、先生は生徒の言葉だからの肯定寄りといったところか。
「ユキト、話を聞いた君は信じたの?」
「はい。それと、彼女達の後ろにいる大人は、黄金卿と同じように子供を誑かす奴だと見てます」
ベアトリーチェは、先生の命も狙っている。今はサオリを使って俺の方に目を向けているが、一緒に向かえば諸共とやりかねない。先生の力も必要なのはわかっているのだが。
「わかった、ありがとうユキト。ヒナ、今回の後始末を頼んでいい?私はユキトとアル達とサオリを助けにいくよ」
「先生、本気?」
「……はぁ、大丈夫。私や社長もついてるから何とかするよ」
信じられないといった表情を浮かべる絶句したヒナを見て深い溜息をついたカヨコが口を挟んだ。
「わかったわ、けれど貴女ではなく先生を信じるのよ」
「構わない、私達も先生に頼まれてのことだから」
面識があるような二人のやりとりに、もしやカヨコはそちら側の生徒だったのではと考えている間に話は進んだ。軽い休息をしてからアリウスへ乗り込むべく足を踏み入れた。
☆☆☆
「本当に来たんだな、先生」
「リーダーが信じると言ったけど、正直半信半疑だったよ」
「も、もしかして私達を一網打尽にしにきたんじゃ……?」
何かあった時にと合流場所として指定されていた場所にアツコを除いたスクワッドの三人がいた。当然といえば当然だげ、未だ警戒している皆の緊張を解そうと先生は笑顔で答えた。
「そんなことはないよ。……サオリ、ミサキ、ヒヨリ。改めて私達にアツコ救出の手伝いをさせてくれない?」
「結論は、もう話し合って決めてある。だが先生、ここから先は本当に危険だぞ?私達が証印式を襲撃した時よりも、ずっと」
「私は大人だから、君達子供の危機に責任を持ちたいんだ」
「そうか……そうだろうな、先生はそういう人だったな」
マスクで目元しか見えず表情こそはっきりしないが、眩しいものを見るように目を細めているのがわかった。
「それと、千神はもう変身しておけ。自分の身を守れる奴のことまで守ってやる余裕はないからな」
生暖かい雰囲気になり気恥ずかしくなったのか咳払いするサオリ。表情を引き締め八つ当たりするように俺に声を掛けると、アルを交えて陣形について相談し先生を守るようにして、ベアトリーチェのいる聖堂へと進軍を開始した。
☆☆☆
「……そうですか、やはり裏切ったのですね。構いません、全て始末して構いません。特に先生は最優先で」
次々と配置されているアリウスの生徒達が次々と撃破され騒がしくなる中、一人報告を受けたベアトリーチェは冷静さを装いつつも内心は激情で煮えたぎっていた。ここまで来たからには、今度こそ先生を仕留めるのだ、他のゲマトリアが口出しするだけで邪魔をしてこない今のうちに。