追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結)   作:Leona

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11話

 ベアトリーチェの根城へ近づけば近づくほど、アビドスと同等かそれ以上に困窮している筈のアリウスとは思えぬ高級かつ強固な装備を持った生徒達が立ち塞がってきた。

 サオリが引き連れていたような最新鋭機(ゴリアテ)こそいないが、旧式でも改造が施されたパワーローダーに出迎えられ、その高い火力と制圧力から少なからず足止めを食らった。

 弾薬は無限でなく、俺自身も無闇に力を使えば変身を維持できなくなる。

 故にこそ、出来る限り最大出力(フィーバー)ではなくかつ安定した火力を出せるガッチャートルネードとガッチャージガンでやりくりしている。

 これは逆行前のベアトリーチェ戦でエクスガッチャリバーを失って以後、手段を選ぶ余裕がなかった経験により、結果的に火力を底上げされたことによる恩恵もあるのだが。

 

「よくもおめおめと顔を出せたものですね、しかも先生を連れて」

 

「マダム、いやベアトリーチェ……!」

 

 道中常に前に立ち敵対してくる生徒の撃退に力を注いでいたサオリは無傷ではなく、表面上は服の破れ程度でもダメージは確実に蓄積している。だが、彼女を突き動かす執念はそれを凌駕し一時期的に打ち消す程のもので、目の前にいる宿敵を打ち破らんとアサルトライフルを突きつけた。

 

「もう、いいだろうベアトリーチェ。せめて降伏して?」

 

「ふ、ふふふ……ハハハハハ!アハハハハ!貴女は本当に、本当に……甘い人ですね。ですがまだ終わっていない!」

 

「先生、下がって。ここからは俺達が」

 

 ベアトリーチェの哄笑にすわ狂ったのと思わせるほどの狂気を感じ、先生の前に盾になるように出て身構える。

 

「ええ、ええ。ここまで来たならそうするでしょう、先生の盾になるように現れたイレギュラー。黒服の両分を犯す事になりますが、消してしまえば問題ないことです」

 

 磔にされたアツコを背後に立つベアトリーチェ。パチンと指を鳴らすと、どこに隠れていたのかと疑いたくなるような数の人型のオートマタが俺たちを囲むように銃口を向けてきた。

 

「ユキト、雑魚は引き受けてあげるわ。今日の私達の役目は先生の為の露払いだから。……その代わり、報酬に色を付けてくれるよう口添えするのよ?」

 

「お任せを、陸八魔社長。安心して背中を預けられますよ」

 

 俺のそばに来て不敵な笑みで宣言したかと思えば、耳元で素に戻ったような声で頼まれクスリと笑った。俺が胸をとんと叩きアピールするのを見たあと、便利屋の皆は散らばり迎撃に向かった。

 そして俺達はスクワッドの三人と共にベアトリーチェとの戦闘を開始した。ベアトリーチェが放つ超常的な力に翻弄されつつも、状況は確実にこちら有利に傾きつつあった、のだが。

 

「何故だ、何故!どうしてだ!こうなれば!」

 

「拙い、皆警戒して下がって!」   

 

「錠前サオリ!貴女の姫を守りたいという思いが本当なら、味方面しているガッチャードをどうにかしなさい!そういう”約束”でしょう!?」

 

 一つ一つの攻撃が強力で、今の俺でも圧倒出来ない強さを持つベアトリーチェだが、それでも自分が押され敗北するかもという恐怖が、彼女を怒りと絶望を高ぶらせた。

 

「なにをっ……あ、が……!?」

 

「リーダー!?」

 

「こ、これ、またベアトリーチェにおかしくされて!」

 

「さあ錠前サオリ!死ぬまで暴れ続けろ!私の敵を一掃しなさい!そして、私の切り札を出すまでの時間を稼ぐのです!」

 

 急に苦しみだし、ガクンと意識が落ちたかのように首を下げるサオリ。そして次に顔を上げると目は血走っていて、体の周囲にはどす黒いオーラのようなものが漂っているのが見えた。ミサキとヒヨリは動揺を隠せず動きが鈍い。

 それまでになく、肉体への負荷を考えない動きと神秘の発動具合による攻撃が二人に直撃しそうになるのをガッチャートルネードで払うと、二人を下がらせた。

 

「さっきは思いつかなかったが、ようはサオリの意識に巣食うものを弱らせて鈍らせればいい。なら……!」

 

【バーニングネロ!】

 

「ちょ、ちょっと待って!本当にそれ大丈夫なの!?」

 

「大丈夫、ちょっ〜と強い刺激を与えるだけだから」

 

 ミサキの言葉に応えつつ激しい銃撃を回避し、的確な距離を探る。ただ当てればいいというわけではない、確実にケミーの能力による効果を最大限に。

 

「目を、覚ませ!錠前サオリ!」

 

【ガッチャージバスター!】

 

 猛烈な辛味を含んだエキスを受けたサオリは、倒れ悶え倒れる。死なない程度に加減するようネロに頼んだが、何しろ唐辛子そのものといっていいプラントケミーの激辛という表現では生ぬるい一撃が顔や体に当たれば、どうなるか言うまでもない。

 

「っ……!っ……!」

 

「うわあ……サオリ姉さん、大丈夫かな」

 

「ここからでも臭うよ、あれ」

 

 痙攣して起き上がれない様子のサオリの姿にミサキとヒヨリは特に心配すると同時に、今度こそ正気を取り戻してほしいと願っていた。

 

「そんな事で止められ、ええい!邪魔を!」

 

「ユキトさん達の邪魔は、させません!」

 

 サオリを再び操り無理やり起こさせようと力を行使しようとするベアトリーチェに、ショットガンでの牽制と爆弾をばら撒くハルカ。他の便利屋の皆もいつの間にか戻ってきて、ベアトリーチェが手駒として置くオートマタ達に攻撃する方に移っていた。

 

「ハルカちゃん助かった!ナイスフォロー!」

 

「ユキト!あんた、自分の言葉に責任持ちなよ!?」

 

 近寄ってきたオートマタの1体を回し蹴で吹っ飛ばしデモンズロア(愛銃)でトドメをさしてから、聞こえていたのかその視線の先には自我を取り戻しそうな手前で混乱しているサオリがいた。

 

「わかってる、けど乗り越えられるかは彼女次第なんだ」

 

 後一手、成功すればかけられた誓約を解除し救えるだろう。だが、元凶たるベアトリーチェの前では。

 

「立ちなさい、錠前サオリ……馬鹿な!何故、解けかかっている?」

 

「が、ぐ……!」

 

「これは……これなら!」

 

 サオリに巣食うものは確実にダメージを受けていて、さらに人の体に憑いていることで五感も同調している故に逃げようともしていた。

 

【ケアリー!】

 

【ガッチャージバスター!】

 

 治癒を司る妖精をモデルとしたオカルトケミーがデイブレイクという異質の炎の力を纏って射出され、逃げようとするが(ベアトリーチェ)の命令により戻され留まったそれに直撃した。苦しみ、断末魔の叫び声を上げて消失した。どさっと音を立てて倒れ込むサオリに駆けよる二人。驚愕しながらも隙を狙おうとするベアトリーチェにサオリに向けていたものとは違い、当てるつもりで銃撃を叩き込んだ。

 

「とことん、とことん忌々しい……!だが、まだです!私の得たこの力は、秤アツコを取り込む事で完成する!」

 

 手に持っていた扇を放り投げると背後に張り付けにされてるアツコがベアトリーチェから伸びた髪とも触手ともとれるような何かに掴まれ、背中にくっつくような距離にまでくるとか二人は真っ赤な蕾に包まれた。そこには人の姿はなく、薔薇の造形をした怪物がそこにいた。大樹のように足は幾本ものに伸びていて、顔の周囲には花弁。巨大な怪物そのものだった。だが、なにより狂っているのは。

 

「あれは、そんな、まさか!」

 

 先生が口を覆って震えている、そこには秤アツコの形をした何かがいた。色こそベアトリーチェと同化しているが、知るものにならそれは間違いなくアツコだとわかる。

 

「ハハハハハ!ハハハハハ!これが!私が求めたもの!この力で!私は!どうです先生!どうです!千神ユキト!どうです私に逆らう子供達!」

 

「まだだよ」

 

「何?」

 

「私は、私達は諦めない。私が目指すのは生徒皆が幸せに自分の道を歩めるようにすることだから。皆、もう少しだけ私に力を貸してくれる?」

 

 聖堂全体が歪むかのようなベアトリーチェの力に押し潰されてもおかしくないのに、先生は二本の足で立ち対峙していた。そしてその周囲には、便利屋とアリウスとガッチャードが集まっている。

 

「く……ちっぽけな人間が、いくら集まろうとも!今の私には届かないと教えてあげましょう!」

 

 触手が次々と伸ばされたのを見て一斉に散らばり武器を構え戦闘が再開した。俺は先生を抱え大きくバックステップしながらも片手にはガッチャージガンを持ち先生を狙う触手を追い払う。しかし、先程までとは違い俺も含めて皆ベアトリーチェ本体への直撃を避けていた。取り込まれたアツコまで傷つけてしまうのではないかと、口にこそしないが恐れていたからだ。

 

「どうしました?私を倒すのではなかったのですか?」

 

「そうだ!お前を倒して、彼女も救ってみせる!」

 

 気まぐれに放たれる紅色の光線を避けながら豪語する、圧倒的な破壊力を持って蹂躙しようとしてくるベアトリーチェ。

 

「いいことを教えてあげましょう、まだ秤アツコは生きています」

 

「!?」

 

「ですが、いずれ同化します。私という存在がより高みに昇るために、ね。ですが、私を倒そうとするあまり、彼女が先に死んでしまうかもしません、よ!」

 

「卑怯者、め!」

 

 気まぐれに放たれたかのような紅色の光線を弾く為に前に出る。かろうじて反らしたがその一撃は地面を大きく抉り、その凄まじさを物語る。

 

「ユキト、私のことよりもまずはアツコを救うことを!そうだ、あのUFOの力でどうにかならない?」

 

「いえ、先生。あれは、もっとわかりやすいものだったからどうにかなったんです。あののように取り込まれている子を助けるには……」

 

 自分の身を厭わない先生の言葉と、どうにかしてアツコを先に救い出したいという願いに思考を巡らせる。100枚のケミーカード、その中にはユーフォーエックスのように人知を超えた能力をもった子もいる。そのすべてを把握しているわけではない。いや、待てそういえば確か……。

 

『ウィ~ッヒッヒッヒ!僕の事、思い出してくれた?』

 

 片腕に装着されたドローホルダーが1人でに開閉すると1枚のケミーカードが飛び出て実体化する。

 

「君は、クロスウィザード?」

 

『そう!僕の力を使えば、君の願いを叶えられるよ!ただねえ』

 

「ただ、なんだ?」

 

『強い感情、救いたい相手への想いを一撃に込める必要があるんだ』

 

 

 藁にも縋るような思いでクロスウィザードの言葉に期待したが、その意味を自分の中で噛み砕いて考える。その中でそれを満たすのは、アリウスの子達だろう。確実に当てるためにはどちらにせよ一人では無理だ

 

「それは、私にも出来るのか?」

 

『ウィ~ッヒッヒッヒ!勿論!それならそっちの拳銃のほうがいいかもね?』

 

「錠前、サオリ。もう起きて大丈夫なのか?」

 

「こんな状況で寝ていられないさ、それよりお前とお前の仲間の魔法使いの格好をしたケミーの力で姫を救えるんだな?」

 

 心身共に満身創痍であろうサオリは、そうとは思わせぬ動きで立ち上がっていた。想いの強さは特に高そうだが、今の状態でそう長くは戦えまい。

 

「……やってみよう、頼むぜクロスウィザード!」

 

『ウィ!』

 

「何をしようと無駄です!塵となり消えなさい!」

 

「はああああ!」

 

「サオリ!?無茶だ、やめろ!」

 

 再び撃たれた高出力のビームを自身の体で受け止め銃撃で拡散させ、強引に打ち消した。続けて放たれる触手を迎撃しながら叱咤してくる。

 

「この程度は無茶の内に入らない!それよりも早く準備しろ!」

 

【クロスオン!】

 

【マスタージョブ!】

 

「変身!」

 

【ガッチャーンコ!エーックス!】

 

【クロスウィザード!スーパー!】

 

 クロス・クロスウィザードの姿はクロスユーフォーエックスとはまた違う特徴的でまさに魔法使いのような装飾がされている、胸には大きなクロスウィザードの顔のような装甲もついている。

 

「リーダー!」

 

「サオリ姉さん!」

 

「二人とも、姫を救うぞ!」

 

 サオリの力強い言葉にヒヨリは歓喜のあまり涙すら流しているが、それを拭うと頷いた。

 

「さーて、こうか!」

 

『そうそう、その調子!まずは試してみよう!』 

 

 姿形に似つかわしくない大剣───クロスウィザード固有の力であるそれを握りベアトリーチェへと斬りかかる。それまでどれだけ銃撃や砲撃をうけても傷一つつかず追い払うだけだった触手が切断され、ビームもあっさりと霧散した。

 

「なっ!そんな私の体に、傷を?そんなことが許されてたまるものですかぁぁぁ!!!」

 

「無駄だ!ベアトリーチェ!今度こそ、ここで、討つ!」

 

 滅茶苦茶に攻撃をしまくるベアトリーチェの攻撃を弾きながら跳躍し全てを大剣で薙ぎ払った。

 

「サオリ!俺達の力、託すぞ!」

 

「ああ!感謝する、ベアトリーチェ!覚悟!」

 

 クロスウィザードの力が形になった大剣がサオリの拳銃に吸い込まれ、ほのかにオレンジ色に染まった。別の神秘を手に取るという違和感もなく不思議と馴染んでいた。

 

「そんな虚仮威しが、ゴフッ!?そんな、馬鹿な、ガッチャードではないただの子供が?ありえない!」

 

 拳銃から放たれる銃撃はこれまでになく、しかもベアトリーチェだけに的確にダメージを与えていた。その事実に益々怒り狂うベアトリーチェが手を伸ばしサオリへ攻撃しようとするが、ヒヨリにより狙撃される。

 

「サオリ姉さんの邪魔は、させません!」

 

「リーダー!ガッチャード!いって!」

 

 さらにミサキの砲撃が数弾撃たれ仰け反る、まるでアリウスの三人で力を共有しているかのように。

 

「や、やめ……やめなさい!私への恩義を忘れましたか!?」

 

「ああ、感謝している。だが、私の家族を傷つけた罪は万死に値する!」

 

「終わりだ、ベアトリーチェ!」

 

【クロスウィザード!シャイニングフィーバー!】

 

「ば、馬鹿な!?こんなところでぇぇぇ!!!」

 

 一際輝く銃弾がベアトリーチェを貫きさらに、空中に浮かび上がり一瞬意匠が全て剥がれスチームホッパーのような姿を見せた後再びスーパーガッチャードとなりキックをし、ベアトリーチェは爆散した。直後にアツコが元の姿を取り戻したのを見て慌てず近くまで飛び、お姫さま抱っこして着地した。

 

「姫!」

 

「大丈夫、息はあるみたいだ」

 

「よかった……よかった……アツコ」

 

 アリウスの皆が大泣きしている、一歩間違えば家族同然のアツコを見殺しにしてしまうところだったのだから。

 

「ほう、素晴らしい。ベアトリーチェと打ち負かすとは大したものだ」

 

「誰!?」

 

 聞き慣れぬ声に全員が顔を起こし武器を構えた。そこにはベアトリーチェと同じかそれ以上に異形の金色を主体とした大人の男性、黄金卿が湧いたようにどこからともなく現れた。

 

「貴方が、黄金卿?」

 

「そうだ、はじめましてになるかな、先生。そして千神ユキト」

 

「安心したまえ、私はこの残骸を回収しにきただけ。君達の素晴らしいケミストリーを見せてもらったせめてもの御礼さ」

 

 ベアトリーチェ戦で既に余力などないが、もう一人同等と思われる力をもっているであろう黄金卿との戦いなんてごめんだが、ここまできて負けるわけにはいかない。そう、おもったのだが床に落ちていた花弁や触手を袋に収め、帰ろうというのだ。

 

「では、さらばだ。君達が素晴らしいケミストリーをこれからも見せ続けてくれる事を期待しているよ」

 

「ま、待て!」

 

 高笑いして現れた時と同じように消えてしまった。

 

「……今は待大丈夫、に思えた、私は」

 

「アツコ!?」

 

 アツコはどうなら今の騒ぎで意識を取り戻していたらしい、たちまち大騒ぎになった。

 

「サッちゃん、ミサキ、ヒヨリ。ただいま」

 

 アツコ救出により、ようやくアリウススクワッドのメンバーは勢揃いした。問題は多く残っている、ミカと同じようにあるいはそれ以上にアリウス分校の生徒達が起こした罪は大きい。先生はそれを受け止めて許して、生徒の一人として生きていいといった。サオリ達は今は受け入れられず、当分はキヴォトスの中でひっそりと生きて行く道を選んだ。

 

「そうだ、ユキト君、でいいんだよね?」

 

「なんです、アツコ姫?」

 

「その呼び方は恥ずかしいな……ベアトリーチェは貴方の力にもこだわってた、さっきの大人は大丈夫だとはいったけど私のように実験材料にしようとするかもしれないから、気をつけて」

 

 秤アツコからの忠告は、すぐに遭遇するものではなかった。しかし、それもまた俺と俺を巡る運命を大きく捻じ曲げる要素の一つであろう事は予想できた。

 

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