追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結)   作:Leona

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14話

 キヴォトスの住人は、かつて罪を犯した者達の檻として作られたものだという。罪とは何なのか、何故人の形をした人語を話す生物がいるのか。ヘイローとは何なのか、誰も知らない。外から来た”大人”達の中には真実をしっているものもいるようだが、少なくとも

住人達は未だにたどり着けずにいる。

 

「……さて、ユキト君。私達特異現象調査部の調査対象に貴方も入りました、先生には後で許可を取りますが、ひとまず色々協力してもらいますよ?」

 

「はあ。しかし、俺はアビドスの生徒ですしシャーレの仕事とはいえ、あまり長期間席を空けるわけには」

 

 仮眠で元気を取り戻したらしいヒマリは力の籠もった言動で話を再開した。俺をヘッドハンティングしようとしているのだろうか?平時ならともかく、今はアリスのこともあるし先程までリオと戦っていてどちらもまだ決着のけの字もついていない。そんな時に余計な仕事をしている場合ではないのだが、と思いつつも表面上波を立てないような返答をする。だがどうやら相手のほうが1枚上手なのか、はたまた何か別の意図があるのか。

 

「知っていますよ、貴方とリオが天童アリスという生徒の扱いが原因で決別したということも。ただの痴話喧嘩なら口を挟むつもりはないですが、ことがことですからね」

 

「ぶちょー、それ言わないつもりだったんじゃなかったの?」

 

「あの、別に俺とリオはそういう関係ではないのですよ。それに、知っていて手助けしたりするつもりはないということです?」

 

 アリスの事はまだ一部の生徒のみしか知らないことだが、場所が場所だけにすぐに情報が広まり浸透してしまうのも時間の問題だろう。リオとも今のこの逆行後の世界では何もしていないし、リオと話したのもあれが初めてだ。しかしヒマリから見ればそうはならないようだ。何ともいえない表情をされてしまった。

 

「ふう。ええ、キヴォトスで起こる争いに一々首を突っ込んでいたらきりがありませんからね。そういう治安維持はやりたい人達に任せておけばいいんですよ」

 

「俺は、シャーレ所属という立場ですしそういうわけにはいきません。何より、先生を一人にしたらどんな無茶をするわかったものではありません」

 

 俺の言葉にヒマリはまだしもエイミまで驚いたように目を見開いていた。互いに顔を合わせた後ヒソヒソと話し合い、それからヒマリが再び口を開いた。

 

「いいですか、ユキト君。無茶をする筆頭は貴方でもあるんですからね?とはいえ、その実力を鑑みてこれから依頼する事は間違いなく危険な内容ではありますが」

 

 

 手渡されたタブレットの画面を指でスライドするとそこには仮称X地区とされているが、要塞都市エリドゥとリオが名付けた場所の地図があった。こちらも既に把握済みだったということか。

 

「ここには、何があるんです?いえ、そもそもミレニアムの中にこんな広い場所がまだあったんですか」

 

「ここがあの女が潜伏している場所ですよ。というか貴方、どうやって追いかけるつもりだったんですか。先生はゲーム部と一緒にいて既に準備していますよ?」

 

 少し怒ったような口調とは異なり、俺を映す瞳には優しげで心配の色が見える。リオに対してはかなり複雑なというか、マイナス寄りの感情を抱いているようだがそれ以外の彼女の本質はそれ程嫌味な物ではないのかもしれない。

 

 さておき、ヒマリの言葉を噛み砕くにヒマリになりに、特異現象調査部部長としてミレニアムの危機に関わるための手ということか。外様であれ何であれ動きやすい立場にいる俺の背中を押すことで、先生への借りを作るなりしたいのもあるんだろうか?

 

「ケミーの中にも、探索が得意な子もいますし。案外何とかなるものですよ、理屈というよりは経験ですけど」

 

「そんな事を言ってるんじゃありません。第一あなたの使うドライバーとケミーの力は不安定過ぎるんです」

 

 神秘自体そのようなものではなかろうか?とも思ったし、借り物であれ紛い物であれ俺という個人のメンタルや体調でありえないような状況であっても生き残ることはあった。文字通りの点火機のような役目を果たすイグナイターは、俺を滾らせているのか、ドライバーの限界を引き上げているのか分からないが、どちらにせよ不安定なところはあるかもしれない。

 

「それを安定させるために、俺も考えてはいますよ。一人では限界があると」

 

「その為にエンジニア部やヴェリタスに頼み込んだ、武器等の開発でしたね。それについては、こちらでも少し試作してみたんです。持って行ってください」

 

「えっ!?そんな、いつの間に……」  

 

 あまりの爆弾発言に、そしてそれを渡そうとしているのが明星ヒマリだということにも衝撃を感じている。だが、どのようなという不安を内心に抱えつつも、二人の案内にで建物内の一角に部屋へとヒマリの車椅子を俺が押しながら向った。

 

☆☆☆

 

「これは……バイク、ですか?」

 

 なんの変哲もなさそうな大型バイクに見える。いや、近くにはバカでかい砲身をつけたカブトムシのような形をしたロボットも置かれている。

 

「ええ、ヴァルキューレ公安局で採用予定のバイクの設計図をちょろまかして改修したほもです。ガッチャードの武器を接続すればケミーカードの影響も理論上は受けられますよ」

 

「ありがたいです、けど俺にはゴルドダッシュが……」

 

「ふう。普段からそれを使うわけにはいかないでしょう?こちらならまだ誤魔化しが効きます。それよりもこっちを見てください」

 

 確かに変身しなくても使えるとは言え、キヴォトスの中で妙に目立つマシンを乗り回すのは多少リスクがあるのは確かだが。

 

「戦闘でのマシンの破損を防ぎつつ、ガッチャードの火力増加を目的として作った自立飛行型ドローン”インセクトガッチャーアーマー”です。ケミーカードから抽出したエネルギーを砲撃として撃てる機能もつけました」

 

「随分なものですけど、もしかしてこれエンジニア部の?」

 

「あら、この程度のこと、万年雪の結晶の輝きのような才能を持つ私なら容易いことですよ?予算と資材の都合で停滞していたのを私が引き取ったんです。感謝してくださいね?」

 

 いかなミレニアムといえどもそう個人で自由にいかない。部に振り分けられる予算は決まっているし、ユウカが財布の紐を握っているからこそバランスを保っている。……まあ、どうもリオはあの手この手ですり抜けていたようだが。

 

「マーフィーのAIを移植していますから、貴方との連携もバッチリですよ。心配しなくてもそのぐらいのフォローはします」

 

「いや、そういうことでは……ってマーフィーの?」

 

 本体は無事というか、ここいる。言葉通りに受け取るならこの体にいるのは別物ということになるのではと困惑していると、それを既に察していたのか首を左右に振って否定された。

 

「違いますよ、あくまでこちらが本体です。同期していて、戦闘時以外にデータを共有させます。本体の犬の体の方はバックアップも兼ねてこちらで預かっておきます、当面はですが」

 

「これは無粋な質問かもしれませんが普段使いするとはいえ、用途や性能を加味すると多少乱暴に使ってもいいんですよね?まして、今から突入する所は最たるものですよ?」

 

「ええ、まずは貴方が生きて帰ってこなければ何の意味もありません。人間にバックアップはありませんから」

 

 それは俺個人ではなくガッチャードライバーとそれを使える人材という意味でだろうかと邪推しているうちに、車椅子を押して近づいてきたヒマリが、少し体を浮かせ手を伸ばし頬に手を当ててきた。

 

「明星先輩……?」

 

「貴方は先生ではなくただの生徒です、くれぐれも命の張り方は考えてくださいね?貴方が死ねば結構な数の女性が悲しみますよ?」

 

 時々こうして、年上の女性にボディタッチというか妙に距離感の近い心配のされ方をされる。同性ならまだしも、異性にそれはまずいのではと考えたがあるいはそういう対象として見られておらず、手間のかかる弟のような見方をされているのではあれば理屈は通る。

 

「そんな簡単に死なないですよ、これまでもこれからも。今回だって明星先輩と和泉元さんが助けてくれるんでしょう?」

 

「……あの浄化槽に浮かぶ腐った水のような女は本当に、どうしてこんな可愛らしい子を拐かしたのやら……」

 

「明星先輩?」

 

「いえ、失礼何でもありません。兎に角です、後は此方で解析の出来たカードの組み合わせもあります。将来的な性能の向上より、今直ぐ求めるならこれがベストでしょう、試して見てください」

 

 不満げにブツブツと何やら呟いているヒマリの様子が気になったものの直ぐに遮られてしまった。側にいるエイミはといえば、異様に寒がりなヒマリに合わせて上げられた室温が暑いのかパタパタと手で扇いでいる。

 

「今は、一先ず先ほど渡した地図の場所へ。ああ、それから装備その他は報酬のいわば前払い、きちんとその分働いて貰いますから」

 

「可愛い後輩の面倒を見てくれるんじゃなかったんですか?」

 

「あら、勿論見ますよ。ですが貴方はもう同時に特異現象調査部の部員でもあるんですから、部長である私の指示に従うのは当然でしょう?」

 

 とぼけた顔で何でもないことのようにペラペラと口にするヒマリ。聞いていたよりはまともかと思っていたが、やはり食えない女だ。

 

ただの善意よりは分かりやすくていい、キヴォトスに来てからというもの損得なしの優しさに触れすぎて、その辺の感覚が麻痺していたがこのぐらいのほうが普通なのだろう。

 

「運がなかったねユキト、部長はこういう人だから諦めたほうがいいよ」

 

「はぁ……わかりましたよ、その代わり先生やアビドス高への言い訳その他もフォローして下さいよ、明星部長?」

 

「……っええ、任せなさい。こき使ってあげますから。それからもう一つ」 

 

 慰めているのかとどめを刺したいのかエイミに肩を叩かれ半ばやけくそ気味に答えると、またもやヒマリの様子がおかしくなった。

 

「私やエイミの事も呼び捨てにしてください、これは部長命令です」

 

「……え?」

 

「なぜそこで不思議そうにするんですか!あの女の事は当たり前のように呼び捨てなのに」

 

 顔を赤らめて声を荒げるヒマリの様子に、これは流石に何かあると察した。その手の感情をぶつけられた経験はないし女心なんてとんと分からないが、それでも女性の割合が多いキヴォトスの学生の中で過ごしてきた経験からそういうこともあるのではと考えたことがある。

 

 俺の場合現在進行系での片想いだが、その他ではカップルを見かけたことだってある。リオとは男女の関係だったが、あれはどちらかといえば極限状態での双依存だったので参考にしていいか悩むところだ。機嫌を損ねたヒマリであったが、名前で呼んだあとは比較的上機嫌になった。エイミからはジト目で何とも言い難い視線を受けながら要塞都市への出撃準備に移るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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