追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結) 作:Leona
「あの時以来だな、ガッチャード。君の活躍は見させてもらっていたよ」
「黄金卿、どういうつもりだ。アリスは、それに皆は」
倒れているアリスを担ぎ上げている男は黄金卿、辛うじて人型をしているが黒服と似て顔や体の一部の造形が怪しい上に金色に輝いている。目のあたりについているモノクルが無ければ顔があるという認識すら出来ないかもしれない。異様な気配に異様な状況。ダイブ装置はこちらにしかない筈だが、等というのは思い上がりだろう。”大人”であるあいつらゲマトリアは今でこそここキヴォトスに興味を持ち活動していて、それぞれが別の目的を持っている。その一人であり因縁深いベアトリーチェを追い詰めたが、既の所でこいつに邪魔されてしまった。
「そちらについては問題ない、彼女達なら直にに戻ってくるだろうとも」
「……お前の目的はなんだ、リオを使ってまでドライバーが奪おうとする割には随分やり方がまどろっこしいじゃないか」
以前から影に黄金卿いた節はあったが、直接手を出してこなかった。黒服のように接触するわけでもなく、ベアトリーチェのようにけしにくるでもなく顔を見せるだけで、まるで何か満たすべき条件があるようなそのような違和感を感じていた。
「ふふふ、君は本当に素晴らしい。想定していたよりもずっと完成している」
「今回は天童アリスまで巻き込んでまでしなくてもいいだろう、まだ黒服のほうがわかりやすいぞ」
「あの男の興味は、もはや君よりも先生に向いてきていてね。やむなく私が直接出向くことにしたのだよ」
煙に巻くにしては、あまりにも要領の得ない自分に酔っているような言動の中で得られた事実に目を細める。先生は、キヴォトスにおける唯一無二のイレギュラーだ。俺のような紛い物ではなく、外から来た”大人”。黒服が執着する理由は分からないが、ゲマトリア側が警戒するに値する存在なのは身を持って経験している。だが、奴が半端に研究を投げ出すとも思えないが……。
「このエリドゥに出向いたのは、別件ではあったのだが……まあいいだろう。君がこうして釣れたのだから、ね」
本筋は俺ではなくアリスであったらしい。いや、リオを利用する過程でアリスの事知ったのか。あるいは別口か?天童アリスが抱える秘密について俺よりもずっと詳しいのであれば、それを利用せんとした中で現れた俺は飛んで火に入るなんとやら、といったとこ
ろか。
「これ以上、誰も傷つけさせるわけにいかない。俺一人ならまだしも、先生や皆を巻き込むなら……お前もここで倒す!」
「ベアトリーチェのように、かね?そうであれば尚更だ。今の君で何処までやれるか、試してやろうじゃないか」
「……駄目です、千神ユキト!避けてください!」
俺が身構えた瞬間、黄金卿が何となしに開いた掌から極太のビームのような物が放たれた。後方から聞こえてきたアリスの声───否、Keyと思われる警告に咄嗟に体を地面に転がし回避に成功した。
「済まないKey……!?」
起き上がり振り向いた先には、天童アリスの姿ではなく野球ボール程の大きさで球体の小型ドローンが浮かんでいた。声はそのスピーカーから聞こえ、取り付けられたカメラレンズがギョロリと動きこちらをみている気がする。
「何ですか、この姿に文句でも?」
「……何故俺を助けた?」
「無視して疑問を疑問で返すとはなんて男ですか、まったく。私の意識は消えず、再起動した時にはこの体に転送されていたようです。そうしたら貴方が棒立ちしているのが見えたものですから」
文句を言いながらもきちんと答えてくれる辺りに人の良さがチラホラと見えるKey。
それに対し面白いものを見るような目線を向けてくる割には不満げな声を出す黄金卿がいた。
「ふむ、避けたか。想定内と言いたいところだが、余計な異物が入り込んだようだな」
「あの男がこうして直接姿を現すとは……いいですか千神ユキト。ひっじょーに不本意ですが、あれを生かしておくのは王女の為になりません。この場限り手を貸します」
黄金卿もこのキヴォトスでは珍しく、というよりかのゲマトリアの一員ということで自ら超常的な力を駆使して戦う大人だ。とはいえ俺は全容を掴めておらず本格的な対峙も出来ていない。黒服は戦闘力は皆無、生身の人間と変わらないは言い過ぎだがキヴォトスの住民を相手にすれば簡単に鎮圧される、その程度のものだ。無論、生身で正面からという話だがそれはまた別の話なので置いておこう。ともあれ、今目の前にいる黄金卿はどちらかといえばベアトリーチェのようなタイプだ。そして、能力的にもかなりたちが悪い。ベアトリーチェに勝てたのは運によるところが大きい。何より逆行前に一度は勝てたというアドバンテージがあってのことだ。
「そちらのKeyには私の研究の為に天童アリス共々来てもらいたい。君にその気があれば無傷で同志として迎えられるんだがね?」
「無断かつ土足で王女の精神空間に入ってくるような、どうしようもなく失礼な大人からのそのような交渉を受けるつもりはありません」
「ほう?ではその隣にいる少年はいいのかね。君がいうところの、王女に仇なす可能性があるという点では私と大差はないと思うがね」
「少なくともお前のような大人ではありませんから、王女の為です。妥協して今この場においては何でも利用します」
聞こえる声はアリスとよく似ているが幾分か幼さが抜けていて硬く、しかし意志の強さを感じさせる啖呵の切り方だ。ただ、今の彼女の意識はドローンにある為かなりシュールな光景などと思っているのは俺だけだろうか?
「そうか、つまらない回答だ。だが、合理的過ぎるよりは余程いい……ではついて来やすいよう手を加えよう。なに、ガッチャードと違い壊しはしないさ」
「皆!避けて!攻撃が来る!」
たった一人の大人が発しているとは思えぬ異様な殺気に飲まれ時間が止まったように動けずにいたが、唯一その影響を受けなかった先生の一声でようやく硬直が解けた。
「ユキト君!あの組み合わせを!あの男は明らかに危険です!」
動けるメンバーが一斉に武器を構える中、ヒマリの声に説明されたことを思い返す。
『いいですか、ユキト君。貴方自身はケミー同士の最適解……ガッチャンコの研究をあまりしていなかったようですがこれはとても大事なんです』
『貴方の戦い方を見るに体の負荷を考えれば最適解なのかもしれません。ですが、より高出力かつ生き残れる選択肢があるならそれを使うべきです』
いくつかのケミーカードはドライバーに放送に思った組み合わせ通すだけでは反応せず、俺が使う纏うガッチャードになるには外付けの武器やデバイスが必要で、それさえも失った逆行前に作り出したのがガッチャーイグナイターだ。
だが、それをもってしてもあの黒い衣服を纏ったシロコに瓜二つの女性には勝てなかった。しかし、イグナイターを通すことにより底上げされた力を使いこなした今の俺なら、出力を手を上げずともテクでやっていけるのでは?とそう慢心しているところがあったのもまた事実だ。
ケミーとの交流よりも信頼性がいくらかありそうな機械に頼り、人間ではないがケミーにだって意思がある仲間だということを忘れていたことも。だが、だからこそ様々な人と縁を紡ぎ借りた知恵を持って遠回りにはなったが、今もう一歩恐れず可能性を信じて踏み出す必要がきたようだ。
「作戦会議は済んだかね?」
「ああ、とっておきを見せてやるさ」
【DRAGONALOS!】
【GAIARD!】
「へん……ぐ!へん、しん!」
【ガッチャーンコ!】
【ガイアードラゴン!】
それまでにない圧が体を覆い力となっていくのを感じそれが激痛となり体を駆け巡る。それを振り切るようにレバーを動かすと地球がモデルのガイアードケミーとドラゴンがモデルのドラゴナロス、2体はケミー中でも上位に属するレベル10だ。本来それぞれケミーに与えられたレベルの合計が10になるように組み合わせるものだ。
ドライバーにリミッターが施されていたのかあるいは俺が成長したのか、あるいは両方なのか。ともかく俺は、こうして新しい道を開けたようだ。
「素晴らしい……!では、私も少しギアを上げさせてもらおう」
先程の攻撃はまだ加減していたというわけでもなかろうが、発せられる気配はさらに強くなり放たれた怪光線も明らかに太く高出力となっているのがわかった。
「千神ユキト!私がフォローします!お前はあいつに集中しなさい!」
避けるという最低限の動きをするだけなのに体は蝕まれダメージを受けている苦しさを振り払うように首を振っていると、Keyの声が聞こえる。合わせる、という言葉と共に何か仕掛けようとしているらしく距離をとった。
「こうで、こうか……!2枚はやっぱり負荷が!」
回避に徹するしかなかった黄金卿の攻撃を受け止め、反らし、拡散させる。半分も引き出せて居ない状態でこれならむしろこちらから積極的に反撃するべきなのだが、如何せん俺自身がそれに追いつけずただ苦しむだけだ。最悪からマシになった程度だが、このままでは埒が明かない。
「準備ができました!いきますよ!合体システム起動!軸合わせ!」
「Key!?」
バイクに合体していたインセクトガッチャーアーマーにKeyが取り付いて何やら暫く通信していたかと思うと、黄金卿を攻撃しながら俺の頭上を飛び回り分離した。
そしてバイクに装着された時のように今度はガッチャードの上から頭部や手や足や胸や脚部へと付いていき、Keyも胸の部分にいつの間にやら、始めからパーツの一部であったかのように収まり合体が完了した。
「名付けてアーマードガッチャードデイブレイク!覚悟しなさい、黄金卿!」
「お、おいKey!?」
ただ装着されただけにしては妙に痛みが和らぎ体が軽くなっていくのを感じる。力が漲り、これが本来のガイアードラゴンなのかもしれない。しかし、正確な状況掴めないままKeyが啖呵を切ってしまった。
「力に振り回されて自滅するかと幻滅していたが、少しは期待してもいいのかね?」
「私が丁度いい物がありましたから、私がお前へ負荷を調整してやります。ですが所詮急ごしらえ、短期決戦で仕留めます、いいですね?」
「助かるよKey。これならいける……!俺とケミーと皆の力で!」
それまでは取り出す余力がなかったが今ならばとガッチャートルネードとガッチャージガンを取り出し構える。先生も、ゲーム部の皆もヒマリ部長も、そしてこの場で天童アリスの為に力を貸してくれているKeyの為にも負けられない。この場で仕留めるのは難しくても撃退し、次があるという希望へつなげるのだ。