追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結) 作:Leona
ケミーの中には高度な自我を持ち、場合によっては人語を操る個体さえいる。それは彼らが他のケミーを超越した高い能力を扱えるという側面の一部に過ぎないが。それがレベルナンバー10という存在、その真価を発揮できる数少ない手段であるエクスガッチャリバーで逆行前も幾度もピンチを乗り越えてきた。損失して以降は手持ちの武器でも力の一端を貸してくれるようになり、デイブレイクとなってからは一撃必殺用の一か八かの時にぐらいにしか考えていなかった。
その事について改めて考えるようになったのは逆行して暫くしてからだ。ユウカを通じてミレニアムに伝手を作り、ヴェリタスやエンジニア部とも交流していく中で自身でも考えた。俺自身がガッチャードの力を引き出す枷になってはいないかと、まだ先があるのではないかと。
「なるほど、少しはマシになったらしい。では私も少し遊ばせてもらおうか」
「それは、リオも使っていたドライバー……!お前!」
「そうだ、だが安心したまえ。これは私が作った不完全な試作品に過ぎない。もっとも、君達がそれまでに死ななければの話だが」
【スチームライナー!ドレイン!】
「変、身……」
【ドレッド零式……!】
リオが持っているドライバーと寸分違わぬ造形とレプリカミーカードを使い仮面ライダードレッド零式に変身した黄金卿。リオと寸分違わぬ物がだが、男女の違いが体型に出ている。そして何より違うのは、禍々しさだ。悪意、殺意、そういったものが滲み出ている。
『この場での決着は難しいでしょう、ですので速攻で決めます。お前は直撃を受けないようにしていておきなさい!』
「無茶を言う……まあ、わかったよ」
先生の指示で銃撃戦が始まる中、Keyの指示で俺は牽制に留めるような動きをしている。そんな小手先であるということを差し引いてもダメージを中々与えられない。同時にアリスは既に黄金卿の手を離れ、床に寝かされている。流れ弾が当たったくらいで死なないだろうが、それでも皆の気を散らすだけの価値はある。黄金卿にその意図があるかは不明だが、Keyと行動を共にしている以上、いつもよりさらに神経を尖らせなければならないのは確かだ。
【LEVEL Number10!ドラゴナロス!】
「黄金卿!どうしてもこの場でアリスやKeyを攫おうっていうなら!容赦はしない!」
「見せてみたまえ、只人の君が何処まで高みに登れるのかを!」
【ガッチャージバスター!】
レプリバレットバーンにより生成された二丁拳銃を構え、放たれる銃撃は弾丸などという生易しいものではない威力だ。今のこの形態(ガイアードラゴン)は危ういバランスであったのを偶然とはいえ、Keyによる補助を受け過負荷による俺へのダメージは最低限で済んでいる。打撃も銃撃も斬撃もかなりのものなのだが、黄金卿が纏うドレッドに大きなダメージを与えられずにいる。
「調月リオに負けたとはいえ手も足も出ないのはおかしい、そう思っているな?だとすればそれは君の認識が甘すぎるということだ」
「どういう、ことだ!」
『千神ユキト!奴の戯言にいちいち構わなくていいです!』
「彼女は身体能力はそれほど高くない。確かに素晴らしい頭脳の持ち主だ。だがこのドレッドは高いフィジカルを求められる。少々鈍くさい彼女では十全に性能を引き出せないだろう」
Keyの静止を遮るように語り続ける黄金卿の言葉に混乱する。だが同時に前提が間違っていたのではないかという考えが脳裏を過った。ヘイローを持つ少女達は俺や先生を含めた外の人間に比べて肉体的強度が段違い、これは正しい。だが、それとて個人差がある。中身はただの人間で得意不得意だってある、リオが自ら前線に出ることを避けていた理由の一つがそれなのだろう。C&Cという優秀でリオの手足になって働いてくれる実働部隊がいて特に今はトキやネルだっている。だから、とはいえ俺がリオに敗れた事実は変わらない。
『お前のクソみたいな査定なんて何の役に立つというのですか!行きますよ、いい加減最大出力(フィーバー)を一度撃てる程度には慣れてきたでしょう!?』
「まあ、なんとか、ね……ヒマリ部長の顔に泥を塗るわけにもいかない。だが、君が今間借りしているドローンとアーマーを分離して離れないと危ないと思うがいいのか?」
耳元で騒がないで欲しいという本音を隠し答える。結局のところをいえばゲーム部のメンバーの力と先生とシッテムの箱の援護を受け、さらにウタハやヒマリ、そしてKeyの力を借りてなお決定打を与えられないという揺るがない事実に焦りと苛立っていたが、ケイの怒声に頭が冷えた。そのせいか口から出た言葉も幾分か冷静なものとなった。
『王女に手を出すだけに飽き足らず調月リオやお前にも害をなしたんですよ?優しい王女を悲しませる要因はここで断ちたいんです。それが時間稼ぎにならなかったとしても』
「そのぐらいの方が良い、先生なら生徒であれば誰でも何が何でも助けたいって言うだろうよ」
『あれは例外中の例外でしょう、あんなおかしいものが”大人”であってたまるものですか。それより……行きますよ!』
先生は稀に見る善人だし頼れる”大人”だ。しかし時としてその為に自分の身を顧みなさすぎる気がある、Keyは複雑な感情を抱いているようだが俺がたどり着けなかった先にはへ先生のような人がいけるのだろうとも考えている。キヴォトスという巨大な学園都市を薄氷の上で、タップダンスを踊ると並に危険だがしかし一定の平和をもたらした。以前いたという連邦生徒会長もそうしたことをしていたそうだが、これに関しては又聞き程度の知識であるので先生の評価対象に並べていいのか微妙なところだが。等と戦闘中だというのに余計な思考に溺れそうになるのを、Keyの言葉で意識を戻された。
「では、さらなる耐久試験といかせてもらおう。簡単に死ぬなよ?」
【アントルーパー!カマンティス!レスラーG!ゲキオコプター!ドレイン!ブラッドサクリファイス!!!】
4枚のレプリケミーカードに込められた命が悲鳴を上げて消滅していき、取り込まれたその力がドレッドの出力を急速に上昇させるのがわかる。そこから放たれる一撃はどうや”レプリゴリラセンセイ”を軸にしたもののようで、錬成された腕は人の体よりも太く共に吸われたレプリケミーが合わさりより強固で強力なり振りかざされた。
「Key!本当にこれでいいんだな!?」
『今のお前と私ではこれが手一杯なんです!いいから早く!』
何度聞いても変わらない急かすような声に促されドライバーを動かす。星を司るガイアードと大いなる龍のケミーを錬成したことによる力の余波で空間が揺れる。
【ガイアードラゴン!フィーバー!】
「ふむ……今回は私の負けか。プロトタイプではこんなものだろう」
ぶつかりあうどころかあっさりと吹き飛ばされる黄金卿。ヘイローをキヴォトスの住民であれば、例えこの一撃を受けても耐えるかもしれない。だが奴は外から来た先生や俺と同じただの人である、と思っていた。
そもそも容姿からしてベアトリーチェのように、黒服のように人ならざる力を持っているとしか思えない。あっさりと不自然に起き上がる姿に身震いした。それでもこれほどの可能性を秘めている力だ。100%は出せないし俺の肉体が耐えられず崩壊してしまう。Keyの補助を常に受けられたとしても、だ。結局のところは妥協点を探していきつつ、先生や他の皆と一緒に強くなっていく道に行き着くのかもしれない。
「待て!お前!おま……アリス!」
無造作に空中に投げ出されるアリスを抱き留め着地する。空いた片手で攻撃しようとしたが、瞬間元の空間に戻され同時に黄金卿は姿を消していた。
『王女!』
「大丈夫、気絶してるだけのようだ」
駆け寄ってくる皆の中で真っ先に声を上げたKey。そのままでは何だろうと変身を解くと、分離して球体に戻り心配そうにアリスの体調を計測している。先生にアリスを預けると、この場からこっそりと去ろうとしているリオの背中に駆け寄り声をかけた。
「リオ!何処へ行くんだ?」
「……私は取り返しのつかない判断をするところだった。あの子にも皆にも会わせる顔がないわ」
肩も声も震わせるリオ。アリスを切り捨てるという判断を後悔しているんだろう。逆行前の未来での災厄を未然に防ぐ為に。
「全部、結果論だろう。皆と手を取り合っていけば多くの悲劇は回避できるはずだ。一緒に来てくれないか、リオ」
「……少し考える時間を貰えるかしら、いなくなったりはしないけれど、どの面下げて貴方の手を取ればいいのか分からないから」
「わかった、けど長くはダメだぞ。俺も皆も先生も、リオのこと心配している人は沢山いるんだから」
しつこく引き止めることはしないことにした。だが、もしまた黄金卿に利用されたり命を狙われるような状況にさせない為少しだけ言葉を盛らせて貰った。盛ったといっても事実は事実だ。ユウカやノアやコユキ以外にもミレニアムの生徒に慕われているのだから。
✩✩✩
ミレニアムでのちょっとした、否かなりの規模となってしまった事件の事後処理の為俺はシャーレとミレニアムのどちらかに泊まり込みでやっている状態だった。ゲーム部の関係は俺よりもユウカが気にしているようで、尋問じみたことを何度と無く受けた。
「あ、ユキト〜〜〜!」
「アリス!と、Keyも?」
元気な声で駆け寄ってくるアリスとその隣には球体のドローン、中身はKeyのようだ。抱きついて来るアリスの頭を撫でているとそちらから物凄い殺意のようなものを感じたのでそっと離れるよう促した。
「で、どうしたんだい。ああ、Keyのその体のことならヒマリ部長に……」
「ケイ、です」
「え?」
「ケイと呼ぶことにしたんです!アリス達の新しい仲間なんですから!」
アリスの眩しいぐらいの純真な可愛らしい反応にちらりとKey改めケイに目線を向けるが、球体の中心部にあるカメラをギョロリと反らされた。肯定でもないが反対もしていなさそうだ。
「ああ、わかったよ。ありがとうアリス。それからケイも、これから色々不便なこともあるだろうが……」
「お前も、ですよ千神ユキト。いつか刺されないようにせいぜい気をつけることです」
声色こそ優しいが吐き捨てるように言い放つとケイは去っていった。あまりのことに俺は驚き反応するのが遅れたが、アリスは一度こちらに手を振ってから追いかけていってた。……これで、また1つ俺の知らない時間となった。リオが心配だが、きっと戻って来てくれる。そう自分に言い聞かせコートを靡かせアリス達とは反対の方へと歩き出し、一段落ついたのでアビドスに帰ることにしたのだった。