追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結) 作:Leona
連邦生徒会へ提出するアリスを巡る一連の事件の報告書……はそのままを書く事は出来ないので多少嘘を散りばめておいた。
幸い連邦生徒会を行方不明の会長に代わり業務を代行している七神リンは、先生から話を聞いていることもあり、多少事情を考慮して好きにさせてくれている。
というか、これに限らずシャーレ所属の生徒として関わったものはそんなものばかりだ。俺だって記憶喪失でいつの間にかキヴォトスにして保護され、戸籍やら何やらを整えてもらっている。だからその事について、偉そうに上から物を言えたものではない。
『聞いているの、ユキト君?』
「ああ、はい。もちろん聞いてますよ、リンさん」
シャーレにも籍を置くということは、時には先生に代わって実務をすることだってある。電話の相手───連邦生徒会首席行政官であり、行方知れずの会長に代わり代行兼任している七神リンは、シャーレから見たら直属の上司といったところか───からの電話を留守番していた俺が受けている。
『先生にも話したけど、君にも一応触りだけ伝えておくわ。時間は大丈夫かしら』
「ええ、問題ありませんよ。先生が外出していること以外は。今のところ平和なものです」
『呆れたものね、もう少し君は勤勉になるべきよ。……まあ、今はいいわ。君、SRT特殊学園の事は知っているかしら』
リンの言葉に最近は逆行前の記憶と混同しあやふやになりつつある今と前の違いを比べながら、思考した。SRTはヴァルキューレとはまた別に連邦生徒会長直結で動かせる特殊部隊員を養成する目的で作られた筈だ。
ただ、俺の記憶の中においてはいつの間にか閉鎖させられそれを巡るクーデター地味た事件があったんだとか……。そして、それはこちらでも。先生寄りの生徒もいたそうだし、味方にできればいいんだが
「一般生徒でも調べられる程度なら。連邦生徒会長不在の後からずっと、扱い的によろしくない状況だとも聞いてます、もしやその件ですか?」
『ええ、残念なことにね。閉鎖が決まって既にいくつかの生徒は部隊ごとヴァルキューレや、希望があればそれ以外の学校への転校を選択肢として用意したのだけど……』
「どの選択肢も望まない、あくまでSRT存続を願う生徒達がいる。そんなところですか」
「その件で少し込み入った問題が出てね、是非君にお願いしたいことがあるの」
リンにしては珍しい奥歯に物が挟まったような物言いだ。短い付き合いだが、自分の知る限りリンは誤魔化しや遠回しな気遣いをするタイプでもない。そしてこういう場合はろくでもない事だと相場が決まっている。
『とある筋からリークがあってね、その情報提供者と一緒に潜入任務をして欲しいの』
「先生ではなく、俺に……ですか」
『先生とは別に、よ。いつも好き勝手に介入しまくってるんだから、たまにはシャーレとして私達からの仕事も受けてもいいでしょう?』
断ろうと言うつもりはないが、きな臭いというか首に死神の鎌を押し付けられているような、嫌な予感がとてもする。だが、同時にこれはこの先に必要、そう感じた。
「わかりました、じゃ資料送ってください。確認次第向かいますから」
『お願いね、先生とアビドスへは私の方から連絡しておくから』
リンとの通話から間もなく、メールに添付されたファイルを開いて表示された人物の画像を見て目を見開いた。
「不知火、カヤ……」
防衛室長ならばぼかす必要はなかったろうとも考えたがリンが言うからには何があるのだろう。どちらにしても、引き受けてしまった今何ができるでもない。
✩✩✩
「まさかアポ無しで会って貰えるとは……」
「連邦生徒会から連絡が来ていましたからシャーレに今のシャーレの実績は私の耳に基づいています」
手続きを取るため、防衛室にその旨を伝えスケジュールのすり合わせをするつもりだったが、今来れば会うとの折り返しの連絡を受け慌てて足を運んだのであった。
「不知火防衛室長、まさかとは思いますがその為だけに自分と会ってくれたわけではないですよね?」
「……ええ、もちろん。シャーレ所属である貴方とアビドス生の貴方、両方に利益のある提案が私なら出来ますよ」
人の良さそうな笑みと空気を漂わせるカヤと向かい合って座り、出されたお茶を一口啜り耳を傾ける。逆行前のイメージからすれば先生が死ぬ原因を作った元凶の一人。その後やってきた砂狼シロコを名乗る女性により崩壊していくキヴォトスの中で、身勝手な振る舞いをして自滅した、そんな女だ。とはいえこれもまた伝え聞いた話、それとなく探りを入れて見たが、この時点ではそれほど大きなやらかしをしているようには感じられなかった。
一番知っていそうなリンは口を濁すだけだった。唯一聞けたアオイは連邦生徒会長がいた時は大人しくしていたが、その時から既に溢れる欲を隠しきれておらず、過ぎた力を得れば溺れるタイプだろうと散々な評価を話してくれた。
同時にそんな相手でも正面から向かえば、例えシャーレ所属という立場があれど一般生徒と変わりなく潰されるし、同じ女として危ない人物だから興味があるにしてもやめておけ、と何故だかとても心配された。
「もし、この提案を受けてくれるならアビドスが抱える負債もこちらでどうにかしましょう。もう既にお金だけの問題でないことは貴方もわかっているでしょう」
「それは、随分と穏やかではない条件ですね。有難くはありますが、一体何をさせられるのです?」
「SRTに変わる新しい特殊部隊、その創設の為に貴方に試験小隊の隊長になって欲しいんです」
「それは……また、急ですね」
あまりにあまりな言葉に戸惑いと、リンから伝え聞いた物とあまりに剥離した勧誘に罠にしても露骨を通り越して、障子を手で破るよりも簡単すぎる脆さすら感じる。どういう意図なのだ?と戸惑っているとカヤがクスクスと喉を鳴らし笑い話を再開した。
「と、いうのは半分冗談です。ただ、君を私の手元に置いてSRTに変わる戦力として治安維持に使いたいんです」
「自分は、防衛室長が何かしら重要な情報を握っていると聞いていましたが……そのようなお話であれば、残念ですが」
「あら、本当にいいんですか?これは反乱勢力に堕ちた元SRT部隊の鎮圧の依頼でもあります。引き受けてくれますよね、千神ユキト君?」
断り席を立とうとした俺を引き止めるように、いや本気で引き止めるというよりはおれがこのまま立ち去る筈がないというように慌てることなくいけしゃあしゃあとカヤは話し続ける。これは、俺は試されているのか、なめられているのか、あるいは遊ばれているのか……?
「ただの鎮圧で、不知火防衛室長が提示された条件に見合うものとは思えないのですが。一体どれほどの脅威なのですか、彼女達は」
「あの人が、連邦生徒会長がいればこの程度の騒乱など片手間で解決するのでしょうが……たらればですね、不在だからこそ起こってしまったんですから」
「防衛室長?」
「……コホン。ええ、かの忌わしい”RABBIT小隊”は早急に叩かなければなりません。あれらが起こす騒動を利用として他の勢力が動き始めているせいで公安局だけでなく各学区にも協力を要請しなければならない手間を考えれば、貴方を一人にコストをかけて雇う方がよほど安上がりなんです、わかりましたか?」
それまでの冷静さや表面上は人が良さそうに見えた笑みが崩れ眉をひくつかせ怒りを顕にしている。そしてカヤの説明で少しだが理解出来たことは、キヴォトスに巣食う武装集団のその背後にいる面倒な連中──ゲマトリアやカイザー、特に後者は逆行してきてからは何度か叩いてきたが未だ勢力を維持しているし、根本から断つのは難しいと思っていたがそれは慢心だったと。間引いて漸減するような温い対応では数の暴力に、組織で動く”大人”に勝つのは難しいだろう。
「わかりました、ただシャーレの先生もこの件は憂慮していて既に現場に向かっているかと思いますが。自分の力が役立つというのであれば協力させてもらいます」
「契約成立ですね、書類を用意してサインしてもらうのに数日必要ですが……チームメイトは紹介しておいてもいいでしょう。入って構いませんよ、貴女達」
連邦生徒会と異なり直接の指揮権があるわけでない為、手続きはどうしても時間がかかる。この辺りはシャーレとして各校と関わるようになるまで意識したことがなかった。お陰で随分と苦労したのだが、その辺りはアビドスの皆やユウカやアオイにリンに迷惑をかけながら身につけていって今がある。
「……室長、彼が例の?」
「ええ。紹介しますね、彼女達がSRTのFOX小隊──暫定的に防衛室の指揮下で動いてもらっています。いいですか、貴女達。彼がシャーレの千神ユキト君です」
FOXの名を示すかのように4人は皆狐耳で雰囲気も何処か張り詰めているように感じられた。
「七度ユキノだ、宜しく。大人に媚びを売るような、ましてやヘイローを持たない貴方が何故ここにいるか理解に苦しむが、ここは一つ室長を立てておこう。せいぜい足を引っ張らないことだな」
「こちらこそ、七度先輩」
それぞれ四人と握手を交わし、その場で一旦別れた。リンにも連絡をしたが、まだ煮え切らない答えしか返ってこなかった。もし、俺の考えがあっていて不知火カヤが既に真っ黒であるというなら、話は変わってくるが残念なことに俺の手元にそれを示すものはない。先生はRABBIT小隊との接触に成功したようだ、ファーストコンタクトはよい感触ではなかったようだが。しかし得てしてそんなものである、むしろ先生という立場と経緯を考えればマイナスよりの態度で接してくる人間が少なかったほうがおかしかったのかもしれない。
☆☆☆
「千神ユキトを手元に置いてほしいというそちらの要望は確かに聞きました。けれどそんなに重要なものなんですか、ミスタージェネラル?彼が持つドライバーというのは」
「ああ、そうだとも。我々があの力を手にできればこのキヴォトスでのパワーバランスを変えられる、それによって潤えば君の地位と権力もより強固に確実になるだろう」
ユキトとFOX小隊が去り、人払いをした後に一体のロボットとカヤは話していた。カイザーコーポレーションの幹部であり、カイザーPMCを率いる身である。当然本来ならこのように穏やかに会話するような関係であってはならず、表向きには出来ないものだ。お互いに便宜を図ることで成り上がり、それそれが表と裏からキヴォトス内の治安をコントロールし支配しようという考えで手を組んでいる。しかし連邦生徒会長がいた頃は大胆な行動はできず、あくまで見えない癒着であったはずなのだが。結果的にはもっともっと厄介な存在で目の上のたんこぶともちうべき彼女が失踪したことで行動を加速させた。
「当然です、ヴァルキューレを騙すのとはわけが違うんです。今回は少々危ない橋を渡るんですから、その分そちらにもきっちり働いて貰いますよ?」
連邦生徒会長代理の地位にある七神リンとは微妙な関係だ。激務によりこちらに余計な探りを入れる余裕はないようだが、それも先生の着任によって変わりつつある。何なら今回の一件もあちらが誘導した節すらあるのだ。連邦生徒会長ほどの絶対的なカリスマもスキルもないが補佐する生徒も含め敵対するような事があれば全部おじゃんになるだろう。だから、失敗するわけにはいかないのだ。