追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結) 作:Leona
「悪い、セリカ。本当は君にもこっちで皆と食べるべきなのに」
「いいです、千神先輩が気にすることじゃないです。それに先輩」
「うん?」
「先輩がまたここでシフトに入ってくれたらチャラにしますから、期待してるわよ?」
リフレッシュ等といったものの、タイミング悪くセリカはアルバイトのシフトが入っていた。そのためせめて売上に貢献しようということになり、柴関ラーメンで食事をすることにした。
「先輩もまたシフトに入ってくれればいいのよ、お手伝いなんて言わずに」
アビドスの借金返済に協力したい、といって先生と共にここに通うようになった頃ほんの気まぐれのつもりだったのだが、バイトとして臨時に接客をしたことがあった。大将さんはその時の働きぶりを予想外に気に入ってくれて、色を付けてバイト代をくれたのだ。
まあ結局前線に出て賞金首やらを捕らえたり、脱走したペットを探すといったような足を使い体を張る役目のほうが身にあっている、と言ってここでバイト先として続けるのは断ったのだが。
「何かあればほっぽってでも最優先で抜けないといけないことだってある、それは流石に申し訳ないだろ?」
「先輩って変なところで真面目ですよね。」
対策委員会の中ではどちらかといえば真面目よりなセリカになんとも言えぬ微妙な褒め方をされる、先生とのことなど感情的になりやすいしなんなら年下ですらあるのだが。
「っと、お客さんが来たので接客して来ますね!」
新たに入店してきた集団が注文をしようとしているようで慌てて離れるセリカ。その背中を何気なく追っていると、そこにいたのは見覚えのある面々だった。
「あれは、陸八魔……便利屋68。そうか、そうだったな」
ゲヘナ学園生の陸八魔アルが率いる小規模武装勢力(彼女に言われれば企業とのことだが)、それが便利屋68だ。アウトローを気取っているが良心を隠しきれてないし、そも完全に悪人というわけではなかった。
「あの、私達一人前頼んだはずですけど?」
「これ、どう見積もっても数倍はありそう……」
「ええ、そうですよ。大将〜柴関ラーメン一人前でしたよね?」
「ああ、少々盛りすぎてしまったようだがこちらのミスだ。だから料金は柴関ラーメン一杯分だ」
前世で親しくなってから後で聞いた話だが、便利屋の仕事はそれなりに需要があり金銭に困り困窮する事もあるが、常に貧乏ではないそうだ。しかしやむを得ない場合に限り、4人で分け合って凌ぐという涙ぐましい努力をしていたそうで……店の常連になってからも時々分け合って食べていたのを見かけたが。
「何だか誤解されてしまっているようだけど……折角のご厚意なんだから、有り難く頂きましょうか」
大将の厚意に感謝し、示し合わせたように割り箸を掴み麺を啜るアル。ほぼ同時に麺をすすった面々も表情が緩む。純粋に料理が美味しいということと人の厚意に触れたことの心地よさが入り混じり幸福感に包まれている様子だった。
「そうでしょう?ここのはとってもおいしくってオススメなんですよー♪」
俺が口を開き聞けるよりも先にノノミが前に出て陸八魔社長達とあっという間に打ち解けていた、ああしたスキルは俺には真似できない。似たようなことは先生がやっているがあれは年の功(そう言うには失礼な程度には若いが)というか経験値の差だろう。
「カヨコ……」
逆行前の記憶がまた一つ蘇る、学校の垣根を越え先生を中心としてキヴォトスの危機に立ち向かったあの時のことを。
『あんたが先生の副官?頼りなさそうだけど……まあ、いい、ついてきて社長が待ってる』
先生に様子を見てきてほしい、と便利屋の事務所があるビルにいった時にちょうどいたのが彼女だった。その当時の俺にとって、表情がわかりにくく、一見すると怒ってすら見えるカヨコへの印象は、あまりいいものではなかった。まあ、社長のアルも含めていい人達ばかりだったので、その辺の誤解はすぐに解けたが。
『ブラックデスポイズンの新曲が出たんだけど、ユキト、あんたも聴いてみる?』
『あ、カヨコちゃんが社長と先生以外に尻尾振ってる〜』
『ムツキ、馬鹿言わないの。ユキト、後でプレイヤー貸してあげるから良かったら聞いてね』
アビドスとはまた違った空気ではあったが居心地の良い空間だった、陸八魔社長もそれを慕い行動を共にする皆も。だからこそ、俺は。今またこうして出会ったならば今度は失いたくない。
「それじゃあ、お仕事頑張ってくださいね〜」
「ええ、そちらも学校の復興がうまくいくのを願っているわ」
物思いにふけっているうちに食事を終え去っていくのが見えた。そして、この後どうなるかも薄ぼんやりとだが思い出してきた。ヘルメット団を率いて現れた、再会というには短すぎる日数で。
『校舎前方方面に多数の熱源反応!』
「またヘルメット団?」
「いえ、これは……いつもと違います、傭兵かもしれません」
定期的に飛ばしている偵察用のドローンの映像を確認しているアヤネの声は何処か困惑気味だ。ヘルメット団であれば文字通り特徴的な被り物に学生服か、軽装にライフル片手にといったところで代わり映えしない。
「かもしれないって何?」
「こう言ってはなんですが、私達を潰すためとはいえそこまでの手間をかける勢力に心当たりがないんです」
含みを持った言い方に対し疑問を口にしたシロコ先輩に答えるアヤネ。間引きのような戦いであった今までのものとは違う、と言われれば戸惑いもするか。
『ホパッ!ホパホパッ!』
「あれ?ホッパー君イメチェンした〜?ちょっと見ない間にこんなにオレンジ色になって、おじさんびっくりだよ」
「そんなところです、せっかくですからそのあたり今回の戦闘でお披露目しますよ」
人工生命体であるらしいケミー、その中でもホッパー1はこうしてよくカードを抜け出したがる。最初は驚き殺虫剤をかけられそうになったこともあったが、今でこうして普通に受け入れられるようになった。
「あんたたち、さっきの柴関屋にいた……!」
「う、嘘ーーー!じゃあ、学校ってアビドスのことだったの!?」
傭兵達を率いている中心にいるのは見慣れた顔、というかさっき出会ったばかりの便利屋68の面々であった。面白いぐらいコロコロと表情を変える陸八魔社長、2度も敵対したくはなかったがやむを得ない。
『ホッパー!』
『ライナー!』
「いつも通り力を借りるぞ、ホッパー1!スチームライナー!」
【ガッチャードライバー!】
ケミーカードを取り出すと一番付き合いの長い2体が力強く応える声が聞こえた。目覚めてからはまだ、どれほど戦えるか試していない。ドライバーもカードも装備も死ぬ直前の状態だが、肉体は怪我一つなく違和感もない。が、しかし今の体で全力に耐えられる保証もないという部分が俺を躊躇わせた。
「何、あれ……ベルト?それにとんでもなく大きいバッタと機関車?」
「へぇ、面白そう♪」
【HOPPER1!】
【STEAM LINER!】
「……変身!」
手を掲げ銃を作るように指を立て胸元に持ってきてその手を後ろに下げ、目の前で両手で三角を作るように構えて叫ぶ。
【スチームホッパー!!!】
「わぁ、こっちもオレンジになってる!やっぱりユキト君イメチェンしてたんだねぇ~」
「キレイな水色も好きだったけど、こっちも中々」
「あの、先輩方そんな勝手にいってないでくださいよ。向こうも呆れてますよ?」
ガッチャードデイブレイク・スチームホッパー、この力を得たのは本来ならもっと先でのことだったのでアビドスの皆は勿論先生だって当然知らない。さて、問題はここからだ。
「何だかわからないけど、皆構えて!あんた達もお給金分は働きなさいよ!」
「くふふ〜パワードスーツかな?すっごく気になる♪」
「あ、アル様の障害は全て滅殺します!」
俺達のやり取りに困惑していた傭兵たちが陸八魔社長の声を受けて動き出し一気に事態が進む。銃弾が飛び交い、ショベルを武器に殴りかかってくる、さらには爆弾が飛んでくる。そんな中を俺は駆け抜け、確かめるように片手でガッチャージガンを構え撃ち、片手でガッチャートルネードを盾のように構えつつ装弾したケミーの力で攻撃ごと傭兵を吹き飛ばす。
「死んでください死んでください死んでください!!!」
そしてやはりというべきか、改めて理解した事がまた一つ。ガッチャードという姿が持つ超常的な力は確かに強力だ、だがキヴォトスのヘイローを持った住人には、どうやら銃火器等の既存の兵器と変わらない程度のダメージしか与えられないようだ。それは底値が上がった今でも変わらないらしく、銃弾を受けても何でもないような体を持つ彼女達は普通に向かってきている。
「悪いけど、纏めて捕縛させてもらう!」
【JUNGLE JAN!】
【ガッチャージバスター!】
「しまっ!?」
「何これ燃えてるように見える蔦なのに熱くない〜?」
前に突っ込んで来たハルカを筆頭に、便利屋の面々を、ガッチャージガンから放たれたジャングルジャンの力によって生み出された木の蔦によって縛りあげられていく。残りの傭兵達もまた、皆の手で気絶させられていた。
「出来ればこの辺で降参してくれると助かるのだけど……」
「流石、シャーレの先生の指揮といったところかしらね」
(ど、どどどうしよー!こんなところから逃げられるとは思えない、でも!でも〜!)
先生の勧告に対して、どう見ても詰んでいるとしか思えぬ状況であるのに素敵な笑みで見上げてくる陸八魔社長。
「先生、どうでしょう。こちらに二度と手を出さないということで解放してあげては?」
「……どういうつもり?」
横から提案した俺の言葉に訝しげそうな様子でカヨコが反応した。しかし先生も俺も動じず目配せしあうと小さく頷き口を開いた。
「ユキト、君はどうしたいのかな」
「もし、彼女達が仕事で請け負っただけというなら中心である陸八魔さん、でしたか。彼女の言葉でこの場は収まるのではないかなと」
「あ、あのうあたし達定時だからもう仕事割なんだけど」
「ああ、そっちは日雇いの傭兵さんなんだっけ、どうぞどうぞ」
俺達の会話にさらに割って入るように一人が声をかけてきた、どうやら目が覚めたらしい、中には頑丈なやつがいるものだと内心感心してしまった。
「ふーむ、じゃあそうね。あなたたちも、いいよ。生徒に、アビドスに危害を加えないということなのであれば」
いいね?という先生の目線にジャングルジャンによる拘束を解くと、ゆっくり立ち上がり陸八魔社長を守るように集まった。傭兵達は帰り支度して散ってしまったようだ。
「今回は、柴関屋での借りに免じて私達は引くわ。でもね、便利屋68の実力はこんなものじゃないから!」
典型的な捨て台詞を口にした後ようやく陸八魔社長達も去っていった。経緯はどうあれ実力者揃いの便利屋は定期的に学校を襲いに来るヘルメット団とは比べ物にならないほど強い、今の俺であっても楽勝とはとてもいえない。
「なんか、嵐のような人達でしたね」
「ホントだよ、おじさんにはああいう若さは眩しく感じちゃう」
ひとたび戦闘となれば頼りになるホシノ先輩だが、普段は昼行燈、というか本来の性格を確実演じている節がある。前世ではその辺を聞くことは出来ていなかった。委員会の皆の様子を見るに、あまりよい話じゃなさそうだが。
「さて、皆戻ろうか。私がお茶を淹れるから先にシャワーでも浴びておいで」
先生の一言でようやく気を抜きドライバーを取り変身を解いた。疲労度や思うように動けない感じはあったが、これならばイグナイターを使っても問題ないだろうという実感は得られた。今後のことも考えて、やれることを考えたほうがいいのかもしれない。そう思いつつ校内へ戻っていくのであった。